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2007.04.24

明日帰還開始宣言、ますます状況は厳しく

Kawaguchikuninaka

 本日午後4時30分から、「はやぶさ」帰還に向けた記者会見がJAXA東京事務所で開催されました。

 出席は川口淳一郎教授(プロジェクト・マネージャー)、國中均教授(イオンエンジン担当)、吉川真助教授(プロジェクト・サイエンティスト)。

 まず川口プロマネから現状説明。

・明日午後17時に帰還開始を宣言する。
・本日16時30分をもって「はやぶさ」の取得データの公開を開始。


 状況はますます厳しくなっています。イオンエンジンはついに1台のみの運転となりました。


國中教授からイオンエンジンのステータス説明

・2月22日~3月2日:イオンエンジン加速を用いた姿勢維持の試験開始
・3月3日~9日:JPLの支援を受けつつ精密な軌道決定
・3月12日~16日:イオンエンジン2台による連続イオン加速を実施(試験運転、可視時間のみの運転)
・3月28日以降:微調整を行いながら、イオンエンジン2台による連続イオン加速(調整を加えつつ、24時間運転。ただし土日は停止、4月に入り連続24時間運転へ)
・4月20日:イオンエンジンBスラスタの中和電圧が上昇したために、Bスラスタを停止。Dスラスタのみの加速に切り替えた。

スラスタの運用状況。

 Bスラスタは9600時間の運転に達しており、一部性能低下が見られる。また、はやぶさが近日点通過することによる温度上昇で、動作不安定が起きている。
 AとCスラスタは動作特性が安定していない。

 帰還はDスラスター1台で当面加速する。

各スラスターの運転履歴。

A:待機、このエンジンはチューニングが悪かったらしく最初から性能が安定しなかった。
B:9600時間
C:6500時間
D:11100時間

各スラスターの設計寿命は、14000時間。

 発表資料のグラフを使った説明。

 当初予定は、太陽から近い位置ではホイールを回転させてイオンスラスター2台を運転、太陽から離れたらホイールを止めてイオンエンジン1台を運転することにしていた。しかし、イオンエンジンBの動作不安定により、常時ホイール回転でエンジン1台による帰還運用を実施することを決断した。


 吉川助教授より、観測データ公開の説明。

 「はやぶさ」に搭載した4つのセンサーの全データを公開する。

 データは自由公開。登録もパスワードも不要。ただし研究者用公開なのですべて英語で書かれている。その主旨は全世界の研究者に公開するということ。

 今回の公開データはレベル1(もっとも生に近いデータ)を公開する。一部についてはキャリブレーションを加えたもの(レベル2)データも公開する。レベル2データは今後アップしていく。
 イトカワの形状モデルはより高次の処理を施したデータだが、要望が多いので公開した。

 データに必須のいつどんな条件で取得したかなどのドキュメンテーションの整備は、遅れている。まだ十分ではない。
 公開画像には撮影に失敗した画像もすべて入っている。

 川口から補足。

「正確には『帰還できないわけではない』というのが現状。正常運転が可能なイオンエンジンはDのみ。これから数千時間を運転しなくてはならないので、設計寿命は完全に超えてしまう。

 また、ターゲットマーカーが写っているようなデータは今回の公開には入っていない。あの画像は探査機運用用のデータなので、今回公開の対象に入っていない。今後科学分析に使えるようにデータを整理してから公開したいと思うが、まだそこまで手が及んでない。」

以下は質疑応答

時事通信:ホイール回転とどのイオンエンジンを使うかで、有利不利が生じるか。

國中:Dエンジンとホイールの組み合わせは、そう悪くはないと考えている。ロール軸周りのトルクが発生しにくい位置関係だ

共同通信:中和器の電圧は何を示すものか。

國中:イオン流の電流だけ同じだけ電子を出すというもの。その電圧が上がっているということは電子が出にくくなっているということを意味する。機能としては100Vまで出すように作ってあるが、電圧が上がると寿命が短くなる。設計上は50Vを目安に作ってあるので、このままではエンジンの寿命が短くなると判断して停止した。2台を同時運転するとエンジン温度が上がり、寿命に影響する。
 また、はやぶさは2台のイオンエンジンを別個に推力スロットリングする設計にはなっていない。したがってBとDを最適なスロットリングで同時運転することはできない。1台づつならば、それぞれのエンジンに最適な運転条件で運転することができる。

朝日新聞:Dスラスターのみで帰還は可能なのか。またAとCを運転する可能性はあるか。

國中:現在は1台のみの運転で帰還できる軌道が存在するということ。地上試験では2万時間までの動作試験をしているが、Dのみ動作で2万時間以内で軌道設計をするのは難しい。ただし、2万時間以上は地上でも実証していないので、それ以上動くこともありうる。

川口:プロマネとしてはもっと押さえた言い方をしなければならない。スラスターについては1万4000時間で設計しても1万時間以下で調子が悪くなる個体が出てきている。だから、1万4000時間から2万時間はエキストラだと思っている。エキストラがなければかえってこれない。ホイールは壊れるかも知れませんね。3台のうち2台は壊れているわけだから。

 帰還時期は変化するのか。ホイールの回転数を下げると聞いているが、Z軸のホイールなしの地球帰還もありうるか。

國中:現状ホイールは3500rpmで回している。通常は4000ぐらい。往路3つが生きていた時は2000ぐらいで使っていた。今後1800ぐらいまでホイールの回転は徐々に下げていく予定。イオンエンジン1台になったので、外乱も小さくなりますから。

川口:今日の会見は「こんなに困っています」という報告の会見です。それが私の主旨です。「これから出帆するぞ」ではないです。

朝日新聞 信号でいえば黄色と赤とどっちが近いか。

川口:定量的には難しいです。イオンエンジンがだめになっても、ホイールがだめになっても、帰還は難しいです。四月上旬の段階では心配はホイールだけですから、心配事は増えています。「帰還できないと決まったわけではない」ということ。

時事通信 地表に近接した時の画像はどこまで得られていますか。

吉川:現在、公開データには距離の情報がまだ入っていません。タッチダウン前後の画像は約60m前後で撮影しています。現在写真ヘッダに補足情報を入れる作業をしている。

フリーランス・喜多:積み木を積んで抜いていくゲームがありますが、それにたとえれば、あといくつのピースを抜くことができるでしょうか。

國中:難しい質問ですが、2010年の帰還チャンスを逃すと次は2013年にしかかえってこれません。延びると機械が非常に厳しくなります。あと2、3個ピースを抜かれるともう無理だと思います。本来僕らは、探査機を一本もピースを抜けないように作っているのですが、それがこうなっています。ともかくここまでがんばっているので。がんばります。


フリーランス・青木:今までと違う特徴的な画像がリリースに出ていますけれど、解説をお願いします。
 以下リリース参照。

吉川:5番の写真はミューゼスの海の近くの荒い地形のコマバ・クレーターの一部です。6番はその一部の拡大で、先だっての東大の宮本先生の論文発表に関係する部分です。7番はペンシルボールダーというごつごつした地域の地図です。


松浦:2010年の帰還までに累積でどれほどイオンエンジンを運転する必要があるのか。

川口:残り時間3年。そのうち1/3、つまり8000時間から1万時間はイオンエンジンを運転しなくてはならない。これは1台運転の場合だ。調子の悪いエンジンを運転することで累積の運転時間を稼ぐこともあり得る。

國中:調子の悪いエンジンは1000時間ぐらいしか運転できないかも。逆に言えばそれだけ累積運転時間を稼げる可能性はある。それも含めていくつかの策を現在考えている。


 記者会見終了後のぶらさがり取材にて。

川口「明日の帰還宣言といっても何かが変わるわけじゃないですよ。船が赤道を超えるのと同じ。今だって(はやぶさは)加速しているわけだし。これはマスコミの人たちが『区切りをつけてください』というから、やるわけですよ」

川口「ぼくは、決して楽観できないと考えている。『帰還できないわけじゃない』。(國中教授の方を見て)この人はそうは思っていないみたいだけれども」
國中「川口先生はこう言っていますけれど、僕としてはまだ打つ手がいくつか残っていると考えています」


以上です。

 写真は、川口プロマネ(左)と、國中教授(右)

23:13記 文章の乱れを直しました。

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Comments

前にロケットまつりを見に行ったときには
なぁ~んだ、意外と帰ってこれるかもと楽観的になりましたが
このエントリを見て(冷たい方の)現実に引き戻された感じがします
現場の方は「プロジェクトの成功・失敗」でなく
「目の前の物をとにかく動かす」という意識での発言だからかもしれませんが・・・
それでも一時は動かすことも出来なかったわけですから
この帰還、という状態に引き戻した関係者の血の努力には心揺さぶられる思いがします

Posted by: STC | 2007.04.24 at 10:41 PM

明日、仕事帰りに馴染みの神社に参拝して女神様に祈ってきます。
天から降ったという伝説のある大岩をご神体としているところですので。

Posted by: 空天 | 2007.04.24 at 11:06 PM

Translation of this entry is ready here through the courtesy of Shin-ya Matsuura:
http://jspace.misshie.jp/index.php?LbyD%2F20070424

というわけで,松浦さんのご厚意で,JSpaceにてこのエントリー翻訳を行いました。翻訳開始直後から,掲載ページのアクセス数がぐいぐいと上昇しまして,彼女(はやぶさ)帰りを待つ世界の人々の想いを実感しました。ひきつづき,JSpaceでは,みなさまのご参加(翻訳や,校正)をおまちしております。Wikiですので,気兼ねなく,がんがん編集して下さい!

Posted by: Hiroyuki Mishima | 2007.05.03 at 07:23 AM

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