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2009.07.29

書籍紹介:「軌道エレベーター—宇宙へ架ける橋」


 世界初の一般向け軌道エレベーター解説書でありながら、絶版状態が続いていた「軌道エレベーター—宇宙へ架ける橋」が、ハヤカワ文庫から復刊された。一時は入手困難で、アマゾンの古書でとんでもない高値がついたりしていた(今見たら、5418円などという値段が付いていた)が、今回の復刊で、誰でもすぐに購入できる状態となった。とても喜ばしいことだ。宇宙に興味があり、旧裳華房版を持っていないならば、すぐにでも買うべし。必読の本である。

 軌道エレベーター(または宇宙エレベーター)というのは、静止軌道に置いたアンカーマス(大質量の塊)から、長いロープのような軌条を地表におろし、それを使ってエレベーターによって宇宙へ出て行くという巨大建築物である。最近になって日本宇宙エレベーター協会が設立され、昨年のシンポジウムはマスコミの話題にもなった。確かに未来技術ではあるが、超光速航行や時間旅行のような、遠未来というよりも、早ければ数十年、遅くとも数百年オーダーの技術の進歩で作れるのではないかと期待されている(こう書くと、「超光速が遠未来とは限らない」と突っ込みが来そうだ。そうだ、もちろんこの先の科学の進展如何では、突如超光速航行が可能になることだってあり得るかも知れない。あくまで現在の科学技術の水準から類推して、ということである)。

 宇宙エレベーターの技術の核心は、静止軌道から地上に降ろしてもちぎれない、引っ張り強度が極めて高い材料が実現できるかどうかだ。1991年には、カーボンナノチューブという有力な材料候補が発見された。とはいえ、原子の結合に欠陥のないカーボンナノチューブを何万キロもの長さで生成することはまだ成功していないので、現状は「エレベーターのケーブルに相当する材料が出来たならば、その他にどんな技術が必要か」という技術開発の入り口のところにある。

 まずは、上に昇っていき、降りてくるカゴの技術が必要だろうと言うことで、アメリカではカゴの部分の技術を競う技術競技会が行われている。日本宇宙エレベーター協会も、来る8月8日(土)、9日(日)に第1回宇宙エレベーター技術競技会を、千葉県船橋市の日本大学二和校地で開催する予定だ。

「軌道エレベーター—宇宙へ架ける橋」は、薄い本ながら平易さと、正確さを両立させた良書だ。金子隆一・石原藤夫のお二人が、それぞれの特色を出し合って仕上げた本だけのことはある。内容にも漏れはない。基礎的な数式もきちんと掲載されている。軌道エレベーターという概念の歴史についても、ツィオルコフスキーにまで遡って調べてある。現在の軌道エレーベーターの概念につながるアルツターノフの歴史的アイデアが、どのようにして世に出て、さらにどんな経緯で日本に紹介されたかもまとめてある(なんと、日本初の軌道エレベーターの紹介は、1960年末に発売された、SFマガジン1962年2月号に掲載されたのである)。

 軌道エレベーターから派生したアイデア——オービタルリングシステムやスカイフックなど——についても言及してあり、この一冊を読めば、とりあえず「軌道エレベーターとは何でどんなことができて、どんなものなのか」ということをゼロから理解することができる。

 文庫版オリジナルとして、巻末には著者の一人である金子隆一さんと日本宇宙エレベーター協会の大野修一会長の対談が掲載されている。そこでは緯度35度までの中緯度地方からエレベーターを建設するなどという話も出ていて、今現在の軌道エレベーターを巡る展開を知ることができる。

 最後に——本書は、裳華房の國分利幸さんという編集者の努力で世に出たものだ。そして、絶版になっていた本書を文庫に収録するにあたっては、早川書房の東方綾さんの尽力があった。この2人の編集者なくして、本書はこの世に出ることなく、また文庫となることもなかった。出版の世界では優秀な編集者の重要性は、どれだけ強調してもし過ぎることはない。おふたりとも、ご苦労様でした。

 願わくば、本書がきちんと売り上げという形で結果をだして、次々とこのような本がでるようになる環境ができればいいなと思う。


  この数年、アメリカでの盛り上がりを受けて、宇宙エレベーター関連の本も、このように2冊出版されている。どちらも良く書けた本だが、宇宙エレベーターに集中した内容となっているのはエドワーズ/レーガンの本のほうである。セルカンの本はやや散漫でとっちらかった印象を受ける。


 宇宙エレベーターについて語るには、1979年に出版された、このアーサー・C・クラークの小説は必読だ。「宇宙エレベーターを建設する話」と一言で要約できるあらすじで、これほどの深い物語を紡いで見せたクラークの力量は並大抵ではない。

 実は「楽園の泉」とほとんど同時に、アメリカのSF作家、チャールズ・シェフィールドが「星ぼしに架ける橋」という宇宙エレベーターを建設する小説を出版している。大野万紀さんの解説にあるように、「楽園の泉」と「星ぼしに架ける橋」は、宇宙エレベーターに関する技術的ディティールもそっくりだった。しかし、これは偶然であり、クラークとシェフィールドの間には、なんの関係もなく、お互い独立して宇宙エレベーターを建設するという小説を構想し、執筆したのだった。
 ちなみに、小説としての出来は、明らかにクラークのほうが上である。シェフィールドの本は現在絶版になっており、例によってアマゾンでは高値が付いているが、特に宇宙エレベーターの一般における受容の歴史を研究しようというのでない限り、無理に手に入れて読む必要はないと思う。


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Comments


私は、松浦さんが以前講演で指摘した様にSST0(単段式軌道輸送機)の構造材にカーボンナノチューブ(CNT)を利用する方が興味があります。
たぶん生きているうちにこの目で見ることが出来ると私が感じるからでしょう。

Posted by: DVDを見せたがる男 | 2009.07.29 11:07 PM

私が知ってる範囲ではありますが。。
宇宙エレベータを題材にしたSF小説で一番インパクトがあった作品が
アーサー・C・クラークの「楽園の泉」でした。。

軌道エレーベータの設計開発のエピソードが延々と続くような内容だった記憶がありますが。。
その中に、ピアノ線の細さの繊維1本で体重70~80kgの主人公を断崖絶壁から吊して支える事が出来る位のスーパー強度な特殊繊維が登場してました。。
#この超特殊繊維の技術が切っ掛けになって軌道エレベータの開発が進展していく。というストーリーだったと記憶してます。。

松浦さんが今回話題にしているカーボン・ナノ・チューブの技術的発想をSF作家的な予言として、クラーク氏は、ずっと前に発想していたんですね。。
#クラーク氏の先見性はすごいですねww@@;

ちなみに、この「楽園の泉」という作品は、(私個人的には、)エンディング(軌道エレベータ落成開通運転時のアクシデント)とエピローグが、結構、ショッキングでした。

Posted by: てらぽん@藤沢転じて@甲府 | 2009.07.30 02:24 AM

>SSTOにCNT
 このあたりは、色々他にもありまして…

http://www.koalanet.ne.jp/~anoda/space/mlab16/mlab16.xml

 野田司令は、CNTでフライホイールを作ると、SSTOができるという試算をしています。他にも、CNTのワインディングでペットボトルを作るとSSTOになる、という計算もしていました。

>楽園の泉
 私の場合は、「蝶が来た、山を降りよう」ですね。あの身も蓋もなさと「そりゃないだろ」という楽天的展開が、いかにもクラークらしいと思うのです。

Posted by: 松浦晋也 | 2009.07.30 09:04 AM

WOWOWのオリジナル・ドキュメンタリー番組「宇宙エレベーターで宇宙へ! 青木義男教授の挑戦」が9月6日に放映予定です。
http://www.wowow.co.jp/pg/detail/066296001/

Posted by: 松永洋介 | 2009.07.30 11:43 AM

ご紹介ありがとうございます!
この本は著者のお二方と国分さん、それから宇宙エレベーター協会のご協力でできた本なので、一緒に私まで紹介していただいて緊張してしまいました。

Posted by: 東方 | 2009.07.31 12:38 AM

遅ればせながら、ご紹介ありがとうございます。
何はともあれ、早川書房さん、東方さんのおかげで復活できて個人的には大変に嬉しいです。売れてくれればよいですね(ちょっと微妙な心境ながら……)。

Posted by: 國分利幸 | 2009.08.05 01:18 PM

アニリール・セルカン経歴詐称疑惑
http://blog.goo.ne.jp/11jigen/
http://www29.atwiki.jp/serkan_anilir/

【アニリール・セルカン氏についてのまとめ(主な結論)】

・アニリール・セルカン氏は「宇宙物理学者」であり11次元宇宙の研究で受賞したことになっていますが、氏を著者とする物理学に関する論文は一編も発表されていません。

・東京大学、およびJAXAのホームページ等で公表されていたセルカン氏の業績リストに掲載されていた物理学の論文は、現実には存在しない架空のものです。

・東京大学で公表されていたセルカン氏の業績リストに掲載されていた知的財産権2件については、一件は他人の特許であり、もう一件は存在しない特許です。

・「ケンブリッジ大学物理学部 特別科学賞 受賞」については記録もありませんし、そもそもセルカン氏は物理学の研究業績が皆無なので、物理学の研究によって(まともな)賞を授与されることはあり得ません。

・同様に、「America Medal of Honor(アメリカ名誉賞)」、U.S.Technology Award受賞の記録もありません。

・「プリンストン大学数学部講師」に就任したという記録もありません。またセルカン氏は数学分野の研究業績が皆無なので、数学部講師に就任するというこはまずあり得ません。

・セルカン氏は「宇宙飛行士候補」と言うことになっていますが、NASAの宇宙飛行士候補のリストにも、宇宙飛行士のリストにも掲載されていません。

Posted by: アニリール・セルカン経歴詐称疑惑 | 2009.10.02 01:33 AM

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