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2005.10.16

福岡県弁護士会の書評で、「月のひつじ」を思い出す

 「月のひつじ」という映画がある。アポロ11号の月着陸時の電波を中継したオーストラリア・パークスのパラボラアンテナを巡る映画だ。この映画が銀座・シネスイッチで公開された時、同時に映画館ロビーでアポロの写真パネルが展示された。

 私が映画を観た後で、パネル展示の解説を読んでいると、横にやってきたカップルの男の方が、得々と説明を始めた。「アポロってさあ、本当は月に行ってないんだぜ…」

 脱力した。思いっきり脱力した。お前ら今まで何の映画を観てたんだ。アポロの月着陸船からの電波を受けたのは、オーストラリアのアンテナだって映画だったろうが。オーストラリアの技術者がなんでアメリカの偽造に付き合う必要があるのか——そう考えれば事の真偽など一発だろう。

 こんのバカモンがあっ。

 とはどならずに、私は礼儀正しく会話に割り込み、「そんなことはないですよ」と諄々と解説したのであった。女性にいい顔をしたかったと思しき男は少々不満な顔をしていたが、女性のほうは「へえ、そうなんですか」と聴いてくれた。おじゃま虫ではあるが、もちろん嘘ネタで女の子に対して精神的に優位に立とうとした男がいかんのである。

 なぜ、こんな思い出話をするかといえば、こんなページを見つけてしまったからだ。

福岡県弁護士会の読書:人類の月面着陸は無かったろう論

 あのなあ…

 弁護士の職務には、様々な証拠から真実を見いだすということも入っている。それが無批判に信じ込んでどうするというのだろう。「ああ、私も真実が知りたい・・・!」って、検索もかけなかったのだろうか。

 とはいえ、責めてばかりはいられない。

 この記事を書いた 霧山昴さんという弁護士さんは、他にもアポロとソユーズの書評もアップしている。無関心ではなく、人並み以上に宇宙に対する興味を持っておられる方なのだろう。

 「アポロとソユーズ」書評にある

「 いや、ともかく私は本当に彼らが月面を歩いたという見える証拠がもっとほしい。そう思ってしまいました。なにしろ、スコット飛行士だけでも月面に3日間もいたというのです。もっとたくさんの写真があれば・・・、と思いました。」

というのは、「NASAのホームページに行け!」で終わる話だ。

 しかし

「 34年も前に月世界におりたち歩いた人類は、今ではそんな高度な技術があったのか不思議に思われるほど、後退してしまった印象があります。それは今回のスペースシャトルの出発と帰還がヒヤヒヤの連続だったことにもとづきます。」

という印象は、かなり多くの人が持っているのではないだろうか。

 アポロ月着陸が偽造だったとする意見が跳梁する背景には、「1969年に出来たことがなぜ今できないのか」という素朴な感覚がある。それに対する答えは、「アメリカがスペースシャトルという巨大な迷い道に踏み込んでしまったからだ」というものだが、こちらの認識は、まだ浸透していない。

 頑張らねばいかんな、と、これは自戒である。


 アポロ11号の歴史的な月着陸の時、月からの画像を中継したのはオーストラリアの片田舎、パークスにあるパラボラアンテナだった。アンテナに詰める技術者達は、確実な受信を目指して奮闘する——地味だけれども、心温まるとても素晴らしい映画。実際のところ、パークスのアンテナにはもっと多くの技術者が詰めた、しかし映画では、登場人物を思いきり絞り込むことで、どことなく田舎っぽいオーストラリアの雰囲気を出し、同時に映画としても密度を上げている。いや、本当にいいねえ、しみじみ。




 デイヴィッド・スコット、アレクセイ・レオノフというアメリカとソ連の宇宙飛行士が、それぞれの立場から1960年代から70年代にかけての体験を綴った本。注目すべきは、レオノフのパート。ソ連崩壊後に色々な話が出てくるようにはなったけれども、それでも日本語で読めるソ連の宇宙飛行士の回想は貴重だ。

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Comments

>2人は軌道上にて顔を合わせることになる。
 この表現は比喩と解釈すべきなのでしょうか?
 私は「アポロとソユーズ」の弱点は、まさにその点にあると思います。ソ連のレオーノフのカウンターパートは、NASAではスタフォードであるはずで、彼に書かせられなかった(恐らく既に自伝を書いていたので)ことから、ASTPの一応関係者である(でもバックアップ乗員ですらない)スコットを引っ張り出した(自分から売り込んだ?)のでしょう。

Posted by: ROCKY 江藤 | 2005.10.17 03:27 AM

 あ、いけない。今確認しました。スコットはアポロ15号ですね。記憶の捏造を起こしていたようです。

 訂正しておきました。指摘、ありがとうございます。

Posted by: 松浦晋也 | 2005.10.17 03:59 AM

はじめまして、こちらのサイトを興味深く拝見しました。 コンパクトに的確にまとめられていて感心しました!

 私も先日ブログでアポロではありませんが(汗)、ガガーリンについて記事にしました~よかったら遊びにいらして下さいね~ではまた!

Posted by: ルーシー | 2006.07.20 08:29 AM

件の2004年刊行「人類の月面着陸は無かったろう論」ですが、190ページで「国産ロケットはなぜ堕ちるのか H-IIA開発と失敗の真相」が引用され、それを松浦氏が国防総省の付属の軍事研究機関に成り下がったNASA暴走を主張したという、根拠にされています。

これに関しては、と学会刊行の批判本である「人類の月面着陸はあったんだ論」(2005年刊行)194ページで、「松浦氏にしてみればいい迷惑だろう。(中略)松浦氏に限らず、宇宙開発の歴史に詳しい人間なら、アポロ陰謀説など唱えるはずがない。そんな説を唱えるのは、宇宙開発に無知な人間だけなのだ。」と、同会会長の山本弘氏が批判していましたが。

Posted by: 新幹線 | 2006.12.17 11:04 PM

失礼。本に引用されていたのは「BizTech 2003年2月7日号」の記事でした。

Posted by: 新幹線 | 2006.12.17 11:26 PM

別に自分で月に行って、実際に歩いたわけでもないのにw

>スペースシャトルという巨大な迷い道

こういう言い訳を用意しておけば勝手に自分で納得してくれるんだから、
大衆操作って想像以上にラクチンなんだよね。

人を信じられなくなったらおしまいだっ!!って統一教会信者の人が言ってましたw

Posted by: ずいぶんと偉そうだな | 2010.06.12 02:26 AM

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Tracked on 2005.10.18 01:39 AM

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