2009.06.11

姫のご帰還の報はNASAのほうがはやかったよ…

 宇宙基本計画の後、力が抜けてしまっていたが、そろそろ更新再開するか。かぐやも月に帰ることだし。

 と思って、姫様の月帰還を見守るべく早寝早起きした今朝。

 私のところに「かぐや月面に衝突」を一番はやく教えてくれたのはTwitterにNASAが開設したLCROSS_NASAというアカウントだった。アカウント名で分かるようにルナ・リコナイサンス・オービターと同時に打ち上げる、月面衝突型の探査機LCROSSの広報アカウントである。

LCROSS_NASA

 午前3時50分に

# K’s impact angle much lower, slightly lower speed. Sun angle for ejecta not optimal. Not hitting a PSR, targeting accuracy not well known.

と書き込みがあり、続いて午前3時53分に

# Kaguya impact: geometry low sun angle, ejecta hard to see, flash expected, interest to look for fresh crater, great target for LRO to find.

と書き込まれた。

 ああ、日本の探査機の最後をNASA経由で知る、この脱力感。

 これは広報体制の組み方の失敗…というよりも、ここ数ヶ月の間にアメリカでTwitterがマス向け速報メディアとして急速に膨張したことを押さえていなかった、JAXA広報の社会情勢への感度の悪さの問題だろう。JAXAも国際宇宙ステーションはTwitterアカウントを持っているだけれども。

 ハイビジョン映像を、当初はカナダ経由でハッキングまがいのことをして見るしかなかったり、かぐやにはどうも情報流通の悪さが最後までまとわりついたな、という印象だ。


 アメリカのネット周辺の環境についての最新情報は、メディア・パブを読んでいれば、だいたい押さえることができる。

メディア・パブ

 かつて日経BPにおいて、我々下っ端記者から切れ者として恐れられた田中善一郎さんが、定年後に個人的に始めたblogだが、「さすが善さん」というほかない、切れ味のよいページである。

 JAXA広報に限らず、企業広報関係者は必読。

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2009.04.08

【重要】4月3日の宇宙開発戦略本部会合の資料をアップしました

 2009年4月3日に開催された宇宙開発戦略本部・宇宙開発戦略専門調査会第6回会合に提出された資料を、handsout.jpにアップした。

 これらの資料は、まだ宇宙開発戦略本部のホームページで公開されていない。これまで会議開催から2週間後にアップされていたので、おそらく4月20日前後には掲載されるのだろう。

 しかし、これらの資料は4月3日の会合開催後の記者クラブ向けのレクチャーで主要マスコミ各社に配布されている。つまり機密資料でもなんでもない。
 しかも話を聞いていくと、宇宙開発戦略本部から内閣官房のホームページ担当のほうには、会議当日にファイルが渡っていることも判明した。宇宙開発戦略本部には、関係各方面から「早くアップしてくれ」「なんでそんなに遅いのか」と苦情が集まっているとのこと。要するに内閣官房のホームページ担当の不手際で、掲載が遅れているのである。

 この4月3日の会合では、今後5年間の日本の宇宙開発の進路を規定する「宇宙基本計画」の骨子案が提出された。これはいち早く、なるべく多くの人が読むべき書類である。多くの人が読み、自分の意見を形成していくことで、今月末から予定されているパブリックコメントに多数の意義ある意見を集めることができる。
 公開が遅れるほどに、日本という国の宇宙開発全体の利益が損なわれるであろう重要な書類と言わねばならない。

 そこで、内閣官房Webページ担当が行うべき仕事を、私が代行すべきと判断し、当方が入手できた書類データを、このような形でアップすることにした。

 宇宙開発、科学技術政策、外交・防衛などに興味のある方は、これらの書類をじっくり読み込んで、来るべきパブリックコメントに応募してほしい。これは、私たちの税金で実施される宇宙開発の将来を決める重要な書類である。

 独自有人宇宙活動がどうなるのか、「はやぶさ2」「同Mark2」が実施できるのかどうか、「かぐや」後継月探査はどうなるのか、GXロケットは、次期小型固体ロケットはどうなるのか——すべて、「宇宙基本計画」にどんな文言が盛り込まれるかで決まってくるのである。

 霞が関の書類は、とにかく量が多く、読み込んでいくことが大変だとは思うが、それでもこれらは読む価値がある。

 今回の資料の中で、まず読むべきはこの「【資料2-2】宇宙基本計画骨子案」である。





 合わせて、【資料2-2 別紙2】ニーズに対応した5年間の衛星等の開発利用計画(10年程度を視野)(案)を読むと、今後具体的にどの宇宙計画をどう進めようと考えているかが分かる。





 宇宙開発戦略本部が、現状をどう見ているかは【資料2-2 別紙1】主なニーズと衛星開発利用等の現状 10年程度の目標(案)を読み込めば一目瞭然である。





 今後の日本の宇宙開発体制、特に文部科学省から内閣府へという流れは【資料1-2】宇宙開発利用体制検討WG中間報告に掲載されている。





 宇宙基本法は、理念を定めた基本法であり、実際の宇宙活動に当たっては具体的行動を定めた実施法である「宇宙活動法(仮称)」の制定が必要となる。すでに官庁や産業界、さまざまな関係者は宇宙活動法の内容に自分たちの要求を盛り込もうとして活発に動いているが、宇宙開発戦略本部での議論で浮上した内容は、【資料3】宇宙活動に関する法制検討WG検討状況で読むことができる。





 私の意見については別途まとめることにする。とにかく今は、一人でも多くの人がこれらの書類をじっくり読み込んで、自分なりの意見を固めていくことが大事だと思う。繰り返すが、これらは私たちの税金で実施される、私たちの宇宙計画なのである。


 これらの資料公開の遅さに限らず、内閣官房の情報公開担当者は、ネット時代の情報流通を理解していないとしか思えないふしが見受けられる。

 例えば、先だってのテポドン2発射の時の「北朝鮮による飛翔体事案関連情報 官邸において発表された情報を、順次掲載しています。」というページ。
 一刻も早く国民に伝えなくてはならない情報を、通常のHTMLファイルではなく、1)閲覧にワンステップ必要とするpdfファイル、2)しかもわざわざプリントアウトをスキャンした画像ファイル——で、掲載している。何を考えているのやら。

 某国方面からのクラッキングを警戒したのかもしれないが、ミサイルにせよロケットにせよ、打ち上げは十数分程度で終わるものなのだから、ここはいかに迅速に情報をエンドユーザーが閲覧できるかが勝負の分かれ目だろう。何が大切なのかが判断できていないという印象だ。

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2009.04.03

イモリとカエルと宇宙生物実験

 3月7日付けの「タチの悪い冗談、ないしは本当の悪夢」で「そもそも、今までイモリの受精卵以上の生命を打ち上げたことのない日本(1995年に実験衛星SFUでイモリの受精卵を打ち上げ、スペースシャトルで回収している)が、有人軌道周回を抜かして突如として有人月探査を言い始めるあたり、どうにもこうにも怪しい。」と書いたが、この件で宇宙科学研究本部の山下雅道教授から、「ちょっと違いますよ」という連絡が来た。

 正確には、受精卵を打ち上げたのではなく、軌道上で受精したらしいのであった。

 以下、山下教授からのメッセージと、送られてきた画像である。共に許可をもらって以下に転載する。


Jointsfua 打ち上げたのはイモリの雌の成体2個体でし た。軌道上(推定)でメスの総排泄孔内にたくわえられていた精子により受精した卵がえられ発生が進みました。日本から日本のロケットで宇宙に送られた生物としてはじめてでありました。ただしイモリを SFUに載せたのは打ち上げのおよ そ1ヶ月前で、打ち上げ時に内部電源にきりかわるまで実験固有のライフラインをつなぎ、生命維持のための給電・モニターを連続して実施していました。

 写真は SFUをフェアリング組み立てにのせるところで、左で片膝ついてイモリ・ケーブルをガイドしているのは代表研究者です。

 実はこのメッセージ、当該記事の掲載直後にもらっていたのだけれども、忙しさのためにここまで掲載を遅らせてしまったのだった。山下先生、申し訳ありませんでした。

 メッセージは、日本初の宇宙生物実験である、1990年の秋山豊寛さんが宇宙ステーション「ミール」に行った際のカエルを使った研究にも触れていた。

 秋山さんの飛行は、色々と刺激的だったな、と思い出す。「政府関係でアメリカに頼むよりも、ソ連に金で頼んだほうが早い」というのも驚きだった(今となっては常識だ)し、初めて西側のカメラが入ったミールの船内も見るもの聞くもの全て初物尽くしで面白かった。

 確かカエルを詰めた実験装置はISAS手作りで、その辺で買ってきた食品容器の流用だったはずだ。当時、私の同僚が宇宙研の黒谷明美さんに取材に行って、「NASAだと、嫌になるぐらい大量の“安全です”という書類を書いて積み上げないとOKが出ないものが、ソ連だと、その道の権威というか責任者がいて、その人が実験装置の実物を見て『OKだよ』と一言いえばOKなんだそうな」などという話を聞いてきて、米ソの方法論の違いにのけぞったのもなつかしい。

 日本初の宇宙飛行士が、ソユーズ宇宙船でミールに行ったジャーナリストであるということも、そして日本初の宇宙生物実験が、スペースシャトルでも国際宇宙ステーションでもなく、ミールで実施されたといういうことも、今後を考えていく上で、絶対に忘れてはならないだろう。
 歴史的事実を、無視したり忘れたりするとたいていろくな事にはならない。「日本最初の宇宙飛行士は毛利衛さんで、最初の宇宙実験は1992年にスペースシャトルで実施したFMPT、愛称“ふわっと'92”だ」などと思い込んでいたら、今後もとんでもない判断ミスを犯すことになるだろう(宇宙開発戦略本部長である麻生首相は大丈夫だろうか)。

 そうだった、“ふわっと'92”が、最初は“ふわっと'91”だったことも忘れてはいけないな。そして、そもそも毛利さんらの飛行は、3人が選抜された1985年末の段階では1988年の予定だったということも。

 “ふわっと'92”の時は、「毛利さんも7年も待って大変だな」と思ったが、今や角野直子、古川聡両飛行士は選抜から飛行までが10年超になっているのに、誰も「随分とひどいものだ」とは思わない(そうだ、土井隆雄飛行士は、選抜から飛行まで12年かかったのだったな)。

…これで、物事が前に進んでいると言えるのかどうか…ねえ。

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2009.04.02

ロケットはどこまでも上へ、上へと宇宙の彼方に突き進んでいく…わけではない

 北朝鮮が数日中に打ち上げをするということで、記事を書いたり問い合わせに出来る範囲で答えたりといったことをしている。

 その合間にネットをさ迷っていると、イラストレーターの速水螺旋人さんが、3月29日付けの日記で以下のようなことを書いていた。

北朝鮮の銀河2号打ち上げ関連についてmixiを眺めていると、ロケットやミサイルについて相当初歩的な情報も知られていないのだな、と痛感しました。「人工衛星なら真上に打ち上げればいいのに、東へ発射するのはおかしい」とか……いやその……。

 「ああ、そうだわなあ」とうなずいて読み進むと、コメント欄にローランさんということがこんなことを。

……すいません(汗)あたくしも「え?真上に打ち上げるんじゃないの?」とおもってました。書き込みをみても「なるほど、原理はわからないが、東にうちあげなければならないのか」としか考えれませんし。 (中略) さほどニュースを知らなくても明日は来ますし、人工衛星のことを知らなくても拙いことはおこりませんでしたし、だからじゃないでしょうか、知らない人が幾人も居たのは。

 もっと頑張って記事を書かねば、と思ってしまった。

 多分にローランさんのような方は非常に多いのだと思う。「普通の人にとって地球は平らで、地球が回るのではなく太陽が東から昇って西に沈むのだ」とは笹本祐一さんの名言だが、実際そんなもんだと思う。なによりも、それで日常生活には支障ない。それは責められるようなことではない。日常生活の範囲内ならば。

 しかし逆にいうならば、日常生活の常識で宇宙の事を考えてしまうととんでもない間違いをしでかしてしまうことになる。せいぜい200km、東京-浜松間にも届かないような距離に垂直に登り、地球を周回する軌道に入るだけで、地上に生きる我々の生活感覚は通用しなくなる。

 もしも地球が完全に均一な球で空気もなかったら、ロケットは真横に向けて打つのがもっとも効率的なのだ——知ってましたか?

 この件に関しては日経PCOnline連載に書いたので、興味のある方は読んでほしい。

 普通の人が宇宙の事を知らなくとも、別にどうということはない。しかし宇宙基本法成立以降、宇宙の事を政治家が知らないとなると、それは罪であり怠慢であると思う。彼らの意志決定が、私たちの宇宙開発の未来を決めるのだから。

追記その1:この記事を書くにあたって、速水さんの日記を再訪してみたら、コメント欄で私の記事を紹介してくれている方がおられた。ありがとうございます。

追記その2:同じく速水さんの日記に書き込まれたコメント。

……まあアレですよね、アレが西へ飛ぶものだろうが東へ飛ぶものだろうがウチら帰化人にとって「アレが物凄い迷惑の元」って事には何の変わりもないんですよねー。 こっちらはただでさえ色々と肩身が狭いっていうのに(つか、帰化したんだからあっちとはもう何の関係もないっつーのに!)拉致やらミサイルやら核やら何やら、マトモな元同胞が「チョーセンジン」って指をさされるようなネタを振り込むのはいい加減やめてくださいよ将軍様と思ってしまうこの頃……

 いや、本当にそうだろうなあ。

追記その3(4月3日17:45):私は見ていなかったのだけれども、今日になって読売テレビの「情報ライブ ミヤネ屋」で、森永卓郎氏が「人工衛星は上へ飛んでいくのに、なんで日本の上を通っていかなきゃならないんだ」と発言したとのこと。メディアに出るということは、世間に影響力を持つということだから、せめて知らないことは話さないようにしないと…。他人事ではないなあ。

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2009.01.05

ディスカバリーチャンネル「怪しい伝説」で月着陸捏造説が論破されている

 ただいま、5日の午後11時半、ディスカバリーチャンネルの名物番組「怪しい伝説」で、「月着陸のウソ、ホント」をやっている。月着陸はNASAの捏造だったという説が、実証的に論破されている。
 お正月期間に「ベスト オブ 怪しい伝説」と題して、過去のプログラムを放送しており、そのうちの一つとのこと。

 今、番組が終わった。月着陸捏造説は、完全に「BUSTED!」(ウソや!)だった。つまりは「よくある怪しい伝説だった」ということだ。

シリーズ:怪しい伝説
怪しい伝説:月面着陸の嘘ホント

怪しい伝説:月面着陸の嘘ホント
【HV制作】人類の偉業のひとつ月面着陸。全世界で放映された映像は、巨大なPRでNASAによるねつ造だったのか。陰謀説は山ほどあるが、それを検証して確かめた人は誰もいない。それなら伝説バスターズの出番だ。アダムとジェイミーが最初に注目したのは、月面着陸を撮影した写真だった。有名な2枚の写真からわかることとは。そして、彼らは当時の映像に疑いの目を向け、スタジオで撮影したもフィルムの速度を落としたのではないかと考えた。

放送日 放送時刻
12/15 (月) 04:00〜05:00
01/05 (月) 23:00〜00:00
01/06 (火) 05:00〜06:00
01/12 (月) 13:00〜14:00

 あと2回、明日の午前5時と12日の昼13時からも放送する。

 少なくとも「あれはNASAの捏造だ」と思っている人は是非とも見よう。見て、自分で考えてみよう。

 なかんづく、この記事で取り上げた2冊の本の著者である、副島隆彦氏、エム・ハーガこと芳賀正光氏と原著出版時の朝日新聞社出版局局長、及び担当編集者は必見と言わねばならない。
 彼らから、なんらかの申し開きが聴ければうれしいが…まあないだろう。

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2008.11.22

賭博と確率

 昨日の占いの話からのスピンアウト。賭博と確率論の話。

 賭け事で絶対確実に儲ける方法が存在する。胴元になることだ。

 正確に書くならば、確率的に絶対に儲かる状況を設定し、後は試行回数を十分に増やして大数の法則が働くようにするということ。

 だが、誰もが胴元になれるわけではない。

 この状況を打破するには、確率が成立する根本、「すべての事象は同様に確からしい」を崩す必要がある。つまり「確率の偏り」に関する情報を入手すれば、大数の法則から逃れることができる。

 パチンコならば、「どの台が玉が良く出るか」という情報であるし、競馬ならば「どの馬が良く走る素質を持ち、当日の体調が良いか/騎手の才能はいかほどで当日のコンディションはどのようなものか/馬場の状況は…」という情報である。

 麻雀やポーカーは、ブラフによって確率を崩す情報を自ら作り出せるところに面白さがある。

 逆に言えば、このような情報が入手/発生できない限り、儲けることを目的に賭け事には手を出すべきではない。さもなくば大数の法則に絡め取られ、絶対に損をすることになる。これは数学が保証している事実だ。

 つまり、ふらっとパチンコ屋になど絶対に入るべきではない。また、出玉の調査なしに台の前に座るべきではない。また、様々な状況を読む訓練なくして馬券は買うべきではない。「儲けること」を目的にするならば。

 そして、原理的に確率論を崩せる情報を入手し得ない賭け事には絶対手を出すべきではない。丁半賭博、スロットマシン、ルーレットなど。

 個人的に最悪だと思うのは宝くじだ。宝くじは事実上、民が喜んで支払う税金だ。胴元である国からすれば、たまにごく一部の国民に、個人には多額の、国家からすれば少額の払い戻しをすれば、大数の法則によってどばどばと税金が入ってくるとてもうれしい仕組みということになる。
 いっそ、税金もこの形式にしたらどうなんだろう。毎年、数十人ぐらい、申告した年収の2倍の税金が払い戻されるとしたら、みんな喜んで高額納税するんじゃないだろうか。

 楽しむのはいい。が、そこで儲けようと思ってはダメ。宝くじでよく言う「夢を買う」というのはかなり自己欺瞞的な言い分だが、まあありだ。もちろん「夢」は現実ではない、ということを十分認識しないといけないが。

 ちなみに、税金まで考慮すると、宝くじの期待値はかなり高いのだそうだ。それでも1を超えるわけではないのだけれど。

 とまあ、こういうことが理解できる本。以前、書評を書いたらば、出版社から「帯に使いたい」という連絡が来たので、今書店に並んでいるこの本の帯には私の推薦文が載っているはず。非常に面白いので、万人におすすめだ。特に、一攫千金を夢見て宝くじを買い続けたりパチンコ屋に通ったりしている人は読むべき…なのだけれど、そういう人に限って本を読む習慣が無かったりするのだよなあ。
 そもそも、ルネサンス期の賭博師が「儲けたい儲けたい儲けたい…(以下略)」と願い続けたところから必勝法として発達したのが確率論なのだから、確率論も理解せずに賭け事に突撃するのは愚か以外のなにものでもないのだろう。

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2008.10.24

シャックルトン・クレーターの底

 JAXAから月探査機「かぐや」の重要な成果が発表された。月南極点近くのシャックルトン・クレーターに、水は氷の状態で露出していないことが判明した。

月周回衛星「かぐや(SELENE)」搭載の地形カメラによる南極シャックルトンクレータ内の永久影領域の水氷存在に関する論文のサイエンスへの掲載について

-水氷がクレータ底部の表面に露出した形で多量に存在する可能性がないことを明らかに-



20081024_kaguya_5j
画像は、かぐや搭載の地形カメラによる3次元立体視画像のシャックルトン・クレーター。
底に平坦で反射率の高い地形、すなわち“氷の湖”は存在しない
(2007/11/19撮像、Photo by JAXA/SELENE)

 月の極地域。特に地形の厳しい南極には、クレーターの底に永久影という全く太陽光の当たらない地域が存在する。月には何億年にもわたって水分を含む彗星が衝突し続けている。永久影の中で水は、氷の形で昇華することなく存在し続けることができる。このため月の極地域の永久影に、水が氷の形で存在する可能性が指摘されていた。

 月に水があるとどうなるか?人類の宇宙進出が容易になる可能性がある。月の重力は地球の1/6であり、軌道上に物資を運び上げるのに必要なエネルギーはずっと小さい。そして水は電気分解すれば水素と酸素、つまりロケットエンジンの推進剤となる。もちろん生命維持にも不可欠だ。
 月に利用可能な水が大量に存在すれば、月以遠への人類進出が、地球からの物資ですべてをまかなうよりもずっと簡単になる可能性がある。

 シャックルトン・クレーターの底は水が存在する可能性のある最有力候補だった。アメリカの有人月探査計画では、シャックルトン・クレーターの縁に基地を建設することを検討している。クレーター内の水を当てにしているわけだ。

 ところが、かぐやの観測で、少なくとも水は“凍った湖”形で大量に存在するわけではないことが判明した。もちろん、土砂に覆われた“土中の凍った湖”や、氷と土砂の混合物として存在する可能性はあるものの、その量は期待していたほどではないようだ。

 今回の発表は、有人探査を行う前の広範囲かつ包括的な無人探査の重要性を示していると、私は考える。もしも「水があるかも」という期待だけで有人月探査を実行してしまい、多額の予算と努力を投入して月に行ってみたら水がなかったということになったら目も当てられないわけだから。

 そしてまた、アメリカが国際協力での実施を主張している有人月探査計画に、軽々に同調するべきではないことも示唆していると言えるだろう。今回の発表で分かるように、アメリカの目論見は、今後の無人探査の成果でいくらでも覆る可能性を残しているのだから。

 正直なところ、まとまった量の水が存在しないならば、有人月探査を実施する意味は大きく減じるだろう。少なくとも私はそう考えている。水がなければ、月は「それよりも遠く」へとつながる前進基地とはなり得ない。地球・月系の物理学地質学、そして外宇宙観測用機器を設置するための天然巨大プラットホームというのが、月の利用価値のすべてということになる。

 実のところ、ずいぶん前から惑星科学者たちからは「月?きっと水も鉱物資源もありませんよ」とは聞いていた。

 水の存在を示唆したのはアメリカの「クレメンタイン」「ルナ・プロスペクター」両探査機の観測結果だった。特にルナ・プロスペクターの観測は、水素の存在を直接確認しており、「軽くてすぐに宇宙空間へと飛び出してしまう水素が存在するなら、たぶん水の形ではないか」と言われていた。しかし、水素があるから即水があるということにはならない。またH2Oの存在形態は氷とは限らないし、氷であってもまとまって凍った湖のように存在しているとも限らない。
 実際、シャックルトン・クレーターには凍った湖は存在しなかった。

 そして月は進化史上、そもそも大量の水が存在していた期間がなかったということがほぼ確実視されている。地上の鉱山はその生成に水が大きく関与している。水に溶けた元素が濃縮され、一カ所に集まったのが鉱床なのだ。水がなければ、鉱床は存在しない。月に鉱床が存在するならば、地球とは全く異なる、水以外の濃縮メカニズムを考えねばならない。少なくとも現状では、月に有用元素の鉱床は存在しないと考えるほうが理にかなっている。

 月には太陽起源のヘリウム3が存在する。これはアポロが採取したサンプルから判明している事実だ。ヘリウム3は、中性子を発生しない「きれいな核融合」の燃料となる。しかし、ヘリウム3の核融合は、現在地上で研究中の重水素の核融合よりもはるかに難しい未来技術だ。重水素の核融合によるエネルギー生産すらできていない現状で、ヘリウム3を月にまで求める理由は全くない。

 というわけで、私は現状では有人月探査の実施に懐疑的だ。

 国際宇宙ステーションの例を見ても、ひとたび国際協力の枠組みを作って計画が動き出してしまうと、後で不都合が生じても止めることは非常に困難だ。

 「アメリカがやるなら日本も参加しないと」と、拙速で有人月探査へと動く前に、無人探査でやらねばならないことが山ほど存在するということだ。

 無人探査で十分に調べてから、しかる後に「さあ、本当に人が行くべきか」と考えるべきなのである。

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2008.08.25

8/23:JAXAタウンミーティング@岸和田

 8月23〜24日、大阪府岸和田市で開催された日本SF大会「DAICON7」に行ってきた。大会ゲストとして、4つの企画に出演してきた。
 DAICON7では、JAXAのタウンミーティングが同時開催された。SF大会と同時開催というのはJAXAも味なことをする。

 これまでJAXAタウンミーティングを見たことがなかったので、途中までではあるがのぞいてきた。


 以下はSF大会DAICON7とともに開催されたJAXAタウンミーティングの様子。

まず舘和夫広報部長からJAXAの説明。

 「JAXAを知っている人?」、という質問に4割ほどの人が手を挙げる。

舘:驚きました。毎年JAXAは無作為抽出で国民にアンケートをしているのですが、そこでは0.1〜0.2パーセントの正答率です。1000人に一人とか二人ですから、この会場はすごいですね。

 以下舘部長よりJAXAの説明(省略)

 小澤秀司理事から個別のプロジェクトについて説明(省略)

 
質疑応答
Q:「はやぶさ2」の予定はどうなってるんでしょうか。
小澤:はやぶさが戻ってくるのが2010年です。その次については色々な検討をしているますが、これからの5年間ではちょっと予定はありません。その次の5年間に打ちたいと思っています。
阪本成一・JAXA宇宙科学研究本部教授(対外協力室長):何年頃に打つというはとうてい言えないのですが、しかるべき時に打つということで着々準備を進めています。

Q:JAXA独自の技術について。はやぶさでは独自の姿勢制御を使っていると聞いていたのですが、どんなものか。
小澤:はやぶさはホイールによる姿勢制御を行っている。トラブルが出たら地上で同じ部品を使っているかどうか調べる。
阪本:ご質問があったのは太陽の輻射圧を使った姿勢制御だと思う。太陽電池パネルに光を受けることで、重心周りに発生するトルクを姿勢制御に使っている。

Q:実用衛星で失敗は困るけれども探査とか先進的のことでは失敗は込みと考えるべきではないだろうか。かぐややはやぶさは見ていて大変興奮した。サンプルリターンは日本が世界の最先端を走っているのだから、次の探査機を全くやる余地はないのだろうか。
小澤:実用衛星に関する考え方、先進的な衛星とは分けて考えるべきという提案と受け取った。ありがたいことだ。そうしなければチャレンジの気持ちが萎えてしまいます。
 マルコポーロだとかはやぶさ2については、一生懸命やっている。制約条件が2つある、お金と目標天体だ。この2つが2008年〜2012年の5カ年計画ではうまく合わない。欧州かとの協力を含めて考えている。

Q:日本のロケットではやぶさ2は打ち上げられないんでしょうか。
小澤:お金の問題と全体計画の中のバランスだ。皆さんの声は届けたい。

Q:日本のロケットは無理なんでしょうか。
小澤:色々なオプションはあります。全部日本でやる話もあるし、絶対に欧州とやるという話でもないです。決して外国ありきではないです。

司会の舘部長から「はやぶさ以外で何か質問を…」

Q:広報活動がごく普通の人に届いているとは思えない。広報の充実についてはどう考えているか。
舘:なによりの広報は衛星ロケットすべてがうまくいくことだと思う。私たちは、テレビ報道においてJAXAの話題が何秒間放送されたかという調査をしているが、星出飛行士シャトル搭乗のニュースはコマーシャルとして2億円の価値があった。マスメディアの一般への影響力ではまずテレビ、そして新聞という順番になる。講演や展示の影響規模は小さい。まずマスメディアである。どうやってマスメディアに情報を提供できるかを考えている。
 今回の会場は女性の方が多いが、女性の認知度が低い。これをなんとかしたいと考えている。

Q:惑星探査など、つまるところお金の話になるわけだが、チャレンジングな惑星探査などでは寄付や宝くじ方式の活用は考えているか。国の予算を使って失敗を恐れて、萎縮するのは宇宙開発ファンとして悲しいものがある。
小澤:確かにそういう国民の皆さんの支持があればできるのかもしれませんが、まだ「宇宙宝くじ」という発想には行き着いていない。今考えているのは実用衛星のほうで、研究開発目的で通信実験衛星を上げる時に、通信ビジネス会社と一緒にやって、折半できないかということを検討している。これから色々考えていけると思う。
阪本:宇宙科学の分野は魂を揺さぶる部分があって、寄付金の申し出もあります。年1万円未満なら出すよという人は多い。しかし、私は国立天文台勤務時代、そういう申し出があると断っていた。宇宙科学が寄付金で回るということになると残りの基礎科学全体は痩せてしまう。そのことを恐れている。

Q:スペースシャトル後継機としてのオファーが日本にあったという報道があったが、具体的に何があったのか。
小澤:宇宙ステーション補給機HTVのことだと思う。2010年にシャトルが引退する。シャトルの運んでいる物資を何を使って補給するかが問題になる。アメリカはシャトル引退後、新しい宇宙船を作ろうとしている。その過渡期で、今世界で使えるような補給船はないか、という話があったことは事実。しかし新聞報道にあったようにシャトルの後HTVをアメリカが使うという話にはなっていない。

Q:日本の一般は基礎科学に興味がないが、マスメディアはそもそも基礎科学を理解していないのではないだろうか。広報はもう少しわかりやすくマスメディアに基礎科学を伝える必要があると思うがどうだろうか。
舘 なかなか科学には難しいところがあって、今まさに記者さんに伝える工夫を始めたところである。きぼうの実験で実験実施の前に記者向けの説明会を開始した。
阪本:研究者自ら時間を削って広報に出歩いています(拍手あり)。今後にご期待ください。

Q:今日入っているはSFの方なんで色々と特別なんかと思いますが…
 研究と仕事は別にしたほうがいいんじゃはいでしょうか。研究にはお金が必要です。糸川先生は「金を持ってくるのが良い研究者だ」と言っていましたけれど、阪本先生の寄付を受け取らないというのはあまりに後ろ向きじゃないでしょうか。
 今のプレゼンですけれど、宇宙開発事業団ばかりですよね。宇宙科学研究所の話はどうしたんでしょうか。この前S520ロケットの打ち上げの話もプレゼンに入っていませんでしたよね。
 内之浦でも最近はフェンスを張ってロケットをみんなに見せない方向に向かっています。もっと皆さんにロケットを見せればいいじゃないですか。
小澤:ロケットに触れないんじゃないかという話ですが、最近はセキュリティというのが大切になっています。世の中の流れとしてセキュリティを厳しくする流れがある。筑波や相模原に実物のロケットを展示していますから、そちらで見てもらいたい。

 ここで第一部終了。

第二部 阪本教授プレゼンテーション(略)。

以下質疑応答

Q:宇宙基本法の話。制定されても素性がまだよく分からない。今後JAXAはどうなるのか。GXロケットはどうなったのか。M-Vではなぜダメだったのか。
小澤:宇宙基本法は8/27に施行される。私なりの解釈になるが、議論の背景には日本の宇宙開発が研究開発中心だった。それを国の利益につながるようなものにすべきという意志が存在する。国の利益とは国民に役立つということ。そのうちのひとつとして安全保障が出てきている。
 効率的な宇宙開発としての国際協力。国の外交政策とマッチした国際協力を考えねばならない。
 JAXAの見直しも法文に入っている。今はまな板の鯉のような気分だ。
 GXは、今宇宙開発委員会で議論をしている。8月末の来年度予算の概算要求に間に合うように結論が出るはずが、まだ結論が出ていない。私個人の感触では、宇宙基本法の施行により舞台は宇宙開発委員会だけではなく、内閣府の宇宙開発戦略本部も含めた議論になると予測している。まだキャンセルという話にはなっていない。

Q:スペースVLBI衛星のASTRO-Gはもっと干渉計の基線長を伸ばす軌道に入れることはできないのだろうか。
阪本 高分解能の観測を行うためには基線長を伸ばすことと、観測周波数を上げるという2つの方法がある。ASTRO-Gは後者の手法を採用している。

Q:宇宙論的なダークマター、ダークエナジーのような観測は行っているのか。
阪本 高エネルギー物理が関連している。アメリカと共同で行っているGRASTというガンマ線観測衛星にも日本は関わっている。ダークマターの候補に未知の粒子があるが、その対消滅でガンマ線が観測される可能性が指摘されている。

——ここで私は参加企画があったので退席した。

 笹本祐一さんのレポートによると、どうやらその後で以下のようなやりとりがあったそうだ。

 この件については、笹本が質問して確認してみたところ以下のような答えを得ました。
小澤理事「今の中期、2006年から11年までの5年間のあいだには打ち上げ計画はありません。JAXAとしては、2012年から17年の次の中期においてはやぶさ2をぜひ打ち上げたいと思っています」
「なんでH2Aロケットではやぶさを打ち上げないんですか?官需だし、打ち上げ機会の増大にも繋がると思うんですが」
小澤理事「H2Aではやぶさ打ち上げというオプションも、もちろん検討しています。H2Aでさまざまな衛星を打ち上げたいと考えています。科学衛星も、ものによっては上げます。用途に合わせて効率良くロケットを上げていきたいと考えています」

 これはひょっとすると期待が持てるかも、だ。小澤理事は、経営企画と宇宙探査を担当している。その本人がJAXAとしては、2012年から17年の次の中期においてはやぶさ2をぜひ打ち上げたいと発言している。

 はやぶさ2の計画は当初2010年打ち上げを目指していたものが、予算が付かなかったり、海外の打ち上げ手段調達を実施条件に付けられたりで、ずるずると遅れている。

 私は、2014年打ち上げがタイムリミットと聞いている。これ以降になると今のところ適当な目標天体が存在せず、その次のチャンスが2018年になるのだという。こうなると、「マルコポーロ(はやぶさMark2)」と実施時期がかぶってしまうので、「はやぶさ2」は自動的に消滅する(8/26追記:つまり、はやぶさ2が消滅すると、日本の小惑星探査は2003年打ち上げのはやぶさから15年も空いてしまうということになる。あれほどまでの成果を挙げたミッションに対してあまりにひどい仕打ちだと思う。なによりも15年も空けてしまうと、はやぶさで蓄積した技術も、育てた惑星科学の研究者も散逸してしまうだろう。そしてもちろん、現状ではマルコポーロを2018年に打ち上げられる保証などない)。

 逆に言えば2013年か2014年打ち上げとなると、たとえ海外の打ち上げ手段調達が失敗に終わっても、H-IIAによる打ち上げがあり得るということだ。

 担当理事がタウンミーティングでそう発言したのだ。今後に注目しよう。

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2008.07.19

宣伝:7月20日(日曜日)、阿佐ヶ谷ロフトAに出演します

開場18:00/開演19:00でした!訂正し、お詫びいたします(7/20 16:36)

 自分がメインの出演ではないので、うっかり前日告知になってしまいました。

 「社会科見学に行こう」シリーズの、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の回に出演します。「日本列島は沈没するか?」を共同執筆した西村一さんに引っ張り出されました。聞き役に回るつもりだったのですが、色々話すことになりそうです。


7.20(Sun) 見学ナイトvol.13
<深海の夜〜地球シミュレータは電気プランクトンの夢を見るか?>

松浦晋也(ノンフィクション・ライター)
西村 一(JAMSTEC)
開田裕治(特殊イラストレーター)
開田あや(官能小説家)
【司会】
小島健一(社会科見学に行こう!主宰)、
柴尾英令(ゲームクリエーター)

 海洋を研究している研究所がなんでスパコンが必要なんだろう?地球シミュレーターで何を研究しているの?そもそもスパコンって何よ?そんな疑問を抱いた方は是非会場にお越し下さい。ドキっ、スパコンだらけの3時間です。
 簡単な話から入りますので、初めての方もお気軽にお越し下さい。

主催:社会科見学に行こう!
http://kengaku.org/

7月20日(日曜日)開場18:00/開演19:00

場所:阿佐ヶ谷ロフトA(Asagaya/Loft A)
杉並区阿佐谷南1−36−16−B1(地図)
TEL:03-5929-3445

前売 ¥1000 / 当日 ¥1500(ともに飲食代別)
事前予約はイベント前日の7月19日いっぱいまで受け付けます。
※ご予約希望の方は
メールタイトルを「7/20深海の夜予約」とし、
本文にお名前(ハンドルネーム可)と、参加人数を書き込み
ivnt@kengaku.org までメールをください。

Asagaya/Loft Aでも電話予約受付中! 03-5929-3445

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2008.07.07

地球環境問題と気象衛星の価値

 気象衛星について書いたならば、アクセスが集まったので、この件を別の視点から見てみることにする。

 地球温暖化だ。

 ここに来て、「地球温暖化は本当に起きているのか否か」という議論が急速に高まっている。何をいまさらと思う人もいるだろうが、この問題はそう簡単ではない。

 本当に地球は温暖化しているのか、しているなら今後どうなるのかは、専門家の間でも意見が分かれている。確かな見通しが欲しければ基礎データの観測を積み上げなくてはならない。

 気象衛星はそんな基礎データを取得している衛星なのである。

 ところが次の気象衛星がどうなるかすら不明確なまま、今現在、洞爺湖ではサミットが開催されている。

 今の地球温暖化の議論は、そういった科学に必要な基礎データの積み上げが不十分なまま、排出権取引というビジネス、つまりはカネが動く話になってしまっているところが、どうにもうさんくさく思えるのである。

 以下、ここ数ヶ月の個人的な体験の話。

 3月に宇宙作家クラブの例会にて、東京工業大学の丸山茂徳教授の講演を聴いた。丸山教授は、地球物理学者。地殻のプレートの動きを考えるプレート・テクトニクスという考え方に対して、マントル層の対流まで考えるプルーム・テクトニクスという新しい概念を提唱した碩学だ。地球環境問題に関しては、地球は温暖化などしていない、むしろ今後寒冷化へと進む可能性が高いと主張している。

 丸山教授の主張は以下の通り。

・地質学的な長周期の気候変動要素はすべて今後寒冷化に向かうことを示している。
・温室効果ガスとして環境にもっとも大きな影響を与えるのは水蒸気であり、二酸化炭素の影響は水蒸気にくらべればずっと小さい。
・地球の平均気温には、地球の何%を雲が覆っているかが大きな影響を与える。

 ここで丸山教授は雲の成因が宇宙線にあるという説を採用する。雲がなぜできるのか——銀河系空間からの高エネルギー宇宙線が地球大気に当たることで、ちょうど霧箱と同じ原理で雲の核が発生して成長するというのだ。
 これが真実ならば、地球の気温ははるか銀河系空間から飛来する高エネルギー宇宙線の量によって変化することになる。人間が、二酸化炭素をだしたからどのこうのということではなくなるわけだ。

 丸山教授は、数億年オーダーの地球環境の変動を調べることが専門なので、ここ数十年の気温の上昇などは、「過去にもよくあったこと」と判断しているようだった。実際縄文海進の頃は、三内丸山遺跡のある青森付近が住みやすい温暖な気候だったわけだし、その時期に西日本がどんな気候だったかといえば、今よりもずっと暑かったのだろう。

 6月には、「次世代安心・安全ICTフォーラム」というイベントで、東京大学の住明正教授の講演を聴いた。住教授は、気象予報を専門としており、東大の地球維持戦略研究イニシアティブという計画の統括ディレクターを務めている。

 住教授は、今現在実際に地球は温暖化しているという立場で、そのための対策などを語ったのだが、その中で印象的だった温暖化の根拠は、コンピューター・シミュレーションによるものだった。

 現在の知見で地球の数理モデルを構築し、過去の地球の平均気温のデータの変動をシミュレートすると、だいたい良く合うというところまで来る。人為的な二酸化炭素の増加を抜きで計算すると、20世紀以前の部分の気温変動を良く説明できる。そこで、人為的二酸化炭素の増加を考慮して計算すると、これまた実際の気温変化と合致する。
 つまり、それなりに未来を予測可能なシミュレーション・モデルが確立しつつある。そのモデルで今後を予測すると、21世紀末には今以上に地球全体が暑くなるという計算結果がでる。

 地球温暖化に関して、これだけ対立する意見が、専門家の間でも存在し、お互いに批判し合っている(お二人が直接対立しているわけではない。たまたま私が短い間隔でお二人の講演を聴いただけであることに注意されたし)。

 例えば、丸山教授にすれば、現在のコンピューター・シミュレーションは地質的年代に比べれば大して長期間というわけでもない過去の気温データに合致するように、数理モデルの中の調整可能な各種パラメーターを人為的に調整しているだけだということになる。

 逆に住教授の立場からすると、雲の成因が銀河系空間から来る高エネルギー放射線だなどと、どこに根拠があるのか、ということになる。

 なぜ、専門家の間でも、これほどの意見の相違が存在するのか——個人的に色々と調べてみると、見えてくるのは圧倒的な基礎データの不足だ。地球全体の環境を把握し、将来を予測するためには膨大な基礎データが必要だが、まだ人類はそんなデータを持っていないのだ。

 例えば丸山教授は、月面をボーリングしてみたいと語っていた。月面の土壌には過去数十億年分の銀河宇宙線の履歴が残っているはずなので、それを調べて地質的な地球環境変動の証拠と付き合わせれば、宇宙放射線が地球環境に与える影響が見えてくるはずだというのだ。

 さて、そこで衛星である。地球環境、さらには地球環境に影響する宇宙空間の環境を調べるのには、衛星が最適の道具なのだ。

 宇宙環境を調べるのに衛星が最適というのは言うまでもないだろう。
 そして、地球を周回する衛星が、地球全体の環境の情報を一気に取得するのに最適な道具であることは言うまでもない。

 そのような地球環境の継続的なデータ取得を行っている衛星のひとつが、気象衛星なのである。

 人類が今後とも継続的に地球に住み続けるには、地球環境を確実に把握することが必須だろう。そのためには、衛星による継続観測が絶対に必要である。要するに我々は、まだまだ地球環境について分かっちゃいないのだ。謙虚に基礎科学に投資し、基礎的なデータを延々と蓄積し、分析し続ける必要がある。

 そのことを、政府は理解しているだろうか。結論が出た、とばかりに排出権取引のようなカネの動くビジネススキームに飛び込んでいってしまっていいのだろうか。

 私は疑問を感じている。


 基礎科学への投資は、長期的には巨大な見返りを生み出す。決して「役に立たない」などと短期的視点で言ってはいけない。今、未来のために行うべきは、がんがん観測衛星を企画してどんどん基礎データを蓄積していくことではないだろうか。蓄積されるデータを解析する設備への投資と、人材の育成ではないだろうか。

追記:「そんなことを言っていて、地球温暖化の傾向が手遅れになったらどうする」という意見はあるのだよな。確かにそのあたりは悩ましい。結局、走りながら修正しつつやっていくしかないのだろう。

 それにしても、地球温暖化という科学のマターを、一気に排出権取引という経済のマターに持っていくことには違和感を感じるのだった。「すでに経済が動いているから、科学が出したデータを抑圧しろ」などということにならなければいいのだけれど。

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2008.06.13

人の世の理とこの世の理

 昨日来、「水からエネルギーを引き出すことを可能にした」という「ウォーターエネルギーシステム」が、話題になっている。
 ジェネパックスという会社が開発したと主張しており、6月12日に大阪府の議員会館2階で説明会を開催した。私は見ていないのだけれども、その日のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でも好意的に放送されたそうだ。

 この件についてはGIGAZINEが頑張って記事を出している。3番目の記事で分析を行っているので最後まできちんと読むこと。

水から電流を取り出すことを可能にした新しい発電システム「ウォーターエネルギーシステム」を見に行ってきました(GIGAZINEその1)
水から電流を取り出す「ウォーターエネルギーシステム」デモムービーいろいろ(GIGAZINEその2)
真偽判断に役立つ「ウォーターエネルギーシステム」に対する各報道陣からの質疑応答いろいろ、そして現時点での結論(GIGAZINEその3)

 ウォーターエネルギーシステムの原理は、ジェネパックスのホームページ内こちらに掲載されている。

 要は、“新規開発した”MEA(膜・電極複合体)が触媒となって、水を酸素と水素に分解し、得られた水素をまた酸素と結合されることで電気を取り出すというものだ。

 詐欺か、信じ込んでしまったが故のトンデモかは分からないが、これはガセだ。きちんと勉強している高校生ならば、簡単に見破ることができるはず。むしろ、物理でエネルギー保存則を学んだ高校生に、「このシステムの問題点を指摘してごらん」と問う、練習問題としても適当だといえる。

 以下は私の解答。このシステムが動作すると、水を触媒分解した酸素と水素から電気エネルギーを取り出した後に、水が生成する。その水をまた触媒分解して、エネルギーを取り出せる——つまりこの仕組みはいくらでもエネルギーを取り出すことが可能な永久機関であり、エネルギー保存則に反する。従って動作しない。

 エネルギー保存則は、これが破れれば既存の科学すべてがひっくり返るほどの、この世界の根本的な法則だ。それが破れるとするなら、発見者はノーベル賞どころではない大騒ぎになる。少なくとも、新しいクリーンエネルギーというようなしょぼい小ネタですむ話ではない。

 ネタそのものは、過去から幾度となく繰り返されてきた「私は永久機関を発明した」という勘違い、ないしは詐欺、のバリエーションと言えるだろう。

 問題は、説明会の場所が大阪府の議員会館だったこと。なぜ、そんな場所を使えたのか?

 大阪大学・菊池誠教授のblog「kikulog」でこの件に関する議論が行われており、そこで説明会が民主党の府議会議員2名の主催であることが指摘されている。しかも財政危機のただ中にある大阪府の補助金まで投入されているとのこと。

ジェネパックスの説明会案内

主催:「環境保全と災害対策を考えた新エネルギー」をテーマとした、民主党・無所属ネット議員団のまちづくり部会長 中川 隆弘様、環境農林部会長 森 みどり様

中川 隆弘(なかがわ たかひろ) 大阪府豊中市選出(民主党大阪HPより)
みどりのかぜ(森みどりHP)

 中川議員は、大阪府立豊島高校卒、近畿大学商経学部卒。森議員は大阪教育大学卒で茨木市立小学校教員の経験あり。共に学歴職歴は、高校物理の演習問題程度であるウォーターエネルギーシステムの問題点を見抜けて当然のレベルにある。

 しかし見抜けなかったわけだ。

 仕事柄、政治家が、ごく普通の理科の知識に欠けているために、判断を誤る例をいくつか見てきた。今回もそうなのだろう。

 理系文系をことさらに峻別するのは無意味なことだが、大きく分ければ理系とは「世界の理を知る」知識体系であり、文系は「人の世の理を知る」知識体系だ。人は社会を形成して生きているので、人の世を動かすのは文系の知識である。法学であったり経済学であったり会計学であったり——みな政治に密接に関係している。

 だから、かどうかは断言できないが、どうも政治や行政の関係者は「世界の理」を軽く見ているのではないか、と感じられることがある。実際には、世界の理は、人の世の理より強い。今日中に仕事が片づかないから太陽が沈むのを呼び戻す、平清盛のようなことはまず間違いなくできない。

 ところができる気分になってしまうことがままあるらしい。

 いくら環境にやさしいからといって、水からエネルギーが取り出せるわけではない。

 情報収集衛星の開発が決まった時も、自由民主党関係者の一部は衛星から地上の任意の地点を随時観察し放題と思っていたふしがある。実際には、太陽同期の回帰軌道からは、一日の決まった時刻にしか観察対象の直上を通過しない。これは物理的に決まっているので、政治的なかけひきや妥協でにどうこうできるわけではない。

 GXロケットも、現在似たような状況になっている。本日6月12日付けの朝日新聞の記事によると、自民党は党の方針として「中小型の偵察・監視衛星打ち上げ用ロケットとしての利用を中心に国家戦略上の重要性を担う」とGXロケットを位置付けている。

 朝日新聞は、4月に以下のようなことがあったと伝えている(以下引用)。

「宇宙開発委は技術面を審議するのが本来の役割。国策としての位置付けまで踏み込むのは僭越ではないか」
 4月初めの自民党宇宙開発特別委員会。河合克行衆院議員が、文科省や宇宙気候の幹部を前に、繰り返した。
 H2Aの代替ロケットとしての役割や、米国との協力関係維持をなどを重視する一部政治家は、政府の責任でGX開発を続けるよう求めている。

 いずれまとめて書くつもりだが、GXロケットの開発費用や1機あたりのコストが無茶苦茶に膨れあがっている根本には、GXの機体構成がロケットとして最適なものから、大幅にずれていったということがある。

 一番おおもとの設計は第1段エンジンが推力150tf級の「NK-33」だったものが、いきなり400tf級の「RD-180」になってバランスが悪くなり、さらには第1段として流用するはずだったアトラス3が運用終了となり、より大量の推進剤を積むアトラスVの第1段を使わざるを得なくなった。
 GXは、今や構想段階と比べると、物理学的にアンバランスなロケットとなってしまっているのだ。

 物理的にアンバランスで最適設計からはずれているのだから、政治家がいくら「国策だ」と強く主張して開発続行を指示したとしても、完成するのは出来の悪いアンバランスなロケットでしかない。最適設計からずれて無駄な部分を抱えているから、商業市場で競争力を持つ価格にもならない。

 今後の開発過程で、例えば第2段のさらなる重量増加というようなバランスを崩すような問題が発生すると、ますます悲惨なことになる。もとのバランスが悪いので、開発過程でのリカバリーが効かないのだ。それは、JAXAやメーカーが努力するとかしないとか以前の問題である。

 国策といえども人の世の理であり、物理的なこの世の理には勝てない。それを無視すれば、待っているのは悲惨な結果だけだ。

 政治家は、人の世の理のプロであることはもちろんのこと、物理学や化学や地学といった、世界の理も、せめて高校から大学教養課程程度ぐらいまでの基礎的な常識をきちんと使えるようにして欲しいと思うのだ。

 あ、ワールドビジネスサテライトもひっかかったわけだから、マスコミも、だな(もちろん自分も含めてだ)。

 永久機関に引っかかるのは、理工系ならばかなり恥ずかしい失敗なのだけれどもなあ。


追記
 日経BPにも記事が出ていた。(グリーン・カー
「水と空気だけで発電し続けます」,ジェネパックスが新型燃料電池システムを披露
)

 「金属水素化物と水を反応させた際に水素が取り出せる仕組みと近い方式」というのならエネルギーの発生も理解できるが、その場合MEAは触媒ではなく反応してかなりの速度で損耗していくはず。当然「水と空気だけで発電」とは言えない。

さらに追記
 日経BPの続報が出た。【続報】ジェネパックスが水素生成のメカニズムを明らかに。ポイントは金属または金属化合物の反応制御

 タイトルの通り、水と反応する金属で水を酸素と水素に分解するとのこと。以下記事より。


「今回発表したシステムの特徴はこの金属または金属化合物の反応性を制御して長時間に使うことを可能にした点にあるという。

 今回披露したシステムはMEA(膜/電極接合体)の燃料極内部にこうした金属や金属化合物をゼオライトなどの多孔質体に担持しているとする。水素生成反応による生成物は水に溶解し,システム中の水とともに排出される。」

 水と反応する金属というと、リチウム、ナトリウム,カリウムあたりだろうか。マグネシウムも水と反応する。いずれにせよ、生成物が水に溶け、排出するとなると、「水と空気だけ」という表現は当たらないということになる。魚雷ではリチウムと6フッ化硫黄という組み合わせが使われるが、これと類似の反応をより緩やかに起こす仕組みといえるだろうか。

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2008.06.11

2つの映像アーカイブ

 インターネットの出現で、情報のありようが2つの面で変化した——そう私は考えている。

 ひとつは同時性。あらゆる情報が瞬時に拡がり、共有されるようになった。

 もうひとつが通時性。ネットに貯蔵された情報はすべて等価であり、どんなに古い情報も、埋もれてしまうということはなく、瞬時に引き出すことができる。

 この通時性に関する、非常に素晴らしいサイトを2つ発見した。

 まず、朝日ニュース昭和映像ブログ

 昭和30年代の、ニュース映画を観ることができる。当時の日本がどんな状況だったのか、どんな雰囲気だったのか、貴重な記録をネットで閲覧できる。

 様々なニュース映画を観ていると、「ALWAYS 三丁目の夕日」に代表される「昔は良かった」系のフィクションが虚構であることが実感される。昔は昔で、欲望と欲求不満と騒然とした社会状況の中で、皆、いがいがとトゲを突き出しつつ必死に生きていたのだ。

 そして科学映像館

 こちらは昭和20年代以降多数作られた科学映画の映像をネットで公開している。制作大手の岩波映画の映像が収録されていないのが残念なのだけれども(何か権利関係の理由があるのだろう)、僕らの先輩が科学というものをどのように映像化してきたかを、一望することができる。

 こちらは、スタッフロールがしっかりしているので、思わぬ作曲家がとんでもないところで映画音楽を付けているのを見つけるという楽しみもある。

 こういう過去の情報を、誰でも閲覧できる形でののアーカイブ化は、社会の基礎的な情報インフラストラクチャとして、とても大事だ。NHKが今、過去の番組を次々にデジタル化しているが、これも適切な形式でネットに広く公開されるべきだろう。

 ところでひとつ提案。これらの映像にニコニコ動画のようなコメントをつける機能は付かないだろうか。今後コメントが集積していけば、それをコメントが付けられた年代別に整理していくことにより、「どの時代には、この映像がどのように受け止められたか」を示すメタ情報も蓄積できるようになるわけだ。

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2008.06.06

ヒルクライムで負ける

Nishiharima

 A-Bikeだが、相変わらず便利に使っている。今回、はじめてヒルクライムに挑戦してみた。

 6月4/5日と、宇宙作家クラブで、兵庫県の西はりま天文台にある2m望遠鏡「なゆた」の見学に行った。西はりま天文台は、JR佐用駅から6kmほどの山頂にある。地図を見ると高低差200mほど、普通の自転車ならば、まあ上れるであろう程度の坂だ。

 せっかくだから、と、わざわざA-Bikeを持ち込んで走ってみた。

 駅から2kmはゆるやかな道で、何の問題もなかった。ところが上りにかかると、やはりダメ。ギア比を選ぶことができないので、息が上がってしまう。短い坂ならなんとかなるが、これだけの長い坂になると、脚に合わせたギア比を選べなければどうしようもない。

 結局かなりの区間を押して登ることとなった。兵庫の山奥までわざわざA-Bikeを持ち込んだ意味がまるでないように思えるが、それでも一部区間はA-Bikeをこいで登ることができたので、まあよし。チェーンが切れるぐらいのことはあるかもと思っていたが、機械的なトラブルは出なかった。

 結論から言えば、A-Bikeでヒルクライムはやめておいたほうがいい。そういうことにつかう自転車ではないということを身を以て確認した。

 なゆた見学は、西はりま天文台顧問の森本雅樹先生も合流してくれて、とても楽しいものとなった。案内をしてくれた同天文台の鳴沢真也さんに感謝。雲で2m鏡による星を見ることができなかったのは少々残念。いずれリベンジをかけることとする。

Nayuta

 一晩、ロッジに宿泊し、翌日は近くにある放射光設備SPring-8の見学。晴れていたらA-Bikeで坂を下っていこうと思っていたが、土砂降りの雨のために断念。

 案内をしてくれた鳴沢さんの著書。自分の天文屋人生と、西はりまに2m望遠鏡ができる経緯をつづっている。後半は、光学的手法による知性体探索(OSETI=Optical SETI)について書いている。西はりま天文台は日本で唯一、OSETIを実施している天文台だ。
 飾りのない言葉でつづられた、とても良い本だ。「ああ、ここにも“望遠鏡を作る人”がいたんだ」とちょっと胸が熱くなった。実は、森本雅樹先生にも、「望遠鏡を作る人びと」(岩波書店1972年)という子供向け名著があるのだ。小学生の私の愛読書だった。

 森本“マッキー”の武勇伝は色々と聴いていたけれども、改めてお話しすると、とても愉快、かつ本質に直接的に突っ込んでくる方だった。酒宴での鹿野司さんとの議論はすごかった。
 アメリカの天文学者ヘールが、ヤーキース1m、ウィルソン2.5m、パロマー5mと次々に大きな望遠鏡を作っていった話になったとき、森本先生は「おじさんはねえ(森本先生は自分の事を“おじさん”という)、大きなものを追ったことはなかったな。いつも本質的に新しいことを目指してきた」と言った。東京天文台に6m電波望遠鏡を作り、野辺山に45m電波望遠鏡を作り、さらにはスペースVLBIへと、ミリ波の電波を使う新しい電波天文学を開拓したパイオニアの自負心を聞いた気がした。

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2008.05.29

はやぶさ2とマルコ・ポーロ

Keii
 本日、幕張メッセで開催中の地球惑星科学連合大会で開かれた、「始原天体サンプルリターンミッション会合」に参加した。JAXAの月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)が、関係する科学者を対象に開催した、はやぶさ2、はやぶさマーク2の現状説明会である。

 概要は以下の通り。

・はやぶさ2



Hayabusa2


 ロケットを海外から調達することが実施の条件となっており、NASA/ESAと交渉中。打ち上げロケットについて、近日中にESAから回答がある(はやければ6月中)。海外からの調達が不調に終わっても実施に向けての道を探っていくが、かなりきびしいことにはなるだろう。

 関係者の発言からして、打ち上げは2014年に設定される可能性が大きいようだ。

・はやぶさマーク2



Mark2_1


 欧州の研究者と共同でESAの将来探査計画「コスミック・ビジョン」に、「マルコ・ポーロ」の名称で提案したところ、一次審査を通過した。応募総数は50を超えたが、一次を通過したミッションは8つ。そのうちのひとつが「マルコ・ポーロ」。

 現在、計画は「マルコ・ポーロ」が正式名称となっている。探査機本体と次世代「ミネルヴァ」ローバーを日本が提供し、大型ランダーとロケットをESAが担当する。従来のはやぶさマーク2とは、大型ランダーが入ったところが異なる。



Mark2_2

 コスミック・ヴィジョンでは、今後さらに二次、三次の審査があり、最終的に8つのプランが2つまで絞り込まれる。最終審査に通った場合には2011年に開発を開始して2018年に打ち上げる。探査目標はウィルソン・ハリントンという枯渇彗星核だ。

Orbit

 もちろんESAだけではなく、今後JAXA内部の審査会もクリアしなくてはならない。

 ESAのセレクションに落選した場合には、改めて日本独自の「はやぶさマーク2」として計画を立ち上げ直す。これまでの検討結果を使えるので計画の急速な組み替えを行うことになるだろう。その場合、到達可能な都合の良い目標天体を見つけることができるかが重要となる。現在、観測を行って候補を探している。

 ライバルの動向として、アメリカの小惑星サンプルリターンミッション「オシリス」の話が出た。

 オシリスはアメリカの探査機シリーズ「ディスカバリー」に応募したが2007年12月のセレクションで落選した。ディスカバリーのコスト上限である4億2500万ドルを超過したことが響いた。小惑星サンプルリターンはNASAとしては初めてであり、技術開発費がかさむことがコスト超過の原因。
 ただしオシリス構想そのものは死んでおらず、現在「ニューフロンティア」という別のシリーズのセレクションに参加しようとしているとのこと。

 はやぶさに関連して、現在相模原に建設中のキュレーション施設、つまりはやぶさが持ち帰るサンプルの分析と保管を行う施設の概要が説明された。

Setubi

 全体を通して感じるのは、小惑星・始原天体探査に対する理不尽な逆風である。はやぶさは、日本が世界で初めて前人未踏のフロンティアを探査したミッションとなった。我々の前には、小惑星・始原天体という、それこそ「世界的な成果があげ放題」のフロンティアが立ち現れたはずなのに、集中投資するどころか、「海外からロケットをとってきたら計画を進めてもいい」という仕打ちはいったいどうしたことだろうか。

 「成果をあげたから金を回さない」?そんなバカな。

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2008.05.22

かぐやは見た!

 当blogを読みに来る方は、先刻ご承知だろうけれども、出ましたね。

月周回衛星「かぐや(SELENE)」の地形カメラによるアポロ15号の噴射跡の観測について

 ネットでは「アポロ月着陸捏造説終了のお知らせ」とかなんとか書かれているが、まあ、これで捏造論者が消えることはないと思う。
 どうせ「いや、あの噴射跡はフィルム特撮を引き受けたスタンリー・キューブリックが、現地ロケをしたときに撮影用につけたものだ」とかなんとか言い出すに決まっている。

 アポロ15号着陸船の噴射跡は、当のアポロ15号自体が月周回軌道から確認している。今回の発表は、アポロの痕跡がアポロ以外の探査機で確認できたことに意味がある。

 それ以上に圧倒的なのが地形カメラが取得した立体データからコンピュータ・グラフィックスで作成した月面の風景が、アポロ15号が月面で撮影した写真と完璧に一致したことだろう。
 アポロ15号の撮影した写真には同時に、月に持ち込んだルナ・ローバーも写っている。この写真が特撮だとしたら、アメリカは1971年の時点で、月面の地形を少なくとも「かぐや」の観測と同程度以上の精度で把握していたことになる。

 ちなみに、かぐやの観測は分解能10m。アメリカがアポロ計画の露払いとして実施した無人探査ミッション「ルナ・オービター」の撮影した画像の分解能は最良で60mである。

 今年秋には、高分解能カメラを搭載したアメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO)が月に向かう。LROのカメラで、各アポロミッションが月に残した月着陸船の台座、15号以降のルナ・ローバー、それに火星でマーズ・リコナイサンス・オービター(MRO)が撮影した画像から類推するに、ルナ・ローバーの走行跡までもが写ることであろう(おお、久し振りにMROのページをみたら、フォボスの高分解能画像が出ているではないか!素晴らしい)。

 私達としては、当面の間アポロ月着陸捏造論者の言い訳を楽しむことになるだろう。

 数あるアポロ月着陸捏造論本のうち、最低にして最悪。もっとも許し難い犯罪的な本。一応アフィリエイトでリンクを張っておくが、間違っても買ってはいけない。エム・ハーガ (著), 芳賀 正光 (翻訳) となっているが、これはもちろん芳賀 正光(著)であろう。

 本気で「アポロ月着陸は捏造だ」と主張するなら、「こいつアホや」と思いつつも、そこに稚気を感じることもできないわけではない。ところがこの本は、決して「捏造だ」と言い切らない。あれこれ「これって捏造なんじゃないの」の思わせる“証拠”を提示しつつ、断定せずに「頭の体操です」と逃げている。

 つまり著者は、月着陸捏造論が虚妄であることを承知しているのだ。承知した上で、月着陸捏造論で本を売って儲けようとしているのである。これは情報を生業とする者として最低の、下劣な行いだ。

 この本に関しては原著出版時の朝日新聞社出版局局長、及び担当編集者、あきれたことに朝日文庫への収録を決定した責任者、全員切腹ものである。朝日新聞が「科学を一面トップにした男」木村繁の大活躍で、アポロ報道において他社をリードした過去を忘れたか。
 お前らあやまれ!腹切って黄泉まで下り、木村繁にあやまってこい!

 著者の品性下劣さが臭ってくるエム・ハーガ本に比べれば、副島本はまともなものだ。

 でも、アタシ、こんな本書くんだったら、せめてNASAのホームページぐらいきちんと読んだ方がイイって思うんです…

 「あ〜あ」と思っていたら、案の定第13回トンデモ本大賞を受賞。さらに、と学会面々による反論本まで出てしまった。

 決して副島本単独では読まないこと。2冊そろえると、ある意味けっこうなエンターテインメントになっているので、読みたい方はまとめてどうぞ。

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2008.05.09

かぐやハイビジョン映像のネット公開にあたって

 もう皆さんご存知だろうが、NHKが月探査機「かぐや」の取得した「地球の入り」「地球の出」のハイビジョン画像を、ネットで公開した。

かぐやアーカイブ アースウォッチャー

 今回公開されたのは、1280×720ピクセルの画像だ。オリジナルの1920×1080ピクセルではないのが残念だが、現在のネットの伝送容量と端末となるパソコンディスプレイの解像度を考えると妥当なところだろう。
 もちろん、伝送容量もパソコンの能力もムーアの法則に従って伸びていくものだから、NHKには1年後程度をメドに、フル解像度の画像を公開するよう望みたい。

 この件については、MIAUが、NHKに質問状を出し、それに対する回答が来たり、といくつかの動きが続いていた。私も、記事を書いている(「ハイビジョン月面画像を公開しなかったNHK」「日本ではダメなのにカナダではネットで観られる「かぐや」ハイビジョン画像」)。

 やっと、事態は良い方向に向かったと考えて良いだろう。

 今回の件に関して私は、記事を書いた際の感触から、NHK内部にも状況を正確に理解し、事態を打開しようとしている人たちがいることを感じていた。

 昨今の映像コンテンツの権利を巡るニュースをフォローしていると、なかなか「公開すべきコンテンツは公開すべき」という原則が、組織の中では通りにくくなっているだろうことが見て取れる。

 公開にまで持っていった「NHKの中の人」、本当にご苦労さまでした。MIAUもナイスプレーだったと思う。

 そして、公開に至るまでのNHK内部の手続きにおいて、あれこれと疑問を投げかけ、牽制したであろう「別の中の人」へ。

 これがあるべき姿なのですよ。最初からこうしていれば、「親方NHKは、あれこれ言われてから仕方なくやったんだろ」などと言われず、「さすがNHKは情報のあるべき未来を見据えている」と評価されたはずなのですよ。

 今回の件は、自分たちの収益の元となるハイクオリティのHDTV画像を、生データでネットに掲載してしまうことに対するためらいが、NHKにあったのだろう。
 このロジックは、もちろん通用しない。「地球の出/入り」の画像は、国民の税金で開発された探査機に搭載したNHKのカメラで取得された。NHKが独力で取得したものではない以上、探査機に対する出資者である日本国民、さらには全世界の人々への、ネットを使ったハイライト部分の公開は当然である。


 この問題を広く捉えるならば、ネットワークによって「デジタル映像コンテンツ」の流通はどう変わっていくか、という問題だ。

 音楽の世界では、ネット流通において違法コピーをどう避けるかという問題に対して、すでにアメリカの状況によって答えが出ている。「テクノロジーによる過度のコピー制限をしない」ということだ。

 まずiTunes Music Store。その成功に理由のひとつには、緩いデジタル著作権管理(DRM)がある。

 さらにiTMSでは、iTunes Plusという高ビットレート、DRMなしのサービスを行っているし、アメリカではAmazonがMP3フォーマット/320kbps、DRMなしの音楽ダウンロード販売を開始し、売り上げを伸ばしている。

 DRMは不要。それで十分ビジネスは回るというのがすでに実績として証明されているのだ。着うたなどで、DRMにしがみついている日本の既存音楽業界はいずれ衰退するだろう——私はそうみている。

 私は、この流れは動画像でも同じではないかと思う。コピーワンスもダビング10も、従来のビジネススキームに固執するあまり、にっちもさっちもいかなくなっているのではないだろうか。

 すでに台湾発で、コピーワンスを無効にする「フリーオ」というデジタル放送チューナーが出回っている。コピーワンスはテクノロジーの産物であり、後から来るテクノロジーに破られる——これは自明の理だ。だからといってこのようなチューナーの所持や利用を違法化したとしても、それは映像産業全体の活力を奪うだけのことだろう。

 まあね、例えばゴールデンタイムのテレビ各局、なかんずく民放各社が、コンテンツと呼ぶに値する、何度もの視聴に耐える番組を制作しているかといえば、私はノーだと思うのだよな。
 そしてこれは、本がデジタル化される近い将来、自分にも関係してくる問題である。「お前は本当に、意味のある情報を生産しているのかね?」と。

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2008.04.25

宣伝:4月28日月曜日、ロフトプラスワンのイベントに出演します

 「やりましょうか」というプロデューサー斎藤さんの一言で決まりました。

 先般、地球を離れて旅立ったA・C・クラークについて、百戦錬磨のSF成分全開の面子が語り倒します。多分私は聴き手に回ることになるでしょう。

宇宙作家クラブpresents
「アーサー・C・クラークを語る」
『2001年宇宙の旅』など数多くの作品で知られ、2008年3月19日に多くの人に惜しまれながら永眠したSF作家の巨匠、アーサー・C・クラークを追悼し、その多大な偉業を振り返る。

【出演】江藤巌(航空宇宙評論家)、金子隆一(サイエンス・ライター)、鹿野司(サイエンス・ライター)、松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、他

4月28日月曜日
Open 18:30 /Start 19:30
¥1000(飲食別)当日券のみ

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

参考記事:いずれ星の世界へ

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2008.03.19

いずれ星の世界へ

  1. 高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
  2. 可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。
  3. 充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。

      ——クラークの3法則——

 アーサー・C・クラークの訃報を聞く。享年90歳。小松左京と並んで自分に非常に大きな影響を与えた作家。

 いつのころからか、この人は死なないのではないかと思いこんでいた。そのうちしっぽが生えて2つに裂けて、オーバーロードと化すんじゃないかと。

 確か、2020年だったか40年だったかに、自分が月面であれこれしているというドキュメンタリーも書いていたはず。


 クラークとの出会いは小学5年生の夏休み。母方の祖父母の家に叔父が残していた銀背のハヤカワSFシリーズの「SFマガジンベストNo.1」に収録されていた。

 「太陽系最後の日」。クラークが作家デビューを飾った短編だ。

 太陽が膨張して最後の日を迎えた地球を探検する異星人達。地球人を捜すがどこにもいない。地球人はどこだ、灼熱の太陽から逃れて地下に潜ってしまったのか。
 そして地球人を捜し回る彼らが見た驚愕のラスト。

 処女作には作家のすべてが現れるというが、「太陽系最後の日」にも後のクラークを特徴付けるすべてがはいっている。正確な物理学的描写、壮大なヴィジョン、切れの良いアイデア、宇宙へのあこがれ、そして底抜けの楽天主義。

 叔父の残した「SFマガジン」バックナンバーで「木星第五衛星」を読んだのも同じ夏だったはずだ(今調べたら1964年10月号だった。東京オリンピックの頃の号だ)。こちらも私を深く魅了したが、そこで描かれた軌道運動を理解したのは大分後のことだった。

 本格的にクラークの作品を読み始めたのは、中学に入ってからだ。創元推理文庫の「地球幼年期の終わり」は何度読み返したかわからない。SFマガジンで「宇宙のランデブー」の連載が始まったのは中学2年の時だ。市立図書館に入っていたSFマガジンで毎回興奮しつつ読んだ。そこからはもうなんでもありだ。大学に入ってからはクラークの本とあればなんでも買って読んだ。

 人によって、薦める作品は違うだろう。「地球幼年期の終わり」もいいし、「都市と星」も「渇きの砂」も、「海底牧場」も「宇宙島に行く少年」もいい。

 でも私は彼が1970年代に発表した3つの長編が、一番印象に残っている。

「宇宙のランデブー」「地球帝国」そして「楽園の泉」。

 三重のエアロック。幼なじみとのペントミノの思い出。聖地に飛び来る蝶——読んでいない人にはなんのことかと思われるかもしれないが、ああ、思い出すと涙が出てくるではないか。

 彼ぐらいになると、彼の肉体が彼なのか、彼の残した情報が彼自身なのか判然としなくなる。

 だから、いかなる弔辞も無用なのだろう。クラークという名のミームはこれからも世間を巡る。

 そしていずれ星の世界へも。

 冬樹蛉さんによると、SFには茶筒SFというサブジャンルが存在するそうだが、その元祖。「圧倒的に巨大な未知がただそこにあるというだけで読者を魅了してしまう類のSF」というのが定義である。

 本作品の“茶筒”とは、はるか宇宙から太陽系目指して飛んでくる異星人の宇宙船のこと。円筒形をしているのだ。

 やってきた巨大茶筒宇宙船に、人類は探検隊を送り込む。どうやって中に入るか、内部はどうなっているのか、異星人とは接触できるのか——スリリングな状況とはうらはらに、ストーリーは淡々と進む。それがどういうわけか面白い。無茶苦茶面白い。

 後にクラークはジェントリー・リーとの合作で続編を3編書くがそちらは大して面白くなかった。「宇宙のランデブー」は、これ一冊で十分である。

 え?「地球帝国」は絶版なの?!なんてことだ。

 遙かな未来、土星の衛星タイタンの権力者が行う地球旅行を淡々と追っていくという一見単純な物語だが、しみじみと面白い、クラークらしさに溢れる作品。

 「軌道エレベーターを建設する」、ただそれだけの作品なのだけれど、この面白さをどう形容すればいいのだろう。

 軌道エレベーターとは地上と静止軌道を結ぶ長大な「宇宙と地上を結ぶエレベーター」のこと。途方もない巨大建築物だが、原理的には建設可能であることが検証されている。クラークは一人の技術者が人生をかけて軌道エレベーターを建設する様を淡々と描いていく。

 同時期、チャールズ・シェフィールドが同じく軌道エレベーターの建設をテーマとした「星ぼしに架ける橋」(ハヤカワSF文庫)を出版した。ストーリーとしてはこちらのほうが起伏に富んでいるのだけれど、面白さも完成度も圧倒的に「楽園の泉」のほうが上だと思う。

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2008.01.16

はやぶさ2、ASIが正式検討を開始

 14日から今日までの日程で、沖縄で国際始原天体探査ワーキンググループ(IPEWG)という会合が開催されている。小惑星探査の世界的な連絡組織の立ち上げだ。JAXA/JSPECが、この分野で国際的な主導権を持つ国際協力をリードしていこうとしている現れである。

 取材に行きたかったが、どうしても行けなかった。それでも現地から情報はぼつぼつと入ってくる。

 イタリア宇宙機関(ASI)は、「はやぶさ2」打ち上げにベガロケットを使う検討を正式にはじめたことを公表したそうだ。

 さあ、面白くなってきた。

 見えてきたのは、「はやぶさ」が国際的にいかに高く評価されているかということだ。なぜ高く評価されているのかといえば、それまで誰もやったことがなかったこと、しかも大きな意味のあることを、独力で成し遂げたからだ。

 このことは、今後の日本の宇宙科学、それのみならず宇宙開発全体の指針になるのではないか。

  • 誰もやっていないことで
  • 本当に意味のあることを見抜き(はやぶさの場合は始原天体としての小惑星の探査。なかんずくサンプルリターン)
  • 持てる技術とリソースの範囲内で実現可能な計画にまとめあげ
  • それを独力で成し遂げること

 この観点からして、JAXAの次の中期計画はどう評価できるだろうか。「かぐや2」は? 準天頂衛星は? 防災衛星は? GXロケットは? HTVは?  H-IIBは?

「それができたら、日本と是非とも協力したい。ロケットぐらい提供したっていい」と外国に思わせるだけのミッションになっているだろうか。

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2008.01.08

はやぶさ2計画は生きている

 相模原の宇宙科学研究本部に来ている。新年恒例の宇宙科学シンポジウム出席のためだ。
 会場は机をはずして椅子だけが一杯に並んでいる。そこに人が一杯。15年ほど前の、椅子も机も入って、しかも結構空いていた科学衛星シンポジウム(宇宙科学シンポジウムの前身)を知っているだけに、「ずいぶんと遠くまで来たもんだなあ」という感慨を禁じ得ない。

 午前中は現在運用中のプロジェクトに関する発表。最後に川口淳一郎教授が「はやぶさ」の発表をした。

 おそらくこのページを見に来るネットユーザーの誰しもが知りたがっている話を。

 後継計画「はやぶさ2」は生きている。イタリア宇宙機関(ASI)の長官から立川JAXA理事長に宛てて「共同で計画を進めたい」旨の書簡が届き、立川理事長が「前向きに検討しましょう」という返事を出したとのこと。探査機を日本が、イタリアが「ベガ」ロケットを提供するという形式を考えている。このほかNASAとも協力の検討を進めているそうだ。

 ただし、JAXA内部でのゴーサインはまだだそうだ。川口教授が「私は理事長ではありませんから」と、言葉を濁すシーンもあった。

 結局のところ、この件に関するJAXAの内情は「既存計画で手一杯、新規計画向けの金なんかない」に尽きる。さっさとつまらん失敗プロジェクトをやめて、その分を「はやぶさ2」につければいいのに、というのは無責任な部外者の言い分であって、当事者としてはなんとかして既存計画を成功させる、ないしは成功ということにして終わらせる必要に迫られている。そして旧三機関の力関係というのはJAXA内に厳然と存在しており、ISASの立場は決して強くない。

 その中で、川口教授以下月惑星探査推進センター(JSPEC)は、天上の「はやぶさ」と同じぐらい、いやそれ以上に粘り腰を発揮している。「海外からロケット取ってこい」という、ほとんど昔話の主人公が遭遇するような無理無体に対して、ロケットを取ってこれそうな情勢を作り上げつつあるのだ。

 私思うに、昨年度の予算折衝で、たった5000万円ではあるが「次の小惑星探査機」の名目で予算がとれたことはとても大きな意味があった。予算というのは一度名目が立つとなかなかつぶせない。2006年の段階で、予算項目をとれたことで、JSPECは計画継続に向けて粘る足がかりを得た。

 そう考えると、一般からのあちこちへのメールは決して無駄ではなかったのだろう。

「2011年か2012年には打ち上げたい。その後はしばらく(おそらくは目標天体の軌道の関係で)打ち上げのチャンスがなくなる。2003年(はやぶさ打ち上げ)の次が15年空くというのでは、プログラム的探査の意味がなくなってしまう。15年といえば人が働く期間の半分ですよ」と、川口教授は言っていた。

 昔話なら、主人公はいくつもの無理難題を知恵で切り抜け、最後は「幸せに暮らしましたとさ」で終わる。もちろん小惑星探査はそんなわけにはいかない。予算が付いてゴーがかかっても、開発、打ち上げ、運用と、次の難関が続くのだ。


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2007.12.27

「かぐや」ハイビジョン画像で、MiAUに動きあり

 著作権に関連して。

 ここと、nikkeibp.netで書いてきた、月探査機「かぐや」のハイビジョン月面画像の事。

 ネット著作権について積極的な活動をしているMiAU(インターネット先進ユーザーの会)が、動き出した。

【MiAUの眼光紙背】第7回 その映像は誰のため?〜ネットで視聴できない月の高画質映像

 MiAUは、なんらかの形でネットユーザーの声をNHKに伝えられないかと考えている。

 この件でMiAUの方とも会って話をしたが、「NHKがそう簡単に態度を変えるとも思えない」というところで意見は一致した。

 結局NHKがよほどあわてる事態にならなければ、今の態度を押し通すだろう。NHKがあわてるとしたら、政治家が動いて次年度の予算が国会を通らなくなるということぐらいしかない。そうなれば、NHKの政治部記者出身の会長秘書あたりが、「ご説明」と称して永田町界隈の議員事務所を大あわてで飛び回ることになるだろう。

 が、ネットの民意で政治家が動くというのも、現状考えにくい。MiAUとしては、とにかくできることやって、NHKの現状をより広く広報しようという作戦のようだ。

 もっともこんなことをやっていれば、NHKは早晩国民の各階層から総スカンを食うことは間違いない。

 JAXAは、この件に関してはNHKと共犯とも言える部分がある。それでも内部では「広報的にハイビジョンカメラが意味あることは分かった。民生用HDTVカメラがこれだけ安くなっている今、次の機会があってもNHKと付き合いたくない」などという声も聞こえてきている。当然だろう。

 「どうして、あそこ(NHK)は、ああ頑なかねえ…」という「かぐや」HDTV搭載の震源地の一人である某先生の嘆きも聞こえてきていたりして。

 今回の件はNHKにも損になっているわけだが、先日は「クローズアップ現代」のオープニングに使ったハイビジョン画像に「JAXA/NHK」のキャプションが写り込んでいるという事態も起きた。
 自分のところの番組でも、JAXAと結んだ囲い込みのための協定のためにキャプションを入れねばならないわけだ。入れなければより画面がすっきりするというのに。

 …と思っていたら、かつてNHKで働いた経験者から「いや、横のつながりが悪くて、『クローズアップ現代』の関係者が、キャプションなしのハイビジョン素材を手に入れられなかったのかも知れませんよ。とにかくNHKは組織内の横のつながりが悪いですから」と指摘された。

 なら、なおさら悪いわなあ。

 もっとも、MiAUに関しては、その後ネットの著作権画像のダウンロード違法化という重大問題が発生したので、どこまできちんと動いてくれるかは今後の状況次第だ。

 これまた重要な話であるので、近日中に書くことにする。私のスタンスは、「違法サイトのダウンロード違法化に反対」である。

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2007.11.24

はやぶさの「祈り」

Mezamenasai

 辛気くさい話ばかりでもいけないので。

 11月23日から、「祈り」が公開された。ネットでも観ることができる。

  • 「はやぶさ物語」:プロジェクトチームインタビューも素晴らしい。左サイドバーから「祈り」を見ることができる。

 CGで再現した小惑星探査機「はやぶさ」の探査の様子に甲斐恵美子さんらの「はやぶさ」に寄せたジャズをかぶせた番組だ。

Ririku

 記者会見では、「癒し系」といい、報道でもそのあたりが強調されていたが、それ以上に、「はやぶさ」が小惑星イトカワでなにをしたかを、主観として追体験できる出来となっている。

 この「主観として」というのが重要。自分がはやぶさになった気分になれるわけだ。

 CG再現映像は、イトカワ近傍でのはやぶさの動きを忠実に再現したもの。私は「スラスターの噴射回数まで合わせた」と聞いている。演出は主に時間軸の圧縮で行われている。実際のタッチダウンは一晩かかっているわけで、そのままでは映画の尺に入らない。

 ただし、CG映像制作後も、データの解析は進んでおり、現在ではタッチダウン時の挙動が、より明確になっているとのこと。その分は「祈り」の画像には反映されていない。

Descend

 「祈り」は各地の科学館などでも上映されている。上映場所はこちら

 また、「祈り」は来年春にはDVD化される。DVDには「祈り」に加えてもう一本の科学映画「『はやぶさ』の大いなる挑戦!! 〜世界初の小惑星サンプルリターン〜」、を収録。資料を収めたCD-ROMも附属する。

 以下は11月19日に開催された「祈り」に関する記者会見の席で、「はやぶさ」イオンエンジン担当の國中均教授から聞いた、「はやぶさ」現状のあれこれ。

 「はやぶさ」は現在、第一期軌道変換の1700m/sを達成し、スピンモードに入れて冬眠中。次の軌道変更は2009年2月から。400m/sの軌道変更を行う。詳細については公式サイト参考のこと。

  • 行きは、はやぶさをイトカワにランデブーさせる必要があり、はやぶさの位置と速度の両方をイトカワに合わせなければならなかった。帰りは、はやぶさと地球の位置を合わせればいいので、その分楽ではある(注:速度の差は、採取サンプルを入れた再突入カプセルが大気圏で減速することにより吸収する)。
  • これまでに実施した1700m/sの速度変更は、軌道の近日点付近で行う必要のあるものだった。残る400m/sは遠日点で行うべき速度変更。
  • 1つだけ残っているリアクションホイールは、これまでの帰還行程でも何度か止めている。冬眠中もヒーターでホイール付近の温度を一定に維持しているので、2009年2月の立ち上げで、回転しないということはないだろうと考えている。しかし立ち上げ後にどれだけの期間、正常に動作してくれるかは未知数。
  • 最後のホイールが駄目になった場合に備えて、イオンエンジンの噴射と噴射方向のジンバリングとで、三軸姿勢を維持しつつ必要な軌道変換を行うための検討を開始している。その場合、新たな制御ソフトウエアをはやぶさに送り込む必要があるだろう。はやぶさ遠日点付近にいる限られた時間内に、400m/sの加速を終えることができるかどうかが、かなり難しい問題となる。

 画像は記者会見で配布された、「祈り」のキャプチャー。冒頭、宇宙を漂う「はやぶさ」に女神(ミューズであろう。声は声優の富沢美智恵さん)が「めざめなさい」と呼びかけ、意識(!)を取り戻した「はやぶさ」がイトカワでの冒険を振り返るという構成になっている。

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2007.11.23

月からのハイビジョン画像と公共性

 nikkeibp.netに次のような記事を書いた。

 画像公開からこちら、なんとかフルクオリティの動画像をネットで公開できないものかと色々聞いて回り、働きかけもしたのだが、結果はリンク先にある通りだった。

 本当に、NHKには考えを変えてもらいたいと思う。どう考えてもNHK自身が損をしているのだし、なによりも私は、NHKがネット公開に同意しないことで、日本という国が行っている探査の実績をもっとも分かりやすい形で示す動画像が、世界に届かないことを危惧する。

 受信料で作られたカメラが、税金で打ち上げられた探査機に搭載されて撮影した映像だ。どこに成果を還元すべきかは、明らかだ。

 まず日本国民、それも一人でも多くの国民にであり、次いで画像の人類史的価値(私はこの形容を決しておおげさとは思わない)を考えれば、全世界の人々に、だろう。記事に書いたが、NHKの著作権を尊重しつつできることはいくらでもある。

 高精細テレビ画像に関しては、例の悪評ばかりのコピーワンスをダビングテンに切り替えるということもあり、色々動きにくいようではある。だが、原理原則に拘ってNHKすら損をしているという状況を理解してもらいたいところだ。

 この件に関しては様々な話を聞いたが、ひとつ言えるのは実際に現場で働いている人は例外なくネットで公開できればと考えていたということだ。

 では何が問題なのか。NHKは巨大な組織で、どこでどんな意志決定をしているのか定かでない部分がある。どうも著作権絡みの部分は、NHKの“奥の院”的なところで意志決定が行われているらしく、一介のフリーランスである私は、核心にまでアクセスすることができなかった。

 以下、記事を書き終えた後で、気が付いたことをまとめておく。

 NHKのことを公共放送と呼ぶ。「公共」とは、辞書を引けば「(1)社会全体に関すること。おおやけ。(2)おおやけのものとして共有すること。」とある。

 今回の問題は、テレビ、ラジオといった情報の伝達形態が「公共」から滑り落ちる過程で起きたのではないだろうか。

 公共放送という以上、その内容は全ての人に伝達されなければならない。放送法ではNHKに「あまねく」放送を届ける義務を課している。電波を届ける義務は、「公共」であることの証拠であり、逆にNHKの公共放送としての特権的地位を保証してきた。

 それは同時に、「日本国民にあまねく情報を伝達するメディアはNHKしかない」という事実に基づくものであった。

 インターネット、特にブロードバンド接続の急速な普及によって、この部分が今、急速に崩れているのではないだろうか。

 NHKとしては、自らが公共放送である以上、国民に月からのハイビジョンを伝える最適な手段は自らの番組プログラムによる放送であるというロジックなのだろう。

 しかし、ハイビジョン・テレビの普及がまだまだだ。デジタル放送普及推進協会の速報値を見ると、今年10月末の段階で、地上波デジタル受信機は約2637万台は、BSデジタル放送受信機は約3036万件となっている。日本の総世帯数が4753万世帯であることを考えると、まだ1700万世帯ほどがそもそもハイビジョン放送を受信できない状況にあることがわかる。

 しかも、この数字は受信機の数字であって、ハイビジョンクオリティを映すテレビ受像器の数字ではない。今年5月時点での総務省発表(pdfファイル)によると、地上波デジタル対応受信機の普及率は27.8%。しかしこの中にはチューナー内蔵録画機とやCATVセットトップボックスなどが入っている。はっきり「ハイビジョンクオリティを映すことができるテレビ」であるチューナー内蔵テレビの世帯普及率は19.3%。

 つまり、NHKが「公共放送だから放送で国民に月からのハイビジョン画像を伝える」と言っても、最大でも2割ほどの世帯にしか、ハイビジョンクオリティでは届かないということになる。

 一方、ブロードバンドの世帯普及率はインターネット協会の調べて今年3月において50.9%だ。つまり、放送しても2割の世帯にしか届かない情報が、ネットに出せば5割の世帯に届くのである。

 しかもネットに出せば、日本だけではなく、全世界に届く。NHKは世界の放送局にハイビジョンクオリティの月からの画像を配信したが、ネットに出すならば配信の手間をかけることなく、世界中、それもハイビジョン放送が始まっていない国にまで、画像が届くわけだ。

 これが人気の映画などだったらとんでもないことで、実際動画像共有サイトは、著作権絡みで問題になっているわけだ。しかし、日本国民の受信料と税金とで得られたデータは、せめてそのハイライト部分ぐらいは、日本という国のプレゼンスを世界に示すためにも、なるべく多くの人がアクセスできる形態で公開すべきだろう。

 通信放送融合時代に、「公共放送の公共性」を真剣に考えるなら、ネットへのアップロードよりも良い方法があるとは、私には考えられない。

 多分に、NHKは、放送が唯一の公共放送だった時代の思考法にとらわれているのだろう、というのが私の結論である。

 おそらく、今は「公共」が放送というメディアからネットへと移行していく過程にあるのだろう。その過程で起きたのが、今回のNHKの対応だったのだと思う。

 許認可、利権、収益の3方面から放送業界の実態を解説した良書。この本を読むと、放送業界の表裏が一応理解できる。ちなみに私が以前書いた書評はこちら


 元NHK記者が書いた、NHKと政治の内幕。あまり新しい情報はないが、公共放送というものがどのようにあちこちにぶれつつ現在に至ったかを知るには良い本だ。

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2007.11.17

地球の出小史

Earthrise1

(Photo by JAXA/NHK)
 何度見ても素晴らしい。「かぐや」のハイビジョン画像。 アポロ宇宙船は月の赤道近くを回っただけだ。アメリカの「クレメンタイン」探査機は、月の両極上空を飛んでいるが、月面からの高度100kmまでは降りていない。

 これは月の北極から見た、いまだかつて誰も見たことのない風景だ。

 「CGみたいだ」「嘘くさい」という声もある。私達は空気のある地球上で遠近を感じ取るように進化し、適応してきた。私達が嘘くさいと感じるのは、宇宙で撮影された証しだ。

Mifune_moon この19世紀的に「嘘くさくない」画像は、1931年(昭和6年)に三田光一という自称超能力者が念写した月の裏側だ(画像は検索で見つけてきた)。念写、すなわち写真乾板にえいやとばかりに念を込めて写し取ったものだ。…ということになっている。

 日本の超能力研究の先駆者である福来友吉のアドバイスで、「念写以外では見ることができないもの」ということで月の裏側を写したのだという。ところが月の裏側が本当はどうなっているか分からなかった。つまりこの念写された映像が本物かどうか、誰も確認できなかった。念写という能力の実在も確認できなかったのである。

Luna3_2  時代は下って1959年10月、ソ連の探査機ルナ3号が、月の裏側を通過し、17枚の写真を送ってくることに成功した。ルナ3号にはフィルムカメラが搭載されていた。機内でフィルムを現像し、それをファクシミリ伝送した。具体的にどんな装置だったのか興味を引かれるところではある(無重力状態で、液体を扱うのはかなり難しい。現像はどうやったのだろうか)。

 ルナ3号の画像により、三田光一の念写がウソであることが明らかになった——と、私などは思うのだが、トンデモ系の本には、「ルナ3号の映像により三田の念写が真実であることが明らかになった」などと書いてあるらしい。

 まこと、人間は目の前のものをあるがままに見るのではなく、見たいものを見いだしてしまう困った生き物である。

Apollo8_earthrise_4

 そして、この歴史的写真が来る。1968年12月、アポロ8号が撮影した「地球の出」の写真だ(Photo by NASA)。荒涼たる月面と、水が滴りそうな青い地球との対比は、衝撃的だった。人類の地球に対する認識は、この写真以前とこの写真以降に分けられるといっても過言ではない。ここに至って初めて人類は、自分たちが、恵まれた環境を保つ小さな星の上に、カビのごとく繁殖していることを自覚したのだった(「自覚しただけ」、なのかも知れないが)。

 1972年、アポロ計画は17号で終了する。ソ連はその後も無人月探査を続けたが、1976年8月のルナ24号でこちらもお終いになった。1970年代後半から80年代を通じて、月は忘れられた場所であり続けた。

 アメリカではいくつかの月探査の動きが出ては消え、出ては消えを繰り返していた。1980年代、NASAは「ルナ・オブザーバー」という大型の探査機計画を作り上げたが、予算不足から消滅した。予算不足の理由は、スペースシャトルと宇宙ステーションいう予算の大食い虫が、NASAの宇宙計画の中心に座り込んでいたからだった。

Clementain_earthrise_2 予算の壁を乗り越えて、探査機「クレメンタイン」が打ち上げられたのは、1994年のことだった。クレメンタインは本来、戦略防衛構想(SDI)向けの技術を実証する実験衛星だったものを、冷戦終結後に月探査機に転用した、軍とNASAの共同ミッションだった。

 クレメンタインは様々な科学的成果を挙げた。そしてもちろん、月と地球の画像を撮影していた(Credit: U.S. Geological Survey)。が、このアポロ以来の月と地球の映像は、当時全くといっていいほど話題にならなかった。

 21世紀、月への先鞭を付けたのは、欧州だった。欧州宇宙機関(ESA)の計画は、どこかひとつの国が主導する形式をとる。欧州初の月探査機「スマート1」は、スウェーデンが主導する計画だった。2003年9月に打ち上げられたスマート1は、イオンエンジンを使って1年2ヶ月をかけて月周回軌道に到達した。


 欧州も、もちろん撮影した。「地球の出」の画像を!(リンク先にaviファイルがある)

Earthset_2

 そしてかぐやの画像だ(Photo by JAXA/NHK)。

 地球の出の撮影は、月に赴いた者の特権であろう。と、同時に、その画像は人類全体の共有財産でもある。



 アポロ計画で撮影された月面の写真をまとめた写真集。オリジナルのフィルムから高精細スキャンを行った映像は美しいの一言に尽きる。現在は絶版のようでアマゾンではユーズドストアから買うしかない。どうしても欲しいならば、現在も入手可能な英語版を買うのも手かもしれない。


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2007.11.16

地形カメラとマルチバンドイメージャ

 次々と初画像が公開される月探査機「かぐや」。今日は地形カメラとマルチバンドイメージャの取得画像が公開された。

 「アポロ以来の大規模月探査」といううたい文句が、単なるキャッチフレーズではなくなり、着々と実績として出てきつつある。

 今回公開されたのは較正前のデータであり、この後較正を行い、研究に供し、結果が論文として発表され、最後にデータが誰でもアクセス可能なデータベースに格納されて、はじめて「かぐや」のミッションは完遂ということになる。すべてはこれからだ。

 かぐや搭載の観測機器については、JAXAの広報誌「JAXA's14号」(pdf;3.72MB)に分かりやすい記事が掲載されている。

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2007.11.15

11/12読売夕刊のコラムに「はやぶさ2」登場

 11月12日の読売新聞夕刊2面のコラム「夕景時評」に「宇宙開発と民意」というタイトルの記事が掲載された。執筆者は編集委員の知野恵子さん。

「『はやぶさ2』実現のために声を上げて——。ジャーナリストの松浦晋也さん(45)がインターネットで呼びかけている。」

で始まって、はやぶさ2を巡る動きを簡潔にまとめ、「実は宇宙好きという隠れファンは結構多い。そんな人の支援を引き出し、民意参加型の第2のはやぶさ誕生となるか。注目される。」と締めている。

 小さなコラムでも、マスメディアに載る意味は大きい。知野さん、どうもありがとうございます。

 JAXAへのはやぶさ2実現希望のメールが約80通、宇宙開発委員会に約30通という数字は、私も初めて知った。

 もしも「ネットの跳ね返りが騒いでいるだけだよ」と考えている人がいるなら、思い直してもらいたい。

 過去に、たとえ数通でも「ぜひ、このミッションを実現してほしい」という投書が、一般から届いたミッションがあっただろうか。

 80通は、一部のマニアが騒いでいるだけの80通ではない。その背後にはメールを出すほどではないが、「はやぶさ2」が見たいと思っている、もっともっと多くの物言わぬ普通の人たちがいる。

 皆、JAXAに期待しているのだ。

 あらためて、「はやぶさ2」実現に向けて呼びかけたい。

「未来を見たいのならば、声を届けて」と。

 メール送り先などははやぶさ2を実現させよう勝手にキャンペーン、当blogではここここを参考にして欲しい。


 知野さんは、H-IIロケット第1段のLE-7エンジンが爆発事故を繰り返していた頃から、ずっと宇宙関係を取材してきたベテランだ。あの頃からずっと、継続的に宇宙関係をウォッチングしてきたジャーナリストは、今やほんの一握りとなってしまった。その中の一人である。

 もう大分時間が経ったので、ばらしてもいいだろう。拙著「H-IIロケット上昇」に、LE-7エンジンのトラブルが続いていた時期、広報を担当していたNASDAのN氏(本を見れば名前が出ているが、ここでは頭文字にしておこう)の自宅に夜討ち朝駆けをかけ、玄関前でN氏をつかまえて取材し、周囲からあらぬ噂を立てられそうになった女性記者が登場する。

 若き日の知野さんの勇姿である。

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2007.11.14

NHKの「探査機“かぐや”月の謎に迫る」

 本日、NHK総合/デジタル総合で、以下の番組があります。

探査機“かぐや”月の謎に迫る
 〜史上初!「地球の出」をとらえた〜
午後8:00〜8:43

 デジタル総合では、昨日発表された「地球の出」の映像を、フルハイビジョンで観ることができるようです。

 不安要素は以下の通り。

出演者
稲垣吾郎
眞鍋かをり
市川森一
アラン・ビーン(アポロ計画宇宙飛行士)

司会:桂文珍
   與芝由三栄
解説:国立天文台准教授…渡部 潤一
語り:礒野佑子
   土田大

 眞鍋かをりはともかくとして、稲垣吾郎・市川森一がなにを言うか非常に不安だ。

 NHKには前科がある。昨年の11月18日、NHKは「史上初!ハイビジョン生中継 LIVE宇宙ステーション」と銘打って、国際宇宙ステーション(ISS)からのハイビジョン中継番組を放送した。

 ISS内部の画像が見られるということで、私は期待していたのだが、スタジオにゲストが出て、どうでもいいことをしゃべるしゃべる。

 この時のゲストは、以下の通り。

 山崎直子 (JAXA宇宙飛行士)
 米村でんじろう (科学実験プロデューサー)
 野口健 (登山家)
 江川達也 (漫画家)
 安めぐみ (タレント)

 米村でんじろうは優れた実験プロデューサーだが、宇宙関係に詳しいわけではない。野口健はアルピニストとして一流だが、もちろん宇宙に(以下同文)。江川達也は、卓越した漫画家だが(以下同文)。安めぐみ(以下略)。

 テレビの前で「いいからお前らしゃべるな!ステーションの中を写せ」と怒鳴ってしまった。

 この時は生中継だったので、間を持たせるためにスタジオにゲストを呼ぶというのもまだ理解できた(うっとうしいだけだったが)。

 が、今回は録画画像なのだ。完全に制作者側がコントロール可能なのである。

 この件、取材先で同席したNHK関係者に尋ねたことがある。
「どうしてあんなに素晴らしい素材が、あそこまでダメな番組になっちゃうの?」

「そうしないと視聴率が取れないんですよ」というのが返事だった。
「みんなの知っているタレントがゲストに出ないと、視聴率が取れないと思いこんでいるだけじゃないのですか」と突っ込むと「うーん」という返事。

「『タレントが出ないと観ない』なんて視聴者をバカにしていると、お金があって質の高い視聴者層はみんなディスカバリーチャンネルやBBCに逃げちゃいますよ」
「そうなんですよねえ。僕らも危機感あります」

 現場は分かっているらしいのだ。現場は。

 とりあえず、今晩の番組では、月からの画像もさることながら、誰が何を言うかに注目である。43分しかない番組だ。私としては余計なおしゃべりは最小限に留め、密度の高い映像と解説を視聴したい。

追記
 観ました。かなり悪かったが、最悪ではなかったという印象。さんざっぱらゲストがくっちゃべって、かぐやからの映像は3分というのを予想していたが、それよりはずっと良かった。

 ぐちゃぐちゃだったISS番組に対する反省もあったのだろう。

 映像の素晴らしさに圧倒される。科学解説部分は手慣れたもので、分かりやすい。

 もっとも、ハイビジョン映像は、実時間ではなく高速度再生だったり、一部を拡大したり、ということをやっていた。これは、その旨説明しないと、放送したものがリアルタイム画像と誤解する人が出そうだ。

 もちろん「地球の出」が、月周回軌道からのみ見えるもので、月面から見ると地球は空の一点にいつでも止まって見える(もちらん裏からは見えない)ということも説明すべきだろう。

 ともあれ、ゲストの人数が多すぎる。43分しかない番組だ。どのゲスト本人もしゃべり足りず、月への興味ではなく、ゲストへの興味で観た視聴者も、どのゲストのファンであれ欲求不満になったのではないか。

 しかも、危惧した通り、ゲストのしゃべりに意味がない。映像があまりに雄弁なので、ゲストの「きれいですねえ」というような言葉が空虚に響く。ましてや「ハイビジョン」を強調する演出は「またNHKの宣伝か」としらけるだけ。

 そして司会の桂文珍はしゃべり過ぎ。しゃべりを本領とする彼を司会に持って来る意味はどこにあったのだろうか。

 ゲストはアラン・ビーンと渡部先生だけでいいだろう。

 せっかくアポロ12号で月に行ったアラン・ビーンが出たのだから、もっと彼の話を聴きたかった。番組進行の都合からか、ビーンの発言を遮るようなところがあったのは残念。

 今回の映像取得にはディスカバリーチャンネル・カナダも噛んでおり、同じ映像を使った番組を用意している。


 私の周囲の反応は以下の通り。

「NHKは自分たちが撮影したものの価値を信じていない」
「想像していた悲惨な番組と比較するとずっと良かった」
「司会が駄目駄目」
「ゴローちゃんの評価、その出番の少なさ故に急上昇」

 そして、やはりというべきか…

「ディスカバリーに期待だな」

 日本でも、デジタルCATVに加入していればディスカバリーHDを見ることができる。

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2007.11.13

かぐや、地球の出の撮影に成功

 月探査機「かぐや」が、地球の出の撮影に成功したと発表されました。

 ハイビジョンの開発には様々な意見があったが、「この画像を取るためにこそ開発した」と考えれば、すべて納得できる——そう言い切りたいほど素晴らしい画像です。

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2007.11.09

asahi.comにニュースが載る

 今日になって11月9日付けで、asahi.comにかぐやのハイビジョン画像の記事が掲載された。

 それにしても、

2007年11月09日09時05分

 月探査機「かぐや」が高度約100キロからハイビジョンカメラで撮影した月面の映像を、宇宙航空研究開発機構とNHKが7日、公開した。

 という、11/7のニュースを11/9午前9時過ぎのタイムスタンプで伝える、全部で350文字弱の短い記事だ。

 ネタの大きさに比べて記事が短く、そっけない。つまり、朝日自身、この記事がタイミングを逸していることを自覚している。

 今回の情報そのものは7日午後5時に公開されているので、8日朝刊に余裕で間に合う。ところがコメント欄に寄せられた情報によると朝日紙面は8日夕刊で、このニュースを扱ったそうだ。

 朝日に限らず、ニュースの重要度とどれだけの紙面を割くかは、デスクが判断する。デスクは大抵の場合、記者出身の部長クラスが当番制で担当する。

 となると、どうやら8日朝刊の紙面構成を担当したデスクが、判断を誤ったという可能性が高そうだ。たしかに8日は小沢辞任関連の大ネタがあったので、科学ネタに紙面を割きにくい状況ではあった。それにでも他社は軒並みきちんとwebには掲載しているところからすると、webも含めた紙面コントロールに失敗したと見るのが自然である。

 ともあれ、この後は朝日も「かぐや」関連ニュースには注意することになるだろう。

 私としては、少々いじわるな想像を楽しむことにする。

設問:なぜ朝日は「かぐや、月面のハイビジョン撮影に成功」というニュースをタイミング良く扱えなかったのか?

  • 陰謀論その1:さすが赤ピー、中国の嫦娥1号のニュースを目立たせるために、あえて「かぐや」を無視したナリー(JAXAとNHKは朝日に謝罪と賠償を要求せよ!)
  • 陰謀論その2:デスクが「ロケットを作るのも衛星を作るのも死の商人である軍事メーカーだ。そんなものは人民の新聞の紙面に載せられない」と考えた(それ行けJAXA前でインターナショナルを歌おう!)
  • 陰謀論その3:朝日とNHKの間に何らかの確執が存在し、デスクよりも上層部から「NHKの提灯記事なんぞ載せるんじゃねーぞ」という圧力がかかった(そういや、例の「サンゴに落書き」ってどこが最初にスクープしたんだっけ)


 個人的に一番ありそうな気がするパターン


  • 担当デスクが「月から動画像?それってアポロの時にもうやってるよね。大したことじゃないよね」という認識だった(「ハイビジョン? ウチの嫁が欲しがっているけど、俺よくわかんなくってさあ…」)

 これが一番イヤだなあ…

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2007.11.08

おかしいな?

 以下、少々気になったので。

 おかしいな、朝日新聞はどうしたのだろうか。私が気が付いていないのだろうか??

 かぐや特設ページにも載っていないというのは少し考えにくい。本当にどうしちゃったのだろう。

 紙の本紙には掲載されたのだろうか。私は朝日新聞を購読していないので分からない。にしてもカラー画像が出ているのだから、Web媒体にこそふさわしいニュースではある。

 朝日は、この手の話題は決して嫌いな新聞ではないし、なにより大手メディアは他紙が一斉に掲載していることが自分のところに載っていないのを一番嫌うはずなのだけれども。

 今回の発表はJAXA広報部経由なので、当然朝日新聞にも同じ情報が渡っている。

 今回の映像は、月からの動画像伝送としては、1972年のアポロ17号以来35年振り。もちろんハイビジョンクオリティの動画像としては世界初だったので、決してニュースバリューが劣るということはないはずなのだけれども。


 朝日新聞がこの件を報じているのを見た方、教えて下さい。自分のうかつで載っているのに気が付いていないのなら、非常にはずかしいので。

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2007.11.07

本日(11/7)夕刻、かぐやからの月面ハイビジョン映像公開

 JAXAは月探査機「かぐや」からの月面ハイビジョン映像(3分間)の受信に成功。データ処理など終わり次第(本日午後5時予定)、映像各社に公開されるそうです。


 本日夕方のニュースが楽しみです。特にハイビジョンカメラ開発を担当したNHK。

 公開されるハイビジョン映像は全部で3分なので、テレビ各社が正味何秒の映像を放送するかも、注目点でしょう。

 午後5時27分

 画像が公開されました。

 これは素晴らしい!
 中村良介さんが指摘していた極域の日陰地域の同定に十分使えそうな画質に思える。これからこのクオリティの画像が次々に出てくるとなると、我々一般の月を見る目すら変化しそうではないか。

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「はやぶさ2」同時打ち上げの計算、50周年ラッシュ

 先日、nikkeibp.netにH-IIAで「はやぶさ2」打ち上げは可能?~相乗り打ち上げの可能性に言及しないJAXAという記事を書いた。ここで私は簡単な計算を行い、H-IIA相乗りで「はやぶさ2」は特段のコスト増加なしに打ち上げ可能であることを示し、相乗りの候補として、ASTRO-G(2012年打ち上げ予定)と、GPM(2013年打ち上げ予定)が存在すると指摘した。

 すると、非常にありがたいことに世界ロケット記念館というホームページを運営しているLH2さんという方が、私が行ったよりもきちんとした計算を行ってくれた。

 LH2さんの検討によると、ASTRO-Gと「はやぶさ2」の同時打ち上げは、キックモーターを使わなくとも第2段3回目の着火を行うことで可能になるという。

 私は直接LH2さんとは面識はないが、航空宇宙学科の学生さんであると聞いている。今年のエイプリルフールには「GXロケット、計画変更へ」というヨタ話を飛ばし、そのあまりの出来の良さにJAXAロケット関係者が動揺したという快挙を成し遂げている。

 なにしろ野田司令が野尻ボードで「で、改めてお願いですが、エープリルフール・ネタには、パロディだと、もう少し分かりやすいようにしてもらえますか?」と懇願したのだから、大したものだ(野田さん、私思うにこの件に関してはエイプリルフールのネタを一人歩きさせて、影響を受けてしまうような宇宙開発のプロの側に問題があるのでは?もしも役所とか財政当局とか政治家が影響されるとしたら、エイプリルフールを見抜けない彼らが宇宙政策をどうこうしていることの危うさのほうがよっぽど問題では?)。

 こういうきちんとした検証ができる人が、どんどん増えてもらいたいなと思う。宇宙という分野は、物理法則がそのまま適用できるので、簡単な計算ならば自動車や飛行機よりもずっと単純だ。LH2さんが行ったような計算ができる人が増えて、JAXAのやっていることを計算で検証できるようになれば、それだけ日本の宇宙開発は透明かつ公正なものになるだろう。


閑話休題
 日本ではあまり話題にならなかったが、今年の10月4日は世界初の人工衛星「スプートニク1号」が打ち上げられてから50周年だった。

 実は、今年の11月3日は、スプートニク2号の50周年だった。映画「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」でストーリーのバックグラウンドとなる、初めて軌道に乗り(それ以前も弾道飛行で宇宙に行った生物はいた)、帰ってこれなかった犬の打ち上げがあった日である。可哀想な犬クドリャフカは、打ち上げ数時間後に過熱のために死亡していたそうだ。


 1950年代から60年代にかけて、宇宙開発は急速に進展した。つまりこれからしばらくの間、宇宙は50周年ラッシュになるのだ。ざっとこんな感じで——

  • 2008年1月31日:アメリカ初の衛星「エクスプローラー1号」打ち上げ50周年
  • 2008年3月17日:アメリカの「ヴァンガード1号」打ち上げ50周年(現在軌道上にある最古の衛星)。
  • 2009年1月2日:最初の月探査機ルナ1号打ち上げ50周年
  • 2009年9月4日:ルナ2号打ち上げ50周年(最初の人工物体月面到達)
  • 2009年10月7日:ルナ3号打ち上げ50周年(最初に月の裏側を撮影)

 もう少し関連本が出るかと思っていたが、スプートニク50周年に出たのはこの本だけだった。長年朝日新聞の科学部で宇宙開発を取材してきた著者による、この50年に飛んだ衛星の紳士録である。科学的に華々しい成果を挙げた探査機あり、地味に技術開発を進めた衛星あり、半世紀もあると随分と人間は色々なことをやってきたというのが分かる。今のGPSにつながる「トランジット」や、最初の気象衛星「タイロス」といった、地味であまり知られていない衛星についても取り上げている。また、取材の現場で見聞したこぼれ話も今となっては興味深い。  宇宙開発に興味があるならば、持っていて損はない一冊だ。

 スプートニク1号については、宇宙開発史の桜木さんが、謎のスプートニク打ち上げロケットT3(pdfファイル)という面白い記事を公開している。ソ連がロケットの正体を隠したものだから、西側ではいかなる推測が出回ったかのまとめだ。実際のR-7ロケットよりも格好良い図が出てくるのが、今となっては笑える。

 そういえば、かぐやの月周回軌道投入も、スプートニク50周年と重なったのだけれど、メディアはほとんど取り上げなかったな。

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2007.10.25

広告メールに感謝します

 一昨日から当blogへのアクセスが急に伸びた。最近は毎日3000〜4000程度のアクセスがあるのだが、一昨日は午後11時以降、突如として3000アクセス、昨日は一日で9000超のアクセスがあった。

 一体なぜ急にこんなにアクセスが集まったのか。
 ログを調べてみると、その多くは流石メールという広告メール配信サイト経由で、はやぶさ2に向けて、最後のお願いに来ていた。

 2ちゃんねるのはやぶさスレに、真相を書いてくれた人がいた。どなたかは分からないが、「はやぶさ2実現のため応援を望む」という私の記事のリンク付きの広告メールを打った方がいたのだ。

 おそらくは自腹を切って、広告メールを打ったのだろう。どなたかは分からないが、その行いに深く感謝したい。どうもありがとうございます。

 「はやぶさ2」構想がこの先どうなるか、まだ不透明だ。しかし、今回の広告メールは「はやぶさ」とその先にあるミッションが、これほどまでに国民に親しまれ、愛されていることをはっきりと示したと思う。

 過去、日本には数多の衛星計画が存在し、実際に打ち上げられもしたが、一般国民をこれほどまでに鼓舞し、一般国民にこれほどまでに愛され、その将来を期待された衛星計画は他に存在しない。そう言い切ってもいいのではないだろうか。

 そのことは、きっとJAXAを初めとした関係者にも届いたことと思う。

 「はやぶさ2」に自腹を切った人が現れた。その背後には、「自腹を切ってでもはやぶさ2を見たい」という人が多数存在すると思って間違いない。

 そう思わせたのは「はやぶさ」であり、「はやぶさ」を企画し、開発し、打ち上げ、運用した人たちだ。

 その意味は重い、と私は考える。

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2007.10.24

かぐやモニターカメラ映像からわかること

20071021_08_location
「かぐや」取得画像と、「クレメンタイン」のデータによる月面図の比較
 図版作成:Naru HIRATA / 平田 成(会津大学コンピュータ理工学部)
http://www.jaxa.jp/press/2007/10/img/20071021_kaguya_08.jpg (Credit: JAXA)
および
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA00001 (Credit: NASA/JPL, USGS)
より改変

 月探査機「かぐや」のモニターカメラが撮影したのは656×488ドット、32万画素のJPEG画像だ。画像のレベルとしては10年前、発売直後のデジカメ程度である。

 それでも、これだけ臨場感溢れる画像が撮影できる(pdfファイル)というのは驚くべきことだ。

 が、プロの科学者なら、我々が「きれいだな」「素晴らしい」と思う以上の情報を、同じ画像から読み取れるのではないだろうか。

 と、思っていたら、産業技術総合研究所の中村良介さんが、「クレーターの底の永久影の状態が分かりますよ」と、教えてくれた。もっと詳しく知りたいのだが、とお願いすると、「では、平田さんに連絡して図を作ってもらいましょう」ということになり、ご存知、会津大学の平田成さんが、詳細な図を作成してくれることになった。

 かくして、平田さんから届いたのが、冒頭に掲載した図だ。かぐやのモニターカメラの画像に写った、シュレーディンガー、アムンゼン、そして、シャックルトンの各クレーターの位置が、1994年にアメリカの月探査機「クレメンタイン」が取得した月表面データと比較してある。

 中村さんによると、ここで注目すべきは、クレーターへの日照の入り方なのだという。たとえばアムンゼン・クレーターを比べれば、日照の入り方が異なるのが一目瞭然だ。
 極における日照は、月の水の存在と密接に関係している。モニターカメラの画像から、日照の状態を読み取ることができるのである。

Clementine2 クレメンタインは、1994年の2月から4月にかけて月面の観測を行った(写真は打ち上げ前整備中のクレメンタイン Photo by NASA)。これは北極が夏で南極が冬の時期である。月の南極は今年11月が夏至だ。つまりかぐやモニターカメラの画像は、月の南極が夏にどのような日陰を作るかを写し出しているのである。

 そう、月にも季節が存在するのだ。

Illumi
月の南極における太陽高度のグラフ:グラフ作成 平田成

 なぜ月に季節が存在するかと言えば、月の自転軸と月の公転面の両方が傾いているからだ。

 以下は平田さんによる説明。

「月の赤道面(〜自転軸)が月の公転面に対して6度41分傾いています.で,黄道面(〜地球の公転面)が月の公転面に対してこれとは逆向きに5度9分傾いているので,差し引き1度32分が月の赤道面(〜自転軸)と黄道面の成す角ということになります.この角度が季節を生むことになります.」

 月の赤道面と黄道面が1度32分ずれているということは、月面に太陽光が当たる角度は、1地球年の間にその2倍、約3度変化するということだ。
 月面から太陽の高さを、地平面からの角度で観測したとすると1地球年の間に約3度だけ変化するわけである。

 小さな角度だが、両極地方では、この差によって、日照は当たる、当たらないが大きく変化する。


Lunarprospector クレメンタインは、地球の電波望遠鏡との共同観測で、月の極地域に水が存在する可能性を発見した。その後、アメリカの月探査機「ルナ・プロスペクター」が1998年から99年にかけて行った中性子分光観測により、水が存在する可能性はますます高まった(写真は、打ち上げ前のルナ・プロスペクター、Photo by NASA)。

 詳細は月探査情報ステーションのFAQ(よくある質問集)にくわしく載っている。

 月は重力が小さく、気体を表面につなぎとめておくことができない。水は太陽光で水蒸気になり、どんどん宇宙空間に逃げてしまう。
 しかし、月の両極、クレーターの底には永久に太陽光が当たらない影の地域が存在する。

 そこに水を含んだ彗星が落下したらどうなるか。大部分の水は気体となって散ってしまうだろうが、一部は永久の影の地域に吸着され、そのまま蓄積されるのではないだろうか。彗星の落下頻度はそんなに多くないが、それでも何億年もの時間があったわけだから、相当量の水が、両極のクレーターの底にあってもおかしくはない——というのが、月の水に対する現在の解釈である。

 アメリカが、有人月基地をシャックルトン・クレーターの縁に建設すると言っているのも、クレーターの底に存在するかもしれない水に期待しているわけだ。

 もっとも、月の水については、懐疑的な研究者も多い。中性子分光で分かるのは、水素が存在するということだけだ。現状では水素があるなら、それは水ではないかと言っているのであり、確かに水であると判明したわけではない。

 水の存在を知るためには、月の両極のどのあたりに1年間を通じて影となっている地域があるかを正確に知る必要がある。

 ところが、現状では両極の永久影地域の正確なマップは存在しない。

 クレメンタインのデータは、何度にも分けて細い帯状に観測したものを合成して地図としている。このため、1枚の図であっても、太陽光のあたりかたは地域によってばらばらだ。

「この季節、この時刻なら、ここが影でここは日向だ」ということが分からないのである。

 しかも、観測は「北極が夏で南極が冬」という時期だけである。南極が夏になり、太陽の高度が上がったら、今まで永久影だと思っていた地域に太陽光が当たっていた、ということもありうるし、その逆で「いつもいつも太陽が当たっている」と思っていた地域が、冬になると影になるというケースも考えられる。

 月に水が存在するのか、存在するとしたらどこにあるのか——このことを知るためには、月の両極地方の日照をせめて1年に渡って観測する必要がある。

 「かぐや」のモニターカメラは、分解能こそ低いものの、視野の広い広角レンズを装着しているので、月面を広く一度に撮影することができる。


 つまり「この時期この時刻に、どこに太陽光があたりどこが影になるか」を一目で見渡すデータが取れるのだ。分解能は300mもあれば十分である。


 これはけっこう使えるのではないか、と中村さんや平田さんは考えたわけである。

 かぐやのミッション期間は1年だ。その間に南極の夏を狙うとすれば、機器立ち上げ最中の11月しかない。そこまでにメインのセンサーを観測可能にできるかどうか、を考えると、モニターカメラによる撮像は、バックアップ手段としても悪くはない。
 もちろん、メインのセンサーを11月の夏至に間に合わせるのが本筋ではあるけれども。

 先日の記者会見の時の祖父江さんの話では、今後はメインセンサーに注力するので、モニターカメラによる月面撮影は行えるかどうか分からないということだった。しかし、科学的価値が出てくるとなると、これは撮影してみる価値があるかもしれない。「かぐや」とはハイゲインアンテナを通じた高速通信が確立しているので、32万画素のJPEG画像は、さほど通信系の負担にはならないはずだ。

 アメリカのルナ・プロスペクターは、1999年7月31日に月の南極に計画的に墜落した。舞い上がる砂塵の含まれるかも知れない水分を、地上の望遠鏡で観測したが、水は検出されなかった。
 中村さんと平田さんの説明を受けて思いついた。ひょっとして、ルナ・プロスペクターは永久影だと思いこんでいたが実際には季節によって日照がある地域に落ちたのかも知れない、と。

 物事を成功させるには、基礎的データがとても大切なのだ。

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2007.10.21

公開されたモニターカメラの画像

 本日公開されたかぐや搭載モニターカメラの画像を一部掲載します。以下すべての写真はphoto by JAXAです。

0710180021jst120kmcaptionキャプションあり

0710180021jst120kmキャプションなし

 10月18日 日本時間0時21分、月の南半球、帆お南極付近上空120kmから撮影。ヘールクレーターと、デモナックスクレーターが写っている。

0710190017jst98kmcaptionキャプションあり

0710190017jst98kmキャプションなし

日本時間10月19日0時17分、南半球上空98kmから地球を望む

0710190020jst94kmcaptionキャプションあり

0710190020jst94kmキャプションなし

日本時間10月19日0時20分、南半球上空94kmから地球を望む



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かぐや、観測軌道に到達、定常制御モードに入る 午前10時半からの記者会見

 午前10時半からのかぐや定常制御モード移行の記者会見です。

 出席者は滝澤悦貞プロジェクト・マネージャー、佐々木進プロジェクト・サイエンティスト、祖父江真一セレーネプロジェクトチーム主任開発員。


「いつもニコニコ記者会見ですが、」という広報の言葉から始まりました。


滝澤:初期クリティカルフェイズが終わった。

 定常制御モードとは、月にセンサーを向けた三軸姿勢制御状態のこと。

 発表文読み上げ。

Sofue 祖父江真一セレーネプロジェクトチーム主任開発員から、今回公開された画像に関する説明.モニターカメラの画像。カメラの視野は71°×94°。高度120kmからの撮影で1ピクセル300mの分解能。

 松浦注:モニターカメラの視野は35mmフィルムカメラ換算で、焦点距離19~20mm程度。

質疑応答。今回は名乗らない人が多かったので、質問者不明が多いです。

NHK 撮影された写真の過去との違いはどんなものか。今回公開された画像の特徴的な部分を知りたい。例えばクレメンタインよりも低い高度で取っているとか。

滝澤:我々としては臨場感のある写真だと思っている。かぐやの一部が写っている。

不明 クリティカルフェーズ終了の感想を知りたい。名前を乗せた人やデータを待っている科学者の皆さんにひとこと

滝澤:ここまでのことがきちんとできないと観測ができないわけで、今後の観測が可能になったことでほっとしている。期間が長かっただけでなくいつどんな操作を行うかのイベントのリストも長かった。見返してみてこれだけやったんだな、と思った。
 今後、機器の立ち上げをしていく。新しいどんなデータが出てくるか楽しみである。


佐々木 かぐやはオリンピックで言えばオリンピックの会場に来たところ。これから試合の準備を始めるところ。
 これから、中国、インド、アメリカとプレイヤーがどんどん月にやってくる。かぐやの観測機器は我々としては自信作なので、いいデータがとれることを期待している。
 予想された観測成果だけではなく、予想できない新たな発見があるのではないか、それがとても楽しみだ。
 観測機器の立ち上げが順調に終わらないと定常観測に入れないので、今のところは機器の立ち上げで心が一杯である。

Takizawasasaki
不明:クリティカルフェーズ終了の日付はいつか。搭載機器の確認はどんな順番で行うのか。

滝澤:定常制御モードに19日に入れ、20日にきちんと定常制御モードに入れたことを確認した。

佐々木:今後のスケジュールは、まずはバス系のチェックアウトを行う。冗長系のチェック。
 観測系では、最初に磁気センサーのマスト伸展、レーダーサウンダーのアンテナの展開、超高層大気プラズマイメージャー(UPI)のを搭載したジンバル機構の立ち上げを行う。

 次に14の観測機器の低電圧系の立ち上げを行う。これが終わるのが11月半ばまでに。
 最後に、高電圧系を少しずつ電圧を上げていくという方法で1ヶ月かけて立ち上げていく。

 ただしこれは予定であり、動く可能性はある。


フリーランス青木 かぐやと子衛星の軌道について。現在かぐやは80×120kmの軌道に入っているがこれは100km円軌道に近づけるのか。子衛星はねらった軌道に入ったのか。

滝澤:結論から言うと現在の軌道はねらったとおりの軌道である。100kmの円軌道に対して月の重力場のひずみで高度は変動する。かぐやの観測軌道は30km程度の誤差を許容している。現在の軌道は誤差の範囲内。
今後月の重力場のひずみの影響で、だんだん100kmの円軌道に近づき、やがて近地点と遠地点が入れ替わり、まだ軌道が楕円へとなっていく。その誤差が30kmぐらいになったらスラスターを噴射して軌道制御を行う。

中国の探査機が上がることについてのコメントを。

滝澤:共に成功したいと思っている。お互いに取ったデータで月研究を高め合うようにしたい。

佐々木:1+1が3にも4にもなるような協力関係を構築できれば期待している。


毎日新聞 電力、推進剤、通信系なども予定通りなのだろうか。

佐々木:推進剤は予定よりも多く残っている。ロケットの軌道投入精度がよかったことと、軌道制御が効率的にできたため。電力は予定通り。通信もきちんととれている。

エイビエーションウィーク 推進剤のこと。もう少し具体的に。予定より何kg余ったとか。

滝澤:予定に対して数十kgは余計に残っているという状態である。

喜多:10年間の開発と2ヶ月のクリティカルフェーズおつかれさまでした。打ち上げ以降大量のやることをこなしてきたと拝見したが、そのために相当準備したのではないかと思う
 そのあたりでひとつなにか自慢をしてもらいたい。

滝澤:月周回軌道投入は失敗すると大きな影響がある。失敗した場合に備えて、さまざまな対策をすごく考えた。
 かぐやは相模原で追跡管制をやっているが、そこが災害に遭った場合どうするかも考えた。月周回軌道投入にあたっては相模原が駄目になっても大丈夫なように臼田から直接コマンドを打つ体制を整えた。色々なバックアップを考えて本番に望んだ。幸いにしてそれらは使わずにすんだ。
 かぐやは新しいデータを世の中に出すというのが最終的なゴールなので、そこまでは新たな気持ちでやろうと考えている。

佐々木:ここまで順調に来ているのは、数十人の運用関係者が心をひとつにしてシステマティックに動いているから、それが大きいと思う。

 会見後のぶらさがりにて。

祖父江:今は月の出に合わせた生活をしています。時刻はUT(世界標準時)を使っています。まだまだ昼夜関係ない生活が続きますね。
 かぐやはこれまで、スラスターの噴射で姿勢を保っていました。軌道変更のための500Nスラスターの噴射時も、リアクションホイールを動かしていません。定常制御モードで、はじめてホイールを動かして姿勢制御を始めたわけです。


滝澤:これからは世界に誇るべきデータを静かに出していくことができればね。

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2007.10.15

2ちゃんねるに出る

 この週末、2ちゃんねるに実名で出ていた。天文気象板にある「小惑星探査機はやぶさ」というスレッドだ。2ちゃんねるは1スレッドが1000メッセージで一杯になるので、新たなスレッドを立てるという仕様になっている。私が出たのはpart 27(過去ログに落ちている)と現行スレッドのpart 28である。

 「はやぶさ2」に関して、自分の知ることを質疑応答で出しておこうと思ってのことである。

 以下は一連の書き込みその中で書いたことだ。「役に立つ」「役に立たない」という議論は、往々にして「今の自分たちに具体的にどう役に立つかが分かる」ということと混同される。
 しかし実際に「何が役立つか」は、そう簡単に分からない。おおくの公共投資が「役立つ」という名目で実施されていることを思い出そう。

 天文学の例を見るように、世界の探究、知識への追求は、過去、必ず人類に大きな恩恵をもたらしてきた。その流れの先頭に、太陽系探査が立っていると考えるべきではないだろうか。

 そう考えない理由を、私は思い当たらない。

 以下は2ちゃんねる天文・気象板の「小惑星探査機はやぶさ part27」スレッドの974番コメントにかき込んだものの再録だ。「科学への貢献という理念だけでは納税者の支持を得られないのでは」という問いに対する回答である。


>科学への貢献・国際社会への貢献等と言う崇高な理念「だけ」では、巨額を投じる
>に納税者の支持を得ない。

 例えば天文学を不要不急の学問と思っている人は今も多いです。
 しかし実際には、緯度経度を定め、天測による航法を可能にし、時刻を定め、度量衡の基本となり、核物理や相対論の基礎となる観測結果を得たのは、天文学です。

 今や、量子力学と相対論なくして生活が立ちいかないのはご存知 ですよね。量子力学なくして半導体デバイスはありえません。また、 GPSは相対論的な補正をしてはじめて正しい位置を測定します。

 天文学ほど実用に役立った学問はないとすらいえるかもしれません。

 かつて世界を制したイギリスには、今も人口比で日本の10倍の天文学者がいるそうです。
 今、世界を牛耳っているアメリカが、基礎科学にがっちり投資しているのはご存知のとおりです。

 一見不要不急に思える基礎科学は、長い目でみるともっとも実用的な科学でもあり、国の繁栄の土台となるものなのです。

…と、いうことを、納税者にきちんと語り続けるのが、私の仕事だと思っています。

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2007.10.13

これまでのミッションの価値

 プログラム的探査を主張するためには、今、私達の日本が、どのような価値のある探査を行っているかも重要となる。出発点がしっかりしていなくては、その上にどんなにしっかりした仕組みを作り上げても、成果としては貧弱なものになってしまうだろう。

 過去22年の間に、日本は3回、4機の探査機を惑星空間に送り出してきた。ハレー彗星を目指した「さきがけ」「すいせい」、火星探査機「のぞみ」、そして「はやぶさ」だ。

 76年に1回の国際共同ミッションの一環として打ち上げられた「さきがけ」「すいせい」(1985)は、ハレー彗星接近という特別な機会を利用したものだった。観測内容は同時期に打ち上げられた各国の探査機を分担され、その後の彗星探査は、核に高速の人工物体を打ち込む「ディープインパクト」(アメリカ)、彗星核への着陸を目指す「ロゼッタ」(欧州)まで、大分間が空いた。
 だから、ここでは考慮の対象からはずそう。日本でも彗星核サンプルリターンが検討されているが、これは技術的に考えると、おそらく「はやぶさ」の成果の延長戦上での実施ということになるだろう。

 ここでは、「のぞみ」「はやぶさ」についてのみ考えることにする。

 実は現在、それぞれ後を追う、追従者が出てきている。

Osiris 「はやぶさ」の追従者は、アメリカの「オシリス」だ(Photo by NASA)。イオンエンジンを使って小惑星にタッチダウンし、土壌サンプルを採取して持ち帰るという、まさに「はやぶさ」そのものの構想である。現在、アメリカの小型探査機シリーズ「ディスカバリー」の候補として選定中である。10月末から11月にかけて、選定結果が公表される予定だ。

 もちろん選定に漏れて消えてしまうこともありうるが、私の聞いた話では、「オシリス」が選ばれる可能性が高くなっているという。

 選定されればオシリスは2011年に打ち上げられる。

 「のぞみ」は火星本体ではなく、火星の希薄な大気の状態を調べる探査機だった。
 旧ソ連の探査機「フォボス」の観測から、火星は上層大気からかなりの量の酸素がイオンの形で流出していることが判明している。それも数億年オーダーで、火星の大気がなくなってしまうほどの勢いだ。
 どんなメカニズムで酸素が流出しているのか、酸素は減っているのはどこかから補充されているのか——これらの問題は地球という星の大気環境を知る上でも重要である。比較対象の相手があるとないとでは、研究の進展が変わってくる。
 しかし「のぞみ」はトラブルにより、火星周回軌道に入ることなく終わった。

 アメリカは現在、小型の火星探査機シリーズ「マーズ・スカウト」を実施している。現在、最初のマーズ・スカウト「フェニックス」が火星南極地域への着陸を目指して、火星へ飛行中である。

 NASAは次のマーズ・スカウトを2011年に打ち上げる予定で、現在、ミッションの選定を進めている。
 多数の提案の中から、2007年1月に、2つの候補が勝ち残った。「メイブン(MAVEN)」と「グレート・エスケープ」だ。年内にはこのどちらかが、正式の「マーズ・スカウト」として選ばれることになる。

・メイブン(MAVEN:Mars Atmosphere and Volatile Evolution mission)
 正式名称は「火星大気と揮発性物質進化ミッション」。火星の気象及び大気の変動のありようを高層大気のイオン圏をも含めて調査しようというミッションだ。

・グレート・エスケープ(The Great Escape):火星高層大気を調査するミッションだが、読んだ通り高層大気からの酸素が逃げ出している過程の解明を大きな目標として掲げている。

 両ミッションの詳細は月探査情報ステーションのニュースが詳しい。

 つまり、どちらが選ばれても、「のぞみ」が果たせなかった観測を実施するミッションということになるのだ。

 現在宇宙探査の最大勢力であるアメリカが、過去20年かけて日本が実施した2ミッションの後追いをするということは、何を意味するのか、すこし考えてもらいたい。

 日本の研究者達が、乏しい予算の中で考えに考えて、意味のあるあるミッション、科学的価値のあるミッションを選んで実施していることを意味する。

 つまり、日本は、プログラム的探査の出発点としてふさわしいだけの質の高いミッションを選択し、実施してきているということである。

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2007.10.12

「はやぶさ2」に注目する理由

 昨日の記事を読んで、「感情的に煽っている」「陰謀論だ」と思う人もいるようだ。確かに昨日は、現状説明は書いたものの、私が「はやぶさ2」を支持する理由を明確には書いていなかった。

 以下、私の意図を要約して説明しよう。私が「はやぶさ2」に注目する理由は2つある。

まず、「プログラム的探査」の重要性。

 私は、継続的、計画的に太陽系探査を進める「プログラム的探査」が、今後の日本の宇宙開発に必須と考えている。探査は継続的に実施しなくては意味が薄れるし、その場合今回の探査機と次の探査機を一連のものとして構成や目的を明確にしたほうが成果が大きくなるからだ。

 実は1970年代にプログラム的探査への動きがあった。

 日本で最初に惑星探査の重要性を主張して行動したのは、東北大学の大家寛教授(当時)だった。1)まず行きやすい金星に、2)2機の探査機を送り、3)次いで火星、4)その次に木星——という主張は、まさにプログラム的探査そのものだった。

 この主張が通らなかった経緯は、拙著「恐るべき旅路」に書いた。

 大家教授の意見が通らなかった結果、「さきがけ」「すいせい」は別のセンサーを搭載することになり、成果を増したが、「同型機を2機打ち上げる」習慣がつかなかったことは、極端に言えば火星探査機「のぞみ」の失敗に遠くつながっているかも知れない。

 「はやぶさ2」が動き出すか否かは、1970年代以来30年振りに訪れた、日本にプログラム的探査を根付かせるチャンスなのだ。ここで失敗すると、また後々に禍根を残すのではないかと私は危惧している。

 もうひとつは、「科学衛星こそが、技術開発の源泉」となりつつある現状では、宇宙科学を予算削減の対象と考えるのではなく、むしろ技術開発のテストベッドとして積極的に捉えるべきではないかという考えである。

 昨今の科学観測の高精度化により、科学衛星の実現にはハード、ソフトの両面で最先端技術の開発と採用が不可欠になりつつある。高精度の姿勢制御や高出力太陽電池、高感度、多波長のセンサー素子など、かつてならば技術試験衛星が担っていた宇宙での技術開発を、科学分野が担うようになってきている。

 その一方で技術試験衛星は、巨大化し、失敗が許されなくなってきたせいもあって、試験要素以外は極端に保守的になってきつつある。実際問題として「きく8号」は情報通信研究機構の縄張りのようになってしまっており、しかも実施する実験アイテムが実用化する見込みは立っていない。

 とするなら、宇宙科学分野に注力することで、宇宙での技術開発力を保持しつつ、同時に世界最先端の科学観測成果を上げるというのが正しいいき方ではないかと考えるのである。

 そのためにも、科学衛星や探査機がある程度以上の頻度でコンスタントに打ち上げられる環境を作る必要がある。

 以上2点、私が「はやぶさ2」に注目し、下記のような呼びかけを行う理由である。

 もちろん、根底には「またはやぶさが見たイトカワのような光景を見たい」「見知らぬ太陽系各所を探査したい」という欲求があるのは言うまでもない。

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2007.10.11

はやぶさ2に向けて、最後のお願い

Pioneer10 Voyager1 Garileo

Cassini Newho

上、左から、パイオニア10(1973)、ヴォイジャー1(1979)、ガリレオ(1995)

下、左から、カッシーニ(2000)、ニュー・ホライズン(2007)

Photo by NASA


 まずは写真を5枚掲載することにする。その意味は、この記事の最後で種明かしすることにしよう。

 この前の「ロケットまつり」終了後にちょっと話した、「はやぶさ2」ののこと。

 当方がもたもたしていうちに、コメント欄でうーぱーさんにハッパを掛けられてしまった。

 そう、現在「はやぶさ2」を巡る状況は非常に厳しい。10月末がひとつの区切りになり、そこまでに海外の打ち上げ手段を調達できないと、計画自体がつぶれるという状況になっている。

 「はやぶさ」の冒険を目の当たりにし、今、「かぐや」が送ってくる月の映像にわくわくしている私達にすれば、日本国民が宇宙開発に何を求めているかは、非常に明確に思える。

 太陽系全域の探査だ。

 しかし、そのさきがけとなるべき「はやぶさ2」は今、予算の帳尻合わせのために危地に立っている。10月末に向けて、現在急速に事態は動いている。

 「はやぶさ2」に始まる、プログラム的探査に必要な予算は、JAXA全体の5年間の予算からすれば、大きな額ではない。

 にもかかわらず、GXロケットを初めとした遅延と予算超過を繰り返す積み残しの不良債権的計画に押されて、JAXAは今、未来に向けたもっとも貴重な宝石を自らゴミ箱に放り込もうとしている。

 だが、諦めるのはまだ早い。関係者は実現の可能性を必死で探っている。計画を好感を持って迎え、打ち上げ手段の提供を検討しようとする海外機関もあるようだ。

 私は、見たい未来を実現するために、声を上げる時だと思う。上げ続けることが未来につながると思う。

 皆さんの声が、「はやぶさ2」を、ひいてはその先にある日本の宇宙探査を実現する鍵となる。

 訴えるべき相手として、私は以下の3つの組織を選んだ。


1)文部科学省・宇宙開発委員会(メールアドレスはvoiceアットマークmext.go.jp)

2)内閣府・総合科学技術会議(http://www.iijnet.or.jp/cao/cstp/opinion-cstp.htmlから送付)

3)JAXA経営企画(メールアドレスはprofficeアットマークjaxa.jp)

 

 すでに議論や実態がかなり進んでいることを考慮して、即効性がありそうな送り先を選定した。

 宇宙開発委員会は、委員長以下5人の委員宛となる。

委員長     松尾 弘毅   元宇宙科学研究所所長
委員長代理   青江 茂    元日本原子力研究所副理事長
委員      池上 徹彦   前会津大学学長
委員(非常勤) 野本 陽代   サイエンスライター
委員(非常勤) 森尾 稔    元ソニー株式会社取締役副会長

 総合科学技術会議は、以下の委員宛となる。

閣僚
福田 康夫 内閣総理大臣
町村 信孝 内閣官房長官
岸田 文雄 科学技術政策担当大臣
増田 寛也 総務大臣
額賀 福志郎 財務大臣
渡海 紀三朗 文部科学大臣
甘利 明 経済産業大臣

有識者
相澤 益男(非常勤議員) 東京工業大学学長
薬師寺 泰蔵(常勤議員) 慶應義塾大学客員教授
本庶  佑(常勤議員) 京都大学客員教授
奥村 直樹(常勤議員) 元新日本製鐵(株)代表取締役 副社長、技術開発本部長
庄山 悦彦(非常勤議員) (株)日立製作所取締役会長
原山 優子(非常勤議員) 東北大学大学院工学研究科教授
郷 通子(非常勤議員) お茶の水女子大学学長
金澤 一郎 日本学術会議会長 ※関係機関の長

注意:それぞれきちんと宛名に個人の名前を入れること。でなければ、メールは各委員まで届かず、途中で止められてしまうかもしれない。
 メールが組織全体で処理する形にならないように、個人への宛名は必須である。

 総合科学技術会議は、人数が多く、メールフォームが1000文字以内となっている。短い文章で的確に意見を言うため、相手を絞る、何通かに分けて出すといった工夫が必要になるだろう。

 JAXA経営企画は、「広報気付、経営企画部御中」ということになる。

 正直、ここで私が書いている事を、すぐにJAXA広報は気が付くと思うので、「また松浦さんが余計なことをして」ということになるかも知れない。それでも、JAXA広報は一般からのメールを差し止めてるというようなことはしないはずである。

 この文章を読んでいるあなたが、一昨年の「はやぶさ」の探査を、一喜一憂しながら見守った経験の持ち主ならば、少しの勇気を奮い起こしてメールを書いてもらえれば、と希望する。

 見たいものがあるならば、「見たい」と口に出して言わなくてはならない。欲しい未来があるのなら、「欲しい」と宣言して行動するべきだ。黙って待っているだけで、望む世界がやってくるはずがない。

 「はやぶさ2」が、C型小惑星に降下する勇姿を見たいのならば、ほんの少しの行動してみよう。


 以下は、先だってnikkei BP.netで書いた実現の瀬戸際に立つ「はやぶさ2」~国内外の高評価と対照的なJAXA内での冷遇 (2007年9月25日掲載)の、その後も含めた現状である。


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「はやぶさ2」を巡る状況(2007/10/11)

 「はやぶさ2」実現にあたっての問題は、今後5年のJAXAの中期計画が、予算見積もりに縛られているということ、そしてその中に、国際宇宙ステーション、準天頂衛星、GXロケットといった、予算超過と計画遅延を繰り返したアイテムが多数存在し、処理されざる不良債権として予算を圧迫しているということにある。

 そして、文科省、宇宙開発委員会、JAXA経営企画部などは、予算を増やしたり不良債権を損切りするのではなく、そのまま抱えたまま新規アイテムを抑制することで、予算の枠内の中期計画を策定しようとしている。

 洋の東西を問わず、宇宙予算が危機的状況に陥った場合、真っ先に割を食うのは宇宙科学、それも新分野に乗り出そうとする新しい宇宙科学だ。

宇宙科学の予算が切られる理由

 宇宙科学には、学問的興味から行う不要不急の宇宙開発というイメージがまとわりついている。そして、公共事業的な巨大計画は、一応「ほら、このように役立ちます」ということを主張した上で予算を取っている(それが本当に役立つのかどうかは全く別だ)。

 予算額も大きいので「産業に与える影響が大きすぎる」という理由からメスが入ることはない。

 そこには、予算の多寡にかかわらず、1アイテムは1アイテムという役所の都合も存在する。1アイテムを財務その他で通す手間は、アイテムの大小にかかわらず同じだ。そして、産業政策としては予算の大小のみが問題となる。「小さな計画沢山」よりも「ビッグプロジェクトが少数」のほうが、管理もしやすいし、話も通しやすい。

 そして小さな計画を多数切ったほうが、「ほら、このように計画を削減して予算を節約しました」と説明もしやすい。

 「はやぶさ2」は、一番切られやすい宇宙科学の範疇にあり、しかも太陽系探査という新しい分野である。さらに、「はやぶさ2」を出発点とした一連の「プログラム的探査」の出発点でもある。このことを経営企画の側から見ると、「はやぶさ2を認めると、はやぶさ2のみならず、その後もずっと支出することになるのではないか」という危険を感じることになる。

 だから、「こんなものを、この予算の厳しい時期に認めるなんて、とんでもない」という思考に走ってしまうわけだ。

 だが、少し考えれば、健全な組織において経営企画セクションが果たすべき本当の役割は、

 1)今後の宇宙計画にとって何が必要かを真剣に考え抜き、
 2)本当に必要な計画とそうではない計画を先入観や過去の経緯を廃して峻別し、
 3)本当に必要な計画にのための予算は、なにがあっても充当する、
 4)ないしは、実施できるだけのバックアップを行う、

 ということではないだろうか。

 そして宇宙科学は、宇宙開発全体の中で、「常に行うべき事業」という地位を占めている。決して宇宙開発全体の中に占める割合は大きくないが、常時実施しつつ、次に向けた種子を蒔いていかなくてはならない。

 プログラム的探査は、未来に向けて、今こそ蒔くべき種子である。


宇宙科学を厚遇している気分になる事情


 困ったことに、JAXA経営企画セクションが「十分に宇宙科学には厚く付けた」という気分になる事情が存在する。

 次期固体ロケットの開発と、同ロケットで打ち上げる小型科学衛星が、次期中期計画に盛り込まれたことだ。次期固体ロケットは、当初開発費が100〜120億円ということだったが、この1年間の検討によりロケットが、そもそも無理がある2段式から技術的にまともな3段式になり、低軌道500kgから1.2tに能力が向上したなどの理由から200億円に増加した

 余談だが、昨年にM-Vが中止になった表向きの理由「今後4年間、内之浦のM-V発射施設を維持し、PLANET-CをM-Vで打ち上げた場合のコストは106億円になる」を、思い出してもらいたい。当時ISASは100億円でM-V第1段を改良する希望を持っていた。結果として施設維持費を考えても新ロケット開発は、M-V改良と同じだけのコストがかかることになったわけだ。

 既存ロケットを改良したほうが、信頼できる大きなロケットが入手できるのが道理である。

 次期固体ロケットの開発費用が200億円に増えたことは、ロケットの開発には喜ぶべきことだ。しかし、合理的なロケット構成を採用し、必要なコストを積み上げた結果が200億円であるということは、「そもそも、無理やりの理由を付けてM-Vを廃止に追い込んだのではないか」という疑惑に対する傍証になるであろう。

 そして、次期固体ロケットで打ち上げる小型科学衛星は1機40億円と見積もられている。

 「これだけ付けたのだから、次期中期計画で、もう宇宙科学はいいだろう」というわけである。

 しかし、そうではない。次期固体では十分なサイズの探査機を惑星間軌道に投入する能力はない(今のところ、ではあるのだけれども)。宇宙科学を次期固体に絞るということは、「日本は太陽系探査に手を出しかけたけれども、金がないから手を引きます」ということにつながるのである。
 本当に金がないならともかく、その一方で不良債権的計画は、ずるずると進行しているのだ。


なぜ、月探査WG? 「惑星」はどこにいったのか?


 宇宙開発委員会でも、JAXA経営企画セクションと連動したかのような動きがある。

 現在、宇宙開発委員会は、月探査ワーキンググループで、月探査をどう進めるかという議論が行われている。

 名称に気をつけてもらいたい。なぜ「月探査ワーキンググループ」なのだろうか。JAXAに今年度新設されたJSPECは「月・惑星探査推進グループ」だ。JAXAとしては月探査と惑星探査は一体であるという認識に立ち、まとめて推進するという意志を、組織名に示したわけである。では、なぜ宇宙開発委員会が、独立行政法人となり裁量権を増したJAXAの意志を無視しするような名称のワーキンググループを発足させたのだろうか。

 表向きは、「月に議論を絞りたいから」ということであり、惑星探査については第一回会合で報告を受けてはいる。

 だが、このような名前から入るという方法は、官僚が自分の意向を通す時によく使う手段である。後で「そもそもここは月探査について話し合う場所だから」と、惑星探査に関する議論そのものを不可能にしてしまうわけだ。

 なぜ惑星が抜けたのか。おそらく、「はやぶさ2」及びそこから始まるプログラム的探査が、議事録の残る宇宙開発委員会において、議論の対象にならないようにするためである可能性が高い。もっと具体的にいえば、宇宙開発委員会で「はやぶさ2」について語ることを禁じ手にしたわけだ。
 公的書類である議事録に、「プログラム的探査による惑星探査」「その先導ミッションとしての『はやぶさ2』」という言葉を残したくないのであろう。公的書類に言葉をを残すと、それを足がかりにさらなる主張を行うことが可能になる。
 宇宙開発委員会としては、そんな面倒な事態にしたくはないのだろう。

いいわけとしての「かぐや2」

 先だって10月5日の月惑星WGの会合後、各種メディアに、「かぐや2(セレーネ2)」の構想が一斉に出た。これはおそらく文科省の記者クラブでのレクチャーで、文科省側がしゃべったのだろう。

 これも妙な話だ。JSPECでは、プログラム的探査として、「かぐや(セレーネ)」による月周回探査、セレーネ2による月着陸探査、さらにその先のセレーネXによる月土壌サンプルリターンという流れを考えていたはずだ。これらは一つの流れで考えるべきものであり、ひとつを取り出して語るものではなかったはずである。

 なのになぜ、今、この時点で、かぐや2だけがことさらに強調されるのか。

 宇宙開発委員会(ないしはその一部)は、予算が足りないので次のJAXA中期計画では、かぐや2のみを盛り込み、その先のセレーネXにつながるプログラム的探査については、「やるかも」という程度の言質すら与えたくないのではないか。

 「かぐや2」がこのタイミングでことさらに出てくる裏には、「金がないから、かぐや2だけだぞ」という意志があるというわけだ。私達はうっかり「かぐや2が出てくるのだから、当然その次も期待していいのだろう」と思いがちだが、ロジックとしては「かぐや2は認めてやるから、それで満足しておしまいにしろ」という言い方も成り立つのである(ここらへんは、前にも書いた「官僚の文書は文面のロジックがすべて」という実態にもつながる)。

 なぜJSPECの抱える構想の中で、「はやぶさ2」ではなく「かぐや2」が選ばれたかといえば、将来アメリカの有人月探査に参加する可能性を考慮してのことだろう。

 確かに、こうして次期中期計画で、プログラム的探査の芽を潰しておけば、予算的にはJAXAは安泰ということになる。

 だが、このまま議論が進めば、次のJAXA中期計画では「かぐや2」だけ、その先はもう太陽系探査なんて大それたことは日本としてしない、というルートが、公文書の文言の中にできてしまう。

 プログラム的探査、そしてそのさきがけである「はやぶさ2」をつぶしてしまうということは、この先の日本の太陽系探査をもつぶしてしまうことにつながりかねないのである。

 一部からは「そんなことはない」と反論されそうな気もするのだが、公的文書に書かれた言葉が一人歩きし、強力な強制力を発揮することは、ここを読んでいる人ならば先刻承知だろう。
 

20年前のデジャヴ


 実のところ、月・惑星探査に関する宇宙開発委員会の議論は、私に強烈な既視感を感じさせる。

 前にも同じようなことがあった。

 20年前、私は日経エアロスペースの記者として、1987年から88年にかけて、当時の宇宙開発委員会が実施した、宇宙開発政策大綱という当時の中期計画の改訂作業を取材した。1987年度はまず「長期政策懇談会」というワーキンググループで理念をとりまとめた「長期ビジョン」を作成し、88年度に、長期ビジョンに基づいた大綱改定の議論をしたわけだ。
 この時、長期ビジョンには様々な目標が盛り込まれた。ところが実際の改訂作業に入ると、事務方である科学技術庁・宇宙企画課が「予算がない」ということを理由に、徹底的に長期ビジョンに掲載された計画を削り、結局でき上がった大綱は、夢も希望もないしょぼくれたものになってしまったのだった。
 当時の議論には、民間からも委員として多数参加していたのだけれども、その誰もが「なんでせっかく策定した長期ビジョンを無視してまで、科技庁は大綱の内容を削り続けるんだ」と不満を漏らしていたのをはっきりと覚えている。

(余談であるが、当時の科技庁・宇宙企画課課長は、青江茂・現宇宙開発委員長代理だった。今回の動きに似たところがあるのは、あるいは青江氏個人の“官僚としての仕事の手癖”が出ているのかも知れない)

 1988年の大綱改定は、結局バブル経済による税収増、そして崩壊後も続いた科学技術重視の中で、宇宙予算がそこそこ増えたことによってその問題点は隠蔽された。とりあえず予算が増えたので、危機的状況は当面回避できたのだ。

 しかし今回、予算増加を見込める国家財政ではない。財政が萎縮している今、「やらない」としてしまったら、本当に必要なことでもできなくなってしまう。


せっかくの芽生えを潰すのか


 確かに、「はやぶさ2」をつぶすということは、お役所的にはとてもスマートな解法だ。予算超過を起こさない。余計な予算を財務に要求する手間もない。既存計画を恥を忍んで潰す必要もない。

 しかし同時に、国民の期待にも応えていない。当面、役所的に平穏無事なだけで、その先になにか素晴らしい成果が得られる見込みがあるわけでもない。ただ、宇宙産業にだらだらと金を流し続ける、公共事業的計画のみが生き残ることになる。

 そして、「はやぶさ2」の終焉は、火星探査機「のぞみ」、小惑星探査機「はやぶさ」でせっかく芽生えた、日本の太陽系探査への動きを、すでに予算が付いている金星探査機「プラネットC」と、欧州との協力ミッションである水星探査機「ベピ・コロンボ」のみで打ち止めにしてしまう可能性が高い。

 検討が始まっている「のぞみ」後継機も、「はやぶさMark2」も、電力ソーラーセイルによる木星スイングバイ・黄道面脱出ミッションも、その先、2020年代の木星探査機も、「金欠日本はそれでいいんだよ」という力ない言葉とと共に、すべてなしになってしまうかも知れない。

 私としては、そのような事態は、来て欲しくはないのである。


 ここで、冒頭に掲載した5枚の写真の解説をしよう。これらはすべてネットで拾ってきた歴代の探査機が撮影した木星の画像から、大赤斑周辺を同じ縦512ドットで切り出したものである(パイオニア10の撮影した大赤斑は、木星全景しか見つからなかった。確か撮影していたはずだが)。

 それぞれの画像は、取得したセンサーも、撮影に使った波長や画像処理手法、撮影した距離やフライバイの相対速度も違う。さらにはネットに掲載するためにJPEG圧縮も受けているので、単純に比較できるものでもない。

 それでもボイジャー1号とガリレオを比べると、ガリレオのほうがより細かい気流の流れが写っていることが分かる。

 カッシーニの画像はガリレオよりもかなり遠い距離からフライバイで撮影しているが、にもかかわらずかなりの細部までを写し取っている。同じくフライバイのニューホライズンは、よく見ると、木星周回軌道から撮影したガリレオ並の精度で渦巻く流れを写し取っていることがわかるだろう。

 最初の、木星近傍を無事に通過できれば上出来だったパイオニア10から、一瞬のフライバイでも詳細観測を行うことが可能になったニュー・ホライズンへ——できることを、できるところから少しずつ、回数を繰り返してより詳細な観測へ。プログラム的探査とは、このようなデータを積み重ねていくことなのである。


 日本国民が望む宇宙開発とはどんなものだろうか。

 アメリカにお客様として乗せて貰う有人飛行ではない。

 機密保持を理由に、役に立っているかどうかすら国民に開示されない、情報収集衛星でもない。

 今になって測位信号の受信強度がどうのこうのと、最初に立てたコンセプトの筋の悪さを取り繕う議論をしている準天頂衛星でもない(そもそも準天頂衛星は2000年前後のコンセプト検討時点で、検討に参加した技術者ほぼ全員が「技術的に筋が悪いからやめろ」と主張していた)。

 ましてや、5年のはずの開発期間が10年になり、開発費は2倍かかり、上げるペイロードすら定かではないGXロケットでもない(霞が関界隈で、「何機上げたらIHIを納得させて計画中止にできるか」などという軽口が出てくるロケットの開発を続けていること自体がふざけている)。

 真に望むのは、未知の世界を探り、確実に「この世界」に対する知見を増やしてくれる、そんな宇宙活動なのである。

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2007.10.09

月の記念写真だ!

Monitor_location2
オリジナル画像:Photo by JAXA 対照図作成:平田成


 月探査機「かぐや」は極めて順調だ。現在徐々に遠月点高度を下げつつあり、本日9日は、地球のとの通信を中継するリレー衛星の分離に成功した。

月周回衛星「かぐや(SELENE)」のリレー衛星(Rstar)の分離及び主衛星搭載カメラによる月撮像について

 それだけではなく、月の北極地方を見下ろす画像を、搭載カメラで撮影して送ってきた。使用したカメラは、ハイゲインアンテナ(パラボラ形状のアンテナだ。かぐや-地球間の高ビットレート通信に使用する)の展開を確認するためのもので、本格的に月面を観測するものではない。搭載センサーが稼働を開始すれば、これよりもずっと鮮明な月面の映像を送ってくることになる。

 それでも、この写真はすばらしい。「かぐや」の一部と共に写った月の北極地方は、私達が宇宙船で月面上を飛んだらこう見える、という、言ってみれば「かぐやの記念写真」なのだ。


 皆さん、分かっておられるだろうか。これは北極上空から見た月だ。アポロの乗組員も見たことのない月面なのである。

 でも、月面のどのあたりが写っているか知りたいな、と思っていたら、「日本一のクレーターオタク」こと会津大学の平田成さんが、ささっと上記のような対照図を作ってくれた。

 平田さん、どうもありがとうございます。

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 以前から、私は「探査機の記念写真が欲しい」と思っていた。

 観光地に行くと、我々は記念写真を撮る。それこそVサインとか出してしまったりして、行った場所が分かるような所で、自分が写っている写真を撮るわけだ。探査機にも、行った場所が分かるような探査機自身が写った画像が欲しいと思っていた。

Yogiprescol2_2 この欲求に気が付いたのは、1997年にアメリカの火星探査機「マーズ・パスファインダー」が、火星に着陸し、小さなローバー「ソジャーナ」による探査を行った時だった(写真オリジナルはこちら:Photo by NASA)。

 ちょこまかと動き回るソジャーナが写る、ランダーのカメラからの画像には、新鮮な感動があった。
 それまでの探査機では、探査機の一部分がかろうじて画像に写るだけだった。確かにその場所に行かなければ撮影できない画像ではあったものの、「自分がその場所ならではの風景と共に写る」記念写真にはなっていなかった。

 それが、マーズ・パスファインダーの画像には、タイヤの跡を残して走り回るソジャーナ・ローバーがはっきりと写っていた。「確かにそこに、人類の作った機械が行っている」という実感があった。

 はやぶさのイトカワ着陸の時、私は「はやぶさリンク」:こんな画像が見たいという記事も書いている。

 ちなみに、私が見たかった画像は、衛星擬人化イラストを描いているしきしま・ふげんさんが、後に見事にイラスト化してくれた。イトカワに着地したミネルヴァから、こんな画像が撮影できたら最高だったのだが。なにしろミネルヴァはステレオカメラを搭載していたのだから。

 実際には「はやぶさ」は、意表を突いた形で、「記念写真」を撮影してくれた。言わずと知れた、「はやぶさの特徴的な形状がはっきりわかる影を落としたイトカワの画像」である。

Hayabusashadow
Photo by JAXA/ISAS

 この画像に興奮した人は少なくないだろう。「確かにはやぶさは、イトカワの近くにいる」と、これほど強く感じさせてくれた画像はなかった。この、イトカワに落ちる影の画像があってこそ、私達は「遙か彼方に、確かに我々の探査機がいて、かつてない大勝負に挑んでいる」ということを、実感できたのだった。

Sprit_2  その後、NASAの火星ローバー「スピリット」と「オポチュニティ」が、自分の走ってきたタイヤの跡や、ロボットアームの一部が写っているという画像を送ってくるようになった(写真は「スピリット」が2004年1月に撮影したもの:Photo by NASA)。これはなかなか素晴らしかった。
 2機のローバーは、当初の予定を大幅に超えて、現在も火星表面を走り続けており、当然、様々な「俺はここにいるぞ」的な写真も送ってきている。それらを見るのはとても楽しい。バイクツーリングをしていて、要所要所で自分のバイクの写真を撮るのと似たような気分になれる。北海道最北端の宗谷岬のモニュメントの前に、バイクを止めて、写真を撮るような、といえばいいだろうか。

 ただ、なろうことなら「三脚を立ててセルフタイマーを仕掛け、探査機がVサインを出しているような写真」が欲しいと思ったのも事実である。ローバーの全景とはいわないまでも、探査機の形がなんとはなしにで分かるような写真が。

それがとんでもない高望みであるのは重々承知していてはいるのだけれども。


Civa_mars_30_h 私思うに、本当の意味での記念写真は、今年2月に欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」が、火星スイングバイの時に初めて撮影してくれた。ロゼッタには彗星の核に着陸する「フィラエ」というランダーが搭載してある。ESAは、火星スイングバイに合わせてフィラエの搭載カメラを起動して、ロゼッタ本体と、直下の火星とを撮影したのだった(画像の説明はこちら:Photo by ESA)。
 これは本当に素晴らしい写真だ。ロゼッタの架空の乗組員が、火星スイングバイに興奮してカメラのシャッターを押したような臨場感がある。
 ロゼッタの旅は2014年に目的地のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着するまでしばらく続く。その間には小惑星の接近観測も予定されている。まだまだ私達を感動させてくれるような映像が出てくるだろう。

 さあ、そして今回の「かぐや」の画像だ。

20071009_kaguya_07l_2 photo by JAXA

 これもまた素晴らしい臨場感に溢れる「絵」ではないか。

 上の画像は高度800kmからのものだ。地球なら、地球観測衛星がよく使用する高度である。この高度なら地球はこれほど丸くは見えない。やはり月は小さいのだな、と実感できる。

 いや、本当に宇宙探査というのは面白いものだ。この面白い事業に、もっときちんと予算がつけばいいのに、と強く思う。

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2007.10.08

「ローバー、火星を駆ける」

 早川書房から「ローバー、火星を駆ける 僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢」(スティーブ・スクワイヤーズ著 桃井緑美子訳)が出た。私は、解説を書かせてもらった。

 これはとても面白いノンフィクションだ。

 2004年に火星に着陸した2機のマーズ・エクスポラレーション・ローバー、「スピリット」「オポチュニティ」の開発経緯を当事者自らがまとめた本だ。プロローグに「しかしその前に、2機の探査機がケープカナベラルにあること自体がちょっとした奇跡だった」とある。
 まったくその通りで、著者らが探査機実現のためにくぐらねばならなかった労苦は並大抵ではない。2年ごとにぽんぽん探査機を打ち上げているアメリカだから、研究者達は苦労していないだろう——などと考えたら大間違いで、コンセプトをまとめ、ひたすら提案書類を書き、ワシントンの官僚組織に却下され、またコンセプトを練り直し、膨大な提案書類を書き、また却下、を繰り返す。

 その過程で挫折する者も出るし、載せることが不可能になる観測センサーもある。できると思ったことができなくなることもあるし、楽観視していたところが、容易ならざる困難を秘めていたことが分かることもある。

 アメリカならではの苦労もある。日本だと開発が進んで打ち上げ作業に入った探査機の打ち上げが中止になることはまずない。一方アメリカでは、打ち上げ直前まで中止の可能性が残る。
 2003年の打ち上げではスペースシャトル「コロンビア」空中分解事故の余波を受け、NASAの官僚組織は「失敗の可能性が少しでも確認できるなら、打ち上げない」という態度を取った。そして、最後の最後まで「これって大丈夫なのか」という微妙な未確認部分が残り、著者らは「絶対大丈夫」の証拠を提出するために奔走するのだ。

 それでもアメリカの研究者は恵まれている。提案が却下されれば次のチャンスを目指すことができるから。日本では、次のチャンスを10年以上待たなくてはならない。

 宇宙に興味がある人は必読だ。決してアメリカが、万全の体制で太陽系探査を進めているわけではないことが分かるし、にもかかわらず確かにアメリカの底力というものが存在することも理解できる。

 本当に、科学者にきちんと太陽系全域の探査に必要な資金を回せる体制を作りたいと思う。アメリカは有人月探査を言いだし、日本も尻馬に乗る雰囲気となっているが、「本当に月が行くべき場所か」はまだ分かってはいない。月は単に「距離が一番近い星」というだけだ。

 そして惑星科学者達に聞くと、例外なく「学問的興味はともかく、月って行ってもあまり面白い星じゃないですよ」という。地殻変動も水もないから、元素の濃縮過程が存在せず、鉱床の存在が期待できない。ヘリウム3は、そもそも核融合が重水素よりもずっと難しい。極地の水といっても、本当に氷の形で存在しているか分からない(氷じゃないのではないかという人は多い。これは「かぐや」が確認するだろう)。


 我々がどこに向かうべきかは、月に人が行く前に、無人探査で月を含めた太陽系全域を調べてから決めるべきことなのだ。
 莫大なお金をかけて月に行ったはいいが、「はずれでした」ではお話にならないのだから。


 同時期に早川から出たということで、息抜きにまとめて買うのも一興かと。coco's blogで掲載している、SFやら純文学やらホラーやら、それぞれにビブリオマニアな女の子達の日常を描いた4コママンガだ。SFに耽溺したことのある人なら、「あ〜、あるある」と膝を打つことうけあい。

 私としては、主要なキャラクター5人のうち3人のデザインが「眼鏡につり目で身なりに構わない系」と、かぶっていることに爆笑してしまった。確かに「京都SFフェスティバル」あたりでは、このタイプを見かけるなあ、と。そして彼女たちは話してみると、とてもクレバーでチャーミングなのであった。

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2007.10.05

かぐや、月周回軌道投入に成功、記者会見の様子

Takizawa かぐやは月周回軌道投入に成功しました。

 午前9時から相模原の宇宙科学研究本部で開催された成功記者会見の様子です。

出席者は滝澤悦貞プロマネ、佐々木進・ISAS宇宙情報・エネルギー工学研究系教授、阪本成一対外協力室長

 写真は身振りで、月周回軌道投入時の月とかぐやの位置関係を説明する滝澤プロマネ。


滝澤:発表文読み上げ。


 月周回軌道投入は成功。
 遠月点高度:1万1741km、近月点高度101km、周期16時間42分。

 以下質疑応答。

NHK:月周回軌道投入は、かぐやの観測開始にどんな意味があるか。投入の感想を聞きたい。

滝澤:月周回観測にはとにかく月を回る必要がある。重力天体の周回には、どうしてもクリティカルなマニューバーが必要になる。この実施タイミングは非常に限られており、失敗するとミッションにロスを生じることになる。かぐやの緩速実施に向けて大きく前進した。

 これまでのイベントは順調で衛星も正常だったので、クリティカルなマニューバーではあったが自信があった。それでも、25分間続く噴射の間は非常に長く感じた。

NHK クリティカルということの内容を知りたい。

滝澤:タイミングが非常に限られている。あるタイミングで確実に実施しなくてはならない。このタイミングを逃すと予定していた月周回軌道に入れなくなる。

 もしもマニューバーができなくなると、月の重力の影響を受けて月周回軌道に入れることが難しい軌道に入ってしまう。軌道精度はともかく周回軌道に入れることが重要だったが、結果として高精度の月周回軌道に入れることができた。

朝日新聞:25分間、噴射は継続したのか。月に対して減速しているが、これは姿勢を変えて噴射したのか。速度をどれぐらい落としたと表現できるか。

滝澤:姿勢を変えて25分間噴射し続けた。おおよその話をすると、月が地球に対して1.数kmで、かぐやが0.1kmぐらいで移動している。月にかぐやが近づいて月にひっぱられるので、噴射で月にへの接近を押さえて月周回軌道に投入する。

阪本:どこに基準をおくかで見え方が変わってくるので、少々複雑ですね。


フリーランス青木;今後の高度を下げるマニューバーは、月周回軌道投入に比べて安全なのか。

滝澤:時間的な余裕が大きいので、リスクは少ない。

青木:リレー衛星とVRAD衛星の分離時の軌道を詳しく知りたい。その時の遠月点高度の誤差はどれぐらい見積もられるのか。

滝澤:リレー衛星は遠月点高度2400kmで周期6時間 VRAD衛星は同800km周期3時間、最終的にかぐやが入る月周回軌道は100km円軌道で周期は2時間、高度誤差は遠月点で100km程度は許容される。
 公開されている図では、衛星分離の軌道しか書いてないが、実際の高度を下げるマニューバーは、何回にもわけて噴射を行い、徐々に下げていく。その過程で高度が合ったところで孫衛星を分離する。

赤旗:今後の観測に向けての予定をもう少し詳しく知りたい。

滝澤:100km円軌道投入後、1ヶ月半ほどかけて観測機器の機能確認を行う。実際のデータが出てきはじめるのは12月中旬から下旬にかけてになる。

赤旗:地球の出のハイビジョン画像はどのタイミングで公開されるのか。

滝澤:ハイビジョンカメラのチェックアウトの中で取得することになるだろう。膨大なデータをダウンロードする必要があるので、他の機器のチェックとも考え合わせて、データをダウンロードするタイミングを見計らうことになるだろう。

宇宙作家クラブ松浦:成功の公表が翌日になったが、実際にはどの時点で「成功」を確信したのか。また、よろしければ昨日、寝床に入った時の気分を一言。

滝澤:運用管制室に詰めて、500Nスラスターの噴射をやっている時。モニターには、衛星に加わる加速度や、速度はリアルタイムで表示されていた。それらの数字が予定通りだったので、噴射終了時点でおおよそうまくいったな、と思った。その後の軌道測定が軌道計算が出たのが今朝の5時ぐらいだった。その結果を受けて今日の記者会見を開いた。

佐々木 私も同じデータを観ていたが、噴射終了でうまくいったと思った。セレーネには3つの大きなステップがある。打ち上げ、月周回軌道投入、観測機器機立ち上げだ。2番目まではうまくいったが、まだ機器の立ち上げが残っている。まだ気は抜けないが、ほっとしたといったところだ。

滝澤;やっぱりほっとした。マニューバーの間はやはり緊張しており、内心「うまくいけうまくいけ」、と思っていた。


アビエーション・ウィーク:マニューバーの正確な時刻を知りたい。

滝澤;午前5時55分から始まり、6時20分に終了している。

東京にマイク移る

共同通信:遠月点高度は当初予定1万3000kmほどだったはずだが、そのずれで予定はどう変わるか。また、現在すでに極軌道に入っているのか。

滝澤:その数字は軌道長半径で月の半径が加わっている。だからその数字から月の半径を差しひいて欲しい。すでに極軌道に入っている。

時事通信 推進剤はどの程度まで消費したのか。

滝澤:これまでのマニューバーでおよそ400kgほどを消費している。これは予定どおりである。搭載推進剤にはマージンを設定してあるが、それはほとんど使用していない。


相模原にマイク戻る。


青木:推進剤が余ると観測期間は延びるのか。

滝澤:観測延長は、燃料と同時に月の重力場でかぐやの軌道がどう変化するかによる。月の重力場の分布はかぐやの観測項目であり、まだよくわかっていない。それにより寿命が延びるかどうかは変わってくる。

青木:重力場はどの程度の期間観測するのか。

佐々木:1年間の観測期間中、ずっとデータをとり続ける。2ヶ月程度で最初の結果が出て、その後の観測では精度を上げていく。2ヶ月という期間のは特に物理的な意味があるわけではなく、2ヶ月程度を単位にしてデータの整理を考えていくということである。

東京から

ニュートン:ハイビジョンカメラで地球の画像を公開したが、月の画像を早く公開してもらいたいと思う。観測開始前にハイビジョン画像公開する可能性はあるか。

滝澤:今月19日に高度100km軌道に入ってから、ハイビジョン撮影を行う。どういう画像を取るかは今後ともチームを検討していく。

共同通信:月とかぐやの軌道投入時の位置関係を手かなにかで示してもらえれば。

滝澤:こうなって、ああなって…(身振り手振りで示す)


相模原にマイク戻る

青木:ハイビジョン以外のデータは年内に公開されるだろうか。

佐々木:定常軌道に入ってから観測機器をひとつひとつチェックしていく。中には高電圧を使っているものもあるのでかなり慎重に行う。画像関係センサーは早期にチェックアウトするので12月中旬の前にも画像は取得することになるだろう。画像関連データには小較正が不可欠。較正がうまくいけば、早期の公開が可能になるが、うまくいくとも限らないので、「いつ公開する」というのは現時点では確言できない。

青木:どの観測機器の画像が早期に公開されるのか。

佐々木:なるべく一般の人がわかりやすい画像にしたいとは思っている。年明けには代表的なデータを出していくようにしたいし、そのようにしなくてはいけないと思っている。どんどんデータが公開されるのは年明けになるだろう。


 終了後のぶらさがりにて。

阪本:成功の公表が翌日になったのは、軌道を確定してから公表しようということになったため。軌道確定が今日の早朝になったのは、周期16時間超の軌道の各点で位置測定をおこなって軌道を確定させたからである。
 マニューバー直後に「うまくいったな」という感触はあったわけだが、どんな軌道に入ったかがわからないと「月に願いを!」キャンペーンで集めた名前を「確かに月周回軌道に投入しましたよ」とは言えない。また、報道する側の事情としても、情報を2日に渡って小出しにするのではなく、1回にまとめたほうがいいだろうと判断した。

 実は私、昨日はJAXAiのマンスリートークに出ていたのですが、色々聞かれて大変でした。本当にみなさん、興味を持たれているのでうれしいです。


佐々木:1年間の観測がうまくいき、推進剤に余裕があれば、高度50kmまで下げることも検討している。磁場関係の観測は精度が距離の3乗に反比例するので、高度が半分になれば8倍よいデータを取ることができる。
 月周回軌道に投入した時のデルタVは300m/s。


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2007.10.02

三沢の航研機

Koukenki

 現在、三沢に来ている。宇宙作家クラブメンバーによる閉鎖生態系実験設備を持つ環境科学研究所の見学のため。

 昨日から研究所施設をあれこれと見せてもらい、今日は二週間の閉鎖実験を終了した研究者2名が施設から拍手と共に出てくるところに立ち会わせてもらった。

 最初は宇宙向けの基礎研究として始まった閉鎖生態系研究だが、省庁統合を経て色々と悩みは深い様子。投資して準備していた実験が予算不足その他でできなくなっているという。

 午後遅くから、三沢航空科学館に行く。ここには航研機をはじめ、奈良原二式、白戸式旭号と、日本航空の初期を飾る機体のレプリカが展示されている。

 それはうれしいのだけれども、やはり展示の密度が不足している。博物館という者は、見学者を展示物の密度で圧倒しなければ意味がないのだ。

 航空科学館という名前でわかるように、ここはサイエンスミュージアムもかねており、結果として展示の焦点がぼけてしまっている。航空博物館ならば、航空に絞り、これでもかと飛行機を展示して欲しいところ。屋外にはP-3C、F-104J、T-2などの自衛隊機が展示されているので、これらを屋内に持ち込み、はずしたエンジンと共に別に展示するだけで大分印象が変わるはずなのだけれども。

 写真は、航研機。本物は敗戦のどさくさで、羽田の大鳥居あたりに埋められてしまったそうで、もちろんここにあるのはレプリカ。それでも、この歴史的機体を目の当たりにできるのはうれしい。

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2007.09.30

スイングバイ

 月探査機「かぐや」は、10月4日の月周回軌道投入へと、順調に飛行している。

 運用現場の雰囲気はとても良いそうだ。実際に探査機が飛ぶというのはとても重要なことなのだな、と感じる。

 オーマイニュースに、「かぐや」は月軌道まで達した!を、中山 正志さんという市民記者が投稿している。その中の、以下の部分が一部で議論になっているようだ。

ロケット噴射して高度を上げたのでしょうか。実は、地球の重力を利用して「地球スイングバイ」を行ったのです。

 図中左の水色の円弧が、地球の公転軌道です。「かぐや」が1周目の間に地球は、公転で図の下に移動します。1周目の終わりに、地球に落下してくる時に、打ち上げの時点より地球は、下に進んでいます。

 すると「かぐや」の地球への落下時間(距離)はその分多くなり、地球を離れる2週目には、1周目より加速され、衛星速度が上がるのです。そのため、いっきに高度38万6000キロメートルまで到達しました。これが、9月24日の朝のことです。空中ブランコのようですが、スイングバイが使われてるのです。

 この記述は明らかな誤りである。スイングバイとは、重力場を介して大質量の星と探査機が運動エネルギーと運動量のやりとりを行い、探査機を加速・減速する軌道変更手法だ。地球を周回する探査機は、地球の重力場を利用したスイングバイを行うことはできない。

 拙著「恐るべき旅路」から、該当部分を抜粋し、以下に掲載しておく。

 月でも地球でもいい、とにかく星が一つ、宇宙空間に浮かんでいるところを想像してみてほしい。そこに遠くから探査機が飛んでくる。別に探査機でなくても隕石でもなんでもいい。とにかく星に向かって遠くからなにかが飛んでくると考えてみよう。

 星に近づいた探査機は、星の重力場に引かれて、ぐるりと星を回って向きを変え、また遠ざかっていく。この時、探査機の速度は向きが変わっただけで変化しない。プラスマイナスゼロだ。イメージとしては、抵抗がゼロの台車に乗って、同じだけの高さの坂道を降りてまた登るのと同じだ。台車は探査機、坂道は星の周囲の重力場というわけである。

 しかし実際には星は動いている。月なら地球の周りを回っているし、惑星ならば太陽の周りを回っている。つまり探査機を振り回す重力場も星と一緒に動いている。つまり、先ほどのたとえで言えば、降りて登る坂道自体が動いているのだ。

 坂道が動くとどうなるか。坂道を降りて上る台車の速度に坂道が動く速度が加わる。台車は坂道が動く分の速度を得て加速することになる。

 「坂道が動くなんて考えにくい」と妙な例えに困惑する人もいるだろう。しかし地球には動く坂道を利用するスポーツが存在する。サーフィンだ。サーフィンは大波、つまり動く坂道を滑り降り続けながら波の移動でサーフィンボードと上に乗るボーダーが前に進む。

 サーフィンの場合は空気や水が抵抗となるので、抵抗によるエネルギー損失と、波の移動から得るエネルギーが釣り合ったところでサーファーは波と共に同じ速度で移動する。しかし探査機と星の場合には、抵抗となる空気も水も存在しない。「移動する坂道」である星から得られたエネルギーのすべてが探査機を加速することになる。

 スイングバイとは、月や惑星を大波に見立てた、宇宙のサーフィンでもある。

 ところで、高校で物理を習った人は、「速度はベクトルである」ということを思い出して欲しい。ベクトルとは「向き」と「大きさ」を持つ量のこと。速度は単に「時速4km」というような大きさだけではなく、例えば「東に時速4km」というように「向き」と「大きさ」の両方を本質的に兼ね備えているのだ。だから、より正確に言うならば、スイングバイでは、探査機の速度ベクトルと星の速度ベクトルが足し算されることになる。スイングバイは単なる探査機の加速減速ではなく、速度ベクトルの足し算で、探査機の速度ベクトルが変化するということだ。

 「速度ベクトルの足し算」ということを、もう少しくだいて言うと、スイングバイでは、探査機の速さと向かう向きが変化するのである。

 スイングバイの原則は以下の3つだ。
・惑星や衛星の進行方向の後ろを探査機が通過する場合には、探査機は加速する。
・惑星や衛星の進行方向の前を探査機が通過する場合には、探査機は減速する。
・探査機自身が惑星や衛星の周囲を回っている場合、その惑星や衛星の重力場を使ったスイングバイはできない。

 一番目と二番目は、つまり最終的な探査機の向かう方向が、坂道の動く方向、つまりは星の進行方向と同じだと探査機は加速する。逆に探査機が向かう方向が星の進行方向と反対なら探査機は減速するということである。スイングバイを使えば加速するだけではなく、減速することもできるのだ。

 三番目の原則の意味は、例えば地球の周りを回っている科学衛星は、地球の重力場を使ったスイングバイはできないということである。地球の周囲を回るということは地球と同じ速度で太陽の周りを回っているということだ。だから地球の移動速度を使って自身の速度を変えられるはずがない。もちろん、地球の周りを回りつつ、月を使ったスイングバイは可能である。

 この件に関しては、色々な指摘があったようだ。中山さんはコメント欄で「地球周回軌道上でスイングバイが可能かどうかは調査中ですが(これも2chで宙ぶらりんになってるので、資料探します)今回の2周目の軌道修正は△Vc2によるロケットエンジンによる軌道変更でした。」と書いている。

 まだ納得はしていないようだが、自分が事実誤認をしたというのは認めた。

 実のところ、中山さんのような人は貴重だ。宇宙開発にとって、非難よりも無関心のほうが問題である。

 「勉強してから書け」という考え方もあるが、オーマイニュースは市民メディアとして書き手を広く募る媒体だ。「書きながらつまずきつつ、覚えていく」のは許されるべきだと思う。その分、オーマイという媒体の信頼度は下がるが、それは市民メディアを標榜した以上、甘受すべきデメリットであろう。

 実際、自分も駆け出し記者時代からどれほどつまずいてきたかを思い出すと、のたうち回りたくなる。私の場合は、先輩記者や編集長などがフォローしてくれたわけだが、オーマイでは、書いた本人が間違いに対する非難を直接受け取ることになる。それは、かなり厳しい試練だろう。

 中山さんには、きちんと勉強をして、今後とも宇宙関係の記事を出していって貰いたいな、と思う。

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2007.09.25

地球温暖化と惑星工学

 暑さ寒さも彼岸まで、という。秋分の日を過ぎて、やっと涼しくなってきた。

 しかしまだ暑い。例年ならそろそろ寒さが忍び寄ってくるはずなのに、私はまだTシャツ一枚に短パンという夏の姿で原稿を書いている。

 地球温暖化のせいだろうか。

 温暖化の問題がやっかいなのは、まだ我々が科学的に「こうだ!」と言い切れるだけの知見を蓄積できていないことにある。確かに大気中の二酸化炭素濃度は増える一方であり、世界の平均気温も又上昇し続けている。しかし、その因果関係がどうなのかは、今なお議論の対象となっている。現在は長い周期で見た間氷期であることは分かっているが、では間氷期のどこいらへんなのか。今の温暖化は二酸化炭素の影響ではなく、別の要素のせいなのではないかとか、今なお議論は続いている。

 実感として確かに温暖化は進んでいるように思える。温暖化を示すデータも数多く集まっている。それでも、納得しない者、例えばアメリカの為政者などは、納得しない。その程度のあいまいさは今も残っている。

 悩ましいことに、温暖化対策には「皆が納得するだけのデータを積み重ねた頃には手遅れになっているのではないか」という恐怖がつきまとっている。

 地球温暖化のポジティブな側面はないものか、と考えていたら、SFマガジン11月号の、金子隆一さんのコラムに、興味深い意見が書いてあった。南極の氷の内部の窒素と酸素の濃度比を調べることで、地球の長周期気候変動の一つであるミランコヴィッチサイクルの物証が得られたというニュースに続いて、金子さんはこう書いている。

 しかし、それよりもわれわれにとってなお興味深いのは、これで、惑星を人為的に冷却したり加熱したりする未来の惑星工学への新たな突破口が開かれたという点である。

 そうか、地球温暖化を別の面でみると、「人間が遂に地球の気候を変化させる力を得た」ということなのだ。次に必要なのは「人間が地球の気候を制御する力を得る」ことなのであろう。そこには様々な倫理的問題が存在する(気候兵器など考えたくもない)が、これは温暖化が示す希望の側面なのかも知れない。

 我々は、人間が気候を制御する時代の夜明けに生きている、と考えると、温暖化防止も単なるエコロジーの問題ではなく、宇宙に進出する人類が解決すべき課題と、前向きに捉えられるようになる。

 温暖化を防止するということは、地球上で人間が生き続けるということのみならず、より大きな宇宙的視点で、知性が惑星全体を制御するという意味もあるわけだ。

 これだけで、前向きな気分になるというのも単純な話ではある。が、私としては少し元気が出てきた。

追記:あ、自分で過去にも同じようなことを書いているぞ。ボケっと自分を罵るべきか、それとも一貫性を自賛すべきか。

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2007.09.21

続・MRJ、大丈夫か?

 昨日の記事のコメント欄で、大石英司の代替空港でのMRJの記事、および記事の主題であるパリ日本大使館レセプション(三菱重工ニュース)へのリンクを教えてもらった。

 大使館でレセプションを開くのはいい。日本大使館でMRJのレセプションがあるということは、MRJ開発を日本政府が支援するということは暗黙に示す意味がある。その分MRJの本気の度合を海外に示すことになるわけだ。

 問題は、レセプションにどれだけユーザーであるエアライン関係者、そして重要なのは海外専門メディアの記者を呼んでいるかということだ。

各国エアラインの幹部など日米欧を中心とした航空宇宙産業関係者多数のほか、経済産業省から片瀬裕文製造産業局航空機武器宇宙産業課長が、また当社から西岡喬取締役会長が出席。総勢267人規模の盛会となった。

 というのだが。

 267人というのは、まあまあの規模だ。うち、エアラインとメディア関係者が何人ぐらいだったかが気になるところ。エアライン関係者の重要性は言うまでもないが、メディア関係者というのは説明が必要かもしれない。

 MRJは、いまだ海外では無名だ。その知名度を上げるには海外専門メディアへの露出を増やす必要がある。露出を増やすには重工首脳部がメディアと接触し、記事になるような発言をすることが必要。そして、メディアをまとめて相手にする場としては、このようなレセプションが最適なのだ。

 レセプションには西岡三菱重工会長が出席したということなので、西岡会長の回りに内外の航空専門メディアの記者が群がり、会長発言を記事にするというのが望ましい。重工首脳部としても、リップサービスでいいから、メディアが一本の記事にしやすいような発言を心がける必要がある。もちろん英語、ないしフランス語で発言するべきところだ。

 大石氏のレポートだと、どの程度メディアを呼んだか、かなりあやしいような気もする。これが内輪向けレセプションだったら、単なる大使館備蓄ワインの浪費以外の何物でもない。

 一見してひがみっぽくも読める大石氏の記事だが、もしも広報部なり工業会なりが作家の大石氏をメディアとして認識していなかったのだとしたら、それは思い違いだ。

 小説に登場するメカが、時としてその一般へのメカの印象すら決める(ギャビン・ライアルの「深夜プラスワン」におけるシトロエンDSのように)。だから当然、作家もレセプションの招待リストに入れておくのが、広報部の仕事だろう。

 このクラスのパーティだと、参加人数が数人増えたところでどうということはない。大石氏を参加させたことで、例えば氏の次回作にMRJが少しでも登場すれば、宣伝費として安いものである。

 そういう計算を、重工広報部ができていたかどうか。

 とりあえず、航空宇宙工業会から、パリに出張した者は皆出席したんだろうなあ、というところで次回に続きます。

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2007.09.20

MRJ、大丈夫か?

 三菱重工業が、YS-11以来の国産旅客機「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」の開発に乗り出そうとしていることは、多くの人がご存知のことと思う。

 開発にゴーサインはまだ出ていないが、今回三菱重工はかなり本気のようだ。やっと航空ニッポン復活となるのだろうか。

 私は、かなり危惧している。旅客機市場はそんなに甘い世界ではないというのもあるが、それ以上に三菱重工の営業に不安感を抱いている。

 私の漠然とした不安感を補強する記事を見つけたので紹介する・

 「航空の現代」という航空の世界では有名なホームページがある。作者の西川渉氏は、朝日航洋の代表取締役専務まで務めた、リージョナルエア、すなわち地域航空のプロ中のプロだ。

 その西川氏が今年7月2日付けで、<パリ航空ショー> 三菱リージョナルジェット という記事を公開している。今年のパリ航空ショーに、三菱重工はMRJのモックアップを出展した。西川氏は航空ショー会場で、モックアップ内部を見学しようとした、その時の記録である。以下少し長くなるが引用しよう。

 川崎重工の向こう側では三菱重工が計画中のリージョナル・ジェットMRJのキャビン・モックアップを展示していました。実物大のコクピットと胴体部分を模したもので、非常に立派です。ところが、内部を見せてほしいというと、断られたのです。今日からパブリックデーなので、機内に人をいれるとキリがないからという理由です。

 しかし今日はビジネスデーでもあるし、第一そんなに人が詰めかけているわけでもない。周囲には誰もいないじゃないかというと、特別な人以外は見せられないという。なんだか「馬の骨」呼ばわりされたみたいで、確かにそうには違いないが、やっぱりカチンときた。無論こちらは最初から名刺を出して名乗っているわけです。

 こんなに立派なモックアップをわざわざつくって、はるばると日本から持ってきて、おそらくは高い料金を払って会場に展示しているのでしょう。にもかかわらず、内部を見せるわけにはゆかぬとはどういうことか。展示の意味がないではないかと押し問答をしていると、三菱の若い社員に代わって年配の女性が出てきました。そして、こちらの話を聞くと、しばらくお待ちくださいと言って引っ込み、やがてデザイナーを名乗る人物が登場しました。いずれも日本人です。

(中略)

 こうした規制というのは警察や国家のやりたがることで、何かの秩序を保つには必要なことですが、人に見せるための展示をしながら見せないというのは、どう考えてもおかしい。どこかに秘密があるのなら最初から展示しなければいいわけで、三菱重工の妙にこわばった権威主義を感じさせられました。平たくいえば「もったいぶるな」ということです。

 パリにMRJモックアップを持っていったのは、三菱重工の経営判断だったのか、それとも営業サイドの意向だったのか、いずれにせよ、この対応はあまりにひどい。

 まず、出てきた「三菱の若い社員」が、西川氏の名前を知らなかったということが信じがたい怠慢だ。MRJは、ミツビシ・リージョナル・ジェットだ。Googleで「リージョナルジェット」と検索すると、トップに出てくるのは西川氏のホームページなのである!

 西川氏のページを少しでも読めば、「作者はこの分野に非常に深い見識を持っている」と分かり、「作者は誰だろう」と西川氏の名前で検索をかけるはずである。そうすれば氏の経歴も出てくるので、「なるほど、仕事上この人の名前は覚えておかなくては」と考えるのが自然だろう。

 それが「特別な人以外は見せられない」と対応をしたということは、「三菱の若い社員」が、自分の仕事についてネットで検索することもしなかったということを意味する。仕事に対する意欲が全く感じられない。

 それ以前に、なぜパリ航空ショーまでモックアップを持っていったのか、その意図は末端まで徹底していたのだろうか。

 より多くの人にMRJを知ってもらい、その性能とコストパフォーマンスを宣伝し、受注につなげるためだろう。パリ航空ショーは、飛行機が飛び回るただのお祭りではない。軍民を問わず世界各国の航空関係者が集まり、ついたてを立てたブースの中で様々な商談を行い、自らの優位をアピールし、ライバルをけ落とす宣伝すらする、熾烈な商売の場なのである。
 一般客に混じって、お忍びの各国関係者がいてもおかしくない、そういう場所なのだ。

 モックアップなど汚れても壊れてもいい。直せばすむのだから。もったいぶるよりも一人でも多くの人にモックアップを体験してもらい、意見を聞くと同時に、「三菱は本気で旅客機を開発するつもりだぞ」と思わせることが重要なのだ。

 それが、「特別な人以外は見せられない」とはどういうことだろうか。西川氏の体験は、ビジネスデーに起きている。一般客は入場しておらず、会場内は航空関係者と出展者、そして報道関係者が大部分だ。
 やってきた各国の報道関係者にも「特別な人以外は見せられない」と言ったのだろうか。

 もしそうなら、つれなくされた報道関係者は、自国に戻り、「ミツビシはモックアップも見せてくれなかったよ、ケチだな」と言って回ることになるだろう。それが、MRJの国際的なイメージにどれだけのダメージとなるか、想像できているだろうか。

 一般公開日はどうだったのだろう。特別でない一般客がいくら来ても「特別な人以外は見せられない」という対応だったのだろうか。
 それら特別でない人が、将来MRJが就航した暁には、乗客として乗ることに、思い至っていただろうか。その時、「自分はパリで初めてこの飛行機のモックアップにすわったんだぜ」と考えることが、どれだけ三菱のイメージを高めるか、考えはしなかったのだろうか。

 パリまでモックアップを持っていって、対応を間違って悪印象を振りまいて、どうするというのだろうか。

 2003年にパリ航空ショーに行った時に見た、中国のリージョナルジェット旅客機「CRJ」の展示を思い出す。ものすごい熱気で、「買って下さい、買って下さい」と迫ってくるようだった。もちろんモックアップも全日公開である。

 そんな奴とMRJは市場で戦うのだ。戦う前の宣伝で負けていてどうするというのだろう。

 西川氏は、続三菱リージョナルジェットという記事も書いている。

 テレビや新聞は三菱の宣伝文をなぞって、これが如何に素晴らしいプロジェクトであるかを喧伝するが、絵に描いた餅ではどうにもならない。パリ航空ショーの現場では「こんな遠いところまで、朝早くからようこそ来てくれました。どうぞ、ご覧下さい」といった姿勢は、広報の美辞麗句とは逆にどこにも見られなかった。

 そうした姿勢はむろん現場の問題ではなく、上層部の熱意の程を反映し、税金を投入する日本政府の考えを映し出したものであろう。そこには何とかして、この飛行機を売りたい、買って貰いたいという背水の気迫は少しもうかがえないのである。

 この西川氏の意見に、私も同意する。

 三菱重工は官需主体のメーカーだからだろうか、営業部門がどうにも鈍重な印象を受ける。
 経営に失敗し、会社を閉じたロケットシステムも、三菱重工から営業出身の社長が来ていた。だが、同社が、営業的に目が覚めるような活動をしたという記憶はない。

 私としても、MRJで三菱重工が久し振りに意欲を出していることは素直にうれしい。1962年のYS-11初飛行から45年、1983年の日本航空機製造の解散以降24年もの時を経て、また旅客機を日本で作ろうという動きが出てきたことは、大きな意味があると考えている。

 それでも、パリでのこの振る舞いを知ると、「本当に大丈夫か」と、暗澹たる気分になるのだ。

 これでは勝てる戦いにも負けてしまうだろう。技術で負けるのではない。営業の基本ができていないことで負けるのだ。

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2007.09.18

初音ミクからボイセスカミングへ、その1

 もののついでだから、「初音ミク」からこのまま暴走して希代の怪作「ボイセスカミング」のことを書いてしまおう。

 といっても、なんで1969年という時期に、前衛的な作品を次々に発表していた湯浅譲二が、かくも奇怪にして愉快な作品を発表したかを理解するには、20世紀の音楽史をちょっとばかり理解する必要がある。

 トーマス・アルバ・エジソンが蓄音機を実用化したのは1877年。ここに人類は初めて、音声を記録再生する手段を得た。それまで音楽は、演奏家が楽器を演奏したり歌ったりするその場にいなければ聴くことができなかった。

 蓄音機は2つの可能性を人類に示した。ひとつは音楽を記録し、いつでも聴けるようにすること。こちらはエミール・ベルリナーによるレコードとレコードプレイヤーの元祖「グラモフォン」の発明で、現在のiPodにまで至るオーディオ機器の流れを形成することになる。

 もう一つは、蓄音機を楽器として扱う、という可能性だった。

 世紀が変わると、イタリアで未来派という芸術運動が起こり、ルイージ・ルッソロが1913年に「騒音も芸術だ」と宣言する「騒音芸術宣言」を出した。要は、音楽は楽器の出す楽音のみではなく、都市の機械類が発する音からも作りうるという主張だ。

 楽音は楽器によってコンサートホールの聴衆に届けられる。では騒音は?
 もちろん蓄音機によって届けられるのだ。

 ルッソロの騒音音楽は単発的な宣言に終わったが、それは録音技術が未熟だったからだった。技術の発達により第二次世界大戦後の1948年、フランスの電気技師ピエール・シェフェールにより、録音した音を加工することによって音楽を創るという新たな方向性が示された。

 これがミュージック・コンクレートだ。「具体音楽」などと訳される。当初はレコード盤への記録をあれこれいじっていたが、テープレコーダーの出現によりテープに録音した音に加工を加えるという方向で進化していくことになった。なにしろテープは切ったり貼ったり、レコーダーの回転数を変えることで音の高低を変えたり、逆回して音を後ろから再生することができる。色々と音を加工するのに好適だったのだ。

 さて、この一方、第二次大戦後、全ての音を正弦波から合成できないかという研究も進みはじめた。
 フーリエ級数が示すとおりすべての波は正弦波の合成で再現することができる。となれば、オーケストラのすべての音色を電子的に再現することだっで可能ではないだろうか。

 電子楽器は、20世紀初頭のテルミン、オンド・マルトノといった楽器が作られていたが、これらはそれぞれ独自の音色を持つ「楽器」であった。

 そうではない、音色を自由自在に操る電子楽器が可能なのではないか。

 この流れはやがてムーグのシンセサイザーへとつながっていくわけだ。

 ミュージック・コンクレートにせよ、後のシンセサイザーにつながる音色合成の研究にせよ、電子回路で音をいじくっていくというところは共通だ。そして、1950年代初頭、まだ大規模な電子回路を個人が開発、所有、維持できる状況ではなかった。テープレコーダーもテープも高価だった。発振回路や変調器、バンドパスフィルターなどを作るには電気工学のスペシャリストの手を借りる必要があった。

 しかし、これらの困難さ以上に、過去の音楽にない、新たな表現形態が可能になるのではないかという予感が、芸術家と技術者の両方を熱くさせた。

 というわけで、1950年頃から世界のあちこちで、主に金を持っている放送局がパトロンになって「電子音楽スタジオ」というものが立ち上がった。その実態は、基本的に技術者一人に、テープレコーダーと各種電気回路を詰め込んだ狭いスタジオ、そして芸術家という構成だったが、そこから色々な音楽が生み出されていったのである。
 日本でもNHKがNHK電子音楽スタジオを、1955年に立ち上げる。その最初の作品が「音の始源を探る1」に収録された黛敏郎「素数の比系列による正弦波の音楽」というわけだ。

 この辺りの歴史はなかなか面白くて、例えば初期の電子音楽をリードした3つのスタジオというのが、一番早く活動を開始した西ドイツ放送局電子音楽スタジオ、次いでイタリアのミラノ放送局内電子音楽スタジオ。そして日本のNHK電子音楽スタジオなのだ…なにか戦争に負けたことが影響しているのだろうか。戦争に負けると電子音楽をやりたくなるとか??

 あるいは東京が電子音楽スタジオを立ち上げたことで、「JOAKに負けるな」とばかりにBKこと大阪のNHKも電子音楽に進出し、松下真一をひっぱってきて「黒い僧院」を作らせたり、とか(このあたり、大阪における電子音楽の歴史は未だにまとまっていない。関係者もあらかたこの世を去っており、このまま埋もれてしまう可能性もある)。

 さらには黛が、内幸町にあったNHKで電気回路と格闘しながら「素数の比系列による正弦波の音楽」を作っていたのと同時期、25歳の武満徹が、日本初のミュージック・コンクレート「ルリエフ・スタティク」を作成している。こちらは新日本放送、現在の毎日放送がスタジオと技術者を提供した。
 物量主義のNHKに対して、ちゃんと民放が同じ時期に対抗して似たようなことをしていたのである。

 「ルリエフ・スタティク」は最初、芸術祭参加ラジオドラマ「炎」の劇伴音楽だった。
 できたばかりの民放ラジオ局が劇伴にミュージック・コンクレートなどという新しい手法を使おうとした背景には、当時の民放はどこも最新鋭のテープレコーダーを導入していたという事情があったらしい。つまりスタジオをたくさんもつNHKは生放送で放送を続けることができたが、後発で規模が小さな民放局はすべての放送を生でまかなうことができなかったのである。

 そこで民放各社は、出始めたばかりのテープレコーダーを導入して対処しようとした。テープレコーダーがあるならいっちょ最先端のミュージック・コンクレートをやるかとなって、無名ではあるが実験工房で注目を集め始めていた武満に声がかかることになったようだ。

 ちなみに、NHK電子音楽スタジオは1993年にその幕を閉じている。スタジオの主的存在だった技術者の佐藤茂が1992年に定年退職となったのをきっかけに、「あんな儲からないセクションは閉じてしまえ」ということになったらしい。

 佐藤の証言:「ああいう電子音楽をNHKの中で残そうとするには、相当努力しないと残らんでしょう。3ヶ月も使って売れない曲を作ってたら、商売にならんからいらないって言われるでしょうね。佐藤がいるんだから歴史があるからって、いる間は残しとけってことだったけど、いなくなったらあっというまに潰しちゃった。」(「電子音楽 in JAPAN」田中雄二著 p.100)

 ありゃ、随分長くなってしまった。

 肝心の「ボイセスカミング」については、次の回にということで。


 今回の記事の元ネタ本。

 日本の電子音楽の歴史は、田中雄二氏の手によるこの大部の著作で見事にまとめられている。黛敏郎や武満徹による初期の試みから説き起こし、ムーグ・シンセサイザーの衝撃とそれまで劇伴作曲家だった富田勲の華麗な転身と成功、さらにはYMOのデビューとテクノポップ全盛にいたるまでを、あますところなく描ききっている(残念ながらJOBKと松下真一の協力のような大阪における活動は抜けているのだけれど。それでも大阪芸術大学における塩谷宏の業績にはきちんと触れている)。

 なによりも芸術家の側からだけではなく、技術者やメーカーの側からも取材を進め、両面から電子音楽というテクノロジーアートの歴史を描いているところを高く評価したい。例えば秋山邦晴による武満初期作品の評価は、テクノロジーの部分に関する分析が希薄だったから。

 電子音楽、さらにはテクノ系ミュージックに興味があるなら是非とも読んでおくべき、聖書のような本だ。確かに高い本だが、CDによるサンプルも付いていて、お買い得だと思う。

 余談だが、今見たら、アマゾンに掲載されている日経パソコン掲載のブックレビューは、かつて私が書いたものだった。

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2007.07.03

お知らせ:7月7日、東京・学習院でニセ科学フォーラムが開催されます

午後5時追記
  コメントにあるように、すでに締め切られたそうです。この後は参加した人のレポートに期待ということになります。


 今日中にメールで申し込む必要があるので、大急ぎの告知です。私も本日気が付きました。

 「水はなんにも知らないよ」の著者である左巻健男さんを初めとして、小波秀雄京都女子大学教授、 菊池誠阪大教授、天羽優子山形大学助教授といった、この分野の論客が一堂に会して、ニセ科学が社会に与える影響を考えます。


ニセ科学フォーラム2007(7/7土13時〜学習院中高等科 )

 マイナスイオン、ゲルマニウム、デトックス、血液型性格判断、どれもニセ科学!

先の見えない世界の中ではびこる、あやしげな「科学もどき」商品の数々。その裏で言葉巧みなスピリチュアルや癒しに流されるひとびと。科学者のチームが現代の「ニセ科学」のすがたをさまざまな角度から徹底的に解剖して、市民と科学のよいあり方を考えます。

●7月7日(土)13:00〜17:30

●会場
 学習院中・高等科(501・502教室)
(JR山手線目白駅徒歩5分、都電荒川線鬼子母神電停徒歩7分)
http://www.gakushuin.ac.jp/mejiro.html
目白駅改札を出て右(出口は1ヶ所)、2つ目の信号前の正門を入り斜め左へ

※お車でのご来場はご遠慮下さい。

●日程
受付12:30〜12:55 受付

開会挨拶 左巻健男 13:00〜13:05
1.小波秀雄: 21世紀はニセ科学の世紀? 13:05〜13:40
2.菊池誠 :スピリチュアル・ニューエイジ・ニセ科学 13:45〜14:25
3.天羽優子:「水商売ウォッチング」の現場から 14:30〜15:10
4.土佐幸子:米国のニセ科学の様子と理科教育の「探究」 15:15〜15:45
5.左巻健男:理科教育と科学リテラシーからの提言 15:50〜16:20
全体討論 16:30〜17:30

●参加費:無料
●申込先:左巻健男:rika88 @ rika.org(@の左右を詰めてください。)
参加ご希望の方は必要事項をご記入のうえ、7月3日(火)までにE-mailにてお申し込みください。会場の定員になり次第締切とさせていただきます。
※当日は、E-mail返信でお送りする受付番号を必ずお持ちください。

申込E-mailの題名は、ニセ科学フォーラム としてください。本文に、
・お名前
・所属(勤務先など)
・緊急連絡用・返信受け取り用E-mailアドレス
をご記載ください。2人以上でお申し込みの場合は、一人一人別々に以上の内容をご記載願います。

●JST研究開発テーマ:「21世紀の科学技術リテラシー」中の「市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語の研究」(研究代表:左巻健男[同志社女子大学現代社会学部現代こども学科・教授])の研究の一環として開催。
http://www.jst.go.jp/pr/info/info231/shiryou4.html

●共催:新理科教育フォーラム(代表:左巻健男):新理科教育MLを運営。
http://www.rika.org/rikaml/

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2007.06.20

生存報告を兼ねて「水からの伝言」のことなど

 うかうかしていると、ここの更新も簡単に一ヶ月も空いてしまう。
 仕事しています。ええ、しておりますとも。

 日経BPのSAFTY JAPANに書評欄を持っているのだが、そこに「水はなんにも知らないよ」の書評を書いた。以前こんな記事も書いているが、私としては「水からの伝言」のようなニセ科学には広がってもらいたくはないのだ。

 あんなものを信じる人が増えると、行ける星にも行けなくなってしまうではないか。

 どういうわけか、この書評は2ちゃんねる紹介サイトの痛いニュースに掲載されてしまった。ということは、2ちゃんねるのどこかで話題になったのだろう。

 ちなみに書評では、話の流れ上割愛したのだが、ニセ科学系の人は、おたがいつながっていることが非常に多い。さらには、ディプロマ・ミルと呼ばれる、金で学位を出す大学(アメリカにはそういう商売がある)の学位を持っている、そして発行する主体が非常にあやしげな賞を受賞している、という共通点も存在する。

 このあたりのニセ科学人脈と、あやしげな学位や賞については、菊池誠さんのkikulog中、このエントリについたコメントあたりを参照するといいだろう。

 偶発ではあるが、同時期に前野[いろもの物理学者]昌弘さんの娘さんが通う学校で、水伝大戦が勃発している

 前野さんが描くところの「ごめんなさい以後気をつけます」でその場を逃れようとする先生に対する評価は、野尻抱介さんによる「あなたは間違い方まで間違っているので教員免許剥奪です」というものが一番適切だろう。

 「信じ切っている人に、何を言っても無駄」という考えもある。だが、折に触れて「あれはインチキだよ」と言っておくことは決して無駄ではない——私はそのように考える。

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2006.12.04

「はやぶさ2」実現に向けて

 小惑星探査機「はやぶさ2」の予算要求を巡る動きが激化している。
 「はやぶさ2」は、昨年小惑星イトカワへ着陸した探査機「はやぶさ」の同型機だ。イトカワは岩石を主体としたS型という分類に入る小惑星だったが、「はやぶさ2」は、炭素を主体としたC型小惑星へ向かう。現状では2010年に打ち上げを検討している。

 JAXAはやぶさページに11月29日付で「はやぶさ」の近況と「はやぶさ2」に向けてという文章が公開された。起草者の名前はないが、文章のタッチは川口淳一郎プロマネのものである。
 アメリカが小惑星サンプルリターン計画「オシリス(OSIRIS)」を立ち上げたことに強い危機感を感じていることがはっきりわかる文章だ。

 アメリカは「はやぶさ」が失敗すると判断し、自分たちが最初の小惑星サンプルリターンを行うつもりでいる。予算は4億2500万ドル(1ドル115円換算で、489億円)。「はやぶさ」は探査機本体が約127億円。打ち上げに使ったM-Vロケットが約70億円の、およそ200億円ほどを使った計画なので、規模として約2.5倍ということになる。

 文章中には「●もう追われる立場に:まるで逆なで...です。」「●はやぶさの成果もまた盗られてしまうのでしょうか。」という、厳しい現状認識を示す文言が入り、以下の悲鳴にも近い言葉で締めくくられている。


 応援してください、「はやぶさ2」。「はやぶさ」の成果があぶない。

 来年度の予算で、計画開始が認められないと「はやぶさ2」の出足は鈍り、「はやぶさ」の成果継承すら危うくなるという現状なのである。

 私が色々聞いた範囲での「はやぶさ2」の予算請求の状況は以下の通りだ。

 まずJAXA内部の状況

  • 「はやぶさ2」開発を2007年度に開始するにあたって初年度に必要な予算は、5億円以下(正確には4億数千万円程度)。そのほとんどは、相手国の輸出許可を取るために、時間的に先行して発注しなければならない海外製部品を入手するための予算。つまり、この分だけ来年度予算が付かないと自動的に2010年打ち上げはお流れとなる。
  • JAXA内部で、「はやぶさ2」に対する反対意見はほとんどない。誰もが「やるべき」と考えている。
  • しかし、2007年度JAXA予算請求における新規計画の優先順位で、「はやぶさ2」は3番目、実質4番目に位置付けられている。
  • 優先順位の1位は、地球観測衛星「みどり」「みどり2」を引き継ぐ地球観測計画「地球環境変動観測ミッション(GCOM:Global Change Observation Mission)」
  • 同じく1位で、スペースVLBI衛星「はるか」を引き継ぐ次期VLBI衛星ASTRO-G(VSOP-2)
  • 順位2位、実質3位は、航空機プログラムグループ静粛超音速機技術の研究開発
  • 「はやぶさ2」はその次。

 そして、予算を巡る財務省の対応は、だいたい以下のようなものだという。

  • 財務省は、「はやぶさ2」の実施に反対していない。JAXAの裁量で実施すればいいという考え。そのための独立行政法人だろうということ。
  • 財務省としては、2007年度JAXA予算案に強い不信感を抱いている模様。きちんとした既存計画のリストラを実施した上で、新規計画を立ち上げるべきところを、ずるずると失敗プロジェクトを引きずっていると見ている。
  • 槍玉に挙がっているのは「GXロケット」と「準天頂衛星」(現状では、私がどこに何を聞いても、この2計画は問題視されているという返事が返ってくる)。  他にも財務省が問題だと見ているプロジェクトは存在するらしいが、中でも上記2計画はかなり風当たりがきびしいらしい。どうも想像するに、「はやぶさ2」は上記2計画を削ってやればいい、ということのようだ。

 正直なところ、優先度の付け方が、旧NASDA、ISAS、そして旧NALとなっているあたり、まだまだJAXAの内部は縦割りできちんと構造改革がなされていないという印象を受ける。

 が、それはともかくとして、我々納税者に、「はやぶさ2」実現に向けて、できることはあるだろうか。


1)JAXA予算を増やす方向で、「はやぶさ2」計画実現を後押しする

 政治と行政の側に、「はやぶさ2」実現を訴えるメールを送る。送り先は以下の通り(なお、申し訳ないがスパム対策として、メールアドレスのアットマークは「あっと」と記述した。各自変換して送付してほしい)。


首相官邸、内閣官房、内閣府

財務省

文部科学省

2)JAXAの内部計画を整理することにより、「はやぶさ2」を実施できるだけの予算的余裕を確保する。

  • 立川敬二理事長、間宮馨副理事長:現在ホームページの問い合わせフォームはトラブルで停止中。広報の公開メールアドレス「profficeあっとjaxa.jp」に送付する。宛先は「JAXA理事長:立川敬二様、同副理事長:間宮馨様」


 以前財務省のご意見箱に投稿するにも書いたが、あくまで「はやぶさ」に興味を持ち、「はやぶさ2」の実現が楽しみであり、「はやぶさ」の近況と「はやぶさ2」に向けてに共感できるという方に、上記への意見送付をお願いしたい。

 ネットではマルチポストは嫌われるが、現実社会ではまだ対面によるコミュニケーションのほうが圧倒的に強い。これだけ多数に送るとなると、マルチポストを連想して嫌な気分になる人もいるだろうが(私も少々居心地の悪さを感じることを告白しておく)、相手は一人なので、これはマルチポストではない。それでも、送付する文面は相手の状況や興味を考えた上で、異なるものにしたほうが良いことは言うまでもない。大変ではあるのだけれど。
 もちろんリストアップした全部に意見を送る必要はない。自分なりに取捨選択して送ってもらっても構わない。

 送付先が多数になるので、くれぐれも間違いがないように。そして相手に失礼がないように気をつけて頂ければ幸いである。

 言い出した私が逃げるわけにはいかないだろう。私自身の送付内容については、後日このBLOGで公開することとする。

 なんといっても、私自身が、またあの素晴らしい体験をしてみたいのだから。

 最後にお願い。「自分は意見を出したよ」という方で、ホームページなりblogなりを持っている人は、この記事にトラックバック、ないしはコメントを付けて欲しい。後で「はやぶさ2実現に向けて」というリンク集を作りたいと思う。

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2006.11.26

小杉健郎先生逝去

Kosugi

 26日は宇宙作家クラブ例会、半田利弘先生の講義を楽しみ、仲間内で酒を飲んでの帰途、携帯電話で、太陽観測衛星「ひので」プロジェクトマネージャーの小杉健郎先生逝去の報を受け取った。
 2日前に脳梗塞で倒れ、意識を回復しないまま今夕の死を迎えたとのこと。

 一体何を言えばいいのだろう。先生が全精力を注ぎ込んだ太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」はこの9月に打ち上げられ、まさにこれから素晴らしい観測データをどんどん送り届けてくれるところだったというのに。かくのごとき死があるとは。

 私が小杉先生と親しく話したのは一回きりだ。「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」を出した後、的川泰宣先生の部屋にお邪魔した時、先客として的川先生と雑談(ではなかったのかも知れないが)していたのが小杉先生だった。

 小杉先生は「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」をほめてくれた。その上で「前の『ようこう』でも、ずいぶんと危ない局面はあったんだよ」と話してくれた。私はといえば、「これはネタになる。SOLAR-Bが無事に上がったら聞きに行こう」と考え、先生の話を聞いていた。

 もはやそれすらかなわぬ夢となった。

 あの時、色々とお話を伺ったが小杉先生が、SOLAR-B実現に、全精力を注いでいることは会話の端々から感じることができた。

 今年9月の打ち上げ時に、内之浦で松葉杖をついている姿を拝見したが、「今は声をかけるまい」と、遠巻きに見ていた。その後。相模原ISASの食堂で定食を食べているのを見かけた時も、「もう少し後で」と思い、声をかけなかった。ISASの定食を食べるというよりも、かき込むという調子で食べていた小杉先生の表情は、幸福そうだった。それは、「やっと本格的な観測ができる」という幸福感だったのだろう。
 今年9月の打ち上げ成功後の記者会見で、小杉先生の表情はこれ以上はないほどに 晴れ晴れとしていた。「これからが本番だ」という喜びに満ちていた。明らかに先生は、全身全霊を SOLAR-B計画にかけておられた。

 今、私が言えることはただ一つだけだ。「先生、ご苦労さまでした」。いや、これすら私のような部外者が言うべきことではない。

 小杉健郎という個人の意志は、「ひので」観測チームに引き継がれるのだろう。

 写真は、今年9月23日、「ひので」打ち上げ成功記者会見にて。撮影:喜多充成

2007.11.27 13:00注記
 一部文章を不適当と判断して削除しました。経緯はコメント欄に書きました(松浦記)


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2006.11.12

エセ科学「水からの伝言」への注意を喚起する

「水からの伝言」を信じないでください

 物理学者の田崎晴明氏(学習院大学)が、上記のページを公開した。

 科学教育という面でも、世間におけるエセ科学の蔓延を食い止めるという意味でも極めて重要なページだと思うのでリンクする。

 水は確かに生命にとって重要な物質であり、しかも他にない特異な物性を示す。しかし、「水が人間の思念に反応して美しく結晶する」という主張は、科学的方法論の示す真理と、人間の感性が掬い上げる審美的な意味での美とを意図的に混同した嘘でしかない。

 嘘を世間に流布するのはいけないことだ。小学生にも分かる話。

 各種検索エンジンで「水からの伝言」を検索した時に、上記ページが上位に来るように、出来る限り多くの人が、上記ページにリンクしてくれればと願う。


————————————


 それでも「水からの伝言」を信じたい人には、以下の事実を指摘しておくことにしよう。

 「水からの伝言」を主張する江本勝氏は、アイ・エイチ・エムという会社を経営している。

 このページを見ると、この会社は波動測定器「HADO R」という計測機器を開発していることがわかる。詳しいページは工事中ということになっている。

 ところが、同じアイ・エイチ・エムの販売ページには、この「HADO R」の詳細が掲載されている。

 波動測定器HADO“R”


 そこにはこんなことが書いてある。


 HADO“R”は、世界のさまざまな「エネルギー測定器」事情を調査し、欧米で注目されている代替医療、その筆頭のホメオパシー医療の歴史についての研究を進め、足掛け4年の開発期間をかけて創り上げた国産型波動測定器です。特に200年もの歴史を持つホメオパシーとの関係性を考慮し、波動発生回路部を“電磁ホメオパシー”として位置付けています。また、HADO“R”のセンス回路にはこれまで日本で紹介されているプローブ型の感知システムとは別の、磁界吸収感知型のハンドプレートを採用しています。これによりオペレーター(測定者)を増幅器として使う必要がなく、より客観的な測定が実現できるようになりました。

 であり、

・1688コードが収められている「コードBOOK」から転写項目を選択し、さまざまな波動情報水をつくることができます。 ・症状、病名、身体組織、そして100を超える心理面に関する波動コードにより、それぞれにおける被験者の波動適応力を分析できます(波動セラピーの項参照)。 ・ハンドプレート上に健康食品・化粧品その他を同時にのせて、被験者との波動の相性が計測できます。 ・心理面の分析! 100コード以上からなる心理面関連コードを駆使した、こころとからだの関係を分析できる点が最大の特長です。

という。

 色々突っ込みどころ満載なのはさておいて。

 測定とは物理的な変化を計測することであり、波動を測定するというならば、波動というものが物理的世界のどのような物理量に変化を与えるかが明らかになっている必要がある。

 ところが最後まで読んでも、この「HADO R」が具体的にどのような物理量を測定しているのははっきりしない。測定器と言いつつ何を測定しているか不明というわけ。

 ここで注目すべきは以下の記述だ。

波動測定器 HADO“R”

本体価格  ¥1,890,000 (税込)
研修費用 別途(半年間プログラム 735,000円(税込)〜)
研修場所に付きましては、お問い合わせください


 「水からの伝言」の提唱者である江本勝氏は、どのような物理量を測定しているかはっきりしないカッコ付きの“測定器”を、189万円で販売し、さらに半年の研修費用として73万5000円を徴収しようとしているわけだ。

 189万円73万5000円

 さて、そのようなことをする人物による「水からの伝言」という主張は、常識で判断して信ずるに足るだろうか。

 少なくとも私は信用しない。

追記:「水への伝言に一言いいたいけれど、自分が張ったリンクでアイ・エイチ・エムのページランクが上がるってのもなあ」と思う方に。
 Googleの場合、リンクのタグ中に「rel="nofollow"」と入れておくと、そのリンクはページランクにカウントされない。

米Google、リンク属性を利用したコメントスパム対策機能(Internet Watch、2005年1月19日)。

 トラックバックを張ってくれたWeb屋のネタ帳さんからの情報だ。どうも有用な情報をありがとうございます。
[2006.11.13記]

 水について本当のところを知りたい人は、「水から伝言」などではなく、この本を読もう。北海道大学で長年氷雪の研究に従事してきた研究者による、氷と水に関する一般解説書だ。
 「圧力や温度によって14種類もの異なる構造を持つ氷が存在する」、あるいは「氷も焼結する」など、氷が常識で思いも寄らない性質を持っていることが次々と説明されるのは楽しい。
 最終章では「ボイジャー」などの惑星探査機が木星や土星の衛星で見つけた氷と、その振る舞いについての新しい知見がまとめてある。

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2006.11.09

「ひので」が見た水星の太陽面通過

 本日朝、水星の太陽面通過があった。

水星の太陽面通過:国立天文台の解説ページ

 で、これだ!

「ひので」衛星が見た「水星の太陽面通過」

 素晴らしい!あまりに素晴らしい!!

 水星だぜ。水星なんだぜ。あの黒い丸のふちのぎざぎざは水星の地形なんだぜ。灼熱の赤道と極寒の両極を持つ奇妙な惑星が、太陽の前をじりじりと通過していってるんだぜ。それをぼくらの宇宙太陽望遠鏡が見ているんだぜ。

太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)

 学術観測のために必要な性能を追求した「ひので」は、これほどまでに美しい映像を撮影する能力があるのだ。

 人生の楽しみの一つに、間違いなく「未だかつて見たことがない風景を見る」というのがある。実際、私にとって科学は、素晴らしい画像を見せてくれる万華鏡でもある。

 こういう画像を見ると、しみじみ「生きていてよかったなあ」と思う。そして次の見知らぬ画像に思いをはせるのだ。

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2006.07.21

宣伝:新著「日本列島は沈没するか?」が7月15日に発売されました

 地球を四畳半サイズに縮めてみると、富士山の高さは1ミリにも満たない! 「日本沈没」などのフィクションを入り口に惑星地球を多角的に分析、最先端技術をレポートする、SFファン、科学ファン必携の書。

 この本は、藤崎慎吾、西村一、松浦晋也の3人の共著です。

 映画「日本沈没」リメイク版公開にあわせて、最新の地球科学について一般向けの書籍をまとめようという藤崎慎吾さんの発案で企画されました。藤崎さんは、SF小説「ハイドゥナン」(早川書房:amazon bk1)で、自らも南西諸島の沈没を描いています。
 藤崎さんによって企画が成立したところで、まず、海洋研究開発機構で、海底掘削船「ちきゅう」の実現に尽力した西村一さん(SF大会では海洋SFマニアとして有名)に、執筆者として白羽の矢が立てられ、最後に松浦がおそらくは専門知識を一般向けにかみ砕く技術を買われたかで、参加しました。執筆にあたっては、西村さんが八面六臂の活躍をしました。執筆量は、西村、藤崎、そして最後に松浦という順になります。

 私は、本書末尾のIODP、ちきゅう、そして地球シミュレータの解説を担当しました。本書執筆は大変ではありましたが、楽しい作業でした。最新の地球科学は驚くほど急速に変動しており、毎年のように新たな発見がなされています。「なるほどねえ、現在はこういう状況なのか」と驚くことの連続でした。「日本沈没」が書かれた33年前は、ようやっとプレートテクトニクスが実証されたかされないかという時期でしたが、現在では地球の内部についてはるかに詳細なデータが集められており、なおかつ謎もまた増えているのです。

 読んで頂ければと思います。

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2005.10.23

素晴らしき4D2U

 野尻ボードより。

国立天文台4D2Uプロジェクト

 素晴らしい!!一つ一つ見ていくと、それだけで時空を超えた旅に出た気分になる。いつの間に、国立天文台はこれだけのことができるほどの広報マインドを持つようになったのだろうか。

 私は直接知らないのだけれども、天文普及関係の知人によると、東京天文台という名前だった頃の天文台の広報は最低に近かったそうだ。典型的お役所仕事で、応対は悪く、情報サービスは使いにくく、しかも直そうという機運は皆無だったという。その後、国立天文台が発足し、渡部潤一先生が広報担当となって、ずいぶんと改善されたと聞いてはいた。聞いてはいたが、これほど美しく衝撃的な普及広報ページを作成するほどになっているとは。

 繰り返そう。なんと素晴らしい。

 この仕事にはデザイナーの小坂淳氏が参加している。広報に、優れたデザイナーが参加することの重要性を、誰が気が付いたのだろう(そう、広報はその意味では広告に近い性格を持つ)。国立天文台に拍手である。


 本日、参議院神奈川選挙区補選。前外務大臣の自民党・川口順子候補が当選した。

 投票率は32.75%。こっちは全くもって素晴らしくないな。

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2005.09.27

ペーパークラフトを見て数学的直感を考える

 ちょっと体調が悪いので手短に。



papercraft

 大阪の海遊館で開催されていた「SHARK&RAYでアートしよう!」という展示に出てきた恐竜(こいつはなんという名前だっけ。確か頭蓋骨が思い切り分厚い奴だ)のペーパークラフトだ。秋山美歩さんという作家の方が作ったもので、どれもこれペーパークラフトとは思えないぐらい素晴らしいできばえだった。

 気になったのは、展示にあった秋山さんのプロフィールに「嫌いなもの:数学」とあったことだ。

 これほど精緻な3次元のペーパークラフトを作れる人ならば、2次元と3次元との間を変換する卓越した数学的直感を持っているはず。それが「数学が嫌い」とはどういうことなのだろうか。学校教育が悪かったのか?

 私の知る限り、理系学問はどれも大いなる直感を必要とする。勘の悪い者は専門家になれないといってもいいほどだ。特に数学は、決して理詰めだけの学問ではない。理詰めは証明を書き下す最後の瞬間に必要となるのであって、それ以前の広大な領域は直感が物言う。

 このような優れた人に、「数学は嫌い」と言わせてしまうのは、大変に惜しいことだと思うのである。

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2005.09.21

巨大台風再び、で気象制御を妄想する

 この前のハリケーン「カトリーナ」に引き続き、アメリカ中部メキシコ湾岸にハリケーン「リタ」が接近しつつある。台風規模は着々と大きくなり、またしても最大級の「レベル5」に達した。

 カトリーナの被害がはっきりした時に、「巨大台風で、アメリカ京都議定書へ復帰、と妄想する」という記事を書いた。その後調べてみると、確かに「台風の大型化は地球温暖化のせいだ」という意見があるものの、一方で「台風の大型化は長期気候変動のせいであり、温暖化とは関係ない」という声もまた強いらしい。

 特に最後のニュースは「全米ハリケーンセンターの所長が議会で、ハリケーンの増加は地球温暖化が原因ではないと証言した」というもので非常に興味深い。

 環境問題が話題になり、その規制が経済に影響を及ぼす場合、かならずこういう反論が出てくる。確かフロンガスを規制するかしないかで揉めた時は、確か「オゾン層破壊は皮膚ガンの発生率に影響しない」という論文が出ていたと記憶する。

 もう少し、アメリカが積極的に考えてくれたらな、と私は思う。地球温暖化はハリケーン増加の原因ではないかも知れないが、二酸化炭素排出量を減らせば長期気候変動を積極的にコントロールでき、ハリケーン被害を減らせる——というように。前にも書いたが、二酸化炭素排出規制は、単なる環境保護ではなく、気候制御という巨大な夢につながっているのだ。

 そうこうしているうちに、「リタ」はニューオリンズに再度大雨を降らせそうな状況になってきた。ひどいことにならないよう祈るしかない。

 ところで、味噌漬け続報。

 生鮭の切り身を付けてみた。うはははは、最高だ。ご飯が進むこと進むこと。あんまり食い過ぎるとまずいぐらいだ。

 野菜を漬けるとおいしいという話も聞いたので、魚で一巡したら野菜でやってみるつもり。


9月23日追記
 林譲治さんの指摘で、小松左京「極冠作戦」が、地球温暖化進行の過程を予言的に描いているのを思い出した。

 大気中の二酸化炭素濃度上昇により海面が上昇するという指摘に対して、経済活動を優先しようとした体制側は、温暖化による海面上昇は起きないと主張する科学者をバックアップするのである。そうこうしているうちに手遅れになり、地球は温暖化して海面は上昇、広大な土地が海に飲み込まれてしまった——。

 現在アメリカで起きているのは、この短編SFとまったく同じことなのかも知れない。

 実際問題として、科学者として「正しいことを主張しろ」と言われても困惑するだけだろう。何が正しいかなどは、時間をかけて実証しなければわかりはしない。しかし、時間をかけている内に手遅れになりかねない問題だったらどうするか、どう振る舞うのが正しいのか。

 とりあえず文学の側からの問題指摘は、そろそろ40年近く前になされているわけだ。これにどう答えるべきなのだろうか。


 「極冠作戦」は現在この短編集に収録されている。収録作は以下の通り。

 ・物体O
 ・お召し
 ・終りなき負債
 ・自然の呼ぶ声
 ・彼方へ
 ・五月の晴れた日に
 ・石
 ・黴
 ・袋小路
 ・牙の時代
 ・静寂の通路
 ・極冠作戦

 どれも作者三十代から四十代の、力が充ち満ちていた時代に書かれた名作揃いだ。読むべし。

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2005.09.20

NASA有人月探査復帰に対して

 本blogでは、宇宙関連であまりシビアな話題はかかないようにしているのだが、以下は例外として書く。

 9月19日、米航空宇宙局(NASA)は、2018年に有人月探査に復帰するという計画を公表した。

How We'll Get Back to the Moon

 これは2004年1月にブッシュ大統領が発表した新宇宙政策に対応してNASAが具体案をまとめたものだ。中核となるスペースシャトル後継の新しい有人宇宙船「CEV」は、カプセル型宇宙船である。

nasacev
(Photo by NASA)

 2001年、私は宇宙開発事業団(当時:現在は宇宙航空研究開発機構)の野田篤司氏が主導した日本独自の有人宇宙船構想の検討作業に参加した。検討結果は、H-IIAロケットによる打ち上げを前提としたカプセル型宇宙船としてまとめられた。我々は、そのコンセプトを「ふじ」として命名した。

「日本独自の有人宇宙船構想」(JAXA総合技術研究本部)

 当時、宇宙関係者の間では、具体的な有人宇宙活動について語ることすら「人死にが出たら世間の糾弾を受けて日本の宇宙開発が停止する」という理由からタブー視されていた。我々の最初の目標はまず、タブーを破りフランクに日本独自の有人宇宙活動について語り合える環境を作ることとなった。

fuji1

fuji2


 「ふじ」を巡る議論の中で、検討参加者は「スペースシャトルやスペースプレーンに代表される再利用型有翼宇宙船は、宇宙を飛ぶ飛行体として無駄が多い。特に完全再利用型は技術的に当面は実現できる見込みがない」という認識を共有した。

 しかし当時の日本は、「20年後にスペースプレーンを開発して有人宇宙活動へ」というような議論が幅を効かせていた。スペースシャトルは1986年のチャレンジャー事故以降、まがりなりに安全運航を続けており、その安全性を改めて疑う者はほとんどいなかった。

 我々は、様々な方面へ、「ふじ」コンセプトの説明した。併せて、将来をスペースプレーンに代表される有翼飛翔体に頼り、絞ってしまうことの危険性も説いた。しかし、2001年から2002年の段階では、耳を傾ける人はほとんどいなかった。
 内閣府や文部科学省にも説明をした。
 しかし反応は、まず「日本が有人活動をするなんてねえ」、次いで「それは失敗を嫌う日本人の国民性になじまないのではないか」「財政難の日本にそんなことをする余裕はないのではないか」「カプセル型宇宙船なんて時代遅れのことを今更やるなんて」などなど、冷たいものだった。

 私たちは人間が先入観から抜け出すことの困難さを実感した。「彼らは外圧に弱いから、アメリカから何か来ないと自分の過ちを認めないんじゃないか」「そのうち、アメリカの新宇宙船がカプセル型ということになって、俺たちは『だから言ったのに』と言わなければならなくなるんじゃないか」などと話し合った。

 私は一般へアピールする必要を感じて「われらの有人宇宙船」(裳華房)という一般向け解説書を執筆した。当時、宇宙関連の書籍はおよそ売り上げの見込みが立たないということで、一度決まった出版社が降りたりもした。出版してくれた裳華房にはひたすら感謝するしかない。
 幸い、本書はささやかながら一定の部数を販売することができた。「宇宙ものは売れない」とする当時の出版界の固定観念に、いくらかは風穴を空けることはできたかも知れない。
 本書は、仲間からのカンパを募り(みんな、どうもありがとう)、関連すると思われる政治家にも献本した。ほとんどはなしのつぶてで、一部は印刷だったり秘書代筆だったりの礼状が届いて、それで終わりだった。我々としては、献本に対する礼などどうでも良くて、秘書なり本人なりに読んで貰いたかったのだが。
 「なるほど、政治が利権とはこれか」と私は感じた。政治家には利権にありつきたい者が、様々な情報を持ち込んでいるのだ。そんなものにいちいち耳を傾けていたらやっていられない。どんな情報を送付したところで、その大部分はノイズとして自動的に処理されるのだろう。

 2003年2月、スペースシャトル「コロンビア」の悲劇的な事故が起きた。2004年1月、アメリカは新宇宙政策でスペースシャトルの2010年引退と、国際宇宙ステーション(ISS)の2010年完成と、2016年運用終了を打ち出した。
 2010年までにスペースシャトルが、ISSを当初規模で完成させることができる回数のフライトを行うことは、すでに絶望的となっている。2010年完成とは、「できたところまでで『完成』と宣言する」ということに他ならないだろう。
 その完成形態に「きぼう」が付いているかどうかはかなりあやしい。アメリカの有人宇宙技術を学ぶとして、1985年から検討が始まった宇宙ステーション日本モジュール「きぼう」は、すでに完成にしているにもかかわらず打ち上げのメドは立っていない。

 他の国に頼って学ぶという姿勢ではいけない。たとえ時間がかかっても、自分で技術を手にに入れるという姿勢でなければ——私はそう訴え続けてきた。

 世間の慣性は巨大だが、それでも事実の積み重ねは、世間に認識の変化を迫らざるを得ない。コロンビアが墜ち、中国がカプセル型宇宙船で有人飛行を行い、アメリカが君子豹変と形容できるほどの方針転換を行い、そして今、アメリカの新宇宙船がカプセル型であることが明白になった。

「だから言ったのに」

 多分私たちは、そう言っても構わない立場に立ったのだろう。

 が、その言葉のなんとむなしいことか。我が身にしみるのは何もできなかった無力さである。

 「ふじ」構想は、とりあえず有人宇宙活動に関するタブーを破ることには成功したと思う。しかしそれだけでは、有人宇宙活動に向けた動きには足りない。

 そして、現在、より切実な問題が姿を現しつつある。

 「ふじ」以降の議論では、打ち上げロケットも問題になった。「ふじ」は単純にH-IIAロケットで打ち上げることにしていたが、その後H-IIA6号機が事故を起こして、情報収集衛星2機の打ち上げに失敗した。
 有人打ち上げに最適なロケットはどのようなものかと検討していくうちに、我々にはスペースシャトルが世界中にもたらした巨大な害悪が見えてきた。その議論の一部が拙著「スペースシャトルの落日」に繋がった。そして、シャトルの毒は確実に日本のロケットにも回っていることに、私は気が付いた。

 今や、H-IIA、GX、M-Vというロケットラインナップを根本から考え直さなければならないのだ。1994年のH-II1号機打ち上げ成功で希望と共に始まったH-IIシリーズの運用が、あれから11年——それこそアポロ計画開始から11号着陸までと同等以上の時間だ——も経つのになぜもたついているのか。なぜGXはずるずると遅れ続けているのか。なぜM-Vは安くならないのか。

 すべては、技術的も組織的にも産業構造的にも、まっさらな状態で、先入観なしにもう一度日本のロケットのありようを再検討する時期に来ているというサインなのだ。「すでにLE-7があるからそれを利用して」だとか「三菱重工と石川島播磨重工の仕事の切り分けがあるから」だとか「今までの実績があるから」「来年の受注ベースは」といった思惑を一切廃して、ゼロからロケットを考え直す時期なのである。今の技術を使って、目的に最適なロケットをゼロから考え直すべきなのだ。
 いたずらに過去や、既存の官需に拘泥し、既得権益ベースで議論を進めれば、大して多くもない官需もあっさりなくなるだろう。

 ずいぶんと、とんでもないところに来た、と思う。が、私は常に希望を持っている。何度でも書こう。見上げればそこにはいつだって宇宙があるのだから。


 あらためてこの本を宣伝しておく。有人宇宙船に関する基本的な問題は一応網羅している。すでに残部がごく少なくなっており、増刷のメドは立っていない。特に、私のところに「なんでアメリカはシャトルみたいなのをやめてアポロみたいな宇宙船に戻っちゃったんでしょうか」と質問してきたマスコミ関係者は必読、と言っておこう。





 こちらの本も載せておく。スペースシャトルが何であったかについては、もっと多くの人が認識を共有する必要があると思う。その一助になれば、ということで。

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2005.08.31

巨大台風で、アメリカ京都議定書へ復帰、と妄想する

 アメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」はニューオリンズなどに甚大な被害を与えた。


 特に最後の読売新聞の記事に注目して欲しい。アメリカ経済に大きなダメージが発生している。

 このハリケーンで、ほんの少し、まったくもってほんの少しだけれども、期待していることがある。アメリカが温室効果ガス削減の京都議定書に復帰はしないまでも、復帰しようとする機運が出てくるのではないか、と。

 ご存じの通り、1997年12月、地球温暖化防止京都会議で温室効果ガス排出削減の枠組みを定めた京都議定書が採択された。これに対してアメリカは2001年3月、国内経済活動に悪影響を与えるという理由で京都議定書から離脱した。
 現在人類は、年間240億トンの二酸化炭素を空気中へ放出している。アメリカは、そのうち57億トン(24%)を発生している。これはもちろん世界一だ。

 二酸化炭素は、大気の窓を遮る形で地球に入射する太陽エネルギーが宇宙空間へ放射するのを妨げる。これは事実。そして、前世紀半ばに観測が始まって以来、連続的に大気中の二酸化炭素の濃度が上昇し続けている。これも事実。一方地球全体の平均温度も、観測が始まってから上昇し続けている。これまた事実だ。

 では、温室効果ガスが、地球平均温度の上昇の原因なのか。色々な議論がある。が、少なくとも世界各国が顔を付き合わせて二酸化炭素ガス排出削減を議論しなければならない程度には、その因果関係は見えてきている。

(ここまで数値などの出典は、「<新>地球温暖化とその影響(内嶋善兵衛著 裳華房)」)

 そして問題、地球温暖化によって巨大台風の数は増えるのか。

 最近の一部の研究では、温帯域の降雨が増えるという結果が出ている。

 国立環境研究所の江守正多室長の研究によると
 降水量は日本を含む中・高緯度地域と熱帯の一部で増え、亜熱帯で減る一方、大気中の水蒸気が増えることで豪雨は広い地域で激しさを増すことが分かった。降水量に比べて豪雨強度の変化が特に大きい北米の中、南部や中国南部、地中海周辺などは、一時期に雨が集中するため、水害とともに渇水の危険も高まる。

 これをもって、すぐに「地球温暖化によって大型台風が増える」とはいえない。

 が。もしそうだとしたら。

 いや、因果関係をきちんと立証するより前に、アメリカ国内で「巨大台風襲来は、地球温暖化のせいではないか」とする世論が盛り上がったらどうなるか。

 アメリカが京都議定書を離脱した理由は、「経済活動に悪影響を与える」だった。巨大台風が来ればそれどころではない悪影響が経済活動に及ぶとすれば、アメリカが京都議定書に復帰する合理的理由が生まれることになる。

 それが事実であるというよりも、そうアメリカが考える、ということが重要だ。

 温室効果ガス削減について、私は「地球温暖化防止」という以上に積極的な意味を見ている。これは人類が初めて試みる、全地球的気候改造ではないだろうか。二酸化炭素ガス排出は、気候改造を意図したものではなかったが、その抑制は立派な気候改造の試みだ。

 その試みに、世界一の二酸化炭素ガス排出国であるアメリカが加わるとしたら。全く持って不謹慎だが、私はわくわくしてしまうのだ。

 ところで、この件、タバコの害と似ている。かつて、タバコを規制すると税収が減少するという議論があった。実際にはタバコは喫煙者のみならず受動喫煙者の健康をも害し、健康保険財政に多大の損害を与えているわけだ。実は今、川端裕人さんの「ニコチアナ」を読んでいて、色々思うところもあるのだけれど、これはまた後日。

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2005.08.28

非電化冷蔵庫について、ほんの少しだけ考察する

 5月18日の面白いページを2つ紹介するで紹介した非電化冷蔵庫について。

 「<新>地球温暖化とその影響」(内嶋善兵衛著 裳華房)を読んでいて、使えそうなデータを見つけた。同書27ページの図2・4だ。
 地表に入射する波長別の太陽エネルギーと、地表からの宇宙への輻射の波長別エネルギーのグラフだ。実は「大気の窓」がどの程度のエネルギーを透過するか、今まで知らなかった。同書のグラフでは、本当にどかんとグラフが谷を描いている。これほどの割合で透過するならば、非電化冷蔵庫に応用できそうだ。

 波長8〜13μmの赤外線は、大気に吸収されない。「大気の窓」というやつである。だから、この赤外線は、宇宙から直接地表に届くし、地表から放射した場合はそのまま宇宙へと出て行く。
 つまりこの波長帯で夜空へ輻射すれば、宇宙を背景輻射3Kを低温熱源として利用できるということになる。この波長帯は雲も透過する。だから曇っていても構わない(嘘でした。コメント参照のこと。2005.8.29)。

 つまりこの波長帯の赤外線を集中的に放射する材質を放熱板に使うと、非電化冷蔵庫の冷却効率は上がることになる。

 と、ここまで考えて、ちょっと検索をかけてみたが、そのような材料を見つけることができなかった。なにかありそうな気がするのだけれども。前回の記事へのコメントで教えてもらったまず貼る一番はどうだろうと思って、資料をダウンロードしてみたが、「熱を遠赤外線に変換して放射」としか書いていなかった。遠赤外線というのはだいたい波長3μmから1mmまでのかなり幅広い領域を指す。ちょっとこれだけではなんとも言えない。

 ちなみに黒体輻射のピークは常温の300K(27℃)で10μm、273K(0℃)で11μm。都合がよさそうだが、実は大気の窓はこの波長付近にちょっとした“曇り”があって透明度が落ちる。オゾンがこの波長域の赤外線を吸収するためだ。
 できれば300Kで8.5μm付近、あるいは11μm付近に輻射のピークが来る物質が好ましい。得に300Kで11μm付近にピークがくる物質だと、273Kでもピークがうまく大気の窓に入りそうだ。

 ここ数日の考察はここまで。まあ、日頃、あれこれの日常の合間に、こんなことを考えているのであります。


 今回の参考書。地球という星の基本的な熱収支がどうなっているかを、わかりやすい言葉でまとめてあるのが便利だ。巻末に詳細な参考文献リストが突いているので、地球温暖化について、もう一歩突っ込んで調べるための出発点としても使える本だ。


追記:お、ポチは見た!が、少し更新しているぞ。あるある大事典のニセ実験と洗脳など、いいところを突いている。  ネット利用者とそれ以外で、メディア・リテラシーに大きな格差が発生しつつあるような気がする。例えばみのもんたが、「奥さん、あれが体にいいっすよ。分かる?」とやると疑いもせずにスーパーに殺到する人々と、そうではない人と。

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