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2007.10.31

便利だよ、A-Bike

Longbow
Type90


 以前書いたA-Bikeに関する記事は、かなり注目を集めているようで、今でも一日10件程度は、A-Bikeで検索した方が、当blogにやってくる。

 ちと高いが、国内代理店の大作商事からの販売も始まり、それなりに注目を集めるようになったからだろう。

 私はといえば、便利にA-Bikeを使っている。ちょっと出かけるのにも使うし、東京まで持ち出して走るのもなかなか楽しい。5kg台という軽量設計と、駅でごく短時間に折りたたむことができるというのは、大変大きなメリットであると痛感している。

 が、実のところ、A-Bikeで一番便利さを感じたのは、自動車でイベントに出かける際だった。

 大きなイベントでは駐車場が会場から離れている場合が多い。そこで、会場近くで同行者を降ろし、ドライバーのみが駐車場に車を回してから、A-Bikeで会場に駆けつけるという手法を試してみたところ、これがなかなか便利だったのだ。

 一番便利に思ったのは、8月に富士の演習場で行われる、陸上自衛隊の総合火力演習を見学に行った時だった。総合火力演習では抽選で駐車場を確保できるが、これが見学場所からかなり離れている。
 この時は知人の自動車に乗せて貰って会場入りしたのだけれど、A-Bikeも持っていき、ドライバーは駐車場からA-Bikeで見学場所入りした。

 小さく畳めるので、ごったがえす見学場所でも邪魔にならない。他の折り畳み自転車なら、「どけろ」とクレームが来ただろう。

「いやあ、歩くより全然楽でしたよ」とは、ドライバー氏の言だったが、真の威力は、帰りに発揮されたのだった。

 演習終了後、集まった見学者が一斉に帰宅することになる。通常ならば、駐車場まで歩いて、自分の車に乗るわけだが、それだと他の人たちと同じタイミングで駐車場から出ることになる。演習場近辺の道は決して広くない。渋滞するのだ。

 ところが、ドライバーだけ先にA-Bikeで先行していると、道が空いているうちに駐車場をでることが可能になる。そのまま見学場所まで自動車を回して、全員をピックアップ、渋滞にぶつからずに帰ることができた。

 A-Bikeのおかげで、今年の総合火力演習はとても楽だった。

 実際問題としてA-Bikeは軽くて小さく畳めるので、自動車にいつも常備しておくという使い方もありだと思う。ただし、その場合もタイヤの空気圧には注意する必要があるだろう。6インチの小さなタイヤは、空気が抜けやすい。

 このように、便利に使っているA-Bikeだが、トラブルもあった。次回はそのことを書こう。

 写真は総合火力演習の様子。



楽天でA-Bikeを捜してみると、5万8800円〜4万2000円で買えるようだ

 おそらく5万8800円というのは、大作商事を通して入ってきた正規輸入品で、4万円台のものは並行輸入品だろう。モノとしては同じなので、大作商事を通すことで2万円ほど値段が上がっているということである。

 後で書くが、並行輸入品はパーツの入手が若干面倒になる。消耗品や破損部品などの入手を考えると、正規輸入品のほうが安心ではある。

 が、この手の輸入代理店がどこまで責任を持ってくれるかと言えば、これまた分からないところだ。売るだけ売って、扱いをやめてしまう例もある。

 なお、「A-Bikeタイプ」「A-Ride」などの名前で売っている1万円台のニセモノは、間違っても買ってはいけない。自分で分解してみて分かったが、A-Bikeは本当にぎりぎりの設計をしている。材質粗悪なニセモノは、耐久性に劣ることは確実だ。

 乗車時に壊れれば、場合によっては命に関わることだってありうる。命が惜しければ、本物を買うこと。

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2007.10.30

踊れ、買うたやめた音頭

 「買うたやめた音頭」というのは、そろそろ20年近く昔、模型雑誌「モデルグラフィックス」に寄稿していた松本州平さんというモデラーが言い出した言葉だ。

 模型店の店頭で、プラモデルを手に取り、ためらいつつもレジに歩き出し、そこで思い直して棚に置き直し、歩き出そうとしてまた思い直してプラモデルを手にとって、以下繰り返す——「買おうか、買うまいか」を迷うと、よくやってしまう仕草だが、それが踊っているようだということで、「買うたやめた音頭」と命名されたわけである・

 「あるある、俺もやったよ」と共感を呼び、一部マニアでは今でも使われている言葉である。一時期プラモデルを買い集めていた頃、私もよく踊ったものだ、買うたやめた音頭を。

 最近だとネット通販だな。ここでぽちっとするか、やめとくべきか。カーソルがあっちいきこっちいき、ああ〜どうしようどうしようと、自分の代わりにディスプレイ上で踊るのである。

 というわけで、以下は最近私が踊っているアイテム。

 宮崎監督がすべてを仕切って全力投球した唯一のテレビシリーズ。というよりも、考えようによっては宮崎駿の最高傑作であり、関係者が「コナンはどこを切っても宮崎さん」という作品である。当時37歳の宮崎監督のリビドー全開。大塚康生作画のラナを「ブスだ」「大塚さんは自分の奥さんに似ちゃうんだよな」といって自分で全部直したというのだから気合いが入っている。

 以前5万円近い値段で出ていたものが、この値段で復活だ。うわ、これは買わねば。

 だが私はレーザーディスクで出ていた全話セットを今なお持ち続けているのである。しかもレーザーディスクプレーヤーも現役だ。

 さあ、どうするどうする。ハァ〜買うたやめた買うたやめた買うたやめた…

 「未来少年コナン」は色々と思い出深いアニメだ。NHKのテレビアニメ第一作というのもびっくりだが、それが「アルプスの少女ハイジ」を思わせる絵柄のSFというのは二度びっくりだった。放映当時私は高校2年生で、合唱部の部活から帰ってきて晩ご飯を食べていると、池辺晋一郎の「じゃじゃじゃじょわーん」という音楽と共にコナンが始まるのであった。

 記憶に頼って書いてしまうと、確か池辺晋一郎のテレビ劇伴第一作だったはず。ミトラという、マリンバの共鳴筒に紙を貼ってびびり音を加えた珍しい楽器が使われている。

 当時は、高校生ともなればテレビマンガ(アニメじゃないよ)を見るのは幼稚ではずかしいという感覚があった。それがコナンで一気に引き戻されたのである。確か同時期に「機動戦士ガンダム」も放送していて、マン研の友人が「シャアだ、やっぱりシャアだよ」と騒ぎだしたのも覚えている。

 そんなに面白いのかよ、と最初に見たのが、サイド6からホワイトベースが出港して、テレビ中継による衆人環視の中でガンダムがドム6機をまとめてたたき落とす回だったなあ。




 これまた、よく残っていたものだよな、の日本語吹き替えトラックが付いた「モンティ・パイソン」。とかなんとかいっちゃったりして〜ぇ、つーんつん。

 英語で見るモンティパイソンは、ひねたロジックやあてこすりを楽しむクールな番組だが、日本語吹き替えは、広川太一郎以下の声優の狂ったような怪演で、まったく印象が異なるものになっていた。

 日本でも「シャボン玉ホリデー」から「ゲバゲバ90分」ぐらいまでは、この手の「笑えないお前はバカだ」的挑発をするバラエティがあったのだが、多分変化が起きたのは「8時だよ!全員集合」あたりからだろう。

 それでもドリフターズは演芸コントの流れを受けて緻密に笑いを設計していくというスタイルだったが、「俺たちひょうきん族」以降は、そもそも笑いを設計するという概念が消えていく。

 個人的に決定的だったのは、とんねるずの登場で、私はとんねるずをまったく評価しない。当時からどこが面白いのかまったく理解できなかった。

 昔は良かった的な物言いは、記憶に美化作用がある以上、厳しく慎まねばならないが、私は今のテレビのバラエティに一切観る価値を見いだせない。そもそも、最近は地上波テレビを観ることもまれだ。

 で、日本語版モンティ・パイソン、買うべきか。ハァ〜買うたやめた買うたやめた買うたやめた…




 最近気になっている作曲家アラン・ペッテション(1911〜1980)の交響曲全集。たまたま聞いたウェブラジオで、彼の交響曲7番をやっていて、度肝を抜かれた。「うわ、ショスタコーヴィチよりもど真っ暗な音楽がある!」。

 交響曲を、「その作曲家の人生のすべてを突っ込んだ大規模管弦楽曲」と広く定義するなら、まさにペッテションの交響曲は、交響曲の王道を行く。どの曲も1時間、さらにはそれ以上の演奏時間であり、ダイナミックな音響に溢れている。

 が、それ以上に彼の交響曲を特色付けるのは、全編を貫く、絶望と呪詛だ。

 実際、彼の人生行路は安泰とはほど遠いもので、絶望につぐ絶望だったようだ。ところが彼は絶望をパワーにして、真っ暗な交響曲を次々に書いたのである。いくつか聴いた曲は、そのどれもが漆黒の闇すら、極め、貫通すれば輝き出すといった風情を湛えている。

 20世紀音楽で、「交響曲は死んだ」と言うことが良く言われる。現代の表現に、交響曲という形式は似合わないというわけだ。確か作曲家の諸井誠は、交響曲の終着点を、オリヴィエ・メシアンの「トゥーランガリラ交響曲」とショスタコーヴィチの「交響曲14番・死者の歌」としていたな。

 ところがどっこい、色々なところに交響曲はしぶとく生きているのですな。それどころか、その暗さにおいてショスタコーヴィチをもしのぐような作品が生まれていたわけだ。

 そんなど真っ暗などれも1時間超の交響曲を集めた全集を、さあ、果たして精神のバランスを保ったまま聴き通すことができるかどうか。そもそも、これを買う前にもっと買うべきCDがあるのではないか。

 ハァ〜買うたやめた買うたやめた買うたやめた…


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2007.10.27

「NASAを築いた人と技術 巨大システム開発の技術文化」

 「NASAを築いた人と技術」(佐藤靖著、東京大学出版会)を読み終えた。NASAのパートはだいぶ前に読んでいたのだけれども、最後の日本の歴史を書いた章をしばらく放置していた次第。

 これは宇宙開発の歴史をきちんとまとめた、大変に意味のある本だ。歴史学の手法と資料評価の視点をもって、いままであまり知られることがなかったアポロ計画を初めとしたアメリカの宇宙計画の内幕を描いている。

 アポロ計画はあれほどまでに巨大でセンセーショナルであったが、誰が計画をどのように主導したか、意外なぐらいに知られていない。一番有名なのはフォン・ブラウンだが、彼はマーシャル宇宙飛行センターに集まった技術者を率いて、サターンVロケットの開発をまとめ上げたのであり、アポロ宇宙船や月着陸船には関与していない。
 映画「ライトスタッフ」以降、各宇宙飛行士には光があたるようにもなり、少しマニアックに宇宙関係を調べている人ならば、宇宙飛行士の選抜に当たったオリジナル・セブンのひとりであるディーク・スレイトンあたりを手がかりに、2代目NASA長官のジェイムズ・ウェッブや飛行運用本部長のクリス・クラフトといった人名にたどり着いているだろう。

 では、誰がどんなことをして、それが組織的にどんな意味があって、アポロ計画が進行したのか。本書はその疑問に答えてくれる。

 特に、組織文化についてはかなりの紙幅を費やしており、NASAの各セクションの組織文化が、アポロ計画の基本構想やハードウエア、ソフトウエアの構成にどんな影響を与えたかを、順を追ってきちんとまとめてある。
 日本から見ていると一枚岩に見えるNASAという組織が、各フィールドセンターごとに大きく異なる組織文化を持っているということ、さらにマニュアル第一主義に思われがちなアメリカの組織が、意外なぐらいに属人的な要素を抱えていることなど、興味深い知見が一杯に詰め込まれている。

 第5章では、日本の宇宙科学研究所と宇宙開発事業団の組織文化について、考察を行っている。特に宇宙研の属人的文化への考察はかなり納得できる。

 高価だがそれだけの価値がある本だ。宇宙開発に興味があるなら必読。できれば手元に置いておくべきであろう。

 著者の佐藤さんは、この本を、NASAのヒストリーアーカイブを駆使することで書き上げたそうだ。
 次の目標は日本の宇宙開発に関してこのような著作をまとめることなのだそうだが、NASAがきちんとヒストリアンをおいて、自らの歴史の一次資料を収拾し、保存しているのに対して、日本はそのような組織体制がないので難しいと言っていた。

 是非とも日本の宇宙開発についても、この本のような歴史学的にきちんとした手法と視点をもった本を書いてもらいたいと思う。過去をきちんとまとめておかないと同じ間違いを犯す可能性が増える。日本の宇宙開発が、間違いを繰り返さずに進むために、佐藤さんのような仕事はとても重要だ。

 ずっと以前のことだが、某霞が関OBから「君の仕事は稗史(はいし)だね」と言われたことがある。

 稗史——辞書を引くと「民間の言い伝え。小説風に書いた歴史書。また、正史に対して、民間の歴史書。」と出てくる。古代中国に、民間の人々から聞き取りを行って文書にまとめる稗官という役職があった。彼らが民間の側から綴った歴史が稗史である。
 稗史には対立概念として「正史」という言葉がある。国家が編纂する正式の歴史という意味だ。

 これらは相互に補う概念である。正史と稗史の両方なくして歴史は把握できない。と、同時に正史から稗史への差別感覚も存在する。

 その霞が関OBは、「日本ロケット物語」(大澤弘之監修、誠文堂新光社)が正史であるという感覚でいた。元科学技術庁事務次官で宇宙開発事業団の理事長をも務めた大澤氏のまとめたものだから正史というわけだ。

 ところが、「日本ロケット物語」は、以前三田出版会から出ていた版と現行の誠文堂新光社版には内容的な差がある。この件について、私はNASDAのOBから「●●さんが、色々書き直してしまってかえって事実から離れてしまった」ということも聞いている。要は、執筆者内にも異なる思惑があったということだろう。

 私が書くものが稗史であることに異論はない。むしろ積極的にそうありたいと思う。ただし「日本ロケット物語」が正史というのには異論がある。貴重な資料であることは間違いないが、関係者が自分に都合良く書く可能性を考えると正史と呼ぶのはためらわれる。

 佐藤さんのように、歴史学の手法を身につけた者がまとめる歴史こそが、正史であろう。

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2007.10.25

広告メールに感謝します

 一昨日から当blogへのアクセスが急に伸びた。最近は毎日3000〜4000程度のアクセスがあるのだが、一昨日は午後11時以降、突如として3000アクセス、昨日は一日で9000超のアクセスがあった。

 一体なぜ急にこんなにアクセスが集まったのか。
 ログを調べてみると、その多くは流石メールという広告メール配信サイト経由で、はやぶさ2に向けて、最後のお願いに来ていた。

 2ちゃんねるのはやぶさスレに、真相を書いてくれた人がいた。どなたかは分からないが、「はやぶさ2実現のため応援を望む」という私の記事のリンク付きの広告メールを打った方がいたのだ。

 おそらくは自腹を切って、広告メールを打ったのだろう。どなたかは分からないが、その行いに深く感謝したい。どうもありがとうございます。

 「はやぶさ2」構想がこの先どうなるか、まだ不透明だ。しかし、今回の広告メールは「はやぶさ」とその先にあるミッションが、これほどまでに国民に親しまれ、愛されていることをはっきりと示したと思う。

 過去、日本には数多の衛星計画が存在し、実際に打ち上げられもしたが、一般国民をこれほどまでに鼓舞し、一般国民にこれほどまでに愛され、その将来を期待された衛星計画は他に存在しない。そう言い切ってもいいのではないだろうか。

 そのことは、きっとJAXAを初めとした関係者にも届いたことと思う。

 「はやぶさ2」に自腹を切った人が現れた。その背後には、「自腹を切ってでもはやぶさ2を見たい」という人が多数存在すると思って間違いない。

 そう思わせたのは「はやぶさ」であり、「はやぶさ」を企画し、開発し、打ち上げ、運用した人たちだ。

 その意味は重い、と私は考える。

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2007.10.24

かぐやモニターカメラ映像からわかること

20071021_08_location
「かぐや」取得画像と、「クレメンタイン」のデータによる月面図の比較
 図版作成:Naru HIRATA / 平田 成(会津大学コンピュータ理工学部)
http://www.jaxa.jp/press/2007/10/img/20071021_kaguya_08.jpg (Credit: JAXA)
および
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA00001 (Credit: NASA/JPL, USGS)
より改変

 月探査機「かぐや」のモニターカメラが撮影したのは656×488ドット、32万画素のJPEG画像だ。画像のレベルとしては10年前、発売直後のデジカメ程度である。

 それでも、これだけ臨場感溢れる画像が撮影できる(pdfファイル)というのは驚くべきことだ。

 が、プロの科学者なら、我々が「きれいだな」「素晴らしい」と思う以上の情報を、同じ画像から読み取れるのではないだろうか。

 と、思っていたら、産業技術総合研究所の中村良介さんが、「クレーターの底の永久影の状態が分かりますよ」と、教えてくれた。もっと詳しく知りたいのだが、とお願いすると、「では、平田さんに連絡して図を作ってもらいましょう」ということになり、ご存知、会津大学の平田成さんが、詳細な図を作成してくれることになった。

 かくして、平田さんから届いたのが、冒頭に掲載した図だ。かぐやのモニターカメラの画像に写った、シュレーディンガー、アムンゼン、そして、シャックルトンの各クレーターの位置が、1994年にアメリカの月探査機「クレメンタイン」が取得した月表面データと比較してある。

 中村さんによると、ここで注目すべきは、クレーターへの日照の入り方なのだという。たとえばアムンゼン・クレーターを比べれば、日照の入り方が異なるのが一目瞭然だ。
 極における日照は、月の水の存在と密接に関係している。モニターカメラの画像から、日照の状態を読み取ることができるのである。

Clementine2 クレメンタインは、1994年の2月から4月にかけて月面の観測を行った(写真は打ち上げ前整備中のクレメンタイン Photo by NASA)。これは北極が夏で南極が冬の時期である。月の南極は今年11月が夏至だ。つまりかぐやモニターカメラの画像は、月の南極が夏にどのような日陰を作るかを写し出しているのである。

 そう、月にも季節が存在するのだ。

Illumi
月の南極における太陽高度のグラフ:グラフ作成 平田成

 なぜ月に季節が存在するかと言えば、月の自転軸と月の公転面の両方が傾いているからだ。

 以下は平田さんによる説明。

「月の赤道面(〜自転軸)が月の公転面に対して6度41分傾いています.で,黄道面(〜地球の公転面)が月の公転面に対してこれとは逆向きに5度9分傾いているので,差し引き1度32分が月の赤道面(〜自転軸)と黄道面の成す角ということになります.この角度が季節を生むことになります.」

 月の赤道面と黄道面が1度32分ずれているということは、月面に太陽光が当たる角度は、1地球年の間にその2倍、約3度変化するということだ。
 月面から太陽の高さを、地平面からの角度で観測したとすると1地球年の間に約3度だけ変化するわけである。

 小さな角度だが、両極地方では、この差によって、日照は当たる、当たらないが大きく変化する。


Lunarprospector クレメンタインは、地球の電波望遠鏡との共同観測で、月の極地域に水が存在する可能性を発見した。その後、アメリカの月探査機「ルナ・プロスペクター」が1998年から99年にかけて行った中性子分光観測により、水が存在する可能性はますます高まった(写真は、打ち上げ前のルナ・プロスペクター、Photo by NASA)。

 詳細は月探査情報ステーションのFAQ(よくある質問集)にくわしく載っている。

 月は重力が小さく、気体を表面につなぎとめておくことができない。水は太陽光で水蒸気になり、どんどん宇宙空間に逃げてしまう。
 しかし、月の両極、クレーターの底には永久に太陽光が当たらない影の地域が存在する。

 そこに水を含んだ彗星が落下したらどうなるか。大部分の水は気体となって散ってしまうだろうが、一部は永久の影の地域に吸着され、そのまま蓄積されるのではないだろうか。彗星の落下頻度はそんなに多くないが、それでも何億年もの時間があったわけだから、相当量の水が、両極のクレーターの底にあってもおかしくはない——というのが、月の水に対する現在の解釈である。

 アメリカが、有人月基地をシャックルトン・クレーターの縁に建設すると言っているのも、クレーターの底に存在するかもしれない水に期待しているわけだ。

 もっとも、月の水については、懐疑的な研究者も多い。中性子分光で分かるのは、水素が存在するということだけだ。現状では水素があるなら、それは水ではないかと言っているのであり、確かに水であると判明したわけではない。

 水の存在を知るためには、月の両極のどのあたりに1年間を通じて影となっている地域があるかを正確に知る必要がある。

 ところが、現状では両極の永久影地域の正確なマップは存在しない。

 クレメンタインのデータは、何度にも分けて細い帯状に観測したものを合成して地図としている。このため、1枚の図であっても、太陽光のあたりかたは地域によってばらばらだ。

「この季節、この時刻なら、ここが影でここは日向だ」ということが分からないのである。

 しかも、観測は「北極が夏で南極が冬」という時期だけである。南極が夏になり、太陽の高度が上がったら、今まで永久影だと思っていた地域に太陽光が当たっていた、ということもありうるし、その逆で「いつもいつも太陽が当たっている」と思っていた地域が、冬になると影になるというケースも考えられる。

 月に水が存在するのか、存在するとしたらどこにあるのか——このことを知るためには、月の両極地方の日照をせめて1年に渡って観測する必要がある。

 「かぐや」のモニターカメラは、分解能こそ低いものの、視野の広い広角レンズを装着しているので、月面を広く一度に撮影することができる。


 つまり「この時期この時刻に、どこに太陽光があたりどこが影になるか」を一目で見渡すデータが取れるのだ。分解能は300mもあれば十分である。


 これはけっこう使えるのではないか、と中村さんや平田さんは考えたわけである。

 かぐやのミッション期間は1年だ。その間に南極の夏を狙うとすれば、機器立ち上げ最中の11月しかない。そこまでにメインのセンサーを観測可能にできるかどうか、を考えると、モニターカメラによる撮像は、バックアップ手段としても悪くはない。
 もちろん、メインのセンサーを11月の夏至に間に合わせるのが本筋ではあるけれども。

 先日の記者会見の時の祖父江さんの話では、今後はメインセンサーに注力するので、モニターカメラによる月面撮影は行えるかどうか分からないということだった。しかし、科学的価値が出てくるとなると、これは撮影してみる価値があるかもしれない。「かぐや」とはハイゲインアンテナを通じた高速通信が確立しているので、32万画素のJPEG画像は、さほど通信系の負担にはならないはずだ。

 アメリカのルナ・プロスペクターは、1999年7月31日に月の南極に計画的に墜落した。舞い上がる砂塵の含まれるかも知れない水分を、地上の望遠鏡で観測したが、水は検出されなかった。
 中村さんと平田さんの説明を受けて思いついた。ひょっとして、ルナ・プロスペクターは永久影だと思いこんでいたが実際には季節によって日照がある地域に落ちたのかも知れない、と。

 物事を成功させるには、基礎的データがとても大切なのだ。

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2007.10.21

公開されたモニターカメラの画像

 本日公開されたかぐや搭載モニターカメラの画像を一部掲載します。以下すべての写真はphoto by JAXAです。

0710180021jst120kmcaptionキャプションあり

0710180021jst120kmキャプションなし

 10月18日 日本時間0時21分、月の南半球、帆お南極付近上空120kmから撮影。ヘールクレーターと、デモナックスクレーターが写っている。

0710190017jst98kmcaptionキャプションあり

0710190017jst98kmキャプションなし

日本時間10月19日0時17分、南半球上空98kmから地球を望む

0710190020jst94kmcaptionキャプションあり

0710190020jst94kmキャプションなし

日本時間10月19日0時20分、南半球上空94kmから地球を望む



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かぐや、観測軌道に到達、定常制御モードに入る 午前10時半からの記者会見

 午前10時半からのかぐや定常制御モード移行の記者会見です。

 出席者は滝澤悦貞プロジェクト・マネージャー、佐々木進プロジェクト・サイエンティスト、祖父江真一セレーネプロジェクトチーム主任開発員。


「いつもニコニコ記者会見ですが、」という広報の言葉から始まりました。


滝澤:初期クリティカルフェイズが終わった。

 定常制御モードとは、月にセンサーを向けた三軸姿勢制御状態のこと。

 発表文読み上げ。

Sofue 祖父江真一セレーネプロジェクトチーム主任開発員から、今回公開された画像に関する説明.モニターカメラの画像。カメラの視野は71°×94°。高度120kmからの撮影で1ピクセル300mの分解能。

 松浦注:モニターカメラの視野は35mmフィルムカメラ換算で、焦点距離19~20mm程度。

質疑応答。今回は名乗らない人が多かったので、質問者不明が多いです。

NHK 撮影された写真の過去との違いはどんなものか。今回公開された画像の特徴的な部分を知りたい。例えばクレメンタインよりも低い高度で取っているとか。

滝澤:我々としては臨場感のある写真だと思っている。かぐやの一部が写っている。

不明 クリティカルフェーズ終了の感想を知りたい。名前を乗せた人やデータを待っている科学者の皆さんにひとこと

滝澤:ここまでのことがきちんとできないと観測ができないわけで、今後の観測が可能になったことでほっとしている。期間が長かっただけでなくいつどんな操作を行うかのイベントのリストも長かった。見返してみてこれだけやったんだな、と思った。
 今後、機器の立ち上げをしていく。新しいどんなデータが出てくるか楽しみである。


佐々木 かぐやはオリンピックで言えばオリンピックの会場に来たところ。これから試合の準備を始めるところ。
 これから、中国、インド、アメリカとプレイヤーがどんどん月にやってくる。かぐやの観測機器は我々としては自信作なので、いいデータがとれることを期待している。
 予想された観測成果だけではなく、予想できない新たな発見があるのではないか、それがとても楽しみだ。
 観測機器の立ち上げが順調に終わらないと定常観測に入れないので、今のところは機器の立ち上げで心が一杯である。

Takizawasasaki
不明:クリティカルフェーズ終了の日付はいつか。搭載機器の確認はどんな順番で行うのか。

滝澤:定常制御モードに19日に入れ、20日にきちんと定常制御モードに入れたことを確認した。

佐々木:今後のスケジュールは、まずはバス系のチェックアウトを行う。冗長系のチェック。
 観測系では、最初に磁気センサーのマスト伸展、レーダーサウンダーのアンテナの展開、超高層大気プラズマイメージャー(UPI)のを搭載したジンバル機構の立ち上げを行う。

 次に14の観測機器の低電圧系の立ち上げを行う。これが終わるのが11月半ばまでに。
 最後に、高電圧系を少しずつ電圧を上げていくという方法で1ヶ月かけて立ち上げていく。

 ただしこれは予定であり、動く可能性はある。


フリーランス青木 かぐやと子衛星の軌道について。現在かぐやは80×120kmの軌道に入っているがこれは100km円軌道に近づけるのか。子衛星はねらった軌道に入ったのか。

滝澤:結論から言うと現在の軌道はねらったとおりの軌道である。100kmの円軌道に対して月の重力場のひずみで高度は変動する。かぐやの観測軌道は30km程度の誤差を許容している。現在の軌道は誤差の範囲内。
今後月の重力場のひずみの影響で、だんだん100kmの円軌道に近づき、やがて近地点と遠地点が入れ替わり、まだ軌道が楕円へとなっていく。その誤差が30kmぐらいになったらスラスターを噴射して軌道制御を行う。

中国の探査機が上がることについてのコメントを。

滝澤:共に成功したいと思っている。お互いに取ったデータで月研究を高め合うようにしたい。

佐々木:1+1が3にも4にもなるような協力関係を構築できれば期待している。


毎日新聞 電力、推進剤、通信系なども予定通りなのだろうか。

佐々木:推進剤は予定よりも多く残っている。ロケットの軌道投入精度がよかったことと、軌道制御が効率的にできたため。電力は予定通り。通信もきちんととれている。

エイビエーションウィーク 推進剤のこと。もう少し具体的に。予定より何kg余ったとか。

滝澤:予定に対して数十kgは余計に残っているという状態である。

喜多:10年間の開発と2ヶ月のクリティカルフェーズおつかれさまでした。打ち上げ以降大量のやることをこなしてきたと拝見したが、そのために相当準備したのではないかと思う
 そのあたりでひとつなにか自慢をしてもらいたい。

滝澤:月周回軌道投入は失敗すると大きな影響がある。失敗した場合に備えて、さまざまな対策をすごく考えた。
 かぐやは相模原で追跡管制をやっているが、そこが災害に遭った場合どうするかも考えた。月周回軌道投入にあたっては相模原が駄目になっても大丈夫なように臼田から直接コマンドを打つ体制を整えた。色々なバックアップを考えて本番に望んだ。幸いにしてそれらは使わずにすんだ。
 かぐやは新しいデータを世の中に出すというのが最終的なゴールなので、そこまでは新たな気持ちでやろうと考えている。

佐々木:ここまで順調に来ているのは、数十人の運用関係者が心をひとつにしてシステマティックに動いているから、それが大きいと思う。

 会見後のぶらさがりにて。

祖父江:今は月の出に合わせた生活をしています。時刻はUT(世界標準時)を使っています。まだまだ昼夜関係ない生活が続きますね。
 かぐやはこれまで、スラスターの噴射で姿勢を保っていました。軌道変更のための500Nスラスターの噴射時も、リアクションホイールを動かしていません。定常制御モードで、はじめてホイールを動かして姿勢制御を始めたわけです。


滝澤:これからは世界に誇るべきデータを静かに出していくことができればね。

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2007.10.20

宣伝:10月28日日曜日、新宿・ロフトプラスワンのトークライブ「ロケットまつり19」に出演します

 次回のロケットまつりは、日曜日の夕方開催になりました。時間的にもゆったりと話を聞けるのではないかと思います。

 前回に引き続き、小野英男さんに衛星開発初期のエピソードを話してもらいます。


「ロケットまつり19:サテライト・エピソード2」
〜日本で一番多く人工衛星を設計した男〜

40年前、衛星開発に挑んだ本人が、日本の人工衛星開発のはじまりを語る、1回目の熱気を残したまま語る2回目

【Guest】小野英男(日本で一番多く人工衛星を設計した男)
【出演】浅利義遠(漫画家)、松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、笹本祐一(予定)
Open16:00/Start17:00
¥1000(飲食別)

注意:開始がいつもの午後7時30分ではなく、午後5時です。

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

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2007.10.15

2ちゃんねるに出る

 この週末、2ちゃんねるに実名で出ていた。天文気象板にある「小惑星探査機はやぶさ」というスレッドだ。2ちゃんねるは1スレッドが1000メッセージで一杯になるので、新たなスレッドを立てるという仕様になっている。私が出たのはpart 27(過去ログに落ちている)と現行スレッドのpart 28である。

 「はやぶさ2」に関して、自分の知ることを質疑応答で出しておこうと思ってのことである。

 以下は一連の書き込みその中で書いたことだ。「役に立つ」「役に立たない」という議論は、往々にして「今の自分たちに具体的にどう役に立つかが分かる」ということと混同される。
 しかし実際に「何が役立つか」は、そう簡単に分からない。おおくの公共投資が「役立つ」という名目で実施されていることを思い出そう。

 天文学の例を見るように、世界の探究、知識への追求は、過去、必ず人類に大きな恩恵をもたらしてきた。その流れの先頭に、太陽系探査が立っていると考えるべきではないだろうか。

 そう考えない理由を、私は思い当たらない。

 以下は2ちゃんねる天文・気象板の「小惑星探査機はやぶさ part27」スレッドの974番コメントにかき込んだものの再録だ。「科学への貢献という理念だけでは納税者の支持を得られないのでは」という問いに対する回答である。


>科学への貢献・国際社会への貢献等と言う崇高な理念「だけ」では、巨額を投じる
>に納税者の支持を得ない。

 例えば天文学を不要不急の学問と思っている人は今も多いです。
 しかし実際には、緯度経度を定め、天測による航法を可能にし、時刻を定め、度量衡の基本となり、核物理や相対論の基礎となる観測結果を得たのは、天文学です。

 今や、量子力学と相対論なくして生活が立ちいかないのはご存知 ですよね。量子力学なくして半導体デバイスはありえません。また、 GPSは相対論的な補正をしてはじめて正しい位置を測定します。

 天文学ほど実用に役立った学問はないとすらいえるかもしれません。

 かつて世界を制したイギリスには、今も人口比で日本の10倍の天文学者がいるそうです。
 今、世界を牛耳っているアメリカが、基礎科学にがっちり投資しているのはご存知のとおりです。

 一見不要不急に思える基礎科学は、長い目でみるともっとも実用的な科学でもあり、国の繁栄の土台となるものなのです。

…と、いうことを、納税者にきちんと語り続けるのが、私の仕事だと思っています。

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2007.10.13

これまでのミッションの価値

 プログラム的探査を主張するためには、今、私達の日本が、どのような価値のある探査を行っているかも重要となる。出発点がしっかりしていなくては、その上にどんなにしっかりした仕組みを作り上げても、成果としては貧弱なものになってしまうだろう。

 過去22年の間に、日本は3回、4機の探査機を惑星空間に送り出してきた。ハレー彗星を目指した「さきがけ」「すいせい」、火星探査機「のぞみ」、そして「はやぶさ」だ。

 76年に1回の国際共同ミッションの一環として打ち上げられた「さきがけ」「すいせい」(1985)は、ハレー彗星接近という特別な機会を利用したものだった。観測内容は同時期に打ち上げられた各国の探査機を分担され、その後の彗星探査は、核に高速の人工物体を打ち込む「ディープインパクト」(アメリカ)、彗星核への着陸を目指す「ロゼッタ」(欧州)まで、大分間が空いた。
 だから、ここでは考慮の対象からはずそう。日本でも彗星核サンプルリターンが検討されているが、これは技術的に考えると、おそらく「はやぶさ」の成果の延長戦上での実施ということになるだろう。

 ここでは、「のぞみ」「はやぶさ」についてのみ考えることにする。

 実は現在、それぞれ後を追う、追従者が出てきている。

Osiris 「はやぶさ」の追従者は、アメリカの「オシリス」だ(Photo by NASA)。イオンエンジンを使って小惑星にタッチダウンし、土壌サンプルを採取して持ち帰るという、まさに「はやぶさ」そのものの構想である。現在、アメリカの小型探査機シリーズ「ディスカバリー」の候補として選定中である。10月末から11月にかけて、選定結果が公表される予定だ。

 もちろん選定に漏れて消えてしまうこともありうるが、私の聞いた話では、「オシリス」が選ばれる可能性が高くなっているという。

 選定されればオシリスは2011年に打ち上げられる。

 「のぞみ」は火星本体ではなく、火星の希薄な大気の状態を調べる探査機だった。
 旧ソ連の探査機「フォボス」の観測から、火星は上層大気からかなりの量の酸素がイオンの形で流出していることが判明している。それも数億年オーダーで、火星の大気がなくなってしまうほどの勢いだ。
 どんなメカニズムで酸素が流出しているのか、酸素は減っているのはどこかから補充されているのか——これらの問題は地球という星の大気環境を知る上でも重要である。比較対象の相手があるとないとでは、研究の進展が変わってくる。
 しかし「のぞみ」はトラブルにより、火星周回軌道に入ることなく終わった。

 アメリカは現在、小型の火星探査機シリーズ「マーズ・スカウト」を実施している。現在、最初のマーズ・スカウト「フェニックス」が火星南極地域への着陸を目指して、火星へ飛行中である。

 NASAは次のマーズ・スカウトを2011年に打ち上げる予定で、現在、ミッションの選定を進めている。
 多数の提案の中から、2007年1月に、2つの候補が勝ち残った。「メイブン(MAVEN)」と「グレート・エスケープ」だ。年内にはこのどちらかが、正式の「マーズ・スカウト」として選ばれることになる。

・メイブン(MAVEN:Mars Atmosphere and Volatile Evolution mission)
 正式名称は「火星大気と揮発性物質進化ミッション」。火星の気象及び大気の変動のありようを高層大気のイオン圏をも含めて調査しようというミッションだ。

・グレート・エスケープ(The Great Escape):火星高層大気を調査するミッションだが、読んだ通り高層大気からの酸素が逃げ出している過程の解明を大きな目標として掲げている。

 両ミッションの詳細は月探査情報ステーションのニュースが詳しい。

 つまり、どちらが選ばれても、「のぞみ」が果たせなかった観測を実施するミッションということになるのだ。

 現在宇宙探査の最大勢力であるアメリカが、過去20年かけて日本が実施した2ミッションの後追いをするということは、何を意味するのか、すこし考えてもらいたい。

 日本の研究者達が、乏しい予算の中で考えに考えて、意味のあるあるミッション、科学的価値のあるミッションを選んで実施していることを意味する。

 つまり、日本は、プログラム的探査の出発点としてふさわしいだけの質の高いミッションを選択し、実施してきているということである。

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2007.10.12

「はやぶさ2」に注目する理由

 昨日の記事を読んで、「感情的に煽っている」「陰謀論だ」と思う人もいるようだ。確かに昨日は、現状説明は書いたものの、私が「はやぶさ2」を支持する理由を明確には書いていなかった。

 以下、私の意図を要約して説明しよう。私が「はやぶさ2」に注目する理由は2つある。

まず、「プログラム的探査」の重要性。

 私は、継続的、計画的に太陽系探査を進める「プログラム的探査」が、今後の日本の宇宙開発に必須と考えている。探査は継続的に実施しなくては意味が薄れるし、その場合今回の探査機と次の探査機を一連のものとして構成や目的を明確にしたほうが成果が大きくなるからだ。

 実は1970年代にプログラム的探査への動きがあった。

 日本で最初に惑星探査の重要性を主張して行動したのは、東北大学の大家寛教授(当時)だった。1)まず行きやすい金星に、2)2機の探査機を送り、3)次いで火星、4)その次に木星——という主張は、まさにプログラム的探査そのものだった。

 この主張が通らなかった経緯は、拙著「恐るべき旅路」に書いた。

 大家教授の意見が通らなかった結果、「さきがけ」「すいせい」は別のセンサーを搭載することになり、成果を増したが、「同型機を2機打ち上げる」習慣がつかなかったことは、極端に言えば火星探査機「のぞみ」の失敗に遠くつながっているかも知れない。

 「はやぶさ2」が動き出すか否かは、1970年代以来30年振りに訪れた、日本にプログラム的探査を根付かせるチャンスなのだ。ここで失敗すると、また後々に禍根を残すのではないかと私は危惧している。

 もうひとつは、「科学衛星こそが、技術開発の源泉」となりつつある現状では、宇宙科学を予算削減の対象と考えるのではなく、むしろ技術開発のテストベッドとして積極的に捉えるべきではないかという考えである。

 昨今の科学観測の高精度化により、科学衛星の実現にはハード、ソフトの両面で最先端技術の開発と採用が不可欠になりつつある。高精度の姿勢制御や高出力太陽電池、高感度、多波長のセンサー素子など、かつてならば技術試験衛星が担っていた宇宙での技術開発を、科学分野が担うようになってきている。

 その一方で技術試験衛星は、巨大化し、失敗が許されなくなってきたせいもあって、試験要素以外は極端に保守的になってきつつある。実際問題として「きく8号」は情報通信研究機構の縄張りのようになってしまっており、しかも実施する実験アイテムが実用化する見込みは立っていない。

 とするなら、宇宙科学分野に注力することで、宇宙での技術開発力を保持しつつ、同時に世界最先端の科学観測成果を上げるというのが正しいいき方ではないかと考えるのである。

 そのためにも、科学衛星や探査機がある程度以上の頻度でコンスタントに打ち上げられる環境を作る必要がある。

 以上2点、私が「はやぶさ2」に注目し、下記のような呼びかけを行う理由である。

 もちろん、根底には「またはやぶさが見たイトカワのような光景を見たい」「見知らぬ太陽系各所を探査したい」という欲求があるのは言うまでもない。

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2007.10.11

はやぶさ2に向けて、最後のお願い

Pioneer10 Voyager1 Garileo

Cassini Newho

上、左から、パイオニア10(1973)、ヴォイジャー1(1979)、ガリレオ(1995)

下、左から、カッシーニ(2000)、ニュー・ホライズン(2007)

Photo by NASA


 まずは写真を5枚掲載することにする。その意味は、この記事の最後で種明かしすることにしよう。

 この前の「ロケットまつり」終了後にちょっと話した、「はやぶさ2」ののこと。

 当方がもたもたしていうちに、コメント欄でうーぱーさんにハッパを掛けられてしまった。

 そう、現在「はやぶさ2」を巡る状況は非常に厳しい。10月末がひとつの区切りになり、そこまでに海外の打ち上げ手段を調達できないと、計画自体がつぶれるという状況になっている。

 「はやぶさ」の冒険を目の当たりにし、今、「かぐや」が送ってくる月の映像にわくわくしている私達にすれば、日本国民が宇宙開発に何を求めているかは、非常に明確に思える。

 太陽系全域の探査だ。

 しかし、そのさきがけとなるべき「はやぶさ2」は今、予算の帳尻合わせのために危地に立っている。10月末に向けて、現在急速に事態は動いている。

 「はやぶさ2」に始まる、プログラム的探査に必要な予算は、JAXA全体の5年間の予算からすれば、大きな額ではない。

 にもかかわらず、GXロケットを初めとした遅延と予算超過を繰り返す積み残しの不良債権的計画に押されて、JAXAは今、未来に向けたもっとも貴重な宝石を自らゴミ箱に放り込もうとしている。

 だが、諦めるのはまだ早い。関係者は実現の可能性を必死で探っている。計画を好感を持って迎え、打ち上げ手段の提供を検討しようとする海外機関もあるようだ。

 私は、見たい未来を実現するために、声を上げる時だと思う。上げ続けることが未来につながると思う。

 皆さんの声が、「はやぶさ2」を、ひいてはその先にある日本の宇宙探査を実現する鍵となる。

 訴えるべき相手として、私は以下の3つの組織を選んだ。


1)文部科学省・宇宙開発委員会(メールアドレスはvoiceアットマークmext.go.jp)

2)内閣府・総合科学技術会議(http://www.iijnet.or.jp/cao/cstp/opinion-cstp.htmlから送付)

3)JAXA経営企画(メールアドレスはprofficeアットマークjaxa.jp)

 

 すでに議論や実態がかなり進んでいることを考慮して、即効性がありそうな送り先を選定した。

 宇宙開発委員会は、委員長以下5人の委員宛となる。

委員長     松尾 弘毅   元宇宙科学研究所所長
委員長代理   青江 茂    元日本原子力研究所副理事長
委員      池上 徹彦   前会津大学学長
委員(非常勤) 野本 陽代   サイエンスライター
委員(非常勤) 森尾 稔    元ソニー株式会社取締役副会長

 総合科学技術会議は、以下の委員宛となる。

閣僚
福田 康夫 内閣総理大臣
町村 信孝 内閣官房長官
岸田 文雄 科学技術政策担当大臣
増田 寛也 総務大臣
額賀 福志郎 財務大臣
渡海 紀三朗 文部科学大臣
甘利 明 経済産業大臣

有識者
相澤 益男(非常勤議員) 東京工業大学学長
薬師寺 泰蔵(常勤議員) 慶應義塾大学客員教授
本庶  佑(常勤議員) 京都大学客員教授
奥村 直樹(常勤議員) 元新日本製鐵(株)代表取締役 副社長、技術開発本部長
庄山 悦彦(非常勤議員) (株)日立製作所取締役会長
原山 優子(非常勤議員) 東北大学大学院工学研究科教授
郷 通子(非常勤議員) お茶の水女子大学学長
金澤 一郎 日本学術会議会長 ※関係機関の長

注意:それぞれきちんと宛名に個人の名前を入れること。でなければ、メールは各委員まで届かず、途中で止められてしまうかもしれない。
 メールが組織全体で処理する形にならないように、個人への宛名は必須である。

 総合科学技術会議は、人数が多く、メールフォームが1000文字以内となっている。短い文章で的確に意見を言うため、相手を絞る、何通かに分けて出すといった工夫が必要になるだろう。

 JAXA経営企画は、「広報気付、経営企画部御中」ということになる。

 正直、ここで私が書いている事を、すぐにJAXA広報は気が付くと思うので、「また松浦さんが余計なことをして」ということになるかも知れない。それでも、JAXA広報は一般からのメールを差し止めてるというようなことはしないはずである。

 この文章を読んでいるあなたが、一昨年の「はやぶさ」の探査を、一喜一憂しながら見守った経験の持ち主ならば、少しの勇気を奮い起こしてメールを書いてもらえれば、と希望する。

 見たいものがあるならば、「見たい」と口に出して言わなくてはならない。欲しい未来があるのなら、「欲しい」と宣言して行動するべきだ。黙って待っているだけで、望む世界がやってくるはずがない。

 「はやぶさ2」が、C型小惑星に降下する勇姿を見たいのならば、ほんの少しの行動してみよう。


 以下は、先だってnikkei BP.netで書いた実現の瀬戸際に立つ「はやぶさ2」~国内外の高評価と対照的なJAXA内での冷遇 (2007年9月25日掲載)の、その後も含めた現状である。


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「はやぶさ2」を巡る状況(2007/10/11)

 「はやぶさ2」実現にあたっての問題は、今後5年のJAXAの中期計画が、予算見積もりに縛られているということ、そしてその中に、国際宇宙ステーション、準天頂衛星、GXロケットといった、予算超過と計画遅延を繰り返したアイテムが多数存在し、処理されざる不良債権として予算を圧迫しているということにある。

 そして、文科省、宇宙開発委員会、JAXA経営企画部などは、予算を増やしたり不良債権を損切りするのではなく、そのまま抱えたまま新規アイテムを抑制することで、予算の枠内の中期計画を策定しようとしている。

 洋の東西を問わず、宇宙予算が危機的状況に陥った場合、真っ先に割を食うのは宇宙科学、それも新分野に乗り出そうとする新しい宇宙科学だ。

宇宙科学の予算が切られる理由

 宇宙科学には、学問的興味から行う不要不急の宇宙開発というイメージがまとわりついている。そして、公共事業的な巨大計画は、一応「ほら、このように役立ちます」ということを主張した上で予算を取っている(それが本当に役立つのかどうかは全く別だ)。

 予算額も大きいので「産業に与える影響が大きすぎる」という理由からメスが入ることはない。

 そこには、予算の多寡にかかわらず、1アイテムは1アイテムという役所の都合も存在する。1アイテムを財務その他で通す手間は、アイテムの大小にかかわらず同じだ。そして、産業政策としては予算の大小のみが問題となる。「小さな計画沢山」よりも「ビッグプロジェクトが少数」のほうが、管理もしやすいし、話も通しやすい。

 そして小さな計画を多数切ったほうが、「ほら、このように計画を削減して予算を節約しました」と説明もしやすい。

 「はやぶさ2」は、一番切られやすい宇宙科学の範疇にあり、しかも太陽系探査という新しい分野である。さらに、「はやぶさ2」を出発点とした一連の「プログラム的探査」の出発点でもある。このことを経営企画の側から見ると、「はやぶさ2を認めると、はやぶさ2のみならず、その後もずっと支出することになるのではないか」という危険を感じることになる。

 だから、「こんなものを、この予算の厳しい時期に認めるなんて、とんでもない」という思考に走ってしまうわけだ。

 だが、少し考えれば、健全な組織において経営企画セクションが果たすべき本当の役割は、

 1)今後の宇宙計画にとって何が必要かを真剣に考え抜き、
 2)本当に必要な計画とそうではない計画を先入観や過去の経緯を廃して峻別し、
 3)本当に必要な計画にのための予算は、なにがあっても充当する、
 4)ないしは、実施できるだけのバックアップを行う、

 ということではないだろうか。

 そして宇宙科学は、宇宙開発全体の中で、「常に行うべき事業」という地位を占めている。決して宇宙開発全体の中に占める割合は大きくないが、常時実施しつつ、次に向けた種子を蒔いていかなくてはならない。

 プログラム的探査は、未来に向けて、今こそ蒔くべき種子である。


宇宙科学を厚遇している気分になる事情


 困ったことに、JAXA経営企画セクションが「十分に宇宙科学には厚く付けた」という気分になる事情が存在する。

 次期固体ロケットの開発と、同ロケットで打ち上げる小型科学衛星が、次期中期計画に盛り込まれたことだ。次期固体ロケットは、当初開発費が100〜120億円ということだったが、この1年間の検討によりロケットが、そもそも無理がある2段式から技術的にまともな3段式になり、低軌道500kgから1.2tに能力が向上したなどの理由から200億円に増加した

 余談だが、昨年にM-Vが中止になった表向きの理由「今後4年間、内之浦のM-V発射施設を維持し、PLANET-CをM-Vで打ち上げた場合のコストは106億円になる」を、思い出してもらいたい。当時ISASは100億円でM-V第1段を改良する希望を持っていた。結果として施設維持費を考えても新ロケット開発は、M-V改良と同じだけのコストがかかることになったわけだ。

 既存ロケットを改良したほうが、信頼できる大きなロケットが入手できるのが道理である。

 次期固体ロケットの開発費用が200億円に増えたことは、ロケットの開発には喜ぶべきことだ。しかし、合理的なロケット構成を採用し、必要なコストを積み上げた結果が200億円であるということは、「そもそも、無理やりの理由を付けてM-Vを廃止に追い込んだのではないか」という疑惑に対する傍証になるであろう。

 そして、次期固体ロケットで打ち上げる小型科学衛星は1機40億円と見積もられている。

 「これだけ付けたのだから、次期中期計画で、もう宇宙科学はいいだろう」というわけである。

 しかし、そうではない。次期固体では十分なサイズの探査機を惑星間軌道に投入する能力はない(今のところ、ではあるのだけれども)。宇宙科学を次期固体に絞るということは、「日本は太陽系探査に手を出しかけたけれども、金がないから手を引きます」ということにつながるのである。
 本当に金がないならともかく、その一方で不良債権的計画は、ずるずると進行しているのだ。


なぜ、月探査WG? 「惑星」はどこにいったのか?


 宇宙開発委員会でも、JAXA経営企画セクションと連動したかのような動きがある。

 現在、宇宙開発委員会は、月探査ワーキンググループで、月探査をどう進めるかという議論が行われている。

 名称に気をつけてもらいたい。なぜ「月探査ワーキンググループ」なのだろうか。JAXAに今年度新設されたJSPECは「月・惑星探査推進グループ」だ。JAXAとしては月探査と惑星探査は一体であるという認識に立ち、まとめて推進するという意志を、組織名に示したわけである。では、なぜ宇宙開発委員会が、独立行政法人となり裁量権を増したJAXAの意志を無視しするような名称のワーキンググループを発足させたのだろうか。

 表向きは、「月に議論を絞りたいから」ということであり、惑星探査については第一回会合で報告を受けてはいる。

 だが、このような名前から入るという方法は、官僚が自分の意向を通す時によく使う手段である。後で「そもそもここは月探査について話し合う場所だから」と、惑星探査に関する議論そのものを不可能にしてしまうわけだ。

 なぜ惑星が抜けたのか。おそらく、「はやぶさ2」及びそこから始まるプログラム的探査が、議事録の残る宇宙開発委員会において、議論の対象にならないようにするためである可能性が高い。もっと具体的にいえば、宇宙開発委員会で「はやぶさ2」について語ることを禁じ手にしたわけだ。
 公的書類である議事録に、「プログラム的探査による惑星探査」「その先導ミッションとしての『はやぶさ2』」という言葉を残したくないのであろう。公的書類に言葉をを残すと、それを足がかりにさらなる主張を行うことが可能になる。
 宇宙開発委員会としては、そんな面倒な事態にしたくはないのだろう。

いいわけとしての「かぐや2」

 先だって10月5日の月惑星WGの会合後、各種メディアに、「かぐや2(セレーネ2)」の構想が一斉に出た。これはおそらく文科省の記者クラブでのレクチャーで、文科省側がしゃべったのだろう。

 これも妙な話だ。JSPECでは、プログラム的探査として、「かぐや(セレーネ)」による月周回探査、セレーネ2による月着陸探査、さらにその先のセレーネXによる月土壌サンプルリターンという流れを考えていたはずだ。これらは一つの流れで考えるべきものであり、ひとつを取り出して語るものではなかったはずである。

 なのになぜ、今、この時点で、かぐや2だけがことさらに強調されるのか。

 宇宙開発委員会(ないしはその一部)は、予算が足りないので次のJAXA中期計画では、かぐや2のみを盛り込み、その先のセレーネXにつながるプログラム的探査については、「やるかも」という程度の言質すら与えたくないのではないか。

 「かぐや2」がこのタイミングでことさらに出てくる裏には、「金がないから、かぐや2だけだぞ」という意志があるというわけだ。私達はうっかり「かぐや2が出てくるのだから、当然その次も期待していいのだろう」と思いがちだが、ロジックとしては「かぐや2は認めてやるから、それで満足しておしまいにしろ」という言い方も成り立つのである(ここらへんは、前にも書いた「官僚の文書は文面のロジックがすべて」という実態にもつながる)。

 なぜJSPECの抱える構想の中で、「はやぶさ2」ではなく「かぐや2」が選ばれたかといえば、将来アメリカの有人月探査に参加する可能性を考慮してのことだろう。

 確かに、こうして次期中期計画で、プログラム的探査の芽を潰しておけば、予算的にはJAXAは安泰ということになる。

 だが、このまま議論が進めば、次のJAXA中期計画では「かぐや2」だけ、その先はもう太陽系探査なんて大それたことは日本としてしない、というルートが、公文書の文言の中にできてしまう。

 プログラム的探査、そしてそのさきがけである「はやぶさ2」をつぶしてしまうということは、この先の日本の太陽系探査をもつぶしてしまうことにつながりかねないのである。

 一部からは「そんなことはない」と反論されそうな気もするのだが、公的文書に書かれた言葉が一人歩きし、強力な強制力を発揮することは、ここを読んでいる人ならば先刻承知だろう。
 

20年前のデジャヴ


 実のところ、月・惑星探査に関する宇宙開発委員会の議論は、私に強烈な既視感を感じさせる。

 前にも同じようなことがあった。

 20年前、私は日経エアロスペースの記者として、1987年から88年にかけて、当時の宇宙開発委員会が実施した、宇宙開発政策大綱という当時の中期計画の改訂作業を取材した。1987年度はまず「長期政策懇談会」というワーキンググループで理念をとりまとめた「長期ビジョン」を作成し、88年度に、長期ビジョンに基づいた大綱改定の議論をしたわけだ。
 この時、長期ビジョンには様々な目標が盛り込まれた。ところが実際の改訂作業に入ると、事務方である科学技術庁・宇宙企画課が「予算がない」ということを理由に、徹底的に長期ビジョンに掲載された計画を削り、結局でき上がった大綱は、夢も希望もないしょぼくれたものになってしまったのだった。
 当時の議論には、民間からも委員として多数参加していたのだけれども、その誰もが「なんでせっかく策定した長期ビジョンを無視してまで、科技庁は大綱の内容を削り続けるんだ」と不満を漏らしていたのをはっきりと覚えている。

(余談であるが、当時の科技庁・宇宙企画課課長は、青江茂・現宇宙開発委員長代理だった。今回の動きに似たところがあるのは、あるいは青江氏個人の“官僚としての仕事の手癖”が出ているのかも知れない)

 1988年の大綱改定は、結局バブル経済による税収増、そして崩壊後も続いた科学技術重視の中で、宇宙予算がそこそこ増えたことによってその問題点は隠蔽された。とりあえず予算が増えたので、危機的状況は当面回避できたのだ。

 しかし今回、予算増加を見込める国家財政ではない。財政が萎縮している今、「やらない」としてしまったら、本当に必要なことでもできなくなってしまう。


せっかくの芽生えを潰すのか


 確かに、「はやぶさ2」をつぶすということは、お役所的にはとてもスマートな解法だ。予算超過を起こさない。余計な予算を財務に要求する手間もない。既存計画を恥を忍んで潰す必要もない。

 しかし同時に、国民の期待にも応えていない。当面、役所的に平穏無事なだけで、その先になにか素晴らしい成果が得られる見込みがあるわけでもない。ただ、宇宙産業にだらだらと金を流し続ける、公共事業的計画のみが生き残ることになる。

 そして、「はやぶさ2」の終焉は、火星探査機「のぞみ」、小惑星探査機「はやぶさ」でせっかく芽生えた、日本の太陽系探査への動きを、すでに予算が付いている金星探査機「プラネットC」と、欧州との協力ミッションである水星探査機「ベピ・コロンボ」のみで打ち止めにしてしまう可能性が高い。

 検討が始まっている「のぞみ」後継機も、「はやぶさMark2」も、電力ソーラーセイルによる木星スイングバイ・黄道面脱出ミッションも、その先、2020年代の木星探査機も、「金欠日本はそれでいいんだよ」という力ない言葉とと共に、すべてなしになってしまうかも知れない。

 私としては、そのような事態は、来て欲しくはないのである。


 ここで、冒頭に掲載した5枚の写真の解説をしよう。これらはすべてネットで拾ってきた歴代の探査機が撮影した木星の画像から、大赤斑周辺を同じ縦512ドットで切り出したものである(パイオニア10の撮影した大赤斑は、木星全景しか見つからなかった。確か撮影していたはずだが)。

 それぞれの画像は、取得したセンサーも、撮影に使った波長や画像処理手法、撮影した距離やフライバイの相対速度も違う。さらにはネットに掲載するためにJPEG圧縮も受けているので、単純に比較できるものでもない。

 それでもボイジャー1号とガリレオを比べると、ガリレオのほうがより細かい気流の流れが写っていることが分かる。

 カッシーニの画像はガリレオよりもかなり遠い距離からフライバイで撮影しているが、にもかかわらずかなりの細部までを写し取っている。同じくフライバイのニューホライズンは、よく見ると、木星周回軌道から撮影したガリレオ並の精度で渦巻く流れを写し取っていることがわかるだろう。

 最初の、木星近傍を無事に通過できれば上出来だったパイオニア10から、一瞬のフライバイでも詳細観測を行うことが可能になったニュー・ホライズンへ——できることを、できるところから少しずつ、回数を繰り返してより詳細な観測へ。プログラム的探査とは、このようなデータを積み重ねていくことなのである。


 日本国民が望む宇宙開発とはどんなものだろうか。

 アメリカにお客様として乗せて貰う有人飛行ではない。

 機密保持を理由に、役に立っているかどうかすら国民に開示されない、情報収集衛星でもない。

 今になって測位信号の受信強度がどうのこうのと、最初に立てたコンセプトの筋の悪さを取り繕う議論をしている準天頂衛星でもない(そもそも準天頂衛星は2000年前後のコンセプト検討時点で、検討に参加した技術者ほぼ全員が「技術的に筋が悪いからやめろ」と主張していた)。

 ましてや、5年のはずの開発期間が10年になり、開発費は2倍かかり、上げるペイロードすら定かではないGXロケットでもない(霞が関界隈で、「何機上げたらIHIを納得させて計画中止にできるか」などという軽口が出てくるロケットの開発を続けていること自体がふざけている)。

 真に望むのは、未知の世界を探り、確実に「この世界」に対する知見を増やしてくれる、そんな宇宙活動なのである。

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2007.10.09

月の記念写真だ!

Monitor_location2
オリジナル画像:Photo by JAXA 対照図作成:平田成


 月探査機「かぐや」は極めて順調だ。現在徐々に遠月点高度を下げつつあり、本日9日は、地球のとの通信を中継するリレー衛星の分離に成功した。

月周回衛星「かぐや(SELENE)」のリレー衛星(Rstar)の分離及び主衛星搭載カメラによる月撮像について

 それだけではなく、月の北極地方を見下ろす画像を、搭載カメラで撮影して送ってきた。使用したカメラは、ハイゲインアンテナ(パラボラ形状のアンテナだ。かぐや-地球間の高ビットレート通信に使用する)の展開を確認するためのもので、本格的に月面を観測するものではない。搭載センサーが稼働を開始すれば、これよりもずっと鮮明な月面の映像を送ってくることになる。

 それでも、この写真はすばらしい。「かぐや」の一部と共に写った月の北極地方は、私達が宇宙船で月面上を飛んだらこう見える、という、言ってみれば「かぐやの記念写真」なのだ。


 皆さん、分かっておられるだろうか。これは北極上空から見た月だ。アポロの乗組員も見たことのない月面なのである。

 でも、月面のどのあたりが写っているか知りたいな、と思っていたら、「日本一のクレーターオタク」こと会津大学の平田成さんが、ささっと上記のような対照図を作ってくれた。

 平田さん、どうもありがとうございます。

————————————


 以前から、私は「探査機の記念写真が欲しい」と思っていた。

 観光地に行くと、我々は記念写真を撮る。それこそVサインとか出してしまったりして、行った場所が分かるような所で、自分が写っている写真を撮るわけだ。探査機にも、行った場所が分かるような探査機自身が写った画像が欲しいと思っていた。

Yogiprescol2_2 この欲求に気が付いたのは、1997年にアメリカの火星探査機「マーズ・パスファインダー」が、火星に着陸し、小さなローバー「ソジャーナ」による探査を行った時だった(写真オリジナルはこちら:Photo by NASA)。

 ちょこまかと動き回るソジャーナが写る、ランダーのカメラからの画像には、新鮮な感動があった。
 それまでの探査機では、探査機の一部分がかろうじて画像に写るだけだった。確かにその場所に行かなければ撮影できない画像ではあったものの、「自分がその場所ならではの風景と共に写る」記念写真にはなっていなかった。

 それが、マーズ・パスファインダーの画像には、タイヤの跡を残して走り回るソジャーナ・ローバーがはっきりと写っていた。「確かにそこに、人類の作った機械が行っている」という実感があった。

 はやぶさのイトカワ着陸の時、私は「はやぶさリンク」:こんな画像が見たいという記事も書いている。

 ちなみに、私が見たかった画像は、衛星擬人化イラストを描いているしきしま・ふげんさんが、後に見事にイラスト化してくれた。イトカワに着地したミネルヴァから、こんな画像が撮影できたら最高だったのだが。なにしろミネルヴァはステレオカメラを搭載していたのだから。

 実際には「はやぶさ」は、意表を突いた形で、「記念写真」を撮影してくれた。言わずと知れた、「はやぶさの特徴的な形状がはっきりわかる影を落としたイトカワの画像」である。

Hayabusashadow
Photo by JAXA/ISAS

 この画像に興奮した人は少なくないだろう。「確かにはやぶさは、イトカワの近くにいる」と、これほど強く感じさせてくれた画像はなかった。この、イトカワに落ちる影の画像があってこそ、私達は「遙か彼方に、確かに我々の探査機がいて、かつてない大勝負に挑んでいる」ということを、実感できたのだった。

Sprit_2  その後、NASAの火星ローバー「スピリット」と「オポチュニティ」が、自分の走ってきたタイヤの跡や、ロボットアームの一部が写っているという画像を送ってくるようになった(写真は「スピリット」が2004年1月に撮影したもの:Photo by NASA)。これはなかなか素晴らしかった。
 2機のローバーは、当初の予定を大幅に超えて、現在も火星表面を走り続けており、当然、様々な「俺はここにいるぞ」的な写真も送ってきている。それらを見るのはとても楽しい。バイクツーリングをしていて、要所要所で自分のバイクの写真を撮るのと似たような気分になれる。北海道最北端の宗谷岬のモニュメントの前に、バイクを止めて、写真を撮るような、といえばいいだろうか。

 ただ、なろうことなら「三脚を立ててセルフタイマーを仕掛け、探査機がVサインを出しているような写真」が欲しいと思ったのも事実である。ローバーの全景とはいわないまでも、探査機の形がなんとはなしにで分かるような写真が。

それがとんでもない高望みであるのは重々承知していてはいるのだけれども。


Civa_mars_30_h 私思うに、本当の意味での記念写真は、今年2月に欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」が、火星スイングバイの時に初めて撮影してくれた。ロゼッタには彗星の核に着陸する「フィラエ」というランダーが搭載してある。ESAは、火星スイングバイに合わせてフィラエの搭載カメラを起動して、ロゼッタ本体と、直下の火星とを撮影したのだった(画像の説明はこちら:Photo by ESA)。
 これは本当に素晴らしい写真だ。ロゼッタの架空の乗組員が、火星スイングバイに興奮してカメラのシャッターを押したような臨場感がある。
 ロゼッタの旅は2014年に目的地のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着するまでしばらく続く。その間には小惑星の接近観測も予定されている。まだまだ私達を感動させてくれるような映像が出てくるだろう。

 さあ、そして今回の「かぐや」の画像だ。

20071009_kaguya_07l_2 photo by JAXA

 これもまた素晴らしい臨場感に溢れる「絵」ではないか。

 上の画像は高度800kmからのものだ。地球なら、地球観測衛星がよく使用する高度である。この高度なら地球はこれほど丸くは見えない。やはり月は小さいのだな、と実感できる。

 いや、本当に宇宙探査というのは面白いものだ。この面白い事業に、もっときちんと予算がつけばいいのに、と強く思う。

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2007.10.08

「ローバー、火星を駆ける」

 早川書房から「ローバー、火星を駆ける 僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢」(スティーブ・スクワイヤーズ著 桃井緑美子訳)が出た。私は、解説を書かせてもらった。

 これはとても面白いノンフィクションだ。

 2004年に火星に着陸した2機のマーズ・エクスポラレーション・ローバー、「スピリット」「オポチュニティ」の開発経緯を当事者自らがまとめた本だ。プロローグに「しかしその前に、2機の探査機がケープカナベラルにあること自体がちょっとした奇跡だった」とある。
 まったくその通りで、著者らが探査機実現のためにくぐらねばならなかった労苦は並大抵ではない。2年ごとにぽんぽん探査機を打ち上げているアメリカだから、研究者達は苦労していないだろう——などと考えたら大間違いで、コンセプトをまとめ、ひたすら提案書類を書き、ワシントンの官僚組織に却下され、またコンセプトを練り直し、膨大な提案書類を書き、また却下、を繰り返す。

 その過程で挫折する者も出るし、載せることが不可能になる観測センサーもある。できると思ったことができなくなることもあるし、楽観視していたところが、容易ならざる困難を秘めていたことが分かることもある。

 アメリカならではの苦労もある。日本だと開発が進んで打ち上げ作業に入った探査機の打ち上げが中止になることはまずない。一方アメリカでは、打ち上げ直前まで中止の可能性が残る。
 2003年の打ち上げではスペースシャトル「コロンビア」空中分解事故の余波を受け、NASAの官僚組織は「失敗の可能性が少しでも確認できるなら、打ち上げない」という態度を取った。そして、最後の最後まで「これって大丈夫なのか」という微妙な未確認部分が残り、著者らは「絶対大丈夫」の証拠を提出するために奔走するのだ。

 それでもアメリカの研究者は恵まれている。提案が却下されれば次のチャンスを目指すことができるから。日本では、次のチャンスを10年以上待たなくてはならない。

 宇宙に興味がある人は必読だ。決してアメリカが、万全の体制で太陽系探査を進めているわけではないことが分かるし、にもかかわらず確かにアメリカの底力というものが存在することも理解できる。

 本当に、科学者にきちんと太陽系全域の探査に必要な資金を回せる体制を作りたいと思う。アメリカは有人月探査を言いだし、日本も尻馬に乗る雰囲気となっているが、「本当に月が行くべき場所か」はまだ分かってはいない。月は単に「距離が一番近い星」というだけだ。

 そして惑星科学者達に聞くと、例外なく「学問的興味はともかく、月って行ってもあまり面白い星じゃないですよ」という。地殻変動も水もないから、元素の濃縮過程が存在せず、鉱床の存在が期待できない。ヘリウム3は、そもそも核融合が重水素よりもずっと難しい。極地の水といっても、本当に氷の形で存在しているか分からない(氷じゃないのではないかという人は多い。これは「かぐや」が確認するだろう)。


 我々がどこに向かうべきかは、月に人が行く前に、無人探査で月を含めた太陽系全域を調べてから決めるべきことなのだ。
 莫大なお金をかけて月に行ったはいいが、「はずれでした」ではお話にならないのだから。


 同時期に早川から出たということで、息抜きにまとめて買うのも一興かと。coco's blogで掲載している、SFやら純文学やらホラーやら、それぞれにビブリオマニアな女の子達の日常を描いた4コママンガだ。SFに耽溺したことのある人なら、「あ〜、あるある」と膝を打つことうけあい。

 私としては、主要なキャラクター5人のうち3人のデザインが「眼鏡につり目で身なりに構わない系」と、かぶっていることに爆笑してしまった。確かに「京都SFフェスティバル」あたりでは、このタイプを見かけるなあ、と。そして彼女たちは話してみると、とてもクレバーでチャーミングなのであった。

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2007.10.05

かぐや、月周回軌道投入に成功、記者会見の様子

Takizawa かぐやは月周回軌道投入に成功しました。

 午前9時から相模原の宇宙科学研究本部で開催された成功記者会見の様子です。

出席者は滝澤悦貞プロマネ、佐々木進・ISAS宇宙情報・エネルギー工学研究系教授、阪本成一対外協力室長

 写真は身振りで、月周回軌道投入時の月とかぐやの位置関係を説明する滝澤プロマネ。


滝澤:発表文読み上げ。


 月周回軌道投入は成功。
 遠月点高度:1万1741km、近月点高度101km、周期16時間42分。

 以下質疑応答。

NHK:月周回軌道投入は、かぐやの観測開始にどんな意味があるか。投入の感想を聞きたい。

滝澤:月周回観測にはとにかく月を回る必要がある。重力天体の周回には、どうしてもクリティカルなマニューバーが必要になる。この実施タイミングは非常に限られており、失敗するとミッションにロスを生じることになる。かぐやの緩速実施に向けて大きく前進した。

 これまでのイベントは順調で衛星も正常だったので、クリティカルなマニューバーではあったが自信があった。それでも、25分間続く噴射の間は非常に長く感じた。

NHK クリティカルということの内容を知りたい。

滝澤:タイミングが非常に限られている。あるタイミングで確実に実施しなくてはならない。このタイミングを逃すと予定していた月周回軌道に入れなくなる。

 もしもマニューバーができなくなると、月の重力の影響を受けて月周回軌道に入れることが難しい軌道に入ってしまう。軌道精度はともかく周回軌道に入れることが重要だったが、結果として高精度の月周回軌道に入れることができた。

朝日新聞:25分間、噴射は継続したのか。月に対して減速しているが、これは姿勢を変えて噴射したのか。速度をどれぐらい落としたと表現できるか。

滝澤:姿勢を変えて25分間噴射し続けた。おおよその話をすると、月が地球に対して1.数kmで、かぐやが0.1kmぐらいで移動している。月にかぐやが近づいて月にひっぱられるので、噴射で月にへの接近を押さえて月周回軌道に投入する。

阪本:どこに基準をおくかで見え方が変わってくるので、少々複雑ですね。


フリーランス青木;今後の高度を下げるマニューバーは、月周回軌道投入に比べて安全なのか。

滝澤:時間的な余裕が大きいので、リスクは少ない。

青木:リレー衛星とVRAD衛星の分離時の軌道を詳しく知りたい。その時の遠月点高度の誤差はどれぐらい見積もられるのか。

滝澤:リレー衛星は遠月点高度2400kmで周期6時間 VRAD衛星は同800km周期3時間、最終的にかぐやが入る月周回軌道は100km円軌道で周期は2時間、高度誤差は遠月点で100km程度は許容される。
 公開されている図では、衛星分離の軌道しか書いてないが、実際の高度を下げるマニューバーは、何回にもわけて噴射を行い、徐々に下げていく。その過程で高度が合ったところで孫衛星を分離する。

赤旗:今後の観測に向けての予定をもう少し詳しく知りたい。

滝澤:100km円軌道投入後、1ヶ月半ほどかけて観測機器の機能確認を行う。実際のデータが出てきはじめるのは12月中旬から下旬にかけてになる。

赤旗:地球の出のハイビジョン画像はどのタイミングで公開されるのか。

滝澤:ハイビジョンカメラのチェックアウトの中で取得することになるだろう。膨大なデータをダウンロードする必要があるので、他の機器のチェックとも考え合わせて、データをダウンロードするタイミングを見計らうことになるだろう。

宇宙作家クラブ松浦:成功の公表が翌日になったが、実際にはどの時点で「成功」を確信したのか。また、よろしければ昨日、寝床に入った時の気分を一言。

滝澤:運用管制室に詰めて、500Nスラスターの噴射をやっている時。モニターには、衛星に加わる加速度や、速度はリアルタイムで表示されていた。それらの数字が予定通りだったので、噴射終了時点でおおよそうまくいったな、と思った。その後の軌道測定が軌道計算が出たのが今朝の5時ぐらいだった。その結果を受けて今日の記者会見を開いた。

佐々木 私も同じデータを観ていたが、噴射終了でうまくいったと思った。セレーネには3つの大きなステップがある。打ち上げ、月周回軌道投入、観測機器機立ち上げだ。2番目まではうまくいったが、まだ機器の立ち上げが残っている。まだ気は抜けないが、ほっとしたといったところだ。

滝澤;やっぱりほっとした。マニューバーの間はやはり緊張しており、内心「うまくいけうまくいけ」、と思っていた。


アビエーション・ウィーク:マニューバーの正確な時刻を知りたい。

滝澤;午前5時55分から始まり、6時20分に終了している。

東京にマイク移る

共同通信:遠月点高度は当初予定1万3000kmほどだったはずだが、そのずれで予定はどう変わるか。また、現在すでに極軌道に入っているのか。

滝澤:その数字は軌道長半径で月の半径が加わっている。だからその数字から月の半径を差しひいて欲しい。すでに極軌道に入っている。

時事通信 推進剤はどの程度まで消費したのか。

滝澤:これまでのマニューバーでおよそ400kgほどを消費している。これは予定どおりである。搭載推進剤にはマージンを設定してあるが、それはほとんど使用していない。


相模原にマイク戻る。


青木:推進剤が余ると観測期間は延びるのか。

滝澤:観測延長は、燃料と同時に月の重力場でかぐやの軌道がどう変化するかによる。月の重力場の分布はかぐやの観測項目であり、まだよくわかっていない。それにより寿命が延びるかどうかは変わってくる。

青木:重力場はどの程度の期間観測するのか。

佐々木:1年間の観測期間中、ずっとデータをとり続ける。2ヶ月程度で最初の結果が出て、その後の観測では精度を上げていく。2ヶ月という期間のは特に物理的な意味があるわけではなく、2ヶ月程度を単位にしてデータの整理を考えていくということである。

東京から

ニュートン:ハイビジョンカメラで地球の画像を公開したが、月の画像を早く公開してもらいたいと思う。観測開始前にハイビジョン画像公開する可能性はあるか。

滝澤:今月19日に高度100km軌道に入ってから、ハイビジョン撮影を行う。どういう画像を取るかは今後ともチームを検討していく。

共同通信:月とかぐやの軌道投入時の位置関係を手かなにかで示してもらえれば。

滝澤:こうなって、ああなって…(身振り手振りで示す)


相模原にマイク戻る

青木:ハイビジョン以外のデータは年内に公開されるだろうか。

佐々木:定常軌道に入ってから観測機器をひとつひとつチェックしていく。中には高電圧を使っているものもあるのでかなり慎重に行う。画像関係センサーは早期にチェックアウトするので12月中旬の前にも画像は取得することになるだろう。画像関連データには小較正が不可欠。較正がうまくいけば、早期の公開が可能になるが、うまくいくとも限らないので、「いつ公開する」というのは現時点では確言できない。

青木:どの観測機器の画像が早期に公開されるのか。

佐々木:なるべく一般の人がわかりやすい画像にしたいとは思っている。年明けには代表的なデータを出していくようにしたいし、そのようにしなくてはいけないと思っている。どんどんデータが公開されるのは年明けになるだろう。


 終了後のぶらさがりにて。

阪本:成功の公表が翌日になったのは、軌道を確定してから公表しようということになったため。軌道確定が今日の早朝になったのは、周期16時間超の軌道の各点で位置測定をおこなって軌道を確定させたからである。
 マニューバー直後に「うまくいったな」という感触はあったわけだが、どんな軌道に入ったかがわからないと「月に願いを!」キャンペーンで集めた名前を「確かに月周回軌道に投入しましたよ」とは言えない。また、報道する側の事情としても、情報を2日に渡って小出しにするのではなく、1回にまとめたほうがいいだろうと判断した。

 実は私、昨日はJAXAiのマンスリートークに出ていたのですが、色々聞かれて大変でした。本当にみなさん、興味を持たれているのでうれしいです。


佐々木:1年間の観測がうまくいき、推進剤に余裕があれば、高度50kmまで下げることも検討している。磁場関係の観測は精度が距離の3乗に反比例するので、高度が半分になれば8倍よいデータを取ることができる。
 月周回軌道に投入した時のデルタVは300m/s。


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2007.10.02

三沢の航研機

Koukenki

 現在、三沢に来ている。宇宙作家クラブメンバーによる閉鎖生態系実験設備を持つ環境科学研究所の見学のため。

 昨日から研究所施設をあれこれと見せてもらい、今日は二週間の閉鎖実験を終了した研究者2名が施設から拍手と共に出てくるところに立ち会わせてもらった。

 最初は宇宙向けの基礎研究として始まった閉鎖生態系研究だが、省庁統合を経て色々と悩みは深い様子。投資して準備していた実験が予算不足その他でできなくなっているという。

 午後遅くから、三沢航空科学館に行く。ここには航研機をはじめ、奈良原二式、白戸式旭号と、日本航空の初期を飾る機体のレプリカが展示されている。

 それはうれしいのだけれども、やはり展示の密度が不足している。博物館という者は、見学者を展示物の密度で圧倒しなければ意味がないのだ。

 航空科学館という名前でわかるように、ここはサイエンスミュージアムもかねており、結果として展示の焦点がぼけてしまっている。航空博物館ならば、航空に絞り、これでもかと飛行機を展示して欲しいところ。屋外にはP-3C、F-104J、T-2などの自衛隊機が展示されているので、これらを屋内に持ち込み、はずしたエンジンと共に別に展示するだけで大分印象が変わるはずなのだけれども。

 写真は、航研機。本物は敗戦のどさくさで、羽田の大鳥居あたりに埋められてしまったそうで、もちろんここにあるのはレプリカ。それでも、この歴史的機体を目の当たりにできるのはうれしい。

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