野田佳彦首相の事務所に、はやぶさ2予算に関して嘆願書を送った。
文章は以下の通り。
内閣総理大臣
野田佳彦さま
小惑星探査機「はやぶさ2」
平成24年度予算案における予算大幅圧縮に関する嘆願
松浦晋也
科学技術ジャーナリスト/ノンフィクション・ライター
私は、主に宇宙関連分野で文章を発表して生計を立てている者です。3年程前に、民主党本部でGXロケットと宇宙基本法関連のレクチャーが開催された際に、講師として招かれ、その席で野田さまとお会いしております。このような嘆願書を送ることをお許し下さい。
この嘆願は、小惑星探査機「はやぶさ2」の平成24年度予算「日本再生重点化処置」について、特段の配慮を願うものです。
初代はやぶさについてはご存知のことと思います。平成15年(2003年)に打ち上げられた日本初の小惑星探査機です。プロジェクト・マネージャーである川口淳一郎JAXA教授の指揮のもと、平成17年(2005年)に小惑星イトカワの探査を実施し、平成22年(2010年)6月にイトカワの岩石サンプルを地球に持ち帰ることに成功しました。はやぶさ2は、その後継機で平成26年度(2014年度)の打ち上げ、小惑星1999JU3を探査し、平成32年(2020年)地球帰還を予定しています。はやぶさの成果を引き継ぎ、さらなる科学的成果と、宇宙及び地球に関する人類の知的資産の蓄積を、日本自らの手によって目指す計画です。
平成24年度予算要求において、はやぶさ2は文部科学省から「日本再生重点化処置」で73億円を要求しています。探査機の製造には数年がかかります。平成26年度打ち上げのためには、満額執行が不可欠です。
しかるに、12月6日の第三回政府・与党会議において、はやぶさ2の来年度予算の圧縮が了承されました。
予算が圧縮され、平成26年打ち上げを逃せば、計画は実質中止に追い込まれます。それは、日本の宇宙事業が諸外国より相対的に少ない予算の中で、長い時間をかけてやっと一つ達成した世界的アドバンテージが無に帰することを意味します。
地球から目的地の1999JU3という小惑星への打ち上げチャンスは限られていて、次は平成31年(2019年)、その次は平成36年(2024年)です。2019年は到着時の太陽と地球との角度が悪くて、小惑星への着陸リスクが大変に大きくなります。2024年には初代はやぶさに若手として参加した研究者が定年となり、経験の継承と発展はおろか、研究者・技術者集団を維持することすら不可能になります。1999JU3はC型という特殊かつ科学探査の価値が高い小惑星であり、はやぶさ2の能力で行ける範囲に他のC型小惑星は存在しません。
探査機の製造には数年の時間が必要であり、そのためにはメーカーに支払いをしなくてはなりません。平成26年(2014年)打ち上げのためには、平成24年度予算において、73億円の要求を圧縮することなく通すことが必要です。
平成26年打ち上げを維持しないと、はやぶさ2は実質中止になるのです(正確にはH26から27にかけて打ち上げチャンスがあります。年度を跨ぐのですが、星の運行は地上の予算制度など顧慮しませんから、ここではH26と表記しました)。
はやぶさ2が中止になると、昭和62年(1985年)以降、大変な努力の末に世界で初めて日本が達成した「小惑星からのサンプルリターン」という偉業にまつわるもろもろ(技術的蓄積、科学的成果)がすべて途絶し、無に帰します。
日本の成果を知り、その科学的価値を認識したアメリカは今年度からはやぶさと同様の小惑星サンプルを持ち帰る探査機「オシリス・レックス」の開発を開始しました。予算総額ははやぶさ2の3倍です。小惑星サンプル採取と持ち帰りには、それだけの価値があるとアメリカも認識したわけです。オシリス・レックスは2016年(平成28年)打ち上げ、2023年(平成35年)帰還を予定しています。
はやぶさ2は当初は平成22年(2010年)打ち上げを予定していましたが、財政状況その他で実現は4年遅れました。研究者は論文が書けない4年間を耐え、技術者とメーカーは収入の当てがない4年間をしのぎ、はやぶさ2の実現に向けて動いてきました。はやぶさ2には、それだけの価値があるからです。ぎりぎりの努力は今や限界に近づいています。
なによりも、小惑星からの物質サンプル持ち帰りという世界初の試みに挑み、数多の困難に打ち勝って成功を収めた者に対して、国が後継機を実質的な開発打ち切りとすることの、国民心理への影響を憂慮します。はやぶさの帰還カプセルは、全国各地で展示され、老若男女を問わず多くの人々がその偉業に触れました。その中には、はやぶさの飛行に胸弾ませた子供も多くいました。
彼らに「日本という国は、政府自らが、成功する者を罰する国だ」ということを、事実をもって示してしまって良いものでしょうか。多くの子供が「この国では成功すると罰を受ける」と思ってしまえば、日本の未来は閉ざされます。
それは、民主党の第一の理念「透明・公平・公正なルールにもとづく社会をめざします」に逆行する行為ではないでしょうか。
内閣総理大臣としての野田さまの見識を信じ、「日本再生重点化処置」におけるはやぶさ2の平成24年度予算について特段の配慮を賜りたいと強く願うものです。
#追記:勝手ながら同内容を、メール及びファクシミリで送らせて頂きます。
平成23年12月8日
(住所・電話番号・メールアドレス)
送付先は、野田首相のホームページにある。
メールアドレスはすべてのページの一番下に書いてある post@nodayoshi.gr.jp
ファクシミリ番号は後援会である未来クラブのページに書いてある。
紙という実態の重みもあるので、署名を入れたファクシミリも送付した。内容は全く同じで、ファクシミリは、署名などの挿入位置を変えて体裁を整えている。
政治家に嘆願書を送る時の秘訣。
1)政治家は忙しい仕事なので、なるべく短く簡潔に書く。ビジュアルで一発で理解できるようなものが一番良い。ひとつの目安はA4用紙に12〜14ポイントの文字で印字して1枚に収まること。私は文章しか書けない上に、くどい質なのでどうしても長くなって2枚になってしまった。
2)礼節を守り、決して失礼な事や攻撃的なことは書かない。目的はあくまでも自分の主張を相手の心に届けることで、自分の怒りをぶつけることではない。
3)きちんと自分の身分を明かし、それを証明できる住所などを添えること。個人情報の漏洩を心配する必要はない。もしも事務所が個人情報を漏洩したら、昨今の情勢からしてその政治家は失脚する。きちんとした事務所は、個人情報の管理はしっかりしている。ここは相手の事務所の力量を信じるべき局面である。
最後にファクシミリ送付した文面の画像ファイルを掲載する。ファクシミリを通した後も読みやすく要点が一目で分かるように心がけた。
どんなときも最後の最後まで諦めることなく、自分のできる限りのことをする。いうまでもなく、これは初代はやぶさが私たちに教えてくれたことである。


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