世界記録樹立のチャンス
今年の鳥人間コンテストが中止となった。来年、2010年は実施するとのこと。
さて、2009年の大会ですが、残念ながら休止することが決定しました。
昨今の厳しい経済環境はテレビ業界も同様で、番組制作費の見直しが検討されております。その中で、「鳥人間コンテスト」は参加者の安全な飛行を重視して大掛かりなセットや救助システムを組んでおり、予算削減を理由に安全面を軽視することは考えられません。事務局としても、大会開催にむけて検討を重ねてまいりましたが、上記の理由で09年の開催休止を選択しました。バードマン、また関係者の皆さまには、何とぞご理解を承りたくお願いいたします。
これを受けてmixiの鳥人間コミュ(閲覧にはmixiのアカウントが必要)では、色々な意見が飛び交っている。「つまらないバラエティー番組から切ってほしかった」とか、「会社の上のほうは何が適切な費用かを判断できていない」と、怒りの声も出ている。
しかし、これはチャンスではないか。
世界記録に挑戦するチャンスなのだ。
現在の鳥人間コンテストに参加する上位チームの実力は、私の見るところ、人力飛行機の飛行距離世界記録を狙えるところまで来ている。
しかし、鳥人間コンテストに参加する限り、いくら飛行距離を伸ばしても、世界記録としては認められない。人力飛行機の世界記録のレギュレーションには、「自力で地上から離陸すること」という条件が付いている。湖面から10mのカタパルトから離陸する鳥人間コンテストでは、いくら長距離を飛んでも世界記録として公認されないのだ。
私は2003年8月に、鳥人間コンテスト常連だったヤマハ発動機の「チーム・エアロセプシー」が琵琶湖で日本記録を目指して飛行を行った時、随伴ボートに乗って取材した。この時、エアロセプシーのリーダーである鈴木正人さんから、記録と鳥人間コンテストの関係を色々とお聞きした。
当時の取材メモを引っぱりだして、要約すると以下の通り。
・日本の機体の水準は世界トップクラス。世界記録が狙えるところまで来ている。
・世界記録を出すためには、機体、パイロット(操縦技術と体力)、飛行に向いた良いコンディションの天候の3つが必要。このうち、良いコンディションの天候が一番難しい。アメリカが世界記録を出した時は、天候が飛行に向いたギリシャにチームが乗り込み、1ヶ月間も風待ちをして最高のコンディションの天候で飛行を実施した。
・自分たちサラリーマンの挑戦では、風の良いコンディションを1ヶ月も待つということができない。
実際、この時のエアロセプシーの飛行は、琵琶湖上空の空気が最高のコンディションとなる7月末から8月始めの2週間の週末土日4日間だけが飛行のチャンスだった。かならずしも最高の風ではない状態で飛んだ「極楽とんぼ」だが、10.9kmという当時の日本記録を樹立した。
私は、鳥人間トップクラスの大学生チームが、最高の飛行コンディションが狙える土地に乗り込み、1ヶ月の風待ちをするなら、マサチューセッツ工科大学(MIT)の記録を破ることだって夢ではないと思う。
MITの世界記録は1989年4月23日に達成。場所はギリシャ・クレタ島、機体は「ダイダロス」、パイロットはK. Kanelopoulos。飛行距離は119kmだ。
一方、日本記録は日本大学航空研究会の「Möwe21」が2005年8月6日に、静岡県庵原郡蒲原町・富士川滑空場〜駿河湾で出した49.172kmである。パイロットは、増田成幸。
もちろん記録への挑戦は容易なことではない。まず、機体を自力離陸可能なように改造する必要がある。チーム・エアロセプシーの機体「極楽とんぼ」は、一部の動力を車輪に回して、地上離陸を容易にする工夫がしてあった。
また、鳥人間コンテストのように、飛行環境を全部テレビ局が整えてくれるのではなく、関係官庁や地方自治体、地域住民などに説明に回って、記録飛行を行える環境を整える必要がある。これはかなりの負担だ。
それでも、得られるものは大きい。鳥人間コンテストは、基本的にテレビ局主催のショーなので、風や天候の条件が最高ではなくとも、主催者が飛べると判断したならば飛ばなくてはならない。世界記録を狙うなら、記録飛行に適した最高の土地、最高の天候を選ぶことができるのである。
MITの「ダイダロス」は、例えばギアをマグネシウム合金から削り出すというようにすべての部品に惜しみなく予算を投じて軽量化した機体だった。その機体と、競輪選手並みの脚力のパイロットを組み合わせ、最高の天候が見込めるギリシャに乗り込んで、ぎりぎりまで風待ちをして出した記録だ。
しかし、その記録もすでに樹立から20年経っている。その間の技術の進歩は著しい。鳥人間コンテストでさんざん鍛えられてきた日本のチームが世界記録を狙える可能性は十分あるだろう。
「当事者でもないのに無責任なことを言うな」と言われそうだが、どうせテレビ番組が中止になったのだ。ならば、テレビに関わっていてはできないことをすればいい。世界記録を出して、読売テレビに「やはり他の番組を潰しても、鳥人間コンテストを開催しておくべきだった」と後悔させてやればいい。
番組がなくともやれることはある。がんばれ、バードマン達。
写真は、2003年8月3日、琵琶湖におけるチーム・エアロセプシー「極楽とんぼ」記録飛行の様子。早朝の風待ち(上)と記録飛行(下)。撮影:松浦晋也
過去30年の歴史をまとめたDVD。鳥人間コンテスト30年の記録だ。
鳥人間コンテストが、日本の航空界に与えた影響は莫大だったと言わねばならない。三菱重工ですらろくに新型機が作れない状況下で、規模こそ異なるものの、参加者達は毎年1回、必ず新型機を作り、30年以上に渡って琵琶湖に集まってきたのだ。どんどん新しいものを作るということが、物事を進めるのにどれほど大切なことか。
ずっとテレビ番組で見てきたが、残念なのは年を追う毎に番組が演出過多になっていったこと。本人はろくに飛行機に興味を持ってもいないお笑い芸人など不要だ。狙って演技するアナウンサーの絶叫も邪魔以外の何者でもない。お涙頂戴のビデオ編集はうっとうしいだけである。
私はただただ、飛行機が見たいのだ。琵琶湖上空を晴れ晴れと飛ぶ、バードマン達の飛行機が見たいのである。































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