10 posts categorized "新型インフルエンザ(H5N1)"

2008.07.13

新型インフルエンザ、7月中旬のまとめ:与党提言出る、感染中断免疫のすすめ

 新型インフルエンザについてのまとめ。6月はサボってしまったが、もちろん脅威が消え去ったわけではない。時間が経った分だけ、新型インフルエンザ発生の確率は上がっている。

 夏の間に、我々ひとりひとりも可能な限りの準備を進め、冬のシーズンに備えなくてはならないと思うのだ。


  いつも通りだが、情報源は以下の通り。
・小樽市保健所の外岡所長による鳥インフルエンザ直近情報
・インドネシア現地情報をまとめたBerita Flu Burung
・笹山登生氏のSasayama’s Weblog
GooglenNewsだ。


●国内の政治、行政はやっとそれなりの動きが出てきた。新型インフルエンザ対策を検討してきた与党プロジェクトチーム6月20日に、パンデミック対策の提言を発表した。

  • パンデミック発生から半年以内に全国民分のワクチンを供給する
  • 鶏卵によるワクチン製造だけではなく、細胞培養法によるワクチン製造能力を国内に導入して製造期間を短縮する
  • ワクチン接種は重症化の恐れの大きい子供を優先する
  • タミフルなど抗ウイルス薬の備蓄を倍増する
  • パンデミック時の医療と物流の両面で自衛隊を活用する

 プレパンデミックワクチンだけではなく、パンデミックワクチンについても言及している。

 とはいえ、これを予算化し、動き出すのは来年度以降ということになる。もちろん今年の補正予算を使って今年度から動くことは可能だが、果たしてそこまで福田政権が踏み込むことができるかどうか。問題の重要性を理解しているかどうか。

 細胞培養法によるワクチン製造も、「海外からの技術導入で、これまで安全保障のために国内で保護されていたワクチン産業が壊滅する」という意見もあるそうで、一筋縄ではいかない。国民が多数死亡する状況になれば、ワクチン産業の生き残りもなにもあったものではないと思うのだが。

●7月10日、厚生労働省の調査委員会は十代のタミフル服用時の異常行動に対して、タミフル服用と異常行動発現の間には因果関係がないとの結論を出した。今後、十代へのタミフル処方原則的禁止が見直される可能性が出てきた。

●横浜市の中田宏市長は、6月28日放送のテレビ番組「WAKE UP・ぷらす」(読売テレビ系)で、「東京で一人でも新型インフルエンザにかかったら、横浜市内でパニックを起こさないように、市営地下鉄を止め、学校は休校にする覚悟でいる」と発言した。

 発言内容は対策を考える上で当然の事だ。感染拡大を防ぐには、人と人とが接触する機会を極力減らさなくてはならない。

 しかし、地方自治体の長で、ここまで踏み込んだ発言をしたのは中田市長が初めてではないだろうか。スペイン・インフルエンザの時のアメリカ・セントルイス市の事例を取り上げたということなので、少なくとも中田市長は、「史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック」(アルフレッド・W・クロスビー著 みすず書房)を読んでいるのだろう。

 パンデミックが起きれば、最低でも地方自治体の長は、中田市長が語るレベルのことを覚悟しなければならない。最低でも、だ。どれだけの長がこのことを理解しているだろう。

●インドネシアの情報隠蔽は続いているようだ。鳥インフルエンザのヒトヘの感染が続いているインドネシアであるが、情報が先進国に利するだけであるとして情報公表を渋ってきた。6月6日、インドネシアの保健相は、鳥インフルエンザによる人の死亡事例が発生しても、即時発表はせず、2〜3ヶ月ごとにまとめて発表すると発言した。すぐに公表してもインドネシアには何のメリットもないというのがその理由。
 6月中旬になって、インドネシアは世界保健機構(WHO)に対しては、素早い情報提供を行うと約束した。ところが、直後にAP通信が、インドネシアが公表していない死亡ケースが存在することをスクープした。

●4月から5月にかけて韓国内で大量発生した鳥インフルエンザは5月末には終息した。ただし、状況を見るに、防疫が効果を発揮して根絶したというよりも、季節が移り変わり湿度が上がったことで感染拡大の確率が下がり、自然終息したという雰囲気だ。だとしたら、カモなど不顕感染を起こす鳥の間で、ウイルスは潜伏しているだけということになる。

 6月に入ってからは香港、バングラディシュで家禽における強毒性鳥インフルエンザの発生が確認された。北朝鮮で発生か、と言う報道もあったが、北朝鮮政府は否定している。いずれにせよ、鳥の世界ではH5N1型のウイルスは完全にパンデミック状態になっており、どこで大規模感染が発生してもおかしくない状況にある。

 6月にはH7亜型の強毒型ウイルスの感染がイングランドで発生した。H7亜型は、過去にH7N7が強毒型鳥インフルエンザウイルスとして確認されている。H7N7はヒトヘの感染の可能性はごく低いそうだが、弱毒型のH7N2、H7N3の一部は、ヒトの気管に感染する形質を示しているとのこと。

●小樽保健所の外岡所長は、パンデミック時の対策として、タミフルを予防的に服用するのではなく、感染10時間以内にタミフル服用を開始する「感染中断免疫」という手法が、最善策だという意見を公表した(最善のパンデミック対策(pdfファイル))。
 感染直後に抗ウイルス剤で治療を開始することで、重症化を防ぐと同時に免疫を獲得するというもの。

 確かにプレパンデミックワクチンの備蓄と即応接種体制が不十分な現状ではセカンド・ベストに思える。が、そのためには感染初期に抗ウイルス剤投与を開始する必要がある。家庭や職場などに抗ウイルス剤を備蓄する必要がある。

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2008.05.20

新型インフルエンザ、5月中旬のまとめ:韓国の亜種同定、欧州でプレパンデミック・ワクチンを認可

 5月中旬までの鳥インフルエンザ情報をまとめておく。

 情報源は以下の通り。

・小樽市保健所の外岡所長による鳥インフルエンザ直近情報
・インドネシア現地情報をまとめたBerita Flu Burung
・笹山登生氏のSasayama’s Weblog
GooglenNews


 ひとつ宣伝、SAFETY JAPANに、国立感染所研究所の岡田晴恵氏へのインタビューを書いた。プレパンデミック・ワクチンについて、かなり突っ込んで聞いてみたものだ。

インタビュー:H5N1型という“敵”に日本が採るべき策

 私は、マンションのような集合住宅で、パンデミック時の籠城が果たして可能なのだろうかということを気にしている。岡田氏からもはっきりした答えは得られなかったが、この問題は早急に専門家を集めて検討すべきだと思う。


●この二週間ほどの間の最大のトピックは、韓国で蔓延している鳥インフルエンザが、クレード2.3.2だと判明したことだ。
 インフルエンザの亜種のことを専門用語で「クレード」と呼ぶ。インフルエンザウイルスは突然変異を起こしやすく、次々に亜種が出現する性質を持つ。やっかいなのは、それぞれの亜種が抗原が微妙に違うので、亜種が異なると別途ワクチンを用意する必要があるということだ。それでも最近の研究では亜種間で共通の免疫をつける「交差免疫」という現象が見つかり、プレパンデミック・ワクチンに応用されている。

 同時にクレードを調べることで、そのウイルスがどこから来たものかを知ることができる。ウイルスの感染拡大ルートが分かるわけだ。

現在までに、H5N1インフルエンザウイルスは、「クレード1」「クレード2」「クレード3」に大別されており、特にクレード2は、さらに細かい亜種への分化している。

 クレード2.3系は2005年後半に中国で検出され東南アジアに広がった亜種だ。過去韓国と日本で検出されたウイルスはクレード1だった。このことは、過去とは別のルートで新しい亜種が韓国に入り込んだことを示唆している。
 秋田県と北海道で検出されたウイルスは、どのクレードなのだろうか。まだ発表されていないが気になるところ。感染のルートが推定できれば、それに応じた対策も可能になる。

 このクレード2.3.2は、比較的人に感染しにくい亜種なのだそうで過去に人間への感染例は報告されていないとのこと。韓国では「人には感染しない」という報道も出ている。

 もちろんこれは間違い。「感染しにくい」と「感染しない」は別物だし、今「感染しにくい」としても、突然変異で突如ヒトに感染するようになる可能性は皆無ではない。安心してはいけないということ。

●韓国での感染拡大は止まっていない。ついに首都ソウルでもH5N1ウイルスが検出されて大騒ぎとなった。
 韓国でも対策の遅れが批判されている。ソウルの動物園(のような施設らしい)で4月28日にキジ2羽が死亡したのが4月28日。ところが、そのまま放置して検査の依頼は5月3日、H5N1検出は5月6日だった。その間の休日には多数の市民が子供を連れて来園していたという恐ろしい状況だった。

 韓国では軍隊を動員したり、病院に対して厳戒態勢の指示が出たりと、国を挙げての防疫が続いている。

 韓国での感染拡大が止まらない背景には、伝統的に小規模の鶏取引が多く、故意か無知かは分からないが、感染鶏を“売り抜けてしまう”ことが多いということがあるようだ。他にも死んだ鶏を用水路に捨てた例があったり、地方自治体が事態隠しに動いたりと、まずい事例が次々に出ている。

 とにかく、無知が一番いけない。鳥インフルエンザに対する知識を一人でも多くの人が身につけておかないと。

●日本も韓国を笑えた状況ではない。5月半ば以降、全国で養鶏場周囲の消石灰による消毒作業が始まった。県レベルでの対応だが、秋田県でのH5N1検出の発表が4月29日だから、2週間遅れなのだ。2週間でどれほどウイルスが広がる可能性があるかを考えれば、あまりに遅い。

 次もこれほど幸運だとは思わないほうがいい。

●インドネシアでは、首都ジャカルタの真ん中で、感染者が出た。16歳の少女が感染して死亡。弟も感染しているとのことで、はたしてヒト→ヒト感染なのか非常に気にある。少女が住んでいた場所は日本人が住む地域にも近いとのこと。
 さらに、西ジャワでも死者が出ているし、20日にはスラウェシで5人の集団感染の疑いが出ている。
 インフルエンザというと、冬のものと思いがちだが、それは日本だけの話。東南アジアでは通年の病気だ。スペイン・インフルエンザは日本でも、9月から流行が始まっている。

●欧州ではグラクソスミスクライン社のプレパンデミックワクチン「プレパンドリックス(Prepandrix)」が欧州医薬品規制委員会(European medical regulators)の承認を受けて販売されることとなった。クレード1のベトナム株で作成されたワクチンで、報道によると2回接種を行うもののようだ。スイスすでに全国民分に相当する800万人分を発注しており、アメリカも2750万人分を発注、グラクソはその他欧州数カ国から発注を受けているとのこと。
 日本も買えばいいのに、と思ったが、外岡先生の日記によると、日本は薬事行政が複雑で、海外で承認されたワクチンでも国内で試験をしないと使えない仕組みになっているとのこと。

●これまでウイルス情報の提供を拒否していたインドネシアは、15日にウイルス情報を国際的に提供する方向に方針転換した。ただし、ウイルスを直接提供するのではなく、インドネシア独自の解析結果を国際的なデータベースに記載するということのようだ、

●英国国立医学研究所が、新型インフルエンザは、容易にタミフルに対する耐性を持つ可能性があるが、もう一つの抗ウイルス剤リレンザでは耐性が発現しにくいという研究結果を発表した。つまりは、タミフルの備蓄だけはだめで、複数の抗ウイルス剤を備蓄する必要があるということだ。

読売ウィークリーが、蛾の細胞を使うワクチン製造法に取り組むUMNファーマを紹介している

UMNファーマ

 同社は、新型インフルエンザに向けたワクチン工場のための用地を取得した。ニュースリリース

 2010年から年間1000万人分を製造するとのこと。本当に間に合えばいいのだが。

 培養細胞を使う方法は、比較的短期間に大量のワクチンを製造できる。UMNファーマの方法では、鶏卵を使うと6ヶ月かかるところを8週間、つまり2ヶ月で製造できるとのこと。

 蛾の細胞を使うというのは、哺乳類の人間とはなるべくかけ離れた種の細胞を使うということなのだろう。培養細胞は、猿や犬のものを使うことが多いが、種が近い場合、培養に使う細胞中に未知の危険なウイルスが隠れている可能性がある。

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2008.05.06

サロマ湖でもハクチョウの感染を確認

 5日、北海道で新たにサロマ湖で見つかったオオハクチョウの死骸から、鳥インフルエンザ陽性反応が出た。

鳥インフル:サロマ湖畔で1羽が陽性か(毎日新聞)

 現状ではインフルエンザ・ウイルスが検出されたという段階で、強毒型のH5N1ウイルスかは不明。しかし、1)すでに死んでいる、2)韓国ではH5N1ウイルスが蔓延中という状況証拠から、強毒型ウイルスである可能性は高い。

 要するにこれまで野鳥をきちんと監視していなかったのだろう。それが、秋田県の事例でH5N1ウイルスが検出されたもので、あわてて監視体制を強化したら、すぐに次の事例が見つかったということではないだろうか。

 野鳥の防疫は、養鶏場の防疫よりもずっと難しい。鳥が死んでいるだけだから、危機感も抱きにくい。

 しかし、この段階できちんと食い止めないと、鳥インフルエンザが、渡り鳥のみならず国内の鳥類にも定着してしまう。そうなったら、ヒトからヒトへの感染を起こす新型インフルエンザが出現する確率が上昇する。もちろん、うっかり肺の奥深くウイルスを吸い込んで、人が鳥インフルエンザに感染する事例も出てくる可能性がある。

 実のところ、白鳥は感染すると死ぬので、ウイルスの拡大が分かりやすい。それだけ防疫もやりやすい。

 本当に注意しなければならないのはカモだ。

 カモは強毒型の鳥インフルエンザ・ウイルスに感染すると約3割が死亡する。しかし残る7割は、感染しても症状が出ない、不顕性感染となる。不顕性感染を起こしたカモの腸管内でウイルスは増殖し、糞の中に大量に排出される。糞は水に溶け、その水を飲んだ別の鳥に感染する。

 この春、渡り鳥のカモは、北に帰って行った。しかし今年秋にはまた日本に渡ってくる。それらカモの中に、不顕性感染を起こした個体がいて、ウイルスをまき散らしたら——。

 そうならないように、早急に、防疫体制を構築しなくてはならない。

午後追記;韓国では首都のソウルでも、鳥インフルエンザの発生が確認された。

2008/05/06-11:25 鳥インフル、ソウル市内でも=韓国:時事通信

 東京で鳥インフルエンザが確認されたら、と考えると、事態の深刻さを実感できるだろう。こうならないためには、今、しっかりとした防疫を行わなくてはならない。

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2008.05.05

死んだ白鳥をカラスがつついていた…

 昨日の記事のコメント欄に、秋田にいるkamiyaさんが見た、現地の状況がコメントされた。

近くに住む人が「死んだ白鳥をカラスがつついていた」と言っていたので、近くのカラスは保菌している物と考えられます。

 うわ…日本国内に鳥インフルエンザが定着することは、鳥インフルエンザによる死亡事例が相次いでいるインドネシアのようになるかもしれない、ということなのに。

 感染拡大が続く韓国では、地方自治体が情報を隠蔽したという報道が出ている。

韓国:鳥インフルエンザで虚偽発表 KBSテレビ

 この地方自治体の意識の低さでは、日本は韓国を笑えない。

 参考までに:以下は外岡氏がまとめたイギリスにおける対策だ。ここまでやるべきなのに…

2006年英国スコットランドでH5N1鳥インフル死亡白鳥事例集

5/5午後追記:野付半島で見つかった白鳥も、強毒型のHN1ウイルスが検出された。

朝日新聞

 北海道も色々と動き出した。鳥インフルエンザが定着などしようものなら、サミットもなにもあったものではないだろう。

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2008.05.04

やはり現地の防疫体制は不徹底のようだ

 鳥インフルエンザ直近情報をまとめている小樽市保健所長の外岡立人氏が5月4日付けの日記で、現地情報に基づいて秋田県など地方自治体の鳥インフルエンザ対策が、不徹底であることを嘆いている。

「幻想と現実の狭間にて」:外岡氏日記

現場への立ち入り検査の遅れ、現場周辺の消毒措置が行われない不気味さ、周辺を行き交う車両の車の消毒、人々の靴底の消毒、…。何も行われていない。

 どうも、秋田県以下、地方自治体は「養鶏場にウイルスが入らなければ大丈夫」と思っているように見える。養鶏場に入れば金銭的被害が発生するが、野鳥が死んでいる分には金銭的損失は発生しない。逆に厳重な対策をするほどに、地方自治体の財政に負担がかかる。

 しかし、実際には養鶏場での発生と、野鳥での発生では対応策が異なり、それぞれ的確な対応をしないと感染拡大を防げないのだ。

養鶏場で発生

   ・飼育家きんの全殺処分

   ・発生源調査



 渡り鳥で発生

   ・発見地域における他の渡り鳥、家きんにおけるウイルス調査

   ・渡り鳥の飛行ルート調査(または推定)

   ・渡り鳥の感染地の特定(または推定)

   ・特定された地域での獣医学的疫学調査

   ・予想飛行ルートからさらなるウイルス拡大地域の特定

   ・特定された地域での獣医学的疫学調査



  上記作業は、推定される汚染地域への人の立ち入りを制限したうえで、作業員が感染しないような装備で行う必要がある。また基本的には発生から1週間以内に全ての予備的調査と対策を終了しなければならない。

  住民の危機管理対策も同時に進められる必要がある。

 繰り返す。どうも、秋田県以下、地方自治体は「養鶏場にウイルスが入らなければ大丈夫」と思っているように見える。

 冗談ではない。養鶏場に入ったら、鳥インフルエンザとしてはもはや緊急事態なのであって、本来的にはそれ以前の段階でウイルスを食い止めねばならないのだ。

 外岡氏の日記は以下の文章で締めくくられている。

 日本の当局者達が、これまでには野鳥からの感染が人で起きたことはないからと安易に考えていると、世界で初めての野鳥から人への感染が日本で発生ともなりうる。

 これは行政業務ではあるが、医科学的基本を背景にした業務であり対策なのである。感染症予防専門家が陣頭に立っている必要がある。失敗したなら彼の責任となるような権限と責任性を課する。欧米はそうである。

 SAFTY JAPANに、「H5N1―強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ」「パンデミック・フルー 新型インフルエンザ Xデー ハンドブック」書評を書いた。よろしければ読んでみて下さい。

 自分のための備忘録。5月2日の官報に、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律」が掲載されている。5月12日施行。読んでおくこと。

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2008.05.02

新型インフルエンザ、4月下旬のまとめ:秋田と北海道で野鳥感染死を確認

 新型インフルエンザに関する10日毎のまとめだ。

 ついに日本でも感染死した野鳥が見つかった。韓国では防疫が失敗しつつあるようで、鳥インフルエンザの拡大が止まらない。これはまずい、日本もすぐに水際防御となると心配していたら、やはり来てしまった。

 しかも、地方自治体の初動対応が遅く、手ぬるい。鳥の世界でパンデミックになってしまい、インドネシアのようにウイルスが定着してしまったら、ヒトからヒトへの感染を起こす新型インフルエンザ出現の確率はぐっと上がる。鳥インフルエンザの段階で、厳重な防疫を行わなくてはならないはずなのに、最前線となる地方自治体は、何をしていいのか良く分かっていなかったような印象を受ける。

 全国の地方自治体はもっとしっかりしてほしい。あなたたちの機敏な行動が全日本国民を守ることになるのだから。


 まず、最初に発見された秋田県・十和田湖のケース。各種報道や秋田県ホームページ(発表文はこちら(pdf))によれば経緯は以下の通り。

・4月21日、白鳥の死体3羽と衰弱した白鳥1羽を回収。
・4月23日から有精卵に接種する手法でウイルスを培養、25日にA型インフルエンザウイルスと確定
・26日、県の家畜保健衛生所が周辺農家への聞き取り調査と注意喚起を行う。
・27日にウイルス検体を独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・動物衛生研究所(茨城県つくば市)に搬入。同日夜、H5亜型ウイルスであることを確認。
・29日、ウイルスが強毒型のH5N1型であると発表。

 まず、ウイルス検査は、技術的には1日でできる。つまり現状では、地方自治体レベルでの迅速な検査態勢が確立していないことが見て取れる。21日に回収したならば22日には検査結果を出して、23日には防疫に入らなければいけないはずなのだ。

 さらに、韓国で強毒型のH5N1型鳥インフルエンザが蔓延していることは衆知の事実だ。だからA型ウイルス陽性と判明した段階で、H5N1型ウイルスであると想定して防疫体制に入るべきなのだ。つまりどんなに遅くても26日には本格的な防疫体制が動いていなければならない。

 しかし実際には、26日からの初動防疫体制も不徹底だった。SAFTY JAPANに書いたのだけれども、今回の場合は不顕性感染を起こしたカモが、周囲にまだいる可能性があった。
 となるともっとも恐ろしいのは自動車のタイヤにウイルスを含む糞が附着して遠くまで運ばれ、二次感染を起こすことだ。すぐに検問所を設けて通行する自動車のタイヤを消毒しなければいけないのである。同時に、至急周辺地域から鳥の糞を採取してウイルス検査を行わなくてはならない。

 その後、北海道の野付半島で見つかった白鳥の死骸からも鳥インフルエンザウイルスが検出された。経緯は以下の通り。

・4月24日、観光客が白鳥の死骸を発見。
・4月27日、回収した死骸を中標津町の動物病院で解剖。キツネなどの捕食の痕跡なし(死骸を食べたキツネなどが感染し、さらにウイルスをまき散らす可能性もあった)。死後さほど時間が経ってはいなかった。
・5月1日、環境省釧路自然環境事務所が検体を持ち帰りウイルス検査。即日陽性と判明。環境省がウイルス陽性であったと発表。

 ここでも初動の遅れを見て取ることができる。おそらく秋田県の事例が出てきたことで、あわてて検査を行ったのではないだろうか。

 ちなみに北海道庁のページにはこの件に関する情報が見あたらなかった。わずかに別海町のHP短いリリースが掲載されたのみである。トップページに緊急情報として掲載した青森県の対応と対照的だ。大丈夫か?北海道。

 ヒト→ヒト感染を起こす新型インフルエンザの出現を阻止するには、鳥インフルエンザの拡大を防ぐことがとても重要なのだ。

 「ヒトにはめったに感染しないから安心して下さい」というのは事実だ。しかしこの段階での不作為はヒトに感染するウイルスを呼び込むことにつながる。いったんヒト型ウイルスが出現すれば、もう風評被害がどうのこうのなどといっておれる状態ではなくなる。

 まだ鳥インフルエンザが広がる前の段階だからこそ、大げさに思えるほどの防疫が、大きな効果を発揮する。感染拡大が進んでから大規模防疫を展開しても効果は薄いのだ。

 だからこそ、今回の初動の遅さは恐ろしい。幸いなことに今回は初動をもたついている間の感染拡大はなかったようだが、ひとつ何かの偶然が悪い方に出ていたら(例えば、ウイルスを含んだ鳥の糞が長距離トラックのタイヤに附着するというようなこと)、日本全国に鳥インフルエンザが飛び火していたかもしれない。

 韓国では危険な状況が続いているので、今後とも気を抜くことはできないだろう。以前のケースでは京都府と宮崎県の養鶏場で鳥インフルエンザが発生した。今回は秋田と北海道だ。つまり、日本中どこでも鳥インフルエンザが確認される可能性があると思わなくてはならない。

 例え感染の疑いがある鳥が発見されなくとも、鳥の集まる湖沼などでは定期的に糞のウイルス検査を行うぐらいのことをしなければならないはずである。


 その他、鳥インフルエンザ直近情報から、過去10日間の動きをまとめる。

●韓国での鳥インフルエンザ感染拡大が止まらない。どうも感染した鶏の移動を防ぐ手段がザルになっているようで、4月29日に確認されたウルジュ(蔚州)の農場の例では、21日に購入した120羽の鶏のうち104羽が死亡したという。
 5月1日付けで日本に近い釜山でも感染疑い例が出たと報道されている。日本にとってすでに対岸の火事ではなくなりつつある。

●インドネシア・ジャワ島では、4月23日に3歳男児が鳥インフルエンザで死亡した。同国での感染者は132人、死亡者は108人となった。これはもちろん確認された限り、であって、背後には相当数の未確認感染者・死亡者が隠れていると推定されている。

●オーストラリアは、パンデミックに備えてタミフルの処方箋なし薬局販売を検討している。感染初期にタミフルを服用できるかどうかが生死を分けるため、家庭備蓄を進める狙いがあるとのこと。

 日本でも、是非検討して欲しい。

●アメリカとトルコの研究チームが、鳥インフルエンザから回復した患者の骨髄細胞から抗体産生細胞を採取し、抗体を生産させることに成功した。

 新型インフルエンザ出現までの時間を稼げば、それだけ研究は進み様々な対抗策を実用化することができる。だからこそ鳥インフルエンザの段階での拡大阻止は重要なのだ。

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2008.04.23

新型インフルエンザ、4月中旬のまとめ

 例によって鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集による、4月中旬の世界の状況のまとめだ。

 他人様のまとめた情報をさらにまとめているだけなので気が引けるのだけれども、同ページをきちんと読み込む時間のない人もいるだろうと思うので。
 より詳細な情報はオリジナルに当たってほしい。


 同ページが冒頭に掲げているパンデミック発生危険度を30%から33%に引き揚げた。韓国、ロシアなどでの家禽の間での鳥インフルエンザ流行発生に対応したもの。


●韓国の鳥飼育施設で発生した鳥インフルエンザが、あちこちに飛び火している。22日の時点で、鳥インフルエンザ発生の疑いがある事例は49件、うち26件が鳥インフルエンザと確認されている。23日には家禽処分に参加した兵士の一人がH5N1ウイルスに感染していたことが確認された。

 韓国での感染拡大には、流通業者が感染が発生した農場からカモを不法に持ち出して販売したことが影響しているという報道が出ている。流通業者が鳥インフルエンザに対する知識を十分に持っておらず、その危険性を低くみてしまったのだろうか。「大したことないから売り抜けてしまえ」というように。

 逆説的に「知識のワクチン」の重要性が示されたように思う。皆が鳥インフルエンザ、ひいては新型インフルエンザに対する正しい知識をもつことが非常に重要なのだ。

 韓国のみならずロシアのウラジオストック近郊でも鳥インフルエンザの発生が確認された。過去の事例では、韓国で鳥インフルエンザが発生した後で、日本の養鶏場でも鳥インフルエンザが発生している。

 人に感染することがまれな鳥インフルエンザの感染拡大が、なぜ危険なのかといえば、それによりウイルスが増殖する機会が増えるためだ。ウイルスは増殖のたびにランダムな突然変異を起こす。増殖の機会が増えるということは突然変異の試行錯誤回数も増えるということであり、人から人への感染を起こす新型インフルエンザが出現する確率も高まるのである。


●人への感染が続いているインドネシアは、相変わらずWHO及びアメリカに対して敵対的な態度を取っている。過去の感染でアメリカがかなり強引な手法でウイルスサンプルを持ち出したことから、インドネシアは態度を硬化させた。自分たちが提出したサンプルで助かるのはアメリカをはじめとした先進国であって、自分たちに恩恵が来ないではないか、ということだ。三者は話し合いを続けているが、まだ解決の糸口は見えてこない。

 この件についてはインドネシアの現地メディアの報道をまとめているBerita Flu Burung (インドネシア 鳥インフルエンザ情報)でも取り上げられている。
 インドネシアでは大きな問題になっているのに、日本ではほとんど報道されていない。どうした?新聞各社のジャカルタ支局!!

 インドネシアのシティ・ファディラー・スパリ保健相は、そのシステムは不公平であり、変えるべきだと主張する。パンデミックが起きた場合、インドネシアの鳥インフル標本から作られたワクチンは、インドネシアの国民に手の届く範囲にない、高価すぎるし、裕福な国々によって操作されているからと、彼女は主張している。

 ワクチン製造にはウイルスのサンプルが必須である。もしもインドネシアで新型インフルエンザが発生し、同国政府がサンプル提出を拒めば、それだけパンデミック時のワクチン製造が遅れることになる。しかし、発生国に優先的にワクチンを供給する国際的な枠組みは、まだ存在しない。


●日本では、備蓄しているプレパンデミック・ワクチンの一部を、医療従事者や検疫担当者など約6000人に事前接種する方針が出た。また、今年度はプレパンデミック・ワクチンを1000万人分積みまして合計3000万人分を備蓄する。

 事前接種はいいのだけれど、接種者数が増えれば少数ながら強い副作用が出る人がおそらくは発生するだろう。そのあたりのリスク・コミュニケーションはどうなっているのだろう。きちんと情報は共有されているのか。
 アメリカの過去の例では、1976年にパンデミックを恐れて事前接種したワクチンで、運動神経が冒されるギラン・バレー症候群となってしまった例が存在する。

 そしてなによりも、いざパンデミックが発生した時に、数日オーダーで一気に接種する体制の整備はどうなっているのだろう。現在の大型ボトルによる備蓄では、接種開始までに数週間の時間が必要になる。ワクチンをアンプルに詰めて末端に配布する必要があるためだ。

 事前接種もさりながら、ひとたびパンデミックが発生したときに急速に接種を行う体制を整備するほうが先決ではないのだろうか。致死率の高い新型インフルエンザのパンデミックが起きてしまえば、副作用のリスクは許容範囲となる。しかし発生前の現在、副作用リスクを許容すべきかどうかは、きちんと考えねばならない事柄だ。

 そしてなによりも3000万人分では足りない。狭い国土に1億2800万人が暮らす日本なのだから、全国民分のプレパンデミック・ワクチンを備蓄し、パンデミック発生時に数日で接種を行える体制を整えることが重要なはずだと思う。


●その一方で、ワクチン研究は急速に進んでいる。アメリカのパーデュー大学の研究グループが、通常の風邪を引き起こすアデノウイルスにH5N1ウイルスの遺伝子を組み込むという手法で、幅広いH5N1亜種に効くワクチンを製造することに成功した。マウスと鳥の実験では、接種後1年以上、免疫が持続したという。アデノウイルスは取り扱いが容易で、ワクチンの大量製造も可能だ。
 プレパンデミック・ワクチンと、新型インフルエンザ発生後に製造するパンデミック・ワクチンの両方に有効な、有望な手法ではないかと思う。もちろん人に適用するにはまだまだ様々なハードルが存在するわけだけれども。

 気になるのはこの手法にも当然特許が発生するだろうということ。事前にパンデミック時の特許の扱いを国際的に協議して決めておかないと、助かる方法があるのに特許によって使えないということだって考えられる。

 特許の問題は、タミフルなど抗ウイルス剤の製造でも存在する。何らかの形で特許の一時棚上げと、その後の特許保持者への適正な利益配分を考えなければならないはずだ。特許保持者にしても、新型インフルエンザで世界経済が大混乱に陥れば、本来得るべき特許収入を得られないということになるのだから。

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2008.04.09

新型インフルエンザ、4月上旬のまとめ

 新型インフルエンザに興味を持つようになってから、毎朝鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集をチェックするのが日課になっている。現状では、ボランティアベースで運営されているこのページが一番あてになる。

 以下、4月に入ってからの、気になる情報。

・韓国の家禽飼育場で鳥インフルエンザが広がりつつある。3月末から4ヵ所の鶏やアヒルの飼育施設でH5N1型らしき鳥インフルエンザが発生している。過去の例では韓国で鳥インフルエンザが発生し、次いで日本の養鶏場でも鳥インフルエンザによる大量死が起きている。特に西日本の養鶏関係者は気が気ではないだろう。

・バングラディシュ、インド国境地域でも、鳥の世界で鳥インフルエンザが広がる可能性が出てきた。インド・西ベンガル州では1月に発生した感染拡大がいったん2月に収束したものの、2月下旬からまた流行が始まっている。

・インドネシアでは、西ジャワ州、西スマトラ州、バンテン州などで患者が発生し続けている。詳細はBerita Flu Burung (インドネシア 鳥インフルエンザ情報)にて読んでもらいたい。情報はかなり錯綜している。

・ヒト→ヒト感染について。事例報告が増えている。昨年12月に中国・江蘇省で発生した52歳男性とその24歳の息子の感染事例が、息子→父のヒト→ヒト感染だったとの研究報告が出た。また昨年11月にパキスタンで起きた兄弟間感染についても、ヒト→ヒト感染の疑いが強くなっている。WHOは「ヒト→ヒト感染が起きたことを強く示唆」、パキスタン当局は「ヒト→ヒト感染が起きたと断定」している。
 ヒト→ヒト感染は、感染の成立に上気道の細胞が持つレセプターの遺伝的素因が関係していることが分かっている。中国の例では、多数の人が患者に接触したにもかかわらず、感染したのは父だけだった。
 このため、現状のH5N1鳥インフルウイルスが人に感染するためには、幾重ものバリアーが存在する可能性が高い、すなわち簡単には人に感染する株にはならない、という考察も出てきている。
 なお、これまでに、カンボジア、タイ、ベトナム、トルコ等の国々で、ヒト→ヒト感染は十数例確認されているが、全て血縁関係者の間だけで、それ以外に広がった例はない——とのこと。

 どの程度のリスクが存在するのか判断しにくい状況が続いているが、それでも鳥の世界でのH5N1型ウイルスの流行はリスク増大の要因だろう。ウイルスが増殖するということは突然変異の機会が増えるということだから。

 ヒト→ヒト感染についても「遺伝的な素因か」と安心するのではなく、むしろ「現在のH5N1ウイルスに対するレセプターを遺伝的に保有する人が存在するということは、ヒト体内でヒト型インフルエンザ・ウイルスと交雑する可能性が今まで考えていた以上に高い可能性があるということだ」と考えるべきなのではないだろうか。ウイルスの交雑からは、ヒト型となった新型インフルエンザが出現する可能性がある。

・エジプトで、タミフルが効かずに死亡した例が発生した。

Bird flu kills young man in Egypt, bringing toll to 21 International Herald Tribune, France (国際) エジプトで若い男性が鳥インフルで死亡、同国の死者数が21人に
 北部エジプトに住む若い男性が鳥インフルで死亡し、同国の死者数が21人になったと国営通信が保健省発表として5日報道した。
 3日、北部ベヘイラ県のモハメド・イドリスさんが呼吸困難と発熱のためにアレクサンドリア市の病院に入院したが、タミフルによる治療に反応しなかったと保健省副大臣のNasr al-Sayyed 氏が国営通信MENAに発表した。

 タミフル耐性を持つ株が発生したのだろうか。正確なところは今後の情報を待つことになる。現状でもH5N1ウイルスは速やかに大量のタミフルを投与しないと助からない。タミフル耐性株でパンデミックが起きようものなら、それこそ「復活の日」を覚悟しなくてはならないことになる。


 厚生労働省の対策が、方針を示すのみで実施については地方自治体に投げてしまっているので、自分の地元はどうかと茅ヶ崎市役所に問い合わせてみた。つい最近になって自治体間の連絡会議ができて勉強を始めるところだという。どうにも反応がにぶいようだ。実際茅ヶ崎市ホームページには、新型インフルエンザに関する文書がなにも掲載されていない。

 神奈川県は昨年11月に行動計画(PDF)を立てているが、患者数は約118万人、死亡者数は約6800人という、甘い数字の上に計画を作っている。感染率25%、致死率0.6%だ。厚生労働省が出した致死率2%よりも甘い推定である。これはまずい。

 行政の不作為で健康被害を受けるリスクは下げておくに越したことはない。市民として突っつけるところは突っついておく必要があるだろう。

 新型インフルエンザを巡るリスク・コミュニケーションは難しい。惨事はまだ起きておらず、起きるかどうかは確率の問題だ。悲観的に見る材料も、楽観的に見る材料も、共に豊富である。

 だからといって、何もしなくてもいいということにはならない。

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2008.04.02

新型インフルエンザ・パンデミックを知るための書籍

 新型インフルエンザ関連の書籍で、今現在簡単に手に入る本を紹介する。今後もめぼしい書籍を読んだら紹介することにする。

 なお、私はSAFTY JAPANの書評欄で、「H5N1型ウイルス襲来」と「新型インフルエンザH5N1」、および「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」と「史上最悪のインフルエンザ」を、それぞれ紹介する記事を書いている。

 どれか一冊だけ、それもあまりぶ厚くない本を、というならこの新書をお薦めする。新型インフルエンザの基本的な性質から、自分でできるパンデミック対策までがコンパクトにまとまっている。

 ウイルス学の観点からもっと踏み込んだ情報が必要ならば、この本だ。ウイルスの系統や、強毒型と弱毒型の具体的な差異、プレパンデミック・ワクチンの現状など、ウイルス学が今現在、どこまでインフルエンザ・ウイルスの性質を解明しているかを知ることができる。今後、本当に新型インフルエンザはパンデミックを起こすのか、起こすとしたらどのような準備をするべきなのかが様々な形で議論されることになるだろう。議論に主体的に参加したいと思う方は、最低でもこの本を読んでその内容を押さえておく必要があると思う。

 おどろおどろしい表紙と、「エヴァンゲリオン」もかくやと思われるフォント操作を含む本文とで、キワモノ系と誤解される危険性のある本。実は現時点でもっともよくまとまった「個人でできるパンデミック対策」のノウハウ本だ。自分と家族を救うために今日から自分で行うことができる準備について、必要な情報を一通り掲載している。

 一冊と限らずに、何冊かの本を読んで広く知識を身につけたいと思う方は、「新型インフルエンザH5N1」と「パンデミック・フルー 新型インフルエンザ Xデー ハンドブック」の2冊をまとめて読むことをお薦めする。この2冊を押さえておくと、H5N1ウイルスの性質からパンデミック対策までの、新型インフルエンザに関する情報の全体を見渡すことができるだろう。

 特段の対策を持たない現状のまま、高い致死率の新型インフルエンザのパンデミックに襲われた場合、日本はどうなるかを描いたシミュレーション小説。著者は研究者であり、本職の作家ではないために小説として読むと大して面白くない。そもそも一般向けの啓蒙を目的とした小説が、面白かろうはずもない。
 だがそれでも本書は、「今のままではどうなる可能性があるか」を知るという一点で読む価値がある。
 なんでも著者は、パンデミック啓蒙小説を書いて欲しいと複数の作家にアクセスしたものの果たせず、結局自分で書くことになったという。

 描かれるすべての描写には、論文の裏付けがあるということだ。今程度の準備だといかに大変なことになるか、具体的な形で見せてくれる本である。

 1918年から20年にかけて世界を襲ったスペイン・インフルエンザが日本にどのような被害をもたらしたかをまとめた研究書。おそらくは日本におけるスペイン・インフルエンザに関しては唯一のまとまった本だ。著者は経済史と歴史人口学を専攻する経済学者。過去の人口統計を計算処理して、さまざまな社会の動向を抽出する手法で、被害の実態を調べていく。

 欧米でも忘れられた災厄となっていた、スペイン・インフルエンザに史学の光をあてた、歴史的な名著。スペイン・インフルエンザのパンデミックがどのように広がっていったかから、パンデミックにより歴史はどのように変わったまで、その影響を幅広く検証していく。特に、第一次世界大戦とパリ講和会議にパンデミックが与えた影響を考察した部分は圧巻。パンデミック対策を考えるにあたっての基礎的文献の一つであろう。

 スペイン・インフルエンザの被害を、主にアメリカの医学研究者はどのようにして立ち向かったの焦点を当てて描いたノンフィクション。当時も研究者達は手をこまねいたわけではなく、新たな治療法を求めて必死に戦ったのだった。しかし、まだウイルスの存在が知られていない当時、研究の方向は見当違いのものにならざるを得なかった。
 SAFTY JAPANインタビュー記事の中で、田代氏が言う「20世紀の防疫」と「21世紀の防疫」について深く考えさせられる。

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2008.03.31

日本語で読める新型インフルエンザ関連の情報ページ

 新型インフルエンザ、パンデミック関連の情報が集まっているページを紹介する。

鳥及び新型インフルエンザ直近情報
 日本語で情報を集めようとすると、情報の速さ、量、正確さの3点で、このページが一番である。小樽市保健所長の外岡立人氏が個人のボランティアベースで更新を続けている。防疫のプロだけあって、情報の分析も的確。

Berita Flu Burung (インドネシア 鳥インフルエンザ情報)
 インドネシア・ジャカルタ在住の相木渓成氏が、インドネシア現地のメディアに登場する高病原性鳥インフルエンザ関連のニュースを、インドネシア語から抄訳しているページ。患者が多数発生しているインドネシアの現状を、もっとも素早く知ることができる。

 ほか、いくつか個人ベースのまとめサイト、まとめblogが存在する。2ちゃんねるにの関連スレッドが存在する。

個人・家庭の新型インフルエンザ対策

 2ちゃんねるについては批判も多いが、私は人々の知恵や知識を撚り合わせて集合知を形成する有力な場であると考えている。

鳥インフルエンザに備えて

 今のところ、公的機関の情報提供よりも個人のボランティアベースによる情報収集活動のほうが、ずっと質が高い。私は、このことが、日本の現状を象徴していると考える。

国立感染症研究所・感染症情報センターの高病原性鳥インフルエンザの情報ページ
 基本的に世界保険機構(WHO)の鳥インフルエンザ情報ページの翻訳である。

国立感染症研究所・感染症情報センター「インフルエンザパンデミック」
 パンデミックに関するQ&Aや、個人で用意しておく装備などのまとめが掲載されている。

厚生労働省、新型インフルエンザ対策報告書
 今現在の、日本政府の取り組みを象徴している報告書。とにかく一読することをお薦めする。現在の高病原性鳥インフルエンザは強毒型であるにも関わらず、弱毒型だったスペイン・インフルエンザのパンデミックをモデルケースとして対策を立てている。
 また、基本的に対策を国ベースではなく、地方自治体ベースで行うものとしており、国は指針を出すのみという形式。つまり具体的に何をどうするかについて厚労省は責任を持たず、地方自治体に丸投げとなっている。

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