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2011.12.08

はやぶさ2で野田事務所に嘆願書を送った

 野田佳彦首相の事務所に、はやぶさ2予算に関して嘆願書を送った。

 文章は以下の通り。

内閣総理大臣 野田佳彦さま


小惑星探査機「はやぶさ2」
平成24年度予算案における予算大幅圧縮に関する嘆願

松浦晋也
科学技術ジャーナリスト/ノンフィクション・ライター

 私は、主に宇宙関連分野で文章を発表して生計を立てている者です。3年程前に、民主党本部でGXロケットと宇宙基本法関連のレクチャーが開催された際に、講師として招かれ、その席で野田さまとお会いしております。このような嘆願書を送ることをお許し下さい。
 この嘆願は、小惑星探査機「はやぶさ2」の平成24年度予算「日本再生重点化処置」について、特段の配慮を願うものです。

 初代はやぶさについてはご存知のことと思います。平成15年(2003年)に打ち上げられた日本初の小惑星探査機です。プロジェクト・マネージャーである川口淳一郎JAXA教授の指揮のもと、平成17年(2005年)に小惑星イトカワの探査を実施し、平成22年(2010年)6月にイトカワの岩石サンプルを地球に持ち帰ることに成功しました。はやぶさ2は、その後継機で平成26年度(2014年度)の打ち上げ、小惑星1999JU3を探査し、平成32年(2020年)地球帰還を予定しています。はやぶさの成果を引き継ぎ、さらなる科学的成果と、宇宙及び地球に関する人類の知的資産の蓄積を、日本自らの手によって目指す計画です。
 平成24年度予算要求において、はやぶさ2は文部科学省から「日本再生重点化処置」で73億円を要求しています。探査機の製造には数年がかかります。平成26年度打ち上げのためには、満額執行が不可欠です。
 しかるに、12月6日の第三回政府・与党会議において、はやぶさ2の来年度予算の圧縮が了承されました。
 予算が圧縮され、平成26年打ち上げを逃せば、計画は実質中止に追い込まれます。それは、日本の宇宙事業が諸外国より相対的に少ない予算の中で、長い時間をかけてやっと一つ達成した世界的アドバンテージが無に帰することを意味します。

 地球から目的地の1999JU3という小惑星への打ち上げチャンスは限られていて、次は平成31年(2019年)、その次は平成36年(2024年)です。2019年は到着時の太陽と地球との角度が悪くて、小惑星への着陸リスクが大変に大きくなります。2024年には初代はやぶさに若手として参加した研究者が定年となり、経験の継承と発展はおろか、研究者・技術者集団を維持することすら不可能になります。1999JU3はC型という特殊かつ科学探査の価値が高い小惑星であり、はやぶさ2の能力で行ける範囲に他のC型小惑星は存在しません。
 探査機の製造には数年の時間が必要であり、そのためにはメーカーに支払いをしなくてはなりません。平成26年(2014年)打ち上げのためには、平成24年度予算において、73億円の要求を圧縮することなく通すことが必要です。

 平成26年打ち上げを維持しないと、はやぶさ2は実質中止になるのです(正確にはH26から27にかけて打ち上げチャンスがあります。年度を跨ぐのですが、星の運行は地上の予算制度など顧慮しませんから、ここではH26と表記しました)。

 はやぶさ2が中止になると、昭和62年(1985年)以降、大変な努力の末に世界で初めて日本が達成した「小惑星からのサンプルリターン」という偉業にまつわるもろもろ(技術的蓄積、科学的成果)がすべて途絶し、無に帰します。
 日本の成果を知り、その科学的価値を認識したアメリカは今年度からはやぶさと同様の小惑星サンプルを持ち帰る探査機「オシリス・レックス」の開発を開始しました。予算総額ははやぶさ2の3倍です。小惑星サンプル採取と持ち帰りには、それだけの価値があるとアメリカも認識したわけです。オシリス・レックスは2016年(平成28年)打ち上げ、2023年(平成35年)帰還を予定しています。
 はやぶさ2は当初は平成22年(2010年)打ち上げを予定していましたが、財政状況その他で実現は4年遅れました。研究者は論文が書けない4年間を耐え、技術者とメーカーは収入の当てがない4年間をしのぎ、はやぶさ2の実現に向けて動いてきました。はやぶさ2には、それだけの価値があるからです。ぎりぎりの努力は今や限界に近づいています。

 なによりも、小惑星からの物質サンプル持ち帰りという世界初の試みに挑み、数多の困難に打ち勝って成功を収めた者に対して、国が後継機を実質的な開発打ち切りとすることの、国民心理への影響を憂慮します。はやぶさの帰還カプセルは、全国各地で展示され、老若男女を問わず多くの人々がその偉業に触れました。その中には、はやぶさの飛行に胸弾ませた子供も多くいました。
 彼らに「日本という国は、政府自らが、成功する者を罰する国だ」ということを、事実をもって示してしまって良いものでしょうか。多くの子供が「この国では成功すると罰を受ける」と思ってしまえば、日本の未来は閉ざされます。

 それは、民主党の第一の理念「透明・公平・公正なルールにもとづく社会をめざします」に逆行する行為ではないでしょうか。

 内閣総理大臣としての野田さまの見識を信じ、「日本再生重点化処置」におけるはやぶさ2の平成24年度予算について特段の配慮を賜りたいと強く願うものです。

#追記:勝手ながら同内容を、メール及びファクシミリで送らせて頂きます。


平成23年12月8日

(住所・電話番号・メールアドレス)

 送付先は、野田首相のホームページにある。
 メールアドレスはすべてのページの一番下に書いてある post@nodayoshi.gr.jp
 ファクシミリ番号は後援会である未来クラブのページに書いてある。

 紙という実態の重みもあるので、署名を入れたファクシミリも送付した。内容は全く同じで、ファクシミリは、署名などの挿入位置を変えて体裁を整えている。

 政治家に嘆願書を送る時の秘訣。

1)政治家は忙しい仕事なので、なるべく短く簡潔に書く。ビジュアルで一発で理解できるようなものが一番良い。ひとつの目安はA4用紙に12〜14ポイントの文字で印字して1枚に収まること。私は文章しか書けない上に、くどい質なのでどうしても長くなって2枚になってしまった。

2)礼節を守り、決して失礼な事や攻撃的なことは書かない。目的はあくまでも自分の主張を相手の心に届けることで、自分の怒りをぶつけることではない。

3)きちんと自分の身分を明かし、それを証明できる住所などを添えること。個人情報の漏洩を心配する必要はない。もしも事務所が個人情報を漏洩したら、昨今の情勢からしてその政治家は失脚する。きちんとした事務所は、個人情報の管理はしっかりしている。ここは相手の事務所の力量を信じるべき局面である。

 最後にファクシミリ送付した文面の画像ファイルを掲載する。ファクシミリを通した後も読みやすく要点が一目で分かるように心がけた。

 どんなときも最後の最後まで諦めることなく、自分のできる限りのことをする。いうまでもなく、これは初代はやぶさが私たちに教えてくれたことである。

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2010.08.05

はやぶさ2・イプシロン、宇宙開発委員会の決定はGO

 本日午前中に開催された、宇宙開発委員会・推進部会での審議を傍聴した方によると、来年度予算でのはやぶさ2の開発研究フェーズ入りと、イプシロンロケットの開発フェーズ入りは、GOという結論になったとのことだ。

 今朝の日経新聞に、「はやぶさ後継探査機機2014年打ち上げ 文科省、予算要求へ 」という記事が出ていたので、多分宇宙開発委員会は通過するだろうと見ていた。日経の記事によると、来年度予算の概算要求で「十数億円」を要求。さらに文科省としては新設の特別枠で別途要求する意向のとことだ。
 実際、2014年打ち上げを目指すとなると、来年度十数億円ではまったく足りない。50億円近く必要なはずだ。従って、特別枠で相当な額を確保する必要がでてくる。

 来年度予算が確定するまで、まだまだ紆余曲折があるだろうが、まずは一歩前進だ。

 …傍聴、行くつもりで準備していたのだが、締め切りに追われて行けなかった。残念である。

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2010.07.31

2002年7月26日のはやぶさ

 本日のJAXA相模原キャンパス一般公開は、1万7000人の人出だったとのこと。行かれた方、ご苦労様でした。

 以下に掲載するのは8年前の2002年7月26日、相模原キャンパスにて組み立て真っ最中のはやぶさの写真だ。この日、私は組み立て中のはやぶさを取材した。もちろんこの時点でははやぶさという名前は付いていない。MUSES-Cである。

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 探査機本体を横方向から見たところ。右側にイオンエンジンがついているこの時点では、はやぶさはなじみ深い金色でもないし、太陽電池パドルもハイゲインアンテナも付いていない。一見するとただの箱である。

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 イオンエンジンは、ダストカバーで覆われていた。カバーの素材は、パソコン部品を梱包する静電気がたまらないタイプのシートのようだった。隅には化学推進スラスターが付いている。はやぶさの化学推進スラスターは、日本初のヒドラジンと四酸化二窒素を使う二液式だった。それまで、日本の衛星・探査機はヒドラジンを触媒で分解する一液式を使用してきた。二液式は複雑になるが性能が向上する。二液式スラスターの開発は、はやぶさの地味ではあるが大変重要な成果である。

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 反対側、再突入カプセルが付く側。下部にサンプラーホーンが見える。まだカプセルは付いていない。外壁に搭載機器が装着されているのに注意。はやぶさは搭載スペース節約のため、壁面内部だけではなく外側にも機器を搭載した。

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 ハイゲインアンテナ。アンテナ面の設計は火星探査機「のぞみ」に使ったハイゲインアンテナと同じ、3軸織りの高弾性CFRP製。

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 ダミーの治具に搭載されたタンク。通常、衛星・探査機は、力のかかる軌道変更用エンジンを中心に、円筒形の力を受ける部材(スラストチューブ)を持つスラストチューブ構造を採用することが多い。しかし、はやぶさは、強力な推力を発生するエンジンを持たない代わりに、微小推力のイオンエンジンを搭載している。このため、本体は壁面パネルで力を受けるモノコック構造を採用している。タンク類は内部の仕切り(バルクヘッド)に装着される。

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 ダミーの本体に取り付けてある、左右の太陽電池パドル。畳んだ状態である。

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 この日、組立の現場では、サンプラーホーンの展開試験を行っていた。「3、2、1」という秒読みと共にサンプラーホーンのラッチがはずれ、ホーンが延びる。無重力の宇宙空間での展開を前提に設計されているので、重力のある地上でそのまま展開すると、すとんと下に一気に伸びて、場合によっては壊れる恐れがある。この日の試験では、作業者がサンプラーホーンの下を手で支えて、そろそろと伸ばしていった。

 この時点で開発スケジュールは非常にタイトなものになっていた。「綱渡りどころか、ひも渡り状態が、糸渡りになっている」という説明が、今も耳に残っている。
 この8ヶ月半後、MUSES-Cは内之浦からM-Vロケット5号機で打ち上げられ、「はやぶさ」と命名されたのだった。


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2010.07.29

30、31日はJAXA相模原の一般公開です

 明日から2日間、JAXA宇宙科学研究所・相模原キャンパスの一般公開だ。

 はやぶさの帰還で、宇宙研を知って、今回初めて見学に行こうという人も多いだろう。
v初心者のために、Twitterに集う宇宙開発愛好家が、注意事項をまとめている。また、この手の見学の強者である、しきしま・ふげんさん(「現代萌衛星図鑑」著者)も、見学の注意をまとめている。
 初めて行こうという人は読んでおいたほうがいいだろう。


 特に今年ははやぶさ人気でかなりの人手が予想される。十分な準備(天候にもよるが日除けとボトル飲料と、スニッカーのようなちょっとした食べ物は必要)と、行き帰り(楽をしようと思わずに、JR横浜線・淵野辺駅から歩くのがベストだと思う)の算段をきちんとして赴こう。

 注意事項はいろいろあれど、実際にプロジェクトを動かしている人たちが説明に立つ、得難いイベントだ。節度ある態度で臨めば、一日楽しく有意義な体験ができると思う。

 そして大切なこと。宇宙開発も、宇宙科学も、太陽系探査も、どれも今年だけで終わるものではありません。私たちの知的好奇心が続く限り、ずっと進展していくものです。もしも今年、はやぶさに興味を持って一般公開に行き、「ああ、面白かった」と思えたならば、ずっと興味を持って見ていきましょう。来年の、再来年の一般公開にも足を運びましょう、
 宇宙への道のりに終わりはないのですから。

 楽しんできて下さい。

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2010.07.26

推進部会第2回会合・野口飛行士の菅首相表敬訪問

 本日、宇宙開発委員会・推進部会第2回会合が開催された。私は傍聴に行けなかったので詳細はまだ把握していないが、大塚実さんが傍聴に行って、一部資料を自分の日記に掲載している。大塚さんは部会の雰囲気を一部Twitterに流している。

 追記:推進部会を傍聴した@nikoさんと、がじゅまるんさんが、コメント欄に会合の様子を投稿してくれている。どうもご苦労様です。配布資料はネットにアップして大丈夫です。あの場で配った時点で公開資料となっています。


 推進部会第1回の資料も宇宙開発委員会のページに掲載された。


 かなりの量の資料が公開された。はやぶさ2、イプシロンロケットともに興味があるなら必読。次回の推進部会は8月5日(木)の10:00〜12:00に開催される。議論の集約が行われる模様。

 オンライン報道は今のところ、日経のみ。


 ただ、これは今日の推進部会の内容というよりも、今日宇宙開発委員会のページに掲載された前回の資料を読んで書いた記事のように思える。日経はオンライン有料化を進めており、無料版に出ている情報を絞ってはいるのだけれど。

 本日は、野口聡一宇宙飛行士が、菅直人首相を表敬訪問した。その場でもはやぶさの話題がでた模様。


首相表敬訪問が終了。はやぶさから日本の有人ロケットの話題まで、いろいろお話しさせて頂きました。

 報道によれば菅首相は宇宙予算について、特に積極的な発言はしなかったらしい。

 同席した宇宙航空研究開発機構の関係者が宇宙関連予算が減っていると指摘すると、首相は「財政は厳しいが、子どもに夢を与えられるプロジェクトはいい」と述べるにとどめた。 (日経新聞より)

 まあなあ、宇宙関係に無駄がないかといえば全然そんなことはないからなあ。

 ただし、首相として、「政治が宇宙関係のやることばかりを増やす(ISSに情報収集衛星、両方とも自民党政権の置き土産ではあるが)一方で、予算を増やしていないどころか削っている」という、これまでの経緯は把握しておいて欲しいところ。この問題の解決は政治にしかできない。

追記:NHKは日経と同じ語句を全く逆に解釈して報道している。

「私も小さいころは、ロケットを造ったりロケットに乗ったりしたいと思っていた」と述べ、宇宙への憧れを語りました。そのうえで菅総理大臣は「国の財政事情が厳しいという問題はあるが、宇宙プロジェクトは子どもたちや、将来に夢を与えることができる」と述べ、厳しい財政事情の中でも政府として宇宙開発に最大限の支援を行う考えを示しました。(NHKニュースより)

 さて、どちらが正しい解釈なのか。

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2010.07.16

推進部会が開催される

 本日7月16日午前中に、はやぶさ2開発研究入りと、イプシロンロケット開発入りを審議する、宇宙開発委員会・推進部会が開催された。
 残念ながら私は傍聴に行けなかった。先回りして書いておくと、来週火曜日のはやぶさ再突入カプセル・キュレーションの定例記者会見も別途用事があって出席できない。可能な限りはやぶさ関連の会見は追っていくつもりではあるが、身は一つしかないので致し方ない。

 報道によれば、今日の推進部会では、はやぶさ2の詳細が提出されたようだ。報道は主にコストについて伝えている。

 どの報道も基本は同じ内容。はやぶさ2予算として、本体148億円に運用などで16億円、合計164億円という数字が出てきたという内容だ。一部ではH-IIAロケットを使った打ち上げ費用100億円という数字も出ている。昨日の毎日新聞報道が打ち上げも含めて約270億円いう数字は大枠で正しかったようだ。ついでに三菱重工業が公開していないH-IIA打ち上げ経費も、本体製造と打ち上げ運用経費込みでおよそ100億円ということも見えた。

 推進部会はあと2回、この議題で開催されるとのこと。

 昨日も書いたが、はやぶさの127億円に対して21億円増というのは妥当なところだ。同型機とは言え、開発開始からは13年が経っており、もはや製造していない部品も多い。欠品の出る部位は今の部品を使ってもう一度組み直すしかない。そもそも、2003年の打ち上げ時点でも、あのすべてが初物づくしだった機体を127億で作れたことのほうが奇跡に近い。
 打ち上げ経費はM-Vを使えば64億円だったわけだが、このあたりは廃止した文科省はどう考えているのだろうか。また、打ち上げ能力はかなり余るはずなので、実現した場合はどんな相乗りになるかも興味深い。

 報道の中では朝日だけが政治側の動きについて報じている。

 川端達夫文科相は同日、はやぶさ2の開発について「政府全体の宇宙方針にかかわること」として、仙谷由人官房長官と前原誠司宇宙開発担当相(国交相)に宇宙開発戦略本部での検討を要請したことを明らかにした。


 現在、霞が関では宇宙庁設立を巡り、内閣府と文部科学省が宇宙関連の管轄がどちらが取るかで綱引きを繰り広げている。文部科学省が、宇宙開発の権限を根こそぎ内閣府に持って行かれる事に対して抵抗しているわけだが、実は宇宙庁設立となった場合の妥協案として「学術の性格が強い宇宙科学は文科省に残す」というプランが浮かんでは消えを繰り返している。
 ここで問題なのは「太陽系探査は学術なのか」ということ。X線や赤外線、太陽観測、磁気圏観測などの衛星は、そのまま国立天文台と合併できるだろうが、では探査はどうか。

 はやぶさやはやぶさ2は、JAXA月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の管轄だ。JSPECが発足した理由は、アメリカが有人月探査計画を言い出したために、探査が単なる宇宙科学というよりも、国際宇宙ステーション(ISS)のような巨額の予算を使う大規模プロジェクトになる可能性が出てきたためだった。その後、今年念頭のオバマ新宇宙政策により、有人月探査は中止ということになったが、現在米議会で行われている議論では、オバマ新政策への不満と反発が、議会側から吹き出している。アメリカの状況が落ち着くにはもう少しかかりそうだ。

 文科省としては、まだわずかながら巨大公共投資に化ける可能性を残している探査も自分の懐に残したいところだろう。もっと言えば、国民的反響が続いているはやぶさ関係を、自分の管轄で押さえておきたいところだろう。

 川端文科大臣のオリジナル発言を聞く限り、はやぶさ2について前原宇宙担当大臣と仙谷官房長官に、はやぶさ2についてそちらでも考えてくれと話した、ということだけである。とはいえ、それぞれ政治家の間の会話にはやぶさ2が出てきたということは大きな意味を持つ(なにしろ今までそんなことはなかったのだ)。そして、そこには官僚側の思惑も被さっているのだろう。


 ナチスを利用してV-2を作ったフォン・ブラウン以来、宇宙開発を引っ張ってきたのは政治に利用されるふりをして政治を利用したパイオニアたちだった。
 なにがあっても恐れる必要はないと、私は思っている。新たな計画が実施できれば、そのことにこそ意味がある。

「……研究に必要なら、悪魔からだって金をふんだくって突進する。“悪魔に負けなきゃいい”という信念だ。」(小松左京「日本沈没」より。幸長助教授による田所博士評。小学館文庫版上巻p.168)

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2010.07.14

開発研究(フェーズB)と開発(フェーズC)

 本日の宇宙開発委員会を傍聴してきた。話題の中心は、M-Vロケットの実質的後継ロケットのイプシロンの開発入りと、はやぶさ2の開発研究入り。委員会の冒頭では、イカロスのこれまでの成果の報告もあった。

 使用された資料はJAXAのホームページで公開されている。

 はやぶさ2は一歩前進だが、まだまだ崖っぷちの状況が続いている。来年4月から開発を始めないととてもではないが打ち上げが間に合わないが、今回は「開発研究段階への移行できる状況になったので、宇宙開発委員会で審議してもらいたい」ということなのだ。一方、イプシロンロケットは「開発段階へ移行できる状況になったので、審議してもらいたい」である。

 開発研究とか開発といった紛らわしい用語は、計画の各段階を示すもの。遡れば米航空宇宙局(NASA)が計画管理に使っていた「フェーズA〜D」という用語を日本語化したものだ。

  • フェーズA「研究(あるいは概念検討)」:新しい宇宙機やロケットをどんなものにするかのコンセプトの検討を行う
  • フェースB「開発研究」:コンセプトから一歩踏み込んで、設計作業を実施してより現実的に実現可能性を探る。一部新期技術は先行開発を行ったりもする。
  • フェーズC「開発」:実機の設計と製造
  • フェーズD「運用」:実機の運用

 今回はイプシロンが、「実物の開発に入るよ」という段階に来た。いっぽう、はやぶさ2は、まだ「開発」段階にまで至っていない。その一歩手前のステップアップである。

 今回の審議の中で明らかになったが、目標とする小惑星1999JU3に対するはやぶさ2の打ち上げウインドウは2014年7月。ロケットの打ち上げ能力が十分にある場合は、地球スイングバイを省略可能で、この場合は2015年(おそらくは7月)に打ち上げることができる。

 だいたい探査機は実機組み立てに1年、その後の試験に1年、射場作業にまあ4〜6ヶ月はみておくのが普通だ。これだけで2年半。2014年7月打ち上げとなると。2011年度初頭から開発を開始したとしても、3年半しかない。設計や製造、試験でトラブルが出ると、簡単に数ヶ月の時間が吹っ飛ぶ。本当にぎりぎりだ。
 それでいて、今日の議題は、「開発への移行」ではなく、「開発研究への移行」なのである。

 今年度内にもう一回ネジを巻いて、「開発開始」への手順を踏むことができるかどうか。今回の説明に出席していたJSPECの長谷川義幸統括リーダは、記者に対して何度も「ぎりぎりです」と繰り返していた。

 今日の委員会審議でもっとも興味深かった点は、青江茂委員が、はやぶさ2は理学ミッションで押すのではなく、技術開発要素のある工学的技術開発の部分も前に出すべきでは、と示唆していたことだろう。以下、その場で取った審議内容のメモより。説明に立ったのは吉川真准教授と長谷川統括リーダ。



井上委員
 海外の動向は?

吉川
 アメリカ、ニューフロンティアという枠でオシリスという探査機が提案されている。打ち上げは2018ぐらい。

井上委員
 技術基盤を作るのは大事。深宇宙港構想(資料中に関連が記述してあった)とはやぶさ2との関係は何か。

吉川
 地球帰還後に、探査機の本体を地球スイングバイをしてラグランジュ点を狙う。

青江委員
 整理の仕方、説明の仕方の問題だが、「期待できる成果」で、科学の成果が資料の4.5.7ページに書いてあるが、すべて方法論だ。方法論で区分けしてある。そういう整理がいいのか、サイエンスとして「生命の起源に迫る」「太陽系の生成に迫る」というような区分けで整理をするのがいいのか、何を狙うかで整理するのとどっちが分かりやすいか考えてもらいたい。普通の人に分かりやすいような整理方法を検討してもらいたい。

池上委員
 水について。C型小惑星に水が存在するのか。

吉川
 含水鉱物である。飲めるものではないない。

青江委員
 月の水も同じなのかな。

長谷川
 月の場合は水酸基があるということで、じゃばじゃばあるわけではない。

池上委員
 打ち上げウインドウはどうなっているか。

吉川
 2014年7月。ロケット能力があればスイングバイなしで2015年打ち上げ。次は2019年だが到着後の条件が良くない。同じ条件を狙うならさらにその次ということになる。

池上委員
 はやぶさ1から、必要な技術は修得できたと言えるのか。

吉川
 うまくいったところを確実性を高め、うまくいかなったところはうまく行くように設計を見直す。

長谷川
 はやぶさ1はロバスト性が完全ではない。太陽系往復飛行の技術として現状確立したかというと、まだ完全ではない。まだもう一息成熟させる必要がある。はやぶさ2は、まだ技術を確立する過程。

青江委員
 吉川さんの説明だと、サイエンスを強調していたけれども、そんなにサイエンスを強調しないでも、もっとはやぶさ1の技術をよりちゃんとしたものにするとういうことなのか。

長谷川
 だから、プレゼン試料は方法論で分けて書いている。

青江委員
 サイエンスのほうをかなり全面に出した説明をしているけれど、サンプルを持って帰ってくるテクノロジーをきちんとしたものにする、ということを完全にパラレルに説明してもいいかなと思う。そちら方向でも検討してもらえればと思う。

吉川
 我々もそのように考えている。

池上委員
 大きな探査という流れの中の位置付けもできるといいな、と思う。サイエンスだけではなくエクスポラレーションで位置づけるということ。サイエンスだけで押していくと、サイエンスの側はやりたいことがいっぱいあるのでフラストレーションを感じてしまうかもしれない。

松尾浩道研究開発局参事官
 今回は開発ではなく、開発研究への移行である。ただし開発フェーズ移行で審議すべきことも可能な限り審査する。

 実は、はやぶさ2に関して科学者の側から、「理学ミッションとして実施するには、危険性が大きい。もっと確実な構成にすべき」という声が出ている。青江委員の発言は、「では、より工学ミッションの要素を押し出して開発フェーズ入りすべきでは」という、霞が関の中での筋の通し方を示唆したものだといえる。同委員は、1970年代から科技庁で宇宙行政に携わってきた筋金入りの官僚出身者だ。その示唆は、現状と照らし合わせると興味深い。

 今回驚いたこと。

 はやぶさ2の審議の後も、宇宙開発委員会は別の議題の審議が続いたのだが、終わって、吉川准教授と長谷川リーダが退席した途端、傍聴していた記者達が我先に退席して後を追い、文科省の廊下で臨時のぶら下がり取材となった。
 今まで傍聴していて、委員会途中で一気に記者が退席するのを見たことがない。現在の一般の興味がどこにあるかが、こんなにはっきりと形になるのを初めて見た。

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2010.07.11

ロゼッタのルテティア観測成功、探査機による小惑星観測の歴史

 一夜開けると、ロゼッタによる小惑星ルテティアの接近観測は成功しており、鮮明な画像がESAのホームページで公開された。

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Photo by ESA

 素人ならば「へえっ」で終わってしまうような画像から、科学者は呆れるほど大量の情報を読み取る。これからが楽しみである。
 すでに、ここにも時折コメントを書いている会津大学の平田成さんによるTwitterのつぶやきが 小惑星ルテティアについてという形で、まとまっている。SF作家の野尻抱介さん、林譲治さん、サイエンスライターの鹿野司さんなどが、画像を見ながら、平田さんと意見を交換している。

 データ公開の素早さは、今後日本も見習わねばならないところだろう。2005年11月のはやぶさによるイトカワへのタッチダウンの時は、初めてのこと故ではあったのだが、データ公開ポリシーが混乱し、一般が見たいと思う画像がなかなか公開されないということもあった(このあたりの過去記事を参照のこと)。現在金星に向かっている探査機「あかつき」では、手際よく、一般をうならせるようが画像が出てくることを期待している。

 今回のロゼッタのような、小惑星の近傍を通過するフライバイ観測は、過去にも何回か行われている。昨日書いたティティウス・ボーデの法則のn=3の位置、太陽から2.8天文単位の近辺には多数の小惑星が存在して、小惑星帯、メインベルトと呼ばれる密集領域を形成している。密集といっても、広大な太陽系の中に小さな小惑星が浮かんでいるだけだから、実際にはすかすかだ。スターウォーズ「帝国の逆襲」に見るような、ごんごん岩の塊が飛んでくるようなイメージは間違いである。

 メインベルトは火星と木星の軌道の中間にある。だから、火星を超えて木星の向こうまで向かう探査機は、軌道をうまく調整することができれば、小惑星の近くを通過し、観測を実施できる。

 外惑星方向を目指した最初の4機の探査機。アメリカの、パイオニア10号/11号、そしてヴォイジャー1号/2号は、小惑星フライバイ観測を行わなかった。その事情を私は知らないが、おそらくは最初の外惑星観測ミッションだったので、惑星観測を最優先にして失敗にもつながりかねない余計なことをしなかったのだろう。

 というわけで、最初の小惑星フライバイ観測の栄誉は、アメリカが木星に向けて打ち上げた探査機ガリレオのものとなった。

 2機のボイジャー探査機が、木星やら土星やらの惑星にフライバイ観測を行った。ならば次は惑星を回って長期間観測を実施する探査機だ——というわけで、ガリレオは木星を周回しつつ、木星本体と周囲の衛星を観測する探査機として開発された。最初の打ち上げ予定は1986年で、1989年に木星に着く予定だった。  ところが1986年1月28日にシャトル「チャレンジャー」爆発事故が起きて、打ち上げにシャトルを使うはずだったガリレオは事故に思いきり振りまわされてしまう。そのあたりの経緯は、拙著「スペースシャトルの落日」に書いたので興味のある方はどうぞ(と、宣伝)。
 ともあれ、1989年10月18日にスペースシャトル「アトランティス」で打ち上げられたガリレオは、1991年10月29日、小惑星ガスプラから1600kmのところを通過し、史上初の小惑星へのフライバイ観測を行った。

 さらにガリレオは、1993年8月28日には小惑星イダから1万500kmのところを通過して観測。イダは差し渡し60kmほどのでこぼこのじゃがいも形状をしていたが、なんと差し渡し約1.6kmの衛星を持っていることを発見した。小惑星を回る衛星が見つかったのはこれが初めてで、見つかった衛星はダクティルと命名された。
 なお、ガリレオは1995年に木星に到達し、8年間、木星の周囲を回って木星本体及びその衛星を観測した。2003年に軌道制御用推進剤が尽きたので、木星本体に落下させ、運用を終了している。

 次が、同じくアメリカの小惑星探査機NEARシューメーカー(1996年打ち上げ)だった。この探査機、当初は「NEAR (Near Earth Asteroid Rendezvous」という名前だったのだが、打ち上げ後の1997年に計画の中心人物だったユージン・シューメーカー博士が交通事故死したことを受けて、計画終了後に「NEARシューメーカー」と改名された。
 NEARシューメーカーの目的地は小惑星エロスだったが、それに先だって、1997年6月27日に小惑星マティルドから2400kmの距離を通過し、フライバイ観測を行った。
 同探査機は2000年2月14日、小惑星エロスの周回軌道に入ることに成功し、小惑星とランデブーした史上初の探査機となった。その後1年間の観測の後、2001年2月28日にエロスへ着陸し、ミッションを締めくくった。

 次に外惑星方向に向かった探査機は、アメリカの土星探査機カッシーニ(1997年打ち上げ)だ。しかしカッシーニは大規模な小惑星フライバイは行わなかった。2000年1月23日に小惑星マサースキーを160万kmの距離から撮影しただけである。

 冥王星に向かったアメリカの探査機ニュー・ホライズンズ(2006年打ち上げ)も小惑星を観測している。同探査機は2015年に冥王星をフライバイ観測する予定で、2010年7月現在、天王星軌道のやや内側を、太陽系外に向けて飛行している。ニュー・ホライズンズはまず、2006年6月13日に、小惑星APLに10万1867kmまで接近してフライバイ観測した。APLというのは奇妙な名前だが。ニューホライズンスの開発と運用を担当するジョンズ・ホプキンス大学・応用物理研究所(Applied Physics Laboratory:APL)の名前にちなんだものだ。

 カッシーニとニュー・ホライズンズの間に、我らがはやぶさのイトカワ探査が挟まる。2005年9月12日に小惑星イトカワから20kmのポジションに到達、約2ヶ月探査を行い、11月にイトカワに降下してサンプル採取に挑んだ。11月20日の第1回のサンプル採取で、はやぶさはイトカワに着陸後、また上昇し、月以外の天体に着陸し、また上昇した世界初の探査機となった。その後今年6月13日の地球帰還までの旅路については皆さんも知っての通りである。

 そして、ロゼッタだ。ロゼッタは、2008年9月5日に小惑星シュテインスに1700kmまで接近してフライバイ観測を実施した。2番目の、そして最後のフライバイ観測が、今回のルテティアである。

 まとめよう。これまでに人類が接近観測した小惑星は以下の通りである(観測順)。小惑星名にはWikipediaへのリンクをつけた。

  1. ガスプラ(ガリレオによるフライバイ観測:1991年)
  2. イダ/ダクティル(ガリレオによるフライバイ観測:1993年)
  3. マティルド(NEARシューメーカーによるフライバイ観測:1997年)
  4. マサースキー(カッシーニによる遠距離フライバイ観測:2000年)
  5. エロス(NEARシューメーカーによるランデブー観測:2000〜2001年)
  6. イトカワ(はやぶさによるランデブー観測:2005年)
  7. APL(ニュー・ホライズンズによる遠距離フライバイ観測:2006年)
  8. シュテインス(ロゼッタによるフライバイ観測:2008年)
  9. ルテティア(ロゼッタによるフライバイ観測:2010年)

 ここまでで9個。接近観測に限ると7個(イダの衛星ダクティルを数に入れると8個)。ランデブーによる詳細観測を行ったのはエロスとイトカワのみだ。数十万個もの小惑星があることを考えると、ごくごく一部である。

 今後の予定だが、現在アメリカの小惑星探査機ドーン(2007年打ち上げ)が、小惑星ベスタを目指して飛行を続けている。ドーンは、はやぶさ同様イオンエンジンを使って飛行している。はやぶさが往復飛行のために“高効率”のイオンエンジンを使ったのに対して、ドーンは、小惑星帯のベスタとケレスという軌道の異なる大型の小惑星2つに連続してランデブー観測をかけるために、イオンエンジンを採用した。
 ドーンは来年、2011年8月11日にベスタとランデブーし、翌12年5月まで観測を行う。12年5月にベスタを出発して、2015年2月にセレスにランデブー、同年7月まで詳細観測を実施する。その後、推進剤や機材の寿命に余裕があれば、ドーンをさらなる観測対象に向かわせることが検討されている。


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2010.07.10

もうすぐ、欧州の探査機ロゼッタが小惑星ルテティアに接近観測

 さて、ここでイベントのお知らせ。
 欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた彗星探査機ロゼッタが、もうすぐ小惑星ルテティアから3162kmのところをフライバイする。最接近時刻は中央欧州時刻CESTで7月10日の午後6時10分。CEST(要するにパリ時間だ)は、現在サマータイム中なので時差7時間で、 7月11日午前1時10分である。
 最接近後1時間ほどで、画像がダウンロードできるようだ。明朝には小惑星ルテティアの史上初の画像が、ネットで公開されていることだろう。

 昨今は、ストリーミングという便利なものを誰でも使えるようになり、ハンドル名Semyorka さんが、ニコ生で日本語による解説をつけつつ、最接近の中継を行っている。


 ロゼッタは、2004年に打ち上げられた彗星探査機で、2014年にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星彗星にランデブーし、着陸機を降ろして観測を行う予定だ。今回はその往路の途中で、小惑星ルテティアの近傍を通り過ぎつつ観測を行うというもの。ロゼッタは2008年9月にも小惑星シュテインスの近傍を通り過ぎて接近観測を行っている。

 ルテティアは1851年にドイツのゴルトシュミットによって発見された小惑星。21番目というかなり早い時期に見つかった小惑星で、120×100×80kmのジャガイモ型をしていると推定されている。地上からの観測では、金属主体のM型小惑星らしいことが分かっているが、これには「実は炭素があるC型小惑星じゃないのか」という異論もあるようだ。M型ならば、史上初のM型小惑星への近接観測ということになる。

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2010.07.05

微粒子など持ち帰った物質を確認、イトカワ由来かどうかはまだ不明

 本日朝、朝日新聞やNHKなどで「はやぶさの持ち帰った物質が確認された」というニュースが流れた。これはスクープだったようだ。本日午後の記者会見で、JAXAははやぶさが何かの物質を持ち帰っていたことが正式に公表した。
 はやぶさのサンプルは、A室・B室の2つのサンプル室を持つサンプル・キャッチャーの中に格納されているはずだ。サンプル・キャッチャーはサンプル・コンテナという容器に密閉格納され、さらにサンプル・コンテナごと再突入カプセルに収められて帰還した。
 7月5日時点の現状は、サンプルコンテナは、内部を真空に保ったキュレーション設備に収められ、コンテナの蓋を開け、サンプル・キャッチャーを取り出し、A室の蓋を開けたところ。

 現状で見つかっているのは、A室内から、10μmほどの大きさの微粒子が2つ。そして、サンプルコンテナ内に、なんらかの目視できる物質が10個ほどだ。
 サンプル・キャッチャーは、サンプラーホーンを通って入ってきたサンプルを、A室とB室に導くための回転筒の切り替え機構を持つ。切り替え機構は、万が一にもサンプルが噛み込まないようにゆるくつくってあり、そこからサンプルがサンプルコンテナ内にこぼれることはあり得る。
 しかし、向井参与は記者会見で、サンプルコンテナ内の物質について「おそらく地球由来の物質ではないか」とコメントした。


Img_0311
 記者に対して説明を行う向井技術参与(左)と、川口プロマネ(右)


2010年7月5日午後3時からの記者会見 JAXA東京事務所にて

出席者

上野宗孝 ミッション機器系グループ 副グループ長
川口淳一郎プロジェクト・マネージャー
向井利典技術参与

 一足先に正面に出てきた向井参与「資料はまだ配っとらんの?」広報「3時になったら公開の予定ですので…」この時、午後2時58分…

 3時ちょうど、川口プロマネ到着。同時に資料配付。

川口
 私、資料持ってないんですが…(笑)。6/24からコンテナ開封作業を始め、内部の本格的点検を開始した。6/24の記者会見で、何が見つかってもまだどこ起源だったかは分からないと申し上げた。現在キャッチャーのA室を開けているところで、B室はまだ開けていない。
 今日の発表は、コンテナ内にサンプルと思われるものが確認されたということである。

向井
 配布写真の説明。上の写真。マニピュレーター先端に黒い点が見える。下の写真はコンテナ内を撮影したもので肉眼で見て分かる粒が入っている。まあ、これは地球由来のダストではないかと自分は思っている(笑)。

上野
 今現在、サンプルキャッチャーのA室の中をのぞき込める状態になっている。下の写真はサンプルコンテナの底の部分。

Img0705_002
 微粒子をマニピュレーター先端、石英の針で確認しているところ。背景の筋模様は、サンプルキャッチャー壁面の金属加工跡。キュレーション設備附属の100倍光学顕微鏡で撮影。写真提供:JAXA


Img0705_001
 サンプルコンテナ内部を、キュレーション設備の窓からのぞき込んだところ。内部になにか目に見えるサイズの物質が落ちていることが分かる。写真提供:JAXA


ここから質疑応答

毎日新聞
 複数のサンプルらしきものが確認されたということだが、肉眼で見えるものがいくつ、顕微鏡サイズがいくつといえる段階だろうか。

向井
 まあ見え方、数え方によりますが、肉眼で見えるのは下の写真の通りで10個ぐらいでしょうか。キュレーション設備は100倍の光学顕微鏡を備えている。顕微鏡サイズのものは今のところ2つ見つかっている。帯電させた石英の針を近づけていって、静電気で動くのが粒子、動かないのはキャッチャー壁面の傷という判別方法で、微粒子を探している。

日経新聞
 顕微鏡写真に写った微粒子はどの程度の大きさか。肉眼で見えているのはどの程度の大きさか。サンプルは、サンプル・キャッチャーのみ入るのではなかったのか。

向井
 顕微鏡写真のほうはまあ10μm程度です。サンプルコンテナ内の目に見えるものは同じ写真に写っているM3のボルトと比較するとほぼ1mmぐらいだろうか。

川口
 サンプルキャッチャーからサンプラーホーンを引き抜いた時に、こぼれてサンプルがコンテナの中に入りうる。サンプルキャッチャー以外のところに入る可能性はゼロではないです。

日本放送
 粒子の形状はまだわかっていないのか。

向井
 今出している写真が最高の倍率で撮影したもので、これ以上の情報はまだない。

東京新聞
 微粒子2つということだが、事前にはもう少し入っていると予想していたのか。微粒子サイズとの比較のために、マニピュレーターの針先端の丸みを知りたい。

向井
 数の予想は難しい。きちんと予想を立てたわけではないし、まだ見つかるかも知れない。現在見つかっているのがすべてではないのは明らか。数からすれば、私がある仮定ををおいて試算した結果では、地球由来のものが最低でも100個はあるという結果になる。

上野
 先端のまるみは1μm以下。写真には写っていません。

共同通信
 A室というのは1回目のタッチダウンか2回目か。

川口
 2回目です。

共同通信 
 A室を精査してからB室に移るのか。

上野
 そうだ。

共同通信
 微粒子を採取したといっていいか。

向井
 カタログ化したという意味ではまだ「採取した」とは言えない。丸い曲率を持つサンプルキャッチャーの壁面に光学顕微鏡のピントを合わせるのはとても大変。このため、調べる方法も試行錯誤する必要があるだろう。

朝日新聞 
 サンプルキャッチャー内のどの程度の範囲を調べて微粒子2個だったのか。また肉眼で見える「地上由来と思われる粒子」は実際には何の可能性があるのか。

向井
 まだサンプルキャッチャー内のごく一部を見ただけである。

朝日新聞 
 当初刷毛で掻き出すということも言っていたが。

向井 
 ざっくざっく入っておったらね。そうするつもりでした。今後は(刷毛を使った操作を)やるかも知れない。衛星組み立てクリーンルームの清浄度はクラス10万。1立方インチに微粒子10万個というもの。打ち上げ直前のロケット衛星フェアリング内は清浄空気を循環させるがこの空気もクラス10万。一方、打ち上げ時に衛星を覆っていたフェアリングはクリーンルームではない通常の環境で組み立てているので内面になにかがついていた可能性はある。

朝日新聞 
 写真を見ると、肉眼で見える物質はかなり大きいが、そんな大きなものがクリーンルーム内に存在しうるのか。

向井
 フェアリングが宇宙で開く時、ぱっとダストが飛び散る。それなりの大きさのものがあるかもしれない。

毎日新聞
 なにか地球由来とする積極的理由でもあるのか。

向井
 コスミックダストの研究者が、高空で航空機を使って採集したコスミックダストとはちょっとちがうね、と言っている。

上野
 可能性があるとはいえ、キャッチャーからコンテナ内にこぼれる可能性は低い

日本テレビ 
 今は地球由来・イトカワ由来どちらともいえないということなのだろうか。

向井
 今は断定できない。ただ、「ちょっとコスミックダストとは違うね」という…まあ感触ですね…それがあります。

読売新聞 
 今後の予定は。

向井
 最終的には回収できたサンプルはすべて分析にかけられる。
 打ち上げ前の想定では、まず代表的なサンプルの初期分析を行う。使う量はサンプルの10%ほど。次にNASAに10%を渡す。40%は国際的に公募して分析する。残りは将来の技術進歩のために保管する。…とまあこのように考えていた。
 しかし実際にはB室の中も見て、全体の量にもよるが、そのうちのいくぶんかを初期分析に回す。全体でどれだけの量が採取できるかによるな。これは世界中の科学者の分析意欲をそそるサンプルであることを証明するため。

読売新聞
 まだ分からない部分がたくさんあるとは思うが、微粒子が見つかったことで現状をどう受け止めているか。思いをきかせてもらいたい。

川口
 何はともあれからっぽでなかったことは大変重要。空っぽでなかったということはイトカワ由来の物質である可能性を残したということで素直に喜びたい。一喜一憂する事じゃないです。予断を持っては行けないし、過剰な期待もしてはいけない。きちんと分析していかねばと思う。

毎日新聞
 今見えているものから地球由来のものを排除するスクリーニングにはどれぐらいの期間がかかるのか。

向井 
 先ほど申し上げたように、なかなか数字を出すのは難しいですが、皆待っているので何年も時間をかけることはできないだろう。しかし一ヶ月そこらで結果がさっとでるかというと…まあ二、三ヶ月でしょうか。もしも宇宙物質があれば大変大きな意味があるので、慎重にやらなくてはいけない。


フリーランス青木
 前回発表があった採取ガスの分析は進んでいるのか。今回見つかった物質について、イトカワではなく宇宙空間を航行中に物質が入り込んだ可能性はないか。はやぶさは途中推進剤漏れを起こしているが、推進剤由来の物質である可能性はないか。また、比較用の内之浦の標本の分析は進んでいるのか。

向井 
 ガス分析はまだだ。惑星間空間のダストは排除できないが確率は非常に低い。推進剤漏れ由来の物質という可能性はまずないと思う。内之浦のダスト標本は分析している。

青木
 今日写真の出てきたサンプルは、まだ地上のダストとの比較はしていないのか。

向井
 していない。

青木
 内之浦のダスト標本は何種類ぐらい分析しているのか。

向井
 手元に資料はないけれども、確か10種類ぐらい。はやぶさは5月打ち上げで、風向からして内之浦に桜島の火山灰が到達している可能性は低いのだが、念のため分析している。

NHK
 初期分析に回ったサンプルは、イトカワ由来の確度の高いものを選び出すのか。

向井
 そうしたいところだが、初期分析とはすなわちイトカワ由来かどうかを調べる作業でもあるわけです。事前の電子顕微鏡観察で、ある程度イトカワ由来かどうかの確度を上げることはできるだろう。しかし電子顕微鏡は電子でスキャンするので、サンプルを変質させる恐れがある。今、サンプルに影響を及ぼさない電子顕微鏡観察のパラメーターを模索している。
 まあ初期分析には80%ぐらいはイトカワからかなあというサンプルを選びたい。この80%というのは私の感触で、数字が一人歩きするとまずい。明らかに地球由来だと分かるものは初期分析には回さないということです。

日本放送
 これまでの作業ペースから見て、作業は順調なのか。サンプルのパターンは何種類ぐらいなのか。今の作業を登山にたとえると何合目ぐらいか。

向井
 作業はおおむね予定通り。粒子か壁面の傷かということの区別はかなり大変。地上のサンプルパターンは手元に資料がないので…だいたい10種類ぐらいでしたか。走査電子顕微鏡にかけることは1日10個ぐらいのサンプルを調べることはできるとは思う。山でたとえればまだまだふもとです。

川口
 人によって感触の数字は違うと思うが、顕微鏡で微粒子を探すのは非常に大変な作業です。この10日間に2個しか見つかったわけですから、例えば40個のサンプルが見つかるとして、かかる時間は200日ということになる。それらを全部分析するとなるとさらに大変だ。
 最初に見つかったサンプルがイトカワ由来のものの可能性が高いかどうかは全く分からない。だから最初にサンプルを可能な限り沢山カタログ化してイトカワ由来の物を選ぶ確率を高めるわけだ。

産経
サンプルキャッチャー内で見つかった微粒子が2個ということか。

向井
そうだ。

青木
 カプセルと閉じるまで大分時間が経っていたがその間になにかが入った可能性がないか。

川口
 ずっと後で閉じたのは再突入カプセル。サンプルキャッチャーはサンプル採取後1日程度で閉めている。サンプルキャッチャーの回転筒はきっちり気密がとれているわけではない、大量にサンプルが採取できた場合、サンプルがかみこまないようにわざと回転筒はゆるく作ってある。

不明
初期分析に移れるのは8月以降ということだが、その通りか。

向井 
 A室がこんな現状で、まだまだ調べねばならないので、8月に初期分析開始というのは自分としては考えられない。9月末か10月の頭に初期分析に入れないとさすがに具合が悪いかと思っている。一部採取できたものを先行分析するかも知れない。重要なことは地球由来の物質であろうと宇宙由来であろうと、なくさないこと。それを一番気にしている。

毎日新聞
 もしもイトカワ由来のものが入っているとしたら、どこに入っている可能性が高いのか。

川口
 難しいですねえ。お答えできません。どこでも入っていて欲しいです。

朝日新聞
 B室を空けるのはいつごろになるか。

向井
 見通しはありません。

東京新聞
 確認ができるのは初期分析の後なのか。

向井
 電子顕微鏡観察で、多少はイトカワ由来の可能性が高いものを選ぶことができるだろうけれども、完全な確認には同位体分析までやらねばわからないので…もし確認できたら論文を出さねばならないので、論文掲載と同時にJAXA/NASA同時発表ということになると思う。早ければ、今年の後半といったところかな。

以上です。

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