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2009.10.27

ボストン・ダイナミクスが二足歩行ロボットのプロトタイプを公表、で、日本の有人宇宙活動の議論はどうなる?

 来たよ。来ちゃったよ。

 あのビッグドッグのボストン・ダイナミクスが、2足歩行ロボット「PETMAN」のプロトタイプを公開した。まだ実験用のベルトの上だが 実に立派に二本の脚で歩いている。しかも明らかに、アシモなど日本の二足歩行ロボットよりも外乱に強い。


 知らない人のためにリンクしておくと、ビッグドッグというのはこの4足歩行ロボットだ。

 「来るんじゃないかな」という漠然とした予感はあったが、こんなに早いとは思っていなかった。この調子だと、上半身がついたPETMANが来日して、アシモに先んじて徳島の阿波踊りに飛び入り参加する日も遠くなさそうだ。

 で、日本では、『第1段階(平成32年(2020年)頃)として科学探査拠点構築 に向けた準備として、我が国の得意とするロボット技術をいかして、二足歩行ロボット等による高度な無人探査の実現を目指す。』という一文が、日本の宇宙開発の基本となる「宇宙基本計画」に入っているのだが…

 どこが我が国の得意とするロボット技術だと?

 技術開発は競争であり、正しいことを正しいタイミングで行った者が勝つ。また一時の勝者がいつまでも勝ちっ放しというわけではない。

 今、日本の有人宇宙活動に関する議論は、混乱してしまっている。理由は2つ。


  1. 有人宇宙活動を、アメリカの有人月探査とリンクさせてしまった。
  2. 有人月探査に先立ち、「日本の得意とする」二足歩行ロボットによる探査を実施しようという話が、国レベルの議論に押し込まれてしまった。

 PETMANの登場は、大前提である「日本の得意とする二足歩行ロボット」が、崩れたことを意味する。
 実際には、日本の得意とする二足歩行ロボット」は「他に二足歩行の研究を集中的にやっているところがそんなには存在しない」ということだっただけなのだが、ボストンのような実力のある研究機関が参入するとあっというまにこういう事になる。

 PETMANの登場は「日本の得意とする二足歩行ロボット」というのは正確な表現ではないことを意味する。正しくは「日本の得意とする日本が得意だと思い込んでいる二足歩行ロボット」なのだろう。

 どう見ても、極端な不整地である月面の探査には、外乱に強いビッグドッグなり PETMANなりが向いているように見えるではないか。


、宇宙開発戦略本部で開催中の月探査に関する懇談会では

●ロボットによる月探査計画の中に、移動探査ロボットや建設ロボット、掘削ロボットなどとあわせて 人型二足歩行ロボット技術開発も加えていくことを提案する。

この理由は
  1. 宇宙ステーションや惑星探査において世界各国が有人探査を実行するに当たり、人の作業を補完できるロボットの実現は安全や作業効率やコストの面からも必要であり、歓迎されるものである。
    そういった観点から、日本が先行している人型パートナーロボットを世界に先駆けて実現させることは 日本オリジナルの宇宙技術開発戦略として、国民と世界に夢と期待を与える意味でも価値のあるものと考える。
    宇宙開発の方式に日本から人型ロボットを利用した探査計画が提案される事は国際協力の枠組みの中で、日本の立ち位置を明確にする上でも重要である。

  2. ロボットで実施していきたい仕事はパターン化された繰り返し作業から判断を必要とするものなど様々なものがある。研究者ロボットの共同作業というものもある。
    人の作業の補完あるいは共同パートナーという事を念頭におけば、人型ロボットが形態からみて最適である。具体的には、人と同じ道具が使える。同じ作業環境のところへ一緒に行ける。
    人が行けないところで人と共通の道具を使って人がすることと同じ作業ができるため有人と同じ成果が期待できる。
    これを遠隔制御システムによって実現できれば、あたかも自分がその場で作業をしているのと同じ臨場感と成果が得られる点があげられる。
    更に、遠隔操作の手法として、操作する人の動作そのものを模倣して、その動きの通りにロボットが動ければ、多様な動きも可能になり、細かい仕事をこなす事ができる。
    装置の組立てや細かな実験なども出来るようになると思う。こういったレベルの夢の実現を目標にしていくとすれば、人型ロボットが一番適しているし、日本はこれを実現できる技術力がある。

——とする文書(pdf)も、トヨタ自動車から提出されている。

 「人の作業の補完あるいは共同パートナーという事を念頭におけば、人型ロボットが形態からみて最適である。具体的には、人と同じ道具が使える。同じ作業環境のところへ一緒に行ける。」という部分は、色々議論するに値するだろう。しかし、その実現はまず第一に地上の生活環境の中ではないだろうか。

 無重力の宇宙空間では、人間の身体形状がもっとも理想的というわけではない。おそらく人間との協調作業を行う場合にも、ヒト型とは異なる形態が最適になるのではないかと思う(腕が4本あるとか、脚も腕になっているとか)。重力が地上の1/6の月面でも、人間との協調作業にヒト型が最適かどうかは、よほど先入観を排除してきちんと議論を深めねばならないところだろう。


 現在、宇宙開発戦略本部の周辺で行われている、有人宇宙活動に関する議論は、3つの点でボタンを掛け違えてしまっている。

  1. 有人宇宙活動を、有人月探査と絡めて議論していること。地球周回軌道への有人輸送手段すら持たない国が、一足飛びに有人月探査計画を議論するのは滑稽を通り過ぎて危険ですらある。

  2. 有人月探査に、我が国が得意とする我が国が得意と思っている」二足歩行ロボットを絡めてしまっていること。二足歩行ロボットは日本のお家芸でもなんでもないし、研究水準として他国から隔絶した水準を誇っているわけでもない。さらには、二足歩行ロボットで月探査ができたから、それで有人宇宙活動につながるというわけでもない(もちろん官僚などは「つながる」とする文章をいくらでも書けるだろう。理屈はどこにでも付くものだから。しかし、それは現実と遊離したものになる)。

  3. ロボットによる月探査に、我が国が得意とする我が国が得意と思っている」二足歩行ロボットが入り込んでしまっている。無人月探査に脚は必要か、それも二本脚による歩行は最適か。それがもっともコストパフォーマンスの高い探査を約束するものなのか。車輪によるローバー型ロボットのほうがずっといいのではないか。よく考える必要がある。

 ここは、政権が変わったこともあるし、素早く月探査と有人宇宙活動の議論を分離すべきではないだろうか。もちろん、二足歩行ロボットによる探査も、有人月探査とは別のものとして考えるべきである。

 これが計画が動き出し、予算が付いてしまってからでは手遅れになる。今ならまだ間に合う。一言「間違えました。議論をやりなおしましょう」で済むのだから。
 PETMANの登場は、軌道修正のいいチャンスだ。
 「お上のことには間違いはございませんから」という森鴎外「最後の一句」の時代はもはや遠い昔である。間違いは恥でもなければ傷でもない。間違いを認めないことこそが、恥であり傷である。
 間違いを認めてやり直すことは、未来へ向うための大切で重要なステップだ。

 以下、一応参考までに。

「わかっちゃいないのか、
わかっていてやっているのか」あさりよしとお、笹本祐一、松浦晋也

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Comments

足もとが明らかに普通の靴ですねぇ
足底の性能に頼る割合がアシモよりずっと低そう

Posted by: STC | 2009.10.27 at 05:59 PM

STCさん、焦ってるんですか?日本の「誇り」としての二足歩行技術がアメリカよりすげぇって感じでしょう?

Posted by: qwe | 2009.10.27 at 07:17 PM

軍事用途を考えない日本では、不整地走行も考えていないのでしょう。
不整地走行の能力が必要なら、二足歩行ロボットによる月面探査は、良い開発チャンスです。

Posted by: K | 2009.10.27 at 07:53 PM

アメリカが本気を出してないだけ、アメリカが本気を出したらすぐに日本を追い抜くといってアメリカの自動車会社は倒産しました。技術的に見れば、世界で初めて二足歩行ロボットを発明した早稲田大学の二足歩行ロボットが、完全直立二足歩行を実現している分はるかにPETMANより性能は高いです。(http://www.takanishi.mech.waseda.ac.jp/top/research/wabian/index_j.htm)アメリカの技術力を買いかぶりすぎなんじゃないですか?

Posted by: さとし | 2009.10.27 at 09:14 PM

日本が強かったゲーム産業も今じゃ・・・
iPS細胞も山中教授が世界初の快挙を成し遂げましたがアメリカが膨大な予算と人員を投入したらあっという間に日本を追い越して日本は周回遅れだそうな。

一度やると決めてからのアメリカは恐ろしい。

Posted by: tomoki | 2009.10.28 at 12:43 AM

足の小ささと脚の細いのが見所ですね。

yaw軸周りの振動が大きいことから、股関節の自由度が足りないと思われます。しかし、逆に振動を許して歩けているのが興味深いです。余計な制御を入れていないのだと思いますが、制御のコンセプトで抜かれたかもしれないです。

Posted by: dr.sillywalk | 2009.10.28 at 12:47 AM

ボストン・ダイナミックスの脚は、人型の脚じゃなくて、犬などの後肢と同じ。
つまり、人間がつま先立ちしてるのと同じで、膝関節に見えるのは、足首の関節に相当する。
なぜか、日本ではあんまり此のタイプの脚の研究は見ない(素人なので知らないだけかも)。
一方アメリカでは、日本に比べると此のタイプは結構見かける。
二足歩行で高速移動を狙うと、関節数が多い方が対応し易いからかもしれないけど、二足歩行で高速を狙うのはそもそも間違ってる気がします。

Posted by: himorogi | 2009.10.28 at 02:46 AM

>さとしさん
現時点のみを見てPETMANより早稲田のWABIANの方が上だ、というのは話の筋がすこしずれているのではないでしょうか。
早稲田大学は故加藤一郎先生の時代から二足歩行ヒューマノイドの研究を進めていました。70年代前半には既にWABOTとして形にしており、一日の長があるのは間違いありません。
今回の記事はなにも、その早稲田の歴史を否定し、アメリカを過剰評価している…ようには読めません。

PETMANは、BIGDOGが世に出て数年でここまでこぎつけています。またその予算も、一大学でなく、米国防総省の機関であるDARPAが直々に出資しています。
早稲田が本気でないというわけではありませんが、向こうは国ぐるみで状況を認識し、本気を出してきているようです。

日本は、その本気の度合いで負けている状況で、それが月の不整地で有効なのかの検討もないまま、暢気にも「日本が得意とする二足歩行」が通用することを前提として国家戦略の展望に組みこんでしまいました。
どうにもズレた前提ばかりを積み重ねた展望でにっちもさっちもいかなくなっており、そこを問題視した記事ではないでしょうか。
決して現時点のみのロボット工学の水準のみをどうこういう話ではないと思います。


>松浦さん
トヨタのsiryou3.pdfから引用の文章の濁点・半濁点が、
 >ロボットで実施していきたい仕事はパターン化された
といったように文字化けしています。
読むには全然読めますし、何より元ソースも提示されているのでそっちに目を通せば問題ないことなのですが、一応ご報告まで

Posted by: sifz | 2009.10.31 at 01:06 PM

二足歩行ロボットがどうのこうの、不整地がどうの、と言う以前に月面のような「低重力」「高真空」環境でのロボットの実績って、日本にありましたっけ。

日本のロボット(極限作業ロボットプロジェクトを含む)でこのような環境下を想定したものは記憶にありません。1Gと1/6Gでは歩行の形態も異なると思いますし、高真空環境では稼動部の潤滑や動力部の放熱などが難しいはずです。日本のロボットメーカにそのような技術が十分にあるとは思えません。

Posted by: yag | 2009.11.01 at 01:17 AM

はじめまして。先輩にここのロボットの動画を教えてもらいました。私は、これまでロボット業界に所属していました。先日、2足歩行を研究しているという有名な先生のコメントで、「最近はエンターテイメントに走りました。」とありました。こちらの方が、予算がつきやすいのでしょうか?研究機関の口からエンターテインメントという言葉が出たのはがっかりでした。

大学でのロボット研究はもはやロボットづくりであって、理論はそっちのけで、工作がほとんどだと思います。高価な部品を使って組み立てているにすぎず、理論が遅れているように感じます。

宇宙に2足歩行のロボットを持って行くのは賛成ですが、エンターテインメント重視の日本の2足歩行ロボットの壁を超えるにはまだまだ時間がかかりそうです。

Posted by: matsumo | 2009.11.03 at 12:09 AM

この手のイベントに
http://www.tokyoaerospace.com/
出展されるようになれば少しは日本のロボットに期待してもいいのですが。

Posted by: しっぽ | 2009.11.03 at 09:51 PM

はじめまして。

本筋とは関係ないのですが、

>「お上のことには間違いはございませんから」という森鴎外「死後の一句」の時代は

これは、正しくは

「お上の事には間違いはございますまいから」という森鴎外「最後の一句」の時代は

ですね。それから「お上の事には間違いはございますまいから」というせりふは、お上に対する痛烈な皮肉と解釈するのが自然だと思いますが。
 ささいな部分の指摘で、すみません。

Posted by: 木村恵介 | 2009.11.04 at 08:42 PM

 死後→最後、直しておきました。指摘、ありがとうございます。

 もちろん皮肉です。その裏には「お上に従わざるを得ない我が身」という自己認識があるわけです。

Posted by: 松浦晋也 | 2009.11.04 at 11:55 PM

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