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2007.11.17

地球の出小史

Earthrise1

(Photo by JAXA/NHK)
 何度見ても素晴らしい。「かぐや」のハイビジョン画像。 アポロ宇宙船は月の赤道近くを回っただけだ。アメリカの「クレメンタイン」探査機は、月の両極上空を飛んでいるが、月面からの高度100kmまでは降りていない。

 これは月の北極から見た、いまだかつて誰も見たことのない風景だ。

 「CGみたいだ」「嘘くさい」という声もある。私達は空気のある地球上で遠近を感じ取るように進化し、適応してきた。私達が嘘くさいと感じるのは、宇宙で撮影された証しだ。

Mifune_moon この19世紀的に「嘘くさくない」画像は、1931年(昭和6年)に三田光一という自称超能力者が念写した月の裏側だ(画像は検索で見つけてきた)。念写、すなわち写真乾板にえいやとばかりに念を込めて写し取ったものだ。…ということになっている。

 日本の超能力研究の先駆者である福来友吉のアドバイスで、「念写以外では見ることができないもの」ということで月の裏側を写したのだという。ところが月の裏側が本当はどうなっているか分からなかった。つまりこの念写された映像が本物かどうか、誰も確認できなかった。念写という能力の実在も確認できなかったのである。

Luna3_2  時代は下って1959年10月、ソ連の探査機ルナ3号が、月の裏側を通過し、17枚の写真を送ってくることに成功した。ルナ3号にはフィルムカメラが搭載されていた。機内でフィルムを現像し、それをファクシミリ伝送した。具体的にどんな装置だったのか興味を引かれるところではある(無重力状態で、液体を扱うのはかなり難しい。現像はどうやったのだろうか)。

 ルナ3号の画像により、三田光一の念写がウソであることが明らかになった——と、私などは思うのだが、トンデモ系の本には、「ルナ3号の映像により三田の念写が真実であることが明らかになった」などと書いてあるらしい。

 まこと、人間は目の前のものをあるがままに見るのではなく、見たいものを見いだしてしまう困った生き物である。

Apollo8_earthrise_4

 そして、この歴史的写真が来る。1968年12月、アポロ8号が撮影した「地球の出」の写真だ(Photo by NASA)。荒涼たる月面と、水が滴りそうな青い地球との対比は、衝撃的だった。人類の地球に対する認識は、この写真以前とこの写真以降に分けられるといっても過言ではない。ここに至って初めて人類は、自分たちが、恵まれた環境を保つ小さな星の上に、カビのごとく繁殖していることを自覚したのだった(「自覚しただけ」、なのかも知れないが)。

 1972年、アポロ計画は17号で終了する。ソ連はその後も無人月探査を続けたが、1976年8月のルナ24号でこちらもお終いになった。1970年代後半から80年代を通じて、月は忘れられた場所であり続けた。

 アメリカではいくつかの月探査の動きが出ては消え、出ては消えを繰り返していた。1980年代、NASAは「ルナ・オブザーバー」という大型の探査機計画を作り上げたが、予算不足から消滅した。予算不足の理由は、スペースシャトルと宇宙ステーションいう予算の大食い虫が、NASAの宇宙計画の中心に座り込んでいたからだった。

Clementain_earthrise_2 予算の壁を乗り越えて、探査機「クレメンタイン」が打ち上げられたのは、1994年のことだった。クレメンタインは本来、戦略防衛構想(SDI)向けの技術を実証する実験衛星だったものを、冷戦終結後に月探査機に転用した、軍とNASAの共同ミッションだった。

 クレメンタインは様々な科学的成果を挙げた。そしてもちろん、月と地球の画像を撮影していた(Credit: U.S. Geological Survey)。が、このアポロ以来の月と地球の映像は、当時全くといっていいほど話題にならなかった。

 21世紀、月への先鞭を付けたのは、欧州だった。欧州宇宙機関(ESA)の計画は、どこかひとつの国が主導する形式をとる。欧州初の月探査機「スマート1」は、スウェーデンが主導する計画だった。2003年9月に打ち上げられたスマート1は、イオンエンジンを使って1年2ヶ月をかけて月周回軌道に到達した。


 欧州も、もちろん撮影した。「地球の出」の画像を!(リンク先にaviファイルがある)

Earthset_2

 そしてかぐやの画像だ(Photo by JAXA/NHK)。

 地球の出の撮影は、月に赴いた者の特権であろう。と、同時に、その画像は人類全体の共有財産でもある。



 アポロ計画で撮影された月面の写真をまとめた写真集。オリジナルのフィルムから高精細スキャンを行った映像は美しいの一言に尽きる。現在は絶版のようでアマゾンではユーズドストアから買うしかない。どうしても欲しいならば、現在も入手可能な英語版を買うのも手かもしれない。


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Comments

松浦様

>ルナ3号にはフィルムカメラが搭載されていた。機内でフィルムを現像し、それをファクシミリ伝送した。具体的にどんな装置だったのか興味を引かれるところではある(無重力状態で、液体を扱うのはかなり難しい。現像はどうやったのだろうか)。


スポンジローラーに別々に現像液、定着液を染み込ませておき、地上からの指示で撮影済みフィルム1連を送り出し現像する方法ではないかと思います。(フィルム送り速度で定着時間の調整ができます。)

この辺は偵察衛星の技術と関連するのですが、当時の技術者はまだ生きていると思います。カメラ雑誌での企画で取材をいかがでしょうか?

Posted by: DVDを見せたがる男 | 2007.11.17 at 11:41 AM

ルナ・オービターもほぼ同様の手法だと思います>フィルム現像とファクシミリ伝送

こっちは

http://www.lpi.usra.edu/resources/lunar_orbiter/
ここからたどれる

http://www.lpi.usra.edu/resources/lunar_orbiter/book/lopam.pdf
に概要が説明してありますよ.

Posted by: 平田成 | 2007.11.17 at 01:49 PM

松浦様

ブログを時々拝見しております。
ロケット打ち上げの写真を含む写真展を開催予定で、
ぜひ松浦様にご案内差し上げたく思ったのですが、メールアドレスの記載が無いようでしたので、
適切かどうかわかりませんが、この場をお借りした次第です。
失礼お許し下さい。

ご関心をお持ちいただけましたら、メールにて一報いただければご連絡差し上げます。
ご不快に思われましたら削除していただいて結構です。

Ota

Posted by: Ota | 2007.11.24 at 02:39 AM

松浦様、TBを打たせていただきました。この映像には正直、涙がでそうになるほど感激しました。

一方(大変恐縮なのですが)次の記事「月からのハイビジョン画像と公共性」を拝見して疑問に思う部分がありましたので、別記事を立てました。のちほどTBを打たせていただく予定です。

ブログおよび日経の記事、いつも楽しく拝見させていただいております。今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: MANTA | 2007.12.05 at 02:20 AM

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