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2008.12.21

あまりに悲しく、あまりに腹立たしく

 あまりに悲しく、腹立たしいニュース。

政府:宇宙予算増額、1966億円に(毎日新聞12月18日)

 政府は17日、文部科学省が09年度予算編成で要求している中型ロケット「GX」の開発プロジェクトなど宇宙開発利用予算について、前年度比60億円(3・1%)の大幅な増額を認める方向で調整に入った。総額は1966億円となる。来年度を「宇宙基本法元年」と位置付け、宇宙開発を積極的に推進する姿勢を打ち出すため、例外的な大幅増を認める。

 GXロケット関連では、第2段に搭載する液化天然ガス(LNG)エンジン技術の完成度を高めるプロジェクトの費用として、前年度比51億円増の107億円が確保される見通しとなった。

(後略)

平成21年度気象庁予算案の概要について

 気象庁は、来年度予算の概算要求に次期気象衛星のための予算77億円を盛り込んだが認められなかった。

 GXロケットが気象衛星に優先するというのは、どういうことか。

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 宇宙基本法には、宇宙開発の意志決定を官僚主導から政治主導に変革することで、宇宙を日本という国の国家戦略のためのツールとして利用することを可能にする、という意図があった。

 政治家が、宇宙開発の方向性を決めるということである。

 となると、政治家はよくよく宇宙という場所の特質を知り、宇宙開発の実情を熟知し、責任を持って宇宙開発政策を策定しなくてはならない。

 では、現在の自公連立政権の政治家は、気象衛星よりもGXロケットが大事だと、主体的に判断したのだろうか?

 気象衛星の重要性は気象衛星の危機的状況地球環境問題と気象衛星の価値気象衛星について補足の3つの記事で書いた。

 ここで一つ指摘しておくと、気象情報は安全保障面でも重大な意味を持つ。なぜならば、気象状況の把握なくして軍事行動はあり得ないから。


 一方、GXロケットの開発が昨年来なかなか決着が付かないままにずるずると、意志決定が引き延ばされている。

 この件に関しては、宇宙開発委員会の主要メンバーは一致して「中止ないしまき直しすべき」と考えている。文部科学省は、かなり強い中止の意向を持っており、経済産業省も安易な推進には疑問を持っている。
 安全保障用途としてロケット完成の暁にはユーザーとなる防衛省は、ロケット完成に関心を示していない。他官庁の予算で完成させてくれるならありがたく受け取るが、開発のために防衛予算を割くのは困るという立場だ。

 これに対して、かなりの経費を開発に注ぎ込んだメーカーのIHIは、「GXロケットは商業打ち上げ用ロケット」という開発当初の立場を転換し、「GXは安全保障用途として有用なロケットなので開発を継続したい。その為には官からの開発費出資が必要である」としている。その背景にあるのは、民間航空機用のジェットエンジン「V2500」の開発で、最後まで通産省(現経済産業省)の方針に付いていき、通産省も開発を見捨てず、最終的に商業的成功を収めたことからくる成功体験があるようだ。
 「官が民を裏切ることはないはず」「官は民を裏切るべきでない」というわけである。

 過去の事例からすると、このような力関係ならGXはあっさり中止と決まるはずだった。

 にも関わらず、ここまで「開発続行か中止か」で議論が紛糾している理由は、自由民主党の一部政治家が「GXロケットは安全保障用途の打ち上げのために重要なロケットであり、その開発を継続するべき」と強く主張しているためである。


 「安全保障用途のGX開発を継続すべし」の主張の中心にいるのは、河村建夫現内閣官房長官(山口3区選出 衆議院)だ。河村官房長官は、宇宙基本法の成立でも主導権を発揮した。
 河村長官の他には、河井克行衆議院議員(広島三区選出)も、かなり強い態度でGX開発続行を主張している。今年4月の自由民主党・宇宙基本政策小委員会では、出席した河内山治朗JAXAロケット担当理事に舌鋒鋭く開発続行を迫ったという話が、私のところまで聞こえてきている。河井議員も、議員立法での宇宙基本法の成立にあたり、有力なメンバーとして活動した。

 内閣官房長官は内閣の要職であり、その職を務める者の発言を官僚は無視することはできない。今回GX開発続行に51億円の追加投資が付いたのは、河村官房長官の意志が働いていると見て間違いないだろう。

 しかしながら、本当に投資すべきはそこだったのか?

 政治家は、何が日本の未来と国民の福利厚生にとって重要かを的確に判断し、限られた予算の中でどこに投資するべきかを判断する責務を持つ。
 政治家が、宇宙を安全保障用途の政策ツールとして有効活用しようとするのはいい。現実問題として宇宙開発にはそのような利用方法が存在するのだから。
 だが、そのためには「日本の安全保障にとって今一番投資を必要としているのはどこか」を、政治家が主体的に判断できなくてはならない。

 GXに関しては「安全保障に役立つ」とされながらも、「では、GXでどんな安全保障用途の衛星を打ち上げるのか」が明確になっていない。「需要は存在する」というだけで、具体的にどんな衛星なのかは不明である。
 一方、気象衛星は、安全保障のみならず、防災、アジア全域への国際貢献、地球環境変動の監視など、様々な役割を今現に果たしつつある。

 日本の宇宙政策にとってどちらが重要かは、あまりに明白ではないだろうか。

 気象庁は国土交通省の下に付く弱小官庁であり、過去も気象衛星の予算を捻出するのに四苦八苦してきた。気象衛星の重要性を考えれば、政治家が今、一番支援すべきはIHIではなく気象庁ではなかったのか。

 GXへの51億円は、GX開発が順調ならば不要の出費だった。政治家とメーカー以外が、中止に傾いている今、政治家の主張によって51億円が積み増しされたということは、決して「宇宙開発予算が大幅増」ということではない。単に政治側の主張を通すために予算を積み増したということでしかない。
 日本の未来のために遂行すべき他の計画にもきちんと予算が回って、初めて「大幅増」と言いうるのだ。

 来年度宇宙開発予算が、61億円増、うち51億円がGXロケットへの積み増しという状況で、政治家が、毎日新聞の記事にあるように「来年度を『宇宙基本法元年』と位置付け、宇宙開発を積極的に推進する姿勢を打ち出す」と考えているなら、宇宙基本法の理念は、法律施行から4ヶ月を経ずして、すでに空洞化していることになる。
 政治家が宇宙開発政策を主導する法律に対して、政治家が宇宙開発に対して的確な判断ができないということを世間に示してしまうということだから。


 今後、年末にかけて来年度予算の復活折衝がある。気象衛星の予算が今後どうなるか、注目しよう。それは日本の政治家が、宇宙開発をどの程度理解しているかを試す、リトマス試験紙でもある。

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Comments

>どんな衛星なのか
実は、「あすなろ」でした(檜ではありません)
http://www.usef.or.jp/project/index.html#asnaro
それは、別にしてSiCの反射鏡というのも興味深い
http://www.ceramic.or.jp/museum/contents/aero/aero02.html
こんな下地も見える
http://www.ieice.org/ken/program/index.php?tgs_regid=b410cb0919cea6d26b01b06b4e71bbfda6eeaee5c69813e6fdebb870fef1b3ea&cmd=show_form&form_code=SA4J&layout=&lang=jpn
持論としては早期警戒衛星(赤外線)がラインナップにあってしかるべきなんでしょう。

Posted by: pongchang | 2008.12.22 at 04:59 AM

> 日本の未来のために遂行すべき他の計画にもきちんと予算が回って、初めて「大幅増」と言いうるのだ。
本当にそういう観点から予算を評価すると、宇宙予算とか宇宙開発そのものが消滅するもんだとは思うのですよ。
他の星からの資源採掘とか軌道上の実験室/工場とかいったものは2桁とか3桁とかいった非現実的なレベルで打ち上げコストが下がらないとペイしないでしょうし、
まして他惑星への移住なんて化学推進から脱却しない限り成立し得ないでしょう。
そんな状態で科学探査といっても単に知的好奇心を満たすにとどまって利用なんておぼつかないわけで。
一方で地球観測や通信/放送、測位といった今あるサービスは現在でもそれなりに成立し、技術的に大きな飛躍のある開発としない。
それに、南極や深海、深地層や高高度といったよりお銭を生んでくれそうで将来の日本と人類に役立つフロンティアは地球に残っているわけですから。
あるいは国家の自慰行為を煽ってもいいのなら宇宙開発にも意義を見出せるでしょうけども……

それに、2000億くらいならGXに突っ込んでもいいんじゃないですか?
H-II/H-IIAは4000億突っ込んだ挙句いつのまにかMHIのロケットになってますし。
ましてその51億は他に技術の使いまわしの利くLNGエンジンに対してであって、GXへの追加投入じゃないんですから。

Posted by: vulpes | 2008.12.22 at 07:05 PM

そしてこれ。

文系とか政治家とか官僚をバカにしている人って多いけど、
そういう人って彼らの書くブックやアングルにはあっさり釣られて行くんですよね。

Posted by: vulpes | 2008.12.22 at 07:20 PM

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081222-00000127-mai-soci
麻生内閣は判ってるということでよろしいでしょうか

Posted by: 通りすがり | 2008.12.22 at 10:27 PM

結局のところ、次年度予算案では
気象衛星の予算額は要求通り全額が認められ、加えて小型衛星振興のための予算も
重点課題推進枠として取り上げられるという「宇宙重視予算」だったわけですが、
はてなブックマークなどでのリアクションをみるに、
未だに本記事での「誤報」(もちろん結果としてですが)を信じておられる方が多数おられるようです。

「宇宙関連が重視されることなどありえないと信じていたので、
予算枠の発表が全て終わるまで待たずに先走ってしまった」
「GXと宇宙法、安全保障関連で記事を用意していたので待つ必要はないと思った」
といったやむにやまれぬ事情もおありかとは思いますが、
偽情報が一人歩きする恐ろしさは、中国宇宙遊泳に関するデマに対して間然と戦われた
松浦様は誰よりもご存じかと思います。

松浦様がまさに示して来られたとおり、
デマ情報への特効薬は正しい情報による迅速なフォローアップです。

政府に対し色々思うところはあるでしょうが、
ここは一度おいていただいて、
正しい情報によるフォローアップをいただけないでしょうか?

Posted by: これはまずい | 2008.12.23 at 09:31 PM

結果的には「重要課題推進枠」で予算がついた気象衛星「ひまわり」後継機ですが、気象庁自身が気象衛星の国家的重要をきちんと認識し、説明していれば、すんなりと予算案に盛り込まれたかもしれません。
はたして、気象庁がそれをできていたかどうか。

たとえば、宇宙開発戦略本部に提出された、政府の宇宙開発利用体制に関する資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/working/dai1/siryou4.pdf
では、気象庁は「研究開発」フェイズに関与していないと読み取れます。
しかし実際には、気象研究所に「気象衛星・観測システム研究部」があって、実際に宇宙システムの研究開発を行っています。

ならば、どうして政府側資料にそのことが盛り込まれなかったかといえば、現在、気象庁は政府の総人件費改革を受けた気象研究所の独立行政法人化のための法案を準備しており、それ以外のことで気象研究所の存在が目立つのを避ける=国家的重要性を認定されて独立行政法人化の否定要因にされないために、気象庁自らがあえて外したのだそうです(国土交通省に取材済)。

気象庁までもが、国家的ビジョンの正確性とつまらない政治的駆引きとを天秤にかけるようでは、先行きが心配です。

Posted by: きゅーてぃ渡部 | 2008.12.23 at 11:20 PM

>河村長官の他には、河井克行衆議院議員(広島三区選出)も、かなり強い態度でGX開発続行を主張している。今年4月の自由民主党・宇宙基本政策小委員会では、出席した河内山治朗JAXAロケット担当理事に舌鋒鋭く開発続行を迫ったという話が、私のところまで聞こえてきている。河井議員も、議員立法での宇宙基本法の成立にあたり、有力なメンバーとして活動した。

河村、河合、河内山で「G-Xの三河」というキャッチフレーズが頭に浮かんだ。

Posted by: ROCKY 江藤 | 2008.12.25 at 12:04 AM

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