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2008.10.28

本当の神曲:バッハの「フーガの技法」

 ニコニコ動画で楽しく遊んでいる私だが、コメントでやたらと「神曲」という言葉が出てくるのには違和感を感じている。日本は八百万の神のいる国だから、そこらにぽっと神が現れても不思議はないが、「神曲」という言葉をそうそう乱発していいものやら。本物の神懸かり的な曲に失礼ではないだろうか。

 まず「神曲」の定義を考える。過去数千年の人類の歴史の中で一曲を選ぶとしたらどれを選ぶか、あるいは人類が滅亡に際して次の世代の知性体に残すべき一曲はどれか――八百万ではなく一神教的な神曲を考えてみる。

 色々な意見が出るだろうが、私としてはどうしてもヨハン・セバスチャン・バッハの曲ということになる。バッハは音楽一家に生まれ、当時の欧州では田舎であったドイツの宮廷楽士として一生を送った人だが、音楽史的にはまさに一つの結節点であり転回点でもあった。バッハ以前の音楽はバッハによって統合されて完成し、バッハ以降の音楽はバッハの遺産の上に展開する――そんな存在である。

 そんなバッハの曲から選ぶとしたら、これまた私としては「フーガの技法」「マタイ受難曲」「音楽の捧げ物」が思い浮かぶ。「ゴールドベルク変奏曲」もありうるが、これはグレン・グールドによる1980年のそれこそ神懸かり的録音をもって「人類が未来に残すべき最高の録音記録」として別枠で選ぶべきだろう。

 その中で、どうしても一つ、となれば、私は「フーガの技法」を選ぶ。

 フーガとは複数の旋律が追いかけ合い、絡み合う音楽の形式だ。

 音楽には対位法という技術が存在する。和声法が異なる高さの音を同時に鳴らして、その響きを時間軸方向につなぎ合わせていく技術であるのに対して、対位法は複数の旋律を同時に鳴らしつつ、調和の取れた響きと両立させる技術である。

 フーガは対位法を駆使し、旋律の追い掛け合いや絡み合いを作り出していく。バッハは生涯にわたってフーガという形式の技法の探求し、最晩年に至って自分が開発した技法の集大成として、この「フーガの技法」を作曲した。

 「フーガの技法」を特徴づけるのは、その恐ろしいまでの抽象性だ。技法の開陳を目的に作曲されたので、そこには様々な表情の指定が一切存在しない。テンポ、強弱、クレッシェンド、ディクレッシェンド、アチェレランド、ディヌミエンドなど、音楽に表情を与える指定は楽譜上ではなされていない。それどころか、どのような楽器で演奏するかの指定すらない。

 存在するのは、比較的簡単な主題とその変奏、それらに技法を厳格に適用していった結果の旋律の絡み合い、それだけである。

 そこにあるのは音の高さと音の長さの指定だけだ、とも言える。音の長さも音の高さも厳密に数字で指定しうるから、「フーガの技法」の実態は一連の数字の羅列、つまり数列である。

 しかし、その数列がひとたび音として響くと、それは「音楽である」としかいいようのない、異様なまでの感動を生み出す。

 あれこれ説明するよりも、以下のページで実際に聴いてもらいたい。

フーガの技法研究所

 フーガの技法に入れ込んだ方が作成したホームページだ。楽譜を入力しただけのMIDIファイルが多数アップロードしてあり、分析室1では、楽譜そのままの「フーガの技法」各曲を聴くことができる。

 もうひとつ、「フーガの技法」を人類最高の音楽たらしめているのは、この曲集がまさにクライマックス直前で未完成となっているというところにある。

 技法的にも音楽的にも全曲の頂点として企画された3主題によるフーガは、3つめの主題が登場して、最初の2つの主題と絡み合って楽が大きく盛り上がる直前、239小節で途切れてしまっている。
 しかもその3つめの主題は、バッハ(Bach)自身を象徴する、「BACH(シ♭、ラ、ド、シ)」という音の並びに基づいているのである。

 この「3主題によるフーガ」の自筆楽譜の末尾に、息子の一人であるエマニュエル・バッハは、

"NB. uber dieser Fuge, wo der Nahme B A C H im Contrasubject angebracht worden, ist der Verfasser gestorben."

「注意.このフーガにおいて、対主題として B A C H の名前が持ち込まれたところで、作者は亡くなりました。」

と書き込んだ。このため、長い間この曲がバッハの絶筆とされてきたのだが、実際には死の約1年前にこまで書き進めたところで視力と体力の低下で継続を断念したことが判明している。

 とはいえ、このフーガの宇宙的とも形容できる幕切れは衝撃的だ。聴き手は宇宙の彼方まで連れて行かれたあげく、そこにぽんと放り出されたような異様な感覚を味わう。

 ミロのビーナスが腕がないために様々な想像を誘うように、「フーガの技法」も未完であるが故に、他を寄せ付けない絶対孤高の音楽足り得たと言えるかもしれない。

 「神曲というからには、“フーガの技法”を聴いた上で言っているんだろうな」というのが私の意見。この曲を聴かずして死ぬのは、人生の痛恨事であると断言しうる音楽だ。


 非常に抽象性の高い曲なので、誰が演奏しても聞けるし、どんな楽器で演奏してもきちんと響く。CDを買うならば、Amazon フーガの技法で検索から、好きな編成での演奏を選べばいい。

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2008.10.27

ジャミロクワイと半導体娘

 この10日ほどで対照的な動画が2つ、ニコニコ動画に投稿された。


 MikuMikuDanceで、ジャミロクワイの世界的なヒット曲「Virtual Insanity」(1996)のミュージックビデオを再現したもの。「ジャミロクワイって誰?、Virtual Insanityって何?」という人も、見ればシルクハットをかぶったあんちゃんが廊下をうろちょろする映像を思い出すだろう。


 こちらは、なんと電子楽器を自分で設計し、自分で作り上げ、それでもって自分が作曲したオリジナル曲を演奏し、初音ミクに歌わせるというもの。最初から最後まで自作の精神を貫いており、自作でないのは個々の電子部品とソフトウエアとしての初音ミクだけと言っていいだろう。

 これら2つの投稿の対照性を解く鍵は、再生数にある。「MikuMikuDanceでVirtual Insanity」はどんどん再生数が伸びて、そろそろ20万再生に届くところにまで来ているが、「自作音源で自作曲を演奏してみた/半導体娘計画【新番組】」は今のところ2万半ばのあたりだ。

 この差は、ニコニコ動画ユーザーが、あらかじめ内容についての情報を与えられているか否かによるものである。

 「Virtual Insanity」は音楽産業の周到なプロモーションによって作り上げられたヒット曲だった。質の高い楽曲と歌い手、さらには贅を尽くして作り上げたミュージックビデオを用意し、それらを様々なメディアで繰り返し一般聴衆に刷り込むことで世界的なヒットを作り上げた。

 だから、ニコニコ動画のユーザーは「MikuMikuDanceでVirtual Insanity」というタイトルを見ただけで、ある程度その内容を推測することができる。ミュージックビデオの内容を覚えている人は「ああ、あれをミクが演じるわけだな」と思い、その再現度や、忠実な再現からのちょっとしたはずし方や、場合によってや似てなさ加減などを楽しむことができるなと考え、視聴し、今回の場合はその出来のすばらしさにびっくりしてマイリストに加えたり、他人に教えたりで、ますます再生数が増えていくわけだ。

 一方「自作音源で自作曲を演奏してみた/半導体娘計画【新番組】」は、ほとんどの人にとって事前にどんな内容かが分からない。「ひょっとしたらつまらないかもよ」と思った人は見ない。見た人はその内容の高度さに驚いて、「Virtual Insanity」と同様にマイリストに加えたり、他人に教えたりで再生数は伸びていくものの、その数は「Virtual Insanity」ほどではない。

 これまで、当blogで何度も書いてきたが、人間には知っていることしか知りたがらないという性質がある。知らないものは基本的に危険物であると仮定して扱ったほうが安全だからだ。その一方で、未知のものに触れたいという欲求も存在するが、それは「人間には知っていることしか知りたがらない」という性向からすれば基本的に従属物である。

 だから、知っている安全な情報を基本にして、ちょっとだけ新規要素を付け加えたものが多くの人々の耳目を集めることになる。「MikuMikuDanceでVirtual Insanity」ならば、ジャミロクワイの「Virtual Insanity」というすでに音楽産業によって人々に刷り込まれた情報を基本に、「初音ミクがミュージックビデオを再現する」という新規要素を組み込むことで再生数を伸ばしたわけだ。

 確かオペラの作曲家プッチーニが成功するオペラの作り方を問われて「大衆の半歩先を行くこと」と答えているが、構図は同じである。みんなが知っていることを基本にちょっとした新規要素を組み込むこと――大衆の一歩先に出て、新規要素ばかりですべてを構成すると、それ自身が「みんなが知っていること」となるまでの長い時間、無視や無理解と戦わねばならないことになる。

 ところで「自作音源で自作曲を演奏してみた/半導体娘計画【新番組】」もまた、「みんなが知っていること」の恩恵を受けている。

 キーワードは「初音ミク」だ。ニコニコ動画には初音ミクが一枚かんでいるというだけで、どんな投稿でも一応は視聴してみるという傾向が存在している。そして大変重要なことだが、一度視聴した情報は「知らないこと」から「知っていること」になる。何らかのおもしろさを感じて二度三度視聴すれば、それだけ投稿に込められた新規要素に馴染む機会が増え、それが素晴らしい新規要素であるならば「おお、なんと斬新で素晴らしい」と感じる人の数が増えていく。

 ニコニコ動画では「ミクだっ、初音ミクだ」というだけで、どんなに新規な情報でも人々の間で一般化する可能性がある。ミクが歌ったというだけで、ジョン・ケージの「4分33秒」が4万再生を超え、松浦某とかいう食わせ者の自作が何千再生かを記録してしまう。


 私は、ここに文化的装置としてのニコニコ動画と初音ミクの可能性を見る。


 ニコニコ動画では「神曲」という言葉が単なる「ちょっと良い曲」という意味で、割と安易に使われているが、真の意味での「神曲」、それこそ人類が滅亡に当たって宇宙に人類が存在した証としてこの宇宙に残すべきほどの情報は、いつも長い無理解の果てにやっと人々に受け入れられてきた。なぜならそれらの情報がいつも人々にとって新規な要素を十分に含んだものであったからだ。

 バッハのマタイ受難曲は、メンデルスゾーンが蘇演するまで100年以上歴史の隙間に埋もれていたし、ベートーベンの第9交響曲も初演当時は「合唱まで入ったトルコ風味の風変わりな曲」としか認識されなかった。マーラーの交響曲はワルターやスプリングハイムのような弟子達が世界各地で必死になって演奏し続けなければ一般化しなかったろうし、ストラヴィンスキーの「春の祭典」が初舞台で浴びたのは賞賛の拍手ではなく、賛否入り交じった怒号だった。
 クラシック音楽以外でもこのような例は多いのではないだろうか。絵画ならば、ゴッホやゴーギャン、ユトリロなどの例がすぐに思い出せる。

 プッチーニの言い方を借りるなら「神曲とは、いつも一歩以上先の立ち位置に現れ出るもの」なのである(もちろん「一歩先に踏み外したヤツ」も存在しうるわけなのだけれども)。


 ニコニコ動画プラス初音ミクならば、そのような新しい情報を一般が受け入れるプロセスを加速できるのではないだろうか?

 ジャミロクワイをミクでなぞるのも、自分で電子楽器を作って自作を演奏するのも、共にニコニコ動画の楽しみだ。そのことを理解して上でなおかつ、私としては「自作音源で自作曲を演奏してみた/半導体娘計画【新番組】」の行き方を応援したいな、と感じているのであった。

 もちろんこれは仮説であり、ニコニコ動画や初音ミクに対する過大評価かも知れない。それでも、ある日、バッハのマタイ級の傑作がニコニコ動画に投下され、やがて「神曲!」というコメントで画面が埋め尽くされるってのは、ちょっと見てみたくありませんか?

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2008.10.25

ボーカロイド隠れた名曲その1

 これから気が付くたびに、「これはっ」と思うボーカロイド・オリジナル曲を紹介していくことにする。基準は、私が良い曲だと判断することと、再生数があまり伸びていないこと。10万再生以上の「VORCALOID殿堂入り」の曲は、除外することにする。

 初回は以下の3曲。同一作者の作品を紹介する。

 この作者、P名を持たずに「とち-music box」を名乗っているいけれどとても達者だ。上手に全音音階を使いこなして、独特の響きを作り出しているし、「スケッチ集」でわかるように楽器法も心得ているようだ。「くるりんフラワー 2号」の疾走感はなぜかジョー・ジャクソンの「Stepping Out」を思い出させるし、「スケッチ集」や「水彩の森」はちょっとラヴェルの歌曲を連想させる。

 これほどの曲が書ける人が、2000再生前後で埋もれているというのは惜しい。もっと聞かれてしかるべき人だと思う。

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2008.10.24

シャックルトン・クレーターの底

 JAXAから月探査機「かぐや」の重要な成果が発表された。月南極点近くのシャックルトン・クレーターに、水は氷の状態で露出していないことが判明した。

月周回衛星「かぐや(SELENE)」搭載の地形カメラによる南極シャックルトンクレータ内の永久影領域の水氷存在に関する論文のサイエンスへの掲載について

-水氷がクレータ底部の表面に露出した形で多量に存在する可能性がないことを明らかに-



20081024_kaguya_5j
画像は、かぐや搭載の地形カメラによる3次元立体視画像のシャックルトン・クレーター。
底に平坦で反射率の高い地形、すなわち“氷の湖”は存在しない
(2007/11/19撮像、Photo by JAXA/SELENE)

 月の極地域。特に地形の厳しい南極には、クレーターの底に永久影という全く太陽光の当たらない地域が存在する。月には何億年にもわたって水分を含む彗星が衝突し続けている。永久影の中で水は、氷の形で昇華することなく存在し続けることができる。このため月の極地域の永久影に、水が氷の形で存在する可能性が指摘されていた。

 月に水があるとどうなるか?人類の宇宙進出が容易になる可能性がある。月の重力は地球の1/6であり、軌道上に物資を運び上げるのに必要なエネルギーはずっと小さい。そして水は電気分解すれば水素と酸素、つまりロケットエンジンの推進剤となる。もちろん生命維持にも不可欠だ。
 月に利用可能な水が大量に存在すれば、月以遠への人類進出が、地球からの物資ですべてをまかなうよりもずっと簡単になる可能性がある。

 シャックルトン・クレーターの底は水が存在する可能性のある最有力候補だった。アメリカの有人月探査計画では、シャックルトン・クレーターの縁に基地を建設することを検討している。クレーター内の水を当てにしているわけだ。

 ところが、かぐやの観測で、少なくとも水は“凍った湖”形で大量に存在するわけではないことが判明した。もちろん、土砂に覆われた“土中の凍った湖”や、氷と土砂の混合物として存在する可能性はあるものの、その量は期待していたほどではないようだ。

 今回の発表は、有人探査を行う前の広範囲かつ包括的な無人探査の重要性を示していると、私は考える。もしも「水があるかも」という期待だけで有人月探査を実行してしまい、多額の予算と努力を投入して月に行ってみたら水がなかったということになったら目も当てられないわけだから。

 そしてまた、アメリカが国際協力での実施を主張している有人月探査計画に、軽々に同調するべきではないことも示唆していると言えるだろう。今回の発表で分かるように、アメリカの目論見は、今後の無人探査の成果でいくらでも覆る可能性を残しているのだから。

 正直なところ、まとまった量の水が存在しないならば、有人月探査を実施する意味は大きく減じるだろう。少なくとも私はそう考えている。水がなければ、月は「それよりも遠く」へとつながる前進基地とはなり得ない。地球・月系の物理学地質学、そして外宇宙観測用機器を設置するための天然巨大プラットホームというのが、月の利用価値のすべてということになる。

 実のところ、ずいぶん前から惑星科学者たちからは「月?きっと水も鉱物資源もありませんよ」とは聞いていた。

 水の存在を示唆したのはアメリカの「クレメンタイン」「ルナ・プロスペクター」両探査機の観測結果だった。特にルナ・プロスペクターの観測は、水素の存在を直接確認しており、「軽くてすぐに宇宙空間へと飛び出してしまう水素が存在するなら、たぶん水の形ではないか」と言われていた。しかし、水素があるから即水があるということにはならない。またH2Oの存在形態は氷とは限らないし、氷であってもまとまって凍った湖のように存在しているとも限らない。
 実際、シャックルトン・クレーターには凍った湖は存在しなかった。

 そして月は進化史上、そもそも大量の水が存在していた期間がなかったということがほぼ確実視されている。地上の鉱山はその生成に水が大きく関与している。水に溶けた元素が濃縮され、一カ所に集まったのが鉱床なのだ。水がなければ、鉱床は存在しない。月に鉱床が存在するならば、地球とは全く異なる、水以外の濃縮メカニズムを考えねばならない。少なくとも現状では、月に有用元素の鉱床は存在しないと考えるほうが理にかなっている。

 月には太陽起源のヘリウム3が存在する。これはアポロが採取したサンプルから判明している事実だ。ヘリウム3は、中性子を発生しない「きれいな核融合」の燃料となる。しかし、ヘリウム3の核融合は、現在地上で研究中の重水素の核融合よりもはるかに難しい未来技術だ。重水素の核融合によるエネルギー生産すらできていない現状で、ヘリウム3を月にまで求める理由は全くない。

 というわけで、私は現状では有人月探査の実施に懐疑的だ。

 国際宇宙ステーションの例を見ても、ひとたび国際協力の枠組みを作って計画が動き出してしまうと、後で不都合が生じても止めることは非常に困難だ。

 「アメリカがやるなら日本も参加しないと」と、拙速で有人月探査へと動く前に、無人探査でやらねばならないことが山ほど存在するということだ。

 無人探査で十分に調べてから、しかる後に「さあ、本当に人が行くべきか」と考えるべきなのである。

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2008.10.23

JPOPのワンパターン

 もうすこし音楽の話を。

 最近、JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた、という話という記事が話題になっている。

 30年前に和声法の勉強を途中で放り投げた私でも、これは理解できる。

 問題のコード進行は、IV△7→V7→III7→VIというもの。サブドミナント→ドミナントと動いて、基本ならばその後に主和音が来るところを、主和音の根音を抜いてさらに上に7thを重ねて調性を曖昧にしたIII7をもってきて、短調であった場合にはIII和音がドミナントの役割を果たすことを使って、短調の主和音であるIVにもってくるというわけだ。

 記事では「メジャーとマイナーの中間を漂う浮遊感」と書いているけれどもまさにその通り。

 以下自分なりにもっと簡単な説明を試みてみよう。

 長調とか短調といった調的な音楽の場合、「こういう風に和音が並ぶと音楽がきちんとしめくくられるような感覚を聞き手に与えられるぞ」という和音の並びがある。

 その一番基本となる並びが、IV→V→Iというものだ。

 一番簡単なハ長調、ピアノの白鍵だけでドレミファソラシドの音階で説明すると。Iというのはド。同時にドの上に音階の音を3度で積み上げたドミソの和音を意味する。IVというのはドから数えて4つ目の音であるファであり、同時にファの上に積み重ねたファラドという和音である。同様にVは5つめの音であるソでありソシレという和音のことだ。

 この3つの和音は主音であるドを中心に音程でいうと5度の関係にある。5度というのは鍵盤5つめの音だと思っておいてもらいたい。

 ドから上に5度がソ、下に5度がファだ。

 ドの主音に対してソを属音(ドミナント)、ファを下属音(サブドミナント)という。これら3つの和音が、長調における一番基本の和音であって、そのまた一番基本の並びが、ファラド、ソシレ、ドミソ、つまりIV→V→Iなのだ。

 細かい理由は抜きにするがV和音はもうひとつ音を積み重ねてソシレファとして使うことが非常に多い。記号で書くとV7である。

 さて、ここでドレミファソラシドの長調は、音階の出発点を変えるとラシドレミファソラの短調になる。主音はラになるわけだ。ここでもさっきと同じ5度の関係を作ることができて、ラドミの主和音に、ミソシのドミナント、レファラのサブドミナントが存在する。これでさっきの長調と同じ基本の和音の並びを作ると、レファラ、ミソシ、ラドミ、となる。記号で書くとII→III→IVだ(本当はもっともっと色々あるのだけれど、とりあえずは省略)。

 ここで、問題の和声進行「IV△7→V7→III7→VI」に戻る。7とか△とかは、簡単に言えば和音に独特の彩りをつけるフレーバーみたいなものだから、とりあえず無視する。するとこの和声進行は「IV→V→III→VI」となる。ハ長調の音階で書くと、ファラド、ソシレ、ミソシ、ラドミ、となる。

 これを、一番基本となる和声進行「IV→V→I」と比べると、IV→Vと来たものが、Iに行かずにまずIIIに行ってしまっている。Iはドミソ、IIIはミソシだから、音は2つ共通だ。でも肝心かなめの主音であるドがなくなってしまっている。
 これは聞き手の耳の印象からすると、「あれ?ドが鳴って音楽が一段落付くはずが、なんか落ち着かないぞ。でもミとソは鳴っているよな。一段落ついたようなつかないような変な気分だぞ」ということになる。

 そしてIIIの和音は短調で考えるとドミナントだ。だから短調の基本の和音の並びに従って、次は短調の主和音VIとつながる。

 すると聞き手の耳は「あれれ、ここまで長調だと思っていたけれども、短調で収まりよく音楽が落ち着いちゃったようだなあ」と感じるわけだ。

 人間の耳は和音一つや二つ程度の音の並びでは「これは長調だ、短調だ」と断言することができない。せいぜい「なんか長調っぽいぞ、短調みたいじゃないか」と感じる程度である。つまりこの和音の並びは、それまで長調で来た音楽に一瞬長調と短調との間で、宙ぶらりんになった印象を与えることができる。

 その一瞬の曖昧さが、日本人好みである、というわけだ。

 もちろんこの和声の並びに引き続いて本格的に短調に転調してしまってもいいわけだが、JPOPはそうはせずに、また長調へと戻っていく。長調基調の曲に一瞬の曖昧さを与えるためにこの和声進行を使っているというわけである。ほんの一瞬、ウエットな印象の短調へと音楽が振れるのを「なんかいいなあ」と感じているのだね。

(ということでよろしいでしょうか、大澤先生!)

 やあ、いいことを聞いたぞ。この和声進行を使って、次は自分がヒットメーカーだ!――ではなくて。

 JPOPは、この和声進行が聴衆から受けることに気が付いた結果、「なんでもいいからこの和声進行を使っちゃえ。そうすれば売れる音楽を量産できて儲かるぞ」という思考停止に陥ってしまったということなのである。

 音楽というのは面白いメディアで、こういう安易さはじわじわと伝わる。特に色々な音楽を多数聴き込んでいる人ほど、敏感にこの手の「ま、こんなもんだろ」的な音楽作りに気が付く。つまり趣味の良い分かった聴衆ほど「けっ、ふざけんじゃねえや」と、離れていって、後にはあまり耳を鍛えていない、普段は音楽をマニアックに聴くことがない人が残っていくことになる。

 もちろん商売としては一部マニアよりも大多数を相手にしたほうが儲かるわけだから、当面はそれでもそろばん勘定は回っていく。だが、何度も繰り返せば、いかに「普通の人」であっても、徐々に気が付いていくのだ。

 同時に「普通の人だけ相手にしてりゃいい」的態度は、作り手の中から真剣さを失わせる。どんどん安易へと流れていくのだ。

 私はクラシックマニアであり現代音楽オタなので、JPOPが滅亡しても全く痛痒を感じないし惜しいとも思わないのだが、それでも「少しは考え直したほうがいいのじゃないか」と思う。かつて演歌が大ブームの後に同様の思考停止に陥って衰退したことを考えると、音楽ビジネスの維持のためには今のうちになんとかしたほうがいいのは明白だ。

 もっとも、過激に言ってしまうならば、JPOPなどというものが高収益ビジネスとして回転している状況のほうがどうかしているのかも知れない。音楽なんてものはほっといても作り手の中から泉のごとくあふれ出てくるのが本来であり、それは作り手の衣食住を支えれば十分だったはずだから(クラシックの世界の食えなさっぷりを考えると、ね)。

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2008.10.22

この、バカ共がっ その2(今度は相手が違いますけれども)

 楽しく初音ミク関連の記事で飛ばしていたら、また、「この、バカ共がっ」と言わねばならない事態が起きているようだ。

“iPod課金”見送り ダウンロード違法化へ(Itmedia)

 ダウンロードによる音楽流通は、技術の進歩がもたらした手段だ。そして、基本的に技術の進歩に法などの社会制度で抵抗したところで、最終的にはその分だけ進歩に乗り遅れる結果となる。

 もちろん生命倫理に関わる問題などは、慎重に考えねばならない。が、この問題は、音楽についてである。
 

 以前書いたが、人間は知っていることしか知りたがらない傾向がある。ヒット曲を作りたければ、その曲がいやでも大勢の人の耳に入る状況を作り、「知らない曲」から「知っている曲」へと変える必要がある。

 これまでラジオやテレビでのヘヴィ・ローテーション、特にラジオでの露出が有効だったが、現在ラジオはメディアとして著しく地盤沈下しており、テレビも相当危うくなっている。

 となると、ネットでヘヴィ・ローテーションを狙わねばならないはずだが、ダウンロード違法化などを実施すれば逆効果でしかないだろう。

 かつてならば、ヘヴィ・ローテーションの過程で流す音楽情報が、そのままのクオリティで記録され、無料消費されることはなかったが、デジタルデータが流通する現在、流通経路での情報品質の劣化はない。だから、ヘヴィ・ローテーションですぐに需要が充足されてしまって購買行動に結びつかない…と、音楽業界は考えているのかもしれない。

 しかし、ネットでのダウンロードを違法化すれば、CDやDVDがその分売れるようになるかといえば、そうではないのだ。繰り返すが、技術の進歩を社会制度で抑圧しても、結果はろくなことにはならない。

 だから、音楽業界が本当に行うべきは、「ネットでの音楽ダウンロードが当たり前になった世界で、どのように音楽制作に対するフェアな対価をユーザーから徴収するか」を模索することなのだ。新技術に対する法的な抑圧では決してない。

 ひとつ、今世界的に見えてきているのは、コピー制限などのDRMなしの音楽データのオンライン販売だろう。iTunes Music Storeが日本でも開始しているし、アメリカではアマゾンのMP3データ販売が好調である。リスナーを信頼する態度が大切なのだ。

 重要なのは、ネットにつながる人々にとって「フェアである」という印象を与えることだろう。ネチズンは全体として見ると、フェアな態度にはフェアな結果を返してくる傾向がある。

 このことを念頭に置くと、今の音楽業界は決して良い状態ではない。彼らは携帯電話での「着うた」事業がCD販売の落ち込みを支えていると言うけれど、「着うた」事業とはつまるところ、iTunes Music StoreでDRMなしで256Mbps、価格150~200円で買える曲を、主にパソコンを持たずに携帯電話に依存している中学生や高校生へ、より低ビットレートでDRM付きにも関わらず315円で売るビジネスである。
 大人が150円で買える水あめを、子どもに向けて315円で売る紙芝居屋みたいなもので、決してほめられた商売ではない。

 私の意見は、コデラノブログ:ダウンロード違法化はついに何かの引き金を引いたと大体同じだ。

 音楽業界に、ネット社会全体の進展に水をさすようなことはしてもらいたくないなと思う次第だ。

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2008.10.21

結局コラボレーション

 初音ミクとニコニコ動画、そしてMikuMikuDanceといったものがもたらしたのは、見知らぬ他人がネット上で出会い、協力してなにがしかの情報を生成していくというコラボレーションの場だったのではないか――そう思っている。

 数日ミク関連の動画紹介を書いてきたが、最後はコラボレーションによって作られた動画をいくつか紹介する。


 初音ミク史に残るべきPV。初期の傑作「恋するVOC@LOID」に凝った3Dアニメーションが付いている。このものすごい完成度!


 これも初期の傑作「WhiteLetter」に手書きアニメの映像をつけたもの。CGとは違う暖かさが良い。


 これはテレビアニメのエンディング風。しゃれた音楽に、これまたしゃれた映像。あまり考えずに楽しめる気楽な作品。


 手書きならではの質感を生かした映像が、歌になんとも合っている。いいねえ、これ。

 稚拙でもなんでもいいから、とにかく自分の作ったモノを出す場があって、そこで色々と評価される。けなされることもあるけれども、作り続けていけば必ず評価してくれる人もいる。

 そういう場ができたということに感謝しよう。

 実に楽しいものだね。


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2008.10.20

楽しいMikuMikuDance

 拙作【ニコニコ動画】じいちゃんの戦争【初音ミクオリジナル曲】で使ったMikuMikuDanceというソフトは、その優秀さもあってニコニコ動画ではずいぶんと使われている。

 というわけで、以下は私基準で選んだMikuMikuDance傑作選。


 モーリス・ベジャールが振り付け、ジョルジュ・ドンが踊った「ボレロ」は20世紀のバレエで一作選べといったら、たぶんこれになるんじゃないかと思えるほどの作品。それをミクに踊らせるとは…いかにMikuMikuDanceが使いやすいとはいえ、この動画を作成するのにいったいどれだけの手間がかかったのやら。想像するだに恐ろしい労作にして傑作。

 比較動画はこちら。もちろん本家ジョルジュ・ドンの迫力に、ミクではかなわないわけだが、私としてはフリーウエアを使ってアマチュアが頑張るだけで、世界最高のダンサーの動きを再現できるというところに、未来への可能性を見たいところ。


 こちらは、おそらく振り付けまで自分で行った逸品。ソフトをダウンロードしたら、あとはユーザーのがんばりでここまでできるのだから、本当に良い時代になったものだ(こればっかだなあ、俺)。


 ニコニコ動画では、ある人が作った曲に別の人がビデオをつけるというようなコラボレーションが普通に行われている。これはニコ動でのヒット曲「ストラトスフィア」に、MikyMikuDanceでビデオをつけたもの。こういう人間離れした動きも手軽に作れるのは楽しい。


 これもコラボ作品だが、実写と組み合わせているのが面白い。日常的なしぐさを自然に再現するのは難しいのだけれど、ずいぶんと頑張っていると思う。



 動作を手軽に作れるということは、ネタ系動画も簡単に作成できるということ。ただしネタ系は作者のセンスが問われる。これは、名画に目をつけたところが勝利の鍵だったかな。軽快な演出が快い。

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2008.10.19

ボカロクラシカから

 もう少し、ニコニコ動画の初音ミク関連の作品を紹介することにする。

 ニコニコ動画には「ボカロクラシカ」という検索用タグが存在する。初音ミクをはじめとした、ボーカロイドソフトでクラシック系の曲を演奏した投稿に付くタグだ。

 クラシック系の曲は、ポップス系と比べると再生数は低いのだけれども、結構面白い動画がアップされている。


 「いきなりこれかよ!」と言われそうだが、はい、これです。ジョン・ケージによるコンセプチュウアル・アートの極北。「音のない音楽」。これすら、初音ミクでパッケージングすると4万再生を超える一発ネタ人気動画になってしまうのだ。ケージ本人はこういう事態になることを予想していなかったろうけれども、もしも知ったら「それもありだろ」と笑うのだろう。
 コメント欄のノリが面白い。


 昨年10月という割と早い時期にアップされた傑作。ゾルタン・コダーイのあまり有名ではない合唱曲で、ミクにハンガリーの言葉を歌わせるというもの。曲そのものの魅力が、ミクの声質とよく合っている。


 高校の音楽の教科書に載ったりもしている有名な歌曲を歌わせたもの。歌曲を歌わせたものとしては割とスタンダードな仕上がりだ。日本語専用に作られているミクで、外国語を歌わせるのはなかなか難しい。


 こっちはブラームス。ミクにはシューマンよりもブラームスのほうが合っているような気がする。


 プーランクも悪くない。ミクを使うと合唱もできるという例。


 バッハ畢生の傑作「マタイ受難曲」に挑む勇者もいる。音域、発音など難しい部分は多々あると思うのだけれど、ずいぶんと頑張っていると思う。


 バッハの器楽曲、特に最晩年の「音楽の捧げもの」「フーガの技法」は、表現と技法の統一という点で空前絶後の高みに達している。楽器指定や音の強さの指定、あるいはテンポ指定すらもされていない、音の高さと音の長さだけを書き込んだ楽譜は、恐ろしいまでに抽象的。にもかかわらず、そこには人を感銘させずにはおかないなにかが存在する。
 抽象的なものだから、これらの曲はどんなアレンジをしても映える。「音楽の捧げもの」を代表する曲「6声のリチェルカーレ」は、初音ミクが歌っても、やはりバッハであり、その音楽が壊れることなない。


 これが時代を下ってドビュッシーぐらいになると、バッハのように「どんなアレンジでもなじむ」というわけには行かなくなる。ドビュッシーのピアノ曲は、ピアノという楽器に密着して作られているので、そこから離れて別のアレンジを施すのにはよほどの努力と才能が必要だ。この動画でミクはずいぶん頑張っているけれども、かなりつらいところもある。


 ミクやリンを電子の歌姫ではなく、独特の音質を持つ楽器として扱う方向性もある。これらの曲が典型例。ミクの音質は意外にライヒの音楽に合っている、これはライヒ自身が声を器楽的に使うことが多い(18人の奏者のための音楽とか)作曲家だからだろう。

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2008.10.18

再生数は少ないけれど――ミクオリジナル曲選

 ニコ厨となり、ミク廃ともなると、誰がどんな曲を書いているかが気になって、ニコニコ動画にアップされた「ミクオリジナル曲」タグの付いた動画をせっせと閲覧することになる。

 実際、ミクに歌わせたオリジナル曲は「アマチュアの手すさび」で片づけることができないほどの市場性を見せており、人気トップクラスは100万再生を遙かに超えている。CDのミリオンセラーとの単純な比較はできないだろうが、すべての閲覧者が10回再生しているとしても、100万再生ならばユニークなリスナーが10万人いる計算となる。これはまったくもってバカにできない規模だ。

 とはいえ、あれこれと聴いていった印象では、もう少し再生数の小さいところ、数千から数万再生のあたりにユニークで面白い曲が多い。
 
 以下、数千から数万再生あたりで、私が面白いと思った曲を紹介していくことにする。もちろん投稿されているミクオリジナルをすべて聴いたわけではないから、私が聴いた範囲、しかも私の好みを反映したセレクションではある。それでも、ニコニコ動画で多彩な才能が楽しく遊んでいることの証拠ぐらいにはなるだろう。

ハンドル名への敬称は省略させていただいた。



 野尻抱介さんに教えてもらった、ハンドル名、長靴Pの作品三連発。長靴Pの作品は、達者なギターから繰り出される爽快なロックンロールと、シュールとも間抜けとも人生の機敏を描いているとも取れる歌詞、そして特徴的なミクのイラストが、三位一体の絶妙なコンビネーションを作り上げている。
 実に楽しいと思うのだけれど、どういうわけか私の評価ほどには再生数が伸びない。おやじっぽいミクが嫌われているのだろうか。「出てねえ腹なんて背中と同じだ」とか、最高だと思うのだがなあ。



 魔術的な繰り返しが特徴的な曲。極端な繰り返しが陶酔を生む系統の曲としては、「ストラトスフィア」がVORCALOID殿堂入りとなっているが、私はこの曲のほうが「ストラトスフィア」より好きだ。
 ミクオリジナルではこういう南米系のリズムの曲もけっこうアップされているのだけれど、どういうわけか再生数が伸びない傾向がある。シックスティーンビートのJPOPテイストだけが音楽ではないのだけれども。


 ハンドル名、子猫Pの曲、初音ミクの登場当初は、ミク自身を主人公としたキャラクターソングが多数アップされた。その中でも最大のヒットは「みっくみくにしてあげる」だったわけだが、こちらはラテンリズムのキャラクターソング。なんともかわいい。ちょっと一連の「うる星やつら」のキャラクターソングを思い出させる。


 同じく子猫Pの曲。キャラクターソングも、「そのキャラクターが、そのキャラクターたる理由はどこにあるのか」というメタな視線を入れると、こういう異色作になる。一発ネタといえばその通りだが、プロからはまず間違いなくでてこないであろう視点が面白い。


 あれこれの要素を付加して音楽を豪華にしていくのではなく、逆にぎりぎりまで切りつめていった歌。まったく無駄がないシンプルさがいい。


 ハンドル名、トゥルララPは、歌詞をつけずに「ラララ」とミクに歌わせることに執心している。歌詞を歌わせることができるのがミクの特徴なのだが、あえて歌詞を禁じ手にして伸びやかな声のサウンドを生かし、素直な曲に仕上げているのが快い。
 この曲も野尻抱介さんが見つけてきたもの。ちょっと聴くと単純に思えるが、メロディの細かいところまで神経の行き届いたうウェルメイドの曲だ。たとえば女性声優のボーカルアルバムのラストにこの曲が入っていたら、アルバムの締めとしては理想ではないだろうか。私はこの曲から矢野顕子の「オーエスオーエス」を連想した。


 これはもう立派な室内楽伴奏付きの歌曲。よく考えられた音楽の構成や、達者なビデオの作りからすると音大、美大系の出身者の作品かとも思う。


 沖縄の音階を使ったシンプルな佳曲。



 最後も猫ネタで。再生数からいえば立派なヒット曲だ。まだまだ伸びるだろう。

 ちなみに作者のハンドル名の最後にPが付いているのはニコニコ動画の慣習だ。これはプロデューサーの略。ニコニコ動画で一世を風靡した「アイドルマスター」というゲームに由来する。このゲームでは、プレイヤーが芸能プロダクションのプロデューサーになってアイドルを育成する。画面にプレイヤーの名前が「●●P」と表示されることから、いつしか、ニコニコ動画でのハンドル名は最後にPが付くようになった。ハンドル名は自称する場合も、ユーザーが投稿者の特徴を捉えて「この人は●●Pだ」と命名することもある。ちなみに私は「L/DP」というハンドル名をもらっている。

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2008.10.17

かっとなってやった、から、確信犯へ

 初音ミクを入手してから1年以上が経過した。結局自分もニコ厨でありミク廃であるのだな、と思う。

 新作をニコニコ動画にアップしました。


 新作といっても、詩は20年以上昔に新聞に掲載されたものをスクラップしておいたもの。曲は17年前に書いたものである。誰が歌ってくれるあてがあるわけでもなく書いた曲を、こうやって電子の歌姫が歌ってくれて、しかもニコニコ動画という発表媒体も存在するというのは、なんともすばらしいことか。

 今回、ミクの3Dモデルに振り付けることができるMikuMikuDanceというソフトを使ってみたが、これがなかなか素晴らしい、良くできたソフトだった。これほどの機能を持つソフトウエアがフリーで公開されているというのも、なんとも良い時代になったものだ。
 
 だってさ、最初にPC-9801を見た時(1982年のことだ)、「TANAKAのフライトシミュレーター」で、3Dワイヤフレームが動いていてびっくりしたんだぜ。この曲を書いた1991年には、シリコン・グラフィックスのトレードショーで3D隠線処理をして、きちんと面がある3Dの戦車がリアルタイム画像生成で画面の中を走り回るのを見てたまげたんだぜ。それを考えりゃ——って、つまりは自分が歳を取ったということなのだけれども。


 そして半年前にアップした曲は、いつの間にやら5000再生に近づいている。

 「みっくみくにしてあげる」とか「メルト」とか「恋は戦争」とか、100万再生以上の曲から比べればささやかなものだが、もしも初音ミクが存在しなければ、そもそも誰も聞くことのない、それこそ「誰もいない森で木が倒れた時の音」のようなものだったのだから、5000再生というのは、まったくもって夢のような状況だ。聞いてくれた皆様、ありがとうございます。

 こんな曲があと3曲残っている。来年の春までにはぼつぼつアップしていきたいな、と考えている。

 そうです、もう「かっとなってやった」ではすまされないわけです。

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2008.10.16

神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1.1(2008年10月16日木曜日版)

 以下、FAQのバージョン1.1を掲載します。おそらくこれが最終版となると思います。

 当blogカテゴリーに「神舟7号船外活動関連」を追加しました。


注意
 この場における議論は2008年10月15日をもって終了しています。
 意見のある方は、自分でblogを開設して意見を発表し、当blogにトラックバックを送ってきてください。
 本blogは明らかにトラックバックスパムと判断される場合以外、トラックバックの制限をしていません。

バージョン1.1での修正点:誤字脱字修正と、一部表現の手直し。「●「水中のロープ締め」という発言」への記述追加。








神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1.1(2008年10月16日木曜日版)



前文:このFAQが作成されるまでの経緯

 このFAQ(よくある質問と答え)は、2008年9月に中国が有人宇宙船の神舟7号で行った、中国初の船外活動(EVA:通称「宇宙遊泳」)について、ネットで起こった疑問について答えるものです。

 神舟7号は、2008年9月25日現地時間午後9時10分、酒泉衛星発射センターから打ち上げられました。乗組員はタク志剛、劉伯明、景海鵬の3名です。9月27日にタク志剛飛行士が15分間の船外活動を行い、翌9月28日に内モンゴル自治区中部に帰還しました。船外活動の様子は中国中央テレビ(CCTV)で中継され、ウェブキャストで日本においても視聴することができました。

 その後、ニコニコ動画(http://www.nicovideo.jp/)に、「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」というタイトルでCCTVの画像が投稿され(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)、またニュースまとめ系サイトの「アルカン速報」(http://alsoku.blog47.fc2.com/)に、「【神舟7号】 中国の有人宇宙飛行はねつ造か?→国営新華社が発射前に打ち上げ成功を誇らしげに伝える、宇宙遊泳の映像に泡が見つかる」(http://alsoku.blog47.fc2.com/blog-entry-257.html)という記事が掲載され、インターネット・ユーザーの間で、「神舟7号の船外活動は中国のでっち上げ、偽造ではないか」という話題が広がっていきました。

 それら偽造論に対して、当FAQをまとめた松浦は「松浦晋也のL/D」(http://smatsu.air-nifty.com/)に、9月29日付けで「このっ、バカ共が!」(http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2008/09/post-af53.html)という記事を掲載して反論。そこから同blogのコメント欄を使った、画像の具体的な検証が始まりました。

 様々な立場の人々が参加した議論の結論は以下の通りです。

「中国が公開した船外活動の動画像には、『どう考えても宇宙空間ではあり得ない。このような現象は地上のみで起こりうる』という現象は写っていない。
 疑惑が取りざたされた現象は、すべて、宇宙空間での現象であるとしても矛盾なく説明できるものであり、その一部は宇宙空間でなければ起こりえない現象だった。」

 つまり、中国初の船外活動を、捏造とする決定的証拠は動画像中に見いだすことはできませんでした。

 その他状況証拠も、中国には捏造を行う積極的理由がないことを示しており、中国が実際に船外活動を成功させたことは、公開動画像から見てもまず間違いないと言えます。

 以下、「松浦晋也のL/D」コメント欄で行われた議論に基づいて作成したFAQ(よくある質問と答え)です。文責は松浦晋也にあります。

 この文書は出所を明らかにした上ならば、印刷物も含め、どこにどのように転載して貰っても構いません。また転載した旨の通知も不要です。


 検証にあたっては、主に「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)の動画像を使用しました。
 ニコニコ動画のアカウントを持たない方は、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
から、同じ動画像を見ることができます。







第1章:動画像に写ったデブリ状物体について



●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動しています。これはなぜでしょうか。

A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
 「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
 船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。

 ではその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
 真空中の空気分子は条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいです。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
 宇宙服の皺やケーブル類がぴんと張る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
 鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。

ニコニコ動画には実演の映像があります
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088

 ムチを振る人の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
 神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。

 なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんが1990年12月にソユーズ宇宙船に搭乗したときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。



●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見えます。宇宙空間での等速直線運動には見えません。

A:物体は加速していません。視点の移動速度が大きくなっているだけです。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラのレンズはかなり広角寄りです。これはほぼ円筒形の神舟7号の船体が、後ろがぎゅっと小さくなったように遠近感が強調されて映っていることでわかります。
 神舟7号搭載のカメラは、35ミリカメラ換算で焦点距離24ミリくらいの広角レンズを使っている印象です。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。



●デブリ状物体の移動についてその3
Q:このビデオの1分5秒から
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現しているように見えます。これはどのような現象ですか。説明がつかないように思えます。デブリがカメラの視界外を巧みに迂回したのでしょうか。

Aまず、この物体を解析すると、かなり細長く、かつ0.54+-0.02秒周期で回転しています。水中撮影に入り込んだ泡ならこんなに形で綺麗に回転が観測できないはずなので、多分固体でしょう

 この件については、公開されている動画像がかなりきつい非可逆圧縮をかけられているので、はっきりと「これだ」と断定することはできません。しかし、妥当に思えるシナリオを考えることはできます。

Debris_2

 この画像は、問題のデブリが画面のどこをどのように移動していったかを、画像のフレーム単位で追っていったものです。フレームの番号はデブリが見え始めたコマを1コマ目として便宜的に付けてあります。緑の部分は、バイザー前ないしはバイザーに写ったもの、26フレーム目でデブリは消失し、赤の点の部分を動いたかのようにみえて、宇宙飛行士のヘルメットの上側に出現します。

 これをどう解釈するかですが、ひとつの考え方は、1フレームから26フレームはバイザーに反射した映像だとするものです。バイザーは大きく凸面に湾曲しているので、超広角レンズと同じ役割を果たします。

 バイザーに写っているハッチのように見えるものは、実は2本の命綱です。これは宇宙飛行士の左手が握っていることから分かります。
 バイザーのデブリは、実体がカメラに写っているならば、バイザーの前を通過していますし、バイザーに鏡像として写っているならば、宇宙飛行士の胸の方向から移動してきたことになります。

 以下、デブリがバイザーに写っていると仮定すると、デブリは命綱と宇宙飛行士との間の狭い空間を宇宙飛行士の体に沿う形で上昇してきたということになります。それが凸面のバイザーに写って、ゆっくりと動いているように見えたわけです。
 デブリはカメラから見て宇宙飛行士のヘルメットの向こうをすり抜け、画面上方に飛んでいったことになります。
 カメラからみた、バイザーに写ったデブリの軌跡と、ヘルメットの向こう側に見えたデブリの軌跡が一直線上に並んだので、デブリが宇宙空間ではあり得ないような加速運動をしたかのような錯覚を生じたわけです。

 この解釈では、バイザー上に写ったデブリの本体が、なぜ画面に映っていないのかが問題になります。これについては、

 1)デブリは宇宙飛行士の体で陰になるところを通過した
 2)たまたま紙を真横から見るような形で通過したので動画像伝送時の情報圧縮とあいまって写らなかった

などの理由が考えられます。

 もうひとつの考え方として、このデブリは、画面奥からカメラ側に向かって飛んできているのだとする説もあります(例えばhttp://studioneet.blog.so-net.ne.jp/2008-10-02-1を参照のこと)。
 この場合は、ヘルメット部分でデブリが消えている理由を、上記2)と考えます。向こう側からカメラ側へと向かって来ているので、最初は視線速度が小さかったものが、最後は高速に移動しているかのように写っている、と考えるわけです。

 ただし、いずれの考え方も推定です。画像がはっきりしないので、絶対に確実だとは現状では言えないというのが正直なところです。

 大切なのは現状において「このようにも解釈されうるので、この画像のみをもって『撮影場所は宇宙空間ではない。捏造だ』と言い切ることはできない」ということです。



●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリはすべて地球側に向かって飛んでいったように見えます。この映像は実際には地上のプールで撮影されたものであり、デブリに見えるものは、実は気泡が上に浮かんでいったからではないでしょうか。

A:画像を注意深く見てみると、かなり多数の物体がハッチから放射状に出ています。画像で確実に確認できるものだけでも10個以上あります。
 個々の物体の軌道を画像解析すると、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、画像解析では物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。
 もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
 にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。
 なお、デブリの軌跡はかなり広く放射状に広がっているので、広角レンズのひずみだけでは説明できません。本当に放射状に飛散しています。つまり水中から水面へと一方向に立ち上る泡ではありえないということです。

Qその2:プールで試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んで同じ現象を観察できます。ですから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますがどうでしょうか。

Aその2:まず、コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎます。動画像に写ったデブリ/泡は、移動距離が宇宙飛行士の身長以上の十分大きなスケールで、明らかに違う方向を向いてるということが重要です。このようにきれいに泡を、ほぼ同時に等速直線運動で別方向に流す水流を作り上げるのは、かなりの困難が伴うでしょう。

Qその3:ハッチから放射状に流れ出る水流を考えれば、このような水泡の動きも作り出せると思います。やはり、この映像を水中撮影であり、写ったのは泡ではないでしょうか。

Aその3:この映像が地上での撮影だったとするならば、“泡”は本来写ってはいけないものです。ですから、泡の動きを宇宙空間でデブリが示す等速直線運動に合わせるために水流をわざわざ起こすというのは、合理的な態度ではありません。“泡”を出さないように注意するはずなのです。
 また、ハッチから水が流れ出ているとしても、その水流は画面上に向かうでしょう。水は比重が大きく、流れは運動量を持っています。物理的に考えると、ハッチ内を上昇してきた水は、運動量を保って上に向かうしかありません。ハッチのふちを通過した途端に放射状に流れるということはありえません。

 放射状に水が流れるように水の吹き出し口を作るなどの細工をしてあったと仮定すると、“泡”の運動から見ると、かなり高速の水流を作っていると考えねばなりません。そのような水流は周辺に水の乱れた流れを生み出し、宇宙飛行士の身体の動きや、命綱などの挙動に影響するはずですが、動画像中からは、そのような不審な動きを見て取ることはできません。



●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Qその1:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出しています。船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのでしょうか。
 また、ハッチの縁付近で向きが変わってるように見えます。この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。

A:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しているのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
 神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチのようなものは存在しません。 

ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm

>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。

とあります。

 また報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html

 神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。

 記事によると軌道モジュールをエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。

 2キロパスカル=50分の1気圧です。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには500ニュートン=50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
 船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いのでしょう。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。







第2章:カラビナの動きについて



●カラビナの動きについてその1
Q:水中撮影を否定する意見の中には「カラビナは水中で沈むはずだが、画像に写るカラビナは浮いている」というものがあります。しかし、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずです。中国がそのようなカラビナを用意して水中撮影を行った可能性は否定できないのではないでしょうか。

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。

Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。

A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面として動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
 実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
 水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。



●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないでしょうか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態です。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中撮影の疑惑が濃厚だと思います。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。

Qその2:2分34秒付近のカラビナの向き(綱の付いている方向)は、画面右向きだった。触ったために向きが画面奥に変わった。綱も「逆Cの字」の状態から、螺旋状に変わった。
 これは、針金をCの字に曲げて、その一端を固定し、もう一端を120度くらい捻ったのと同じではないでしょうか。命綱はやはり剛体だと思います。

A:命綱がたわむのが分かるのは、2分34秒付近だけではありません。例えば0分25秒の宇宙船の後部からの画像では伸びている命綱が、1分2秒付近ではおおきくたわんで変形しているのが分かります。あるいは2分14秒から19秒では、命綱自身が振動し、たわんでいるのがはっきり写っています。2分34秒付近の映像のみが剛体であると解釈しうるとしても無意味です。







第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて



●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、宇宙飛行士の身体の姿勢が安定しているように見えます。これはなぜでしょうか。

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。



●宇宙飛行士の目的と姿勢についてその2
Q:そもそも彼らは何をしてるのでしょうか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっていますが、これには何か理由があるのですか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあったサンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。



●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見えます。本当に宇宙空間で撮影したものには見えません。

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291


 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。







第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について



●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:長征2Fロケットによる打ち上げ時の船内映像ですが、あまりにも振動がなさすぎるように見えます。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りにロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
 しかし、飛行士は微動だにしていません。

http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きいです。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないでしょうか。

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さいのです。
 全段液体ロケットエンジンを使用する、ロシアのソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かります。

 以下はYouTubeにアップされているソユーズロケットによる打ち上げの映像です。

 やはり船内は振動はないかのように写っています。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
 テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょう。



●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのでしょうかか?

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』でした。映像ではありません。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことです。過去にも予定原稿が流出する事故は、何度も起きています。



●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚えます。打ち上げ時の加速度で腰に負担がかかったりしないのでしょうか?
http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子もまったく違います。

A:あれがソユーズ・タイプのカプセル型宇宙船の標準的な搭乗姿勢なのです。


 シャトルとは設計思想が違うのです。







第5章:大紀元が掲載した捏造疑惑報道について

●照明器具のようなものが写っていた件について
 中国系のメディア「大紀元」日本語版(http://jp.epochtimes.com/)で、捏造疑惑が報道されました。
http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
 宇宙飛行士が左手首に付けている鏡に、宇宙には存在しないはずの照明器具のようなものが映っているというものです。
 確かに公開された動画像を見ると、照明器具らしきものが写っています。
http://www.youtube.com/watch?v=fvz0GZPNIF0&eurl=http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
8分41秒と8分54秒あたり

 地上で映像を捏造した証拠でしょうか。そうでないとしたら、これはいったい何でしょうか。

A:大紀元がYouTubeにアップした画像の8分41秒と8分54秒付近を子細に調べると、照明器具らしきものは、実は神舟7号本体から
離れた場所にあるのではなく、神舟7号の軌道モジュールに取り付けられていることがわかります。
 そこで、中国が公開した神舟7号の映像を調べてみると、これが地球の陰の部分で船体を照らすためのライトであることがわかります。
http://jp.youtube.com/watch?v=B8GpZztIjJg
 この映像の1分28秒付近から、地球の陰の部分を飛行する神舟7号を、このライトが照らしている映像を見ることができます。また2分43秒からの映像では、ライトを直接カメラが撮影しています。
 この照明器具は神舟7号の装備です。地上のスタジオの装備ではありません。



●「水中のロープ締め」という発言
Q:同じ大紀元の記事では、宇宙飛行士と地上との交信で「水中」という言葉を使っていたと指摘しています。

CCTVの下記の生中継映像2では、宇宙船外でドッキング作業する宇宙飛行士に指令を下す指揮官は、「01番、02番、水中拉糸、工作正常(ドウヤオ、ドウリャン、スイジョン・ラーシー、ゴンゾウ・ジョンチャン)」と指令を出した。文字通りに日本語に訳すと、「01番(宇宙飛行士・タク志剛氏を指すコードナンバー)、02番(宇宙飛行士・劉伯明氏を指すコードナンバー)、水中のロープ締め、作業が正常完了」である。映像では、その声は明確に聞き取れる。

 これは、映像が地上のプールで撮影された捏造であることの証拠ではないでしょうか。

A:まず、大紀元日本語版の「水中拉糸」は誤りです。大紀元のオリジナル記事(http://www.epochtimes.com/gb/8/10/4/n2285035p.htm)によると「水中拉系(スイジョン・ラージー)」となっています。
 この件に関しては、中国のネットでも議論となっており、「水蒸発器(シュイジェンファーチー)と言っている」という説が出ています。ネットにアップされた動画の音声はかなり不明瞭なので、確かにこのようにも聞こえます。

漢字 カタカナ表記 ピンイン表記
水中拉系 スイジョン・ラージー shui3 zhong1 la1 ji4
水蒸発器 シュイジェンファーチー shui3 zheng1 fa1 qi1


 水蒸発器であるとすると、それは何を意味するかですが、宇宙服の図解には、「水昇華器等」という記載があります。

http://www.gov.cn/jrzg/images/images/00123f37af8b0a4593fe01.jpg
http://www.gov.cn/jrzg/images/images/00123f37af8b0a45924f05.jpg

 さらに、航天国際動態与研究(第12期---2001.4.30)http://www.space.cetin.net.cn/docs/htdt99/htdt0112.htm の、「宇航員出艙活動技術(宇宙飛行士のEVA技術)」という項目に以下の記載があります。

「宇航員的代謝熱通過水蒸発器或水昇華器排除(宇宙飛行士の代謝熱を“水蒸発器”あるいは“水昇華器”で排除)」


 つまり、この発言は宇宙服の生命維持システムの一部である、宇宙服内にこもる熱を排出するための冷却器の動作に関するものなのです。

 録音が必ずしも明瞭ではないので、「水中拉系」と言っている可能性を完全に否定することはできません。しかし、「水蒸発器」だとすると、宇宙服の構造とも一致し、この発言が宇宙空間での活動についてのものであるとして矛盾は生じません。つまり、この発言のみをもって、「船外活動の映像そのものが捏造である決定的な証拠である」と言うことはできません。
(注:この件については、ホシボシヲあ〜かいぶ記事を参考にしました)








第6章:軌道上からの中継画像の品質について



●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常なまでに鮮明です。宇宙から送られてくる動画像がこんなに鮮明なことがあるのでしょうか?

A:いつの時代の船外活動の動画像と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。



●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見えます。なぜでしょうか、地球と宇宙飛行士を別途撮影した上で合成したからではないでしょうか?

A:それはデジタル画像伝送のコーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)の影響である可能性が高いです。
 コーデックにはさまざまな種類がありますが、基本的に人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の小さい「軽い」動画像データを生成するわけです。
 具体的には、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。つまり、目で分かりやすいコントラストの付いた部位や、時間的に素早く変化する部分に優先的に情報量を割り当て、コントラストが小さかったり、時間的な変化がゆるやかな部分は情報量を減らします。
 ですから地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのでしょう。
 一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。ですから、宇宙飛行士には大きな情報量が割り当てられ、なめらかな動きを見ることができるようになるわけです。







第7章:中国の体制について

●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけています。神舟7号の船外活動についても同様の疑問を持つのは当然ではないでしょうか。

A:まず、科学者の間で嫦娥一号の取得した映像を捏造と断定している人はいません。中国側の事情を考えても、いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついても意味がありません。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短いのです。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではありません。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証しています。こちらの記事も読んでみて下さい。
http://www.planetary.org/blog/article/00001248/



●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。

A:過去に偽造をやっていたから、今回はどうかな、と疑問を持つことはある意味自然かも知れません。それでも、「今回だってやっているに違いない」と考えるのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
 先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観を廃した観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせます。



●中国の体制について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。

A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には事実上の資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
 中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。
 有人飛行が2から3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。例えば、アメリカが1960年代に実施したジェミニ計画では、1965年3月から1966年11月までの約19ヶ月間に10回の有人飛行を実施しています。3人乗りの神舟宇宙船は2人乗りのジェミニ宇宙船よりも大規模ですが、共に「新しい技術を開発して地球周回軌道で検証する」技術開発計画であることが共通しています。ジェミニ計画当時、アメリカはアポロ宇宙船による月着陸を急いでいました。国家がトップダウンで計画を急がせると、これぐらいのことはできるという一つの例といえると思います。

 状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば、それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
 神舟宇宙船の打ち上げのためには、通信確保のために南緯40度付近の海域に追跡船を派遣する必要があります。この海域は年間を通じて波浪が高いのですが、南半球の春から夏、つまり北半球の秋から冬にかけて比較的穏やかになります。神舟宇宙船の有人打ち上げが9月から10月にかけて行われていたのは、追跡船を派遣する海域が穏やかな時期を選んでいたのです。
 しかし、国威発揚を重視するならば、周回軌道の一部での通信を諦めるという選択肢もあり得ます。実際、ガガーリンによる最初の有人飛行(1961年)では、通信できない時間帯が存在しましたし、過去にはソ連/ロシアの宇宙ステーション「ミール」が、通信不可能な時間帯を抱えたまま長期間の有人運用を行ったこともありました。

 しかし中国はそのような選択をせず、9月25日に神舟7号を打ち上げました。そのことの意味を考えてみて下さい。



●中国が過去に起こした事故隠蔽について
Q:中国では少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、村一つが500人規模の死者を出して壊滅しています。「その問題点がいまだに解決できていない」と考えると、捏造に走る根拠としては整合性が高いのではないでしょうか。

A:確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」通信衛星を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽しましたが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
 事故後、中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。それ以来。長征ロケットは12年間で、66機もの連続打ち上げ成功を続けています(2008年10月6日現在)。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
 事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。







第8章:補足説明



●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
 実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
 周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。



●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:中国は、以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくりと有人宇宙開発に取り組んでいます。ですから、ここで後に問題を残すようなことをする理由がありません。
 この事は直接捏造疑惑を直接否定するものではありません。それでも、船外活動の動画像が捏造ではないかと思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、自分で資料を当たってみてはいかがでしょうか。


 以上。


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2008.10.07

神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1

 以下、これまでの議論に基づいて作成したFAQのバージョン1を掲載します。

 これをもって、この場における議論は終了させたいと思います。
 以後は、私(松浦)が修正の必要ありと判断した場合に、バージョン1.1以降を掲載することにします。

 議論に参加した皆様、誤字脱字修正をしてくれた方々、どうもごくろうさまです。ありがとうございました。



今後の運用についての注意
 バージョン1公開後も、すぐにコメント欄を閉じることはしません。まだ議論し足りない方は続けて下さってかまいません。ただし、議論が続いた場合も10月15日の深夜0時をもって、コメント欄を閉じることにより、終了させたいと思います。
 それ以降は、それぞれの方がblogを開設し、自分の意見を書いた上で、本blogの当該記事にトラックバックを送ってきて下さい。本blogは明らかにトラックバックスパムと判断される場合以外、トラックバックの制限をしていません。


 中国が公開した画像に関する疑問と回答は、10月3日の記事のコメント欄で継続します。そちらに書き込んで下さい。
 
 この件に関する意見、感想などは10月1日の記事のコメント欄に書き込んで下さい。

バージョン1での修正点:誤字脱字修正と、一部表現の手直し。「●デブリ状物体の移動についてその4」へのQ&Aの追加。








神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1(2008年10月7日火曜日版)



前文:このFAQが作成されるまでの経緯

 このFAQ(よくある質問と答え)は、2008年9月に中国が有人宇宙船の神舟7号で行った、中国初の船外活動(EVA:通称「宇宙遊泳」)について、ネットで起こった疑問について答えるものです。

 神舟7号は、2008年9月25日現地時間午後9時10分、酒泉衛星発射センターから打ち上げられました。乗組員はタク志剛、劉伯明、景海鵬の3名です。9月27日にタク志剛飛行士が15分間の船外活動を行い、翌9月28日に内モンゴル自治区中部に帰還しました。船外活動の様子は中国中央テレビ(CCTV)で中継され、ウェブキャストで日本においても視聴することができました。

 その後、ニコニコ動画(http://www.nicovideo.jp/)に、「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」というタイトルでCCTVの画像が投稿され(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)、またニュースまとめ系サイトの「アルカン速報」(http://alsoku.blog47.fc2.com/)に、「【神舟7号】 中国の有人宇宙飛行はねつ造か?→国営新華社が発射前に打ち上げ成功を誇らしげに伝える、宇宙遊泳の映像に泡が見つかる」(http://alsoku.blog47.fc2.com/blog-entry-257.html)という記事が掲載され、インターネット・ユーザーの間で、「神舟7号の船外活動は中国のでっち上げ、偽造ではないか」という話題が広がっていきました。

 それら偽造論に対して、当FAQをまとめた松浦は「松浦晋也のL/D」(http://smatsu.air-nifty.com/)に、9月29日付けで「このっ、バカ共が!」(http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2008/09/post-af53.html)という記事を掲載して反論。そこから同blogのコメント欄を使った、画像の具体的な検証が始まりました。

 様々な立場の人々が参加した議論の結論は以下の通りです。

「中国が公開した船外活動の動画像には、『どう考えても宇宙空間ではあり得ない。このような現象は地上のみで起こりうる』という現象は写っていない。
 疑惑が取りざたされた現象は、すべて、宇宙空間での現象であるとしても矛盾なく説明できるものであり、その一部は宇宙空間でなければ起こりえない現象だった。」

 つまり、中国初の船外活動を、捏造とする決定的証拠は動画像中に見いだすことはできませんでした。

 その他状況証拠も、中国には捏造を行う積極的理由がないことを示しており、中国が実際に船外活動を成功させたことは、公開動画像から見てもまず間違いないと言えます。

 以下、「松浦晋也のL/D」コメント欄で行われた議論に基づいて作成したFAQ(よくある質問と答え)です。文責は松浦晋也にあります。

 この文書は出所を明らかにした上ならば、印刷物も含め、どこにどのように転載して貰っても構いません。また転載した旨の通知も不要です。もちろんリンクは自由です。


 検証にあたっては、主に「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)の動画像を使用しました。
 ニコニコ動画のアカウントを持たない方は、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
から、同じ動画像を見ることができます。







第1章:動画像に写ったデブリ状物体について



●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動しています。これはなぜでしょうか。

A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
 「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
 船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。

 ではその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
 真空中の空気分子は、条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいですね。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
 宇宙服の皺やケーブル類がぴんと張る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
 鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。

ニコニコ動画には実演の映像があります
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088

 ムチを振る人の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
 神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。

 なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんが1990年12月にソユーズ宇宙船に搭乗したときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。



●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見えます。宇宙空間での等速直線運動には見えません。

A:物体は加速していません。視点の移動速度が大きくなっているだけです。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラのレンズはかなり広角寄りです。これはほぼ円筒形の神舟7号の船体が、後ろがぎゅっと小さくなったように遠近感が強調されて映っていることでわかります。
 神舟7号搭載のカメラは、35ミリカメラ換算で焦点距離24ミリくらいの広角レンズを使っている印象です。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。



●デブリ状物体の移動についてその3
Q:このビデオの1分5秒から
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現しているように見えます。これはどのような現象ですか。説明がつかないように思えます。デブリがカメラの視界外を巧みに迂回したのでしょうか。

Aまず、この物体を解析すると、かなり細長く、かつ0.54+-0.02秒周期で回転しています。水中撮影に入り込んだ泡ならこんなに形で綺麗に回転が観測できないはずなので、多分固体でしょう

 この件については、公開されている動画像がかなりきつい非可逆圧縮をかけられているので、はっきりと「これだ」と断定することはできません。しかし、妥当に思えるシナリオを考えることはできます。

Debris_2

 この画像は、問題のデブリが画面のどこをどのように移動していったかを、画像のフレーム単位で追っていったものです。フレームの番号はデブリが見え始めたコマを1コマ目として便宜的に付けてあります。緑の部分は、バイザー前ないしはバイザーに写ったもの、26フレーム目でデブリは消失し、赤の点の部分を動いたかのようにみえて、宇宙飛行士のヘルメットの上側に出現します。

 これをどう解釈するかですが、ひとつの考え方は、1フレームから26フレームはバイザーに反射した映像だとするものです。バイザーは大きく凸面に湾曲しているので、超広角レンズと同じ役割を果たします。

 バイザーに写っているハッチのように見えるものは、実は2本の命綱です。これは宇宙飛行士の左手が握っていることから分かります。
 バイザーのデブリは、実体がカメラに写っているならば、バイザーの前を通過していますし、バイザーに鏡像として写っているならば、宇宙飛行士の胸の方向から移動してきたことになります。

 以下、デブリがバイザーに写っていると仮定すると、デブリは命綱と宇宙飛行士との間の狭い空間を宇宙飛行士の体に沿う形で上昇してきたということになります。それが凸面のバイザーに写って、ゆっくりと動いているように見えたわけです。
 デブリはカメラから見て宇宙飛行士のヘルメットの向こうをすり抜け、画面上方に飛んでいったことになります。
 カメラからみた、バイザーに写ったデブリの軌跡と、ヘルメットの向こう側に見えたデブリの軌跡が一直線上に並んだので、デブリが宇宙空間ではあり得ないような加速運動をしたかのような錯覚を生じたわけです。

 この解釈では、バイザー上に写ったデブリの本体が、なぜ画面に映っていないのかが問題になります。これについては、

 1)デブリは宇宙飛行士の体で陰になるところを通過した
 2)たまたま紙を真横から見るような形で通過したので動画像伝送時の情報圧縮とあいまって写らなかった

などの理由が考えられます。

 もうひとつの考え方として、このデブリは、画面奥からカメラ側に向かって飛んできているのだとする説もあります(例えばhttp://studioneet.blog.so-net.ne.jp/2008-10-02-1を参照のこと)。
 この場合は、ヘルメット部分でデブリが消えている理由を、上記2)と考えます。向こう側からカメラ側へと向かって来ているので、最初は視線速度が小さかったものが、最後は高速に移動しているかのように写っている、と考えるわけです。

 ただし、いずれの考え方も推定です。画像がはっきりしないので、絶対に確実だとは現状では言えないというのが正直なところです。

 大切なのは現状において「このようにも解釈されうるので、この画像のみを持って『撮影場所は宇宙空間ではない。捏造だ』と言い切ることはできない」ということです。



●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリはすべて地球側に向かって飛んでいったように見えます。この映像は実際には地上のプールで撮影されたものであり、デブリに見えるものは、実は気泡が上に浮かんでいったからではないでしょうか。

A:画像を注意深く見てみると、かなり多数の物体がハッチから放射状に出ています。画像で確実に確認できるものだけでも10個以上あります。
 個々の物体の軌道を画像解析すると、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、画像解析では物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。
 もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
 にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。
 なお、デブリの軌跡はかなり広く放射状に広がっているので、広角レンズのひずみだけでは説明できません。本当に放射状に飛散しています。つまり水中から水面へと一方向に立ち上る泡ではありえないということです。

Qその2:プールで試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んで同じ現象を観察できます。ですから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますがどうでしょうか。

Aその2:まず、コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎます。動画像に写ったデブリ/泡は、移動距離が宇宙飛行士の身長以上の十分大きなスケールで、明らかに違う方向を向いてるということが重要です。このようにきれいに泡を、ほぼ同時に等速直線運動で別方向に流す水流を作り上げるのは、かなりの困難が伴うでしょう。

Qその3:ハッチから放射状に流れ出る水流を考えれば、このような水泡の動きも作り出せると思います。やはり、この映像を水中撮影であり、写ったのは泡ではないでしょうか。

Aその3:この映像が地上での撮影だったとするならば、“泡”は本来写ってはいけないものです。ですから、泡の動きを宇宙空間でデブリが示す等速直線運動に合わせるために水流をわざわざ起こすというのは、合理的な態度ではありません。“泡”を出さないように注意するはずなのです。
 また、ハッチから水が流れ出ているとしても、その水流は画面上に向かうでしょう。水は比重が大きく、流れは運動量を持っています。物理的に考えると、ハッチ内を上昇してきた水は、運動量を保って上に向かうしかありません。ハッチのふちを通過した途端に放射状に流れるということはありえません。

 放射状に水が流れるように水の吹き出し口を作るなどの細工をしてあったと仮定すると、“泡”の運動から見ると、かなり高速の水流を作っていると考えねばなりません。そのような水流は周辺に水の乱れた流れを生み出し、宇宙飛行士の身体の動きや、命綱などの挙動に影響するはずですが、動画像中からは、そのような不審な動きを見て取ることはできません。



●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Qその1:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出しています。船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのでしょうか。
 また、ハッチの縁付近で向きが変わってるように見えます。この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。

A:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しているのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
 神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチのようなものは存在しません。 

ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm

>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。

とあります。

 また報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html

 神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。

 記事によると軌道モジュールをエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。

 2キロパスカル=50分の1気圧です。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには500ニュートン=50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
 船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いのでしょう。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。







第2章:カラビナの動きについて



●カラビナの動きについてその1
Q:水中撮影を否定する意見の中には「カラビナは水中で沈むはずだが、画像に写るカラビナは浮いている」というものがあります。しかし、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずです。中国がそのようなカラビナを用意して水中撮影を行った可能性は否定できないのではないでしょうか。

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。

Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。

A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面として動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
 実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
 水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。



●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないでしょうか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態です。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中撮影の疑惑が濃厚だと思います。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。

Qその2:2分34秒付近のカラビナの向き(綱の付いている方向)は、画面右向きだった。触ったために向きが画面奥に変わった。綱も「逆Cの字」の状態から、螺旋状に変わった。
 これは、針金をCの字に曲げて、その一端を固定し、もう一端を120度くらい捻ったのと同じではないでしょうか。命綱はやはり剛体だと思います。

A:命綱がたわむのが分かるのは、2分34秒付近だけではありません。例えば0分25秒の宇宙船の後部からの画像では伸びている命綱が、1分2秒付近ではおおきくたわんで変形しているのが分かります。あるいは2分14秒から19秒では、命綱自身が振動し、たわんでいるのがはっきり写っています。2分34秒付近の映像のみが剛体であると解釈しうるとしても無意味です。







第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて



●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、宇宙飛行士の身体の姿勢が安定しているように見えます。これはなぜでしょうか。

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。



●宇宙飛行士の目的と姿勢についてその2
Q:そもそも彼らは何をしてるのでしょうか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっていますが、これには何か理由があるのですか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあったサンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。



●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見えます。本当に宇宙空間で撮影したものには見えません。

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291


 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。







第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について



●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:長征2Fロケットによる打ち上げ時の船内映像ですが、あまりにも振動がなさすぎるように見えます。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りにロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
 しかし、飛行士は微動だにしていません。

http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きいです。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないでしょうか。

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さいのです。
 全段液体ロケットエンジンを使用する、ロシアのソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かります。

 以下はYouTubeにアップされているソユーズロケットによる打ち上げの映像です。

 やはり船内は振動はないかのように写っています。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
 テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょう。



●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのでしょうかか?

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』でした。映像ではありません。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことです。過去にも予定原稿が流出する事故は、何度も起きています。



●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚えます。打ち上げ時の加速度で腰に負担がかかったりしないのでしょうか?
http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子もまったく違います。

A:あれがソユーズ・タイプのカプセル型宇宙船の標準的な搭乗姿勢なのです。


 シャトルとは設計思想が違うのです。







第5章:大紀元が掲載した捏造疑惑報道について

●照明器具のようなものが写っていた件について
 中国系のメディア「大紀元」日本語版(http://jp.epochtimes.com/)で、捏造疑惑が報道されました。
http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
 宇宙飛行士が左手首に付けている鏡に、宇宙には存在しないはずの照明器具のようなものが映っているというものです。
 確かに公開された動画像を見ると、照明器具らしきものが写っています。
http://www.youtube.com/watch?v=fvz0GZPNIF0&eurl=http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
8分41秒と8分54秒あたり

 地上で映像を捏造した証拠でしょうか。そうでないとしたら、これはいったい何でしょうか。

A:大紀元がYouTubeにアップした画像の8分41秒と8分54秒付近を子細に調べると、照明器具らしきものは、実は神舟7号本体から
離れた場所にあるのではなく、神舟7号の軌道モジュールに取り付けられていることがわかります。
 そこで、中国が公開した神舟7号の映像を調べてみると、これが地球の陰の部分で船体を照らすためのライトであることがわかります。
http://jp.youtube.com/watch?v=B8GpZztIjJg
 この映像の1分28秒付近から、地球の陰の部分を飛行する神舟7号を、このライトが照らしている映像を見ることができます。また2分43秒からの映像では、ライトを直接カメラが撮影しています。
 この照明器具は神舟7号の装備です。地上のスタジオの装備ではありません。



●「水中のロープ締め」という発言
Q:同じ大紀元の記事では、宇宙飛行士と地上との交信で「水中」という言葉を使っていたと指摘しています。

CCTVの下記の生中継映像2では、宇宙船外でドッキング作業する宇宙飛行士に指令を下す指揮官は、「01番、02番、水中拉糸、工作正常(ドウヤオ、ドウリャン、スイジョン・ラーシー、ゴンゾウ・ジョンチャン)」と指令を出した。文字通りに日本語に訳すと、「01番(宇宙飛行士・タク志剛氏を指すコードナンバー)、02番(宇宙飛行士・劉伯明氏を指すコードナンバー)、水中のロープ締め、作業が正常完了」である。映像では、その声は明確に聞き取れる。

 これは、映像が地上のプールで撮影された捏造であることの証拠ではないでしょうか。

A:「水中拉糸」(水中のロープ締め)という言葉を使っていたとしても、彼らが作業に使用している用語とその意味が明らかにならない限り、捏造の証拠とはなりません。
 地上での船外活動の訓練は、プールの中で行います。例えば、地上で「水中」という言葉を使って繰り返し訓練を行っていたので、本番でも混乱を避けるために「水中」という言葉を使った可能性も考えられます。
 この件については、中国の宇宙飛行士と管制官達が、どのような動作にどのような言葉を使っているかが明らかになるまで、はっきりしたことは言えないでしょう。







第6章:軌道上からの中継画像の品質について



●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常なまでに鮮明です。宇宙から送られてくる動画像がこんなに鮮明なことがあるのでしょうか?

A:いつの時代の船外活動の動画像と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。



●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見えます。なぜでしょうか、地球と宇宙飛行士を別途撮影した上で合成したからではないでしょうか?

A:それはデジタル画像伝送のコーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)の影響である可能性が高いです。
 コーデックにはさまざまな種類がありますが、基本的に人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の小さい「軽い」動画像データを生成するわけです。
 具体的には、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。つまり、目で分かりやすいコントラストの付いた部位や、時間的に素早く変化する部分に優先的に情報量を割り当て、コントラストが小さかったり、時間的な変化がゆるやかな部分は情報量を減らします。
 ですから地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのでしょう。
 一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。ですから、宇宙飛行士には大きな情報量が割り当てられ、なめらかな動きを見ることができるようになるわけです。







第7章:中国の体制について

●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけています。神舟7号の船外活動についても同様の疑問を持つのは当然ではないでしょうか。

A:まず、科学者の間で嫦娥一号の取得した映像を捏造と断定している人はいません。中国側の事情を考えても、いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついても意味がありません。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短いのです。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではありません。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証しています。こちらの記事も読んでみて下さい。
http://www.planetary.org/blog/article/00001248/



●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。

A:過去に偽造をやっていたから、今回はどうかな、と疑問を持つことはある意味自然かも知れません。それでも、「今回だってやっているに違いない」と考えるのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
 先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観にとらわれない観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせます。



●中国の体制について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。

A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には事実上の資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
 中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。
 有人飛行が2から3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。例えば、アメリカが1960年代に実施したジェミニ計画では、1965年3月から1966年11月までの約19ヶ月間に10回の有人飛行を実施しています。3人乗りの神舟宇宙船は2人乗りのジェミニ宇宙船よりも大規模ですが、共に「新しい技術を開発して地球周回軌道で検証する」技術開発計画であることが共通しています。ジェミニ計画当時、アメリカはアポロ宇宙船による月着陸を急いでいました。国家がトップダウンで計画を急がせると、これぐらいのことはできるという一つの例といえると思います。

 状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば、それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
 神舟宇宙船の打ち上げのためには、通信確保のために南緯40度付近の海域に追跡船を派遣する必要があります。この海域は年間を通じて波浪が高いのですが、南半球の春から夏、つまり北半球の秋から冬にかけて比較的穏やかになります。神舟宇宙船の有人打ち上げが9月から10月にかけて行われていたのは、追跡船を派遣する海域が穏やかな時期を選んでいたのです。
 しかし、国威発揚を重視するならば、周回軌道の一部での通信を諦めるという選択肢もあり得ます。実際、ガガーリンによる最初の有人飛行(1961年)では、通信できない時間帯が存在しましたし、過去にはソ連/ロシアの宇宙ステーション「ミール」が、通信不可能な時間帯を抱えたまま長期間の有人運用を行ったこともありました。

 しかし中国はそのような選択をせず、9月25日に神舟7号を打ち上げました。そのことの意味を考えてみて下さい。



●中国が過去に起こした事故隠蔽について
Q:中国では少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、村一つが500人規模の死者を出して壊滅しています。「その問題点がいまだに解決できていない」と考えると、捏造に走る根拠としては整合性が高いのではないでしょうか。

A:確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」通信衛星を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽しましたが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
 事故後、中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。それ以来。長征ロケットは12年間で、66機もの連続打ち上げ成功を続けています(2008年10月6日現在)。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
 事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。







第8章:補足説明



●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
 実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
 周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。



●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:中国は、以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくりと有人宇宙開発に取り組んでいます。ですから、ここで後に問題を残すようなことをする理由がありません。
 この事は直接捏造疑惑を直接否定するものではありません。それでも、船外活動の動画像が捏造ではないかと思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、自分で資料を当たってみてはいかがでしょうか。


 以上です。


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2008.10.06

神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)RC2

 以下、これまでの議論に基づいて、FAQのRC2(Release Candidate 2)を掲載します。



今後の運用についての注意
 この記事はFAQ・RC2への、コメントは文章表現、誤字脱字、誤記、明らかな内容の誤りなどに限定してください。

 中国が公開した画像に関する疑問と回答は、10月3日の記事のコメント欄で継続しています。そちらに書き込んで下さい。
 
 この件に関する意見、感想などは、もうしばらくの間10月1日の記事のコメント欄に書き込んで下さい。コメント数が200ぐらいまで増えたなら、新しい場所を用意しようかと思います。

 大紀元の記事に対する回答を、一章を割いて加えました。また、一部の章を前後入れ替えています。単位系はSI単位系と慣用の単位系を併記しました。その他、表現を一部修正しています。








神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)RC2(2008年10月6日月曜日版)



前文:このFAQが作成されるまでの経緯

 このFAQ(よくある質問と答え)は、2008年9月に中国が有人宇宙船の神舟7号で行った、中国初の船外活動(EVA:通称「宇宙遊泳」)について、ネットで起こった疑問について答えるものです。

 神舟7号は、2008年9月25日現地時間午後9時10分、酒泉衛星発射センターから打ち上げられました。乗組員はタク志剛、劉伯明、景海鵬の3名です。9月27日にタク志剛飛行士が15分間の船外活動を行い、翌9月28日に内モンゴル自治区中部に帰還しました。船外活動の様子は中国中央テレビ(CCTV)で中継され、ウェブキャストで日本においても視聴することができました。

 その後、ニコニコ動画(http://www.nicovideo.jp/)に、「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」というタイトルでCCTVの画像が投稿され(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)、またニュースまとめ系サイトの「アルカン速報」(http://alsoku.blog47.fc2.com/)に、「【神舟7号】 中国の有人宇宙飛行はねつ造か?→国営新華社が発射前に打ち上げ成功を誇らしげに伝える、宇宙遊泳の映像に泡が見つかる」(http://alsoku.blog47.fc2.com/blog-entry-257.html)という記事が掲載され、インターネット・ユーザーの間で、「神舟7号の船外活動は中国のでっち上げ、偽造ではないか」という話題が広がっていきました。

 それら偽造論に対して、当FAQをまとめた松浦は「松浦晋也のL/D」(http://smatsu.air-nifty.com/)に、9月29日付けで「このっ、バカ共が!」(http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2008/09/post-af53.html)という記事を掲載して反論。そこから同blogのコメント欄を使った、画像の具体的な検証が始まりました。

 様々な立場の人々が参加した議論の結論は以下の通りです。

「中国が公開した船外活動の動画像には、『どう考えても宇宙空間ではあり得ない。このような現象は地上のみで起こりうる』という現象は写っていない。
 疑惑が取りざたされた現象は、すべて、宇宙空間での現象であるととしても矛盾なく説明できるものであり、その一部は宇宙空間でなければ起こりえない現象だった。」

 つまり、中国初の船外活動を、捏造とする決定的証拠は動画像中に見いだすことはできませんでした。

 その他状況証拠も、中国には捏造を行う積極的理由がないことを示しており、中国が実際に船外活動を成功させたことは、公開動画像から見てもまず間違いないと言えます。

 以下、「松浦晋也のL/D」コメント欄で行われた議論に基づいて作成したFAQ(よくある質問と答え)です。文責は松浦晋也にあります。

 検証にあたっては、主に「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)の動画像を使用しました。
 ニコニコ動画のアカウントを持たない方は、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
から、同じ動画像を見ることができます。







第1章:動画像に写ったデブリ状物体について



●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動しています。これはなぜでしょうか。

A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
 「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
 船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。

 ではその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
 真空中の空気分子は、条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいですね。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
 宇宙服の皺やケーブル類がぴんと貼る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
 鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。

ニコニコ動画には実演の映像があります
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088

 ムチを振る人の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
 神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。

 なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんが1990年12月にソユーズ宇宙船に搭乗したときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。



●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見えます。宇宙空間での等速直線運動には見えません。

A:物体は加速していません。視点の移動速度が大きくなっているだけです。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラはかなり広角で、35ミリカメラ換算で24ミリくらいありそうな感じです。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。



●デブリ状物体の移動についてその3
Q:このビデオの1分5秒から
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現しているように見えます。これはどのような現象ですか。説明がつかないように思えます。デブリがカメラの視界外を巧みに迂回したのでしょうか。

Aまず、この物体を解析すると、かなり細長く、かつ0.54+-0.02秒周期で回転しています。水中撮影に入り込んだ泡ならこんなに形で綺麗に回転が観測できないはずなので、多分固体でしょう

 この件については、公開されている動画像がかなりきつい非可逆圧縮をかけられているので、はっきりと「これだ」と断定することはできません。しかし、妥当に思えるシナリオを考えることはできます。

Debris_2

 この画像は、問題のデブリが画面のどこをどのように移動していったかを、画像のフレーム単位で追っていったものです。フレームの番号はデブリが見え始めたコマを1コマ目として便宜的に付けてあります。緑の部分は、バイザー前ないしはバイザーに写ったもの、26フレーム目でデブリは消失し、赤の点の部分を動いたかのようにみえて、宇宙飛行士のヘルメットの上側に出現します。

 これをどう解釈するかですが、ひとつの考え方は、1フレームから26フレームはバイザーに反射した映像だとするものです。バイザーは大きく凸面に湾曲しているので、超広角レンズと同じ役割を果たします。

 バイザーに写っているハッチのように見えるものは、実は2本の命綱です。これは宇宙飛行士の左手が握っていることから分かります。
 バイザーのデブリは、実体がカメラに写っているならば、バイザーの前を通過していますし、バイザーに鏡像として写っているならば、宇宙飛行士の胸の方向から移動してきたことになります。

 以下、デブリがバイザーに写っていると仮定すると、デブリは命綱と宇宙飛行士との間の狭い空間を宇宙飛行士の体に沿う形で上昇してきたということになります。それが凸面のバイザーに写って、ゆっくりと動いているように見えたわけです。
 デブリはカメラから見て宇宙飛行士のヘルメットの向こうをすり抜け、画面上方に飛んでいったことになります。
 カメラからみた、バイザーに写ったデブリの軌跡と、ヘルメットの向こう側に見えたデブリの軌跡が一直線上に並んだので、デブリが宇宙空間ではあり得ないような加速運動をしたかのような錯覚を生じたわけです。

 この解釈では、バイザー上に写ったデブリの本体が、なぜ画面に映っていないのかが問題になります。これについては、

 1)デブリは宇宙飛行士の体で陰になるところを通過した
 2)たまたま紙を真横から見るような形で通過したので動画像伝送時の情報圧縮とあいまって写らなかった

などの理由が考えられます。
 宇宙服はかなり胸の部位がぶ厚くなっているので、右腕と胸との間にカメラから見た死角の空間が存在します。そこをデブリが通り、バイザーに鏡像が写ったわけです。

 もうひとつの考え方として、このデブリは、画面奥からカメラ側に向かって飛んできているのだとする説もあります(http://studioneet.blog.so-net.ne.jp/2008-10-02-1を参照のこと)。
 この場合は、ヘルメット部分でデブリが消えているのを、上記2)と考えます。向こう側からカメラ側へと向かって来ているので、最初は視線速度が小さかったものが、最後は高速に移動しているかのように写っている、と考えるわけです。

 ただし、いずれの考え方も推定です。画像がはっきりしないので、絶対に確実だとは現状では言えないというのが正直なところです。

 大切なのは現状において「このようにも解釈されうるので、この画像のみを持って『宇宙空間ではない。捏造だ』と言い切ることはできない」ということです。



●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリはすべて地球側に向かって飛んでいったように見えます。この映像は実際には地上のプールで撮影されたものであり、デブリに見えるものは、実は気泡が上に浮かんでいったからではないでしょうか。

A:画像を注意深く見てみると、かなり多数の物体がハッチから放射状に出ています。画像で確実に確認できるものだけでも10個以上あります。
 個々の物体の軌道を見てると、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。
 もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
 にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。
 なお、デブリの軌跡はかなり広く放射状に広がっているので、広角レンズのひずみだけでは説明できません。本当に放射状に飛散しています。つまり水中から水面へと一方向に立ち上る泡ではありえないとうことです。

Qその2:プールで試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んで同じ現象を観察できます。ですから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますがどうでしょうか。

A:まず、コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎると思います。いわゆる「泡疑惑」の3つの移動体は、移動距離が、宇宙飛行士の身長以上の十分大きなスケールで、明らかに違う方向を向いてるということが重要です。このようにきれいに泡を、ほぼ同時に等速直線運動で別方向に流す水流を作り上げるのは、かなりの困難が伴うでしょう。



●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Qその1:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出しています。船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのでしょうか。
 また、ハッチの縁付近で向きが変わってるように見えます。この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。

A:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しているのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
 神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチのようなものは存在しません。 

ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm

>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。

とあります。

 また報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html

 神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。

 記事によると軌道船をエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。

 2キロパスカル=50分の1気圧です。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには500ニュートン=50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
 船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いのでしょう。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。







第2章:カラビナの動きについて



●カラビナの動きについてその1
Q:「カラビナは水中で沈むはずだ」というが、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずです。中国がそうした可能性は否定できないのではないでしょうか。

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。

A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面をとして動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
 実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
 水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。



●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないでしょうか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中疑惑濃厚だと思います。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。

Qその2:2分34秒付近のカラビナの向き(綱の付いている方向)は、画面右向きだった。触ったために向きが画面奥に変わった。綱も「逆Cの字」の状態から、螺旋状に変わった。
 これは、針金をCの字に曲げて、その一端を固定し、もう一端を120度くらい捻ったのと同じではないでしょうか。命綱はやはり剛体だと思います。

A:命綱がたわむのが分かるのは、2分34秒付近だけではありません。例えば0分25秒の宇宙船の後部からの画像では伸びている命綱が、1分2秒付近ではおおきくたわんで変形しているのが分かります。あるいは2分14秒から19秒では、命綱自身が振動し、たわんでいるのがはっきり写っています。2分34秒付近の映像のみが剛体であると解釈しうるとしても無意味です。







第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて



●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、宇宙飛行士の身体の姿勢が安定しているように見えます。これはなぜでしょうか。

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。



●宇宙飛行士の目的と姿勢について
Q:そもそも彼らは何をしてるのでしょうか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっていますが、これには何か理由があるのですか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあったサンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。



●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見えます。本当に宇宙空間で撮影したものには見えません。

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。







第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について



●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:長征2Fロケットによる打ち上げ時の船内映像ですが、あまりにも振動がなさすぎるように見えます。
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りにロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
 しかし、飛行士は微動だにしていません。

 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きいです。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないでしょうか。

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さいのです。
 全段液体ロケットエンジンを使用する、ロシアのソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かります。

 以下はYouTubeにアップされているソユーズロケットによる打ち上げの映像です。

http://jp.youtube.com/watch?v=VxSngCl4xjM&feature=related
(2分32秒から)
http://jp.youtube.com/watch?v=VwHOE8hlGV0&feature=related
(6分41秒から)
http://jp.youtube.com/watch?v=sJobS0uQwMo
http://jp.youtube.com/watch?v=ya91BbkNZ3I
http://jp.youtube.com/watch?v=tJtY6BEkDyk
http://jp.youtube.com/watch?v=nxk07od9hnA&feature=related
 やはり船内は振動はないかのように写っています。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
 テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょう。



●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのでしょうかか?

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』でした。映像ではありません。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことです。過去にも予定原稿が流出する事故は、何度も起きています。



●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚えます。打ち上げ時の加速度で腰に負担がかかったりしないのでしょうか?
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子もまったく違います。

A:あれがソユーズ・タイプのカプセル型宇宙船の標準的な搭乗姿勢なのです。
断面図
http://suzymchale.com/kosmonavtka/images/soyuz-sa.jpg
http://i88.photobucket.com/albums/k166/suzymchale/mars-center/soyuz-inside-side.jpg
座席
http://www.astronautix.com/craft/sokolkv2.htm
 シャトルとは設計思想が違うのです。







第5章:大紀元の捏造報道について

●照明器具のようなものが写っていた件について
 中国系のメディア「大紀元」日本語版(http://jp.epochtimes.com/)で、捏造疑惑が報道されました。
http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
 宇宙飛行士が左手首に付けている鏡に、宇宙には存在しないはずの照明器具のようなものが映っているというものです。
 確かに公開された動画像を見ると、照明器具らしきものが写っています。
http://www.youtube.com/watch?v=fvz0GZPNIF0&eurl=http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
8分41秒と8分54秒あたり

 地上で映像を捏造した証拠でしょうか。そうでないとしたら、これはいったい何でしょうか。

A:大紀元がYouTubeにアップした画像の8分41秒と8分54秒付近を子細に調べると、照明器具らしきものは、実は神舟7号本体から
離れた場所にあるのではなく、神舟7号の軌道モジュールに取り付けられていることがわかります。
 そこで、中国が公開した神舟7号の映像を調べてみると、これが地球の陰の部分で船体を照らすためのライトであることがわかります。
http://jp.youtube.com/watch?v=B8GpZztIjJg
 この映像の1分28秒付近から、地球の陰の部分を飛行する神舟7号を、このライトが照らしている映像を見ることができます。また2分43秒からの映像では、ライトを直接カメラが撮影しています。
 この照明器具は神舟7号の装備です。地上のスタジオの装備ではありません。



●「水中のロープ締め」という発言
Q:同じ大紀元の記事では、宇宙飛行士と地上との更新で「水中」という言葉を使っていたと指摘しています。

CCTVの下記の生中継映像2では、宇宙船外でドッキング作業する宇宙飛行士に指令を下す指揮官は、「01番、02番、水中拉糸、工作正常(ドウヤオ、ドウリャン、スイジョン・ラーシー、ゴンゾウ・ジョンチャン)」と指令を出した。文字通りに日本語に訳すと、「01番(宇宙飛行士・タク志剛氏を指すコードナンバー)、02番(宇宙飛行士・劉伯明氏を指すコードナンバー)、水中のロープ締め、作業が正常完了」である。映像では、その声は明確に聞き取れる。

 これは、映像が地上のプールで撮影された捏造であることの証拠ではないでしょうか。

A:「水中拉糸」(水中のロープ締め)という言葉を使っていたとしても、彼らが作業に使用している用語とその意味が明らかにならない限り、捏造の証拠とはなりません。
 地上での船外活動の訓練は、プールの中で行います。例えば、地上で「水中」という言葉を使って繰り返し訓練を行っていたので、本番でも混乱を避けるために「水中」という言葉を使った可能性も考えられます。
 この件については、中国の宇宙飛行士と管制官達が、どのような動作にどのような言葉を使っているかが明らかになるまで、はっきりしたことは言えないでしょう。







第6章:軌道上からの中継画像の品質について



●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常なまでに鮮明でです。宇宙から送られてくる動画像がこんなに鮮明なことがあるのでしょうか?

A:いつの時代の船外活動の動画像と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。



●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見えます。なぜでしょうか、地球と宇宙飛行士を別途撮影した合成したからではないでしょうか?

A:それはデジタル画像伝送のコーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)の影響である可能性が高いです。
 コーデックにはさまざまな種類がありますが、基本的に人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の少ない動画像データを生成するわけです。
 具体的には、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。つまり、目で分かりやすいコントラストの付いた部位や、時間的に素早く変化する部分に優先的に情報量を割り当て、コントラストが小さかったり、時間的な変化がゆるやかな部分は情報量を減らします。
 ですから地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのでしょう。
 一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。基本的に。絶対的にはあまり動いていなくても相対的に一番動いているところに情報が割り振られます。ですから、宇宙飛行士には大きな情報量が割り当てられ、なめらかな動きを見ることができるようになるわけです。







第7章:中国の体制について

●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけています。神舟7号の船外活動についても同様の疑問を持つのは当然ではないでしょうか。

A:まず、科学者の間で嫦娥一号の取得した映像を捏造と断定している人はいません。中国側の事情を考えても、いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついても意味がありません。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短いのです。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではありません。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証しています。こちらの記事も読んでみて下さい。
  http://www.planetary.org/blog/article/00001248/



●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。

A:過去に偽造をやっていたから、今回はどうかな、と疑問を持つことはある意味自然かも知れません。それでも、「今回だってやっているに違いない」と考えるのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
 先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観を廃した観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせます。



●中国の体制について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。

A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には事実上の資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
 中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。
 有人飛行が2から3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。例えば、アメリカが1960年代に実施したジェミニ計画では、1965年3月から1966年11月までの約19ヶ月間に10回の有人飛行を実施しています。3人乗りの神舟宇宙船は2人乗りのジェミニ宇宙船よりも大規模ですが、共に「新しい技術を開発して地球周回軌道で検証する」技術開発計画であることが共通しています。ジェミニ計画当時、アメリカはアポロ宇宙船による月着陸を急いでいました。国家がトップダウンで計画を急がせると、これぐらいのことはできるという一つの例といえると思います。

 状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば。それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
 神舟宇宙船の打ち上げのためには、通信確保のために南緯40度付近の海域に追跡船を派遣する必要があります。この海域は年間を通じて波浪が高いのですが、南半球の春から夏、つまり北半球の秋から冬にかけて比較的穏やかになります。神舟宇宙船の有人打ち上げが9月から10月にかけて行われていたのは、追跡船を派遣する海域が穏やかな時期を選んでいたのです。
 しかし、国威発揚を重視するならば、周回軌道の一部での通信を諦めるという選択肢もあり得ます。実際、ガガーリンによる最初の有人飛行(1961年)では、通信できない時間帯が存在しましたし、過去にはソ連/ロシアの宇宙ステーション「ミール」が、通信不可能な時間帯を抱えたまま長期間の有人運用を行ったこともありました。

 しかし中国はそのような選択をせず、9月25日に神舟7号を打ち上げました。そのことの意味を考えてみて下さい。



●中国が過去に起こした事故隠蔽について
Q:中国では少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、村一つが500人規模の死者を出して壊滅しています。「その問題点がいまだに解決できていない」と考えると、捏造に走る根拠としては整合性が高いのではないでしょうか。

A:確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」通信衛星を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽しましたが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
 事故後、中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。それ以来。長征ロケットは12年間で、66機もの連続打ち上げ成功を続けています(2008年10月6日現在)。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
 事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。







第8章:補足説明



●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
 実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
 周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。



●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:中国は、以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくりと有人宇宙開発に取り組んでいます。ですから、ここで後に問題を残すようなことをする理由がありません。
 この事は直接捏造疑惑を直接否定するものではありません。それでも、船外活動の動画像が捏造ではないかと思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、自分で資料を当たってみてはいかがでしょうか。


 以上です。


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2008.10.05

神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)RC1

 以下、これまでの議論に基づいて、FAQのRC1(Release Candidate 1)を掲載します。文章を統一すると共にハンドル名を削除、「なるべく簡潔に」を心がけました。文責は松浦になります。

 問題がなければ、次の掲載をバージョン1として、一応の活動を終了しようと思います。



今後の運用についての注意
 この記事へのコメントはFAQ・RC1への、文章表現、誤字脱字、誤記、明らかな内容の誤りなどへの指摘に限定してください。

 中国が公開した画像に関する疑問と回答は、10月3日の記事のコメント欄で継続しています。そちらに書き込んで下さい。
 
 この件に関する意見、感想などは、もうしばらくの間10月1日の記事のコメント欄に書き込んで下さい。コメント数が200ぐらいまで増えたなら、新しい場所を用意しようかと思います。








神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)RC1(2008年10月5日日曜日版)



前文:このFAQが作成されるまでの経緯

 このFAQ(よくある質問と答え)は、2008年9月に中国が有人宇宙船の神舟7号で行った、中国初の船外活動(EVA:通称「宇宙遊泳」)について、ネットで起こった疑問について答えるものです。

 神舟7号は、2008年9月25日現地時間午後9時10分、酒泉衛星発射センターから打ち上げられました。乗組員は?志剛、劉伯明、景海鵬の3名です。9月27日に?志剛飛行士が15分間の船外活動を行い、翌9月28日に内モンゴル自治区中部に帰還しました。船外活動の様子は中国中央テレビ(CCTV)で中継され、ウェブキャストで日本においても視聴することができました。

 その後、ニコニコ動画(http://www.nicovideo.jp/)に、「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」というタイトルでCCTVの画像が投稿され(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)、またニュースまとめ系サイトの「アルカン速報」(http://alsoku.blog47.fc2.com/)に、「【神舟7号】 中国の有人宇宙飛行はねつ造か?→国営新華社が発射前に打ち上げ成功を誇らしげに伝える、宇宙遊泳の映像に泡が見つかる」(http://alsoku.blog47.fc2.com/blog-entry-257.html)という記事が掲載され、インターネット・ユーザーの間で、「神舟7号の船外活動は中国のでっち上げ、偽造ではないか」という話題が広がっていきました。

 それら偽造論に対して、当FAQをまとめた松浦は「松浦晋也のL/D」(http://smatsu.air-nifty.com/)に、9月29日付けで「このっ、バカ共が!」(http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2008/09/post-af53.html)という記事を掲載して反論。そこから同blogのコメント欄を使った、画像の具体的な検証が始まりました。

 様々な立場の人々が参加した議論の結論は以下の通りです。

「中国が公開した船外活動の動画像には、『どう考えても宇宙空間ではあり得ない。このような現象は地上のみで起こりうる』という現象は写っていない。疑惑が取りざたされた現象は、すべて1)宇宙空間での現象であるととしても矛盾なく説明できる、2)宇宙空間でしか起こりえない現象である、3)地上でも起こりうるが、宇宙で起きてもおかしくはない現象である??の3つのうちのどれかだった。」

 つまり、中国初の船外活動を、捏造とする決定的証拠は動画像中に見いだすことはできませんでした。

 その他状況証拠も、中国には捏造を行う積極的理由がないことを示しており、中国が実際に船外活動を成功させたことは、公開動画像から見てもまず間違いないと断定できます。

 以下、「松浦晋也のL/D」コメント欄で行われた議論に基づいて作成したFAQ(よくある質問と答え)です。文責は松浦晋也にあります。

 検証にあたっては、主に「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」
(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)
の動画像を使用しました。

 ニコニコ動画のアカウントを持たない方は、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
から、同じ動画像を見ることができます。







第1章:動画像に写ったデブリ状物体について



●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動しています。これはなぜでしょうか。

A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
 「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
 船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。

 ではその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
 真空中の空気分子は、条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいですね。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
 宇宙服の皺やケーブル類がぴんと貼る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
 鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。

ニコニコ動画には実演の映像があります
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088

 ムチを振る人の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
 神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。

 なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんが1990年12月にソユーズ宇宙船に登場したときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。



●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見えます。宇宙空間での等速直線運動には見えません。

A:物体は加速していません。視点の移動速度が大きくなっているだけです。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラはかなり広角で、35ミリカメラ換算で24ミリくらいありそうな感じです。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。



●デブリ状物体の移動についてその3
Q:このビデオの1分5秒から
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現しているように見えます。これはどのような現象ですか。説明がつかないように思えます。デブリがカメラの視界外を巧みに迂回したのでしょうか。

Aまず、この物体を解析すると、かなり細長く、かつ0.54+-0.02秒周期で回転しています。水中撮影に入り込んだ泡ならこんなに形で綺麗に回転が観測できないはずなので、多分固体でしょう

 この件については、公開されている動画像がかなりきつい非可逆圧縮をかけられているので、はっきりと「これだ」と断定することはできません。しかし、妥当に思えるシナリオを考えることはできます。

Debris_2

 この画像は、問題のデブリが画面のどこをどのように移動していったかを、画像のフレーム単位で追っていったものです。フレームの番号はデブリが見え始めたコマを1コマ目として便宜的に付けてあります。緑の部分は、バイザー前ないしはバイザーに写ったもの、26フレーム目でデブリは消失し、赤の点の部分を動いたかのようにみえて、宇宙飛行士のヘルメットの向こう側から出現します。

 これをどう解釈するかですが、私個人としては、1?26フレームはバイザーに反射した映像だと考えます。バイザーは大きく凸面に湾曲しているので、超広角レンズと同じ役割を果たします。

 バイザーに写っているハッチのように見えるものは、実は2本の命綱です。これは宇宙飛行士の左手が握っていることから分かります。
 バイザーのデブリは、実体がカメラに写っているならば、バイザーの前を通過していますし、バイザーに鏡像として写っているならば、宇宙飛行士の胸の方向から移動してきたことになります。

 以下、デブリがバイザーに写っていると仮定すると、デブリは命綱と宇宙飛行士との間の狭い空間を宇宙飛行士の体に沿う形で上昇してきたということになります。それが凸面のバイザーに写って、ゆっくりと動いているように見えたわけです。
 デブリはカメラから見て宇宙飛行士のヘルメットの向こうをすり抜け、画面上方に飛んでいったことになります。
 カメラからみた、バイザーに写ったデブリの軌跡と、ヘルメットの向こう側に見えたデブリの軌跡が一直線上に並んだので、デブリが宇宙空間ではあり得ないような加速運動をしたかのような錯覚を生じたわけです。

 この解釈では、バイザー上に写ったデブリの本体が、なぜ画面に映っていないのかが問題になります。これについては、1)デブリは宇宙飛行士の体で陰になるところを通過した、2)たまたま紙を真横から見るような形で通過したので画像画像圧縮とあいまって写らなかった??などの理由が考えられます。
 私としては1)ではないかと思います。先ほど書いたようにバイザーは大きく凸面になり、超広角レンズの役割を果たすので、カメラから直接見えない位置を移動するデブリを写したのでしょう。宇宙服はかなり胸の部位がぶ厚くなっているので、右腕と胸との間にカメラから見た死角の空間が存在します。そこをデブリが通り、バイザーに鏡像が写ったわけです。

 ただし、これは推定です。確定するためには、最低でもカメラから見て隠れた位置が、バイザーの反射で見えるようになるかを調べる必要があるでしょう。

 画像がはっきりしないので、絶対に確実だとは現状では言えないというのが正直なところです。

 例えばバイザーのデブリとヘルメット後ろのデブリは別物なのかも知れません。あるいは途中で宇宙飛行士にぶつかって速度が変わっているかも知れません。
 このデブリは、画面奥からカメラ側に向かって飛んできているのだとする説もあります(http://studioneet.blog.so-net.ne.jp/2008-10-02-1を参照のこと)。

 大切なのは現状において「このようにも解釈されうるので、この画像のみを持って『宇宙空間ではない。捏造だ』と言い切ることはできない」ということです。



●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリは何ですべて地球側に向かって飛んでいったように見えます。この映像は実際には地上のプールで撮影されたものであり、デブリに見えるものは、実は気泡が上に浮かんでいったからではないでしょうか。

A:画像を見てみると、かなり沢山の物体がハッチから放射状に出ています。画像で簡単に確実に確認できるものだけでも10以上あります。これを泡とするにはあまりにも不自然です。
 個々の物体の軌道を見てみても、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。
 もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
 にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。
 なお、デブリの軌跡はかなり広く放射状に広がっているので、広角レンズのひずみだけでは説明できません。本当に放射状に飛散しています。つまり水中から水面へと一方向に立ち上る泡ではありえないとうことです。

Qその2:しかし、プールか何かにはいることがあれば、試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んでもわかりますね。ですかから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますが。

A:コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎると思います。いわゆる「泡疑惑」の3つの移動体は移動距離が十分大きなスケールでの話で、明らかに違う方向を向いてるということです。



●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Qその1:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出しています。船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのでしょうか。
 また、ハッチの縁付近で向きが変わってるように見えます。この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。

A:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しているのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
 神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチのようなものは存在しません。 

ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm

>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。

とあります。

 また報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html

 神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。

 記事によると軌道船をエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。

 2キロパスカル=50分の1気圧です。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
 船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いのでしょう。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。







第2章:カラビナの動きについて



●カラビナの動きについてその1
Q:「カラビナは水中で沈むはずだ」というが、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずだ。(えーとですねさん、まったくさん)

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。

A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面をとして動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
 実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
 水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。



●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないでしょうか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中疑惑濃厚だと思います。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、その直前に宇宙飛行士はカラビナに触れています。触れたからカラビナも動いたのでしょう。

A:2分34秒付近の画像で重要なのは、カラビナが動いたことではありません。命綱が大きくたわんだということです。つまり命綱は剛体に近い物性を持っていない、ただの綱であることがわかるのです。
 その上で、2分10秒あたりを見ると、カラビナが浮いているのがわかります。
 連続した画像の異なる時刻に注目すると、1)カラビナが浮いている(2分10秒)、2)命綱がたわんでいる、という2つの事実を抽出できます。この2つを合わせて、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されるわけです。(松浦晋也)

Qその3:2分34秒付近のカラビナの向き(綱の付いている方向)は、画面右向きだった。触ったために向きが画面奥に変わった。綱も「逆Cの字」の状態から、螺旋状に変わった。
 これは、針金をCの字に曲げて、その一端を固定し、もう一端を120度くらい捻ったのと同じではないでしょうか。命綱はやはり剛体だと思います。

A:命綱がたわむのが分かるのは、2分34秒付近だけではありません。例えば0分25秒の宇宙船の後部からの画像では伸びている命綱が、1分2秒付近ではおおきくたわんで変形しているのが分かります。あるいは2分14秒?19秒では、命綱自身が振動し、たわんでいるのがはっきり写っています。2分34秒付近の映像のみが剛体であると解釈しうるとしても無意味です。







第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて



●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、宇宙飛行士の身体の姿勢が安定しているように見えます。これはなぜでしょうか。

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。



●宇宙飛行士の目的と姿勢について
Q:そもそも彼らは何をしてるのでしょうか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっていますが、これには何か理由があるのですか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあった、サンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。



●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見えます。本当に宇宙空間で撮影したものには見えません。

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。







第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について



●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:長征2Fロケットによる打ち上げ時の船内映像ですが、あまりにも振動がなさすぎるように見えます。
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りにロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
 しかし、飛行士は微動だにしていません。

 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きいです。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないでしょうか。

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さいのです。
 全段液体ロケットエンジンを使用する、ロシアのソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かります。

 以下はYouTubeにアップされているソユーズロケットによる打ち上げの映像です。

http://jp.youtube.com/watch?v=VxSngCl4xjM&feature=related
(2分32秒から)
http://jp.youtube.com/watch?v=VwHOE8hlGV0&feature=related
(6分41秒から)
http://jp.youtube.com/watch?v=sJobS0uQwMo

http://jp.youtube.com/watch?v=ya91BbkNZ3I
http://jp.youtube.com/watch?v=tJtY6BEkDyk
http://jp.youtube.com/watch?v=nxk07od9hnA&feature=related
 やはり船内は振動はないかのように写っています。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
 テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょう。

 また、打ち上げ後コクピットの映像が現れるのは、根元にある補助ロケットブースタが燃焼を終えた後です。初期加速(=全力運転)はほぼ終了としていると考えてよい。従って、「少なくとも上のビデオに関して言えば」打ち上げ時の最大振動を映したものではありません。
 一方スペースシャトルのビデオのほうは点火直後から映しているので打ち上げにおける最大振動が写っています。



●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのでしょうかか?

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』でした。映像ではありません。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことです。過去にも予定原稿が流出する事故は、何度も起きています。



●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚えます。Gで腰に負担がかかったりしないのでしょうか?
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子もまったく違います。(mionさん)

A:あれがソユーズ・タイプのカプセル型宇宙船の標準的な搭乗姿勢なのです。
断面図
http://suzymchale.com/kosmonavtka/images/soyuz-sa.jpg
http://i88.photobucket.com/albums/k166/suzymchale/mars-center/soyuz-inside-side.jpg
座席
http://www.astronautix.com/craft/sokolkv2.htm
 シャトルとは設計思想が違うのです。







第5章:中国の体制について


●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけています。神舟7号の船外活動についても同様の疑問を持つのは当然ではないでしょうか。

A:まず、科学者の間であの映像を捏造と断定したりしている人はいません。中国側の事情を考えても、いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついても意味がありません。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短いのです。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではありません。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証しています。こちらの記事も読んでみて下さい。
  http://www.planetary.org/blog/article/00001248/



●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。

A:過去に偽造をやっていたから、今回はどうかな、と疑問を持つことはある意味自然かも知れません。それでも、「今回だってやっているに違いない」と考えるのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
 先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観を廃した観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせます。




●中国の体制について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。

A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には事実上の資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
 中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。
 有人飛行が2?3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。例えば、アメリカが1960年代に実施したジェミニ計画では、1965年3月から1966年11月までの約19ヶ月間に10回の有人飛行を実施しています。3人乗りの神舟宇宙船は2人乗りのジェミニ宇宙船よりも大規模ですが、共に「新しい技術を開発して宇宙空間で検証する」技術開発計画であることが共通しています。ジェミニ計画当時、アメリカはアポロ宇宙船による月着陸を急いでいました。国家がトップダウンで計画を急がせると、これぐらいのことはできるという一つの例といえると思います。

 状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば。それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
 神舟宇宙船の打ち上げのためには、通信確保のために南氷洋に追跡船を派遣する必要があります。南半球の春から夏、つまり北半球の秋から冬にかけて、荒れていた海は比較的穏やかになります。神舟宇宙船の有人打ち上げが9月から10月にかけて行われていたのは、追跡船を派遣する海域が穏やかな時期を選んでいたのです。
 しかし、国威発揚を重視するならば、周回軌道の一部での通信を諦めるという選択肢もあり得ます。実際、ガガーリンによる最初の有人飛行(1961年)では、通信できない時間帯が存在しましたし、過去にはソ連/ロシアの宇宙ステーション「ミール」が、通信不可能な時間帯を抱えたまま長期間の有人運用を行ったこともありました。

 しかし中国はそのような選択をせず、9月25日に神舟7号を打ち上げました。そのことの意味を考えてみて下さい。



●中国が過去に起こした事故隠蔽について
Q:中国では少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、村一つが500人規模の死者を出して壊滅しています。その問題点がいまだに解決できていない、というのも捏造に走る根拠としては整合性が高いのではないでしょうか。

A:確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」通信衛星を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽しましたが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
 しかし、その後中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。その後、長征ロケットは12年間、2008年10月2日現在、66機もの連続打ち上げ成功を続けています。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
 事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。







第6章:軌道上からの中継画像の品質について



●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常なまでに鮮明でです。宇宙から送られてくる動画像がこんなに鮮明なことがあるのでしょうか?

A:いつの時代の船外活動の動画像と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。



●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見えます。なぜでしょうか、地球と宇宙飛行士を別途撮影した合成したからではないでしょうか?

Aその1:それはデジタル画像伝送のコーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)の影響である可能性が高いです。
 コーデックにはさまざまな種類がありますが、基本的に人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の少ない動画像データを生成するわけです。
 具体的には、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。つまり、目で分かりやすいコントラストの付いた部位や、時間的に素早く変化する部分に優先的に情報量を割り当て、コントラストが小さかったり、時間的な変化がゆるやかな部分は情報量を減らします。
 ですから地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのでしょう。
 一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。基本的に。絶対的にはあまり動いていなくても相対的に一番動いているところに情報が割り振られます。ですから、宇宙飛行士には大きな情報量が割り当てられ、なめらかな動きを見ることができるようになるわけです。
 






第7章:補足説明



●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
 実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
 周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。



●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:中国は、以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくりと有人宇宙開発に取り組んでいます。ですから、ここで後に問題を残すようなことをする理由がありません。
 船外活動の動画像が捏造ではないかとと思うほどのインパクトを受けた方は、中国の宇宙開発について、自分で資料を当たってみてはいかがでしょうか。ネット上には、様々な資料が存在しています。


 以上です。


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2008.10.04

検証用の素材を一つアップします

 資料を一つアップします。

「●デブリ状物体の移動についてその3」では、明確な回答を出せなかったので、自分が考察に使ったデータを一部公開します。

 動画像から問題のデブリが写った画像をフレーム単位で切り出し、連続したファイル名の高画質JPEGファイルにしたものです。画像系に強い友人に作成してもらいました。

「debris_small.lzh」をダウンロード(約800キロバイト)

 画像閲覧ソフトのスライドショー機能などで、各コマを前後させながら比較して見ることができます。

 動画像の段階で、非可逆圧縮がかかった映像を、さらにJPEG圧縮したものではありますが、一応デブリが何であり、この画像はどのような現象なのかを考える手がかりにはなると思います。

 私は、この他に、当該部分をロスレスフォーマットであるpngファイルで作成したものと、全画面をpngフォーマットでキャプチャーしたものとの3種類を作ってもらい、繰り返し見返して、検討しました。

 CCTVの画像キャプチャーですから、ここへのアップは著作権的にどうなるのか色々考えましたが、1)世界に報道された大きなイベントの検証用である、2)中国と日本の間の著作権については、現状はかなりグレーである、3)これ自身のアップが目的ではなく、日本の著作権法の示すところの「引用」に当たると考え得る——と判断し、ここに掲載するものです。

 大きなファイルを公開せずにJPEGファイルの公開に留めるのは、これでも十分考える手がかりになることと、著作権に対する配慮のためです。

 よろしければダウンロードして、自分なりに検討してみて下さい。


 なお、この記事のコメント欄は議論の混乱回避のために最初から閉鎖しておきます。議論は、一つ前の10月3日の記事のコメント欄にてお願いします。

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2008.10.03

10月3日午後7時までに提出された疑問と回答

 以下、本日10月3日午後7時までに提出された疑問と回答をまとめました。



今後の運用についての注意
 この記事掲載以降、中国が公開した画像に関する疑問と回答は、この記事のコメント欄に移動してください。
 1日単位で議論をまとめやすくするためです。以後、このルールで、議論を運営したいと思います。
 10月2日分のコメント欄は、この記事のアップ後に終了します。

 そろそろまた「名無し」系の匿名を使う人が出てきました。本義論の継続中は、議論の道筋を分かりやすくするために、他人と区別できるハンドル名を使って下さい。「名無し」「通りすがり」「あ」「い」などに代表される匿名系ハンドルを使ったコメントは削除します。

 
 この件に関する意見、感想などは、もうしばらくの間前の記事のコメント欄に書き込んで下さい。コメント数が200ぐらいまで増えたなら、新しい場所を用意しようかと思います。

 最後に残った「●デブリ状物体の移動についてその3」がかなりの難題で、はっきりしたことは言えませんでした。おそらく違う解釈もありうると思います。

 意見を求めます。

 動画像のコーデックの部分を整理しました。一般人が分かる範囲で説明することを目標とします。

 こちらも意見を求めます。


 ほぼこれで疑問と回答は出尽くしたと思います。はっきりとした異論が出ないようでしたら、次回のアップから表現のブラッシュアップに入りたいと思います。

 ブラッシュアップ以降は、個人名を消し、各人の文章を表記や語尾の統一、内容の整理などを行います。文責は意見を持ち寄った各人ではなく、松浦へと移ります。


神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(たたき台)(2008年10月3日金曜日版)

注記:論点整理のために、疑問提出者と回答者のハンドル名を入れてあります。また、まだ回答が出ていない疑問については、「★回答待ち★」と、書き込んであります。

 今回から、質問を章別にまとめてみました。別にまとめていた「通りすがり」さんからの質問は、内容別に分散しています。

 
第1章:動画像に写ったデブリ状物体について

●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動している。これは何か。(えーとですねさん)

A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
 「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
 船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。

 じゃあその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
 真空中の空気分子は、条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいですね。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
 宇宙服の皺やケーブル類がぴんと貼る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
 鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。

私自身が実演した動画があります
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088

 私の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
 神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。

 なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんがソユーズに乗ったときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。(野尻抱介さん)

●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見える。宇宙空間での等速直線運動には見えない。(IHIさん)

A:物体は加速してないです。視点の移動速度が大きくなっているだけ。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラはかなり広角で、35ミリカメラ換算で24ミリくらいありそうな感じです。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。(野尻抱介さん)

●デブリ状物体の移動についてその3
Q:このビデオの1分5秒から
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現している。説明がつきません。視界外を巧みに迂回したのですか?(北上さん)

Aその1:この物体を解析すると、かなり細長く、かつ0.54+-0.02秒周期で回転しています。泡ならこんなに形で綺麗に回転が観測できないはずなので、多分固体でしょう。(画像屋さん)


Aその2:この件については、公開されている動画像がかなりきつい非可逆圧縮をかけられているので、はっきりと「これだ」と断定することはできません。しかし、妥当に思えるシナリオを考えることはできます。

Debris_2


 この画像は、問題のデブリが画面のどこをどのように移動していったかを、画像のフレーム単位で追っていったものです。フレームの番号はデブリが見え始めたコマを1コマ目として便宜的に付けてあります。緑の部分は、バイザー前ないしはバイザーに写ったもの、26フレーム目でデブリは消失し、赤の点の部分を動いたかのようにみえて、宇宙飛行士のヘルメットの向こう側から出現します。

 これをどう解釈するかですが、私個人としては、1〜26フレームはバイザーに反射した映像だと考えます。バイザーは大きく凸面に湾曲しているので、超広角レンズと同じ役割を果たします。

 バイザーに写っているハッチのように見えるものは、実は2本の命綱です。これは宇宙飛行士の左手が握っていることから分かります。
 バイザーのデブリは、実体がカメラに写っているならば、バイザーの前を通過していますし、バイザーに鏡像として写っているならば、宇宙飛行士の胸の方向から移動してきたことになります。

 以下、デブリがバイザーに写っていると仮定すると、デブリは命綱と宇宙飛行士との間の狭い空間を宇宙飛行士の体に沿う形で上昇してきたということになります。それが凸面のバイザーに写って、ゆっくりと動いているように見えたわけです。
 デブリはカメラから見て宇宙飛行士のヘルメットの向こうをすり抜け、画面上方に飛んでいったことになります。
 カメラからみた、バイザーに写ったデブリの軌跡と、ヘルメットの向こう側に見えたデブリの軌跡が一直線上に並んだので、デブリが宇宙空間ではあり得ないような加速運動をしたかのような錯覚を生じたわけです。

 この解釈では、バイザー上に写ったデブリの本体が、なぜ画面に映っていないのかが問題になります。これについては、1)デブリは宇宙飛行士の体で陰になるところを通過した、2)たまたま紙を真横から見るような形で通過したので画像画像圧縮とあいまって写らなかった——などの理由が考えられます。
 私としては1)ではないかと思います。先ほど書いたようにバイザーは大きく凸面になり、超広角レンズの役割を果たすので、カメラから直接見えない位置を移動するデブリを写したのでしょう。宇宙服はかなり胸の部位がぶ厚くなっているので、右腕と胸との間にカメラから見た死角の空間が存在します。そこをデブリが通り、バイザーに鏡像が写ったわけです。

 ただし、これは推定です。確定するためには、最低でもカメラから見て隠れた位置が、バイザーの反射で見えるようになるかを調べる必要があるでしょう。

 画像がはっきりしないので、絶対に確実だとは現状では言えないというのが正直なところです。

 例えばバイザーのデブリとヘルメット後ろのデブリは別物なのかも知れません。あるいは途中で宇宙飛行士にぶつかって速度が変わっているかも知れません。

 現状では。「このようにも解釈されうるので、この画像のみを持って『捏造だ』と言い切ることはできない」ということです。(松浦晋也)

●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリは何ですべて地球側に向かって飛んでいったのか。気泡が上に浮かんでいったからではないか(あさん)

Aその1:たしかに映像内ではっきりと確認できる複数のデブリは、すべて画面の下から上に飛んでいっています。
 しかし、もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
 にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。(三原さん)

Aその2:画像を見てみると、かなり沢山の物体がハッチから放射状に出ています。ニコ動の画像で簡単に確実に確認できるものだけでも10以上あります。これを泡とするにはあまりにも不自然です。
 個々の物体の軌道を見てみても、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。
 ついでに言うと、幾つかは遠ざかっているものもあって、それは見かけ上の速度が遅くなっていっています。
(例えば例の「餃子」の00:18:36から始まる部分等)
 特にニコニコ動画の中の1:06:08に写った物体はかなり細長いです。ここまで細長い泡というのは存在が難しいと思います。移動もほぼ等速運動です。1:58:04から見え始める物体はおそらくハッチの向こうからこちら側に向かってきている物体です。(画像屋さん)

Aその3:デブリ状の物体の軌跡は、すべて地球方向に飛んでいったのではなく、むしろ放射状に広がっているとのことです。これは泡説を否定するものでしょう。デブリの軌跡はかなり広く放射状に広がっているので、広角レンズのひずみだけでは説明できません。本当に放射状に飛散しています。つまり水中から水面へと一方向に立ち上る泡ではありえないとうことです。(松浦晋也)

Qその2:しかし、プールか何かにはいることがあれば、試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んでもわかりますね。ですかから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますが。(えーとですねさん)

A:コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎると思います。いわゆる「泡疑惑」の3つの移動体は移動距離が十分大きなスケールでの話で、明らかに違う方向を向いてるということです。(マンドリルさん)

●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Q:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出すが、船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのか?または飛び出した理由は気圧差以外の何か?

Qその2:ハッチの縁付近で引っかかって向きが変わってるように見えます。なぜ右上にすっ飛んで行ってるんでしょうか?
この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。(えーとですねさん)

Aその1:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しておられるのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
 神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチとかは無いでね。強いて言えば軌道モジュールとの間のハッチが内側のハッチになるかもしれません。 

ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm

>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。

とあります。

 報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html

 神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。

 記事によると軌道船をエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。
 今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。

 2キロパスカル=50分の1気圧。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
 船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いですよね。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。(ROCKY 江藤さん。三原さん、dodoさん、松浦晋也)

Aその2: 通称「餃子」は、二つ折りにした紙のようですね。これが等速に見えないのはハッチの入り口に一回ぶつかって向きがかわっているせいのように見えます。大きさを比べると、最初のコマと次のコマでは大きさが明らかに小さくなっています。その次からの画像では3コマにわたって拡大していっています。
 動きは概算ではほぼ等速運動です。ただ、角速度がちょっとへんな感じなので、途中でもう一回何かにぶつかった可能性もあります。(画像屋さん)

第2章:カラビナの動きについて


●カラビナの動きについてその1
Q:「カラビナは水中で沈むはずだ」というが、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずだ。(えーとですねさん、まったくさん)

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。(えーとですねさん)

A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面をとして動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
 実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
 水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。(松浦晋也)

●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中疑惑濃厚だ(北上さん)。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、その直前に宇宙飛行士はカラビナに触れています。触れたからカラビナも動いたのでしょう。(北上さん)

A:2分34秒付近の画像で重要なのは、カラビナが動いたことではありません。命綱が大きくたわんだということです。つまり命綱は剛体に近い物性を持っていない、ただの綱であることがわかるのです。
 その上で、2分10秒あたりを見ると、カラビナが浮いているのがわかります。
 連続した画像の異なる時刻に注目すると、1)カラビナが浮いている(2分10秒)、2)命綱がたわんでいる、という2つの事実を抽出できます。この2つを合わせて、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されるわけです。(松浦晋也)

Qその3:2分34秒付近のカラビナの向き(綱の付いている方向)は、画面右向きだった。触ったために向きが画面奥に変わった。綱も「逆Cの字」の状態から、螺旋状に変わった。
 これは、針金をCの字に曲げて、その一端を固定し、もう一端を120度くらい捻ったのと同じではないでしょうか。命綱はやはり剛体だと思います。(北上さん)

A:命綱がたわむのが分かるのは、2分34秒付近だけではありません。例えば0分25秒の宇宙船の後部からの画像では伸びている命綱が、1分2秒付近ではおおきくたわんで変形しているのが分かります。あるいは2分14秒〜19秒では、命綱自身が振動し、たわんでいるのがはっきり写っています。2分34秒付近のみが剛体であると解釈しうるとしても無意味です。

第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて


●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、身体の姿勢が安定している。これはなぜか。(kanaeさん)

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。(松浦晋也)


●宇宙飛行士の目的と姿勢について
Q:そもそも彼らは何をしてるのか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっているが何か理由があるのか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあった、サンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。
(松浦晋也)


●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見える。(えーとですねさん)

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。(松浦晋也)


第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について


●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:あまりにも振動がなさすぎるように見える。
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りに個体ロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
飛行士は微動だにしていない。
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きい。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないだろうか。(borujoaさん)

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さい。
 全段液体のソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かる。
http://jp.youtube.com/watch?v=VxSngCl4xjM&feature=related
(2分32秒から)

http://jp.youtube.com/watch?v=VwHOE8hlGV0&feature=related
(6分41秒から)
(すぽんたさん、psymoonさん)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
打ち上げ後コクピットの映像が現れるのは、根元にある補助ロケットブースタが燃焼を終えた後)。初期加速(=全力運転)はほぼ終了としていると考えてよい。従って、「少なくとも上のビデオに関して言えば」打ち上げ時の最大振動を映したものでは無い。
 一方スペースシャトルのビデオのほうは点火直後から映しているので打ち上げにおける最大振動を見られるといって良い。(kanaeさん)

 参考のための本家ソユースの打ち上げのビデオ
http://jp.youtube.com/watch?v=sJobS0uQwMo
http://jp.youtube.com/watch?v=ya91BbkNZ3I
http://jp.youtube.com/watch?v=tJtY6BEkDyk
http://jp.youtube.com/watch?v=nxk07od9hnA&feature=related
やはり振動はないように見える。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょうね。(ROCKY 江藤 さん)

●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのか?(andouさん)

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』だった。映像ではない。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことである。(schdengenさん、sigさん)

●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚える。Gで腰に負担がかかったりしないのだろうか?
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子も似ても似つかない。(mionさん)

A:あれがソユース・タイプの標準的な搭乗姿勢なのです。
断面図
http://suzymchale.com/kosmonavtka/images/soyuz-sa.jpg
http://i88.photobucket.com/albums/k166/suzymchale/mars-center/soyuz-inside-side.jpg
座席
http://www.astronautix.com/craft/sokolkv2.htm
シャトルとは設計思想が違います。(ROCKY 江藤さん)


第5章:中国の体制について


●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけているではないか。(豊月さん)

A:科学者の間であの映像を捏造と断定したりしている人はいない。いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついてもしょうがない。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短い。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではない。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証している。こちらの記事も参照の事。
  http://www.planetary.org/blog/article/00001248/
(寺薗淳也さん)

●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。(えーとですねさん)

A:過去に偽造をやっていたから、今回もやっているに違いないというのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
 先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観を廃した観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせ、回り回って結局は自分が損をします。(松浦晋也)

●中国の体制と、が過去に起こした事故隠蔽について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。
一応、少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、中国の村が500人規模で死亡して壊滅しています。その問題点が解決できていない、というのも推測としては整合性が高いですね。(北上さん)

A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には事実上の資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
 中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。有人飛行が2〜3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。
 状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない一つの証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば。それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
 しかし彼らはそれをしませんでした。そのことの意味を考えてみて下さい。

 確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽したが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
 しかし、その後中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。その後、長征ロケットは12年間、2008年10月2日現在、66機もの連続打ち上げ成功を続けています。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
 事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。(松浦晋也)


第6章:軌道上からの中継画像の品質について


●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常に鮮明であること。磁場の影響なのか軌道の影響なのか、技術的な問題なのか?

A:いつの時代の船外活動の動画と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。(松浦晋也)

●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見える。何故か?

Aその1:それはデジタル画像伝送のコーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)の影響である可能性が高いです。
 コーデックにはさまざまな種類がありますが、基本的に人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の少ない動画像データを生成するわけです。
 具体的には、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。つまり、目で分かりやすいコントラストの付いた部位や、時間的に素早く変化する部分に優先的に情報量を割り当て、コントラストが小さかったり、時間的な変化がゆるやかな部分は情報量を減らします。
 ですから、画面の中でも、大きく動いている宇宙飛行士は大きな情報量でなめらかな動きが伝送されます。一方、地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのではないかと思います。(松浦晋也)

Aその2:コーデックについてですがH.264かより圧縮効果の高いAVS、もしくはそれと同等のものが使われているのでは無いかと考えられます。
 映像送信の時点で、すでに背後の地球の映像がフレーム落ちしたかのような状態になっていたと考える方が自然です。(mさん)

●軌道上からの中継映像の品質についてその3
Q:地球の動きは2fpsくらいですが、飛行士の動きは30fps以上(fps;Frame Per Second 1秒間に何枚の画像を写しているかの枚数)と非常に差があります。これはどう説明しますか?合成映像の証拠ではないですか?
 デジタル伝送だとしても、動きの少ない飛行士のフレームは滑らかです。なぜ地球はカクカクなのに宇宙飛行士はなめらかに写っているのでしょうか(北上さん)

Aその1:動き検出を利用した動画圧縮では極端に動きが少ないと動いてないと判定されたり、件の動画の地球のようにコントラストが弱い濃淡で構成されるものは動いていることが評価しづらいのでこれまた情報量が減らされてしまいます。
 一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。基本的に。絶対的にはあまり動いていなくても相対的に一番動いているところに情報が割り振られます。全く動かない宇宙船や背景の真っ黒な宇宙、非常にゆっくりとしか動かない地球には割り振られません。(Jさん)

Aその2:地球のように低コントラストで動きの少ない部分にbitrateが割り当てられない場合、どのような動きに見えるかというと、まさに北上さんのおっしゃるように2fps程度の画になる可能性が高いです。
 動画の転送には前の画面との差分の伝送だけを伝送していくと、どんどん誤差が蓄積してしまうため、元の画の全体を時々を送る必要があります。通常はこの間隔を0.5秒くらいにすることが多いのです。よって、コントラストに乏しく、変化の小さい地球の部分については全体の画像を送るタイミングでしか画像が更新されません。従って、2fps程度になってしまうのはありえます。これは捏造の根拠にはなりえないと私は思っています。(tamaさん)

●軌道上からの中継映像の品質についてその4
Q:では、出たり入ったりする飛行士、太陽光?に照らされた極めて明るい宇宙服の部分、動画の後半で取り外されたパーツは滑らかに動いています。これは説明可能ですか。(北上さん)

A:これまでに説明した通り、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。
 画像を見ると宇宙飛行士は常に動いているので2)に相当します。極めて明るい部分も確かにコントラストは小さいのですが、各ピクセルで見ると時間的に大きく変化しているわけです。
 動画の後半で取り外されたパーツも、画像を見ると宇宙飛行士の手と共に大きく移動しており、2)に相当します。従ってなめらかに動いて当然なのです。(松浦晋也)
 

第7章:補足説明


●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。(ROCKY 江藤さん)

●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくり取り組んでいますから、ここで後で困るようなことをする、理由がない。
 この事は直接捏造疑惑を否定するものではないが、ねつ造じゃないか、と思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、資料を当たってみてはどうだろうか。(Car3Uさん)


 以上です。


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2008.10.02

10月2日午後2時までに提出された疑問と回答

 以下、本日10月2日午後2時までに提出された疑問と回答をまとめました。



今後の運用についての注意
 この記事掲載以降、中国が公開した画像に関する疑問と回答は、この記事のコメント欄に移動してください。
 1日単位で議論をまとめやすくするためです。以後、このルールで、議論を運営したいと思います。

 
 昨日の状況を見て、「疑問と回答」と「意見、感想」を本格的に分離することにしました。
 この件に関する意見、感想などは、しばらくの間前の記事のコメント欄に書き込んで下さい。コメント数が200ぐらいまで増えたなら、新しい場所を用意しようかと思います。

 以下、私なりのまとめ方をしているので、表現等おかしいところ、あるいは真意が十分に伝わる文章になっていない、という点がありましたら、指摘をお願いします。疑問のほうは、あまりに短く、意を尽くしていないものもあるので、その場合は私のほうでかなり内容を補っています。

 画像を捏造と感じる方は、どんどん疑問点を出して下さい。

 一応の回答が付いているものに関しても、さらなる回答を歓迎します。

 最終的にはFAQ(よくある質問と答え)を作成することができれば、と思います。


注意
 10月2日現在、回答待ちの疑問は以下の2つです。

●デブリ状物体の移動についてその3
Q:ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現している。説明がつきません。視界外を巧みに迂回したのですか?(北上さん)

●デブリ状物体の見え方について
Q:気泡とされてるものに関して、このような見え方をするホコリには到底見えない。気泡のように見える現象があれば教えていただきたい。

 しかし、「●デブリ状物体の移動についてその3」は、質問自体が、画像のどの時刻を示しているかが明確になっていません。また「●デブリ状物体の見え方について」は、あまりに漠然としている上に「自分にはそうは見えない」という印象論になってしまっています。ともにこのままでは「答えようのない質問」です。

 これらについて質問者の方は、次のまとめをアップするまでに、質問の内容を補足し、明確にする内容のコメントを投稿して下さい。
 補足がない場合には、次回のまとめからこれらの2つの質問を削除します。







神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(たたき台)(2008年10月2日木曜日版)

注記:論点整理のために、疑問提出者と回答者のハンドル名を入れてあります。また、まだ回答が出ていない疑問については、「★回答待ち★」と、書き込んであります。

 今回から、質問を章別にまとめてみました。別にまとめていた「通りすがり」さんからの質問は、内容別に分散しています。

 
第1章:動画像に写ったデブリ状物体について

●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動している。これは何か。(えーとですねさん)

A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
 「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
 船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。

 じゃあその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
 真空中の空気分子は、条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいですね。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
 宇宙服の皺やケーブル類がぴんと貼る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
 鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。

私自身が実演した動画があります
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088

 私の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
 神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。

 なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんがソユーズに乗ったときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。(野尻抱介さん)

●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見える。宇宙空間での等速直線運動には見えない。(IHIさん)

A:物体は加速してないです。視点の移動速度が大きくなっているだけ。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラはかなり広角で、35ミリカメラ換算で24ミリくらいありそうな感じです。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。(野尻抱介さん)

●デブリ状物体の移動についてその3
Q:ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現している。説明がつきません。視界外を巧みに迂回したのですか?(北上さん)

A:★回答待ち★

●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリは何ですべて地球側に向かって飛んでいったのか。気泡が上に浮かんでいったからではないか(あさん)

Aその1:たしかに映像内ではっきりと確認できる複数のデブリは、すべて画面の下から上に飛んでいっています。
 しかし、もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
 にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。(三原さん)

Aその2:友人の画像解析の専門家に解析を依頼してみました。その結果は以下の通りです。

「 画像を見てみると、かなり沢山の物体がハッチから放射状に出ています。ニコ動の画像で簡単に確実に確認できるものだけでも10以上あります。これを泡とするにはあまりにも不自然です。

 個々の物体の軌道を見てみても、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。

 ついでに言うと、幾つかは遠ざかっているものもあって、それは見かけ上の速度が遅くなっていっています。
(例えば例の「餃子」の00:18:36から始まる部分等)

 特にニコニコ動画の中の1:06:08に写った物体はかなり細長いです。ここまで細長い泡というのは存在が難しいと思います。移動もほぼ等速運動です。1:58:04から見え始める物体はおそらくハッチの向こうからこちら側に向かってきている物体です。

 というわけで、デブリ状の物体の軌跡は、すべて地球方向に飛んでいったのではなく、むしろ放射状に広がっているとのことです。これは泡説を否定するものでしょう。(松浦晋也)

Qその2:しかし、プールか何かにはいることがあれば、試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んでもわかりますね。ですかから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますが。(えーとですねさん)

A:コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎると思います。いわゆる「泡疑惑」の3つの移動体は移動距離が十分大きなスケールでの話で、明らかに違う方向を向いてるということです。(マンドリルさん)

●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Q:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出すが、船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのか?または飛び出した理由は気圧差以外の何か?

Qその2:ハッチの縁付近で引っかかって向きが変わってるように見えます。なぜ右上にすっ飛んで行ってるんでしょうか?
この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。(えーとですねさん)

Aその1:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しておられるのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
 神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチとかは無いでね。強いて言えば軌道モジュールとの間のハッチが内側のハッチになるかもしれません。 

ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm

>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。

とあります。

 報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html

 神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。

 記事によると軌道船をエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。
 今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。

 2キロパスカル=50分の1気圧。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
 船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いですよね。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。(ROCKY 江藤さん。三原さん、dodoさん、松浦晋也)

Aその2:画像解析の専門家の見立ては以下の通りです。

 通称「餃子」は、二つ折りにした紙のようですね。これが等速に見えないのはハッチの入り口に一回ぶつかって向きがかわっているせいのように見えます。大きさを比べると、最初のコマと次のコマでは大きさが明らかに小さくなっています。その次からの画像では3コマにわたって拡大していっています。

 概算ではほぼ等速運動です。ただ、角速度がちょっとへんなかんじなので、途中でもう一回何かにぶつかった可能性もあります。


(松浦晋也)


●デブリ状物体の見え方について
Q:気泡とされてるものに関して、このような見え方をするホコリには到底見えない。気泡のように見える現象があれば教えていただきたい。

A:★回答待ち★


第2章:カラビナの動きについて


●カラビナの動きについてその1
Q:「カラビナは水中で沈むはずだ」というが、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずだ。(えーとですねさん、まったくさん)

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。(えーとですねさん)

A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面をとして動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
 実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
 水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。(松浦晋也)

●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中疑惑濃厚だ(北上さん)。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。(松浦晋也)

Qその2:しかし、その直前に宇宙飛行士はカラビナに触れています。触れたからカラビナも動いたのでしょう。(北上さん)

A:2分34秒付近の画像で重要なのは、カラビナが動いたことではありません。命綱が大きくたわんだということです。つまり命綱は剛体に近い物性を持っていない、ただの綱であることがわかるのです。
 その上で、2分10秒あたりを見ると、カラビナが浮いているのがわかります。
 連続した画像の異なる時刻に注目すると、1)カラビナが浮いている(2分10秒)、2)命綱がたわんでいる、という2つの事実を抽出できます。この2つを合わせて、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されるわけです。(松浦晋也)

第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて


●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、身体の姿勢が安定している。これはなぜか。(kanaeさん)

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。(松浦晋也)


●宇宙飛行士の目的と姿勢について
Q:そもそも彼らは何をしてるのか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっているが何か理由があるのか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあった、サンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。
(松浦晋也)


●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見える。(えーとですねさん)

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。(松浦晋也)


第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について


●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:あまりにも振動がなさすぎるように見える。
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りに個体ロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
飛行士は微動だにしていない。
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きい。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないだろうか。(borujoaさん)

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さい。
 全段液体のソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かる。
http://jp.youtube.com/watch?v=VxSngCl4xjM&feature=related
(2分32秒から)

http://jp.youtube.com/watch?v=VwHOE8hlGV0&feature=related
(6分41秒から)
(すぽんたさん、psymoonさん)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
打ち上げ後コクピットの映像が現れるのは、根元にある補助ロケットブースタが燃焼を終えた後)。初期加速(=全力運転)はほぼ終了としていると考えてよい。従って、「少なくとも上のビデオに関して言えば」打ち上げ時の最大振動を映したものでは無い。
 一方スペースシャトルのビデオのほうは点火直後から映しているので打ち上げにおける最大振動を見られるといって良い。(kanaeさん)

 参考のための本家ソユースの打ち上げのビデオ
http://jp.youtube.com/watch?v=sJobS0uQwMo
http://jp.youtube.com/watch?v=ya91BbkNZ3I
http://jp.youtube.com/watch?v=tJtY6BEkDyk
http://jp.youtube.com/watch?v=nxk07od9hnA&feature=related
やはり振動はないように見える。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょうね。(ROCKY 江藤 さん)

●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのか?(andouさん)

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』だった。映像ではない。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことである。(schdengenさん、sigさん)

●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚える。Gで腰に負担がかかったりしないのだろうか?
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子も似ても似つかない。(mionさん)

A:あれがソユース・タイプの標準的な搭乗姿勢なのです。
断面図
http://suzymchale.com/kosmonavtka/images/soyuz-sa.jpg
http://i88.photobucket.com/albums/k166/suzymchale/mars-center/soyuz-inside-side.jpg
座席
http://www.astronautix.com/craft/sokolkv2.htm
シャトルとは設計思想が違います。(ROCKY 江藤さん)


第5章:中国の体制について


●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけているではないか。(豊月さん)

A:科学者の間であの映像を捏造と断定したりしている人はいない。いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついてもしょうがない。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短い。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではない。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証している。こちらの記事も参照の事。
  http://www.planetary.org/blog/article/00001248/
(寺薗淳也さん)

●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。(えーとですねさん)

A:過去に偽造をやっていたから、今回もやっているに違いないというのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
 先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観を廃した観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせ、回り回って結局は自分が損をします。(松浦晋也)

●中国の体制と、過去の事故隠蔽について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。
一応、少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、中国の村が500人規模で死亡して壊滅しています。その問題点が解決できていない、というのも推測としては整合性が高いですね。(北上さん)

A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には実質的に資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
 中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。有人飛行が2〜3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。
 状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない一つの証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば。それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
 しかし彼らはそれをしませんでした。そのことの意味を考えてみて下さい。

 確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽したが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
 しかし、その後中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。それ以降、長征ロケットは12年間、2008年10月2日現在、66機もの連続打ち上げ成功を続けています。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
 事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。(松浦晋也)


第6章:軌道上からの中継画像の品質について


●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常に鮮明であること。磁場の影響なのか軌道の影響なのか、技術的な問題なのか?

A:いつの時代の船外活動の動画と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。コーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)についてもMPEG1からMPEG2へ、さらにMPEG4へと、より少ない通信帯域で、より鮮明な画像を送信できるように進歩してきています。MPEGの進歩は、必ずしも鮮明な画像を一直線に目指しているわけではなく、MPEG4は、「MPEG2よりも狭い帯域で動画像を送信する」ことを目的に開発されました。しかし結果としてMPEG4はより美しい画像を送信することができる規格となり、最近では高精細動画像でも使われています。
 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。(松浦晋也)

●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見える。何故か?

Aその1:それはデジタル画像伝送のコーデックの影響である可能性が高いです。
 デジタル画像は、前のフレームとの差分を取って情報を圧縮します。つまり、画像中の大きく変化している部分には、より大きな情報量を割り当て、一方ほとんど変化していない部分の情報を可能な限り圧縮して、伝送に必要な通信帯域を減らします。
 ですから、画面の中でも、大きく動いている宇宙飛行士は大きな情報量でなめらかな動きが伝送されます。一方、地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのではないかと思います。(松浦晋也)

Aその2:コーデックについてですがh.264かより圧縮効果の高いAVS、もしくはそれと同等のものが使われているのでは無いかと考えられます。
 映像送信の時点で、すでに背後の地球の映像がフレーム落ちしたかのような状態になっていたと考える方が自然です。(mさん)

●軌道上からの中継映像の品質についてその3
Q:地球の動きは2fpsくらいですが、飛行士の動きは30fps以上(fps;Frame Per Second 1秒間に何枚の画像を写しているかの枚数)と非常に差があります。これはどう説明しますか?合成映像の証拠ではないですか?
 デジタル伝送だとしても、動きの少ない飛行士のフレームは滑らかです。なぜ地球はカクカクなのに宇宙飛行士はなめらかに写っているのでしょうか(北上さん)

Aその1:動き検出を利用した動画圧縮では極端に動きが少ないと動いてないと判定されたり、件の動画の地球のようにコントラストが弱い濃淡で構成されるものは動いていることが評価しづらいのでこれまた情報量が減らされてしまいます。
 一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。基本的に。絶対的にはあまり動いていなくても相対的に一番動いているところに情報が割り振られます。全く動かない宇宙船や背景の真っ黒な宇宙、非常にゆっくりとしか動かない地球には割り振られません。(Jさん)

Aその2:地球のように低コントラストで動きの少ない部分にbitrateが割り当てられない場合、どのような動きに見えるかというと、まさに北上さんのおっしゃるように2fps程度の画になる可能性が高いです。
 動画の転送には前の画面との差分の伝送だけを伝送していくと、どんどん誤差が蓄積してしまうため、元の画の全体を時々を送る必要があります。通常はこの間隔を0.5秒くらいにすることが多いのです。よって、コントラストに乏しく、変化の小さい地球の部分については全体の画像を送るタイミングでしか画像が更新されません。従って、2fps程度になってしまうのはありえます。これは捏造の根拠にはなりえないと私は思っています。(tamaさん)

Aその3:画像圧縮コーデックは、人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の少ない動画像データを生成するわけです。
 宇宙飛行士は、近くにあるので、割と大きなコントラストで画像に写っています。このような物体が移動する場合はたとえゆっくりとした移動であっても、人間が認識しやすいので大きな情報量を割り当てます。従って動画像において、宇宙飛行士はなめらかな動きで写っているのは当然なのです。一方地球は変化がゆっくりで、しかもコントラストが小さいです。このため情報が大きく間引きされて写っているのです。
 なお動画像のコーデックでは、1枚1枚の画像(フレームといいます)間でも圧縮を行います。「前のフレームと比べて変化がなかった部分は情報を削って単に“前と同じ”という記号に置き換える」というように。どの程度前と変化したら、記号置き換えをやめるかは、パラメータで設定可能です。多少の変化を無視すると設定すれば、動画像の一部分に全く動かない、静止画像のように見える部位が出現します。
 ですから、地球の部分だけフレームレートが落ちているように見えるのは、別に不思議でも偽造の証拠でもなく、大きく情報圧縮をかけた動画像にはありがちなことです。(松浦晋也)

●軌道上からの中継映像の品質についてその4
Q:では、出たり入ったりする飛行士、太陽光?に照らされた極めて明るい宇宙服の部分、動画の後半で取り外されたパーツは滑らかに動いています。これは説明可能ですか。(北上さん)

A:これまでに説明した通り、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。
 画像を見ると宇宙飛行士は常に動いているので2)に相当します。極めて明るい部分も確かにコントラストは小さいのですが、各ピクセルで見ると時間的に大きく変化しているわけです。
 動画の後半で取り外されたパーツも、画像を見ると宇宙飛行士の手と共に大きく移動しており、2)に相当します。従ってなめらかに動いて当然なのです。(松浦晋也)
 

第7章:補足説明


●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。(ROCKY 江藤さん)

●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくり取り組んでいますから、ここで後で困るようなことをする、理由がない。
 この事は直接捏造疑惑を否定するものではないが、ねつ造じゃないか、と思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、資料を当たってみてはどうだろうか。(Car3Uさん)


 以上です。


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2008.10.01

10月1日正午までに提出された疑問と回答

 以下、本日10月1日正午までに提出された疑問と解答をまとめました。


今後の運用についての注意
 この記事掲載以降、中国が公開した画像に関する疑問と解答は、こちらの記事のコメント欄に移動してください。前の記事のコメント欄が長くなりすぎたため、読みやすくするための処置です。

 この件に関する意見、感想などは、これから本日一杯は前の記事のコメント欄に書き込んで下さい。

 試験的に「疑問と解答」と「意見、感想」を分離してみます。議論の迅速化と、コメント欄の見通しをよくするために協力をお願いいたします。

 なお、前の記事のコメント欄は、あまりに長くなったので本日2008年10月1日の午前0時を持って終了させることにします。同時に、ノイズ低減のために、一言書き捨て系のコメントの削除を行います。
 終了後の10月2日以降は、本記事コメント欄における「意見、感想系」の書き込みを解禁します。

 以下、私なりのまとめ方をしているので、表現等おかしいところ、あるいは真意が十分に伝わる文章になっていない、という点がありましたら、指摘をお願いします。疑問のほうは、あまりに短く、意を尽くしていないものもあるので、その場合は私のほうでかなり内容を補っています。

 私もいくつかには解答を入れましたが、まだ足りていません。解答できるかたはご協力頂ければと思います。

 画像を捏造と感じる方は、どんどん疑問点を出して下さい。

 また、一応の解答が付いているものに関しても、さらなる解答を歓迎します。

 最終的にはFAQ(よくある質問と答え)を作成することができれば、と思います。


神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(たたき台)(2008年10月1日水曜日版)

注記:論点整理のために、疑問提出者と回答者のハンドル名を入れてあります。また、まだ解答が出ていない疑問については、「★回答待ち★」と、書き込んであります。

 

●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動している。これは何か。(えーとですねさん)

A:★回答待ち★

●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見える。宇宙空間での等速直線運動には見えない。(IHIさん)

A:物体は加速してないです。視点の移動速度が大きくなっているだけ。
 接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
 船外にあるカメラはかなり広角で、35ミリカメラ換算で24ミリくらいありそうな感じです。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。(野尻抱介さん)

●デブリ状物体の移動についてその3
Q:ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現している。説明がつきません。視界外を巧みに迂回したのですか?(北上さん)

A:★回答待ち★

●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリは何ですべて地球側に向かって飛んでいったのか。気泡が上に浮かんでいったからではないか(あさん)

A:★回答待ち★

●カラビナの動きについてその1
Q:「カラビナは水中で沈むはずだ」というが、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずだ。(えーとですねさん、まったくさん)

A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。

 そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
 1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。

 空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは下記の理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。(松浦晋也)

●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中疑惑濃厚だ(北上さん)。

A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
(2分34秒あたりが分かりやすいです)

 明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。(松浦晋也)

●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、身体の姿勢が安定している。これはなぜか。(kanaeさん)

A:よく画像を見て下さい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
冒頭20秒付近

 左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
 姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。(松浦晋也)

●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
 宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見える。(えーとですねさん)

A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。

 冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291

 旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
 宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
 もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
 従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。(松浦晋也)

●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:あまりにも振動がなさすぎるように見える。
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りに個体ロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
飛行士は微動だにしていない。
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きい。
 これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないだろうか。(borujoaさん)

A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さい。
 全段液体のソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かる。
http://jp.youtube.com/watch?v=VxSngCl4xjM&feature=related
(2分32秒から)

http://jp.youtube.com/watch?v=VwHOE8hlGV0&feature=related
(6分41秒から)
(すぽんたさん、psymoonさん)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
打ち上げ後コクピットの映像が現れるのは、根元にある補助ロケットブースタが燃焼を終えた後)。初期加速(=全力運転)はほぼ終了としていると考えてよい。従って、「少なくとも上のビデオに関して言えば」打ち上げ時の最大振動を映したものでは無い。
 一方スペースシャトルのビデオのほうは点火直後から映しているので打ち上げにおける最大振動を見られるといって良い。(kanaeさん)

 参考のための本家ソユースの打ち上げのビデオ
http://jp.youtube.com/watch?v=sJobS0uQwMo
http://jp.youtube.com/watch?v=ya91BbkNZ3I
http://jp.youtube.com/watch?v=tJtY6BEkDyk
http://jp.youtube.com/watch?v=nxk07od9hnA&feature=related
やはり振動はないように見える。
 ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょうね。(ROCKY 江藤 さん)

●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのか?(andouさん)

A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』だった。映像ではない。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことである。(schdengenさん、sigさん)

●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚える。Gで腰に負担がかかったりしないのだろうか?
 http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
 スペースシャトルと比較してみると、船内の様子も似ても似つかない。(mionさん)

A:あれがソユース・タイプの標準的な搭乗姿勢なのです。
断面図
http://suzymchale.com/kosmonavtka/images/soyuz-sa.jpg
http://i88.photobucket.com/albums/k166/suzymchale/mars-center/soyuz-inside-side.jpg
座席
http://www.astronautix.com/craft/sokolkv2.htm
シャトルとは設計思想が違います。(ROCKY 江藤さん)

●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけているではないか。(豊月さん)

A:科学者の間であの映像を捏造と断定したりしている人はいない。いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついてもしょうがない。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短い。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではない。
 嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証している。こちらの記事も参照の事。
  http://www.planetary.org/blog/article/00001248/
(寺薗淳也さん)


 以下は説明側から自発的に出てきた、映像が本物であることの説明です。


●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。(ROCKY 江藤さん)

●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくり取り組んでいますから、ここで後で困るようなことをする、理由がない。
 この事は直接捏造疑惑を否定するものではないが、ねつ造じゃないか、と思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、資料を当たってみてはどうだろうか。(Car3Uさん)


 以下は、匿名コメント規制以前に「通りすがり」さんから提出された疑問です。基本的に匿名およびそれに類するコメントは無視しますが、これらについては、1)比較的よくまとまっていること、2)匿名コメント規制前であること——を考慮して、以下に掲載します。

●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Q:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出すが、船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのか?または飛び出した理由は気圧差以外の何か?

A:★回答待ち★


●デブリ状物体の見え方について
Q:気泡とされてるものに関して、このような見え方をするホコリには到底見えない。気泡のように見える現象があれば教えていただきたい。

A:★回答待ち★


●軌道上からの中継映像の品質について
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見える。何故か?

A:それはデジタル画像伝送のコーデックの影響である可能性が高いです。
 デジタル画像は、前のフレームとの差分を取って情報を圧縮します。つまり、画像中の大きく変化している部分には、より大きな情報りょを割り当て、一方ほとんど変化していない部分の情報を可能な限り圧縮して、伝送に必要な通信帯域を減らします。
 ですから、画面の中でも、大きく動いている宇宙飛行士は大きな情報量でなめらかな動きが伝送されます。一方、地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
 その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのではないかと思います。(松浦晋也)


●軌道上からの中継映像の品質について
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常に鮮明であること。磁場の影響なのか軌道の影響なのか、技術的な問題なのか?

A:いつの時代の船外活動の動画と比較しましたか?

 打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。コーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)についてもMPEG1からMPEG2へ、さらにMPEG4へと、より少ない通信帯域で、より鮮明な画像を送信できるように進歩してきています。
 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
 同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
 デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。(松浦晋也)


●宇宙飛行士の目的と姿勢について
Q:そもそも彼らは何をしてるのか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっているが何か理由があるのか。

A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあった、サンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
 足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。
(松浦晋也)

 以上です。

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