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2008.08.30

宣伝:8月31日(日曜日)、ロフトプラスワンのトークイベントに出演します

 しまった。ぎりぎりの告知になってしまいました。

 下記の通りロフトプラスワンに出演します。今回のゲストはNASAゴダード宇宙飛行センターで、様々なプロジェクトに携わった近藤陽次博士です。
 NASAで働くということはどういうことか、色々と本音で語ってもらう予定です。

宇宙作家クラブpresents
「ロケットまつり28〜NASAから来た男、近藤陽次」
今回のゲストはアポロ計画の時代から現在までNASAゴダード宇宙センター、ジョンソン宇宙センターで活動されている近藤陽次氏。またハインラインとも交流深く、ハインライン追悼全集「Requiem」の編集やエリック・コタニのペンネームで「彗星爆弾地球直撃す」のSFも、ものにしている天体物理学者に、かつて関わった探査計画から現在進行中の地球型惑星を捜すケプラー計画を中心にお話しを伺う。
【出演】近藤陽次
【出演】松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、笹本祐一(作家)

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

8月31日日曜日
OPEN 18:00 / START 19:00
¥2000(飲食別)
当日券のみ

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2008.08.25

8/23:JAXAタウンミーティング@岸和田

 8月23〜24日、大阪府岸和田市で開催された日本SF大会「DAICON7」に行ってきた。大会ゲストとして、4つの企画に出演してきた。
 DAICON7では、JAXAのタウンミーティングが同時開催された。SF大会と同時開催というのはJAXAも味なことをする。

 これまでJAXAタウンミーティングを見たことがなかったので、途中までではあるがのぞいてきた。


 以下はSF大会DAICON7とともに開催されたJAXAタウンミーティングの様子。

まず舘和夫広報部長からJAXAの説明。

 「JAXAを知っている人?」、という質問に4割ほどの人が手を挙げる。

舘:驚きました。毎年JAXAは無作為抽出で国民にアンケートをしているのですが、そこでは0.1〜0.2パーセントの正答率です。1000人に一人とか二人ですから、この会場はすごいですね。

 以下舘部長よりJAXAの説明(省略)

 小澤秀司理事から個別のプロジェクトについて説明(省略)

 
質疑応答
Q:「はやぶさ2」の予定はどうなってるんでしょうか。
小澤:はやぶさが戻ってくるのが2010年です。その次については色々な検討をしているますが、これからの5年間ではちょっと予定はありません。その次の5年間に打ちたいと思っています。
阪本成一・JAXA宇宙科学研究本部教授(対外協力室長):何年頃に打つというはとうてい言えないのですが、しかるべき時に打つということで着々準備を進めています。

Q:JAXA独自の技術について。はやぶさでは独自の姿勢制御を使っていると聞いていたのですが、どんなものか。
小澤:はやぶさはホイールによる姿勢制御を行っている。トラブルが出たら地上で同じ部品を使っているかどうか調べる。
阪本:ご質問があったのは太陽の輻射圧を使った姿勢制御だと思う。太陽電池パネルに光を受けることで、重心周りに発生するトルクを姿勢制御に使っている。

Q:実用衛星で失敗は困るけれども探査とか先進的のことでは失敗は込みと考えるべきではないだろうか。かぐややはやぶさは見ていて大変興奮した。サンプルリターンは日本が世界の最先端を走っているのだから、次の探査機を全くやる余地はないのだろうか。
小澤:実用衛星に関する考え方、先進的な衛星とは分けて考えるべきという提案と受け取った。ありがたいことだ。そうしなければチャレンジの気持ちが萎えてしまいます。
 マルコポーロだとかはやぶさ2については、一生懸命やっている。制約条件が2つある、お金と目標天体だ。この2つが2008年〜2012年の5カ年計画ではうまく合わない。欧州かとの協力を含めて考えている。

Q:日本のロケットではやぶさ2は打ち上げられないんでしょうか。
小澤:お金の問題と全体計画の中のバランスだ。皆さんの声は届けたい。

Q:日本のロケットは無理なんでしょうか。
小澤:色々なオプションはあります。全部日本でやる話もあるし、絶対に欧州とやるという話でもないです。決して外国ありきではないです。

司会の舘部長から「はやぶさ以外で何か質問を…」

Q:広報活動がごく普通の人に届いているとは思えない。広報の充実についてはどう考えているか。
舘:なによりの広報は衛星ロケットすべてがうまくいくことだと思う。私たちは、テレビ報道においてJAXAの話題が何秒間放送されたかという調査をしているが、星出飛行士シャトル搭乗のニュースはコマーシャルとして2億円の価値があった。マスメディアの一般への影響力ではまずテレビ、そして新聞という順番になる。講演や展示の影響規模は小さい。まずマスメディアである。どうやってマスメディアに情報を提供できるかを考えている。
 今回の会場は女性の方が多いが、女性の認知度が低い。これをなんとかしたいと考えている。

Q:惑星探査など、つまるところお金の話になるわけだが、チャレンジングな惑星探査などでは寄付や宝くじ方式の活用は考えているか。国の予算を使って失敗を恐れて、萎縮するのは宇宙開発ファンとして悲しいものがある。
小澤:確かにそういう国民の皆さんの支持があればできるのかもしれませんが、まだ「宇宙宝くじ」という発想には行き着いていない。今考えているのは実用衛星のほうで、研究開発目的で通信実験衛星を上げる時に、通信ビジネス会社と一緒にやって、折半できないかということを検討している。これから色々考えていけると思う。
阪本:宇宙科学の分野は魂を揺さぶる部分があって、寄付金の申し出もあります。年1万円未満なら出すよという人は多い。しかし、私は国立天文台勤務時代、そういう申し出があると断っていた。宇宙科学が寄付金で回るということになると残りの基礎科学全体は痩せてしまう。そのことを恐れている。

Q:スペースシャトル後継機としてのオファーが日本にあったという報道があったが、具体的に何があったのか。
小澤:宇宙ステーション補給機HTVのことだと思う。2010年にシャトルが引退する。シャトルの運んでいる物資を何を使って補給するかが問題になる。アメリカはシャトル引退後、新しい宇宙船を作ろうとしている。その過渡期で、今世界で使えるような補給船はないか、という話があったことは事実。しかし新聞報道にあったようにシャトルの後HTVをアメリカが使うという話にはなっていない。

Q:日本の一般は基礎科学に興味がないが、マスメディアはそもそも基礎科学を理解していないのではないだろうか。広報はもう少しわかりやすくマスメディアに基礎科学を伝える必要があると思うがどうだろうか。
舘 なかなか科学には難しいところがあって、今まさに記者さんに伝える工夫を始めたところである。きぼうの実験で実験実施の前に記者向けの説明会を開始した。
阪本:研究者自ら時間を削って広報に出歩いています(拍手あり)。今後にご期待ください。

Q:今日入っているはSFの方なんで色々と特別なんかと思いますが…
 研究と仕事は別にしたほうがいいんじゃはいでしょうか。研究にはお金が必要です。糸川先生は「金を持ってくるのが良い研究者だ」と言っていましたけれど、阪本先生の寄付を受け取らないというのはあまりに後ろ向きじゃないでしょうか。
 今のプレゼンですけれど、宇宙開発事業団ばかりですよね。宇宙科学研究所の話はどうしたんでしょうか。この前S520ロケットの打ち上げの話もプレゼンに入っていませんでしたよね。
 内之浦でも最近はフェンスを張ってロケットをみんなに見せない方向に向かっています。もっと皆さんにロケットを見せればいいじゃないですか。
小澤:ロケットに触れないんじゃないかという話ですが、最近はセキュリティというのが大切になっています。世の中の流れとしてセキュリティを厳しくする流れがある。筑波や相模原に実物のロケットを展示していますから、そちらで見てもらいたい。

 ここで第一部終了。

第二部 阪本教授プレゼンテーション(略)。

以下質疑応答

Q:宇宙基本法の話。制定されても素性がまだよく分からない。今後JAXAはどうなるのか。GXロケットはどうなったのか。M-Vではなぜダメだったのか。
小澤:宇宙基本法は8/27に施行される。私なりの解釈になるが、議論の背景には日本の宇宙開発が研究開発中心だった。それを国の利益につながるようなものにすべきという意志が存在する。国の利益とは国民に役立つということ。そのうちのひとつとして安全保障が出てきている。
 効率的な宇宙開発としての国際協力。国の外交政策とマッチした国際協力を考えねばならない。
 JAXAの見直しも法文に入っている。今はまな板の鯉のような気分だ。
 GXは、今宇宙開発委員会で議論をしている。8月末の来年度予算の概算要求に間に合うように結論が出るはずが、まだ結論が出ていない。私個人の感触では、宇宙基本法の施行により舞台は宇宙開発委員会だけではなく、内閣府の宇宙開発戦略本部も含めた議論になると予測している。まだキャンセルという話にはなっていない。

Q:スペースVLBI衛星のASTRO-Gはもっと干渉計の基線長を伸ばす軌道に入れることはできないのだろうか。
阪本 高分解能の観測を行うためには基線長を伸ばすことと、観測周波数を上げるという2つの方法がある。ASTRO-Gは後者の手法を採用している。

Q:宇宙論的なダークマター、ダークエナジーのような観測は行っているのか。
阪本 高エネルギー物理が関連している。アメリカと共同で行っているGRASTというガンマ線観測衛星にも日本は関わっている。ダークマターの候補に未知の粒子があるが、その対消滅でガンマ線が観測される可能性が指摘されている。

——ここで私は参加企画があったので退席した。

 笹本祐一さんのレポートによると、どうやらその後で以下のようなやりとりがあったそうだ。

 この件については、笹本が質問して確認してみたところ以下のような答えを得ました。
小澤理事「今の中期、2006年から11年までの5年間のあいだには打ち上げ計画はありません。JAXAとしては、2012年から17年の次の中期においてはやぶさ2をぜひ打ち上げたいと思っています」
「なんでH2Aロケットではやぶさを打ち上げないんですか?官需だし、打ち上げ機会の増大にも繋がると思うんですが」
小澤理事「H2Aではやぶさ打ち上げというオプションも、もちろん検討しています。H2Aでさまざまな衛星を打ち上げたいと考えています。科学衛星も、ものによっては上げます。用途に合わせて効率良くロケットを上げていきたいと考えています」

 これはひょっとすると期待が持てるかも、だ。小澤理事は、経営企画と宇宙探査を担当している。その本人がJAXAとしては、2012年から17年の次の中期においてはやぶさ2をぜひ打ち上げたいと発言している。

 はやぶさ2の計画は当初2010年打ち上げを目指していたものが、予算が付かなかったり、海外の打ち上げ手段調達を実施条件に付けられたりで、ずるずると遅れている。

 私は、2014年打ち上げがタイムリミットと聞いている。これ以降になると今のところ適当な目標天体が存在せず、その次のチャンスが2018年になるのだという。こうなると、「マルコポーロ(はやぶさMark2)」と実施時期がかぶってしまうので、「はやぶさ2」は自動的に消滅する(8/26追記:つまり、はやぶさ2が消滅すると、日本の小惑星探査は2003年打ち上げのはやぶさから15年も空いてしまうということになる。あれほどまでの成果を挙げたミッションに対してあまりにひどい仕打ちだと思う。なによりも15年も空けてしまうと、はやぶさで蓄積した技術も、育てた惑星科学の研究者も散逸してしまうだろう。そしてもちろん、現状ではマルコポーロを2018年に打ち上げられる保証などない)。

 逆に言えば2013年か2014年打ち上げとなると、たとえ海外の打ち上げ手段調達が失敗に終わっても、H-IIAによる打ち上げがあり得るということだ。

 担当理事がタウンミーティングでそう発言したのだ。今後に注目しよう。

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2008.08.16

宣伝:明日17日のコミケで本が出ます

 ぎりぎりになってしまいましたが、明日日曜日のコミケット74の3日目で、風虎通信(ブースは西れ−65b)から私の本が出ます。

China


「中国1986——バックパッカーの見た開放経済の夜明け」(風虎通信 900円)

 昨年の夏頃、中国の将来をどう読むかで、mixiにおいて数人のマイミクさんと議論したのですが、その過程で1986年2〜3月に自分が中国旅行をしたことを思い出し、書き留めたものです。

 1986年というのは改革開放経済が始まってまもなくでした。まだ中国は貧しく、今のような狂乱的な経済の過熱もありませんでした。ひょっとして自分の体験は、中国という隣人を考えるにあたって、客観的に見ても貴重なものなのかも知れないと感じ、まとめた次第です。

 mixiの日記に「中国に関する記憶」という題で43回連載したのですが、それを読んだ風虎通信の高橋さんが、「おもしろいから本にしましょう」といって、まとめてくれました。

 実は昨年末のコミケが初売りだったのですが、メカ・ミリタリー系の風虎通信ではどうにも売れ行きが悪く、大分余ってしまいました。個人的な体験が書いてあるので気恥ずかしく宣伝しなかったのが敗因かも知れません。

以下にサンプルとしてmixiの連載二回分を乗せておきます。旧正月の大混雑の中、桂林から昆明へと長距離列車で30時間以上かけて移動した時のこと。桂林で列車に乗り込んだところの場面です。

#    #     #
中国に関する記憶.14)何人乗れるかな

 イヤな予感は、ホームで列車を待っている時点からあった。

 溢れんばかりの人々でホームにいた。例によって大声でしゃべっている。整列乗車なんて雰囲気ではない。

 列車の本数は少ない。これが全部昆明行きの列車に乗るのか?

 列車がホームに入ってくる。乗降口は、確か手動だった。

 突撃!だ。

 ホームにいた、山のような荷物を抱えた人、人、人が、たいして大きくない乗降口に無秩序に突撃するのである。しかも誰も彼もが、大声でわめいている。声が大きければ先に列車に乗れるとでもいうように、わめく群衆が列車に突撃する。

 もちろん自分も身体の前に荷物を楯のように掲げ、「どきやがれーっ」と日本語でわめきつつ突撃するのだ。

 なんとかかんとか、乗り込んだものの、車室には入ることができなかった。乗降口からちょっと入ったところで、みっしりの人間でもうにっちもさっちもいかなくなってしまった。
 ちょうど平日午前8時頃の山手線渋谷新宿間のような、無茶苦茶なすし詰め状態である。いや、それ以上かも知れない。人に挟まれ、下手をすると足が浮いてしまう。

 フォルクスワーゲンに最大何人の人間が入れるかを競う遊びがある。列車の中は、世界記録を狙うフォルクスワーゲンの車内のようだった。


 「地球の歩き方中国編」には、確かに「硬座は混みます」とは書いてあった。しかし、私とW君は、いいところ日本の帰省ラッシュの混雑程度だと思っていたのである。


 なんでこんなことになったのか。

 中国において正月といえば旧正月。春節だ。年にもよるがだいたい2月初旬である。
 この時分は、地方から都市に働きに出てきていた労働者が故郷に帰る。民族大移動の季節なのである。

 中国の鉄道は基本的に単線であり、輸送力はさほど大きくない。もちろん列車の本数も少ない。
 そんなところで民族大移動が起こる。当然ながら期間も長くなる。春節の前後1ヶ月の2ヶ月間ぐらいだ。

 慢性的な輸送力不足でいつも混んでいる中国の鉄道は、この時期いつも以上に混むのである。

 そもそも、こんな民族大移動が起きるということは、中国において北京政府の建前が、経済の本音に突き崩されていることを意味する。

 中国人の戸籍は農村と都市とで分離されており、農村籍の者が都市籍に転籍することはほとんど不可能である。できないわけではないそうなのだが、非常に高いハードルが設定されている。
 さらに農村籍の者は、移動の自由がない。旅行をする場合もかなり煩雑な手続きで当局の許可をとらなくてはならない。

 要は農民を土地から逃げられないようにしているのである。

 しかし、改革開放政策で、都市部は慢性的な人手不足となった。農村部には人が有り余っており、しかも貧乏である。

 なにが起こるか。

 中国社会はコネで動いている。戸籍を動かすのはさすがに難しい。しかしコネさえあれば、本来は取れないはずの切符を当局の許可なしに取ることはできる。しかもその切符で列車に乗っても車内で検挙されることはない。

 かくしてヤミの労働力が都市部に集中することになる。

 北京政府が人々の移動を自由化することはない。そんなことをしたら、貧乏人の津波が都市に押し寄せることになる。あっというまに都市はスラムに包囲されることになるだろう。
 しかし、実際問題として、コネを駆使して都市に潜り込む労働者を排除することもできない。そんなことをすれば、湾岸部の「先に豊かになる」はずの地域の経済が回らなくなってしまう。

 先日のニュースだと、2007年現在、中国の出稼ぎ人口は1億5000万人だそうである。

 いちおくごせんまんだぜ。

 日本の人口を遙かに超えた人数が、貧乏からの脱却を目指して都市部に押し寄せているのである。しかも彼らは基本的にヤミ労働者であり、法の庇護を受けられないのだ(注:この部分、現在は違うようですね、許可を取って都市に出てきている農村人口が9000万人弱なんだそうです。それでもヤミ労働者が6000万人いるということにはなりますが)。

 かくして地方からヤミでやってきた労働者たちが、春節になると山ほどのおみやげを抱えて、慢性輸送力不足の列車に殺到する。もちろん金がある奴ばかりではない。大半は、二等車、すなわち座席指定のない硬座に乗ろうとする。

 我々は、まさにそのただ中の長距離列車に、うかうかと乗り込んでしまったのであった。
 
 体を動かすことが一切できない、窒息してしまいそうな状態のまま、列車が動き出した。

 おーい、ひょっとしてこれで30時間以上過ごすってえのか?


中国に関する記憶.15)老婆と子ども

 すし詰めの列車は動き出してしまった。目的地の昆明までも30数時間、なんとしてもやりすごさなくてはならない。

 幸い冬であり、しかも列車内はろくに暖房が効いていなかったので、臭いの問題はあまりなかった。それでも労働者風の筋骨たくましい男達の吐く息は、のきなみニンニク臭く、体をひねって吐息を避けるのに苦労した。

 列車はがたごとゆれながら、日本の感覚では徐行に近いゆっくりとした速度で進む。升一杯の豆も、ゆすればまだまだ豆が入るのと同じ理屈で、人間も揺すられて、だんだん体勢が入れ替わっていく。

 その中で、たくましい筋肉で武装した男共のナニや尻がこっちの局部にあたるわけですな。そっち方面の人には天国かも知れませんが、これが気色悪い。思いっきり気色悪い。しかも吐息はニンニクのかをりなのである。

 乗っているのは男ばかりではないが、若い女性は見なかった。さすがにこの状況を、若い女性は避けるのであろう。女性と言えばおばちゃんに老婆、そして子どもである。そう、老人も子どもも、すさまじいきゅうくつな姿勢を耐え忍んでいた。

 いや、耐え忍ぶというのはあまり正確な形容ではない。列車の振動で、だんだん体が入れ替わっていくのだけれども、新しい人間とぶつかり、ちょっと不自由な姿勢になると、そこで口論が始まるのである。耐える前に不満を手近で爆発させるのだ。

 中国語の口論は、日本語のそれよりよほどはげしいものだが、がこんがこん列車が揺れるたびにそこここで、大音声の口論が始まる。またがごんかごんと揺れて体勢が変わり、当事者達がちょっと落ち着いた姿勢になると口論は止むが、今度は別の場所で口論が始まる。そのうるさいことといったら。

 私もふっかけられた。相手は私の肩ほどの身長しかない、汚い白髪を結ってまとめた老婆だった。こっちの着込んでいるダウンジャケットに全身を押しつけるようにして、顔だけ私の方を見上げ、ものすごい剣幕で何事かをわめきたてるのである。顔をそむけるスペースもない。ばんばん老婆の唾が顔に飛んでくる。容赦なく口に入ってくる。

 ぼんやりと、「このばあさんが肝炎持ちだったら、俺も感染するのかな」と思ったのを覚えている。

 老婆は小さな、おそらく6歳ぐらいの男の子を連れていた。おびえた風でぴったり老婆にだきついて離れようともしない。多分に老婆のすさまじい剣幕は「子どもがつぶれるからどけ」だったと思うのだが、こっちは片言の中国語が分かるか分からないか程度なので、なにをいっているのか分からない。

 もちろんこっちも負けてはいない。「ばあさんうるせえよ!ナニいってんだかわからねーぞ!」と日本語でわめきかえすわけだ。老婆とぎゃあぎゃあすれ違いの口論をしつつ、ふっと視線を下に向けると、子どもと目があった。

 不安そうな目をしていた。

 老婆との口論がどうやって収束したのか覚えていない。おそらく揺られているうちに体勢が入れ替わり、離れたのだろう。

 面白いもので、あれほどぎゅう詰めだったにもかかわらず、揺れているうちに隙間ができてくる。私とW君は、そこにすかさず荷物を押し込んで、じりじりと車内へと入っていった。一晩かけて車内の1/3ぐらいの場所に到達。そこで今度は荷物を床に押し込んでスペースを確保し。その上に座り込むことに成功した。やれやれ、やっと体を自由に動かせる。

 が、驚異の中国春節長距離列車、硬座の旅はまだまだ続くのであった。

#    #     #

 よろしくお願いします

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2008.08.03

宣伝:8月6日(水曜日)、ロフトプラスワンのトークライブに出演します

 いつもの「ロケットまつり」ではない、こんなイベントに出ることになりました。私は、現代の戦場で使用される兵器には不案内なのですが、テクノロジーが軍用、民生の区別がなくなりつつあることには非常な興味を持っています。
 岡部いさくさんとは初顔合わせです。楽しみにしております。
 

 <最新 戦争事情>〜今、戦場で使用されている兵器を知る〜
ミサイル・銃・重火器・地雷をはじめ、小型クラスター爆弾などの最近禁止されたもの。また無人銃撃ロボットなど現在開発されている兵器。現在の戦争に使用されている兵器から最新兵器の性能、威力、殺傷能力を軍事評論家の岡部いさく氏より伺い、最新戦争事情をさぐる。対談相手にノンフィクション・ライターの松浦晋也氏をむかえ「これだけのものが実際にある」とトークしていきたい一夜。

【出演】岡部いさく、松浦晋也

Open18:30/Start19:30
前売¥1000/当日¥1500(共に飲食別)

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

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