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2007.12.28

初音ミクとJASRAC

 初音ミクと日本音楽著作権協会(JASRAC)の話。

 8年前の取材経験に基づいて書くので、事実誤認が紛れ込むかもしれない。それでも記者として知り得たことはネットに還元しておいたほうがいいと判断するので、以下書いていきます。
 間違いに気が付いた方は、コメント欄で指摘して下さい。

 「カスラック」という蔑称に代表されるように、ネットにおけるJASRACの評判は極めて悪い。

 例えばJASRACは「放送通信融合」の敵か味方か--菅原常任理事に聞くというCNET Japanの記事に対するはてなブックマークの反応を見ると…「JASRACの負の部分が凝縮された、ある意味永久保存版の記事。見識の無さをここまで披露してくれてありがとうと言いたい。」「ラスボスらし過ぎるwww」「そりゃ日本の音楽が衰退していく訳だわ」などなど、JASRAC非難のオンパレードだ。

 ただし、ここで注意しなくてはならない。JASRACのような組織がないと立ち行かないこともまた存在する。

 例えば日本人作品に対する海外からの権利金徴収だ。JASRACは世界各国の音楽著作権管理団体と協定を結んで、日本での海外作品の著作権料を送金すると共に、海外からの著作権料を受け取り、国内の権利者に分配している。このような業務はJASRACのような組織でなくては難しい。

 初音ミクと終わりのはじまりに付いたぴょんきちさんのコメントにあるように、JASRACがあることでルールが明確化され、フェアユースが可能になる案件も存在する。

 それでは、なぜJASRACがかくもネットで嫌われるのかといえば、ネットが出現したことにより、これまで存在し得なかったような新たな創造的な場が出現しつつあることに対して、従来の著作権の考えをそのまま拡張し、押しつけようとしているからだろう。

 つまりJASRACは新たなテクノロジーの出現に対して、どのように対応すれば、よりみんなが音楽を楽しむことができるようなるか」という発想ではなく、「従来の著作権の考えに、いかにしてネットのような新しい媒体を組み込むか」という発想しか持てないでいるのだ。

 その背景はCNET Japanの記事に現れていると、私は思う。

 この記事の中で、菅原瑞夫常任理事は、徹頭徹尾、お金の話しかしていない。CNET Japan側がインタビュー内容を取捨選択した可能性もあるが、読んだ印象では「金に関する部分の話が圧倒的に多かったのでそこを中心にインタビュー記事を構成した」のではないかと思う。

 菅原理事がお金の話しかしていない理由を私なりに推察すると、菅原理事が、事務方出身だからではないだろうか。

 JASRACの議決機関、そして組織図を見てもらいたい。なぜか会長と理事長が存在し、総会、評議員会、理事会と3つの議決機関が存在している。総会は言ってみれば株主総会のようなものだから、ここでは除こう。日常的な意志決定は評議員会と理事会が行っている。

 実はJASRACの意志決定のシステムは二重底になっている。会長と評議員会は会員、つまりクリエイターや所属する法人の関係者で構成される。

 一方、理事長と理事会は事務方、つまりクリエイターだけではなくJASRACの社員も入って構成されている。定款によると最大29人以内とされる理事のうち、18人以内は評議会で選ばれるクリエイターだ。しかし実際問題として、理事の中から理事長が選ぶ常務理事及び常任理事が強い力を持っている。これらの席はほとんどJASRAC社員、つまり事務方が占めている。


 定款を見るとそれぞれの議決機関の役割分担が書いてある。簡単に言うと、クリエイター側の評議員会はお金の分配方法を決め、一方事務方主導の理事会は、お金の徴収方法を決定している。
 とはいえ1つの組織に2つの意志決定の仕組みがあるので、そこには力関係が存在する。

 ここからは8年前に取材していた時の実感となる。実際問題として、理事会と評議員会とのどちらが力があるかというと、圧倒的に理事会だった。
 まず、クリエイターの集まりである評議員会は、まとまらない。もともと一匹狼気質の強いクリエイターが集まるのだから、議論百出でまとまるものもまとまらなくなるのが当然だ。

 さらに、クリエイター側には、演歌関係者とそれ以外という内部対立も存在する。いわゆる古賀問題だ。

 JASRACは1994年に新橋から現在の代々木上原に移転した。その時に、JASRACから古賀政男音楽文化振興財団へ、ビル建設費用78億円が無利子で融資され、しかも完成後のビルにJASRACが入居したのだった(このあたりこのあたりを参考にしてほしい)。現在、JASRACと同じ敷地には古賀政男音楽博物館が入っている。

 私も詳細は知らないのだが、8年前に関係者から聞いた時の口ぶりでは、先生-弟子の人間関係が非常に強い演歌関係者が「古賀先生のために」と、JASRACの資金を一部理事の協力を得て、その他のクリエイターに無断で古賀政男を記念する施設を作るために、不明朗ななあなあの意志決定で使ってしまったらしい。当時、カラオケ施設からの著作権料聴取が進み、演歌関係者はかなり潤っており、同時にJASRACでの発言権も増していた。

 演歌以外からすれば「俺たちの著作権料をなんてことに使ってくれたんだ」ということになる。このことは、演歌とそれ以外のクリエイターの間に深刻な対立を引き起こした。結果、ただでさえまとまらない評議員会は、ますますまとまらなくなってしまった。

 さらに困ったことに、演歌関係者の多くは技術革新に見事なぐらいに疎かった。つまり評議会で「新たなネット社会に合わせた著作権のあり方を考える」としても、かなりの勢力を持っていた演歌関係者は「なにそれ? そんなこと必要なの?」状態だったのだ。

 ちょうど私が取材していた頃は、「こんなことではいけない」と、カシオペアの向谷実さんや、「うる星やつら」の音楽で知られる安西史孝さんなどが、評議員として活動を開始した時期だった。しかし、今のJASRACを見ると、どうもこの活動はなかなかうまくいかなかったように思える。

 クリエイター側がこのような状態である一方で、事務方が力を持つ理事会は、基本的な体質が官僚である。つまり「権限を大きくする」という意識が先に立ち、事業目的にある「音楽の著作物の利用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発展に資する」という部分への配慮が足りない。

 権限第一の官僚的思考をJASRACに当てはめると、著作権の強化もネットからの徴収も、JASRACに集まる著作権料を増加させるので組織にとっての正義であるということになる。「取ることは、著作権者のためだ、その分著作権者にお金が回るのだから正義である」という大義名分もある。

 この結果、JASRACは「取れるところからどんどん取る」というコワモテ体質になってしまい、今やネットでカスラックと罵られるようになっている——これが私の現状判断である。

 今回の初音ミクの問題をJASRACとネットの関係で見ると、「ネットに出現した新たな創造の場をどう見るか」という問題に帰着するように思う。JASRACの事業目的に「音楽文化の普及発展に資する」とある。ネットに対してこれまでのやり方を押しつけるだけでは、事業目的に違反することは明らかだ。JASRACは、どう振る舞うことが音楽文化の普及発展に資するのかをよくよく考えたほうがいい。

 それが絵画であれ音楽であれ、創造は模倣から始まる。模倣無くして創造はあり得ない。今、ネットに誕生しつつあるのは模倣と相互評価による世界規模の切磋琢磨の場ではないだろうか。
 私には、これを著作権を楯にして、潰していいとはとても思えない。

 菅原理事は、CNET Japanのインタビューで、「切り貼り”は創造にあらず」などという、不見識をさらしてしまっている。引用とコラージュが現代芸術の一大問題であることを、音楽に関係する組織の管理職が知らないとしたら、それは職務怠慢ですらある。

 一つ、私が希望を見るのは、現在の理事長が加藤衛氏であることだ。この人は文部官僚の天下りではなくJASRAC生え抜きで、私が取材していた頃は理事になったばかりだった。かなりのやり手であり音楽書誌の電子データ化やオンライン登録・徴収システムの整備に積極的に取り組んでいた、
 当時は記者会見などで唯一まともなことを言う理事という印象だった。この8年間、彼が気骨を貫いていたら、あるいは良い解決法を打ち出してくれるかもしれない。

 まあ、加藤理事長が今のコワモテの姿勢を指示している可能性も否定はできないのだけれども。このあたりは、現在取材をしていないので、私にはなんとも言えない。

 なお、JASRACの評議員会の様子は、作曲家でヴァイオリニストでもある玉木宏樹氏のホームページ内の、音楽著作権のJASRAC問題というページで、そのいくらかを知ることができる。

 以下は余談。本題とは関係ないのだが、JASRACに関連して思い出したので、備忘録としてここに書き記しておく。

 JASRAC60周年のパーティでのことだ。何日だったかは忘れたが、1999年11月15日にH-IIロケット8号機が打ち上げに失敗した直後だった。

 ホテルオークラの大きな宴会場には、音楽関係者だけではなく官僚も政治家も来ていた。当時、JASRACの理事長は文部省からの天下りの加戸守行氏(理事長を退任後、愛媛県知事選に出馬して当選)から、小野清子氏に変わったばかりであり、パーティは新理事長のお披露目も兼ねていた。小野理事長の横には風船を付けたJASRACの職員が付いていた。風船は、新理事長に挨拶に来る人に居場所を知らせる目印で、似たような風船は、会場に集まった文教族の政治家の後ろにも立っていた。

 当時取材で付き合いのあったとある音楽プロの社長が、理事長の風船を指さして声を潜めて言った。

「見なさい。いくらオリンピックで銅メダルを取った体操選手だからと言って、音楽のことが分かっているわけではない。まるで無知ですよ。誰か偉い人が言ったんでしょう。『JASRACあたりで次の選挙まで腰掛けしておきなさい』って。ふざけてますよ!」

 小野清子理事長はその前年の参議院選挙で落選し、浪人中の身だった。就任当初は「腰掛けではなく3年の任期を全うする」と発言していたが、2001年には選挙に出馬するため任期を18ヶ月残してJASRAC理事長を辞職している。その間の年俸は3700万円。退職金は1000万円だったそうだ。

 私は小野新理事長に近づき、話しかけた。どんな人にも名刺一枚で話しかけられるのは記者の特権である。すぐに分かったのは、新理事長が著作権のなんたるかを理解していないということだった。こちらの質問に対する返答に詰まると、お付きのJASRAC職員がこしょこしょと後ろから耳打ちしていた。「まるで二人羽織だな」と私は思った。
 この人に何を聞いてもニュースは取れないと判断した私は、そこから離れたのだった。

 その場には小野理事長を押し込んだ“偉い人”らしき人物も来ていた。小渕恵三内閣総理大臣である。この時私は、小渕総理と数語言葉を交わし、かなりのショックを受けたのだが、これはまた別の話になるのでいずれ。

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2007.12.27

「かぐや」ハイビジョン画像で、MiAUに動きあり

 著作権に関連して。

 ここと、nikkeibp.netで書いてきた、月探査機「かぐや」のハイビジョン月面画像の事。

 ネット著作権について積極的な活動をしているMiAU(インターネット先進ユーザーの会)が、動き出した。

【MiAUの眼光紙背】第7回 その映像は誰のため?〜ネットで視聴できない月の高画質映像

 MiAUは、なんらかの形でネットユーザーの声をNHKに伝えられないかと考えている。

 この件でMiAUの方とも会って話をしたが、「NHKがそう簡単に態度を変えるとも思えない」というところで意見は一致した。

 結局NHKがよほどあわてる事態にならなければ、今の態度を押し通すだろう。NHKがあわてるとしたら、政治家が動いて次年度の予算が国会を通らなくなるということぐらいしかない。そうなれば、NHKの政治部記者出身の会長秘書あたりが、「ご説明」と称して永田町界隈の議員事務所を大あわてで飛び回ることになるだろう。

 が、ネットの民意で政治家が動くというのも、現状考えにくい。MiAUとしては、とにかくできることやって、NHKの現状をより広く広報しようという作戦のようだ。

 もっともこんなことをやっていれば、NHKは早晩国民の各階層から総スカンを食うことは間違いない。

 JAXAは、この件に関してはNHKと共犯とも言える部分がある。それでも内部では「広報的にハイビジョンカメラが意味あることは分かった。民生用HDTVカメラがこれだけ安くなっている今、次の機会があってもNHKと付き合いたくない」などという声も聞こえてきている。当然だろう。

 「どうして、あそこ(NHK)は、ああ頑なかねえ…」という「かぐや」HDTV搭載の震源地の一人である某先生の嘆きも聞こえてきていたりして。

 今回の件はNHKにも損になっているわけだが、先日は「クローズアップ現代」のオープニングに使ったハイビジョン画像に「JAXA/NHK」のキャプションが写り込んでいるという事態も起きた。
 自分のところの番組でも、JAXAと結んだ囲い込みのための協定のためにキャプションを入れねばならないわけだ。入れなければより画面がすっきりするというのに。

 …と思っていたら、かつてNHKで働いた経験者から「いや、横のつながりが悪くて、『クローズアップ現代』の関係者が、キャプションなしのハイビジョン素材を手に入れられなかったのかも知れませんよ。とにかくNHKは組織内の横のつながりが悪いですから」と指摘された。

 なら、なおさら悪いわなあ。

 もっとも、MiAUに関しては、その後ネットの著作権画像のダウンロード違法化という重大問題が発生したので、どこまできちんと動いてくれるかは今後の状況次第だ。

 これまた重要な話であるので、近日中に書くことにする。私のスタンスは、「違法サイトのダウンロード違法化に反対」である。

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 2008.2.21記:ささやかながら、増刷がかかりました! 買って頂いた方、どうもありがとうございます。まだの方もよろしくお願いいたします。

Rocket140of

最新刊「昭和のロケット屋さん」発売中
おはなし:垣見恒男、林紀幸 ききて:あさりよしとお、笹本祐一、松浦晋也
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 戦争に負けた日本は、まだ貧しかった。目標は高く遠かったが、意気軒昂としていた。ペンシルロケットからミューロケットまで、第一線でロケットを作り、打ち上げてきた2人が語る日本宇宙開発草創期。荒っぽくていい加減で、それでも生き生きとしていた熱い日々のおはなし。

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2007.12.26

トップに広告、新規カテゴリー追加、そしてJASRAC

 ココログの機能を利用して、トップに「昭和のロケット屋さん」の宣伝を置いてみた。一月ほど掲示してからサイドバーに持っていく予定。

 これから記事をあれこれ書く予感がするので、新たに「初音ミク関連」というカテゴリーを作った。今後増えるであろうボーカロイドについてや、音楽著作権の話などはこのカテゴリーに入れることにする。

 JASRACについて、少し書いておくべきなのであろう。もう8年前だが、2年間代々木上原に通って取材した相手だ。色々問題の多い組織だが、だからといって「カスラック」と罵っておけば良いというものではない。

 とりあえず参考になりそうなリンクを以下の通り捜してみた。

「補償金もDRMも必要ない」——音楽家 平沢進氏の提言 :ITmedia 2006年6月12日
 平沢進氏は、著作権管理についてかなり先鋭的な主張をしてきたアーチスト。この記事は、アーチストの側からJASRACの管理のどのあたりがうっとうしくて理不尽に見えるかを概観することができる。
 特に、音楽著作権の管理が、今やJASRACの独占ではないこと。にも関わらず、一般開放されたのは録音権のみで、その他関連権利はまだJASRACの独占であることは要注意だ。
 この著作権管理の民間への開放は、ちょうど私が取材していた時期に色々と紛糾していたところだ。なるほど、こんな結果になったのか。
 「開放」といいつつ「録音権」だけ開放というのは、いかにも霞が関がやりそうな手段だわい、と思うのである。

八分音符の憂鬱:みっくみく問題考:作曲家の吉松隆氏のblog
 実際にJASRACに権利委託をしている作曲家によるこの問題に対するコメント。

夏休み雑談・作曲家と著作権:月刊クラシック音楽探偵事務所(2007年8月10日)
 同じ吉松氏による、著作権に対する論考。しゃれにならない実態が赤裸々に描かれている。
 吉松氏は、一般向けに著作権の話をしばしば書いていて、私は作曲家である:第3章■作曲家という仕事にも、著作権の話が出てくる。なるほど、JASRACの取り分は29%か…

JASRACは「放送通信融合」の敵か味方か 菅原常任理事に聞く(CNET Japan 2007年12月26日)
 JASRACの態度は、この記事にはっきりと出ている。YouTube問題について「契約体系については、地上波テレビ局同様、総収入の2%をお支払いいだだく形になります。」とあるが、うち29%がJASRACの手数料であると仮定すると、事業者の総収入のうち約0.6%がJASRACの収入となる計算だ。
 日本テレビを例に取ると、2006年度の総収入は3436億円なので、2%の69億円がJASRACに支払われ、うち18億円ほどがJASRACの収入となるわけだ。


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2007.12.25

初音ミクと終わりのはじまり

 久し振りに野田司令に会ったら、「初音ミクはどうした?」と言われた。

 もちろんいじっております。試作品もあります。が、なかなか腰を据えて歌わせることができないのでありますよ。

 その間にも世界は動いていて、ニコニコ動画では初音ミクをフィーチャーしたオリジナル曲はどんどん出てくるわ、マッシュアップが進んでとんでもない高クオリティの映像が付くやらで、素晴らしい事態が進行しているではないか。

 こういうものは参加してみるに限る。是非とも自分も混沌広がるマッシュアップの場に乱入してボコボコにされてみたいのだけれど、悲しいことに私には野尻抱介さんのように、ささっとセンスの良い作品を作る能力はないのであった。あまりにうらやましかったので、野尻さんの投稿に、「先生なにやってんですか」とコメントを付けた…というのはウソですが。

 いやもうなんてえか。もっとやって下さい。

 ここに来て、ネットのムーブメントを旧来の権利処理の方法でビジネスをしようとしたドワンゴ(ニコニコ動画を運営するニワンゴに出資している。ちなみにのまネコ問題でミソ付けたエイベックスの関連会社でもある)と、初音ミク発売元のクリプトン・フューチャー・メディアの間で、トラブルが発生していたが、この度無事解決した。

 詳細はまとめWikiをみてもらいたい。要約するとニコニコ動画で短期間のうちに200万アクセス超えるヒットとなった「みくみくにしてあげる」という曲を、ドワンゴがカラオケに使おうとした際、JASRACに登録したことから、これまでネットで自由にマッシュアップされてきた曲が使えなくなるとしてネット利用者から大きな反発が起きていたのである。

 旧来の著作権ビジネスを展開しようとしたドワンゴが、著作権無視の花園に開いた花であるヒット曲を自分一人でつみ取ろうとしたことの帰結がこれである。

 明らかに、なにか今までとは違う事態が進行している。
 
 私は1998年から2000年春まで、つまりサラリーマン生活の最後の2年間、音楽のネット配信関連の取材に従事した。その時にずいぶんと音楽関係者に会ったのだけれど、つくづく感じたのは「音楽業界は嫉妬の連鎖で構成されている」ということだった。

 以下は一般論として読んでもらいたい。

 音楽業界に身を投じる者に音楽嫌いはまずいない。その多くは最初、自分がミュージシャン、クリエイターとして成功することを夢見ている。しかし、目標を達成するのはごく一部だ。残る者のうち一部はバックバンドやスタジオミュージシャンとなる、そこからも脱落すると、今度は音楽プロダクション関係者としてマネジメントや経営に携わることになる。

 つまり、夢破れた者が、かつて自分も追いかけた夢を実現した者を管理することになる。

 音楽プロダクション(業界的には音楽出版社などという)からも脱落した者は、より音楽から遠い場所、すなわち業界団体の事務などに流れていく。脱落に脱落を重ねた者が、業界を束ねて関係官庁との折衝を行うのだ。

 これに、地方のコンサートなどを仕切るプロモーター(彼らの多くも夢やぶれた者だ)や、興行に張り付いてくるヤクザなどを加えると、嫉妬と権力とのドロドロの場ができあがる。「なるほど、美空ひばりが絡め取られたのはこれか!」と取材で何度も思ったものだ。

 このどろどろの場が崩壊しない最大の原因は金だ。音楽の世界はヒットしなければ、極貧のどん底でのたうち回ることになる。しかし、その一方で一発ヒットが出ると、投資に対するリターンがとんでもない比率となる。
 つまり、音楽のクリエイターとしての才能がなくとも、業界に張り付いてヒットのおこぼれで食っていこうと思えば、食っていけるのだ。

 そのような資金のリターンを保証しているのが著作権を初めとした各種権利であり、JASRACというわけだ。JASRACは同時に、著作権料回収代行の手数料を徴収している。ヒット曲となるとこの額はバカにならない。それは同時に日本一の弱小官庁などと言われる文化庁にとって、とても貴重な利権になっているわけである。 

 結論を言えば、音楽業界は、一部のクリエイターの才能に、多くの関係者がぶらさがって食っている世界なのだ。

 初音ミクの件は、そのような業界構造が崩壊に向かう一つの象徴なのではないかという気がする。

 才能というものは、ダイヤの原石よりもキノコのほうによほど似ている。条件さえそろえば、勝手に生えてくる。
 食えるかどうかの判別に、知識と才能が必要という点もキノコそっくりだ。そして音楽業界を仕切っている者のすべてが、才能を見抜く能力を持っているわけではない。

 クリエイターとしては、創造の喜びと、人々の称賛、そして普通に暮らす生活費があれば十分だ。しかし業界はそれでは困るので、利益を最大にするための色々な仕組みを作り上げてきた。著作権のありようなどもその一つである。アーティストが音楽プロに所属するというシステムや、原盤権という権利も、あるいは送信可能化権などというものもそのうちのひとつだ。

 しかし今や、ニコニコ動画のように、才能と大衆が勝手に集まってきて音プロもJASRACもなしで楽しく遊ぶ場が動き出してしまった。
 もちろん、ヒット曲には対価が必要だろう。カラオケ配信で儲けたっていい。そこにJASRACが入ったってまあ良し。
 でも、そこだけにしといてもらいたいというのが、多くの人の感じるところじゃないだろうか。ネット配信の制限だの、マッシュアップが著作権侵害だの、JASRAC余計なことしてくれるな、ということだろう。

 私としては、音楽シーンのごく一部が現在のような巨大ビジネスになっていることのほうが、異常だと思っている。歌は英語でAir、空気だ。空気のように無償で、口伝えで、多くの人々の間に広がっていくのが、本来の歌ではなかったか。そして今や、ネットという歌を伝える新たな媒質が存在している。

 1994年に日本でインターネットの一般への開放があった時、「これで世界は変わる」と言っても理解できない人は多かった。あれから13年、そろそろ色々な変化がでてきたな、という気がする。

 それにしても、うう、自分もマッシュアップに参加してみたい!

 著作権については、色々書きたいことがあるので、この話題は続きます。

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2007.12.24

映画:ピンチクリフ グランプリ

 某所に、マニアな人たちがDVDを持ち寄って上映会を開いたと思って頂きたい。

 そこで観たこの映画。ものすごく面白かった。

 1975年ノルウェーの人形アニメーションだ。

 お話は、アマゾンの紹介ページにある通り。ピンチクリフ村に住む自転車修理工フェンゲンが、同居人のアヒルやハリネズミと一緒に自動車を作ってレースに出場するというたわいもないもの。トニー・カーチスとジャック・レモンが共演した「グレートレース」(1965)や、ハンナ・バーバラのアニメ「チキチキマシン猛レース」のような、レトロなスーパーメカが活躍する「男の子の夢一杯」の映画である。

 ところが、セットも人形の動きの付け方も、とにかく丁寧で細やかなのだ。じっくり時間をかけて、丁寧に丁寧に作っていることがじわじわと伝わってくる。

 終盤のレースシーンは一転して、およそ人形ものとは思えないものすごい迫力となる。このDVDを持ってきたKさんによると「スターウォーズ・エピソードIVのデススター破壊シーンは、この映画を参考にしたんじゃないか」と言っていたが、実際そんな感じ。スターウォーズの疾走感が、サンダーバードの特撮で再現されている。素晴らしい!

 ストーリーも、どこが取り立ててということはない。もちろんレースを妨害する悪人が出てくるのだけれど、彼らがとんでもないしっぺ返しを食うわけではない。主人公達の人生が、レース後に激変するわけでもない(いや、ひとつだけ変わるものがある。それは観てのお楽しみ)。

 それがいいのだ。

 帰宅してからアマゾンでぽちっ。


 そういえば、「こまねこはどうなった?」と、アマゾンで調べてみると、うわ、こっちも出てるよ。これもなんというか、ほのぼのとしたいい人形アニメだったなあ。で、こっちもボチリ…

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2007.12.23

宣伝:新著「昭和のロケット屋さん」が12月19日に発売されました

Rocket300of
おはなし:垣見恒男、林紀幸
ききて:あさりよしとお、笹本祐一、松浦晋也
amazon bk1

エクスナレッジ刊 1890円(税込)


 お待たせいたしました。新宿・歌舞伎町のロフトプラスワンで開催しているトークライブ「ロケットまつり」の内容をまとめた本ができました。

 日本宇宙開発創世記、若くしてペンシルロケットの設計に従事し、ミューロケットまでの基本ラインを設計した垣見恒男さん、内之浦からのロケット打ち上げに、ロケット班長として従事し、定年までに上げたロケット5万発…ではなく400機超の林紀幸さんのおふたりから、ロケット開発の現場で起きる、あんなことやこんなことを聞き出した記録です。聴き手は、あさりよしとお、笹本祐一、そして私です。

 お値段はソフトカバーにしてはやや高め、なのですが、実は初期のロケットの映像を収録したDVDが附属しています。東京大学が制作したペンシルロケットの記録映画、そしておそらく本邦初公開の内之浦におけるカッパロケットの事故映像です。

 我々は、打ち上げのたびに現場に出かけて行ってはいるものの、結局のところ傍観者です。現場で実物に関わっているわけではありません。「延期かよ、つまらんなあ」とか言いつつ、こっちが酒を飲んでいる間も、関係者はトラブルシューティングに必死になっているのです。

 本当の現場を知っている垣見さん、林さんの話の面白いのなんのって、「うわ、こんなことやっていたんだ」というとんでもない話続出の一冊です。

 希望だけが大きくて、実力が追いつかなくて、それでも意気軒昂と宇宙を目指していた初期宇宙開発の記録です。

 この本が売れますと、続編への希望がつながります。今、ロケットまつりでは、垣見さん林さんに加えて、さらにゲストも増え、ますますとんでもない話が飛び出してきている状況です。続編に向けて、是非ともお買いあげ頂ければと思います。

 まとめて宣伝してしまいましょう。火星探査機「のぞみ」の苦闘を描いた「恐るべき旅路」が、版元の朝日ソノラマの清算に伴って、朝日新聞社から再発売されました。誤字脱字などを修正してあります。
 こちらもよろしくお願いいたします。

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2007.12.06

宣伝:12月8日土曜日、阿佐ヶ谷ロフトAのトークライブに出演します

 ロフトプラスワンのロフトプロジェクトが、12月から中央線沿線の阿佐ヶ谷にロフトAという新しいライブスペースを開店しました。

 開店記念イベントの一環で、ロケットまつり出張版を開催します。出演は林紀幸さんと私だけで、失敗に関する話を突っ込んでお聞きする予定です。

12.8(Sat) ロケットまつりin阿佐ヶ谷
<失敗なければ成功なし〜ロケット一代男が思ったこと>

林紀幸(元ロケット班長)
松浦晋也(ノンフィクション・ライター)

OPEN 18:30 / START 19:30
¥1,500(飲食別)
場所:阿佐ヶ谷ロフトA
、東京都杉並区阿佐谷南1−36−16ーB1(地図)
TEL:03-5929-3445


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