« 宣伝:4月12日(日曜日)、Yuri's Night 2009 Japanの東京会場「アポロ40周年記念講演会」で話をします | Main | 宇宙基本計画パブコメにむけて:笹本祐一さんの意見(1) 日本独自の有人月探査計画に見えた月の裏側 »

2009.04.10

はやぶさリンク:はやぶさ2の現状

 宇宙基本計画と共に、ここで報告しておかねばならないこと。「はやぶさ2」の現状だ。

 海外から打ち上げ手段を調達することを計画実施の条件とすることとされてしまった「はやぶさ2」は、イタリアが主導して開発している「ヴェガ」ロケットによる打ち上げを模索していた。

 が、この話は完全に潰れた。

 理由は、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙科学部門で深刻な予算超過が2つも発生したためだ。結果として、欧州の宇宙科学予算から打ち上げ手段の調達を行うことが不可能になった。

 予算超過を起こしたのは、日欧共同の水星探査機「ベピ・コロンボ」と、火星無人探査車「エクソマーズ」だ。ベピ・コロンボは、水星に到達するためにイオンエンジンを使う設計だが、欧州が担当しているイオンエンジンの開発が難航、大幅な重量超過を起こすことが判明した。結果としてソユーズロケットによる打ち上げが不可能になり、昨年夏以降大騒ぎをして、結局打ち上げロケットをより大型のアリアン5に変更することとなった。当然アリアン5はソユーズより高価であり、その分多額の予算を必要とするし、イオンエンジンの開発にも余計な経費がかかることになる。

 エクソマーズも開発がトラブル続きで、当初2011年打ち上げだったものが、2013年に、さらに昨年10月には2016年まで延期された。その結果、超過した開発経費が、2010年代半ばのESAの宇宙科学予算に食い込むこととなってしまった。

 私見だが、日本はベピ・コロンボでの欧州との協力体制構築に失敗したように見える。

 国際協力はお互い相手を骨の髄まで利用し合う過酷なものだ。どちらかがバカを見ないためには、それこそ「キンタマを握り合う」ぐらいに相互の弱みを実効的に捕まえる必要がある。しかし、日本の開発する水星磁気圏探査衛星は、完全に「欧州のロケットと欧州のイオンエンジンで、水星まで連れて行ってもらう」設計だ。欧州側でトラブルが発生すると、日本はなすすべもなく、欧州の意向に従わなくてはならない。国際宇宙ステーション(ISS)と全く同じ構図である。

 せめて、イオンエンジンを日本が提供する形に持ち込んでいれば「バカなこといっていると、イオンエンジンを引き揚げるぞ。水星に行けなくなるがそれでもいいのか」と欧州に言えたのだが。なにしろ日本のイオンエンジンは「はやぶさ」で惑星間航行の実績がある。一方欧州のエンジンは、新規開発なのだ。

 探査機を欧州に運んでもらうという選択には、「国際協力で浮いた経費をセンサーに突っ込めば、より多くの科学的成果が期待できて、インパクトのある論文を多数生産できる」という思惑があったのかも知れない。が、それは相手の言うなりになるということに、どうして気が付かなかったのだろうか。ベピ・コロンボに関しては、今後「宇宙科学におけるISS」になりはしないか、非常に心配である。

 ヴェガロケット利用の話は潰れたが、「はやぶさ2」は生きている。皮肉な話だが、打ち上げが2014年以降になった結果だ。

 そもそも、「海外から打ち上げ手段を取ってくる」という条件の背景には「JAXAの中期計画(2009年2013年)の予算では、はやぶさ2にロケットを付けるだけの金がない」という、JAXAの経営上の理由から出てきたものだった。打ち上げが2014年になると、資金は次の中期計画で賄うことができるというわけだ。H-IIAが使えるんじゃないか、ということである。

 打ち上げが遅れ、そして後述する「はやぶさMark2」の先行きが不透明であることもあって、はやぶさ2の設計は徐々に変化して、「はやぶさの同型機」というコンセプトから離れつつあるようだ。若干Mark2の要素を取り入れつつあるらしい。

 「はやぶさMark2(欧州名マルコ・ポーロ)」は、まったく先が読めない情勢になっている。ベピ・コロンボとエクソマーズの予算超過と計画遅延によって、2010年代のESAの科学探査の予算見積もりがガタガタになった結果、そもそも「次にどんな計画を実施するか」のセレクションが二転三転しているためである。
 一応、今年9月に行われる予定のESAの次期探査計画セレクションには応募する方向で日欧における検討は進んでいる。が、私のところには「マルコポーロは八方ふさがりですよ」という話も聞こえてきており、先行きどうなるのかは分からない。

 そうこうしているうちに、アメリカでは、昨年、小型探査機シリーズ「ディスカバリー」のコンペで落選した小惑星探査機構想「オシリス」のチームが、またNASAの予算獲得を目指して動き出したそうだ。日欧とアメリカの2つの計画は、どちらかが実施されれば、どちらかは科学的価値を失って消える運命にある。どちらが、予算を獲得して先に進めるかは、なんとも予断を許さない。

 私の知る限りの現状は、こんなところだ。であるからして、宇宙基本計画では、ぜひとも太陽系探査をきちんと日本の長期計画の中に位置付けてほしいのだが、どうも文章を読んでいくと…。

 宇宙基本計画の件については、改めて別の記事で書くことにする。

|

« 宣伝:4月12日(日曜日)、Yuri's Night 2009 Japanの東京会場「アポロ40周年記念講演会」で話をします | Main | 宇宙基本計画パブコメにむけて:笹本祐一さんの意見(1) 日本独自の有人月探査計画に見えた月の裏側 »

はやぶさリンク」カテゴリの記事

宇宙開発」カテゴリの記事

Comments

Bepiの開発は、はやぶさ打上げ前です。(MMOはH15から開発研究)
検討はその前から進んでいたのではないでしょうか
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/reports/08021409/001.htm

Posted by: foe | 2009.04.10 at 08:08 AM

赤木颱輔(akakiTysqe)拝

Posted by: 民主党にロビイングすべきではないでしょうか | 2009.04.10 at 05:14 PM

ESA の宇宙科学計画 Cosmic Vision には、マルコポーロ以外にもSPICAやXEUSなどいくつかの日欧共同提案が一次採択されているので、ESAの宇宙科学計画に大きな変更があると太陽系探査以外にも日本には影響甚大です。このESA情報はどこに報道されているのでしょうか?

Posted by: nq | 2009.04.11 at 11:51 AM

VEGAロケットそのものの不調は若干聞きかじっていたのですが、それ以前の障壁でESAによる打ち上げ断念ですか…

これだけ時間が開けば、災い転じて福と成すために、はやぶさ2は(偉大なる)プロトタイプMUSES-Cで足りない要素を洗い出し、可能な限り設計を最適化、打ち上げ手段については、2014年には打ちあがって居るであろうE(仮称)ロケットの発展型を、なんて望みたくなりますね。

うまくいけば100億円程度での宇宙探査が可能、これならプログラム的な、網羅的な探査が日本の予算で充分可能になりますし。(ちょっと妄想してみました)

Posted by: ぼろねこ ことにかど | 2009.04.18 at 10:13 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19821/44621621

Listed below are links to weblogs that reference はやぶさリンク:はやぶさ2の現状:

» 「宇宙(そら)へ!」増刷 [文系宇宙工学研究所]
 昨日入稿してきました。5/5のコミティア88に合わせて、『宇宙(そら)へ! 宇宙開発見学総合ガイドブック』を増刷します。今までお手に取れなか... [Read More]

Tracked on 2009.04.10 at 11:36 PM

» どうなる?はやぶさ2 [天燈茶房 TENDANCAFE]
画像提供:JAXA 松浦晋也さんのL/Dに久々に、小惑星探査機「はやぶさ」の功績を引き継ぐ2番艦となる筈の同型機「はやぶさ2」の話題が出た。 はやぶさ2の現状(松浦晋也のL/D 2009.04.10) いやはや…「はやぶさ2」「はやぶさマーク2(マルコポーロ)」共々相変らず混乱してますね。 イタリア主導のヴェガロケット初号機で打ち上げて貰うことでまとまってるもんだとばかり思っていたのだが、やはり「この話しは無かったことに」なっていたのか。 実は先月のJAXA宇宙探査イベント「宇宙探査の始動 〜... [Read More]

Tracked on 2009.04.11 at 03:53 AM

« 宣伝:4月12日(日曜日)、Yuri's Night 2009 Japanの東京会場「アポロ40周年記念講演会」で話をします | Main | 宇宙基本計画パブコメにむけて:笹本祐一さんの意見(1) 日本独自の有人月探査計画に見えた月の裏側 »