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2007.01.10

「はやぶさ2」その3:5億円の、それ以上の資金の集め方

 今回の呼びかけに対して、もっとも辛辣かつ本質的な指摘をしたのは、ロボット関連で活躍しているサイエンス・ライターの某氏だった。

 彼の指摘の概要は以下の通り。

・5億円あれば、1年引き延ばせるのだろう。

・だったら当事者があちこち頭を下げて5億円をあつめ、次年度予算編成で改めて財務省と交渉するのが筋のはず。

・プロジェクトを進めるにあたって、1)まず必要なカネを取りあえず集める、2)その後、必要になったときに必要な分だけ投資していく、3)投資を行うかどうかも時々刻々判断して、ダメだったら思い切って損切りする——というほうが、ごく普通の考え方。

・最初から5年計画で、何があろうが変化せずにとにかくカネを寄こせ、というほうがおかしい。

・「はやぶさ」よりも知名度の低い「ROBO-ONE宇宙大会」でさえ、2億円を自前で集めようとしてる。

・現状では、「前回、技術者は頑張った。イマイチだったけど。また頑張るためにカネをくれ」という話にしかなってない。虫が良すぎ。

・科学的成果が出るんだったら、別にアメリカがやろうがなんだろうが、別に困らない。

・松浦さんのやっていることは、企業が支援していたスポーツチームが潰れたときにみんなで嘆願署名を出そうとかってやってる人たちと50歩100歩でしかないような気がする。

 正直、彼の意見に、かなりむかっと来たのも事実だ。

 しかし、上記の指摘は看過し得ない問題を含んでいる。

 現在の宇宙開発は、独立行政法人のJAXAが5年ごとに策定する中期計画に従って予算要求をしていき、政府から必要な予算を得るという形態を取っている。そして実際問題として、技術開発とサイエンスという分野で考えると、年間1000億円以上の予算を、事実上の予算枠として持っている事業はそう多くない。

 そんな分野から、5億円が出ないといって、周囲が騒ぐ事態になっているのは、それ以外の技術開発やサイエンスの現場からすれば「ふざけている」というふうにも見えるのだ。「さんざん金を使っているのだから内部でなんとかしろ。これ以上金よこせなんて言うんじゃない」というように。統合してしまった以上、「さんざん金を使っているのはNASDAのいつまでも上がらない宇宙ステーションであって」というような理屈は通らない。
 しかもJAXAは独立行政法人であって、予算の使途については、かつてのNASDAやISAS以上に広範囲な自由裁量の権利を持っている。予備費だってきちんと項目として計上されている。

 「1000億円以上貰っている組織が5億円がなんとかできないとしたら、それは組織内の問題だ。勝手にしろ」と言われた場合、JAXA/ISASには反論のより所がない。

 5億円は、つまるところその先数年に渡って100億円以上を支出するということを意味するので、そう簡単な話ではないのだけれども、それにしてもJAXA内部の予算の使い方の問題だという意見は一定の説得力を持つ。

 もちろん、「はやぶさ2」問題に興味を持つ人は、JAXAの中の旧NASDAとISASの縦割り構造、さらには組織内で主導権を握ったのが人数と予算の多い旧NASDAだったということが問題だということを理解しているだろう。しかし、それもまたJAXA内部の問題であって、JAXAの一部であるISASが、いくら予算を欲しても、上記の反論を論理として打破できるわけではない。

閑話休題

 このサイエンス・ライター氏の「当事者が金を集める」という一言に触発されて、松浦と笹本祐一は、一般から「はやぶさ2」に対して募金を集めることの可能性を調べてみた。
 まず、募金とJAXA/ISASが受け取ることが可能なのかが問題になる。それは可能であるということだった。金を集めた側が使途を指定できるかどうかまでは分からなかったが、指定できなければ募金に応募してくれた人に返金するまでのことだ。

 あるいは、宇宙開発に関して優れた活動をしているにも関わらず、資金不足に悩んでいる組織に回すのもいいだろう。
 官が絡む世界では、天下りを引き受けない団体には公の金が回らないというふざけた現状がある。そのような公金を使った官僚支配を打破するのに使うのもいいだろう。このあたりは、事前に募金の枠組みをどのように組むかという問題だ。

 返金可能な募金、しかも可能な限りオープンな募金が可能かということについて、色々検討してみたが、技術的には可能だという結論に達した。
 どこかの銀行を説得して専用のプログラムを組んで貰えば、振り込みの名義と金額、累積金額をリアルタイムでインターネットにて公開することはそう難しくはないだろう。手数料さえ払えば、一括返還を銀行に頼むこともできるはずだ。

 募金の累積金額をリアルタイムでオープンにしておけば、横領のチェックにもなる。

 今回は、予算案決定までの時間が短かったことと、そもそも「はやぶさ2」が5億円で終わるプロジェクトでなかったことから、実施は断念した。

 しかし、官の予算が効率的に執行されていないのなら、宇宙開発を望む一般の人たちから宇宙開発の現場に、資金を流すパイパスを作ることを考えるべきなのかも知れない。国があてにならないなら、民が勝手に動けばいいだけの話なのかも知れない。

 「はやぶさ2」関連の話、まだまだ続きます。

 以前にも紹介したが、国家プロジェクトではなく、自分の研究の必要性からハワイに望遠鏡を建設した東京大学教授の記録。この「マグナム」望遠鏡の開発資金は6億円ほどだった、著者はその金額を捻出するために、想像を絶するほどの苦難を重ねている。
 おそらく「はやぶさ2」ならば、「マグナム」よりもはるかに容易に5億円を集めることができたろう。しかし5億円では「はやぶさ2」を作り、打ち上げることはできない。5億円ならば、5万人が一人1万円を支払えば集まる。だが、100億円となると、100万人がいなくてはならない。一昨年の「はやぶさ」のイトカワ着陸が、果たして100万人の日本人の心に届いたのかどうか。
 サイエンス・ライター氏なら「でも、音楽業界は100万人にアルバムを売ることをビジネスにしているわけですよ。宇宙にそれができないとしたら怠慢ですね」ぐらいは言いそうな気がする。こういう意見にどう答えていくか——考え、行動していかなくてはならない。未来が見たいのならば。

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宇宙開発」カテゴリの記事

Comments

 そう言えば細かい内容は失念しましたが、nifty時代に宇宙開発と宝くじを結びつけるアイデアを松浦さんは提案していませんでしたっけ?

Posted by: 林 譲治 | 2007.01.11 at 10:56 AM

その宝くじの1等がアセンブリ見学とか打ち上げ見学とかだったら、大量購入しそうです。

Posted by: みーや★ | 2007.01.11 at 11:21 AM

提唱された資金応援プロジェクトについて
yahooポイントとかECのポイントを使うことはいかがでしょうか?
返金(返ポイント?)とかもできますし、課税対象外です。(笑)(いまのところはですけどね・・・)

また募金の収支については会計士or税理士に見てもらい、証明を加えた方がいいでしょう。
(もちろんネット上公開も踏まえた上で)

外国の航空会社でマイレージポイントを援助に使うことを見たことがあります。

有価のものであれば現金化予算化ができます。

いかがでしょうか?

Posted by: DVDを見せたがる男 | 2007.01.11 at 12:41 PM

>yahooポイントとかECのポイント

他にも同様な事ができるシステムはありそうです。更に言えば返金ではなく決裁時期を調整することで返金不要にする方が決裁システムの選択肢が広がる気がします。いずれにしろ決裁システムから準備すると話が無駄に大きくなってしまうので既存のものを複数使えるようにする方がいいかも知れません。

...あるいは、プロジェクトを株式会社化して株を売るとか...。

Posted by: tarosuke | 2007.01.11 at 04:35 PM

「JAXA/ISASには反論のより所がない。」と書かれていますが、それに尽きると思います。
縦割りだのなんだのという組織内の問題をなんとかすべきなのに、それに蓋をして今度は民から予算を調達するなんて。そんなことじゃいつまで経っても、JAXAというは非効率で無駄づかいと呼ばれるんじゃないでしょうか。民ではそういう無駄を省いたりして、経営のやりくりをしているわけです。
きちんとした正当性と説得力で予算を確保する。そんなことは、組織的には極当たり前の話じゃないでしょうか。国民からみてJAXAは1000億の成果を出していると「認識されている」でしょうか。例え、本当は成果を出しているにしても、認識されてなかったら国(国民)から予算を取るなんて本来は無理な話なわけです。
結局、「国があてにならない」のではなくJAXAという組織があてにならないのでしょう。
私は未来は見たいですが、「やる気のない組織に見せてもらうのは無理だ」と思っています。

Posted by: JAXAには失望しきった者 | 2007.01.11 at 04:38 PM

それこそ、産官学連携プロジェクトの出番。
寄付金の額に応じて、サンプルを分配する。
一万以上一口。一万円で顕微鏡で見れる程度
一粒から。
これなら私は夢の為に10万でも20万でも投資します。
やりましょう! やって下さい ! 産官学連携プロジェクト
で松浦さん提案して下さい ! 本を出版して下さい ! !

Posted by: 486@part11 | 2007.01.11 at 04:43 PM

もう少し詳しく提案すると... サンプルが採れた場合、10μグラムなり、100μグラムなり、
もらえる"権利"を一口1万円で証券化して、REITのように公募売り出しして資金調達する。
権利を売り買い出来るし、もし、サンプルリターン失敗した場合の責任も有限。
サンプルの量によっても証券価値は変動。
サンプルではなくお金が欲しいひとは売ればいいし、
サンプルが欲しいひとはホールドし、権利を最終的に行使する。
サンプルの仕分けや純正である保証を付けるには更にコストがかかるでしょうが、
公募するのは"権利"なので、そこのところもクリアできる。どうでしょう。

Posted by: 486@part11 | 2007.01.11 at 05:33 PM

http://slashdot.jp/comments.pl?sid=342445&cid=1068691
REITでいいんじゃないですか。
でも、運輸省航海訓練所の帆船建造費は募金でした。
衛星だけならPFIで作れる筈
文科省ビルは今は仮ビル、立て替え中のもPFIの筈。
http://www.mlit.go.jp/gobuild/kasumi/map/04/tyousya/monka.htm
国庫債務負担行為とPFIとどちらが良いか?

Posted by: pongchang | 2007.01.11 at 07:50 PM

募金という活動ですが、JAXA自体もイベントなどで募金を募ってもいいんじゃないかと思います。グッズ販売は既にやっていますが、あれだけのイベントにタダで参加していますと募金箱があればお金を入れてしまいそうな気がします。

ロケットの模型の前に賽銭箱なんかを置くというのもいいかもしれません

Posted by: DRK | 2007.01.12 at 12:26 AM

#若干、話題と脱線していますが。
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サイエンス・ライター氏なら「でも、音楽業界は100万人にアルバムを売ることをビジネスにしているわけですよ。宇宙にそれができないとしたら怠慢ですね」ぐらいは言いそうな気がする。
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↑サイエンス・ライター氏が、こんな発言を本当になさらない事を祈ってます。。
もし、こんな言動が本当に出てきたら、ジャズミュージシャンで「はやぶさ」応援団長のあの方が悲しむんじゃないかな。。
#「あの方」とは、はやぶさファンならご存知の、組曲アルバムを製作された女性ミュージシャン殿のこと。


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こういう意見にどう答えていくか——考え、行動していかなくてはならない。未来が見たいのならば。
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数ヶ月~数年の時間がかかるかもしれないですけど、なんとかして、科学ファンの国民殿各位のご意見&ムードを盛り上げて行きたいですね。
#内之浦からM-V5号機がリストオフするのをニュースで見聞きして、その後五年間待ってあの快挙を「テラキンさん」のNETライブ配信で見た。私自身も、あのワクワクした快挙を近い将来もう一度見たいです。。


「宇宙宝くじ」いいですね。。。(^^)
>その宝くじの1等がアセンブリ見学とか打ち上>げ見学とかだったら、大量購入しそうです。

(たとえ種子島までの交通費自費だったとしても
、)私も大量購入しそうな気がする。(-ω-;;)


Posted by: てらぽん@藤沢 | 2007.01.12 at 12:55 AM

>松浦さんのやっていることは、企業が支援していたスポーツチームが潰れたときにみんなで嘆願署名を出そうとかってやってる人たちと50歩100歩でしかないような気がする

横浜フリューゲルスがそうして潰れた後、みんなで嘆願署名した果てに横浜FCが誕生。
その横浜FCは去年、めでたくJ1昇格を決めました。

50歩100歩? ありがたい。

はやぶさ2は飛びますよ。

Posted by: 浅利義遠 | 2007.01.14 at 11:30 PM

企業からお金を集める手段もあるのではないでしょうか?
例えばはやぶさ2の資料映像を使用するときには協賛メーカーのロゴを必ず表示するように義務づけるとか、CMに使用を認めるとか、特番を組んで盛り上げるとか。Supported by TOYOTAとかSupported by SONYとか。
企業としては単なる宣伝効果以上に先端技術で貢献しているというイメージ、フロンティアスピリットのイメージ、そういうものが付加価値として得られると思います。

一般からの集金としては、宝くじ大賛成です。
他にも月に願いをのようなPJの有償化とか、中止になったルナAのバラ売り(笑)とか。人は無理だとしても、「貴方のモノを宇宙へ送ります」とか。

Posted by: うらしまん | 2007.01.31 at 09:05 AM

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