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2007.01.11

「はやぶさ2」その4:成功と失敗を判断するメンタリティの相違

 「はやぶさ2」の支援を、と呼びかけてから、当然のことながら反対の意見ももらった。その中には無視できないものもあった。いくつかを紹介し、注釈を加えることにする。

 まず、「はやぶさがとにもかくにもあそこまで行ったのだからはやぶさ2を」というのは、あまりに長期的な計画不在の、出たとこ勝負の考えじゃないのか、という意見があった。小惑星探査はもっと長期的な計画に基づいて着実に実施すべきものであって、グランドデザインなしに、わんこそばを椀に放り込むように「次、次」と言っているようじゃダメじゃないか、ということだ。

 確かに政府の正式文書によるグランドデザインは存在しない。しかし、研究者レベルからボトムアップで組んだ小惑星探査に関する長期戦略なら存在する。2000年頃から小天体探査フォーラム(MEF)で議論したもので、現在は例えば以下のような形で概要が公開されている。

太陽系始原天体探査の将来像

 MEFの議論を踏まえた上で、現在はISAS内の正式組織である「小天体探査ワーキンググループ」で、探査構想の具体化が行われており、その一環として「はやぶさ2」が浮上してきたわけだ。

 ただし、それは国の文書に「このような具体的計画で探査を進める」という形で明記されるというところにまでは至っていない。おそらく今回の予算案の「次世代小惑星探査機」が初めてではないだろうか。

 少なくとも、研究者達は考えなしに、「はやぶさ」がうまくいったから反射神経的に「はやぶさ2」と考えているわけではない。


 もうひとつの意見は、より具体的で重い。

 主に旧NASDA関係の衛星の仕事に長年従事してきた人から出てくる意見で、「はやぶさの探査は、実際問題として失敗じゃないか」というものだ。
 彼らの感覚では、あれだけのトラブルを出したということは「はやぶさ」の設計が間違っている、ということになる。つまり、一昨年11月に「はやぶさ」が実施したイトカワへの降下を「設計上のミスから、トラブルの連続になった」と分析する。
 その観点からすると、いくら問題点を改善すると言っても、そんな「はやぶさ」の同型機を飛ばすということは、同じ失敗を繰り返すつもりだろうか、ということになる。
 本当ならば、今回の教訓を基に、きちんと資金を投入して根本から設計をやり直し、より確実性の高い次世代探査機をゼロから考え直すのが、国民に対する責務だろうというわけである。

 「はやぶさ」が正確には小惑星探査機ではなく、技術試験機であったことを思い出そう。「はやぶさ」が先行している以上、「はやぶさ2」は技術試験機ではあり得ないだろう。それはC型小惑星のサンプルを採取することを目的とした小惑星探査機だ。

 とするなら、「はやぶさ2」に「はやぶさ」のような綱渡り運用は許されない。すでに技術は確認できているから——ということになる。

 彼らは、打ち上げ機もどうせH-IIAになるだろうことだし、1t級のより大きな余裕を見込んだ探査機で次の目標に向かうべきとする。この場合、「はやぶさ2」を省いて「はやぶさマーク2」を実施することになる。

 この意見を聞いて思ったのは、旧NASDA系とISAS系の置かれてきた環境の違い、そして成功に対する感覚の違いだった。このような意見を出してくる旧NASDA系衛星に関係した人たちにとっての成功とは、はらはらする綱渡りやその場その場の工夫の連続ではなく、十分な余裕を持って予定通りにミッションが遂行されることなのだ。設計した通りの余裕が、事前の試験で確認できなければ、スケジュールを後ろにずらしていくことになる。

 一方、ISAS系の感覚だと、「そんな余裕があるぐらいなら、探査の成果が最大になるようにする」ということになる。実際、端から見ていてISAS系の衛星や探査機の基本ポリシーは、「最小予算から成果最大を狙う」であるように見える。
 彼らは、成果が見込めると判断したならば、無茶に思えるスケジュールだって組むし連日の徹夜だってやる。旧NASDA系なら「そんなことをしたら成功率が下がる/安全が見込めない。もっと予算と時間をかけないといけない」と考えるところも「こうやって工夫すれば大丈夫」と頭をひねって突破してしまう。

 NASDA系の衛星を主に担当してきた技術者が、ISAS衛星を「危ない」と感じる裏返しで、ISAS側はNASDA衛星を「高い」と感じる。私は「我々なら彼らの衛星を1/3のコストで作りますよ」というのを聞いたことがある。

 この「安い」ということは、実のところJAXAの存在理由にも関わるかなり重大な問題につながっているのだが、この件はまた記事を改めて書くことにする。
 
 それが良いとか悪いとかではないことには注意してもらいたい。とにかく違うのだ。
 私には、良くも悪くもISAS系はそのメンタリティが「研究者」であり、旧NASDA系は「サラリーマン/ビジネスマン」であるように思える。

 私としては、そんなISASの研究者達が「はやぶさ」で経験を積んだ以上、「はやぶさ2」の失敗はない、と踏んでいる。ただし、この論理は、旧NASDA系には受け入れがたいかも知れない。

 実際のところ、安全が見込めないから延期という論理だと、探査自体が時機を失する可能性もある。科学の世界はいつまでも実験を延期してもその価値が失われないというような世界ではない。科学探査は、宇宙開発委員会の評価部会あたりの公文書に「上記を持って計画は成功したものと判断される」と記載しておしまい、というわけにはいかない(過去の旧NASDAミッションには、けっこうこのパターンで終わったものがあった)。

 旧NASDA系にも優れた技術者はたくさんいて、ISASと違うのはメンタリティだけだ。その意味で、私としては「はやぶさ2」を通じて、相互不信が解消され、真の組織統合が進むことを望んでいる。
 統合された結果が、視野を広く持ち、挑戦を恐れないアグレッシブな組織となることを希望している。

 しかしながら、真の統合を望むというような精神論だけでは済まない現実も存在する。

 まだ書きたいことはあるので、「はやぶさ2」関連の話題をもう少し続けることにする。

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Comments

>連日の徹夜だってやる
「ヒューマンエラーの元」と、そこまで遡る事柄かもしれませんね。安全管理から考えれば。
組織の違い、原研と電力会社、大学の研究炉で、松浦氏の今回触れたISASとJAXAのような違いが見いだされたら、周囲はそう楽観できないかもしれないです。
MHIのタービン以外に労災の事例は…脳出血?

Posted by: pongchang | 2007.01.12 05:30 AM

>成功に対する感覚の違い
コンビニの弁当の話を思い出します。
有名な話ですが、コンビニの弁当は常にある程度売れ残るように仕入れているそうです。もし弁当が全部売れてしまったのなら、もう少し余分に仕入れればもっと売り上げが上がったのかもしれない。反対に、売れ残っても損失は仕入原価だけで済む。だから、利益を最大にするには少し売れ残るように仕入れるわけです。

これを旧ISASに当てはめるならば、誰が見ても100%の成功を納めた衛星はマージンがありすぎるということになるのでしょう。もしマージンを削ってセンサをもう一つ余分に搭載すればもっと大きな成果が得られたのかもしれない。費用対成果を最大にするには、少しだけ故障するレベルにマージンを設定するわけです。
衛星ビジネスの常識からは考えられないことかもしれませんが。

はて?コンビニはビジネスでそういうことをやっているのですよね?

Posted by: subrosa | 2007.01.12 12:43 PM

後の記事のコメントと重複しますが、あえて。

「はやぶさ2」をH-IIAで打ち上げると決めるだけで、リアクションホイールのトラブル原因は排除できるでしょうし、重量増も許されるので他のトラブルの原因と成りえた部分の強化もできるのではないかと私は考えます。
それが結果的に「はやぶさマーク2」になったとしても構わないのではないでしょうか?

もし、そこに欲張って追加の観測機器を積み、さらにそのために他の部分の軽量化を図るようではISAS魂は間違っていると言われてもしょうがないでしょう。

それから徹夜の件ですが、何十億のプロジェクトにおいては非難されてもしょうがないことだと思います。まるで現場の熱意を象徴する美談として考えていらっしゃる方もいるようですが、”根性論”と同じで意味のないことです。

みなさんご存知の通り、NASAがアポロ計画を実施した際に、それを成功させるための枠組みとしてシステム工学という学問が産まれました。大きなシステムやプロジェクトを手がけるためのノウハウ集とでも言えるもので、私も大学で学びました。
そこには、個々人の根性や熱意は不確定要因として排除する論理性が貫かれています。
全てにおいてマニュアルを整備し、その通りに実施すれば計画通りの成功率が得られる。問題が生じた場合は責任より先に技術的問題を解決しマニュアルとその運用方法にフィードバックをする。そしてそれぞれのリスクを正しく評価し、それをコントロールする。
そういう根本的な体制作りができなければ、日本の宇宙開発は「はやぶさ」のような玉虫色の結果ばかりが続くものになってしまうのではないでしょうか?

いまの日本の宇宙開発に必要なのは、熱意や思い入れ、まして縄張り意識ではなく論理性だと私は考えています。

Posted by: kzmakino | 2007.01.14 01:39 AM

I want to quote your post in my blog. It can? And you et an account on Twitter?

Posted by: dokuchaev | 2009.12.26 12:12 PM

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