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2005.10.31

「はやぶさリンク」:イトカワの「北」はどちらか

 JAXAトップページの頭に、最新の「はやぶさ」情報へのリンクが入るようになった。素晴らしい。この調子で、どうやったら効果的に情報を一般に届けられるか考え、実践していけば、きっと本番の着陸2回では、普通の人でもかなり楽しめることになるのではないだろうか。

 本日のリリースは一件。

イトカワの「北」はどちらか:10月31日

 小惑星の自転軸はあっちをむいたりこっちを向いたりしている。必ずしも天の北極を向いているわけではないし、地球とは逆回転していることもある。
 さて、その時「北」をどうやって決めるのか。どんな星でも、方面の地図を作製したら、東西南北を決めてやる必要がある。でなければ、「その地形のちょっと北」というような会話すらできない。

 天の北極を北とするのか、それとも…

 詳細はリリースを読んでもらうとして、「北」の決め方を、別の説明方法で書いてみるとしよう。

 あなたが、その小惑星の上に立っているとしよう。ぐりぐり小惑星が回っているので、星は地平線から姿を現し、やがて反対側の地平線に消えていく。
 太陽はそうとは限らない。自転軸がどっちを向いているかで変わってくる。しかし星は必ず昇り、そして沈む。全天どっちを向いても、星は存在しているからだ。

 そこで、星の登る方角を東、沈む方角を西とする。そうすれば自ずと北と南も決まる。


 応用問題として、自転軸がどっちを向いているかで、小惑星表面から見た太陽は、どのように動くかを考えてみよう。

 さらにちょっと詩的な応用問題。サン・テクジュペリの「星の王子さま」には、ガス灯とガス灯点灯夫だけの小惑星が出てくる。どうやらこの星は地球と同じく、天の北極方向を向いた自転軸を持っているらしい。
 が、もしこのガス灯とガス灯点灯夫だけの小惑星の自転軸があっちゃこっちゃを向いていたら、ガス灯点灯夫は、どんなタイミングでガス灯を付けたり消したりすることになるのだろうか。
 色々な場合を想定して考えてみよう。

 今日のリリースは、マスコミ的に言えば「小ネタ」と言う奴。でも、これでいいと思う。毎日大ネタがあるわけでもないし、大ネタばかりを連発しても、慣れがきてインパクトが減ってしまう。
 毎日情報を出し続けて、興味を持った人が、1日に一回「なにか出ているかな」とホームページを見にやってくるようになれば成功なのだ。

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2005.10.30

「はやぶさリンク」:こんな画像が見たい

 10月30日深夜現在、「はやぶさ」の最新情報は更新されていない。運用は土日を問わず続いているはずなので、とりあえずは週明けを楽しみに待つこととする。

 繰り返しになるが、ひとえにミッションのみならず、広報でもここが正念場だ。現在、宇宙科学研究本部は、「はやぶさ」後継ミッションとしてソーラー電力セイル実証ミッション「MUSES-D」を提案している。ここで一押し二押しの広報があればこそ、後継ミッションの予算確保のための、国民的支持というやつが得られるというものだ。宇宙開発委員会と文部科学省と財務省に説明すればいいという時代では、もはやないだろう。

 情報がないので、要望を書く。要望というよりも、「自分はこんな絵が見たい」という願望だ。
 宇宙科学の一般向け広報とは、一にも二にも「きれいで衝撃的な絵や動画像」であることは言うまでもない。こと広報に関しては、学問的価値よりもヴィジュアルなインパクトが絶対的に優越する。

 まずはイトカワへの接近アプローチ中に撮影した連続画像だ。接近するにつれて、細かい様子が見えてくるというのがなんとも素晴らしい。古くは月面に衝突したアメリカの「レンジャー」、小惑星関係では、小惑星エロスを探査した「NEAR」が最後の着陸の時に次々と送ってきた映像だ。

 こんな画像が、着地の興奮冷めやらぬタイミングで公表されようものなら、新聞一面、テレビ各局がゴールデンタイムのニュースで取り上げることは間違いないだろう。宇宙に興味がない人も、このような画像を見るというのは大きな意味がある。

 きびしいのは、「はやぶさ」の姿勢制御に制限が発生しているので、それだけのデータを地球に送信できるかどうかだ。しかし、このような画像は学問的価値も高いので、是非とも一般に素早く公開して欲しいなと思う。

 マイクロローバー「ミネルヴァ」の投下は11月4日の着地リハーサル時ということなので、もう一つ。

 着地した「ミネルヴァ」から撮影した、「はやぶさ」の勇姿が見たい。

 地球から遠く離れた宇宙機の現場における画像というのは、アポロ計画や最近のNASA火星ローバーなどを除いては、ほとんどない。カメラマンが写真に写らないのと同じ理屈だ。NASAの「ヴォイジャー」探査機は、素晴らしい外惑星系の画像を送ってきたが、その写真を撮影した時にヴォイジャーがどんな風だったかという画像はない。木星を背後にしたヴォイジャー、なんて画像が撮れたなら、素晴らしい絵になったろうが。

 日本でも旧宇宙開発事業団(NASDA)のランデブー・ドッキング実験衛星「きく7号」が、ミッション終了にあたって、ロボットアーム先端に搭載したカメラで、自画像を撮影している。
 と、思ったらこの画像、JAXAのホームページにはないな。確か「oss1.tksc.nasda.go.jp」で公開されていたはずだが、NASDAからJAXAにドメイン名が移転した時に消えてしまったらしい。惜しい話だ。復活を望むものである。

 話を戻して「はやぶさ」だ。「はやぶさ」は、「ミネルヴァ」を搭載している。そして「ミネルヴァ」にはカメラが付いている。

 これはもう、是非とも「ミネルヴァ」から「はやぶさ」を撮影して欲しい。3億キロの彼方で、イトカワ上空30mのところに太陽電池パドルを広げて浮遊する、我らが「はやぶさ」の勇姿を是非とも見たいではないか。それはもう、涙ものの画像となるだろう。

 ちょっと理屈をつければ、本番のタッチダウン前に「はやぶさ」外観がどうなっているかを検査できれば、それだけタッチダウンを安全に行えるはずだ。

 「ミネルヴァ」がどんな姿勢で着地するか分からない、あるいはそんなに長時間、30mのところに「はやぶさ」をホバリングさせるような危険なマネはできないなどなど。運用手順、通信容量、探査機の安全性確保——様々な条件が科せられる中で、できるかどうかは分からない。

 が、あえて無責任に言ってしまおう。「見たい!」と。

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2005.10.29

ロケットまつりに出演する

 夕方から新宿へ。ロフトプラスワン「ロケット祭り」出演のため。

 すでに垣見さん、林さんは到着していた。林さんはロフト気付でなにやら大きなつづらを送ってきている。
「先広げちゃおう。手伝ってくれる?」
というので、お客さんの前で中身を演台に並べていく…林さん、いいんですか。

 大きなつづらのなかからは、オバケが一杯でてきて、おばーさんはびっくりしてしまいましたよ!

 そこで始まったトークライブだけれども…書けない。まったくもって書けない話が次から次へ。林さんの突っ込みで、垣見さんが乗ってくれることよ。

「要らないボルトなら最初からつけるんじゃない」
「バカ穴の三菱、現物合わせの中島」
「あー、やっちゃったあ」
「若造が公差なんか分からないんですよ」

 ぐらいが、まあ書いて良い限界か。あの場にいた皆さん、実にいい話を聴いたと思います。私も勉強になりました。

 回数を重ねて、さすがに私も演題に突っ伏さなくなってきた。しかし実態はと言えば、ひたすらびっくりを押し隠して、話を聴いているのです。

 次回は12月2日になりそうです。詳細は追ってお知らせします。

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2005.10.28

「はやぶさリンク」を開始する

 JAXAトップページの頭に、小惑星探査機「はやぶさ」関連ページへのリンクが入った。しかし、まだニュース自体をトップページをどんどん書き換えて知らせていく体制にはなっていないようだ。インターネットでは変化こそが人を引きつける。頑張って欲しい。

 なかなか実態が出てこない「はやぶさ」の運用だが、やはり大変なようだ。姿勢を制御する3基のリアクション・ホイールのうち2基が故障してしまったので、「はやぶさ」を姿勢制御用の推進剤を使って姿勢を保ちつつ、地球まで帰還しなくてはならなくなった。姿勢制御用推進剤を可能な限り節約しなくてはならなくなったのである。
 「はやぶさ」は太陽電池パドルと高利得のパラボラアンテナが同じ面を向いて固定された設計になっている。基本的に太陽電池パドルを太陽に向け、地球と高速データ通信を行う時だけ姿勢を変えてパラボラを地球に向ける。
 当然リアクション・ホイールを使って姿勢を変えていたわけだが、故障が発生した今、「はやぶさ」は推進剤を使わないと姿勢を変えられなくなってしまった。

 そして推進剤は節約しなくてはならない。姿勢は極力変えたくない。

 しかし高速データ通信でデータを地球に送らなくては、そもそも観測をしている意味がない。搭載データレコーダーをオーバーフローさせるというようなことはしたくない。

 これは、パラボラにステアリング機構を持たせて、太陽電池パドルとは独立に地球方向を向けることを可能にした欧米の探査機ではあり得ないジレンマだ(正確にはステアリングに伴う反動トルクがあるが、衛星全体の姿勢を変える時ほどは、推進剤を消費しない…はず)。「はやぶさ」の場合、ステアリング機構をも省いて軽量化しなければ、小惑星イトカワに届かなかった。

 詳細は私も知らない。が、非常にアクロバティックかつ、地上のオペレーターの体力を消費する方法で、この問題に立ち向かっているらしい。いつものこととはいえ、泣けてくる。

 部外者がネットの片隅で泣いていても仕方ないので、当分、なにか新しい情報が出てきたら、このblogからリンクを張ることにした。題して「はやぶさリンク」。JAXAトップを見ても、「はやぶさ」最新情報が出ているか出ていないかも分からないなら、こっちで勝手にやってしまおうというわけ。

 とりあえず10月28日深夜時点の最新情報。

「はやぶさ」の今後の運用について
:10月27日

 推進剤は地球帰還まで持たせるメドがついた。どんな方法かについては、「新規に導入した制御策により、微小なジェットの噴射を精度よく管理して加える方法」としか公表されていない。

1. 11月4日 リハーサル降下
2. 11月12日 第1回着陸・試料採取
3. 11月25日 第2回着陸・試料採取

 着地・試料採取は日本時間の日中、つまり長野県・臼田町にある64mアンテナから、直接「はやぶさ」と交信できる時間に行う。

 リハーサル降下はイトカワに30mまで近づく。小惑星の30m上空ホバリングというのは、2000年から2001年にかけて小惑星エロスを探査したアメリカの小惑星探査機「NEAR」もやっていない。実現すれば世界初。ちなみに「NEAR」はミッションの最後にエロスにランディングしたが、その過程で120mの高度で表面を撮影している。高度30mで撮影が行えれば、これまた世界記録となる。

 搭載ローバー「ミネルヴァ」はリハーサルで放出される。

はやぶさ、イトカワの「衝」観測 に成功!:10月27日

 大気を持たない衛星や小惑星のほとんどが、太陽から真正面に光を受けるような角度に近づくにつれて、急速に明るくなるという性質をもっている。この性質の「衝効果」という。衝効果を利用すると、表面の組成、岩石部分と砂礫部分との区別などを調べることができる。

 イトカワにおいても衝効果が確認された、というリリース。

 衝効果を観測するためには、太陽——「はやぶさ」——イトカワを一直線に並べる必要がある。イトカワはせいぜい600mほどの大きさしかないから、「はやぶさ」は数百m程度の精度で位置決めしなくてはならない。今回の観測は、地球から3億km離れたところを飛行している探査機を、数百メートルの精度で誘導することに成功した、ということも意味する。

 もちろんこの精度で制御できなければタッチダウンなどできない道理だ。

 関係者の方にお願い:何か間違いがありましたら、指摘をお願いします。随時訂正しますので。また、待ってますのでがんがんリリースをお願いいたします。

 宇宙開発に興味のあるホームページ、日記、ブログなどの運営者の方にお願い;よろしければ、皆さんのページでも随時「はやぶさ最新情報」へのリンクを掲載していただけないでしょうか。慢性人手不足である日本の宇宙科学の広報を草の根で支援すると同時に、情報公開を外から促すという意義があるかと思います。

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2005.10.27

東大Cubesat XI-V成功の場に立ち会う

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 ワンパス前の中須賀研究室の様子。ネクタイを締めているのが酒匂助手。酒匂さんは前回打ち上げたXI-Vのプロマネでもある。


 27日は1日原稿を書き続ける。午後3時過ぎから、東京大学のCubesat「XI-V」打ち上げ速報ページにリロードをかけ続け、無事に打ち上げられ、どうやら衛星分離まで行ったらしいことを確認。東京大学へと出かける。

 東京大学本郷キャンパスにある中須賀研究室に到着したのは午後7時過ぎ。研究棟に入るとなにやらぶっそうな張り紙が。「この建物は耐震性がないことが確認されたので補強工事をします。強い地震があったときは直ちに屋外に逃げること」…

 大学衛星のコンソーシアムであるUNISEC事務局長の川島レイさんと、川島さんのキューブサット物語や私のスペースシャトルの落日を担当した編集者のまんぷく屋ことIさんが、「遅いよ、何やってんの」と迎えてくれる。

 川島さんはびしっと赤いスーツを着こなしている。勝負服?

 研究室では、背広で決めた助手の酒匂さんが「どもっ」と迎えてくれた。学生達はそれぞれパソコンに張り付いている。一人はチャットで国内外との連絡を担当している。模造紙に投影されたプロジェクター映像には、世界地図上のXI-Vの現在位置と軌道、受信可能範囲、そして受信可能になるまでの時刻が写っている。

 中須賀研究室のCubesat「XI-V(サイ・ファイブ)」は、ロシアの「コスモス」ロケットで打ち上げられた。欧州宇宙機関の教育用衛星「SSETI」本体に組み込まれ、ロケットから「SSETI」が分離後に、放出される。私が到着した時点でSSETIの分離、電波発信は確認されていた。軌道上物体をレーダーで監視している北米防空司令部(NORAD)からは、軌道上に4物体が飛んでいると連絡が入ったという。どうやらSSETIと3機のCubesatらしい。分離は成功したようだ。
 だが、SSETIとなにか壊れた破片という可能性だってある。最終的には東京上空を通る時に、衛星からの電波を受信して確認しなくてはならない。今回の打ち上げにあたっては、国内数大学が受信体制を組んでいる他、海外のアマチュア無線愛好家にも協力を依頼している。
 研究室のホワイトボードには、今日のタイムラインが書き込んである。本日の受信チャンスは2回、ワンパスが午後9時20分過ぎから、ツーパスが午後10時46分から。
 衛星の上空通過をパスという。ワンパスは第一可視、ツーパスは2回目の第二可視。Cubesatは地球を南北に回る太陽同期極軌道という軌道に投入された。Cubesatが地球を巡るほどに、地球も回るので、Cubesat直下にどの地域が来るかは衛星の周回ごとに異なる。軌道の性質からして、受信のチャンスは朝2回夜2回程度だ。

 ホワイトボードにはワンパスのところに「EL低い」と書き込んである。EL、エレべーション、仰角のことだ。地平線から角度にして何度のところを衛星が通過するか。ワンパスは東京から見て地平線近くをかすめるようにして通過するので、電波の受信が難しくなる。ツーパスはどんぴしゃり、東京上空を通過する。

 すぐに、研究室の主、中須賀真一教授が登場する。昼間は、冬に実施するロケットを使った網展開実験の準備で、相模原の宇宙科学研究本部で実験をしていたという。来るやいなや、学生が取り寄せていたデリバリーのピザをトースターで温め、食べ始める。
「いやー、お腹減っちゃって。昼もちゃんと食べたんだけど、まだお腹減っちゃって」とピザを食べつつ、やってきたマスコミの質問に答える。
「ドイツは取れたそうです」と、チャット担当者が報告する。同時に打ち上げたドイツのCubesat「UWE-1」の電波が確認できたという。これなら「XI-V」も見込みは明るそうだ。

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卒業生と話す中須賀教授

 どんどん人が集まってくる。一昨年の「XI-IV」に参加した卒業生達だ。中須賀先生「同窓会みたいだね」。静かに緊張が高まっていき、ワンパスが始まる。

 受信担当の学生が受信機を操作するが電波は受からない。ワンパスは地平線から7度程度のところを通過するので捕捉が難しい。どうしても衛星からの電波を受信できないまま、時間切れ。

 どんな心境ですかとマスコミに質問された中須賀先生、「いやー余裕ですよ」。続けて「電池が減ってるかなあ。9月打ち上げ予定の時期があって、その前に搭載電池に充電したのが最後だから、電池が減っている可能性がありますね。太陽電池に光が当たればじき充電されるんだけれども、地球の影に入る軌道を飛んでいるからなあ」
 時々誰かが、「今どこ飛んでる?」という。海外のアマチュア無線局が受信し、受信レポートが来るのを期待しているのだ。中須賀先生も気にしている模様。「今回はSSETIが、電波を受信した局に懸賞金を出すと言ったから、みんなそっちの受信体制になっちゃったんじゃないかな。まあ、向こうは受信できたことだし、次の周回では、こっちの衛星を狙ってくる局も出てくるでしょう」。

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 パソコン画面に赤点でXI-Vの位置が表示されている。


 次のパスまで1時間半。ここでIさんと夕食に出る。

 研究室に戻ると可視15分前。また、静かに緊張が高まっていく。衛星は北側から日本列島に近づいてくる。

 東京の可視が始まる2分前、チャット担当の学生が声を上げた。「道工大、取れました!」
 すぐに反応したのは中須賀先生だった。「受信できたって?」
 東京より北で受信している北海道工業大学の受信チームがXI-Vの電波を受信したという。成功だ!
 もうすぐ東京でも電波が受信可能になる。

 「みんな静かに!静かに」と中須賀先生が声をかける。

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 ツーパスが始まった。


 ツーパス開始。ほどなく、UHF帯のノイズの中から、XI-Vの発するモールス信号が聞こえてきた。最初は弱く、やがて強く、1分間に10秒の割合で、XI-Vはモールス信号を繰り返している。モールスを読み解く係の学生が、必死にメモを取っている。
 意外なほど静かだった。「おおっ」と一瞬歓声が上がっただけ。みな張りつめた表情で、XI-Vの信号を聴いている。受信担当の学生が、周波数のシフトを測定していく。XI-Vからの電波はドップラーシフトに加え、衛星の温度によって周波数が変化する。安定した運用のためには、まず、どれだけの周波数変移が起きるかを測定する必要がある。
「ドリフトしてますね」「ええ」というような小声の会話だけが、研究室に響く。

 私はパソコンモニター上に表示される、XI-Vの仰角を見ていた。数字はすぐに30度を超え60度、そしてついに85度を超えた。

 あれだ、あさりよしとお「なつのロケット」のラスト。

 「今、真上」

 学生達はあのラストを体験しているんだ。

 やがてXI-Vからの信号は弱くなり、ノイズが優勢になり、ツーパスは終わった。

 中須賀教授と酒匂助手が「やー成功だね」「やりましたぜ」と握手し、抱き合う。ぱらぱらマスコミ関係者から拍手が起きるが、すぐに止む。中須賀先生が言う。「一回目はラッキーだったとも言えるけれど、二回目はそうじゃない。こうやって成功を積み重ねていくことが大事なんです」。そして、「おう、こっち来い」とXI-Vプロジェクトマネージャーの船瀬さんを引っ張りだして握手した。「おめでとう」。

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 「おめでとう!」

 ここに至るまでにいくつもの難関を乗り越えたのだろう。船瀬さんが一回だけ、目尻をぬぐう。中須賀、酒匂、船瀬の握手をマスコミが撮影する。

 そこで初めて拍手が起きた。

 中須賀先生が学生達に言う。「みんな良くやった。努力の結果だと思います」そして、「おめでとう」。

 先生が「おめでとう」と言う。XI-Vが先生のプロジェクトではなく、学生のものであると言っているのだ。

 酒匂さんが、「乾杯の準備を」と言って部屋を走り出ていく。残念ながら、私は時間切れ、ここで研究室を辞去し、終電一つ前の東海道線で帰宅した。

 最後に一言、「みんな、おめでとう!」
 2機のCubesatは、地球を回り続ける。

 2003年6月に打ち上げられた、日本初の2機のCubesat、東京大学中須賀研究室の「XI-IV」と、東京工業大学松永研究室の「Cute-I」を開発した学生と先生の奮闘振りをまとめたノンフィクション。学生の衛星を打ち上げる——不可能を可能にするとはこういうことだ、という本。カバーの下にはちょっとした仕掛けがあるので、読み終えたらカバーを外してみて欲しい。

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2005.10.26

ハイブリッドロケットの学生らと飲む

 東京に出て二件ほど人と会う。頼ったり頼られたり、まあ世間は色々だ。

 夜は秋田大学の秋山さん、そして東海大学のハイブリッドロケット研究グループの学生さん達と飲む。

 東海大の学生達は。ロケット開発に必要な資金を企業回りをして集めているという。実にアグレッシブで頭が下がる。自分が学生の時何をしていたかを考えると、そうだなあ、バイクに乗ってフルート吹いてプラモ作って…社会的なことは何もしてなかったなあ。そんなダメ学生でも、まあこの程度の大人になれるというべきか、この程度にしかなれなかったというべきか。

 キューブサットの学生達といい、ロケットを作り始めた東海大学(会ったことはないが北海道大学のロケット野郎達もきっとそうなのだろう)といい、皆、自分の学生時代よりもはるかに立派だ。いや彼らに限らず、宇宙にモチベーションを持って活動している学生さんたちは、皆素晴らしいと思う。よれよれの俺がでかい顔して彼らに偉そうにしゃべっていていいんかね、という気分になる。

 大学レベルでハイブリッドロケットの開発が始まってから、日本の宇宙はJAXAの独占という状況が崩れつつある。これは面白い、ものすごく面白い。だいたい、「宇宙開発は国家の独占事業」だなどと誰が決めたのか。独占は大抵腐敗するものだ。
 大学回りの動きが今後どのように進展するか——願わくばJAXAの足下を切り崩し、JAXAも必死にならなければならないような(もちろん妙な政治的動きはなしだ)、力を持った運動へと成長して欲しいと願う。

 27日はロシアで、東大のキューブサット2号機が打ち上げられる。

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2005.10.25

回れ!イトカワ

 現在、小惑星イトカワの近傍で探査を続けている小惑星探査機「はやぶさ」から、素晴らしい観測結果が届いた。回るイトカワの動画像だ。

「イトカワ」の自転アニメーション

 正確にはイトカワの観測データを処理して動画像を作成したということなのだが、堅いことは言いっこなし。今、我々の「はやぶさ」は、確かに未知の世界にいるのだ。

 「はやぶさ」のイトカワ到着後の広報について、実は関係者およびその周辺で議論が起こっている。何をやっているのか何も出てこないではないか、広報どうした、というのだ。

 実態はといえば、連日素晴らしいデータが出ていて、相模原に詰めている惑星科学者らは興奮しっぱなし状態なのだという。

 ところが人がいない。出てくるデータを、誰にでも分かる形で整理して広報資料を手早く作成できる人手が足りない。現状では、なんとか広報しなくては、と考えた研究者の一部が広報資料を作成し、やっと少しずつ成果をホームページに出しているという。「言い出した者がやる」というのが旧宇宙研の伝統だが、この場合はマイナスに働いている。言い出した者がより一層の負担を強いられていることになるから。

 しかも見るところ、その少ない広報資料をきちんと公開するJAXA全社体制もできていない。今回の素晴らしい動画像も、JAXAトップにはリンクされていない。

 歯がゆくてしょうがない。

 この大一番で、がんがん情報を出しておけば、例え後で探査機がトラブルを起こし、場合によっては沈黙してしまっても、世間の評価は「あれだけ色々やったんだからいいか」ということになる。「●●億円が宇宙のチリに」というマスコミの常套句だって封じることができる。
 ひいては、次の小惑星探査機、次の科学衛星の予算を得るにあたっても効果があるはずだ。「日本の宇宙科学ってこれだけのことをやっているんだね」ということが、世間一般に知れていれば、自ずと政治も行政も実績を正しく評価することになるのだ。

 それは回り回ってJAXAの仕事全体へのイメージアップにもつながる。一般の人は、旧NASDAだのISASだのを区別していない、「なんか宇宙」、これだけである。いや、「日本の宇宙ロケット」とか「日本の衛星」とか意識してくれているなら、御の字だ。

 ひっくり返って「なんか『はやぶさ』って情報出てこなくて感じ悪い」となると、その悪印象は回り回って例えばH-IIA/Bロケットに影響することだって考えられる。

 これは常識と、ちょっとした想像力の問題だ。

 毎日1枚の画像を「今日のはやぶさ・イトカワ」と、JAXAのトップからリンクを張る。それだけでいいのだ。後は毎日どんな一枚を緩急を付けて出していくかという演出の問題である。もちろん嘘はいけないが、ページ構成とか、アクセントの付け方などは十分考える必要がある。
 淡々と情報を出しているだけでは、訴求力に欠ける。アクセントをつけないと。届かない情報は、「出してますよー」という言い訳でしかない。

 今からでも遅くはない。11月のイトカワへのタッチダウンにむけて、できることはまだまだあるはずだ。

 惑星科学者にとって、重要なことは論文を書き、新たな知見を発表することだ。が、狭いアカデミズムの枠を超えて、「自分対置は今、知の最前線でこんなことをやっているんだ」と、世間一般に向かって語る努力を忘れてはならないだろう。探査機の予算を、回り回って出しているのは、世間一般なのだから。

 がんばれ、「はやぶさ」。


 とりあえず、JAXAトップページがあてにならないので、いち早く「はやぶさ」情報を知りたい人のためのリンクを掲載する。

 宇宙科学の広報を巡る問題点は、この本の後半に書いたのだがなあ…とこれは私の嘆き節。届かない情報が無意味ということは、私自身にも適用される。とにかく、宇宙科学に携わる人々は素晴らしくクレバーかつ恐ろしくタフで、しかも命を削るようにして仕事に打ち込んでいる。本当は彼らが広報などに心患わされないでも十分な広報ができる体制を整えるべきなのだが、それもこれも金次第の部分があまりに多い。

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2005.10.24

大井浩明氏のblogを発見する

 例によって逃避して、ネットをさ迷っていたらピアニストの大井浩明氏のblogに行き当たった。

閘門ブッコロリ

 大井浩明。2002年に「史上最も演奏が困難なピアノ協奏曲」と言われたヤニス・クセナキスの「シナファイ」を録音し、クラシックファンの間にセンセーションを巻き起こしたピアニストだ。無茶苦茶指がよく回る人である。

 ちなみにネットにはシナファイのピアノパート解説もある。日本初演の時にはピアノを担当した高橋悠治の指から出血したという曰く付きの曲だ。HMVの紹介はなかなか詳しくてお薦めである。

 こんな曲を書く方もいい加減イカれているが、演奏する方はもっとすごいと思う。

 大井氏のページからは、様々な現代曲をストリーミングで聴くことができる。しかもその「シナファイ」のライブ録音を聴くことができるではないか。

■2005/09/29(木) That’s made for you and me, ミッキー井上 ヘイ!ハイ!ホウ!

 こいつは豪気だ!と思ったけれど、なぜか私のPowerbookではうまく再生できない。他の曲はうまく再生できるのに残念だ。

 それでも、なかなかお薦めのページだ。

 興味のある方はどうぞ。シナファイのCD発売時の大井氏インタビューもなかなか面白い。

 大井演奏によるシナファイのCD。好奇心の強い方は是非とも史上最難のピアノ演奏に耳で挑んでみて欲しい。ただし、かなり手強い曲だから、分かろうが分かるまいがとにかく10回以上聴き込むことを覚悟したほうがいいだろう。  恐るべき密度の曲であることは確かだ。  ちなみに“シナファイ”は、別に中国とは関係ない。「結合」という意味である。シナプスの“シナ”と同じ。

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2005.10.23

素晴らしき4D2U

 野尻ボードより。

国立天文台4D2Uプロジェクト

 素晴らしい!!一つ一つ見ていくと、それだけで時空を超えた旅に出た気分になる。いつの間に、国立天文台はこれだけのことができるほどの広報マインドを持つようになったのだろうか。

 私は直接知らないのだけれども、天文普及関係の知人によると、東京天文台という名前だった頃の天文台の広報は最低に近かったそうだ。典型的お役所仕事で、応対は悪く、情報サービスは使いにくく、しかも直そうという機運は皆無だったという。その後、国立天文台が発足し、渡部潤一先生が広報担当となって、ずいぶんと改善されたと聞いてはいた。聞いてはいたが、これほど美しく衝撃的な普及広報ページを作成するほどになっているとは。

 繰り返そう。なんと素晴らしい。

 この仕事にはデザイナーの小坂淳氏が参加している。広報に、優れたデザイナーが参加することの重要性を、誰が気が付いたのだろう(そう、広報はその意味では広告に近い性格を持つ)。国立天文台に拍手である。


 本日、参議院神奈川選挙区補選。前外務大臣の自民党・川口順子候補が当選した。

 投票率は32.75%。こっちは全くもって素晴らしくないな。

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2005.10.22

赤外線天文学の話を聴く

 22日は午後から、宇宙作家クラブの10月例会。東京大学の上野宗孝先生をお招きし、赤外線天文学の現状、この冬に打ち上げ予定の赤外線望遠鏡衛星「ASTRO-F」のこと、さらには2010年打ち上げを目指して開発を進めている金星探査機「PLANET-C」のことなどうかがう。

 とにかく面白い。どの話をとっても面白い。学者という人種はかくも楽しい話題に身を浸して生きているのか、と思ってしまうほど刺激的な話ばかり。

 中でもハワイのマウナケア山頂で行っている黄道光の観測が、非常に面白かった。視野角100度を超える特製のレンズで全天を撮影し、黄道光の撮影をしているのだという。
 黄道光は、天の太陽の通り道である黄道が、夜間かすかに光る現象のこと。太陽系には、惑星の周回する平面に沿ってかすかにダストが残っており、太陽光を反射している。それが黄道光だ。

 これまでは天文観測の邪魔としか考えられていなかった黄道光だが、上野先生のグループは、今後の赤外線観測のためには妨害要素も知っておかなくては、と黄道光の観測を開始した。
 すると黄道光には、軌道平面の異なる2つの群が存在することが分かったのだという。一つは地球軌道の軌道面に乗ったもの。もう一つは木星軌道の軌道面に乗ったもの。しかも色々と観測していくと、それぞれダスト粒子の大きさが異なることも見えてきた。それはダストの起源の違いでもある。木星軌道のものは彗星起源で粒子が大きい。地球軌道のものは小惑星起源で粒子が小さい。
 一見ぼおっと広がっているだけに思われていた黄道光に、このような構造が存在するということはどういうことなのか。

「意外なぐらい、我々は太陽系のことを知らないんですよ。なにも分かっちゃいない」と上野先生。

 他にもマウナケア山頂の望遠鏡の数の話。マウナケア山頂は地元の聖地であり、ハワイ大学が最初に望遠鏡を建設するにあたって望遠鏡の数を制限する取り決めを地元と交わしたのだという。すでに望遠鏡の数は飽和状態にあり、今や小さなものを撤去して大きな望遠鏡を建設するという状態になっているそうだ。
「『ケック』望遠鏡(2基の10m複合鏡を連動させて一つの像を得る)は1基と数えているんでしょすか」
「いや、2基だそうです」

 そこで望遠鏡建設に向いた土地を探すということになる。世界的には、ハワイ・マウナケア、南米ラスカンパナス、大西洋カナリア諸島ぐらいしか巨大望遠鏡建設の適地はない。
 そこであらたな適地を求めてインド奥地、ヒマラヤの中腹にある望遠鏡建設候補地に行った時の映像を見せて貰う。ヒマラヤ奥地の飛行場からさらに自動車で道なき道を6時間という僻地だ。「空気が薄い。ほら、学生の顔色が紫になっているでしょう…」。過酷だ。天文学は体力勝負なのか。「ここは土地がちょっと盆地になっているんですよ。だから高山病を起こしても逃げられない。どっちに向かっても登るだけですから。マウナケアだと山を降りることができるんですけどね」

 その他、PLANET-Cの赤外線センサーの話、金星大気のスーパーローテーションの話、NASAの木星探査機ガリレオが金星と地球を観測した時の話などなど。興味深い話を聴かせてもらう。どうも、ありがとうございました。

 懇親会は調子に乗って飲み過ぎる。結局終電を逃し、Oさんの自宅に泊めて貰い、朝帰り。

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2005.10.21

原稿のストレスに耐えかね毒を吐く

 原稿を書く。状況分析の原稿。基本は公開されたデータを解析して、新しい視点を提示することだ。公開データをつつき合わせたり、斜めに読んでみたり、表計算ソフトに入力して分析してみたり。

 リヒャルト・ゾルゲがせっせとスターリンに送っていた情報のあらかたは、公開された情報の分析だったという話がある。諜報活動の主力は公開情報の分析であり、007的な非合法活動で得られる情報は全体の1/10以下なのだそうだ。

 調査報道と言う奴も似たようなものだ。いや、自分がやっているのが調査報道に値するのかはあまり自信がないのだけれど。

 こういう話を書いていると、ふつふつと情報収集衛星の悪口が書きたくなってしまって困る。このblogは人畜無害な身辺雑記に終始するつもりだったのに。

 衛星という道具の特徴は何か。比較的短時間に全球的な地球のデータを取得できることだ。
 国家戦略にとって重要な全地球的データとはどんなものか。いくらでもある。植生、気象、土地利用、オゾンの全球分布、降雨のリアルタイムデータ——すべて国家戦略の策定のために重要だ。
 そのようなデータを得るにはどうしたらいいか。もちろん各種地球観測衛星をがんがん打ち上げ、迅速にデータを解析し、効果的に解析結果を利用する体制を構築すればいい。

 で、情報収集衛星の目的は何か。朝鮮半島北部と、日本海のいくつかの特定設備の戦術的監視である。

 アホかーっ。

 事実だけ指摘しておこう。
 全地球的戦略データの収集に向いた衛星という道具を、戦術情報を得るための高々度偵察機の代用にするのは、冷戦期の米ソの発想だ。

 同じ金を使うなら、朝鮮半島を巡るヒューミント(人対人の007的情報収集のことだ)に突っ込めば、ずっと効果的に情報を集められたろう。

 情報収集衛星が集めているような可視光高分解能データは、GISのような地図情報システム、店舗出店にあたっての商圏把握、都市計画といったむしろ民生面で有用だ。情報収集衛星の撮影データは、Google Mapのような仕組みで全面公開してこそ生きるのである。そうすれば物好き達が、専門家の分析しきれなかったデータも、喜んで分析してくれるだろう。タダで。

でもって結論。
 情報の秘匿で国家の優位を保つのではなく、情報の公開と共有が、国家間の危機を回避する方向に働くような仕組みを模索するべきなのである。

 書いてしまって自己嫌悪。不十分な煮詰めのままblogに書く話じゃないなあ。ごめんなさい。

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2005.10.20

スクーター後席の太ももにバカの壁を見る

 本日は晴れ。素晴らしい秋晴れ。

 出かけたいぞ遊びたいぞ。でも仕事がある。どうするか。昼飯を食いに出かけるのだ。それもバイクで。

 AX-1のエンジンに火を入れ、湘南海岸を鎌倉へ。以前から目を付けていたインド料理屋で昼食とする。なかなかの味だった。

 すっかり良い気分で走っていた帰り道、江ノ島付近で、二人乗りのビッグスクーターと並んだ。おうおう兄ちゃんやるじゃないか。後ろに乗っているのは彼女かい。太ももがまぶしいぜ。

 太もも…?

 後ろに乗っていた女性は、ミニスカート姿だった。

 おい、その格好で乗せるな。いや、色っぽいとかじゃなくて、転倒したら大事な彼女の脚がずるむけになるぞ。イージーライドはいいのだけれど、スクーターはあくまでバイク。覚悟を持って乗る乗り物なのだ。

 はやりものに飛びつく者すべてが阿呆ではない。が、はやりものに喜んで群がる連中の中には少なからぬ阿呆がいる。私の世代ではレーサーレプリカだった。どいつもこいつも皮ツナギを着て、峠道を腰を落としてすっ飛ばしていた。中には本当に速い奴もいたが、速いつもりになっているだけの奴も多く、けっこうな事故を起こしたものだ。
 ちょっと前ならTW200だな。あれこれ取り外して、スカスカにして乗るのが流行した。どういうわけかタンクトップに半ズボンで乗るバカが多かった。服装までスカスカにするなよ。転べば痛い目に会うのは自分だ。

 で、今はビッグスクーターだ。とりあえずまともな奴と阿呆を見分けるポイントはヘルメット。阿呆は原付用のお椀型ハーフヘルメットをかぶっている。それじゃ何かあった時に危ないぞ。

 二人乗りがしやすいせいか、後ろに女の子を乗せている奴は多い。が、ミニスカートだけは止めたほうがいい。

 TW200のあほんだらは、自分が痛い目に合うだけだった。ビッグスクーターの困ったチャンは、自分の彼女を危険にさらしている。どちらかというとスクーターの方が罪深いと思う。

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2005.10.19

2ちゃんねるで若気の至りの記憶が蘇る

 中学生の時だった。小説を書こうとしたことがある。タイトルは「ナンセンス・ゲリラ」というもの…

 そこっ、笑わないように。30年近く昔だ。まだ「ナンセンス」という言葉は死語になっていなかった。

——突然、奇妙な事件が続発する。タンカーがいつの間にか丘に上がったり、長谷の大仏が後ろ向きになっていたり、霞が関ビルに巨大なはてなマークがペイントされたり。警察はいたずら事件と判断して捜査を始めるが犯人は捕まらない。そのうち実行犯の何人かが検挙されるが、彼らは異口同音に「何となく」「面白そうだったから」という、共犯はと問いつめると「知らない人と一緒に」と答える。やがて、一連の事件に「ナンセンス・ゲリラ」という名前が付く——

 こんなアイデアを思いつくにあたっては前史がある。小学生の時に見ていた「人造人間キカイダー」、私は、キカイダーが阿呆に見えて仕方なかったのだ。
 毎回、敵の首領プロフェッサー・ギルは、ひょろろろーと妙な笛を吹く。良心回路が不完全なキカイダーはその度に苦しみ(ロボットが苦しむとはどういう事だ、というのはさておいて)、やっと敵の戦闘ロボットを倒すのだった。

 「やっつける順番が逆だろう」と子供心に思った。笛の音が聞こえるということは、ギルも近くにいるということだ。だったら、先にギル(生身の人間だから、力はキカイダーの敵じゃない)をやっつけて、しかる後に戦闘ロボットをやっつけるべきじゃないか。
 で、思いついたのだ。「悪の組織において最大の弱点は一人しかいない首領である」。もう一歩進んで「最強の悪の組織は、首領がいない悪の組織である」と。

 ところが、そんな番組はいつまでたっても始まらない。で、中三の時に自分で書いてみようと思ったのだった。つまり「ナンセンス・ゲリラ」が、首領がいない、実行犯だけの組織だったのだ。戦闘員だけのショッカーというべきか。イー。

 私はこの小説を書き上げることができなかった。というのは、大仏を動かすなんてことは、事前にかなりの打ち合わせが必要になる。実行犯相互が、「なんとなく」「顔も知らず」「知り合いでもない」状態で、事前打ち合わせをするにはどうしたらいいのか、どうしても思いつかなかったのだった。

 私は嘘が下手だった。もしも「百匹目の猿」のような仕組みを思いついていたら、今頃は適当に論文趣旨を適当にねじ曲げて一般解説書を書くスーパー・ネイチャーな自然科学者か、中小企業経営者相手に嘘八百を付きまくる経営コンサルタントになっていただろう。

 そして私には工学の才能もなかった。もしもあったら、パケット伝送による中心がないネットワークを考案して世界的な名声を得て、今頃は日経新聞に「私の履歴書」を執筆していたかも知れない(私が中学の時には、現在のインターネットの原型はとうの昔に出来ていたわけだが)。

 何が言いたいか、といえば、2ちゃんねるのような匿名巨大掲示板は、まさに中学生の私が夢想したような運動体になっているな、ということだ。日韓共催のワールドカップの時、妙な報道をしたフジテレビに抗議して、2ちゃんねらー達が、テレビ番組に先駆けて江ノ島海岸を清掃してしまった時、この事に気が付いた。お互いに
顔も知らない匿名の個人が、事前に図ってその時だけの運動体を結成して、社会に影響を及ぼす——中学生の私はこれが書きたかったけれども、書けなかったのだった。

 いや、気が付いたからどうということでもないのだけれど。子供がようよう書ききらなかった小説など、存在しないも同じだ。

 で、今日の本題。知人から流れてきた面白い情報。

・まずこの画像
・で、この動画像

 震源地はどうやら、2ちゃんねるらしい。つまらん討議の時は、こういうことをしたくなるのは良く分かるが、こうやってキャプチャーでその画像が津々浦々に流れてしまうのは、ネットならではだろう。ご愁傷様でした。

 もうひとつ、のまねこ関連で。

空耳じゃないマイアヒ

 そうか、切ない恋の歌だったのか。

 聴き手が空耳をして遊ぶのは、聴き手の勝手だろう。しかしクリエイター側の意向を汲んで音楽を売るべきレコード会社が、歌の内容を無視してはいかんだろう。空耳で売ろうとしたエイベックスは、やはりどこかおかしい。音楽産業として、何か大切なものが、すっぽり欠けていたという感じがする。

 ま、2ちゃんねるからの情報で若気の至りを思い出してしまった、ということで。

 ご多分に漏れず、私もハカイダーが大好きだった。いくらでも弾丸が出て来るハカイダーショットは、実に欲しかったな。銀玉鉄砲でも、装弾に限りがあるのがくやしくてねえ。

 それ以上にカワサキのバイクも格好良かった。なにしろキカイダーが乗るサイドマシンは、1970年のモーターショーにカワサキが出展したメーカーワンオフのレーシング・ニーラーなのだ。しかも2ストトリプルのマッハ改造なのだよ。
 その低い走行姿勢は、ホンダの市販バイク改造の仮面ライダーよりも、後に宇宙刑事シリーズでいやというほど出てきたスズキ製バイク改造のサイドカーよりも、ずっと見栄えがした。
 サイドカースタントも素晴らしかった。なんでも後にカワサキのワークスライダーとして「ミスター・カワサキ」の称号を欲しいままにした清原明彦氏が担当していたのだという。ダートをニーラーで突っ走り、パッセンジャー側を大きく振り回してドリフトターンする姿は、本当に素晴らしかった。

 話はどうであれ、バイクに関してはとても贅沢な特撮番組であったことは間違いない。

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2005.10.18

宣伝:10月29日(土曜日)、新宿・ロフトプラスワンでトークライブを開催します

 次回のロフトのライブトークのお知らせです。10月29日(土曜日)、垣見恒男さん、林紀幸さんが日本初の衛星を打ち上げたラムダロケットについて語ります。


宇宙作家クラブPRESENTS
「ロケットまつり8」

 ラムダロケットは日本初、世界で四番目の人工衛星を打ち上げたロケットだ。しかし成功に至るまでには4回の失敗があった。5度目の正直で、ラムダ4S-5ロケットは1970年2月11日、衛星「おおすみ」を打ち上げることに成功した。それから35年、今こそ存分に語ろう。ラムダロケットのことを。

【Guest】林紀幸、垣見恒男
【出演】浅利義遠、笹本祐一、松浦晋也

ロフトプラスワン :新宿・歌舞伎町

Open/18:30 Start/19:30
¥1000(飲食別)
当日券のみ

 意外に知られていないラムダロケットの実際を、お二方に語ってもらいます。

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2005.10.17

「戦ふ東條首相」(昭和18年)

 2回、スニークプレビューをしたネタを公開しよう。

 これだ。右の本である。

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 「聖戦書帳 戦ふ東條首相」という、戦争中の子供向け絵本である。昭和18年4月発行、小田俊與という人の編・著。奥付によると5万部を印刷している。当時は紙が配給になっていたはずなので、異例の印刷部数である。定価は2円80銭。子供向けの本としてはかなり高額である。出版は博文館。今も続いている出版社だ。

 内容といえば、当時一流の画家や詩人による、全編これ東條英機ヨイショなのである。昭和18年だから、東條英機は権力の絶頂にいる。時局とはいえあまりにあんまりなおべんちゃらで、よくも一冊の本を作ったものだ。

 その内容はと言えば——一部見出しを抜粋すると


  • 「世界にとどろく大獅子吼(原文は旧字体、以下同様)」(東條首相、帝国議会で演説)
  • 「鉄壁完たり東條内閣」(組閣)
  • 荒鷲の育て親(航空兵団を視察)
  • 靖国の子と共に(靖国神社参拝)
  • 兵と共に(演習視察)
  • 鶴はし戦士を激励(炭坑視察)
  • 盟邦の子供(日本軍占領地域の子供らの頭をなでる)
  • 日々此戦争(首相職務に精励)
  • 生きた戦陣訓(編著者の小田によるヨイショ)

 とまあ、こんな具合だ。これだけ持ち上げられた人物が、二年半後に、戦犯として拘束されると思うと、なんとも言えない気分になる。

 一部を画像で紹介すると——

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 これは「敬神」というページ。「東條首相は、毎朝のやうに明治神宮や靖国神社に参拝し、皇国の安泰を祈り奉り、護国の英霊に心から感謝の誠を捧げることを欠かしません」。とある。

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 これは「軍神の子」というページ。「東條首相は、軍神加藤少将家を弔問して三人の遺児を激励しました」とある。加藤少将とは加藤隼戦闘隊で有名な加藤武夫中佐のこと。昭和17年に戦死して、二階級特進で少将となった。

 全編こんな調子なのだ。驚くべきことには、「荒城の月」で有名な土井晩翠が、「東條首相に寄す」という詩を寄稿している。

 廟堂いくたび風貌変えて
 最後に東條陰雲破り
 霹靂轟き清風起る

と、おべんちゃらでも素晴らしく格調高い。

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 巻末にはご丁寧に「東條兵団」なる歌の楽譜まで掲載されている。作曲は、中山晋平、古賀政男などと共に「歌謡界四天王」と言われた大村能章だ。

 この本は、大学のクラブの後輩で、現在は某大手新聞社で記者をしている軍服コスプレイヤーU君が、「コミケで分析書を出して下さいよ」という条件で譲ってくれた。その約束を果たせぬままかなりの時間が経過してしまったので、一部ここで公開する次第。

 いったい何だってこんな本が、あの戦時中に出てしまったのか。

 実はこの本の細かい解説が空席通信on the netというページにある。学生諸君へと題されたページだ。

 同ページによると、どうやら編著者の小田俊與が、この奇妙な本を読み解く鍵らしい。

 画帳の編著者小田俊與は、敗戦後、社会大衆党などの党首を名乗って衆議院、参議院、東京都知事など、選挙のたびに立候補し落選する、「泡沫候補」の常連だった人物だ。選挙のつど、公報に記載される経歴が微妙に異なるので真偽の程は定かではないが、ある選挙公報によると、一九四二年には「首相秘書官」、つまり東條首相の秘書官をしていたとある。

 つまり時局に乗ろうとして、政治の周辺を飛び回っていたかなり軽薄な人物だったらしいのだ。どうやら、そんな人物が、飛ぶ鳥を落とす勢いだった東條英機におべんちゃらするために、こんな本を作らせたらしい。

 小田が東條首相の秘書官というのが事実ならば、企画の存在を東條が知っていた可能性がある。知っていて、こんな本の出版を許したとしたら、当時の東條はかなり浮かれていたということになる。正直、この本には現在の北朝鮮の「偉大なる将軍様」とよく似た雰囲気がある。天皇の忠臣を自認していた東條に、将軍様になる意志はなかったろうが、周囲には勝手に東條を将軍様へと祭り上げる雰囲気があったのだろう。つまり、それほどの権力を東條は手中に収めていたわけだ。


 東條英機に関しては、ここ数年再評価の動きが出てきている。再評価にあたっては、戦後ひたすら沈黙を守ってきた東條家の人々が、佐藤早苗氏による一連の「東條もの」以降少しずつ生身の東條英機の有り様を語り始めたということが大きいだろう。

 が、この本が示すのは、子供向けおべんちゃら本が出るほどの権力の腐臭が、最盛期の東條周辺に漂っていたということではないだろうか。

 私としては、東條が松前重義をはじめとした反対者を、徴兵年齢が過ぎているにも関わらず徴兵し、しかも激戦地に追いやったことを重く見る(Wikipedia東條英機の項、現在の一般的な評価を参照のこと)。理由