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2009.06.26

宣伝:6月28日(日曜日)、ロフトプラスワンのトークライブに出演します

 今度の日曜日です。今回は、閉鎖生態系実験施設のなかで実際に生活した「エコノート」の小松原さんをお迎えして、閉鎖生態系研究の現状をお聞きします。

宇宙作家クラブpresents
「ロケットまつり33/地上の宇宙飛行士達」
 月よりも遠くに行こうとするならば、長期間の宇宙旅行を覚悟しなくてはならない。もしも、完全に閉鎖した環境で物質を循環させることができたら長期の宇宙旅行に必要な物資はぐっと少なくて済む。同じ技術を宇宙ステーションに適用すれば、物資補給の頻度を減らすことができる。
 生物も含めた閉鎖空間で物質を循環させるシステムを、閉鎖生態系という。
 あまり知られていないが、日本は、青森県・六ヶ所村に閉鎖生態系試験設備を保有していた。残念ながら予算の関係で昨年度で実験は終了したが、最終的に2名の研究者が4週間、閉鎖生態系の中で実際に生活することに成功した。
 彼らは、宇宙飛行士(アストロノート)に対抗し、自らの事をエコノートと呼ぶ。
 今回は、実際に閉鎖生態系で4週間を過ごした方々をお呼びして、研究の実際と展望をお聞きします。

【出演】小松原修(エコノート)、松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、笹本祐一(予定)、浅利義遠

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

6月28日(日曜日)
Open18:00/Start19:00
¥1000(飲食別)※当日券のみ


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2009.06.23

訂正:MMDオリジナル振り付けについて

 訂正です。

 前回「MMDから新しいダンスの振り付けが生まれ、「踊ってみた」というビデオがアップされる状況になっていない。」と書いたが、これは事実誤認だった。

 コメント欄でcocoonPさんから指摘され、確認したのだが、まず「MMDから新しいダンスの振り付けが生まれ」という部分は、オリジナルの振り付けがかなりの数、投稿されている。MMD振り付けというタグが、オリジナルの振り付けを探す鍵だった。

 「『踊ってみた』というビデオがアップされる状況」については、まだきちんと探せてはいないのだが、いくつかMMDで発表された振り付けを実際に踊った例を確認した。

 私の事実誤認である。

 何が間抜けって、MMD杯の動画をチェックしている時に、この動画もちゃんと観ていたのだ。

 ところがLove and Joy関連の動画を追っかけているうちにすっかり記憶から抜け落ちしてしまっていたのであった。我ながら全くもって情けない。

 cocoonPさんのコメントには、「実際にモーションを作っているMMD界隈の仲間たちが、あなたのこのエントリを見て悲しんだり怒ったりしている」とあるが、もしもそのような方がおられるなら、大変申し訳ありませんでした。

 なぜこういうことになったかを考えてみるに、「音を扱う音楽=ミクオリジナル曲と、体の動きを扱う振り付け=MMDによるオリジナル舞踏との間に、なにか人間の側の情報処理の仕組みに大きな違いがあるのではないか」ということを考えていたからだろう。

 ラマチャンドランによる幻肢痛の治療に見るように、「自分で、自分の体を『これは自分のものである』と認識するメカニズム」は、なかなか一筋縄ではいかないものだ。新たな振り付けの創造にあたっては、そこに「自己の肉体を自己として認識する仕組み」が大きく影響しているのだろう。

 ボーカロイドは、「歌う」という行為を仮想化してパソコン上で(ある程度の精度で、ではあるが)再現することに成功し、その結果ボーカロイドによるオリジナル曲がアップされ、さらに「歌ってみた」という形で現実の歌声に遡上するという現象が起きた。

 では、MMDは「踊る」という行為を仮想化してパソコン上で再現することに成功しているのか。その結果オリジナルの振り付けがアップされ、さらに「踊ってみた」という形で現実の舞踏に遡上しているのか?

 そこで、「人体における歌声と舞踏との自己認識が異なるなら、現象として違うことが起きているのではないか」というのが、私の作業仮説だったのだ。ところが、Love and Joy関連の動画を追っかけているうちに、「違っているに違いない」という先入観に陥ってしまったようである。
 そこには、自分がMMDをいじったときに手こずった経験も投影されているようだ。実際、自分でやってみるとミクが思っていたように動いてくれなくて、ずいぶんと苦労した。

 ただ、ここまで短時間でざっと見ただけなのだが、確かにMMDによる投稿は、ボーカロイド曲の投稿に比べて数が少ない。そして「歌ってみた」と「踊ってみた」を比べると、「踊ってみた」はずっと少ない。

どのタグで比較するかによるのだが——
2009年6月24日時点で、


  • 初音ミク:50,319件
  • MikuMikuDance:5,544件
  • 歌ってみた:128,738件
  • 踊ってみた:16,209件
  • ミクオリジナル曲:1,036件
  • MMD:221件

 だいたい規模として、1/10から1/5程度と判断していいようだ。大まかに言って「桁が違う」わけである。

 これが、cocoonPさんの指摘したような敷居の高さのせいなのか、それとも私が考えていたような「人間の自己認識の仕組みの違い」のせいなのかは、現状ではなんともいえない。そもそも「自己認識の仕組みが違うから敷居が高くなる」のかもしれないし——これ以上は、別の切り口のデータが必要になるだろう。例えば、ミクを使ってDAWで作曲している時と、MMDで新しい動きを考えている時にそれぞれ脳波の多点計測をするとか。

 「歌と踊り」とまとめられることも多いし、実際これらは切り離しがたいものではあるのだが、このような差異が存在する。それもニコニコ動画ではっきりと見えてくる。その差が、私にとって面白かったのだけれど、でも、先入観で事実を誤っては話にならない。反省しきりだ。

 罪滅ぼしの意味も込めて、ラジPによるオリジナルの振り付けをいくつか紹介する。これは手練れの作品だ。なかなかMMDでこうは動かせない。



 ラマチャンドランが、自らの研究を一般向けに解説した本。人間の脳が、自分や世界をどのようにして認識しているかを、彼は独創的な数々の実験を通じて明らかにしてきた。ものすごく面白く、かつエキサイティングである。読んでない人は是非とも読むべき名著だと思う。

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2009.06.19

MikuMikuDanceとオリジナリティ

 アイマスMad、ミクオリジナル曲とくると、最後はMMD(MikuMikuDance)なのだが、これは前二者とは違って、ちょっと問題含みかなという気がしている。

 ソフトウエアとしてのMikuMikuDanceは、どんどん進化している。作者は3Dモデルに対する物理シミュレーションを入れ込んでいるようで、開発途上のバージョンによる動画も公開されている。使用できるモデルもどんどん増えており、可能性は以前よりも大きくなっている。これは間違いない。

 ではなにが問題なのか。まずは、以下の2つの動画を見てもらいたい。


 Love & Joyでミクとチビミクが踊る踊る。爽快の一言に尽きる。


 ブリトニー・スピアーズの「TOXIC」のビデオをボーカロイド派生キャラの弱音ハクで再現したもの。やー、笑っちゃうぐらい良く出来ている。よい子は見ちゃ駄目よ。

2009.6.24追記:以下の記述は前提となる認識に事実誤認がありました。詳細は訂正:MMDオリジナル振り付けについてをご覧下さい。記事は削除せず、このまま残します。


 ところが、これら2つには共通点がある。「既存の振り付けをMMDでなぞっている」ということだ。


 ミクオリジナル曲だと、受けたら次にリアルな歌い手達が「歌ってみた」をアップするのだが、MMDではそうはなっていない。MMDから新しいダンスの振り付けが生まれ、「踊ってみた」というビデオがアップされる状況になっていない。つまり現状ではMMDは現実世界のコピーツールであり、MMDから始まって現実に新しい情報が波及していくということにはなっていない。

 振り付けは、身体的なものだから、バーチャルなMMDでは難しいのだろうか。新しいダンスがMMDから始まれば、もっと面白くなるだろうにと思うのである。

 まあ、ニコニコ動画でのマッシュアップという意味では、あまり心配することはないのかも知れない。最初に紹介したLove & Joyの場合は…


 まず最初にこのビデオがあった。すると次に…


 「踊ってみた」の人が、こうやって自分で踊ってみたビデオをアップしたわけだ。これが受けてしまって…


 「踊ってみた」の振り付けを、モーションデータとしてMMD上で再現する“職人が出現”。モーションデータをネットで公開したものだから…


 こんなのや…


 こんなのが次々にアップされ、その間にモーションデータもどんどん手が入って洗練されていき、ついには…


 こういうビデオまで出現するに至る、というわけだ。

 ネットの特徴であるマッシュアップは、理想的なぐらいにうまく回っているのである。

 MMDのオリジナリティという意味では、ダンスよりも、もっと日常的な動きをさせてみたビデオに面白いものが多い。


 この半年の間で、私が一番気に入ったMMDのビデオ。日常的なありふれた光景をきれいに切り取っている。もちろん技術的にもハクのギターの運指など見るべきところは多い。MMD杯というのは、MMD使いの強者達が、それぞれに技術の限りを尽くしてビデオを競い合う、ニコ動上のイベントのこと。ここに出てくるビデオはどれも非常に質が高い。


 その第2回MMD杯優勝作品がこれ。よく動くんだが、これが上の「めると」より受けるってことはニコニコ動画のユーザーは基本的に若いんだろうなあ。私には、この中身なしでひたすら動き続けるというのにはちょっとついていけないという感じがする。せめて、ウイットの効いたオチが欲しかったな。


 こういうのがもっと増えるといいな、と思う。この動画は音楽も映像も映像も稚拙だと思うけれど、精一杯自分のやり方で前に進もうという意志を感じる。
 オリジナルかコピーかなんて問題は、マルセル・デュシャンが男性用小便器にサインを入れて「泉」と題名を付けた段階でとうの昔に吹っ飛んでいるわけだが、それでも私は、自分なりのやり方で語っていこうという姿勢に肩入れしたい。「しょせん、デジタル時代の個性はカットアンドペーストからしか生まれない」というような斜めに構えた態度は、評論家に任せておけばいいのだ。


 とはいえ、ネタ系の楽しさというのは確かにある。それも頭の悪いネタ系の面白さというのは。これは見事なぐらい頭が悪いネタ系動画。もちろん褒め言葉である。いやー、ドロイド、色っぽいですな。


 ネタといえば、MMDはこんなこともできるのだ。とにかく作っちゃったということに感心。


 楽しませてもらっている以上、コミュニティにはなんらかの情報を提供して返さねばいけないのだが…


 かくいう自分は、昨年秋にこれをアップして以降、MMDをいじっていないのであった。その後のソフトウエアの充実っぷりは半端ではないので、またなにか作ってみたいとは思っているのだけれど。

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2009.06.17

例によってミクオリジナル曲より

 アイマスMadと来れば、初音ミクオリジナル曲も取り上げないわけにはいかないだろう(自分としては、だが)。以下、この半年ほどの間に聴いて、気に入った曲である。例によって再生数がぐんと伸びている曲は避け、再生数1000から1万の間の曲を中心に紹介していくことにする。


 質の高い音楽を着実にアップしてきた割に、いまひとつ再生数が伸びなかったとち-music_boxさんだが、この曲でブレイクした!スティーブ・ライヒ風のフレーズを、同じくライヒ風に繰り返していくが、細かい部分に作者ならではの工夫があり7分半の演奏時間はあっというまにすぎる。


 ミクオリジナル曲は、アップテンポでビートのきつい音楽が受ける傾向がある。が、それだけだとこういう良い曲が埋もれてしまう。ソロモンPによる、静かなゆったりとした、ちょっと不思議な雰囲気の曲。


 同じくソロモンPの手による、これまた静かでゆったりとしたとても良い曲。この人の曲の再生数が伸びないのは、長靴Pが1万再生あたりでうろうろしているのと合わせて、私にとってミクオリジナル曲の「2つの謎」だ。良い曲なんだがなあ。


 作者のPhantasmaさんは、どうやらプロらしいのだが、ちょっと正体は分からなかった。これもゆるやかなテンポであるというだけで損をしているとしか思えない、しっとりとした曲だ。


 同じPhantasmaさんの曲だが、こちらはそれなりの再生数を集めている。テンポがアレグレットぐらいまで早くなっただけなのだけれど。これも、「いいから聴いてごらん」とすべての人に勧められる曲だと思う。


 クヌースP(P名からして理系と分かる)による、1980年代半ばぐらいの坂本龍一を思わせるテクノポップ。アップテンポでビートも効いているが、こちらは「テクノポップ」というだけで、損をしているような気がする。おーい、ニコ厨たち。はやりのアニメっぽい音楽だけが音楽じゃないぞー。ちなみに題名のアナライザーとは、佐渡医師の助手を務める赤いロボット…ではなくて、明らかに計測機器のFFTアナライザーのことだろう。理系萌えというか、理系擬人化というか、そういう歌詞。


 仏教ロック「舎利禮文」でニコ厨に衝撃を与えた鉄風Pの、これはまた見事なまでに内省的な曲。曲の出来は、「舎利禮文」に勝とも劣らぬ、と思えるのだけれど、どういうわけか再生数が伸びていない。北杜夫の「どくとるマンボウ青春記」や、自伝的要素を持つ「楡家の人々」を読んでいると、さらに楽しめるだろう。クヌースPが「理系ポップ」なら、こちらは「文芸ロック」というべきか。以前から主にインディーズで「文芸ロック」を標榜したグループはいたわけだけれど。


 アルゴリズム・ミュージックという分野がある。あるアルゴリズムを最初に設定しておいて、それに沿って音を発生させていくというものだ。乱数Pによるこの曲は、アルゴリズム・ミュージックの範疇に入るのだろうが、曲の基本となるアルゴリズムが「乱数」なのである。音の高さも長さも乱数。歌詞も乱数。それなのにけっこう面白く聞けてしまうのはなぜなのだろう。
 発想としては、ジョン・ケージの「易の音楽」などと同じだが、こういう曲がさらっとアップされているのも、ボーカロイド曲の面白いところだ。


 これは、音楽単体というよりもコラボで付いた映像との組み合わせがなかなか良い。マッド・サイエンティストをテーマにした曲というと遊佐未森が歌った「M氏の幸福」を思い出すが、この曲には「M氏…」のようなちょっと湿ったリリシズムはない。むしろ、「みんなのうた」的な明快さ、明朗さを感じさせる。


 その遊佐未森っぽい、というより初期の遊佐に曲を提供していた外間隆史の影響を感じさせる曲。初期の遊佐未森のアルバムに入っていてもおかしくないような雰囲気だ。


 ジンジャーPによる、ジャズっぽい軽快な曲。ジンジャーPという人は本当に多芸多才で、超絶技巧のピアノ曲を書いてMIDIで演奏してみたり、物理シミュレーション言語Phunでピタゴラスイッチのような仕掛けを作ってみたりして、人気を集めている。この曲などは、きっと手すさびで書いているのだろうと想像するのだけど、それでも完成度は高い。


 ちなみにこちらは、ジンジャーPによる超絶技巧ピアノ曲。「弾けたら千手観音」というタグがついている。



 最後に、オリジナルでもミクでもないが、本当にびっくりしたので紹介する。古賀政男の曲ばかりをアップしているこがうたPによる「いとしあの星」。オリジナルは渡辺はま子が歌っていた。

 なんでルカの歌声はこんなに古賀メロディに合うのだ??

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2009.06.15

アイマスMadふたたび

 前回ニコ動のアイマスMadを紹介したのはいつだっけ、と調べてみると、昨年の大晦日だった。

 というわけで以下はこの5ヶ月半ほどの間に見つけてブックマークしておいたアイマスMadを紹介する。


 フェリーニPの作品。この半年ほどで一番気に入ったアイマスMadである。キャラクター達とロイ・リキテンスタインのポップ・アートの組み合わせが意表を突く面白さを生み出している。音楽の選択もぴったりだ。


 同じくフェリーニPによる、同じ「ドゥーピータイム」を使った作品。キャラクターらによるファッションショーという趣向で、これまたなかなか。


 「im@sclassic」からは、まずmoguPの作品。繊細で美しい映像だ。冨田勲の「月の光」でアイマスキャラのひとり、水瀬伊織が幻想的に踊る。


 我が道を行くカルミナPの新作は、なんと三善晃の吹奏楽曲だった。複雑なリズムの曲に、三色の衣裳をコーディネートしたセンスが光る。


 つかさPの作品。これもなんでこの程度の再生数に留まっているのか良く分からない傑作。1980年代のミュージックビデオを思わせるストーリーを伴う映像だ。


 同じくつかさPのこれまた素晴らしく切れの良い映像だ。再生数が伸びているのは「 音m@s撫子ロック祭」というイベント合わせの作品だかららしいが、それとは関係なく大変優れた演出だと思う。


 もう一本、「 音m@s撫子ロック祭」の参加作品から。wacわくPの作品。同じ曲を使っても、これだけ異なる映像に仕上がるという例。シルエットを使ってほどよく抽象化された美を展開する。


 ナオキPによるこの作品は、大分以前に投稿されアイマスMadの世界では傑作と評価されていたそうだが、私は最近まで知らなかった。スローモーションを多用する独特の映像美学の持ち主だ。

 色々とアイマスMadを漁って思うのだが、投稿された作品の質と再生数はある程度関係するものの、基本的には別らしい。「なんでこんなに素晴らしい作品が」と思うものが、再生数が伸びていなかったりする。
 再生数は話題になったかどうかのバロメーターなのだろう。つまり話題になってわっと再生が伸びるということと、作品として優れているかどうかは、あまり強く相関していない。

 これは大変にもったいない話だ。ニコニコ動画は「みんなが見ているものを見る」のではなく、「優れたものを自分で探す」という態度でいれば、非常に素晴らしい作品に出会える場所なのだから。



 最後にネタ動画を。「家具の音楽」として有名なサティの「ヴェクサシオン」に、実にそれっぽい動画をつけたもの。さあ、これを840回繰り返して聞いてみよう。私はイヤだけれども。

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2009.06.14

書籍紹介:「ルナ・シューター」(林譲治)

   
 林譲治「ルナ・シューター」 (幻狼ファンタジアノベルス)が3巻で完結した。面白かった。


 2025年、月に人間とは異なる知性体が出現し、人類と戦闘状態に突入する。敵は人間のような形状をした「ラミア」。ラミアはロボットなのか、ヒューマノイドなのか、知性体なのか、別の知性体が作り出した道具なのか、そもそもどこから来たのか、何の為に来たのか、皆目分からない。
 地球からの補給が限られる月面での戦闘は困難を極めた。最小の物資と損害で最大の戦果を挙げるため、人類が採用した戦闘法は、遠距離からの狙撃だった。

 第1巻では、月面での長距離狙撃戦が展開する。第2巻では月面に駐在する軍隊内の軋轢と、その結果の暴走がとんでもない結果を呼び込む。第3巻では一気にハードSF成分が増え、様々なSFガジェットが組み合わされ、驚愕のラストへと至る。

 特筆すべきは、月面の緻密な描写だ。会津大学の平田成さんと寺薗淳也さんがアドバイザーとなっただけのことはある。月面での時間経過を微小隕石が作るマイクロクレーターの数で測定したり、レゴリスを使ってあるメカニズムを冷却するなど、月面ならではの描写が次々に出てくる。
 もちろん林作品に通底する組織と人間、情報と社会という視点は健在だ。特に3巻は敵対する2勢力にとって共に有害な情報が、とんでもない仕掛けと一緒に登場する。

 このシリーズは「かぐや以降の月SF」と名乗る資格十分と言えるだろう。「2010年宇宙の旅」で、A・C・クラークは当初木星探査機ガリレオの観測データを使う予定だったが、ガリレオ打ち上げが遅れたため、データを待たずに2010年を書き上げた、という話を思い出した。逆に「ルナ・シューター」は、かぐやの観測結果をかなり色々と利用できたわけである。

 早晩、かぐやの観測データはネットで公開されることになるだろうが、それを使っての新しい月SFもまた、今後期待していいのだろう。
 特にかぐやで月に興味を持った方にはお薦めだ。

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2009.06.13

「現代萌衛星図鑑」、好評発売中!

Satelliko  しきしまふげんさんの「現代萌衛星図鑑」が発売された。私も監修という名目で、名ばかりのお手伝いをさせてもらった。

 しきしまさんと知り合ったのは1999年頃だったか。航空宇宙や四駆・バイクのマニア、モデラーやマンガ書きがたむろするネット掲示板でだった。最初に会ったのは確か2001年の夏コミだったはずである。当時彼が運転していたセラ(私のAZ-1とはガルウイングつながりだった)の助手席に乗せてもらうと、車内では今やニコ動の“国歌”となった「鳥の詩」のピアノアレンジ版ががんがん鳴っていた。

「これ、何の曲」
「鳥の詩です。ゲームの音楽ですよ」
「鳥の歌といえば、パブロ・カザルスが弾いたカタルニア民謡だがなあ」
「なんですか、それ?」
というような、かみ合わない会話をした。

 当時の彼は、かわいい女の子とメカニックが同じ画面に収まった精緻なイラストを売りにしていたが、やがて人工衛星を擬人化したイラストの連作を「Orbital Pretty」という題名で描き始めた。私は彼と私の大学の後輩がサークル合体で出展するコミケットで、売り子をするようになった。
 自然の事物であろうと機械であろうと、あたかも感情のある人のあるかのように捉え、感情移入する——感情移入による世界理解は、人間特有のものなのだそうだ。正直、私の感性だと、実物を見たこともある衛星が女の子の姿として描かれると妙な気恥ずかしさも感じてしまうのだけれども、それでも実によく描いたものだと感嘆してしまう。

  本書では、7章に渡って衛星、探査機が擬人化されている。気象衛星ひまわりシリーズ、ハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」、技術試験衛星「きく7号、おりひめ・ひこぼし」、地球観測衛星「みどりII」、無人実験衛星USERS、小惑星探査機「はやぶさ」、月探査機「かぐや」——。
 擬人化イラストに加えて、相当な取材と資料探究を行った衛星の紹介も、メカニカルイラスト付きで掲載されている。さらにはしきしまさんの盟友へかとんさんのマンガ付きだ。

 しかし…長かった。三才ブックスから話があって2年、いや3年だったか。当方は、完璧主義を発揮して粘りに粘るしきしまさんをはらはらしながら見ていたのだった。
 今年のYuri's Nightのパーティで担当編集のSさんに会って、「出します。なんとしても出します。かぐやが月に落ちるタイミングまでに絶対店頭に並べます」という宣言を聞いた。結果として出版の世界の萌えブーム、さらにはかぐやの月面落下とミッション終了という願ってもないタイミングで、出版できたのは、まったくもって強運な本だし、強運な作者だと思う。
 帯には「これが萌え擬人化の最先端!」とあるが、少なくとも衛星に関しては最先端であると同時に絶後でもある。幸い、初動の売り上げは好調のようだ。続編も期待して——いいのではないだろうか。

 ちなみに掲載イラストは女の子をアップにするためかなり周辺がトリミングされているそうだ(本人曰く「せっかく太陽電池パドルの端まで全部書いたのに」)。編集のSさんは、原画展の開催も計画しているということなので、近いうちに大判のイラスト原画も見ることができるだろう。


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2009.06.11

姫のご帰還の報はNASAのほうがはやかったよ…

 宇宙基本計画の後、力が抜けてしまっていたが、そろそろ更新再開するか。かぐやも月に帰ることだし。

 と思って、姫様の月帰還を見守るべく早寝早起きした今朝。

 私のところに「かぐや月面に衝突」を一番はやく教えてくれたのはTwitterにNASAが開設したLCROSS_NASAというアカウントだった。アカウント名で分かるようにルナ・リコナイサンス・オービターと同時に打ち上げる、月面衝突型の探査機LCROSSの広報アカウントである。

LCROSS_NASA

 午前3時50分に

# K’s impact angle much lower, slightly lower speed. Sun angle for ejecta not optimal. Not hitting a PSR, targeting accuracy not well known.

と書き込みがあり、続いて午前3時53分に

# Kaguya impact: geometry low sun angle, ejecta hard to see, flash expected, interest to look for fresh crater, great target for LRO to find.

と書き込まれた。

 ああ、日本の探査機の最後をNASA経由で知る、この脱力感。

 これは広報体制の組み方の失敗…というよりも、ここ数ヶ月の間にアメリカでTwitterがマス向け速報メディアとして急速に膨張したことを押さえていなかった、JAXA広報の社会情勢への感度の悪さの問題だろう。JAXAも国際宇宙ステーションはTwitterアカウントを持っているだけれども。

 ハイビジョン映像を、当初はカナダ経由でハッキングまがいのことをして見るしかなかったり、かぐやにはどうも情報流通の悪さが最後までまとわりついたな、という印象だ。


 アメリカのネット周辺の環境についての最新情報は、メディア・パブを読んでいれば、だいたい押さえることができる。

メディア・パブ

 かつて日経BPにおいて、我々下っ端記者から切れ者として恐れられた田中善一郎さんが、定年後に個人的に始めたblogだが、「さすが善さん」というほかない、切れ味のよいページである。

 JAXA広報に限らず、企業広報関係者は必読。

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