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2004.11.02

ついに幻の第1楽章を聴く

 1977年、諸井三郎という作曲家がこの世を去った。翌年、彼の作品による追悼演奏会が開催され、NHK-FMがその様子を放送した。

 それから、26年にも渡って、私は幻の第1楽章を追い求めるはめになったのである。NHK-FMのバカヤローっ。

 順序立てて説明しよう。追悼演奏会では、諸井の「第3交響曲」が演奏された。当時高校2年生だった私は、NHK-FMをでそれを聴き、それこそ鳥肌が立つほど感動した。
 ところが、放送時間の関係であろう。全3楽章の交響曲を、NHKは第2楽章と第3楽章しか放送しなかったのである。
 私はエアチェックした、第2楽章と第3楽章を繰り返し聴き、なんとかして第1楽章を聴きたいものだと願った。
 こういう場合、まずはレコード(当時はまだLPレコードの時代だった)を探すものであろう。ところが、諸井三郎「第3交響曲」のレコードはなかった。「第2交響曲」のレコードはあったが絶版で入手できなかった。数年後に「第4交響曲」のレコードが出て、さっそく入手し、期待と共に聴いてみたが、「第3交響曲」の感動には及ばなかった。

 なにせ邦人のコンサート用オーケストラ曲というのは、レコード会社にとって儲からないアイテムの極北みたいなもので、1000枚も売れたら御の字という世界だ。同じレコード1枚出すなら100万枚売れるユーミンやら松田聖子やらオフコースのほうが全然いいわけで(そういう時代だった)、私の魂の叫びがレコード会社に届くはずもなく、26年が過ぎたのであった。

 ところが、この秋になって出たのだよ。諸井三郎「第3交響曲」のCDが!

 しかも、日本のレコード会社からではなく、ナクソスという1枚1000円という低価格で、非常に妖しくも楽しいマイナーなクラシック系音楽を次々にリリースする謎の海外メーカーから出たのだ。

 このナクソスという会社、数年前から何を思ったのか、全60枚だかで「日本作曲家選輯」という日本人作曲家の全集を出し始めた。そして、どうせ儲からずに途中でつぶれるであろうというおおかたの予測を裏切り、じりじりと匍匐前進を続ける爆弾三勇士のように戦前戦中のしぶい選曲のCDを出し続けているのだ。その1枚として、ついに諸井三郎の作品集、それも第2でも第4でもない、あの第3交響曲のCDを出してくれたのである。


     ・「日本作曲家選輯 諸井 三郎(1903-1977)」

      ■こどものための小交響曲(1943)(世界初録音)/交響的二楽章(1942)(世界初録音)/交響曲第3番(1944)(世界初録音) *日本語解説書付き

      ●湯浅卓雄指揮、アイルランド国立交響楽団

      録音・編集(24bit/48kHz):2002年9月アイルランド、ダブリン、国立コンサート・ホール


 で、買ったのだ。聴いたのだ。泣いたのだ!

 あなたがクラシック音楽を聴く習慣を持ち、特にブラームス、ブルックナー、マーラー辺りのの19世紀後半から20世紀にかけてドイツで産み出された交響曲が好きならば、もうこれは絶対に聴かなくてはならない。

 日本でこれだけ優れた魂の音楽が、生まれていたのだ。しかも戦争真っ最中の昭和19年にだ。泣くしかないではないか!

 CDには片山杜秀氏による力のこもった解説がついているので、諸井三郎が何者かとか、曲の成立の経緯などはそちらを読んだ方がいいだろう。簡単に言えば、日本の西洋音楽受容の流れは最初ドイツから、次いでフランスから来たのだが、諸井はドイツの流れを組み、しかもドイツ絶対音楽が生んだ最高の形式である交響曲にこだわった作曲家だ。

 作曲は昭和18年から昭和19年という太平洋戦争が緊迫する中で行われ、この曲の完成後、諸井は陸軍少尉として敗戦まで国内で任官した。明らかに自分の死を意識し、自分のすべて込めようとした一世一代の曲なのである。

 そして本当にすべてを込めきったのだろう。諸井は戦後32年を生きたが、その間に書いた曲は8曲だけだそうだ。第3交響曲にすべてを集中し、おそらくは燃え尽きたのである。真っ白に。

 色々言いたいが、第2楽章が、「5拍子の戦争の音楽」であるところは要注目だ。これはクラッシックが持つ「格好いいパターン」の一つで、発明者はおそらくホルストだ。「惑星」組曲の「火星」のアレである。冬木透は「ウルトラセブン」のウルトラホーク発進シーンの音楽で使っているし、ジョン・ウイリアムズも「スター・ウォーズ」の戦闘シーンで使っていた。諸井の第3・第2楽章も、この流れにつながるものだが、聴けば分かるように全く違う新しいパターンで「5拍子の戦争の音楽」になっている。

 第2楽章の狂乱が収まると、第3楽章冒頭でオルガンの低音に支えられてゆるやかな旋律がゆっくりと音階を昇っていく。こういう例えが諸井に対して失礼であることを承知の上で、言ってしまえば「マーラーの未完の第10交響曲クック版の第5楽章冒頭と同じぐらい感動的」だ。

 そんな魂の曲だが、初演も含めてこれまでに4回しか演奏されたことがないそうだ。このCDの録音が5回目だとか。ああ、まったく邦人オーケストラ作品の商売にならなさ加減には涙が出る。

 とにかく聴いて欲しい。というわけでアマゾンにリンクしておく。
 ・アマゾンで第3交響曲のCDを買う

 最後に、ここに来ているかもしれないマニアな皆さんに。松本零士の戦場まんがシリーズに「戦場交響曲」という作品がある。作中に出てくる「戦場交響曲」は、もちろんマンガの中の作品であり音はしない。

 が、今、我々は真の「戦場交響曲」を聴くことができる。この諸井の第3交響曲こそが、本物の「戦場交響曲」だ。

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Comments

松浦さん、とにかく熱く語っておられますね!
個人的には過去の作曲家と言う認識しか無いので、この人の曲殆ど自分の頭には残っていないのですが、いささか古くさい楽曲解説(ベートーヴェンの)で名前を覚えていると言うのが、私の感覚です。
それにしてもナクソスは本当頑張ってくれています。ヴァイオリニスト西崎崇子のイギリス人の旦那がやっている会社で、西崎崇子のお兄さんが日本の総輸入代理店経営してます。実は名古屋の実家でご近所なのですよ。うちにも遊びにこられた事あります。

Posted by: a_ohsawa | 2004.11.06 at 01:01 AM

>個人的には過去の作曲家と言う認識

 私もこの第3交響曲以外の諸井三郎作品はあまりピンと来ません。これ以前の作品は、一生懸命ドイツ音楽の模写をしているという印象だし、これ以降は燃え尽きてしまって音楽的な内実が希薄になっている気がします。

 第3交響曲だけが圧倒的に素晴らしいのです。

>いささか古くさい楽曲解説
 そういえば、音楽之友社のポケットスコア、「スコアリーディング」が諸井三郎著でしたね。私はこの本にずいぶんとお世話になりました。中学生の時、最初に買ったのが「牧神の午後の前奏曲」と「スコアリーディング」だった記憶があります。

>実は名古屋の実家でご近所
 うわあ!そんな縁があるとは。是非とも今後ともあやしく楽しい選曲でお願いしますとお伝えください。

 考えてみれば「日本作曲家選輯」は、日本のレコード会社がやってしかるべき企画ではあるのですよね。

Posted by: 松浦晋也 | 2004.11.06 at 09:34 AM

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