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2005.09.29

「9.11 生死を分けた102分」を読む

 大阪への行き帰りで、「9.11 生死を分けた102分」(ジム・ドワイヤー/ケヴィン・フリン著 三川基好訳 文藝春秋)を読んだ。2001年9月11日の同時多発テロ、その中でも、ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が突入してから2棟のビルが崩壊するまでを、生き延びることができた当事者や犠牲者からの最後の電話を受けた家族からの取材、消防、警察の無線交信記録などから再現したドキュメンタリーだ。


 とてつもない力作だ。おそらくは事故直後から取材を始めたのではないだろうか、それでも刊行までに3年(原著は2004年12月刊行)がかかっている。物書きとしては、まず著者達の執念と体力に感嘆する。自分もこんな仕事をやり遂げる力を持たないと。
 本書は莫大な証言と記録を再構成し、衝突からビル崩壊までの102分間をそれこそ一分ごとに追っていく。その作業が明らかにするのは、主に三点。1)事故の被害者達の生死は驚くほど偶然に左右されたこと、2)救出のためにできたことはいくらでもあったのに実際にはなされなかったこと、3)そして従来言われていた様な「消防隊員の献身的活動」ではなく、事故に遭遇した一部民間人のボランティア的活動によって多くの生命が救われたこと——である。


 まさに旅客機が衝突した階にいたのに、衝突の5分後にはロビーに降りてビルから逃げ出していた者がいる。一方で、この日、いつもは来るはずがない世界貿易センタービルの高層階にたまたま来ていた者がいる。2番目に旅客機が衝突した南タワーでは、いったん地上に避難したものの、危険無しと考えて自分のオフィスに戻り、旅客機衝突に遭遇してしまった者もいる。「こういう時、自分は的確な判断を下せるだろうか。今日と同じ明日があるという錯覚から逃げ出せず、危地にどっかりと座り込んでしまうことはないだろうか」と考えずにはおられない。

 事態が進行するにつれて露わになっていくのは、警察、消防署、ビルを管理する港湾公社の非常時への準備の悪さ、そして連携の悪さだ。無線機はリピーターの整備が不十分だったので建物の中では使えなかった。警察のヘリは上層階の阿鼻叫喚の状況を見ていたが、それは消防隊員には伝わらなかった。

 その中、もっとも活躍したのは事故に遭遇した何人かの民間人だった。特にフランク・ディマティーニ、パブロ・オーティズ、カーロス・ダコスタ、ピート・ネグロンという4人の名前は本書を通じて永遠に記憶されるべきだろう。港湾公社に勤務していた彼ら4人は、バールで壁を破り、エレベーターのドアをこじあけ、人々を誘導した。そしてより多くの人々を救わんとビルを登って行き、崩壊に巻き込まれて命を失ったのだ。

 できるだけ多くの人に読んでもらいたい一冊だ。


 世界貿易センタービルの跡地に、アメリカは「フリーダムタワー」と命名したビルを建設している。より強固な守りを固めた超高層ビルだ。その下層階は窓がない構造となった。

 が、アメリカの土木工学の大家で、一般向けの技術解説でも有名なヘンリー・ペトロスキーは、事故直後のインタビューで「摩天楼の時代は終わった」とコメントしている。「かりに同じ型のビルを建てようにも、あのような攻撃に対処するためには壁の強度をより強くしなければならない。そのためには窓無しの壁にするか、ナノ・テクノロジーの成果を取り込んだ新しい材料を開発しなければならない。だが窓なしの摩天楼にメリットはないし、また新材料の開発はおいそれとできない。くわえて、通信ネットワークが発達した現代においては、オフィスを小さい空間に詰め込む必要はない」(「ゼムクリップから技術の世界が見える」後書きから)。

 私には、アメリカが取った再建という方向よりも、ペトロスキーの示した未来のほうが正しいと思える。コミュニケーション手法の革新を通じて、「そもそも一ヵ所に人が集まらない」社会を実現していくほうが、テロリズム対策として有効だし抜本的なのではないだろうか。テロリストが分散するなら、社会システムもインターネットのノードのように分散すべきではと思うのである。


 ペトロスキー1996年の著書。様々な道具の来歴を通じて技術を語るというわりと軽めの本だ。最終章に世界貿易センタービルの地下駐車場爆破が取り上げられており、後書きに翻訳者によって上記のペトロスキーのコメントが掲載されている。






 そしてもう一冊。完全に分散化された社会はどのようなものかを追究したSF。著者の林譲治さんは架空戦記においても一貫して人間組織のありようをテーマにしてきた。本書では完全に分散化された宇宙開発のための組織AADDと、既存の縦割りの構造を残した地球政府との抗争を描いている。この秋には続編が出るそうだ。

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Comments

かつては、銀河せましと(空想のなかで)とびかう
古典スペースオペラ・ファンでしたが、
最近はとにかく超光速のない宇宙ものSFは
ないものかと物色しておりました。
「ウロボロスの波動」、なにやら、その
求めていたものの「におい」がしました。
(ち、ちがうかな? :-)
ご紹介ありがとうございました!

Posted by: Kimball | 2005.10.02 03:28 PM

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Tracked on 2005.10.02 02:09 PM

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