いずれ星の世界へ
- 高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
- 可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。
- 充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
——クラークの3法則——
アーサー・C・クラークの訃報を聞く。享年90歳。小松左京と並んで自分に非常に大きな影響を与えた作家。
いつのころからか、この人は死なないのではないかと思いこんでいた。そのうちしっぽが生えて2つに裂けて、オーバーロードと化すんじゃないかと。
確か、2020年だったか40年だったかに、自分が月面であれこれしているというドキュメンタリーも書いていたはず。
クラークとの出会いは小学5年生の夏休み。母方の祖父母の家に叔父が残していた銀背のハヤカワSFシリーズの「SFマガジンベストNo.1」に収録されていた。
「太陽系最後の日」。クラークが作家デビューを飾った短編だ。
太陽が膨張して最後の日を迎えた地球を探検する異星人達。地球人を捜すがどこにもいない。地球人はどこだ、灼熱の太陽から逃れて地下に潜ってしまったのか。
そして地球人を捜し回る彼らが見た驚愕のラスト。
処女作には作家のすべてが現れるというが、「太陽系最後の日」にも後のクラークを特徴付けるすべてがはいっている。正確な物理学的描写、壮大なヴィジョン、切れの良いアイデア、宇宙へのあこがれ、そして底抜けの楽天主義。
叔父の残した「SFマガジン」バックナンバーで「木星第五衛星」を読んだのも同じ夏だったはずだ(今調べたら1964年10月号だった。東京オリンピックの頃の号だ)。こちらも私を深く魅了したが、そこで描かれた軌道運動を理解したのは大分後のことだった。
本格的にクラークの作品を読み始めたのは、中学に入ってからだ。創元推理文庫の「地球幼年期の終わり」は何度読み返したかわからない。SFマガジンで「宇宙のランデブー」の連載が始まったのは中学2年の時だ。市立図書館に入っていたSFマガジンで毎回興奮しつつ読んだ。そこからはもうなんでもありだ。大学に入ってからはクラークの本とあればなんでも買って読んだ。
人によって、薦める作品は違うだろう。「地球幼年期の終わり」もいいし、「都市と星」も「渇きの砂」も、「海底牧場」も「宇宙島に行く少年」もいい。
でも私は彼が1970年代に発表した3つの長編が、一番印象に残っている。
「宇宙のランデブー」「地球帝国」そして「楽園の泉」。
三重のエアロック。幼なじみとのペントミノの思い出。聖地に飛び来る蝶——読んでいない人にはなんのことかと思われるかもしれないが、ああ、思い出すと涙が出てくるではないか。
彼ぐらいになると、彼の肉体が彼なのか、彼の残した情報が彼自身なのか判然としなくなる。
だから、いかなる弔辞も無用なのだろう。クラークという名のミームはこれからも世間を巡る。
そしていずれ星の世界へも。
冬樹蛉さんによると、SFには茶筒SFというサブジャンルが存在するそうだが、その元祖。「圧倒的に巨大な未知がただそこにあるというだけで読者を魅了してしまう類のSF」というのが定義である。
本作品の“茶筒”とは、はるか宇宙から太陽系目指して飛んでくる異星人の宇宙船のこと。円筒形をしているのだ。
やってきた巨大茶筒宇宙船に、人類は探検隊を送り込む。どうやって中に入るか、内部はどうなっているのか、異星人とは接触できるのか——スリリングな状況とはうらはらに、ストーリーは淡々と進む。それがどういうわけか面白い。無茶苦茶面白い。
後にクラークはジェントリー・リーとの合作で続編を3編書くがそちらは大して面白くなかった。「宇宙のランデブー」は、これ一冊で十分である。
え?「地球帝国」は絶版なの?!なんてことだ。
遙かな未来、土星の衛星タイタンの権力者が行う地球旅行を淡々と追っていくという一見単純な物語だが、しみじみと面白い、クラークらしさに溢れる作品。
「軌道エレベーターを建設する」、ただそれだけの作品なのだけれど、この面白さをどう形容すればいいのだろう。
軌道エレベーターとは地上と静止軌道を結ぶ長大な「宇宙と地上を結ぶエレベーター」のこと。途方もない巨大建築物だが、原理的には建設可能であることが検証されている。クラークは一人の技術者が人生をかけて軌道エレベーターを建設する様を淡々と描いていく。
同時期、チャールズ・シェフィールドが同じく軌道エレベーターの建設をテーマとした「星ぼしに架ける橋」(ハヤカワSF文庫)を出版した。ストーリーとしてはこちらのほうが起伏に富んでいるのだけれど、面白さも完成度も圧倒的に「楽園の泉」のほうが上だと思う。
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Comments
人類の旅立ちを見送ったオーバーロードの気分です。
昨日の朝のNHKラジオでクラーク氏へのインタビュー経験のある方が思い出話をされていました。
「衛星通信の論文を書いたのは世界平和に役立つと考えたから。戦争が起こるのは人々が誤った情報を信じるからであり衛星を利用して全世界同時に正しい情報を受信できれば戦争は無くなる。それから通信衛星の特許料で月旅行を実現したかった」
まさに偉大なる楽天家。
彼が望んだ地平を我々は一歩でも引き寄せることができるでしょうか。
>茶筒SF
1817年10月、ロンドン塔の宝物殿にて王室所蔵宝石類管理人のエドワード・レントル・スウィフトとその妻が空中に浮遊する大人の腕くらいの大きさのガラス管のような円筒形物体を目撃。「ノーツ・アンド・クエアリーズ」誌上(1860年)にてその体験を語った。(『倫敦幽霊紳士録』より)
なにやらけったいな代物がとっくの昔に来訪済みの模様ですが。
イギリスの話だそうですがオカルトへの関心も高かったというクラーク氏はご存知だったのかな。
Posted by: 空天 | 2008.03.22 at 09:28 PM