« 疲労が噴出する | Main | 日々は巡る »

2004.12.10

横田めぐみさんの「遺骨」が偽物であったとの報に接して考える

 柄にもなく書いてしまうのである。

 横田めぐみさんの遺骨として返還された骨が、他人のものだったことが判明し、世論が激高している。新聞の社説にすら経済制裁という言葉が踊るようになった。

 経済制裁というが、対北朝鮮政策が外交であり、戦争は外交の延長であるということを考えるなら、敵対的外交は戦争と隣り合っている。とするならば戦争状態でなくとも、クラウゼヴィッツが書くように常に「どこに落とすか」を考えて行動しなければならない。「経済制裁だ!」「北朝鮮に正義の鉄槌を。バンザーイ」ではいけない。

 何しろ我々の国は63年ほど前に、「真珠湾攻撃だ!」「鬼畜米英に正義の鉄槌を。神州不滅。バンザーイ!」という国民的な雰囲気になってしまった前科がある。その結果何が起きたかを考えれば、今回こそはもっと賢く立ち回るべきだろう。
 我々は雌狐のように賢く立ち回る必要がある。

 日本の対北朝鮮外交の目的は何か。

 一に拉致被害者の完全奪還だ。

 これはいうまでもない。報道を見ていると、北朝鮮は日本どころか韓国、タイあたりからも一般人を拉致しているようだ。ここらへんの国と共同歩調は取れないだろうか。日本以上の人数が拉致されているという韓国の対応が、人道からすれば非常に生ぬるいことが気になる。まさか「同胞の北朝鮮なら誘拐してもいい」などと韓国政府が考えているとは思いたくないが。

 二に、北朝鮮国内の人的損害を最小限にとどめつつ、現北朝鮮政権のカルト性を毒抜きし、外交と経済の両面で国際社会に復帰させることだ。

 一番良いのは北朝鮮内部で自発的な政権交代が起こることだが、これは望み薄だろう。北朝鮮国内の暴力革命がこれに続くがおそらくは難民問題を産み出す。
 最悪はアメリカ軍かロシア軍か中国軍か知らないが、外国の軍隊が北朝鮮に侵攻して占領することだ。そうなると、北朝鮮はカンボジアどころではない惨状を呈することになるのではないか。
 目的を達するにあたって、北朝鮮が戦争を起こすというような暴発を起こさないようにしなくてはならない。63年前に我々の国が暴発するにあたって、前提条件としてABCD包囲網という「経済制裁」を食らっていたことを思い出すべきだろう。国が経済制裁を発動するにあたっては、なによりも「結果への見通し」が大事だ。経済制裁を発動するならば、何か北朝鮮の暴発を防ぐパワーバランス的な「かけ金」をかける必要がある。
 

 最終的には北朝鮮地域に、世界経済に組み込まれた経済活動が可能な統治形態を確立することである。

 ここではあえてマキャベリズムの立場を取り、日本にすれば朝鮮半島が統一されないほうがいいということを指摘しておこう(人非人と言うなかれ。思考の上ではすべてのモラルをいったん停止したほうがリアルに未来を洞察できる。なぜなら過去の歴史において、権力者や経済の都合は、ほぼ確実にモラルよりも優先されてきたから)。
 南北の人的、経済的交流が自由になりさえするならば、半島は政治的に分断されていたほうが日本の対中国政策上は都合がいい。南北が政治的に統一されたら、新国家はあっというまに中国の影響圏に入り、日本は半島経由で中国の脅威に圧迫されることなるだろう。なにしろ朝鮮半島における儒教の影響は絶大で、中華を尊しとして東夷を蔑む心性はそう簡単に消えるものではない。
 

 と、偉そうに書いてみても、私に思いつくのは「公的には経済制裁には至らないが、事実上経済制裁と同じ状態を作り出す」ということぐらいだ。そうすれば日本側が切ることができる外交カードが増える。
 民間の力で事実上の経済制裁状態を作り出すということだが、ではどうするかといえば私には「あさりを食わない。松茸を食わない。ウニを食わない。パチンコをしない」ぐらいしか思いつかない。で、私はこのうち「あさりを食う」ぐらいしか該当しない。しかも「最後にあさりを食ったのっていつだっけ」ってなもんだ。あ、パスタのウニクリームソースは時々食うな。あれ、値段からして北朝鮮産ウニという可能性があるかも。

 北朝鮮拉致問題は「太平洋を挟んでアメリカ、西の大陸に中国という、それぞれに勝手な大国に地理的にも経済的にも挟まれた日本が、今後どのようにして国際社会の中で地歩を確保し、繁栄していくか」という大問題とリンクしている。

 拉致被害者を取り戻すのは第一歩だ、。しかし、それですべての問題が解決するわけではない。
 北朝鮮というカルト国家を無毒化するというだけで、すべてが解決するわけではない。 
 

 うう、仕事が進まない。火星探査機打ち上げまで、あと1ヶ月…(「前に『打ち上げまで後少し』と書いていたではないか」というあなた、あの時は後少しと考えていたのであります…)

 編集のIさん、amazonやbk1で予約してくれた皆様、申し訳ありません。ああっ、もう少しだけ、筆が速ければっ。

|

« 疲労が噴出する | Main | 日々は巡る »

ニュース」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

Comments

私はその分野の専門家でもありませんので一国民としてのつぶやきですが、松浦さんの今回の御意見にはちょっと?です。マキャベリズムは良いですが、しかし我々が彼の国の分断を進める意図を持って話を進めるのは、短慮なマキャベリズムなのでは無かろうかと思います。強大な中国友好国を作らないというのはどちらかと言えばネガティブ戦略ではないでしょうか。むしろ、強大な日本友好国を作るポジティブな戦略をとる方が良いかと私には思われますが。もちろんそれを実現するに当たっての道のりがかなり困難であることを御認識されて、先のご発言になっていると言うことは重々理解しています。しかし、仮に松浦さんの路線を採用したとしても、南北両国の合併圧力は、日本との友好関係を否定するよりももっともっと強い物になると思われます。
北朝鮮への制裁の目的として拉致被害者の奪還が第一だと言われております。私も人道的にはそうだと思います。が、マキャベリズム的には現北朝鮮政権の放擲ではないでしょうか。この場合、必ずしも拉致被害者の奪還に結びつかないかも知れません。現政権が持っている資料は散逸する可能性が高いですから。一方で現政権が放擲される場合のいくつかのパターンを提示され、カンボジア化を危惧されていますが、私は早期に韓国に併合されることにより、混乱は最小限に抑えられるのではないかと思っています。ベトナムしかり、ドイツしかり、分断国家が統合されるときの混乱は、外国軍による占領統治よりずっと少ない物になると思われます。統合後10年は韓国の国力は低下するかも知れませんが、その後発展を遂げるのではないかと思います。
我々が手に出来るのは北現政権崩壊までの数年間?と、統合後隣国が国力を十分につけるまでの10年間の合わせて十数年間しか無いのかもしれません。その与えられたわずかな期間を如何に上手に利用して、隣国を我が国にとって最良のパートナーとすべく努力(あるいは画策する)する事こそが最良の外交戦略だと私は思います。
ちなみにこれは一般外交に限らず、宇宙開発に関しても同様なんですけどね。現段階では我が国が韓国・ブラジル・オーストラリア・インド等と
共同歩調をとり得る余地は十分にあります。しかしそのチャンスを美味く利用しないでずるずるといくと、どんどん我々に残された選択肢と可能性は減っていくんですけどね。。。。是非このあたりを分析して頂いて、世に問うていって頂きたいのですが。火星探査本の次に、是非!

Posted by: 秋山演亮 | 2004.12.10 at 10:49 AM

「北朝鮮への経済制裁」よりも「中国への大型経済援助」が効果的だと思います。

北朝鮮は全国的な食料不足で脱北者が続出しているのですから、もしも中国が政策を転換して国境を開いたなら大勢の北朝鮮国民は国境監視の兵士ともどもこぞって脱出、大量流出が生じ、かつての東ドイツ同様に体制は崩壊するでしょう。

中国が脱北者を取り締まっているのはこのように大量の難民が流入して大混乱に陥ることを望んでいないからなのですが、難民発生による中国の経済的損失に対して日本が大規模な経済援助をする約束をすれば、中国の対北政策も変わってくるのではないでしょうか?

北朝鮮への日本単独の経済制裁程度では体制崩壊はしませんが、中国が国境を開いたなら確実に体制は崩壊します。

「難民発生時のための中国との経済援助の交渉」は対北朝鮮カードとしてはより強力だと思います。

Posted by: jan_goody2004 | 2004.12.17 at 12:35 AM

>強大な日本友好国を作るポジティブな戦略をとる方が良いかと私には思われます
 この命題は、「強大」と「友好」が両立するかをよくよく考える必要があるでしょう。特に1)中国がはぐくんできた「中華」の文化的脈絡において両立するのか、2)二国間ではなく多国間で両立するのか、ということに留意する必要があると私は思います。

2)について。
 科学的事実の恣意的な敷衍は、「知の欺瞞」に見るような間抜けな嘘に直結します。が、あえて危険を冒すなら、私はカオス理論のリー・ヨークの定理が言う「Three means chaos.」はかなり普遍的な真理ではないかと感じています。元来は関数列の数値が2回交代の周期ならカオスにならず、3周期が現れるとカオスになるという意味ですが、力学で2体問題ではカオスが発生せず、3体問題で初めてカオスが発生するというように、3がキーワードになって混沌的状況が起きるというのは自然界に普通のことのように感じています。
 外交には多分にカオス制御のような側面があるのではないでしょうか。

>もしも中国が政策を転換して国境を開いたなら
 辺境にたくさんの民族問題を抱える中国が、北朝鮮国境に限定して国境を開くことは、経済状況の如何に関わらず、ない、というのが私の意見です。

>難民発生による中国の経済的損失
 こちらは、むしろ日本から経済援助を引き出すカードとして使われる可能性があるかと思います。が、昨今の中国の態度を見ると日本の経済援助はそもそも当てにしないという態度を取るかも知れません。ちょっと私には計りかねます。

Posted by: 松浦晋也 | 2005.01.01 at 02:36 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19821/2214522

Listed below are links to weblogs that reference 横田めぐみさんの「遺骨」が偽物であったとの報に接して考える:

» 少し落ち着こう--北朝鮮というカルマをどうするか [BigBan]
遺骨に深い執着と愛着を持つのは、日本で特有の心情文化である。 他の国において、全 [Read More]

Tracked on 2004.12.11 at 05:41 PM

« 疲労が噴出する | Main | 日々は巡る »