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2008.11.28

マクロスFとハイパーインフレ

 放映から随分遅れたが、アニメ「マクロスF」を全話見終わった。

 私の立場からすると、まずは「アレを本物の宇宙と思ってはいけない。あれは“マクロス宇宙”である」と言わねばならない(あんな宇宙があるわけない)。

 それはさておき、面白かった。きちんとキャラクターは生きているし、ラストは盛り上がって終わってくれた。三角関係の決着がラストでついていない、との批判もあったようだが、決着は映画版に持ち越されるのがマクロスというものだ。

 最初の「超時空要塞マクロス」の放映(1982〜1983)から、もう四半世紀経った。当時私は大学生。「スタジオぬえの絵が動く」という事前情報に私たちは期待したものだが、家庭用ビデオもろくに普及していなかった当時、日曜昼2時という放送時間は、まったくもって「ご無体な!」であった。
 とはいえ、貴重な毎日曜日の午後をテレビの前に座るのは、確か5話ぐらいで終わった。作り手の側も若かったし経験不足だったのだろう。そこにあったのは、意欲の空回りの典型例だった。
 第1話(2話をまとめて1時間枠で放送した)を見て、「はて?」となり、さらに数週間見続けて疑惑は確信に変わり、「これは観る価値はない」と切ったものである。
 その後、アニメ雑誌が「27話(愛は流れる)はすげえ」という話を掲載し、「なにっ、実はすごかったのか」と、再度見始めたらば、そこは作画崩壊の嵐であった。ええそうです、私は壮絶作画で伝説と化した最終回「やさしさサヨナラ」をリアルタイムで見ておりますよ。ちなみに今、レンタルショップなどで見ることが出来る最終回は、全面的に作り直してあるので、あのものすごい最終回は、個人のビデオアーカイブにしかないはずだ。

 その後ずっと続いたマクロスシリーズは、作る側からすれば最初のマクロスに対するリベンジの繰り返しだったのだろう。今回、「マクロスF」は、かなり高いレベルでリベンジを果たしたと思う。

 さて、ここからが本題。ネットで誰かが言及しているだろうと思ったのだが、検索をかけても見つからなかったので以下、書き留めておく。
 Fの何話目だったか、マクロス・フロンティア内が統制経済モードに入るので商店街が一斉売り尽くしセールをやるという話があった。そこにオペレーター3人娘が買い物に行くと、あの人もこの人もというお笑いになっていたのだが。

 これは明らかに設定ミスだろう。
 1000万人が居住する巨大移民船の内部経済は閉鎖系と考えて良いだろう。とすると通貨は移民船の政府が信用を保証し、艦内に蓄積、生産される富に応じた通貨の量を供給、コントロールして通貨の価値を維持しているはずである。
 統制経済モードに入るということは、物資イコール艦内の富が減少している状態だから、物資の価値は上がり、通貨価値は下がる。となると物価は上昇し、通貨を持っているよりも現物を持っているほうが得になる。
 マクロス艦内では起きるのは売り尽くしバーゲンではなく、物資を求める人々のパニックでなくてはならないはずだ。このあたりは高校の社会で習う経済学の初歩の初歩である。

 これをやると話が暗く陰惨になるのは分かるのだけれど、長距離大規模移民船で経済の話をやるなら逃げられないところだと思う。

 以下、中年の思い出話。

 特撮・アニメなどに登場する経済ネタというと思い出すのは「レインボーマン」のお多福会だ。日本人殲滅を目指す「死ね死ね団」(すごいネーミングだ)が現世利益新興宗教の「お多福会」を通じて社会に偽札をばらまき、結果ハイパーインフレが起きて日本経済大混乱という話である。

 これをちゃんと子供にも分かるようにストーリーを展開していたのが、当時の製作スタッフの偉いところ。物価が上昇して食べ物が買えなくなってしまった子供が、ひもじさと出来心でインスタントラーメンを万引して食料品店主らから袋だたきにあう、ど真っ暗な描写をきちんとやっていた。
 主人公のヤマトタケシが子供を救うのだが、そこに食料品店の店主が怒りの形相もすさまじく「お前が金を払ってくれるのかよ」と詰め寄るのだ。ヤマトタケシ「いくらだ?」、店主「千円だ!」。で、ヒーローは財布から千円札を出すのである。
(注:このあたり、記憶が偽造されている可能性もある。子供を救ったのはヤマトタケシではなく、彼の周囲の人々だったかも知れない)

 「レインボーマン」放映当時の1972年、袋ラーメンはスーパーの特売ならば30円ほどだった。はっきり覚えている。覚えているのも当然で、テレビで「ラーメン一袋千円だ!!」を見た翌日だったか翌々日だったか、新聞折り込み広告のチラシでラーメンの価格を調べたのだった。
 子供心には、それほどまでに「ラーメンひとつ千円!」は強烈だったのである。しかし…

 昨年来、ジンバブエが超絶的なハイパーインフレ状態に陥っている。そのインフレ率たるや年間10万%だそうで、30円のラーメンが1000円になる、レインボーマン世界のインフレ率3300%というのは、実はそれでも生ぬるいものではあったのだった。

 なぜ、「レインボーマン」では、あれほど冷酷なインフレ描写ができたのかを考えるに、当時の製作スタップは皆、敗戦後、占領下の日本でインフレやら預金封鎖やら闇市やらを体験してきた人々だったからなのだろう。彼らにとって、物がない、つらい、くやしい、さびしい、もの悲しい、ひもじい、という感覚は実体験に基づくものだったことは間違いない。

 「それに比べてマクロスFのスタッフは…」などということは書かない(なにしろ河森総監督以下、私と同世代だ)。ただ、ちょっとしたことではあるけれども、艦内統制経済モードという用語を使うからには、そのつらくて悲しい部分を描写しても良かったのではないか、とは思うのであった。
 さんざん楽しませて貰っておいて、何をいうやら、なのだけれど。

 「マクロスF」はDVDとBlu-rayで同時に発売されている。「Blu-ray出し惜しみなしだ」と称賛したいところだが、私の聞く範囲では、 ビデオコンテンツ業界においてはBlu-rayのメディアとしての寿命を5年と踏んでいるとのこと。つまり5年間で可能な限りの売り上げを立てなくてはならない状況らしい。
 というのも、Blu-rayの次にネット経由のHDTV配信が来るということがあまりにはっきりと見えてしまっているからである。
 こうなると、DVDのようにすでに普及している物理フォーマットのほうが強いかも知れない。どちらを買うかは、かなり悩むところだろう。

 私はといえば、どちらも買うつもりはない。「マクロスF」に関しては見損ねた回をすべてバンダイチャンネルで視聴した。画質を云々せず。「これはテレビアニメである」と思って見るなら、私にはそれで十分である。今後も、見たくなったならばバンダイチャンネルに1回105円を支払うだろう。オンデマンドTVの便利さには105円の価値は十分にあると思う。




  


 アニメ本体の映像ディスクよりも、買うならこちらかも。実際、マクロスFでは歌手の選択から曲の構成に至るまで、高品位の音楽を理想的なプロモーションで売っているという印象。管野よう子絶好調だ。
 私がびっくりしたのは、「星間飛行」の「キラッ☆」…ではなくて、松本隆のあまりに若々しくも瑞々しい歌詞だった。この歌詞は素晴らしい。なかなか素人には書けない、真のプロの仕事だと思う。

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Comments

>マクロス艦内では起きるのは売り尽くしバーゲンではなく、物資を求める人々のパニックでなくてはならないはずだ。

パニックを防ぐために、一時的に物資の潤沢にしているのだと思います。
販売店にも、在庫品の徴発を予告したり、統制解除後の資金補助などを約束して売り惜しみをさせないようにしているのでしょう。

Posted by: ほるほる | 2008.11.29 12:39 PM

通貨が非兌換貨幣なら御説の通りですが、たとえば水とかエネルギーなどの生活するのに絶対必要な資源との兌換貨幣だったら、必需品以外の商品の投売りは十分にありえると思います。

Posted by: でかいの | 2008.11.29 06:10 PM

インフレでも確かにいきすぎると嗜好品は投げ売りになるかもな−。
服は喰えないだろ!とかいう所まで行けばだが。

>どちらを買うかは、かなり悩むところだろう。
悩んだら両方ですよ!という冗談は置いておいて。
地道にTV録画すれば悩み解消です。
もしパッケージ欲しくなっても、録画より画質が悪いDVDを
わざわざ買おうっていう選択肢は無いですし。

Posted by: みよし | 2008.11.30 12:00 AM

こんにちは、初めてカキコします。
いつも楽しく拝見させていただいてます。

今回は既存の経済モデルが通用しなくなりつつ
見える時に、アニメを掴まえて突っ込んでみても
なぁ、今時レインボーマンをやっても誰も喜ぶまいよー

って思いながら下にスクロールしたら、お多福会の話が書いてあってお茶吹いた。

と言う訳で記念カキコでございます。
失礼致しました。

Posted by: こーはん | 2008.11.30 02:09 PM

統制経済モード発動にともなう戒厳令施行や食料買占めパニックの描写がないのは生活必需物資の供給が保障されているためと解釈できるのではないですか。
歌姫いわく「この船団にはスラムがない」とのことですから高度な社会保障体制のある世界なのでしょう。
たとえるなら「救命ボートが充分にあるタイタニック号」のようなものではないかと。
「やばい状況になってきたけど秩序を守っていれば死ぬことはないさ」と皆が信じているのでしょう。
行政府の閣議で「最悪の場合、他の船団に住民を避難させる」ことを検討するシーンもありましたし。
ハインライン作「宇宙の孤児」のバンガード号で反乱が発生し暗黒時代に陥ってしまったのは「逃げ場がない」という閉塞感のためだったと思います。
あの作品では住民たちの挨拶が飢餓時代を暗示させる「good eating(良いお食事を)」になっていました。
Fのギャラクシー船団ではみなしごのシェリルがゴミ箱から残飯をあさり、暖かな明かりの灯る民家の窓を見上げるシーンが切ない。
レインボーマンなど70年代の特撮番組製作に関わった人々には元学生運動活動家で革命の夢破れた人物が多かったとどこかで読んだ記憶があります。
「初代ゴジラ」には「また疎開か」なんてセリフもありましたし、どんな作品も時代を映す鏡ですね。

Posted by: 空天 | 2008.11.30 02:58 PM

|となると物価は上昇し、通貨を持っているよりも現物を持っているほうが得になる。

 マクロスFを、と言うよりTVそのものを最近観なくなったので、まったく外しているかもしれませんが、移民船の閉鎖環境の中で、最初から貨幣経済が十分に機能していなかったことが、統制経済を招いた可能性もあるのではないでしょうか。
 貨幣経済が円滑に機能していないので、物資を握っているものが強い経済力を持つ。社会の中で貨幣ではなく物資の蓄積の方向に働く。

 結果的に小売業や流通業に富が集中することになり、貧富の差が拡大する。閉鎖系で貧富の差の拡大やそれにともなう社会不安の増大は避けなければならない。
 だから富の再分配のための統制経済なのかもしれない。ストックした物資がすべて没収されるところから統制経済がはじまるなら、手持ちの物資を放出し、現金の形で確保する方が特になる。
 市場に物資が放出されれば、富の分布はより平準化されてゆく、とかなんとか。

Posted by: 林 譲治 | 2008.11.30 10:07 PM

同じく見ていたときに統制経済モードと投売りとがリンクしなかったので、以下こじつけで考えたこと。

統制経済モードとは、自由主義経済から社会主義経済に移行するのでは?

・売る側のメリット:以降後も一応使える通貨の確保、在庫没収の回避
・買う側のメリット:以降後には制限される物品の確保(嗜好品・洋服など)

Posted by: みーや★ | 2008.12.01 05:53 PM

経済統制ではありません。
長距離フォールド前の在庫一掃バーゲンです。

フロンティアの他船団との経済交流や
長距離フォールドになぜ議会決議が必要かなど
小説版や雑誌に裏設定がいろいろ載っています。

設定ミスと安易につっこむ前にご一読を。

Posted by: prat | 2008.12.03 02:40 PM

単純に、全て配給になり闇流通を防ぐために貨幣流通も停止、ホールド後は配給された物資と新貨幣で心機一転再スタート、という都合のよい設定なのでは?
負債は、もちろん徳政令で帳消し^0^
売買が成立しなくなるしする必要がなくなるから投げ売りの理由は、再スタート時の新規配給品のおき場所を確保するため。
生活に必要な物資は完全に保証されるから、売り物も洋服とか嗜好品に偏る、新しい星系にいけば、いっきにあら不思議新しい流行が起って、元のフッションは生産されなくなるから、どうせ使えなくなる通貨だし今買っておけ、というドライブが消費者側にはかかる、ということでいかがでしょうか。

こうしてバブルをおこしてそれが破綻するまえになかったことになって、あらたなバブルをおこし、安全なバブルの乗り継ぎで今日も移民船団経済は幸せなのでした。
めでたしめでたし
なんだか、大火のたびにチャラにして、復興需要で食い繋いだ江戸の街みたい

Posted by: ku | 2008.12.06 12:35 AM

アニメの中の経済の話はどうでもいいですが、歌はよかったですね。アルバム3つとも買いました。
中でもじんときたのが「ねこ日記」でした。「ロケットの日記なら」ですから。JAXAつくばの野ざらしH2も、天翔る日を夢見ていたのかな。

Posted by: タヌキマン | 2008.12.16 12:52 PM

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