« 永福町に行く | Main | 二輪駆動自転車を見学する »

2004.02.26

「瑠璃の翼」を読む

tsubasa.jpg

 午後から古巣の会社に。やや遅いランチミーティングで仕事の話をあれこれ。大変おいしいマグロの頬肉などを食べる。その後は千歳烏山に回って歯医者。欠けてしまった詰め物の補修のため。

 山之口洋さんの「瑠璃の翼」(アマゾンbk1)を読み終える。3年前に吉祥寺の飲み屋で山之口さんに「今ノモンハンを調べている」と資料を見せてもらって以来、ずっと発売を待っていた本だ(写真は世界の傑作機「97式戦闘機」と共に。なぜこんな資料を持っているかといえば、ノモンハンで活躍した97戦は糸川英夫が最初に設計に関わった飛行機なのである)。

 すごい小説だ。電車の車中で読み進めたのだが、何度も涙を流してしまった。

 日本陸軍が猛悪としか形容しようのない無責任な指揮でソ連陸軍に対して壊滅的な敗北を喫したノモンハン事変、その中で陸軍航空隊は最後まで互角以上の体勢を維持し続けた。その立役者である、戦闘機部隊「稲妻部隊」を隊長の野口雄二郎を中心に描いた作品である。小説といってもほとんどが事実に即しており、小説としての作意は最小限に抑えられている。おそらく、プラモデルで言えば「墨入れした」という程度ではないだろうか。

 野口以下、現場の戦闘機パイロットは、満州国の国境警護という任務のために自らを極限にまで鍛え、戦闘が始まれば死地に飛び込み、任務を忠実に遂行して力の限り戦った。山之口さんはその生き様と死の有り様を必要以上の形容を排した淡々とした文章で描いていく。

 しかし、そうやって野口以下「空の侍」としか形容のしようのない男達をくっきりとした輪郭で描くほどに、描かれざる陰画もはっきりと見えてくる。無責任な戦争指導、功名心むき出しの参謀、いがみあう関東軍と東京・三宅坂の陸軍省、そういったものも描かれざるが故にかえってはっきりと姿を現す。

 戦争は勝つことによって国に利益をもたらす経済行為だ。だとするなら、旧日本陸軍はなんと利敵的な性格を持つ組織だったのだろうか。ひとりひとりの戦闘機パイロットの生き方が悲劇的ではあるが背筋の伸びた清々しさを感じさせるほどに、その悲劇の向う側にある絶望的なまでの組織腐敗が見えてくる。

 野口雄二郎は、山之口さんの祖父だという。きっとこの小説は、「何があっても書かねばならぬ」ものだったのだろう。あの司馬遼太郎がさんざん調査したあげく結局書けなかった「ノモンハン事変」という題材に食らいつき、最後まで書ききったことに拍手を送りたい。

 とにかく読もう。読んで泣こう。そして、色々感じ、色々考えてみよう。

 野口は、日本に軍事航空が導入された草創期にパイロットを志し、現役の戦闘機パイロットのキャリアをノモンハンで終え、戦後、ソ連に10年抑留されて病死した。技術者として、一つの新しい技術が勃興するその場に居合わせることほど幸福なことはない。戦闘機パイロットも技術者の一種だから、野口の人生は、激動の日々ではあったけれども決して不幸なものではなかったのではないだろうか。そう思う。


最初の発見者
 このblogは、あまり周囲の人にも知らせずに、こそっと立ち上げて更新しているが、あっさりと世間に見つかってしまった。発見者は漫画家の粟岳高弘さん、同じくココログ内にblogを持っていて、「コミティア」の検索で見つかってしまった次第。粟岳さんと面識はないが、水城徹さん粟岳さんの漫画を書評していたのでお名前は知っていた。粟岳さん、見ておられますか。あなたは当blogにおけるコロンブスであります。
 というわけで、トラックバック機能を使って該当記事にリンクしてみる。どんな機能なのか、まずは使ってみないとね。

 で、なぜ私が粟岳さんが見つけたことを知ったかと言えば、まあ「蛇の道は蛇」なのでした。

追記:「アンガラ」はクルニチェフの工場でモックアップを見ましたが、着陸脚や翼などの付加物が多すぎてブースターとしても成立するかどうか分からないな、という印象を受けました。

|

« 永福町に行く | Main | 二輪駆動自転車を見学する »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

はじめまして。発見してしまいました粟岳です。
ココログルはほぼリアルタイムで更新が反映されるようで、「見つけた」→「まだ誰も気付いていないらしい」→「これはリンクせねば」と思わずリンクしてしまいました。
よく考えたらリンクしたときにこちらからもトラックバックしておくべきでした。どうもすみません。

アンガラのバイカルブースター:
絵を描くものの端くれとしてはああいう形のものが分離→変形→帰還する図というのは絵的には面白いのですが、実用になるかとなると(自分みたいな素人目にも)難しそうな感じはありますね。

Posted by: 粟岳高弘 | 2004.02.26 03:37 AM

 ともあれああやってコンセプトをどんどん出してくるのは偉いと思います←アンガラ
 ロシアの技術は西側の技術と全く異なる合理性を持っているので面白いですし勉強にもなります。新しいエネルギアの6人乗り宇宙船も気になるところですね。

Posted by: 松浦晋也 | 2004.02.27 03:25 AM

粟岳さん、はじめまして。松浦さんにリンク張ってあることを伝えた張本人です。しきしまさんともお友達でして、そんな感じでつながっております。以後よろしくお見知り置きを(^^)

しかし、便利ですね。トラックバックって。威力を目の当たりにしました。

Posted by: おかちん | 2004.02.27 11:13 PM

おかちんさんどもはじめまして。
いや~やはりいろんなところで繋がっているものですね。
コミティアに参加をはじめた10年ぐらい前、NUENの本読んでえらい衝撃うけたものです。
今度ともよろしくお願いしますm(__)m


ロシアの6人乗り宇宙機
ぽつぽつと想像図が各地でみられるようになってきてますね、
たしかにアイロン型(^^;

Posted by: 粟岳高弘 | 2004.02.29 04:41 AM

 粟岳さん、NU-ENを読んでいたのですか!でも、どこでおかちん氏があそこのメンバーだったって気が付いたのですか。確か売っていた本には書いてなかったと思うけれども。

 ちなみに私は、NU-ENとは全く無関係です。

Posted by: 松浦晋也 | 2004.03.02 02:40 AM

なんと、世間は狭いですねえ。これも何かのご縁、今後ともよろしくお願いいたします(^^)
絵描き仲間が増えるのはうれしい限りです。今度そちらの掲示板の方にもお邪魔させてください。

Posted by: おかちん | 2004.03.02 03:03 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「瑠璃の翼」を読む:

« 永福町に行く | Main | 二輪駆動自転車を見学する »