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2009.10.29

宣伝:11月1日(日曜日) ロフトプラスワンのトークライブに出演します。

 今週末のロフトのお第は、北朝鮮です。

 たまさか小野英男さんが現北朝鮮地域で育ったということから、今回は脱線して北朝鮮の現状をGoogle Earthのデータで分析してしまおうという企画です。

 衛星画像は、衛星画像だけで何かが分かるわけではなく、過去との変化や、建物の種類などと付き合わせて始めて意味を持ちます。小野さんの子供の頃の記憶と、現在の衛星画像を突き合わせ、北朝鮮国内の状況を分析していきます。

宇宙作家クラブpresents
ロケットまつり36『衛星まつりEX2』〜日本で初めて人工衛星を創った男〜
ゴールデンウィークに好評だったEXバージョン2!
日本初の衛星を開発し未だに宇宙に挑み続けている本人が語る、衛星画像から捉えた謎の国北朝鮮の内情。しかも、解析には偵察衛星ではなく商業衛星の観測データを活用したのがミソ。公開されているデータだけからでもこの様なことが判るのだ。

【Guest】小野英男(〜日本で初めて人工衛星を創った男〜)
【出演】松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、笹本祐一(予定)、浅利義遠(予定)、他

11月1日 日曜日
Open18:00/Start19:00
¥1000(飲食別)※当日券のみ

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

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2009.10.27

ボストン・ダイナミクスが二足歩行ロボットのプロトタイプを公表、で、日本の有人宇宙活動の議論はどうなる?

 来たよ。来ちゃったよ。

 あのビッグドッグのボストン・ダイナミクスが、2足歩行ロボット「PETMAN」のプロトタイプを公開した。まだ実験用のベルトの上だが 実に立派に二本の脚で歩いている。しかも明らかに、アシモなど日本の二足歩行ロボットよりも外乱に強い。


 知らない人のためにリンクしておくと、ビッグドッグというのはこの4足歩行ロボットだ。

 「来るんじゃないかな」という漠然とした予感はあったが、こんなに早いとは思っていなかった。この調子だと、上半身がついたPETMANが来日して、アシモに先んじて徳島の阿波踊りに飛び入り参加する日も遠くなさそうだ。

 で、日本では、『第1段階(平成32年(2020年)頃)として科学探査拠点構築 に向けた準備として、我が国の得意とするロボット技術をいかして、二足歩行ロボット等による高度な無人探査の実現を目指す。』という一文が、日本の宇宙開発の基本となる「宇宙基本計画」に入っているのだが…

 どこが我が国の得意とするロボット技術だと?

 技術開発は競争であり、正しいことを正しいタイミングで行った者が勝つ。また一時の勝者がいつまでも勝ちっ放しというわけではない。

 今、日本の有人宇宙活動に関する議論は、混乱してしまっている。理由は2つ。


  1. 有人宇宙活動を、アメリカの有人月探査とリンクさせてしまった。
  2. 有人月探査に先立ち、「日本の得意とする」二足歩行ロボットによる探査を実施しようという話が、国レベルの議論に押し込まれてしまった。

 PETMANの登場は、大前提である「日本の得意とする二足歩行ロボット」が、崩れたことを意味する。
 実際には、日本の得意とする二足歩行ロボット」は「他に二足歩行の研究を集中的にやっているところがそんなには存在しない」ということだっただけなのだが、ボストンのような実力のある研究機関が参入するとあっというまにこういう事になる。

 PETMANの登場は「日本の得意とする二足歩行ロボット」というのは正確な表現ではないことを意味する。正しくは「日本の得意とする日本が得意だと思い込んでいる二足歩行ロボット」なのだろう。

 どう見ても、極端な不整地である月面の探査には、外乱に強いビッグドッグなり PETMANなりが向いているように見えるではないか。


、宇宙開発戦略本部で開催中の月探査に関する懇談会では

●ロボットによる月探査計画の中に、移動探査ロボットや建設ロボット、掘削ロボットなどとあわせて 人型二足歩行ロボット技術開発も加えていくことを提案する。

この理由は
  1. 宇宙ステーションや惑星探査において世界各国が有人探査を実行するに当たり、人の作業を補完できるロボットの実現は安全や作業効率やコストの面からも必要であり、歓迎されるものである。
    そういった観点から、日本が先行している人型パートナーロボットを世界に先駆けて実現させることは 日本オリジナルの宇宙技術開発戦略として、国民と世界に夢と期待を与える意味でも価値のあるものと考える。
    宇宙開発の方式に日本から人型ロボットを利用した探査計画が提案される事は国際協力の枠組みの中で、日本の立ち位置を明確にする上でも重要である。

  2. ロボットで実施していきたい仕事はパターン化された繰り返し作業から判断を必要とするものなど様々なものがある。研究者ロボットの共同作業というものもある。
    人の作業の補完あるいは共同パートナーという事を念頭におけば、人型ロボットが形態からみて最適である。具体的には、人と同じ道具が使える。同じ作業環境のところへ一緒に行ける。
    人が行けないところで人と共通の道具を使って人がすることと同じ作業ができるため有人と同じ成果が期待できる。
    これを遠隔制御システムによって実現できれば、あたかも自分がその場で作業をしているのと同じ臨場感と成果が得られる点があげられる。
    更に、遠隔操作の手法として、操作する人の動作そのものを模倣して、その動きの通りにロボットが動ければ、多様な動きも可能になり、細かい仕事をこなす事ができる。
    装置の組立てや細かな実験なども出来るようになると思う。こういったレベルの夢の実現を目標にしていくとすれば、人型ロボットが一番適しているし、日本はこれを実現できる技術力がある。

——とする文書(pdf)も、トヨタ自動車から提出されている。

 「人の作業の補完あるいは共同パートナーという事を念頭におけば、人型ロボットが形態からみて最適である。具体的には、人と同じ道具が使える。同じ作業環境のところへ一緒に行ける。」という部分は、色々議論するに値するだろう。しかし、その実現はまず第一に地上の生活環境の中ではないだろうか。

 無重力の宇宙空間では、人間の身体形状がもっとも理想的というわけではない。おそらく人間との協調作業を行う場合にも、ヒト型とは異なる形態が最適になるのではないかと思う(腕が4本あるとか、脚も腕になっているとか)。重力が地上の1/6の月面でも、人間との協調作業にヒト型が最適かどうかは、よほど先入観を排除してきちんと議論を深めねばならないところだろう。


 現在、宇宙開発戦略本部の周辺で行われている、有人宇宙活動に関する議論は、3つの点でボタンを掛け違えてしまっている。

  1. 有人宇宙活動を、有人月探査と絡めて議論していること。地球周回軌道への有人輸送手段すら持たない国が、一足飛びに有人月探査計画を議論するのは滑稽を通り過ぎて危険ですらある。

  2. 有人月探査に、我が国が得意とする我が国が得意と思っている」二足歩行ロボットを絡めてしまっていること。二足歩行ロボットは日本のお家芸でもなんでもないし、研究水準として他国から隔絶した水準を誇っているわけでもない。さらには、二足歩行ロボットで月探査ができたから、それで有人宇宙活動につながるというわけでもない(もちろん官僚などは「つながる」とする文章をいくらでも書けるだろう。理屈はどこにでも付くものだから。しかし、それは現実と遊離したものになる)。

  3. ロボットによる月探査に、我が国が得意とする我が国が得意と思っている」二足歩行ロボットが入り込んでしまっている。無人月探査に脚は必要か、それも二本脚による歩行は最適か。それがもっともコストパフォーマンスの高い探査を約束するものなのか。車輪によるローバー型ロボットのほうがずっといいのではないか。よく考える必要がある。

 ここは、政権が変わったこともあるし、素早く月探査と有人宇宙活動の議論を分離すべきではないだろうか。もちろん、二足歩行ロボットによる探査も、有人月探査とは別のものとして考えるべきである。

 これが計画が動き出し、予算が付いてしまってからでは手遅れになる。今ならまだ間に合う。一言「間違えました。議論をやりなおしましょう」で済むのだから。
 PETMANの登場は、軌道修正のいいチャンスだ。
 「お上のことには間違いはございませんから」という森鴎外「最後の一句」の時代はもはや遠い昔である。間違いは恥でもなければ傷でもない。間違いを認めないことこそが、恥であり傷である。
 間違いを認めてやり直すことは、未来へ向うための大切で重要なステップだ。

 以下、一応参考までに。

「わかっちゃいないのか、
わかっていてやっているのか」あさりよしとお、笹本祐一、松浦晋也

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2009.10.26

A-bike:タイヤチューブを交換する

 事の発端は7月の半ば、A-bikeに乗ろうとしたら、前輪の空気が抜けていた。ポンプで空気を入れても抜けてしまう。どうやらバルブの根本に穴が空いたようだ。
 もともとA-bikeのタイヤには空気を入れるときに少しバルブを横方向にこじる必要がある。このためバルブ根本でチューブが裂ける事があり得る。このことはmixiのA-bikeコミュで知っていた。
 やってしまったか。チューブを交換しなくてはならない。

 早速、A-bike販売元の香港のサイトにチューブを注文した。この時、ふと考えた。6インチの小さなタイヤのチューブ交換は、かなり大変らしい。交換途中でチューブを傷つけたらそこでおしまいだ。
 もうひとつ、送ってくるチューブはまず間違いなく大陸中国製だろう。となると、どんな品質のものが届くかわからない。

 というわけで、予備のさらに予備も含めてチューブを4本注文した。ほどなくチューブは届いたのだが、そこからが大変だったのである。


Tire1_2 まず、送ってきたチューブが、4本ともあまり信用できそうになかった。タイヤに装着せず、そのまま膨らますと。ドーナツ状にきれいに膨らまず、太いところや細いところができるのだ。あきらかにゴムの厚みが均等になっていない。
 しかも、バルブ部分にはなにやらさびのようなものが浮いている。バルブ部分が錆びるような環境で保管されていたとすると、チューブのゴムはもっと痛んでいる可能性があるだろう。

 これはまずいのではないか…。不良品だったらかなわない。

 イヤな予感を感じつつも、他に手段がないこともあり交換してみた。




Tire2_2 Tire3 Tire3_1

Tire4 6インチのタイヤをリムから外すのは、かなり大変だが、慣れればできないことではない。タイヤレバーを3本使い、格闘すること約30分で、外すことができた。チューブを交換してはめるのも一苦労だが、なんとかなるものだ。この時、私はミシュランだったかが無料で配っているタイヤレバーを使ったのだが、後でパナレーサーが販売しているタイヤレバーを使うと、より簡単にタイヤを外し、取り付けることができた。道具は選ぶべきである。

 チューブを交換したタイヤのチューブに空気を入れてみる。きちんと入る。やれやれ、不良品かと思ったが使えそうだ。これで良し。

 しかし、良くはなかったのだった。

 4本買ったチューブ。まずは1本目。

 交換してから一週間ほどしたある日、A-bikeを置いた玄関から、突如「ぷしゅー」と空気が抜ける音が聞こえた。チューブを交換したばかりの前輪の空気が抜けている。

 またも格闘30分の末にタイヤを外して調べると、チューブに小さな穴が空いていた。どうやら、ごく狭い部分でゴムの厚みが非常に薄くなっており(製造時に気泡でも入ったのではないだろうか)、そこが破れたことが判明。やはり、取り寄せたチューブの品質には問題がありそうだ。とはいえ、まだチューブは3本残っている。交換だ。

 そして2本目のチューブ。

 今度は1ヶ月ほど持ったが、ある日、空気が抜けているのを発見。また破れたかと思ったが、空気圧が低くなっているだけで完全には抜けていない。ポンプで空気を入れてみると、バルブ部分がダメになっていて、内部圧力がある程度以上になると空気を逃げてしまうことが判明。

 またも、大汗かいてタイヤを外し、3本目のチューブに交換。

 交換後、空気を入れてみると、なんとバルブから空気が漏れてくる。どうやら、バルブに何かが噛み込んでいるようだ。
 何が噛み込んでいるかはわからないがはずれないかと、空気を入れ、バルブから放出しを繰り返してみた。すると、そのうちに、バルブから、なにかどろどろの白濁した液体が出てくるではないか。
 どうやら、内部に少量のゴム糊のような液体が注入してあり、小さなパンク穴をふさぐようになっているらしい。しかし、その液体が内側からバルブに入り込んで固まり、バルブが完全に閉じなくなっていた。2本目のチューブのバルブがダメになった理由も、これと同じらしい。
 内部から強く空気を噴き出させたら、ゴム糊状液体をすべて排出できるか、と思いきり空気を入れたら、バチン…チューブが破裂した。内部からはかなりの量のべとつく白濁液体が飛び散り、部屋の掃除が大変だ。

 なんだが非常に情けない気分になる。

 残るチューブはあとひとつ。ところがこれも液体がバルブに入り込んでダメになっていた。もうチューブ破裂の危険は犯せない。新たにどこかからチューブを調達しなくてはならない。

 幸いにして、楽天でディアマイフレンドというショップが独自に製造したチューブを販売しているのを発見した。「中国製」と書いてあるが、背に腹は替えられない。日本側から品質管理の指導が入っていることを期待しつつ注文した。今度は2本だ。もう4本まとめて注文するような、あぶないことはできない。

 このチューブだ。1本900円なり。

 送ってきたチューブはといえば、香港から購入したチューブと全く異なるものだった。まず材質が違う。通常の自転車屋で売っているパナレーサーのチューブと同じ材質だ。香港からのチューブは生ゴムのようなさわり心地だった。
 中に妙な液体が封入されているようでもない。
 そして、空気を入れてみるときちんと均等に膨らむ。これなら大丈夫そうだ。

 とにかくタイヤを外してチューブを交換した。これでどうやら落着である。

 ところが、このディアマイフレンド製のチューブには、より一層の利点が存在した。A-bikeの走りがスムーズになり、乗り心地が良くなったのだ。自転車の性能は、かなりの部分をタイヤに依存するとは聞いていたが、前輪のチューブを交換するだけで体感できる乗り心地が一気に好くなったのにはびっくりしてしまう。
 今、残る後輪のチューブも、もう一本購入した新しいチューブに交換してしまおうかと思案している。

 今回のことをTwitterに書いたところ、実際に中国ビジネスに携わっていたり中国製品で様々な体験をされた方々から反応が返ってきた。
 曰く、「中国は、品質にうるさい日本には一番よい品質のモノを出してくる傾向がある」「他のアジア地域で中国製品を買うと、かなり悲しい目にあうこともある」「日本メーカーが中国で生産する場合、相当な力を入れて品質管理手法の指導を行う」、さらには「一方で国内の品質管理が空洞化しつつある」「中国は国を挙げて品質管理を強化しつつある」とも。

 当面、中国製品は日本に入ってきたものを買うのが良いようだ。香港あたりから個人輸入すべきではないのだろう。しかし、いつまでもそうだと思ってはいけない。
 かつて、Made in Japanが粗悪品の象徴だった時代があったことを思い出そう。
 そのうち我々がMade in Chinaを高品質の象徴としてこぞって買い求める時代が来ないとも限らない。遣唐使の時代がそうだったように。

 このディアマイフレンドでは通販でA-bike Plusを購入できる。その他、ギアやタイヤなどの部品も購入可能だ。今後も乗り続けることを考えると、タイヤやチューブ、強化部品などは、購入して保存しておいたほうがいいかも知れない。

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2009.10.19

宇宙活動法にパブリックコメントを——WG報告書案の分析

 欲しい未来があるなら、まず声を上げよう。方法は用意されている。

 宇宙活動法についてのパブリックコメント募集(締め切りは10月23日金曜日)。公開された資料の読み方について解説する。

 パブコメ概要はこちら。

 資料はこちら。

 最初に言い訳を——宇宙活動法に関する議論には、特に国際法規との整合性を取る必要から、かなり法律的な知識が必要となる。技術を中心に宇宙開発をウォッチングしてきた私には荷の重い部分があるかも知れない。以下の分析には、特に法学的な面からの誤りが入り込んでいる可能性を否定できない。もしも事実誤認や認識不足の面を発見した方がおられたら、コメント欄でもメールでも構わないのでご一報頂きたい。

 永田町と霞が関に「国民は見ているぞ」というシグナルを送るために、ひとりでも多い方に、パブリックコメントを投稿してもらえればと思う。


 結論を先に書く。私の分析の概要は以下の通り。

 宇宙活動法には、1)宇宙活動に従って生じる危険を回避するという側面と、2)特に民間の宇宙開発・宇宙利用を促進する——という2つの役割がある。

 WG報告書(案)では、1)が前面に出すぎている感がある。この方針で宇宙活動法を制定すれば、国際的・国内的なトラブルは回避できるかもしれない。もっと言えば、官は「法律ではこのようになっています」と、責任を回避できるだろう。また、官は民間に対する政策的影響力を行使し続けることができるだろう。
 しかし、日本における宇宙開発への民間資本・宇宙ベンチャーの参入、新規参入事業者の育成は果たし得ず、かえって海外における宇宙の民間利用に、日本が後れを取ってしまうことになる可能性が高い。

 法律制定に向けた視点を、「いかにトラブルを回避するか」「いかに既存事業者(独立行政法人を含む)を保護するか」「いかに監督権限を維持拡大するか」ではなく、「どのようにして、新規事業者を巻き込んで、日本社会全体として、あるいは世界市場の中で宇宙開発・宇宙利用を拡大していくか」に切り替える必要がある。

 「官がコントロールできる民間宇宙開発」ではたかが知れている。官が想定すらしていなかった技術、サービスが出現し、世間から支持されることではじめて、産業は官の育成を離れて自立する。「官の想定外」が出現した時に、抑圧するのではなく、助け、成功に導く態度と仕組みが必要だ。

 WG報告書案では、民間事業者の責任が先行されて記述してあるが、これは逆ではないか。法律の制定の趣旨からすれば、宇宙活動法には、国策として国が追うべき義務についての記述がなくてはならないはずである。
 そして国が追うべき義務は、産業育成と国力増進の観点から導き出すべきものである。責任回避と権限拡大の観点からではない。


 以下、具体的に見ていくことにする。長くなるので、読みたい方はもうひとクリックの手間をお願いする。


Continue reading "宇宙活動法にパブリックコメントを——WG報告書案の分析"

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日本人初の宇宙飛行士は秋山豊寛氏である(もう一度、書いておこう)

 先ほど、録画しておいたNHK総合昨晩放送の「わたしが子どもだったころ」の毛利衛さんの回を見た。間違いを放送してしまっている。

「NHK 総合これまでの放送 わたしが子どもだったころ」

2009年10月19日(月)   『日本科学未来館 館長・毛利 衛』  ディレクター 今関裕子(テレビマンユニオン)

 日本初の宇宙飛行士、毛利衛。宇宙の専門家として、また、日本科学未来館の館長として科学後術の将来をロマンをもって語りかける。しかし、その少年時代は意外な姿だった。

 前にも書いたが、日本人初の宇宙飛行士はTBSの秋山豊寛さんである(1990年12月2日打ち上げの「ソユーズTM11」に搭乗)。

 毛利さんは、旧宇宙開発事業団の最初の宇宙飛行士公募で選抜されて、1992年9月12日打ち上げのスペースシャトル「エンデバー」(飛行ナンバーSTS-47)に搭乗した。

 なぜ今になってなお、この間違いがメディアに出てしまうのだろう。

 番組を見ると、かなり微妙な言い回しをしている。当該部分のナレーションは以下の通り。

「1985年、国内応募者533名の中から、日本初の宇宙飛行士に選ばれた毛利さん…」

 「日本初」が、「宇宙飛行士」にかかるのか、「1985年に選ばれた」にかかるのか、微妙だ。だが、「1985年に選ばれた」にかかるならば、誤解を避けるために「宇宙飛行士」ではなく「宇宙飛行士候補」としなくてはならない。この時点では、毛利、向井、土井と3人の候補がいて、誰が最初に飛ぶかは未定だった。

 大切なのは、日本初の宇宙飛行士が秋山さんであっても、毛利さんのした仕事の意味は損なわれないということだ。日本人で最初にスペースシャトルに搭乗したのは毛利さんだし、大規模な宇宙実験を実施したのも毛利さんである。秋山さんは1回限りの飛行だったが、毛利さんはその後、ミッション・スペシャリストの資格を取得して1999年にシャトルSTS-99にも搭乗している。

 私が、このことを繰り返し書くのは、毛利さんの飛んだ1992年頃に、主に科学技術庁関係で、秋山さんがいたことをなんとはなしに隠そうする雰囲気、秋山さんの飛行をなかったことにしたいような雰囲気が存在したことを記憶しているからである。
 その結果のひとつが、「宇宙の日」制定(1992年)だった。宇宙の日の9月12日は毛利さんの搭乗したSTS-47の打ち上げ日だ。
 この日付は一般公募で選ばれたということになっているが、では、なぜ4月12日(ペンシルロケットの公開実験)でも、2月11日(日本初の衛星「おおすみ」打ち上げ)でも、12月2日(秋山さんの打ち上げ日)でもないか、ということである。

 秋山さんの飛行から19年、毛利さんの初飛行から17年が経った。
 官の選んだ飛行士がアメリカのシャトルで飛行するまで、チャレンジャー爆発事故を挟んで7年かかったのに対し、民間がソ連のソユーズで宇宙に送り込もうとした飛行士は、選抜から2年で宇宙を飛び、日本人初の宇宙飛行士となった——この事実は、その後の宇宙開発を象徴しているという気が、私にはしている。
 1990年代初頭に、誰がどんな順番で飛び、どんな経緯があったかを知っておくのは、今後の宇宙開発を考える一つの手がかりになるだろう。

 しかし、よりによってTBSと縁浅からぬテレビマンユニオンのディレクターが、こういう間違いをしてしまうというのも、面白いというか情けないというべきか(テレビマンユニオンは、TBSを退職したディレクターらが中心になって1970年に設立した番組製作会社)。そして、NHKのチェック機構も弱体化しているという印象だ。

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2009.10.18

呼びかけ:宇宙活動法にパブリックコメントを送ろう

 5月の宇宙基本計画へのパブリックコメント募集では、多数の意見が集まった。パブコメの制度を使えば、政府に物を言うことができる。

 現在、宇宙開発戦略本部が新たなパブリックコメントを募集している。締め切りは10月23日金曜日、題目は「宇宙活動法」である。

 このパブリックコメントは、前回の「宇宙基本計画」に対するものと同等、場合によってはそれ以上に重要なものだ。興味のある方は資料を読んで、是非ともパブコメを投稿して欲しい。宇宙に興味を持つならば、パブコメを宇宙開発戦略本部に送ろう。

 「宇宙活動に関する法制検討WG報告書」という、一見地味な内容へのパブコメがなぜ重要か? それは具体的に日本政府が行う宇宙関連政策を定める法律の関するパブコメだからである。

 宇宙基本法は、日本政府が宇宙開発政策において従うべき理念を定めている。理念を定める法律を「基本法」という。そこに記述されているのはあくまで理念であって、具体的な事項ではない。
 理念を政策として実体化したものは2つある。一つは「宇宙基本計画」、もう一つが今回のテーマとなる「宇宙活動法」だ。

「宇宙活動法」(仮称)は、宇宙開発にあたって、日本政府が行うべき施策を具体的に定めた法律となる。このような具体的なアクションを定めた法律を「実施法」という。基本法の理念を具体化し、法制度化したものが実施法だ。

 宇宙基本法と宇宙活動法は以下のような関係となる。

宇宙基本法 →理念を具体化→ 宇宙活動法
(基本法)             (実施法)
理念を規定          政策・制度を規定

 宇宙基本法は、理念であり、この段階ではまだ柔軟な文面の読替が可能である。しかし、実施法の宇宙活動法は、政策制度について個別かつ厳密に規定することになる。

 具体的な制度が、決まるのだから、宇宙活動法は今後の日本の宇宙政策に大変大きな影響を与える法律なのだ。

 パブコメを書くに当たっての資料は、以下に公開されている。

 これについての解説は、次の記事で行うことにする。まずはこの文章を読んでもらいたい。

 実は、この「宇宙活動に関する法制度検討ワーキンググループ」の議論は、傍聴などの公開なし、一般メディアへの事後レクチャーもなしという閉鎖的な環境で実施された。記者クラブは事後レクチャーを要求したそうだが、事務局は突っぱねたという。

 それどころか、宇宙開発戦略本部事務局は、ワーキンググループの委員に「他言無用」と箝口令まで敷いた。

 そうまでして秘匿した理由は、私には分からない。推測ではあるが、現在の宇宙開発戦略本部事務局は経済産業省出身の官僚が仕切っているので、産業政策に直接関連する宇宙活動法の制定の議論に外からの意見が入るのを避けたかったのかもしれない。

 その一方で、事務局はかなりあちこちを回って宇宙産業関係者のヒアリングに努めていたことも事実である。

 いずれにせよ、議論を避ける姿勢はあまり褒められたものではない。


 きちんと資料を読んで、自分の意見を政府に届けよう。パブリックコメント制度を活用すれば、政府に自分の意見を届けることができるのだ。

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2009.10.16

有人宇宙活動と世界システム

 これまでタブー視されていたり、予算獲得のテクニック上の養成からか、月探査と絡めて議論されたりと、ろくなことがなかった日本独自の有人宇宙活動を巡る議論だが、政権が代わったことで少しはまともな議論ができる環境になってきたような気がする。

 ここで、大変示唆的で、またきちんと議論しなければならないことが、北海道大学の永田晴紀教授から提起されている。永田先生は、言うまでもなくCAMUIロケットの開発者だ。

(カムイスペースワークスブログより)


 野口氏によると、何のために宇宙開発をやるのか、という議論にかけては、日本ほど真面目にやっている国は他に無いそうです。米国では、それは言うまでも無く安全保障であり、軍がその活動の一環として秘境探検を行うのは当り前なのだそうです。軍の仕事は国家の活動領域を守り、更には広げることで、その意味においては、戦争と秘境探検は同列に語られます。宇宙開発に限らず、平時における軍の運用方法としては探検が最も優れているというのが、欧米諸国の常識だとも言っていました。
(中略)
有人宇宙機を打上げるとなると、不具合発生時に指令破壊をするわけには行きません。ミッションを中断して機体を戻すという作業が必要になります。このような飛行をアボート飛行と言いますが、アボート飛行は事前に計画された軌道ではありませんので、地球上のどこに降ろすことになるか判りません。このため、いざとなれば地球上のどこにでも艦船や部隊を派遣することができるような体制を準備する必要があります。このような機動力と指揮系統を備えた組織を、安全保障以外の名目で整備することは不可能です。「宇宙開発専用の新たな部隊を整備すべきだ」などとどこかの党の幹事長が口走る前に書いておきますが、そんなの無理です。
(続・有人宇宙開発に進むための戦略 より)

有人宇宙開発を行うためには機動力と指揮系統を備えた軍隊を運用する必要があるという話をしました。我が国においてはこれが有人に進むための最大の障壁になるのではなかろうかと思います。有人宇宙開発をやるべきか否か自体に議論が有るところですが、やるとなれば、この障壁を何とかして取り除く必要があるわけです。
(軍事は賎業か、より)


 この論点は、日本独自の有人宇宙活動を考えるにあたって、とても重要だと思う。

 私も十分に考えがまとまっているわけではないのだが、以下覚え書き的に書いていくと。

 まず、重要なのは「必要なのは軍隊ではない」ということだ。必要なのは全世界をカバーし、機能するシステムだ。仮にそれを「世界システム」と呼ぶことにする。永田先生は、「宇宙機のレスキューに関する世界システムは軍隊以外考えられない」と言っているわけだ。

 実のところ、有人宇宙開発に必要な世界システムは、レスキュー組織だけではない。地球を回り続ける宇宙機の管制システムは、必然的に世界システムになる。軌道上のどこにいても通信を可能にするシステムも世界システムだし、最近では宇宙機の軌道制御にGPSを使うが、GPSも世界システムだ。

 永田先生の主張は「世界システムは必然的に覇権的傾向を帯びるが、日本には有人宇宙飛行のために世界システムを組み上げる覚悟はあるか」と書き換えうると思う。

 実のところ、私は軍隊による宇宙開発には疑問を感じる。むしろ「アメリカが今の停滞状況に陥る背景には、軍隊への過度の依存がある」とすら思う。最初に赴くのは軍人だとしても、宇宙開発が進めば、軍人は引くべきなのだ。多種多様な有象無象が宇宙に行くようになってこそ、宇宙は人間の土地となる。その意味では、民間人が行かない有人宇宙開発は無意味だとさえ考えている。

 いつまでも「特別に選ばれた人が行く特別な場所」ではダメなのだ。「有象無象がいく当たり前の場所」にしていかなくては、その次の展開は望めない。
 有人宇宙飛行の実施にあたっては、有象無象が行けるような未来へともっていく長期戦略がなくてはならない(軍人が最前線の探検を担うものなら、有象無象が宇宙に行けるようになった時、軍人主体の宇宙船が小惑星なり火星なり木星なりを目指しているべきだろう)。

 だが、軍組織か否かを別としても、有人宇宙飛行に複数の世界システム、世界を覆うインフラストラクチャが必要になることは間違いない。レスキューシステムはそのうちの一つということになる。

 だから、問題は「日本が、本質的に覇権的傾向を帯びる世界システムを構築する覚悟があるか」、あるいは「本質的に非覇権的な世界システムの構築は可能か」というところにあるのではないだろうか。

 第二次世界大戦に負けた日本は、これまで一貫して、世界システムの構築には手を出してこなかった。気象衛星をほぼ唯一の例外として、通信衛星は国内通信用、放送衛星も国内用だった。地球観測衛星も、例えばNOAAのような誰でもデータ受信可能なものではなかったし、GPSは、「準天頂衛星」のように日本周辺に機能を限定したサービスしか考えてこなかった。周辺国家から覇権的と見られることを、徹底的に避けてきた。

 それではダメで態度を変える必要があるのか、あるいは、それでもやっていける道はあるのか、ということだ。

 実のところ、私の思考も、ここで止まっている。が、私は案外「非覇権的な世界システム」を組み上げられるんじゃないかという気がしている。早い話、インターネットは非覇権的な世界システムだ。
 割と緩くてへらへらしたシステムだが、そこに参加することでなにか楽しいこと、得なことが起こるようなシステムならば、どんどん人々を巻き込んで世界システムに成長していくような気がする。

「有人宇宙活動を支える、緩くてへらへらしたシステムとは、具体的にどんなものか」と問われれば、まったく答えられないのだけれども。

 有人宇宙船そのものの検討も大事だが、それを支えるインフラストラクチャを考えることは、さらに重要だ。惑星探査機を考える時に、地球全体をカバーする地上局網が必須なのと同じ構図である。ボイジャーの前にはDSNが必要なのだ。

 その意味で、永田先生の問題提起は、皆が考えるに値するものだと思う。

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2009.10.15

31年目のライブ録音——諸井三郎「交響曲3番」「ピアノ協奏曲2番」

 どうもTwitterを始めて以来、こっちに書く頻度が下がってしまっている。140文字の気楽さ故に、思いついたネタがすぐにTwitterに出て行って、こちらに書くに至らないといった感触。

 ともあれ、最近びっくりし、かつ感動したことを。

 ・諸井三郎記念演奏会1978

諸井三郎 交響曲第3番 Op.25/ピアノ協奏曲第2番 Op.31/交響的断章 園田高弘(ピアノ)、山田一雄指揮東京都交響楽団 [1978年4月6日/東京文化会館ライヴ]

日本音楽史の至宝・諸井三郎の交響曲第3番、山田一雄による1978年の演奏のライヴ音源が出現しました。これは前年3月に世を去った諸井を追悼して行なわれたコンサートで、遺作のピアノ協奏曲の世界初演も行われました。当コンサートが後世の財産になると確信した主催者が本格的な録音を行いましたが、時期尚早で発売のめどがつかぬまま埋もれていました。演奏はさすが山田一雄。ボルテージの高さと音楽の大きさに圧倒させられます。園田高弘の巨匠風ピアニズムとともに、今日珍しい大きな演奏を堪能できます

 まだアマゾンに登録されていないようなので、タワーレコードとHMVのオンラインショップへのリンクを掲載しておく。

諸井三郎記念演奏会1978(タワーレコード)
諸井三郎記念演奏会(HMV)

 以前、ついに幻の第1楽章を聴くという記事で、諸井三郎の交響曲3番について書いた。

 1977年、諸井三郎という作曲家がこの世を去った。翌年、彼の作品による追悼演奏会が開催され、NHK-FMがその様子を放送した。(中略) 追悼演奏会では、諸井の「第3交響曲」が演奏された。当時高校2年生だった私は、NHK-FMをでそれを聴き、それこそ鳥肌が立つほど感動した。

 その、諸井三郎追悼演奏会のライブ録音が、なんとまあ31年もの時を経て、CDとして発売されたのである。これが興奮せずにおられようか!自分がラジオで聞いて、感動して、エアチェックのテープを何度となく聞き返したあの演奏なのだ。
 NHK-FMで放送された以上、録音が存在することは分かっていたが、今まで残っていたとは。

 早速入手して聴いている。

 ライナーノートを読むと、そもそも録音は録音技師の浅野芳廣氏の私的努力で行われ、氏の尽力で今日までマスターが保管されていたとのこと。頭が下がる。

 このCDのおかげで、諸井の畢生の傑作である交響曲3番を、最盛期の山田一雄の指揮で聴くことができる。山田一雄の指揮は、高校から大学にかけて何度も聴いた。ちょっとやぼったく、エンジンがかかるまで時間がかかるが、いったん調子に乗るとどこまでも熱く高揚していく。このCDの演奏では、感動的な第3楽章が、その山田節で大きく盛り上がる。ナクソスから出た湯浅卓雄指揮、アイルランド国立交響楽団の演奏は、緻密な演奏だったが、一方、山田のライブは熱い。オケが音を外しているところもあるけれども、圧倒的な熱さで迫ってくる。

 このCDには、諸井の死の年に完成した「ピアノ協奏曲2番」も収録されている。これがまた素晴らしい。

 作曲家に限らず芸術家という人種は、若い頃には様々な雑念と共に作品を作っていく。「有名になりたい」「認められたい」「受けをとりたい」というように。いかに真摯に自分の作品に対峙したとしても、どこかに若く苦い汗が混ざり込んでいく。それはそれで魅力なのだが、そんな者らも晩年に至ると、一部は一切の雑念が入らない作品を作るようになる。受けも、歓呼の声も、名声もどうでもよくなり、ただ音と自分の関係の間だけで、純粋な音楽を紡ぐようになる。

 ピアノ協奏曲2番はそんな音楽だ。ここには諸井本人と、諸井が選んだ音しかない。素晴らしく自由で、雑念のない、純粋な調べが流れていく。12音技法的な音の流れや主題の操作が表に出た、やや暗めの“夜の音楽”だが、ラストに至って日本民謡を思わせるのメロディが朗々と鳴り響く。そこに至り、聴き手は実は日本民謡風の響きが、曲冒頭の主題の中に組み込まれていたことに気が付く、という構成だ。

 ピアノを担当する園田高弘は、1978年当時50歳で、円熟の境地にある。その指が打ち出す音の美しいこと。特に第3楽章でのひとつひとつの音の輝きには聞き惚れてしまう。

 山田と園田の組み合わせで、諸井最後の曲を聴けるとは、なんと幸せなのだろうか。

 ライナーには例によって片山杜秀氏の解説がついており、最晩年の諸井の生活を知ることができる。交響曲3番の後、その死までの33年で、彼は8曲しか作曲していない。そのうちの3曲が、死の年である1977年に集中している。
 明らかに1976年から77年にかけて、諸井の中で創作への意欲が甦りかけていたのだった。しかし、天は彼に時間を与えなかった。1977年3月24日、諸井は心筋梗塞で倒れ、病院への搬送途中に亡くなった。

 惜しいとしか言いようがない。

 ともあれ、この素晴らしいCDには入手する価値がある。強く推薦しよう。そして、なによりも録音を行い、マスターテープを2009年まで送り届けてくれた浅野芳廣氏に感謝を。

 前回の記事でも紹介した、諸井リバイバルのきっかけともなったナクソスの一枚。こちらも素晴らしい演奏だ。片山氏のライナーノートは、こちらのCDのほうが詳しく、諸井の音楽について解説している。私としては「両方買え」と言いたいところだが、熱い演奏が好みなら今回の山田・園田のライブ盤、端正な演奏が好きなら、この湯浅盤がお薦めである。

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