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2008.04.24

書籍紹介:「中国動漫新人類」

 書評仕事で回ってきた本なのだけれども。あまりに面白かったのでここでも紹介する。中国における日本アニメ需要に実態を追った——だけの本と思っていたら、とんでもない。中国人のメンタリティの部分にまで降りていった本格的な分析書だった。

 テレビアニメというサブカルチャーが予想以上に大きな影響を中国の若年層に与え、それは権力構造を揺るがすまでになっているという内容だ。

 まず中国の大学生に対するフィールドワーク。男女問わず、ドラゴンボール、スラムダンク、セーラームーンなど、広範囲の日本漫画とアニメが若年層に巨大な影響を与えているのだという。

 続いて中国に置ける日本アニメ受容の歴史だ。最初は1981年の鉄腕アトム放映で、その後大量に放送されるようになる。ビデオCDによる海賊版、漫画本も海賊版が安く大量に出回るようになった。

 ターニングポイントは、1989年の天安門事件だった。中国指導部は、彼らからすればはっきりと思想性を読み取れるハリウッド映画を警戒しきびしく検閲するようになった。その一方で、開放経済政策で、国民に誰もが豊かになれる幻想を抱かせ、治安を維持しようとする。その中で、日本の漫画、アニメは「人畜無害」「この程度の子供だましに人民がうつつをぬかしてくれれば、好都合」ということで放置、黙認された。

 ところが中国政府は、例えば手塚治虫が鉄腕アトムに込めた深い思想を見過ごしていた。そう著者は指摘する。

 中国の子供達にとって「努力、友情、勝利」も「恋愛」も「自由」も、日本のアニメ、漫画の中で光り輝いているものだった。中国の若年層は、日本のアニメや漫画を通じて、民主主義を体感として学ぶことになった。

 同時に著者は海賊版の存在を積極的に評価する。海賊版が安く出回ることで、中国人民は貧困層にいたるまでが等しく日本のアニメ・漫画に触れることになった。海賊版のおかげで日本のコンテンツは中国で巨大な影響を持つことになった。

 同時に、安価な海賊版を買うことで、子供達は「自分がお金を出して自分の漫画、自分のアニメを買う」「自分で好きなものを選び取る」という資本主義の基礎を体で学んでいった。

 その一方で、著作権を厳しく管理したアメリカのコンテンツは、それ故に中国市場での影響力を失った。

 海賊版というのは、つまりヒットソングにおけるラジオでのへヴィ・ローテーションのような役割を果たしたということだ。

 話は江沢民による反日教育にも及ぶ。今の若い世代は反日教育で育っている。その一方で、日本アニメ・漫画は生活に浸透しており、彼らは2つのスタンダードを使い分けている。アニメもマンガも好き、でも日本の首相が靖国に参拝するのは許せない、というように。

 1989年の天安門事件以前、毛沢東から四人組に至るまでで中国社会のたがを締め付けていたのは「革命」だった。「反革命的」と烙印を押されると、それは社会的な、そしてかなりの場合、身体的な死をも意味した。こうなると人々はこぞって革命に奉仕する姿勢をみせ、他人を反革命的と告発することで自分は死から逃れようとする。それが中国政府への忠誠となり社会秩序をもたらした。

 天安門事件以降、毛沢東は死に四人組は失脚し、開放経済体制も始まっており、もはや「革命」はキーワードになり得なかった。その状況で社会を締め付けるために選ばれたキーワードが「反日」だった。根底には「抗日戦争を戦いぬいた共産党」という自己認識がある。このため中国人にとって「反日」は、共産党への忠誠と同義となる傾向があるのだという。

 今や中国政府は自らが行ってきた反日政策に縛られている。経済的には日本とうまくやらねばならない。しかし国民は反日教育の成果で、日本との宥和的政策を許さない。

 著者は今後、日本は戦略的に中国の若者を日本に招いて、漫画やアニメの分野での交流を進めるべきだと提言する。それもネットなどで反日的な活動をしている者こそを積極的に招くべきだ、と。反日青年達も、日本の漫画やアニメで育っているのだから、そこに理解の糸口がある。

——ううむ、なるほど。

 ただし調べてみると東京国際アニメフェア「中国アニメ産業事情」レポートという記事も出てくる。状況は急速に変化しつつあるようだ。何をするにしても「慎重に急ぐ」という難しい舵取りが必要になるようではある。

 著者の遠藤誉氏(筑波大学名誉教授)の略歴を見てびっくり。1941年に中国の長春(当時の新京、満州国の首都)に生まれ、帰国は1953年。
 長春に立てこもった国民党軍を共産党軍が包囲して長春市民に30万人の死者がでた、1948年の長春包囲戦を7歳にして生き延びた人だった。その体験を綴った「卡子(チャーズ) 出口なき大地 1948年満洲の夜と霧 」という著書(1984年読売新聞社刊、残念ながら絶版中)もある。

 こういう人が、サブカルチャーの領域で中国研究をやっているのか。すごい…これは「卡子(チャーズ)」も読まなくては。


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Comments

現在連載中の、これも面白い。

中国“A女”の悲劇
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080212/147023/

Posted by: K | 2008.04.25 at 06:38 PM

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