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2010.06.14

見たぞ、はやぶさの凱旋(確定版)

 昨日の速報版の完全版です。ほぼ同じ内容ですが、一部の訂正と追加を行い、写真を追加しました。前のアップを消してこちらをアップしようかと思いましたが、当日のハイな気分の記録を残すため別記事として掲載することにします。

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 6月13日の朝、観測地下見のためにニコニコ動画の生放送「ニコ生」一行とクーバーペディのビジターセンターで待ち合わせる。野尻さんがTwitterで呼びかけると、およそ10名ほどの日本人がこのオーストラリアの辺境であつまった。なかにはmixiで仲間を募り、レンタルのキャンピングカーで走ってきた猛者らもいる。車両にはやぶさマークを貼ってアデレードから走ってきたとのこと。オーストラリアではやたらとキャンピングカーを見る。ワーキングホリデー中のIさん曰く、定年退職後の楽しみとして回っている人が多い。

Reentry2

 ここで、ニコ生一行は買い物に回ったが、とんでもないことが判明。野尻さんと三才ブックスのSさんが、パスポートの入ったバッグを忘れていった!一見落ち着いていた野尻さんだけれども、実はかなり舞い上がっていた模様。彼らのホテルに忘れ物を届けてから下見に出発。スチュワートハイウェイを南下する。

Reentry3_2 下見の結果、クーバーペディから90kmほどスチュワートハイウェイを南下したところにある休憩のための駐車場ではやぶさを出迎えることにする。

 クーパーペディに戻って昼食はイタリア料理屋でピザ。野尻さんの呼びかけで知り合ったAさん、Oさんをクルマに乗せて観測場所に向かうことになる。Aさんはコマケン(小松左京研究会)メンバー、Oさんはその友人でオーストラリア労働ビザ取得を目指す看護士さん。

 6月13日午後は、クーバーペディの観光に費やした。クーバーペディは世界の9割を占めるオパールの産地だ。オパールはシリカを含む水が泥岩の割れ目にしみこみ、長い年月の間に作り上げる。オパールが出るということはその場所の地層が数億年のオーダーで安定していたということだ。
 かつてのオパール鉱山を改装した博物館を見学する。クーバーペディは1980年までテレビ放送が入らない、文字通り地果つる地だったとのこと。

 雲はかなり心配だったが、午後4時半の出発時点でかなり晴れていた。出発直前、国立天文台の渡部潤一先生に行き会う。国立天文台組はクーバーペディから30kmほど離れた自動車の入ってこない地点から観測するとのこと。しかも観測後はそのまま、明け方まで南天の夜空の撮影会に突入するという。さすが本職は力の入れ方が違う。渡辺先生は、酒瓶らしきものを手に提げていた。「お祝いに、ね」

 午後5時半に観測場所に到着。ニコ生組はすでに到着し、セッティングを行っている。

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 日が沈む。360°地平線の風景が夕焼けで染まる。美しいの一言に尽きる。これを見ただけでいいやと思いかけるが、その後にはもっと素晴らしいものがあった。南半球の夜空だ。

 全天快晴、透明度最高の夜空。南十字星も大小マゼラン雲もはっきりみえる。野尻さんが「石炭袋がくっきりと見える」と喜んでいる。ああ、もうこれが見られただけで、今回はいいやという気分になる。いや、今度は星空のためだけにオーストラリアに来たい。私はいて座方向の銀河中心を見ているうちに、猛然と行きたくなった。そちらに行くのが正しいかどうかは別として、だが。
 宇宙開発の是非を議論するならば、まずはこのような夜空の下で一夜を過ごすべきなのだろう。見て、なお「不要」と言える人がいるとは私には思えない。

 待っているうちに、雲がまたも出てくる。雲は増え続け、午後9時頃には全天を覆うかというほどに広がった。一時はどうなることかと思ったが、再突入30分前あたりから風が吹き、雲が減り始める。ニコ生の主催者nekovideoさんが機材を必死でセッティングしている。通信料金が分3000円というインマルサットの衛星携帯の出番だ。

 これは行けるかも、という気がしてくる。

 デジカメで夜空を撮影するが写らない。撮影を一切あきらめ、眼視に徹することにする。

 はやぶさの突入時刻となる。

Narureentry1
(撮影:平田成)
 まず、西南方向の雲が非常に明るく光った。機体が大きく分解した際の光だと思う。

Narureentry2
(撮影:平田成)
 次の瞬間、雲の向こうから煌々たる光の帯が飛び出してきた。良く見ると先端には橙色の輝点、再突入カプセルだ。その後に尾を引き、四散していくのは本体だろう。分解していく機体は時折緑色の光を放っている。銅の炎色反応かと思ったが、後で聞いたところでは再突入で発生した酸素のプラズマの輝きだとのこと。

 高度60kmほどだが、あまりに速く、明るいので遠くに思えない。航空ショーなどで目の前をジェット機がフライパスしていく――その様と似ている。

 機体が四散していくのがはっきり分かる。大型太陽電池パドルが、ハイゲインアンテナが、イトカワを観測したセンサーらが、サンプラーホーンが、長期の航行に耐えたイオンエンジンが、飛散し、分解し、輝き、燃え尽きていく。

 先頭でオレンジ色に輝く再突入カプセルの飛行は安定している。揺らぎは見えない。カプセルの空力設計がうまくいった証拠だ。

 揺らぐことなくまっすぐ飛行する再突入カプセルが、輝きの尾を引いて飛散する機体を従え、南オーストラリアの星空を横切っていく。これは凱旋だ。今やはやぶさの本体(ここはウェットに“魂”というべきなのか?)は機体から再突入カプセルへと移り、分解する機体を従えて、堂々地球への凱旋を果たしたのだ。

 その間数十秒ほどか。やがて本体の光は消え、再突入カプセルの輝点も南東方向の夜空に溶けていく。音速を切るさいのショックウェーブが聞こえるかと耳を澄ましたが、聞こえなかった。

Reentrya

 野尻さんが「ビーコン受かったよ!」と叫ぶ。ストップウォッチを押してビーコン継続時間の計測を始める。スピーカーから、オクターブ違いの音を往復するビーコン信号が聞こえてくる。
 ビーコンは再突入カプセルの耐熱シェルがはずれると作動する。シェルがはずれたことは間違いない。3分、5分とビーコンは続いた。この時点でパラシュートが開傘したと考えて大丈夫だ。でなければ、カプセルは大地に激突し、とっくにビーコン送信を停止しているだろう。

Reentry9_2 nekovideoさんのアドホックな助手、通称「neko奴隷」君が、特製八木アンテナをかざしながら泣いている。三才ブックスのSさんが、「この日のために」とリポビタンDを配る。ニコ生のカメラの前で、全員リポD一気飲みをする。

 ビーコン音が小さくなり、ノイズが混じりはじめる。地表が近づいているのだ。着地するとビーコン音のパターンが変わるはずだが、変化の前にビーコン音はノイズに没した。それでも着地直前まで聞こえていたはずだ。

 その後、クーバーペディに戻り。某オーストラリアの大学の観測班との飲み会となる。
 開発開始から14年、打ち上げから7年。飛行距離60億km、地球から直線距離で3億kmの彼方まで赴いた探査機は、地球に帰還した。機体は四散し、燃え尽きたが、再突入カプセルは無事に着地し、回収を待っている。

 何度でも繰り返そう。これは始まりの終わりにすぎない。私たちにはこれから行くべきところがいっぱいある。


6月13日深夜、相模原における記者会見での川口淳一郎プロジェクト・マネージャーの言葉

 我が国の技術は潜在的に高い。

 もっと自信を持って良いが、なかなか場が与えられていない。今後もっと進められるのでは。



 挑戦することにためらいを持たないでほしい。



 今日ではやぶさは終わるが、技術の風化と拡散が始まっている。伝承する機会がもう失われているかもしれない。

 これを理解してもらい、将来につなげるミッションを立ち上げる必要がある。

 意気込みはもう強い、としか言いようがない。

 アメリカの計画は、はやぶさが火をつけた。

 身を引くような宇宙機関はあってはならないと声を大にして言いたい。

 おかえりなさい、はやぶさ。そして次のステップへ。


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Comments

本当に皆様、お疲れ様でございました。   オカエリナサイ。

ありがとうございました。
鉄は熱いうちに、といいますが、
この熱い状態の裾野の熱がひかぬうちに何か出来ることは無いだろうか、と考えます・・・。
国民の側から、という意味合いで、何かの動きを、ということで。
政府側に個人でも意見を伝えることもそうですが、
まだ何かあるんじゃないだろうか、と
思っています・・・。自分に何が出来るだろうか。

Posted by: 須田 浩之 | 2010.06.14 10:11 PM

ご苦労様です。
はやぶさを内之浦まで運んだのぶです。
今改めて、その時の運搬契約書類のファイルを見ながら、今回の偉業に、ほんの少しでも貢献できたかなと感慨に浸っています。
そのファイルには、運搬時に撮った写真、宇宙研ホールにある1/1模型を「愛地球博」に分解して展示した資料、平成15年5月10日を初めとした新聞の切り抜きと、はやぶさの7年間の思い出が詰まっています。
ファイルの最後が、帰還という記事で終われる事を本当に幸せに思います。本当にありがとう、よく帰って来てくれた。
今後は、はやぶさ2が実現するよう、出来る事があれば協力したいと思っています。
(あかりを運搬した時に、ロケット班の方にM-5-8号機のある組立棟内部を案内してもらったのが、人生最大の自慢です)

Posted by: のぶ | 2010.06.15 08:12 PM

大変恐れ入ります。
署名TVというサイトで、はやぶさ2の署名を呼びかけている者です。
はやぶさ2の予算が危機的状況という報道から咄嗟に作ったため、
松浦様の活躍を知らず、勝手に署名サイトを立ち上げました。
6月15日現在で1万数名の署名を頂いており、はやぶさへの感動、
そしてはやぶさへの想いをそれぞれ綴っています。
もし宜しければ、松浦さまのご指導ご鞭撻を頂戴したいと存じます。
何卒、宜しくご検討願います。

Posted by: 城 大介 | 2010.06.15 10:53 PM

はじめまして、ガジェット通信編集部の永吉と申します。

私どもは、『ガジェット通信』というウェブ媒体を運営しております。
http://getnews.jp/

こちらの記事を、興味深く読ませていただきました。

この記事を、『ガジェット通信』に寄稿という形で掲載させて
いただきたいのですがいかがでしょうか。

掲載の際には、表記統一などのために、若干の修正をさせていただく
場合がございます。
また、元記事へのリンクも貼らせていただきます。

ご検討いただき、下記アドレスへお返事をいただけるとありがたいです。

post2009@getnews.jp

以上、よろしくお願いいたします。
-----------
ガジェット通信編集部
永吉

Posted by: 永吉 | 2010.06.18 12:18 PM

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