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2007.09.16

「かぐや」順調に飛行中

 種子島から帰着した。「初音ミク」はまだ届いていない。よほどの人気らしい。

 「かぐや」は順調だ。軌道修正マニューバーも成功し、とりあえず安定した状態に入った。今後は搭載機器の立ち上げとチェックを行い、10月4日の月周回軌道投入に備える。

 正直、かぐやに付いては色々と不安要素が多く、ずいぶんと心配していた。一部はnikkeibp.netの記事に書いたが、以下まとめておく。

 まず、探査機の構成だ。

 いくら予算を取る機会が限られており、打ち上げにH-IIAを使うからといって、いきなりセンサー満載の3トン級巨大探査機を開発して大丈夫なのか。

 失敗の前例もある。地球観測衛星「みどり」「みどり2」は、観測上の要請ではなく、「H-IIロケットで打ち上げる」という、洋服に体を合わせるような理由から3〜4トンの巨大衛星として企画され、その複雑さが一つの原因となって(それだけが原因ではないが)、軌道上で1年を経ずして壊れてしまった。

 さらに、運用に使う臼田局の老朽化がある。

 1985年に作られた臼田局の設備は老朽化しており、ぽつぽつ故障が起き始めている。設備更新の予算は支出されず、臼田局を利用する探査機の開発予算の中から、臼田局設備の修理維持経費を捻出しているのが現状だ。

 もしも月周回軌道投入というようなクリティカルな局面で地上局側がトラブルを出したら、取り返しのつかないことになるのではないか。

 そして、旧NASDA/ISASの計画管理や運用手法の違いによる、運用チーム内の軋轢がある。

 色々な反目の噂も聞いたし、「あれがうまくいっていない」「この分野の責任者が誰だか分からない」「会議に出てくるべき人が出てこない」というような話も頻出していた。

 今年春に、相模原に月・惑星探査推進グループ(JSPEC)が設立された。月探査の嚆矢となる「かぐや」も、筋から言えばJSPECの管轄になるはずだが、そうはならなかった。どうやら背景にはJSPEC対筑波宇宙センターの一部という対立関係があるらしい。

 宇宙開発委員会では、計画部会に月探査ワーキンググループができて、将来の月探査について議論を始めた。探査機が上がる、それも当初スケジュールからするとさんざん遅れて上がる、という時になってやっとこさ長期計画を議論するというのはいったいどういうことか。アメリカの有人月探査構想にせっつかれないと、そもそも議論すらできないのか。

 そしてまた、JSPEC(「月・惑星探査推進グループ」と、名前に「惑星探査」が入っている)と、「月探査ワーキンググループ」(有人も含め月探査のみ)という名前の齟齬はいったい何なのか。「惑星探査の予算を削ってアメリカ主導の有人月探査に振り向ける」ということなのか。

 とにかく「かぐや」に関しては、不安要素が多かった。それらの多くはまだ解決していない。

 だが、実際に探査機が宇宙に上がり、動き始めると雰囲気は変わる。順調に行っていればなおさらだ。政策も予算処置も、国民の雰囲気がけっこう影響するものである。今後の「かぐや」の働き如何では、色々膠着していた事態が一気に動くことになるかも知れない。

 本当にうまくいって欲しいと思う。


 以下はおまけ。

 日本経済新聞の春秋(9月14日付け)

▼専門家によれば「月の誕生の論争に終止符を打てるかもしれない」し、これから中国、インド、米国が相次いで月へ人工衛星を打ち上げるので国威発揚の意味も少なからずあるらしい。そう聞かされてもなお、文筆家の山本夏彦さんが昔、発した警句「何用あって月世界へ」の方に共感する人は多いのではないか。

▼巨額の国費を費やす宇宙開発なら、月を研究するより、宇宙から、温暖化に悩む地球を調べたり日本の安全を保つのに必要な情報を集める技術を磨くのが先。そんな考えもある。税金の使い道に優先順位をつけるのは政治の仕事だ。混乱を早く収め、天人にさげすまれない国にする本来の仕事に取り組まなくては。

 筆者は論説委員の誰だろうか。

 なにやら航空宇宙工業会と同調したことを書いているが、おそらく情報収集衛星の実態や、防災衛星計画の現状をきちんと調べることをしないままに「温暖化に悩む地球を調べたり日本の安全を保つのに必要な情報を集める技術を磨くのが先。」などと書いているのだと思う。
 実情を知っていたらこんなことは書けないはずだから。

 確かに、「月探査よりも、温暖化の実態調査や、安全保障が先」というのは耳に入りやすい議論だ。

 だが、1998年から始まった情報収集衛星計画はこれまでに累積で5050億円を消費し、今もコンスタントに年間500億円あまりを使い続けている。毎年「かぐや」1機並の予算を着実に消費しているわけだ。
 なおかつ最初の光学衛星は公称解像度を達成できず、しかも何に使っているかは機密の壁の向こうである。

 JAXAが次の中期計画の目玉に使用としてる防災衛星構想は、現状では、性能を達成できなかった情報収集衛星ほぼそのままの衛星を4機体制で打ち上げるという構想になっている。
 一応、日本全体を3時間間隔で監視するという計画だが、このあたりにも書いた通り「本当に役に立つシステム」というよりも、「業界を食わせるための巨大計画」となってしまっている印象が強い。
 衛星で何をどう撮影し、それをどのようなユーザーに伝えるのか、伝えるにあたってどのような仕組みを使うのか、データは何の役に立つのか、最終的に衛星データがあることで、どんな場合のどんな生命財産を保全することができるのか——防災衛星に関しては、どうも議論がきちんとされていない印象が強い。

 その現状で、「日本の安全を保つのに必要な情報を集める技術を磨くのが先。」と言い切ってしまえるというのは…やはり筆者の論説委員が、きちんと取材せずに印象だけで書いているからだろう。

 日経は9月16日の社説「夢より成果が問われる月探査」では、わりとまともなことを書いているのだけれども(それでも、探査は大型になればいいというものでもない、ということには思い至っていないようではある)。

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Comments

 統合のあおりで停滞している旧ISAS系科学衛星に比べると、「かぐや」は数倍の規模の贅沢なミッションですので、思うところはいろいろありますが、成果を上げて成功してもらいたいものです。
 巨額の費用をかけた情報収集衛星の不透明さは噴飯ものです。費用が正当化できるかどうか以前に、本当に役立っているのかすらわかりません。

Posted by: nq | 2007.09.17 11:51 AM

nqさま

偵察衛星からの解析技術などノウハウをNROから教えてもらえないのだと思います。

「自分でやるのなら、自分で何とかしな!」

と親方から言われてる、独立を言い出した奉公人を思い出してしまいます。
(ど根性モノの料亭系ドラマのシーンですね)

Posted by: DVDを見せたがる男 | 2007.09.17 05:24 PM

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