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2009.11.24

底抜けに明るくて、かつ大規模なアレグロ——原博の「交響曲」

 懐かしくなり、久し振りに聴きたくなって、アマゾンで検索をかけたらば品切れになっていた。在庫を探してHMVで「ダメもと」で注文したら届いたので、このところ繰り返し聴いている。

 原博の「交響曲」である。

 アマゾンでは一時的な品切れで、版元では在庫があるようなので、注文すれば届くだろう。急ぐならば、HMVで注文すればいい。

 原博(1933〜2002)は、孤高の作曲家だった。1950年代から1960年代にかけての前衛の時代を、バッハとモーツアルトを理想として一切の前衛的技法に見向きもせず古典的機能和声と対位法を追求した。12音技法とそれに続く一連の技法を否定しただけではなく、ドビュッシー以降の旋法的音楽にも目を向けなかった。その意味では、伊福部昭や別宮貞雄といった調性に基づいた音楽を主張する作曲家よりも保守的とすら言えた。
 といっても実作ではモーツアルトの模写に留まらず、機能和声の限界を追求する行き方をとった——そうなのだが、私はそんなに原の音楽をきちんと追っかけて聴いているわけではない。交響曲の他にピアノ協奏曲など数曲をCDで聴いているだけである。

 だから、ここは、いかにして私が彼の交響曲に出会ったかを書くべきだろう。

 原博の交響曲(彼は生涯にこの一曲しか大規模な交響曲を書いていない)は1979年に完成し、1980年夏に、渡邉暁雄指揮のNHK交響楽団あにより放送向けに録音された。放送初演はNHK-FMで1981年2月5日に行われた。

 私はこの放送をエアチェックしたのである。

 1981年2月というと、私は浪人中で大学入試真っ盛りだったはずだが、NHK-FMでめぼしい邦人作品のエアチェックは欠かさなかったのだった。今にして思えばろくでもない受験生だ。

 当時既に武満徹のファンだった私にとって、原の交響曲は妙な曲だな、と聞こえた。当時、私が欲していたのは「いまだ聴いたことがないすごい音楽」だった。その意味では、作曲年代は関係なかった。当時すごいなと思った交響曲は、セザール・フランクの交響曲ニ短調だったり、グスタフ・マーラーの6番と10番だったり、ストラヴィンスキーの詩編交響曲だったり、ショスタコーヴィチの4番であったり、アントン・フォン・ウェーベルンの「交響曲」だったり、あるいは松村禎三の「交響曲」だったりした。これらの曲に感じた「すごさ」は、原の交響曲にはなかった。

 しかし、それとは別に、原の交響曲、特にフィナーレの第4楽章は、私を魅了した。がっちりと構成された古典的フーガであるにもかかわらず、アレグロで疾走する音楽は、底抜けの明るさに溢れていた。こんなにも明朗な音楽、しかも明朗快活の裏にがっちりとした構造を持った音楽は聴いたことがなかった。

 音楽のすべてが明るくて、愉快で、しかもその輝きが決してくどくなく、わざとらしいいやらしさもなかったのである。

 両面120分のカセットテープの片面一杯に録音した交響曲。私はその第4楽章だけを繰り返し、繰り返し聴いた。忘れられない19歳の思い出だ。

 演奏時間50分もの長大な交響曲の1から3楽章は、暗く抑圧された情熱の連続だ。しかし、3つの楽章で鬱積した気分は、ラスト、10分以上の演奏時間をアレグロ・ジョコーソ(快活なアレグロ)で突っ走る第4楽章で、すべて昇華する。

 その明朗快活さは、例えば芥川也寸志の「交響管弦楽のための音楽」(1950)の第2楽章に近い。シンバル一発の響きと共に金管楽器が朗々とテーマを吹き鳴らし、弦楽器が調子よくリズムを刻み始める芥川の曲は、かなり原のフィナーレに近い。が、芥川也寸志25歳の快活さと、原博46歳の快活さは自ずと異なる。なんといったらいいのか、芥川にはない、そしてないことが魅力になっているわずかな陰りが、原の交響曲にはある。そして、うっすらとした陰りのあることが、逆になんともいえない魅力になっているのだ。ラスト間近、一瞬だけ引用される秩父音頭がなんと効果的であることか。

 この曲は、NHK-FMの放送初演のあと、長らく演奏の機会に恵まれなかった。舞台初演は、作曲者の死後、作曲から25年を経た2004年6月7日に「追悼 原博作品展 VOL.2」というコンサートで行われた。

 無調と前衛を攻撃し、機能和声にこだわり、調性にこだわった原は、一定数のファンを演奏家と聴衆の両方に獲得しているようだ。この追悼コンサートは2008年までに4回開催されている。

 実のところ、私には原の機能和声へのこだわりは、よく分からない。機能性といっても、それは18世紀ドイツの耳の趣味の組織化でしかないだろうと思えるためだ。そこにあるのは正当性ではなく地方性ではないかと。

 しかしそんな私の疑念はこの曲の価値を損ねるものではない。私にとっては「日本人が書いた、もっとも明朗快活かつ大規模なアレグロの音楽」、もうそれだけで十分である。

 比較対象というのは、芥川也寸志にも原博にも失礼だろうが、原の交響曲のアレグロと、芥川「交響管弦楽のための音楽」のアレグロを比べると、確かに芥川のほうがポピュラリティの面では上だな、と感じる。芥川の音楽は、「交響三章」(1947)であっても、「交響管弦楽のための音楽」(1950)であっても、「弦楽のためのトリプティーク」(1953)であっても、あるいは「交響曲1番」(1954/1955)であっても、さらには作風が変わり、より混沌としてマッシブな音響性を増した「エローラ交響曲」(1958)であっても、作曲者本人がそうであったような、ダンディさ、格好良さがある。

 原の音楽は誠実ではあるが、決して格好良くはない。その原が、もっとも芥川的な格好良さに近づいたのが、交響曲の第4楽章だと言えるのかもしれない。

 原には、遺作となった「ミニシンフォニー変ホ長調」(2001)という曲がある。日本吹奏楽コンクールの課題曲で、6分ほどの短い演奏時間の中に、古典的な4楽章の交響曲を詰め込んだ、まさに原の技巧の到達点を示す作品らしい。機会があれば聴いてみたい。


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2009.11.23

宣伝;11月24日(火曜日)、ロフトプラスワンのトークライブに出演します

 宇宙ネタです。ロケットです。有人宇宙船です。

 しかし、今回はロケットまつりではなく、ホリエモンこと堀江貴文さんが主役のトークライブに、我々ロケットまつりの面子がゲストとしてお邪魔します。あさりさんの出演も決まりました。

 堀江さんについて、説明の要はないでしょう。彼に対する評価は色々あれど、傑物であるとことを否定する人はないと思います。

 実は私、このところホリエモンづいている、というのは妙な言い方ですが、雑誌記事のまとめをしたり、対談をしたりとよく顔を合わせています。堀江さんの宇宙への情熱は本物であるといって間違いありません。

 では、我々はいかにして宇宙をめざすべきなのか。少々考えにくい顔合わせで展開する、「宇宙への行き方」をお楽しみあれ。


ホリエモン・トークライブSESSION 6
「堀江貴文&松浦晋也&笹本祐一&あさりよしとおの宇宙はそんなに遠くない!」
ウェブマガジン「魚の目」でも宇宙論を展開する堀江貴文が、ロケットまつりでお馴染みの松浦晋也、笹本祐一、あさりよしとおを迎えて本気で話す宇宙の未来。

【出演】
堀江貴文
【Guest】
松浦晋也(ノンフィクション作家/ロケットまつり)
笹本祐一(SF作家/ロケットまつり)
あさりよしとお(漫画家/ロケットまつり)

OPEN18:00/START19:00
前売¥2500/当日¥2800(共に飲食代別)
※前売券はローソンチケットにて発売中。
【Lコード:32294】

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

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2009.11.19

はやぶさリンク:はやぶさ、帰還に向けてイオンエンジン再起動

Kawaguchi Kuninaka


 トラブルを起こしていた小惑星探査機「はやぶさ」は、11月11日の試験で推力の回復を確認。12日以降、イオンエンジンの連続運転を再開した。残る必要加速は200m/s強。3月下旬までにこの加速を達成できれば、来年6月の帰還が可能になる。

 運転再開を可能にしたのは、AからDのイオンエンジンのうち、Bのイオン加速器とAの中和器を同時使用するという裏技だった。これにより6.5mNの推力発生が可能になった。


 まず、はやぶさのイオンエンジンの構造について。
 はやぶさのイオンンエンジンは、推進剤のキセノンガスをマイクロ波でイオン化し、電気的に加速して噴射する。このままでは+イオンのキセノンが出て行った分、探査機本体が-に帯電してしまう。そこで噴射口の外側に中和器が設置してある。中和器からは少量のキセノンを噴射、同じくマイクロ波でイオン化して、噴射口から出てくるキセノンに電気的な橋をかける。そこに電子を流し込むことで、キセノンの+イオンを電気的に中性のガスに中和し、同時に本体への帯電を避ける。
 中和器からキセノンの噴流へ電子を流すためには、ある程度中和器の電圧が高くなくてはいけない。中和器が劣化してくると、電子を流すために必要な電圧が高くなる。その限界値として50V以上の電圧になるとエンジンを停止するという仕組みになっている。

 以下、本日午後6時からの記者会見の様子。私が少し遅刻したので、最初のほうはプレスリリースより補足している。

 出席者は川口淳一郎教授と、イオンエンジン担当の國中均教授。


國中 イオンエンジンの状況について。

 はやぶさは、イオンエンジンAからDの4台を搭載し、3基を同時使用できる設計となっている。Aは打ち上げ直後の動作試験で不安定だったために、予備に回し、BからDの3基で小惑星イトカワに到達した。

 帰還途中の2007年4月に、エンジンBが中和器電圧の上昇を起こし、運用停止に。残るCとDとで地球帰還を目指してきたが、今年11月4日にエンジンDの中和器が電圧上昇を起こし、安全限界の50Vを超えて停止した。この時点でCもDも劣化が進行しており、推力は5mNしか発生できていなかった。

 はやぶさはイオンエンジン用の電源を3台搭載しており、それぞれ、AB BC CDに電力を供給できるようになっている。と、同時に、異なるエンジンのイオン源と中和器を使って運転を行うことも想定して、電源を結合する回路も搭載している。

 11月11日に、イオンエンジンBのイオン源とイオンエンジンAの中和器を使っての運転を行ったところ、6.5mNの推力発生と安定した運転を確認。軌道計画的にも2010年6月の帰還が可能になった。

 イオンエンジンは、イオン源と中和器への推進剤の供給を、ひとつのバルブでコントロールしている。重量軽減のためにバルブを減らしそのような設計となった。このため、使っていないエンジンAのイオン源と、エンジンBの中和器からも生ガスが噴出している状態。
 しかし、推進剤のキセノンは推定であと20kg残っている。残る加速に必要な量は5kgほどなので十分対応可能。
 また、エンジン2基で1基分の推力を発生させるので、電力は2基のエンジンを稼働する分だけ必要となる。しかし、今はやぶさは、太陽に近づきつつあるので、太陽電池の電力発生量は増えつつある。こちらも対応可能。

 現在使えるのは、A中和器とBイオン源の同時運転と、Cの単独運転。

川口 帰還に必要なデルタVは2200m/s。すでに2000m/sは達成。残るは200数十m/s。現状では2010年6月の帰還は可能。しかしさらなるトラブルが起きると2013年帰還となる可能性もある。

  現状はAB2基のエンジンの使える部分を使って推力を得ている状態。これは地上試験を行っていない。打ち上げ前に、このような運転があり得ることは想定していたが、そもそもこのような運転はアースの関係で地上での試験ができなかった。

 今回は運がいいと思っている。はやぶさが太陽に近づきつつあり、電力に余裕が出てきつつあったからこそ、この運転が可能になった。もっと地球から遠いところで今回の故障が起きていたら、この方法は使えなかったろう。


以下質疑応答
読売:現状で推力はどれほどなのか。

國中:6.5mN。今後エンジン2台で噴射を行う運転は考えていない。今後このまま来年の3月中旬まで6.5mN噴射を続ければ帰還可能となる。

川口:はやぶさの現在位置は、地球からの距離は約1天文単位。本当に火星の近くにある。

時事通信:このような動作ができることは事前に解っていたのか。

國中:これができることが実験室では自明だった。現状では探査機が数十ボルトに帯電し、帯電することで電子が引き出されるという運転をしている。このような状況は地上では再現できないため、地上試験ではこのような運転を行っていない。

川口:ちょっと盛り上げるなら、これは電気回路にダイオードが一つが入っていないとできない。あらかじめそういう回路を組み上げ、搭載して打ち上げたということを注目してもらいたい。

國中 はやぶさは、設計時の重量制限が厳しかった。色々考えた末にダイオードひとつを追加するだけで今回のような運転が可能な電源回路を組んで搭載した。


毎日 こういったトラブルを想定して回路を積んだのか。

國中 そうだ。

毎日 他のスラスターでもこういう運転はできるのか。

國中 そうである。ただし、今回エンジンBのイオン源と中和器Dの組み合わせて試験運転してみたところ、うまく動かなかった。

毎日 帰還日は決まっているのか。

川口 今のところ言わないことになっている。勘弁してください。旅行する人が大変になったりするので…

朝日 スラスターと中和器の位置がノミナルと変わるわけだが、推力方向が変化してしまうことはないのか。

國中 実際そういう現象も観測されている。ただし推力ベクトルの角度のずれは1°以内で、イオンエンジンの首を振るジンバルで修正可能な量。ビームのよれがおきるという現象は、宇宙プラズマ物理にとっても貴重な知見である。

朝日 最終的な軌道修正は可能なのだろうか。

川口 今の状態を維持できれば可能である。

朝日 2013年に遅れる可能性があるというが、それは余計に太陽を一周ということか。

川口 はやぶさは太陽を1.5年で1周する軌道に入っている。地球が3周、はやぶさが2周

朝日 計画にかかったこれまでのコストを知りたい。

川口 ここまで打ち上げや運用費用も含めて計画遂行の総額は約210億円。事業仕分けされないようにしなければいけない。運用費は年1億円程度なので、3年伸びると3億増える。

國中 この11月から臼田局は改修工事を行う予定だったが、今回の事故を受けて、工事の開始を一週間遅らせてもらった。現在は臼田の工事が始まったために、鹿児島内之浦の34mアンテナで通信しているがこれだと臼田に比べてビットレートが1/4になる。ぎりぎりで臼田が使えて幸運だった。

時事通信 エンジンAを使っていなかったのが幸運だったのだろうか。

川口 Aの中和器が健全にリザーブできていたことが今回の運転につながっている。

不明 Cを運転していないのはバックアップ用か。

川口 その通りだ。Cも劣化の兆候があるので長時間運転は難しいと見ている。

時事通信 帯電は悪影響を及ぼさないのか。

國中 はやぶさには帯電センサーが積んでいない。従って中和機のヘルスチェックができない。しかし現状では不具合を示すようなデータは出ていない。宇宙で何KVという帯電は常時起きているので問題にはならないだろう。中和機の電圧が高くなると劣化が早まるのだが、現在の運用ではA中和器の電圧を知る方法はない。

不明:現在はBのイオン源からイオンを吹いているのか。

國中 そうだ。

不明 いつが2013年へと帰還がずれこむタイムリミットとなるのだろうか。

川口 Cは推力がないので、それほど加速できない。例えば来月にでAとBによる現状の運転が不調になると2013年になるだろう。しかし不調になるのが来年2月3月ならCだけで6月に間に合うだろう。年内に再度故障が起きたら2010年帰還はアウトと思ってもらいたい。

読売 復旧方法を見つけた時の感想を聞きたい。

川口 エンジン停止の時は「来るものが来た、これはもう2013年帰還か」と思った。イオン源と中和器のクロス運転を可能にする電源回路の存在は知っていたので、対策の検討会ではイオンエンジングループに検討を依頼した。イオンエンジングループは自信を持っていたかも知れないが、私は淡い期待を持っていた程度だった。最初BとDで動かしたがうまくいかなかった。
(2010.6.21注記:ここはBDではなくADの可能性あり。コメント欄参照のこと。確認し次第訂正します。)

國中 電力収支が厳しかったので、100W近くの電力を消費する通信機をいったんとめてAとBを運転、データを記録して通信を復帰してから送信するというやりかたで、動作試験を行った。通信復帰の途端に、はやぶさからの電波のドップラーシフトが不連続にジャンプしたので、「これは動いたぞ」と思った。その後、データをダウンロードして正常運転を確認した。

不明:CとDの運転はできるのか。

川口 おそらくイオン源の寿命はまだまだある。問題があるとしたら中和器A。AとCの運転は試験をしていない。時間がないので組み合わせ試験よりもイオンエンジンの連続運転を優先した。地球帰還にはあと2000時間の運転が必要である。

産経 Dが止まったということはどういうことか。

國中 中和器の電圧が上昇したというのが観測された事象。中和器は電圧をかけて電子を放出している。中和器が劣化すると同じだけの電子を放出するのに必要な電圧が上昇する。電圧の限界値が50V。イオンエンジンの定格は1万4000時間だが、Dはすでに1万5000時間運転している。Bは9500時間。まだまだ、惑星探査用のエンジンとしては長寿命を目指して研究を進めねばならないと思っている。
 中和器Aはイオン源Aとの組み合わせて10時間、11月11日以降、イオン源Bの組み合わせて180時間運転している。

インプレス もう少し詳しく運転の様子を知りたい。

國中 各スラスターには一つバルブがあって、それを開けると、中和器とエンジンの両方に推進剤のガスが流れ始める。中和器Bを動作させると必然的にイオン源Bからガスも流出する。現状6.5mNで軌道計画が立てられている。

アビエーションウィーク 姿勢制御用のホイールも一つになっているがどうなっているのか。

川口 止まったホイールはもう使えないものと考えている。残る1台も回転数を下げたり、加速減速もゆるやかにして寿命を延ばすように運用をしている。中和器と同じぐらい心配している。


宇宙作家クラブ 加速量達成後、地球へのカプセル投下にための最後の軌道修正はどうするのか。

川口 イオンエンジンで行う。1m/s程度。この修正に1日から数日かかる。


不明 ホイールがダメになったらもうギブアップか。

川口 その場合も方策は考えているがかなり致命的だと思う。

 記者会見後のぶらさがり取材にて。


川口 「ずっと前にダメになるのも、ぎりぎりまで粘ってダメになるのも同じ、帰ってこれるか、これないか。それが問題です」

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2009.11.16

月の水みたび

 米航空宇宙局か(NASA)から、月面を衝突探査したLCROSSのデータ解析の結果、月面に水が存在することが分かった、という発表があった。

 報道では、衝突により飛散した水分は90リットルほどという数字が出てくる。

 月の南極付近のクレーター「カベウス」には太陽光が永久に当たらない部分があり、水分が氷の形で存在する可能性が高いとされていた。NASAは十月九日、エルクロスをカベウスに激突させ、高く舞い上がった噴出物を分光計で分析。その結果、土砂の中に水蒸気が確認された。飛散した水分は約九十リットル相当に上るという。

 この数字はNASAリリースには出てこない。記者会見にて口頭で示した数字だのこと。記者会見では2ガロン(7.5リットル)のバケツを持ち出して、「このバケツ1ダース分の水」と説明したそうだ(だからメートル法と十進法を使えってば、アメリカ)。

 リリースによると水の存在の証拠となる事実はは以下の2つ。


  1. 衝突を見下ろす形で観測を行った近赤外分光計のデータは、灰色(colorless)の暖かい(リリースには230Cとあるのだが、230℃ということだろうか?)噴出物の放射を捉えたが、そこに水分子による吸収と解釈できる一部波長帯のへこみが存在した。
  2. 可視/紫外分光計が、励起された水分が発する波長の光が噴出物から放射されるのを観測した。

 月面の永久影地域は、極めて低温なので、水が氷の形で存在しうる。以前から、そこには水分が存在するのではないかと言われていた。
 過去何億年もの間に、月面には水分を含む彗星が多数衝突している。彗星の水分の大部分は月の重力を逃れて宇宙空間に散っていくが、一部は永久影の部分に吸着されて溜まるだろう。一回一回の量は小さいとしても、それが何億年もの長きにわたって続けば——。

 最初は、アポロ計画以来22年振りにアメリカが月に向けて打ち上げた探査機「クレメンタイン」(1994年打ち上げ)だった。クレメンタインが発した電波を月の極地方に反射させ、反射波を地上で受信するという観測で、「水があるのではないか」という結果が得られた。
 この時の観測は「水があるとも解釈できる」というレベルのものだった。「月には水が60億トン存在する」と報道されたが、これは乏しい証拠からそうも見積もることができるという程度の数値だった。

 次いで、同じくアメリカの「ルナ・プロスペクター」(1998年打ち上げ)が水を探した。ルナ・プロスペクターには、中性子分光計が搭載されていた。宇宙線に含まれる中性子は、水素に当たると跳ね返り、運動エネルギーが小さい中性子となる。“遅い”中性子が検出できると、そこには水素がある。すなわち水がある可能性が出てくるというわけだ。
 ルナ・プロスペクターは月の両極上空で、月面から反射してくる中性子のエネルギーが下がることを観測した。そこには水素があるということだ。もしもそれが水であるならば、1000万〜3億トンの水が存在することになると推計された。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、存在が確認されたのは「水素」であり「水」ではないということだ。水素があるとしたら多分酸素と結合して水になっているだろうと推定されているだけなのだ。たとえ水が存在したとしても、それが氷なのか、それとも鉱物に結晶水の形で含まれているのか、なんとも言えない。また、月面に存在する量の推計も大きな誤差を含んでいた。

 次は日本の月探査機「かぐや」(2007年)だった。かぐやは地形カメラで月の南極にあるシャックルトン・クレーターの内部を観測した。シャックルトン・クレーター内部には永久影地域が存在し、氷が存在する可能性がある有力な候補だった。斜面に反射する僅かな間接光でかぐやはクレーター内部の地形を観測。そこには、平らな地形が存在しないことを確認した。つまり期待されたような“氷の池”は存在しないということだ。

 これも注意しなければならないのだけれど、かぐやのシャックルトン・クレーター観測は即、月に水が存在しないということを意味するわけではない。水が土砂と混ざった状態で存在する可能性は残っている。あるいは、氷の上に土砂が被さっているのかも知れない。氷の池が露出している可能性が消えたというだけなのである。

 かぐやにはガンマ線分光計が搭載されていた。月の表面に宇宙線が当たると表面の元素はそれぞれの種類に応じたエネルギーのガンマ線を発生する。ガンマ線のエネルギー分布を計測すると、どのような元素が存在するかが分かる。当然、水素の分布も知ることができる。ガンマ線分光計の観測データは今なお整理と分析が続いているが、今のところ水素の分布に関する発表はない。この件に関しては、あるいは今後…といったところである。

 さらに今年に9月にはNASAから、インドの探査機「チャンドラヤーン1号」のM3センサー、小惑星を探査したアメリカの探査機「ディープ・インパクト」と、土星探査機「カッシーニ」がそれぞれ地球近傍を通過した際に月を観測したデータから月の表面に水分子が存在するという発表があった。NASAが国際協力でチャンドラヤーンに搭載したM3(Moon Mineralogy Mapper)は、近赤外線で月面を分光観測して、どのような化学組成になっているかを調べるセンサーだ。M3は、月面に水分子、そしてヒドロキシ基(OH)が広く薄く分布していることを見いだした。これはおそらく、太陽から月面に吹き付ける太陽風(水素を含む)起源のものと推定されている。量は1000ppmで、極の永久影地域で期待されていた水と比べると大分少ない。

 今回のLCROSSの観測は、まず水素ではなく、まとまった量の水分子の存在を直接確認したというところに意義がある。詳細は論文発表を待たねばならないのだろうが、プレスリリースにでていたグラフにかなりはっきりとしたピークが出ているので、水分子の量も決して少なくはないようだ。

 では、「月面には水があり、水資源の存在を前提にした探査計画を策定できるようになった」か、といえば、まだそのレベルではないだろう。これをもって、「アメリカは有人月探査に一層力を注ぐようになる」とは言い難いと思う。

 まず、今回の発表では、LCROSSの落下によって液体にして90リットル分の水分子が噴出したというが、多分これはまだかなりの誤差を含んだ数値ではないだろうか。プラスにもマイナスにも1桁は誤差があると思っておいたほうがいいだろう。このあたりは論文が出たら、様々な突っ込みが入ってより正確な見積もりになっていくのではないかと思う。

 次に、水が確実にあるとして、ではどのような形態で存在するのかが問題となってくる。例えば硫酸銅の5水和物(きれいな青色の結晶だ)は、1mol250gのなかに90gもの水を含む。だから、レゴリスと氷の混合物になっていると決めつけるわけにもいかない。結晶水の形で鉱物に含まれている可能性もある。

 「月面水資源を前提とした有人月探査計画」を実施するためには、少なくとも複数地点でのボーリングとサンプル採取(地上に持ち帰っての分析)を行い、リモートセンシングの世界で言う「グラウンド・トゥルース(地上の実態)」を把握した上で、月の全球リモートセンシングを行い、月面水資源量を正確に把握する必要があるだろう。

 月の水を当てにした有人探査の前に、まだまだやるべきことが山ほどあるということだ。

 以下は、素人のお遊び、様々な仮定をおきまくっての、ごくごく簡単な計算である。

 LCROSSは、直径直径27m、深さ5mほどのクレーターを月面に作ったと考えられている。大ざっぱにクレーターが円筒だとして、吹き飛んだ体積は2860立方m。実際にはクレーター形状は球面だろうから一声半分ということにして1430立方m(積分?めんどくさいよ)。レゴリスのかさ密度として1.5を採用すると、質量は2145トン。NASAの発表によれば、ここに0.09トンの水が入っていたわけだから、存在比は4.2×10^-5。
 月の永久影の面積はかぐやが測定していたはずなのだけれど、数字が見つからなかったのでかぐや以前の推定値の両極合わせて3000平方kmを採用する。3×10^9平方m。
 表面を5mまでの深さに水があると仮定。すると水分含有の土壌体積は、1.5×10^10立方m、密度1.5を採用して2.25×10^10トン中に水が4.2×10^-5だけ存在するならば、総量は9.45×10^5トン。だいたい10^6トン。すなわち100万トンということになる。一見けっこうな量のようだが、東京の村山貯水池(多摩湖)の最大貯水量が300万立方メートル(300万トン)であることを考えると、月全体で、村山貯水池の1/3しかないわけだ。かなり貴重な資源である。

 しかも、クレメンタインやルナ・プロスペクターの観測時に出た推定よりも2桁から4桁も少ない。当時の推計が楽観的過ぎたのか、予算を取るためにわざと楽観的な見積もりを採用したのか…

 スペースシャトルは打ち上げ時、およそ730トンの液体水素と液体酸素を搭載する。シャトル主エンジンは実際には若干水素リッチで燃焼させているのだが、これを「730トンの水を電気分解した結果」と無理矢理丸めて 考えると、100万トンの水は、シャトル打ち上げ約1370回分の推進剤ということになる。月からの脱出速度は地球よりもずっと小さいから、けっこう使いではある。今の宇宙開発の規模から考えると、とても有望な資源となるだろう。しかし、本気で経済活動を始めたらあっという間になくなる量でもある。

 本気で月の水を使うつもりならば、月の水資源を使い切るころには、別の物質循環(それこそ、彗星を地球近傍に引っ張ってくるとか、逆に彗星まで進出して有人拠点を築くとか)で宇宙空間の経済が回るような、計画的な宇宙開発が必要になるのではないだろうか。

 月の水というと、やはりこのSF。作中でフランスの宇宙飛行士ソランジュが語る「宇宙への階段」は、この小説が執筆された1999年頃、野尻さんも含めて宇宙作家クラブの中で何回か話題になった記憶がある。

 

  同じネタが小川さんに回ると、この「第六大陸」になる(などと言っちゃっていいのか)。同じような話題から全く異なる小説が生まれるのは、当たり前の事ではあるが、なんとも興味深い。

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2009.11.10

はやぶさリンク:はやぶさ2の現状について

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 はやぶさ2について、とりあえず知っていることを書く。

 まず、来年度に実質的な開発に持ち込めなければ、はやぶさ2は消滅する。2014年打ち上げが絶対条件となるので、機体開発期間5年を考えると、来年からの着手が必須になるためだ。

 2014年の次の打ち上げチャンスは2020年。ところが、2020年の打ち上げウインドウは条件が悪い。2014年と同程度に条件の良いウインドウとなると、2020年代後半となってしまう。

 その一方で、欧州と共同で進めようとしていた「マルコ・ポーロ」(はやぶさMark2)も、主に欧州の財政難が原因で頓挫している。2017年打ち上げはほとんど消滅状態。つまり「はやぶさ2がなくとも、マルコ・ポーロがある」とはとても言えない状態だ。

 はやぶさ2が消滅すると、はやぶさをきっかけに育ってきた国内の固体惑星系の科学者コミュニティが事実上消滅する。探査機は科学者コミュニティの核だ。これがなければ、論文を書けず、業績を積み上げることもできないので、研究者は他分野に散っていくものである。
 このあたりは分かりにくいかもしれないが、例えば、固体の惑星を探査する機体であっても、例えば金星探査機「あかつき」は惑星大気を研究するための探査機である。固体惑星系とは専門が異なる。もちろん搭載しているセンサーの用途も違う。単純に「あかつき」があるから固体惑星の研究者も大丈夫とは言えない事情がある。

 もちろん、JAXA、メーカー、研究者の3つに渡る人材、開発した工学的技術、運用経験のノウハウなど、1990年代からはやぶさの開発と運用で、積みかさねてきたものも四散し、これでおしまいとなる。

 来年度概算要求(宇宙開発戦略本部発表:pdf)に、「はやぶさ2」の文字はない。つまり、予算要求時点で、まだプロジェクト化されていない。しかし、これで終わったわけではなく、関係者はまだ粘る方策を探して動いているとのこと。

 例えば、実質的な開発開始に持ち込むという手段が考えられる。
 以前、5億円あれば初年度の着手はできるという話があったのは覚えておられるだろうか。あれと同じ状況が現出しつつある。JAXAは独立行政法人なので、ある程度の予算編成の自由度を持つ。その中から、なんとか初年と着手に必要な分を認めてもらって、実質的な開発開始に持ち込む。

 さらには、10月22日にアメリカで、有人月探査から、ラグランジェ点や地球近傍小惑星など幅広い有人探査への転換を求めたオーガスチン委員会の報告書が出た。
 もしもオバマ政権が、ブッシュ前政権の打ち出した有人月探査計画を方針転換するならば、はやぶさ2には、「アメリカが実施する有人小惑星探査に先行する無人探査」として、政治的な利用価値が出てくる。

 また、昨今の日本の政治状況は、どこでなにがひっくり返ってもおかしくない。そこに希望をつなぐチャンスがあるかもしれない(あくまで、「かも」という希望的観測なのだけれども)。

 というわけで、まだまだ「はやぶさ2」も粘っている。

 「はやぶさ2」は、民話のお姫様のようだ。様々な難題を解き、難関をくぐり、ここまできた。が、まだ「めでたし、めでたし」には至っていない。

 鉢かぶり姫や、シンデレラのように、「はやぶさ2」についてのハッピーエンドはあるのだろうか。「めでたし、めでたし」と、打ち上げを見送ることはできるのだろうか。日本は、星の世界へ新たな船を送り出すことはできるのだろうか。


 写真は、10月19〜20日に東京で開催されたInternational Workshop on Small Body Exploration by Physical Interactionsでプレゼンされていた、はやぶさ2(上)及び衝突機(下)の概要。

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2009.11.09

はやぶさリンク:イオンエンジンに異常、ついにエンジン1基に

09:51pm追記:読売新聞によると、スラスターAも起動しなかったとのこと。これは本当に厳しくなった。今後必要となる増速量如何では、ギブアップになるのかもしれない、



 小惑星探査機「はやぶさ」にまた危難が。

小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン異常について

 11月4日、2基残っていたCとDの2基のイオンエンジンのうち、Dが動かなくなった。おそらく、まだ再起動できるかどうかの検討が行われているだろうが、難しいかも知れない。

 当初、2003年〜2007年で5年の予定だった航行は、すでに7年が過ぎた。イオンエンジンは当初の予定以上の運転実績を重ねており、劣化が目立ち始めている。いつ、どのエンジンが壊れてもおかしくない状況だったが、ついにエンジン1基が動かなくなってしまった。

 はやぶさのイオンエンジン「μ10」は、AからDまでの4基が搭載されている。通常運転時はうち3基を使用する。定格推力は8.5mN(ミリニュートン)だが、実際には7.5mN付近で運転されてきた。
 スラスターAは、打ち上げ直後の運転試験で動作不安定が出たために、予備機に回り、残るBからDの3基ではやぶさは小惑星イトカワに到達した。

 2005年11月の劇的なイトカワへのタッチダウンの後、はやぶさは各所が壊れ、満身創痍という状態になった。姿勢を制御するリアクション・ホイールは3基中2基が壊れて1基のみ。ヒドラジン系の2液推進剤を使用する化学スラスターは、推進剤が燃料・酸化剤共に漏れてしまって空っぽに。

 その状況下で、はやぶさを地球に帰還させる作業が続いていた。

 2007年4月にはスラスターBが、中和器(加速したキセノンイオンに電子を与えて電気的に中和する装置)が、電圧上昇を起こしたため運用を中止した。残るCとDも、劣化が進み、推力は5mN程度しか出なくなっていたと聞いている。

 はやぶさは、来年3月までCとDを噴射し続けて、地球帰還に必要な速度を稼ぎ、残る6月までの慣性飛行中に、より正確にオーストラリアのウーメラ砂漠にカプセルを落とせるように軌道修正を数回にわたって行う計画だった。

 今回この計画が崩れた。エンジン1基では3月までに必要な増速量を稼ぐことができない。


 ここからは今後の検討課題であり、私の推測が入る。

 エンジン推力が足りなくなったなら、運転期間を延ばすしかない。おそらく今後、はやぶさは残るスラスターCを6月の地球帰還ぎりぎりまで噴射することになるのではないか。
 この場合、軌道修正は、地球に近づいてからの一発勝負となる。地球に近いと軌道修正のために必要な噴射量も大きくなる。もう化学スラスターは使えないので、例のキセノン生ガス噴射で最大限の補正をかけるしかないだろう。

 残るスラスターCがダメになった場合は、危険承知でスラスターAを再起動することになるだろう。Aは電源系にトラブルがあって、B〜Dとの同時使用は危ないということで休眠状態にあった。逆にB〜Dが使えなくなれば、Aの使用をためらう必要はなくなる。

 まだまだ、運用チームは地球帰還に向けて粘りを見せるだろう。


 ただし、——私の感触なのだけれども——これは本当に“最後”を覚悟しておいたほうがいいのかも知れない。

 というのも、今回のトラブルは先週末の時点で、科学メンバーなどにも通知が回っていたとのこと。今まではやぶさの運用でこんなことはなかった。訂正(pm.09:25):「これまでも、はやぶさの状況について結構連絡は受けていたよ」という指摘を貰いました。とりあえず直しておきます。)
 運用チームが、相当な覚悟をしていることは間違いない。

追記:いま「はやぶさ」は、天球上のかに座のあたり、火星のすぐそばにいるとのこと。今夜は月のすぐ隣、真夜中に東から昇り、午前5時ごろ南中する(情報提供:lizard_isanaさん、http://twitter.com/lizard_isana/status/5555477171)。

 夜更かしの方は、今夜、月を見てほしい。その方角にはやぶさはいる。

 ここで問題になるのが、まだ予算がついていない後継機「はやぶさ2」だ。

 後継機を立ち上げなくては、ここまでも成果も、運用経験も、技術蓄積も、すべてが無駄になってしまう。

 ああ、本当に「はやぶさ2」はまだか。JAXAは何をしているのか。

 この件は記事を分けることにする。

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2009.11.03

 BD-Frog:2010年から新デザインで復活

 今まで気が付かなかったのだが、独R&Mが、2010年モデルからBD-Frogを復活させていた。

Frog2010_2

 復活させたはいいのだが、この姿はいかに。フレームは同社の新型モノコックフレームに変更。これはいいとしてタイヤは12インチから16インチに。ギアは内装8段だが、重量は12kg。はっきり言って重い。値段は14万700円(税込)。

 ちなみにこっちは旧モデル。



Frog2006_2

 旧モデルのほうが良いデザインだったと思うのは、旧モデルオーナーのひいき目…だろうか。

 タイヤの大型化につれて、折り畳み時の寸法もずいぶんと大きくなってしまった。

  • 旧モデル w63×h48×d28(cm)
  • 新モデル w67×h57×d37(cm)
  • 寸法の差 w5×h9×d9(Δcm)

長さがプラス5cmというのは頑張ったと思うが、高さと厚みがプラス9cmというのはどうにも。特に厚みプラス9cmというは、持ち運び時に従来よりもかなりかさばるということを意味する。

 ちなみに現行のBD-1とブロンプトンは以下の通り。

  • BD-1(2010年9速モデル):w78×h61×d36(cm)
  • ブロンプトン(M3L):60×h58×d30(cm)

 12インチの旧モデルには、「スポークが折れやすい」という欠点があった。短すぎるスポークが乗車時のショックを吸収しきれなかったためである。この欠点を解消するには、タイヤを大きくすれば良い。オーナーとしては14インチが付けばずっと走行性能が上がるとは思っていたが、まさか16インチまで大きくしてくるとは。

 
 現状の私見は、デザインは「残念」、折り畳み性能は「問題ありか?」、走行性能は「不明」といったところだろう。もちろん、乗ってみたらぐいぐい前に出る気分の良い自転車に仕上がっている可能性もある。どこかで試乗できないだろうか。

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A-bike:hirax.netさんの記事について

 もうかなり前のことになるのだが、A-bikeと、その模造品について、hirax.netさんがこういう記事を書いている。

純正A-bike より 8インチ空気タイヤ版 A-bicycle の方が断然イイ!の不思議

 少なくとも、今回比べた純正A-bikeは「剛性」「直進性」において、パッチモンに比べてかなり劣っていた。前輪・後輪の直進性、そしてフレームから後輪への剛性感が、全然違うのである。
(中略)
 意外なことに、8インチ空気タイヤ版 A-bicycle はさまざまな部分で改善がされていて、純正品より(現時点では)遥かに「良い移動道具」になっている。個体差は大きいだろうから、一概に判断することはできないが、今日の純正A-bike v.s. 8インチ空気タイヤ版 A-bicycle を実際に眺め、実際に触り、実際に乗ってみた上での勝負結果では、モノとしてはパッチモンの圧勝だった。

 この記事が出た後、「お前さん、純正品を薦めていたじゃないか、立場ないね」的な意見がいくつか届いた。

 ちなみに、hirax.netさんはこの後で以下のような記事も書いている。

A-bike v.s. A-bicycle(8インチ空気タイヤ版)再び

(松浦注:きちんと純正品整備した。)すると、「純正A-bike」の剛性感が別モノと思えるほど、良くなっていた。フロントとリアを繋ぐ部分がフニャフニャなのは変わらないけれども、それ以外の剛性感がずいぶんと感覚が変わり、乗っている時の「不安感」が”かなり”改善されていた。自転車としては、まだ「(パッチモン)A- bicycle(8インチ空気タイヤ版)」の方が良かったが、、その安定感の違いは(ネジを締め直し、後輪のポジションを変える前の買ったそのまま状態よりは)かなり小さくなっていた。
(中略)
・・・結局、「純正A-bike」と「A-bicycle(8インチ空気タイヤ版)」の持ち主二人の意見は、”着実に改良をした”8インチ空気タイヤ版の「純正A-bike」が出たら、それが一番だよね、というところで一致した。

 というわけで、問題は「かなりの部分が整備の問題であった」ということで解決しているのだが、以下少々補足を書いておくことにする。

 私は、ここで比較対象になっている8インチ空気タイヤ版A-bicycleに実地で触れたことはない。もちろん乗ったことはない。それでも、ネットで調べると、何が起きているかは推測できる。

 事態を理解する鍵は重量だ。

 8インチのニセモノは非常に種類が多いので、hirax.netさんが入手した機種がどれなのかは分からないのだが、調べてみると公称重量5.7kgから8kgまでさまざまなようだ。

 そこで推測なのだがhirax.netさんが入手した機種は、7.5kg〜8kgあるのではないだろうか。オリジナルのA-bikeは5.7kg。現行製品のA-bike Plusは6kg。重量差は、1.5〜2.3kg。

 もともと6kgの製品に、プラス1.5〜2.3kgの重量増加を認めるならば、相当がっちりしたものにすることができる。「8インチのバチモンのほうが「剛性」「直進性」が良い」という印象は、かなりの部分、重量増加を認めた設計に依存しているのではないだろうか。

 ここから先は、かなりの部分を購買者の価値基準次第ということになる。プラス1.5〜2.3kgの重量増加を認めて、価格も安い(1万円以下とのこと)、しかも走行性能も決して悪くないニセモノを選ぶか、それとも1.5〜2.3kgも軽いが5万円超の本物を選ぶか。

 私ならば、たとえ5万円でも純正品を選ぶ。7.5kを持ち歩くのと5.7kgを持ち歩くのでは、体感的に大きな差があると考えているからだ。現行品でも6kgという重量は他の製品では得られない大きな利点だ。

 自転車の軽量化は容易なことではない。よく「1gの軽量化に100円かかる」などといわれる。1kg軽くしたければ10万円というわけだ。実際、8kgを切った自転車を部品の交換で軽量化を目指すとそれぐらいはかかる。
 しかも軽量化は耐久性とのトレードオフとなる。A-bikeは試作品が5.5kg、最初の製品版が5.7kg。次期製品が6.0kgと重くなってきた。5.5kgを目指したが、製品としては無理があって5.7kgになり、さらには売れるにつれて、最初の想定とは異なる使い方をされることも増えたため、6.0kgまでの重量増加を認めて構造を強化することになったのだろう。軽量化は本当に難しい。

 A-bikeは軽さを活かして持ち歩くというコンセプトの製品だ。問題は、それだけの軽さと、軽さが代償として要求するコストが、自分の価値観に見合うかということだ。私は見合うと思っている。

 もちろん「8kgであっても走行性能が良くてずっと安ければそれでいい」という考え方もありだ。プラス2kgもあれば、危険なほど壊れやすいということはないだろうし。

 ところで、A-bikeにはもう設計的に詰めていく余地はないのだろうか?
 例えば日本の自動車メーカーが、A-bikeのような自転車を、自動車に常備するオプションとして販売しないだろうか。日本の自動車メーカーの設計・製造能力をもってすれば、A-bikeを超えるA-bikeを作ることができるのではないかという気もするのだが。

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2009.11.01

旧車會珍車會には鉄槌を

 いつか盛大にdisってやろうと思っていたら、捕まってしまったよ。

40歳暴走族リーダー逮捕=関東最大規模組織−神奈川県警(時事通信)

 乗用車やバイク約70台を連ねて暴走行為をしたとして、神奈川県警交通捜査課は31日、道交法違反(共同危険行為)容疑で、関東最大規模の暴走族組織「全日本レーシング連盟」リーダーの無職伊藤健志容疑者(40)=横浜市鶴見区潮田町=を逮捕した。
 同課は、これまでに同容疑で同連盟メンバー19人を逮捕。最高齢は41歳だった。伊藤容疑者らは、暴走族OBらが旧型オートバイなどを改造して集団走行する「旧車会」と呼ばれるグループだという。

 去年の春、東京湾フェリーで房総半島に渡ってツーリングをした時のこと。千葉県側、金谷のフェリーターミナルでフェリーを待っていたら、そこに盛大な爆音をまき散らし、数十台の“族仕様”バイクの集団がやってきた。ナンバーを見ると横浜が主だった。もう「湘南爆走族」から出てきたような上向いたロケットカウルのバイクにファッション。う゛ぁんう゛ぁんふかして蛇行運転。その数30台ぐらい。

 なんだなんだ、 房総半島のどこかにタイムトンネルが開いて、バックトゥザ80sにでもなっているのか?

 ぞろぞろと、湘南爆走族ファッションの連中が降りてくる。ドカヘルをはずして白マスクを取ると、全員三十過ぎのおっさんフェイス。

 びっくりしたなんてもんじゃない。族なんてもんは十代のバカガキがやるもんじゃなかったのか。こいつらは何者だ?
 というわけでバイク関係の知人やらバイク屋経由で少し調べたのであった。

 連中の正体は旧車會というオヤジ暴走族だった。かつて暴走族だったオヤジ共が、またぞろ同じ格好して同じことをしていたのである。

 以下、一般に暴走族と呼ばれている連中の事を、ネットの呼称に従い「珍走団」と記述する。同様に旧車會は「珍車會」と書く。だいたい、「旧」の旧字体は「舊」なのに、「旧車會」などと名乗っている時点でおつむの程度は知れようというものだ。彼らには「珍」の文字がふさわしい。

 調べた結果は以下の通り。


  • 暴走族珍走団あがりの30歳以上が、過去を懐かしみ「旧車會」と名乗って、暴走行為珍走行為を行っている。
  • その手の連中は全国にけっこういるらしい。「旧車會」で検索をかけるとけっこうな数のホームページがひっかかる。しかもレディースまでいる(見たくない…)。YouTubeに自らの暴走行為珍走行為をアップしていたりもする。
  • まっとうなオールトタイマーなバイクの愛好家の集まりは、主に「旧車会」を名乗っている。一方、珍な連中は「旧車會」
  • 彼らは自分たちの行為を暴走行為ではないと主張している。その根拠は「制限速度を守っているから」。実際走っているのを見ると、そんなに飛ばしているということはない。しかし、制限速度を守っていれば、他はなにをやってもいいというのは、中二病だ。中年にして中二病…
  • バイクは、GT380やら、KH250/400やら、CB400やら、要するに彼らが現役の暴走族珍走団だった頃のバイクにそのまま乗っている。しかも天を突くロケットカウルに白のシートといった、いわゆる珍仕様。
  • あきれたことに珍仕様の中古車を扱うショップも存在する。そこにいくと、例えばぴかぴかの珍仕様のGT380が100万円もの高値で売買されているとのこと。
  • つまり、旧車會珍車會とは、大人の財力でかつての暴走族珍走団バイクを購入し、いい歳して暴走行為珍走行為にふける大人の集まりである。
  • 路上で観察するに、湘南海岸近辺には横浜ナンバーと小田原ナンバーの旧車會珍車會が出没している。どうも神奈川県内に2〜3、あるいはそれ以上の数の団体が存在する模様。

 大人の財力で、中学生みたいなことをしている——これほどまでに情けない、惨めなバカというのもちょっと他には考えられない。

 が、彼らの何が一番惨めかといえば、「ガキんときにバカだった奴は、大人になっても結局バカで、賢くはなれないよ」という実例を、子供達の前に晒して回っていることだと思う。

 ちなみに、今でも湘南海岸にはガキの暴走族珍走団がいる。数は減ったし、かつてのように数十台も連ねて走ることはないが、それでも珍なバイクに乗り、道交法無視で走っている連中はしょっちゅう見かける。

 十代の子供が、中二病であったりバカであったりするのは一面では仕方ないことだ。そんな彼らの心の中には、「大人になったらまともになるんだ」的な希望があったりする。尾崎豊の「15の夜」で、バイク盗んで走り出しちゃう15歳のおバカちゃんが、「彼女ときっと将来さ」とか、いかにも中二な夢を見ている——あれだ。

 旧車會珍車會の行いは、そんな十代の暴走族珍走団の連中の心にある希望を、こなごなに打ち砕くものであるといえるだろう。バカはいくつになってもバカなんだよーん、お前らは大人になっても賢くはなれないんだよーん。ほーら実例がここに。う゛ぁんう゛ぁん。

 そう考えると、横浜ナンバーの旧車會珍車會ご一行様が東京湾フェリーでわざわざ千葉まで行って、暴走行為珍走行為をしていたのも、「地元だと嫁と子供の手前、外聞が悪いから」じゃないかと勘ぐりたくもなる。

 今回捕まったのは、横浜の旧車會珍車會の連中だそうだ。神奈川県警としてはもっと徹底的に仕事をして欲しい。その上で法の許す限りの厳罰が、彼らに科せられることを願う。

 彼らは自身がバカで、周囲に迷惑をかけるだけではない。かつての彼らと同様の、愛すべきバカガキ共の希望をも踏みつぶして回っているのだ。もちろん中二病の希望に根拠などないのだが、それでもどんな子供であっても、子供には希望が必要なのだ。

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