永福町に行く
JRと井の頭線を乗り継いで、永福町に行く。同地に宇宙開発の老先達が住んでおり、インタビューのための段取りをつけるためだ。これまで喫茶店で話を聞いたり、マクドナルドで粘ったりしてきたのだが、どうにもうるさくてたまらなかった。永福町駅近くに杉並区の集会所があるのを知り、そこの会議室を借りる算段をしてきたのだ。最初は電話一本で予約が取れるかと思ったのだが、まず利用者登録をしろ、そのためには一度来いということで仕方なく赴いた次第。
で、行ったはいいが、まあその事務の手際の悪いこと。説明は要領を得ないし、申込書にどう書き込むべきかははっきりしない。私が区外居住者と分かると「どう登録したらいいんでしょうか…区役所に聞いてみます」で、また待たされる。コンピュータに登録するらしいのだが、どうもパソコンの前に座る女性は、そもそもキーボードが使えないらしい。さんざん手間取ったあげく住所の入力を間違えてやり直し。
ここはどこだ?悪い夢でも見ているかのような気分だ。東京は杉並で、田舎の村役場のような対応されるとは思っていなかった。
ようやっと登録が終わり、後はインターネットから会議室の予約ができるようになった。帰る支度をしていると、カウンターの向こうではキーボード入力の講釈が始まっている。先ほど私の住所を入力した中年女性に、別の女性が言う。「『あ』を入れるために『あ』のキーを押しちゃダメなの。『A』を押さないと」。
そして帰り際、男子職員が私に言った。「ここから後はネットでしか予約できないんです。めんどくさいですがよろしくお願いします」。いや、私は全然面倒ではない。それどころか自宅から予約ができて便利なんだが。
そこで気が付く。そうか、ネット社会はこういう人々を置き去りにしながら、ぎりぎりと音を立てて進展しているのか。
お役所仕事に同情する気は全くない。今日時間を浪費させられた最大の理由は、彼らが、区外個人利用者という、普段とは違う区分の私をどう扱っていいのか分からなかったからだ。彼らが昆虫のようにルーチンワークをこなし、そこから一歩でもはみ出すとなにをしていいか分からなくなるような働き方をしていたからだ。
だが、彼らがネット社会の進展に置いて行かれていいいのかといえば、そんなことは全くない。
ひとつ彼らの名誉のために付け加えると、対応の態度はとても良かった。
メモ:ウェルニッケ脳症
今日の出典:NNNでやっていたドキュメンタリー
上のリンク先をぜひ読んで欲しい。
ウェルニッケ脳症はビタミンB1の不足で起こる脳の炎症。記憶障害や人格の変化などの重い後遺症を残す。1992年以降、高カロリー点滴にビタミンを添加しなかったことから、妊娠時のつわりなどで入院していた人の間で発生し続けている。
真に驚くべきことに、これは人災だった。1992年、厚生省(当時)は点滴へのビタミン添加を保険対象外とする決定を下したのだ。一部の病院が点滴にすべてビタミンを添加して保険点数を稼いでいたことに対する処置だった。ところがそれがどうしたことか「食事が少しでも出来る患者にはビタミンを点滴に添加しても点数にならない」ということになってしまった。各地での発症報告が続いた結果、厚生省は食事が取れない場合の高カロリー点滴にビタミン添加を行うよう通達を出すが、その実施は徹底することなく悲劇は続いた。
1)20世紀も末になり、2)病院で、3)ビタミン不足で、4)脳を破壊されるという恐るべき事態が、起きていたのだ。ビタミン剤がコンビニでも入手できるような国で、一体何がどうしたらこんなことが起こせるのか、厚生労働省は想像力というものを持っていなかったのか。一部の医者には状況に目を配るという習慣すらなかったのか。
全くもって他人事ではない。私の父も5年前に大手術を受けた時、およそ1ヶ月に渡って点滴のみで命をつないだ。おそらくは担当医師がウェルニッケ脳症の発生を知っていたのだろう。まかり間違えば父も危なかったのだ。
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