シンポジウムで話をする

この日記は大体翌日に更新しているので、13日付の本日は12日の話。
朝からJR横浜線の淵野辺駅へ、歩いて15分で宇宙科学研究本部、かつての宇宙科学研究所である。「システム計画研究会」というシンポジウムで笹本祐一さんと共に話をするのだ。
わあ、宇宙開発の素人二人が日本の宇宙科学の中枢で一体何をやらかすのやら——と思うかも知れないが、このシンポジウムの別名は「宇宙研の新春放談会」ともいい、様々なしがらみや先入観から離れて宇宙科学や宇宙開発の有り様を話し合うという会合だ。
プログラムは以下の通り。
第22回システム計画研究会 テーマ:若者たちの宇宙計画 日時:平成15年3月12日(金) 場所:宇宙科学研究本部本館2階大会議場09:50
あいさつ 鶴田浩一郎(JAXA宇宙科学研究本部)10:00〜12:00 <司会:佐々木進(JAXA宇宙科学研究本部)>
科学の魅力と宇宙開発の未来 高橋忠幸(JAXA宇宙科学研究本部)
一エンジニアの視点 山川宏(JAXA宇宙科学研究本部)
日本に有人宇宙活動を育てよう 野田篤司(JAXA総合技術研究本部)
孤立しないために 金山秀樹(CSPジャパン)
13:00〜16:00 <司会:的川泰宣(JAXA宇宙科学研究本部)>
宇宙新時代の惑星探査 岡田達明(JAXA宇宙科学研究本部)
僕たちの求める宇宙開発 笹本祐一(宇宙作家クラブ)
停滞を乗り越えて—1980-90年代分析から未来を展望する
松浦晋也(宇宙作家クラブ)
分野をこえた若手の交流 竹内伸介(JAXA宇宙科学研究本部)
宇宙輸送システムの未来 沖田耕一(JAXA宇宙基幹システム本部)
大学における超小型衛星による新しい宇宙開発への挑戦
中須賀真一(東京大学)若人に贈る惑星間旅行の展望 川口淳一郎(JAXA宇宙科学研究本部)
16:00〜17:30 全体討論
(17:30〜懇親会)
「若者たちの宇宙計画」というところ、引っかかりませんか。そう、なんで40歳を過ぎた私や笹本さんや野田司令が出てくるのか。幹事の的川先生にいわせると「40代後半までは若者だよ」なのだが、でもねえ。この分野、それなりの経験が必要だということと、若者に主導権を与えずに下働きさせてきたということの相乗効果だろうか。
本音を語る会という趣旨だが、例年以上に本音が出た会だった。宇宙開発はそのほとんどすべてが国の予算で行われているということもあり、建前の縛りがきつい。なにしろ建前を崩したら予算が取れなくなってしまう。
ところが今回は建前に終始する発表はなく、どれも本音でありかつ真摯だった。ISAS関係者の口から「M-Vは科学衛星打ち上げに最適なロケットではない」なんてことが聞かれたのは初めてじゃないだろうか。今までは分かっていても絶対に言わなかった。
これはとてもいいこと。現在の宇宙開発の窮状は、建前に固執して現実に目を向けなかったことが一因だと思うのだ。まず現状、誰が何を考えているかを率直にぶつけあうことで少しでも未来が見えてくればと思う。
宇宙作家クラブから笹本さんと私ということで、まず笹本さんが話す。笹本さんの「普通の人が宇宙開発の望むのは、宇宙の構造が分かったとかいうようなものではなく、まず自分か自分の知っている人がそこにいる、あるいは行けるということと、そしてハッブル宇宙望遠鏡が送ってくるようなきれいな画像だ」という話は、けっこうインパクトがあったんじゃないだろうか。
で、私は、スペースシャトルの起こしたバブルとその後遺症から話を起こして、まあ色々。HOPE企画者の一人で、計画凍結に立ち至るまで色々と努力をしていた柴藤羊二さんが来ている前で、「HOPEは少なくとも20年ひっぱるべきではなかった」とやってしまう。申し訳ありません。
糸川英夫博士のペンシルロケットを例にとって、「商売の感覚を持ち込め」、「小さくしょぼく頻度は高く」などという話もする。
終わった後、的川先生から「笹本さんはほわっとした話を、松浦さんはいつも通りきびしい指摘をしました」とのコメントを受けてはっとする。私は割とストレートに考えていることをテンション高く語ってしまうくせがある。しかし何かを主張する目的は、相手の心に主張を届けることであって、テンションを上げて自分が満足してしまうことではない。反省。
自分たちの出番が終わった後、糸川博士について触れたからだろう。「糸川商会の生き残りです」と前所長の松尾弘毅先生から挨拶され、恐縮してしまう。大学院生だった40年前に、日本初の衛星打ち上げに向けたロケット性能計算をやった3人のうちのお一人だ。糸川博士の思い出を少し聞く。「いやまあ、バカをバカということをためらわない人でしたね」。
それぞれの講演が長引き、全体討論はなしになってそのまま懇親会へ。色々な人と話をする。あまり飲めないはずの野田司令がめずらしくビールを飲んでテンションを上げ、ISASの矢野創さんと大きな声で話をするのを目撃し、この組み合わせがタッグを組んだらすごいことするだろうななどと朦朧と考える。
矢野さんからISASの次のミッションに向けた動きを少々聞く。頼まれ事一件を承知。小杉健郎先生から太陽観測衛星「ようこう」打ち上げ時のトラブルなどについて聞く。こういう話、めちゃくちゃ面白い。なんとかしてきちんとまとめられないものか。
帰途は東大の中須賀真一先生と同道。昨年6月に1kgの超小型衛星を作って打ち上げた東大と東工大の学生のメンタリティの違いについてなど。「東大ってのはね、受験に文系科目もあって要は科目を絞りきれなかった奴が来るんです。東工大はすっぱり絞った学生が行く。物を作るという点では東工大の学生はすごいです」。いえいえ、野田司令は東大の学生をほめていましたよ。いずれにせよ学生で衛星を開発し、打ち上げた経験を持つ彼らが次の世代の宇宙開発を担うのだろう。もう一度10代からやり直してその中に混ざりたいと思うけれども、気が付くと我が身は人生もう半分は生きたか、の42歳なのであった。
的川先生、やっぱり若者と言うからにはせめて35歳以下にしませんか。
写真は、中須賀先生の研究室で開発した1kgの超小型衛星「XI」の地上試験モデル。太陽電池が張ってないだけで後は実際に宇宙を飛んでいる衛星と同じだ。
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Comments
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こちらでは「はじめまして」になります、ほったと申します。
>いずれにせよ学生で衛星を開発し、打ち上げた経験を持つ
>彼らが次の世代の宇宙開発を担うのだろう。
ぜひ、そう信じてやまない「業界人」の一人なのですが・・・。
先日、千葉工大の林友直教授と懇談する機会がありまして。
松永先生、中須賀先生とはまた別の、学生による小型衛星プロジェクトである鯨生態観測システム衛星「観太くん」に、立ち上げ当初から関わられた先生です。
質疑で私が、
「10年以上に渡るプロジェクトでしたから、どのくらいたくさんの卒業生が、その後宇宙関連分野の仕事に就かれているのですか?」
と聞いたところ、
「・・・実は、殆どいないです。」
という恐るべき回答が返ってきました。ショックでしたね。
もしかすると、この国の社会の成り立ちには、
・我が国は技術立国たるべき
・そのためには科学技術教育の場を充実させるべき
という、各論としては誰も反対していないはずの両者の「べき」を、きちんと結びつけられない計り知れない構造的な断絶が存在しているのかも・・・。
では
Posted by: ほった | 2004.03.24 01:50 AM
ほったさん、こちらではどうもです。
中須賀研しか知らないのですが、XIの歴代プロマネは宇宙関係で働いています。Cupesatの優れているところは、学生が学校に在籍している期間中に完成し、うまくいけば打ち上げに持ち込めることです。つまりコンセプトから打ち上げを経て運用まで、衛星開発を一通り実習できるのです。
千葉工大の状況は知らないのですが、開発に10年かかったということが就職にあたっての学生のモチベーションを下げているのかもしれません。一部分だけを作るのと「この衛星を俺が作った」と実感できるのは違うのではないかと思います。
Posted by: 松浦晋也 | 2004.03.24 11:21 AM
講座案内;「小型衛星「観太くん」による鯨生態観測システムの開発とその応用」
提供:千葉工業大学
講師;開発責任者である林友直千葉工業大学教授
日時;2005年7月31日(日)14:00~16:00
会場;千葉県立現代産業科学館サイエンスドーム(千葉県市川市鬼高1-1-3)
定員;300名(参加費無料)
対象;中学生以上
参加申し込み;電話かメール(電話:047-379-2007 メールkouza@cmsi.jp)
現代産業科学館HPより
http://www.cmsi.jp/doc/event/17/17event.html#tenjiuneikikaku
千葉工業大学HPより
http://www.it-chiba.ac.jp/
Posted by: puti | 2005.07.18 10:59 PM