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2004.03.25

三菱ふそうのリコールについて考える

 掃除、洗濯、調理、そして仕事仕事。雨が降るがそうひどく寒くはない。つや消しの日常だが、それでも楽しいことはある。本日は買い物の時に、いつもは買わない食材を思い切って色々と買う。今晩何を食べようかと考えつつ、色とりどりの食材の山の中をさまようのは楽しいことだ。今日の買い物のメインは、まるまると太った鰯の一夜干しにスモークサーモンと唐辛子せんべい、そして香辛料色々。スモークサーモンはタマネギと合わせてマリネにしよう。

 本L/Dではこれまで意図的に世間に流布するニュースへの言及を避けてきた。世間に向かって何かを語るということは、商業メディアに乗るにせよネットで自分のリスクで発信するにせよ、責任が伴う。少し力を抜きたかったというのと、自分では何も分かっちゃいないことを「キター」に代表される2ちゃんねる用語を使い、斜に構えて言及する日記系ページが多いのにうんざりしていたためである。

 少なくとも私はプロなので、真正面から語れないなら黙るべきだろう。

 でも、これだけは書こうと思う。ネタ元も明かせないし、信憑性もあやしいが、私としては妥当に思えることなので。

 以下くれぐれも「信憑性は?である」と思って読んで欲しい。

 三菱ふそうの欠陥ハブ問題である。本日、正式にリコールが決定した。問題は三菱ふそうが、三菱自動車から分離する前から起きているので、これは三菱自動車の問題である。

 トラックからはずれたタイヤが母子を直撃し、母親が死亡したという痛ましい事故を起こした問題だ。残された子供の事を考えると泣けてくる。横をさっきまで一緒に歩いていたお母さんが死んでしまったなどという体験をした子供に、一体何を言えばいいのだろう。

 なぜ三菱自動車ともあろう会社が、このような事態に立ち至ったのだろうか。


 10年以上前の話だ。私は機械技術雑誌から記者としての職歴を始めたが、当時は航空宇宙関係のニューズレターに勤務していた。同じく機械技術雑誌出身の先輩と宇宙関係のニュースを追っかけていた。
 ある日先輩とサラリーマンならおなじみの「困った上司」の話をしていたら、先輩がこういったのである。

「以前、機械技術雑誌編集部でな、『いままでに会った経営者の中で誰が一番バカか』という話になってな」
「はあ」
「もう全員賛成のダントツのトップで一番バカとなったのが、三菱自動車の○×副社長だった。いやひどいひどい、インタビューしても何いってんだか分からないんだよなー」

 記者というのは度し難い意地悪な人種だ。相手が偉かろうとそうでなかろうと、インタビューの時は相手の人間性を見透かそうとする。はあはあと話を聞いておいて、後で「あいつバカだよなー」ということなど朝飯前だ。
 しかも何千人もの人に会ってきた記者の人間観察眼はかなり正確である。
 
 その記者の中でも「ダントツのトップでバカ」と言われるとはどんな奴なのだ。○×というのは。

 当時はそう感じただけだった。

 その時○×副社長は、四駆ブームに乗って売れまくった「パジェロ」の勢いで社長になっていた。さらにはその後会長にもなった。まさにハブ事故が起きていた時期である。

——————

 ここからは私の推測になる。

 無能な副社長が、たまたま起きたブームにで伸びた業績により社長になった。無能な社長となった彼はたまたま社長になったにも関わらず、それが自分の能力だと勘違いする。調子に乗った彼は、見当違いの施策を次々に打ち出す。会社自体が勢いに乗っているので彼の見当違いが決定的な失策につながることもないが、末端のやる気は減退する。

 彼の無意識の部分は、自分の無能さを自覚しているので常に不安だ。不愉快な事実を進言する者は、彼の無意識を刺激するので遠ざけられる。結果として耳に快いことだけを進言する茶坊主体質の社員だけが昇進するようになる。経営のトップ、少なくとも部長以上は茶坊主体質の者で占められるようになる。

 やがて無能な社長は無能な会長になって、いらぬ院政を敷くようになる。昇進した茶坊主軍団は、ミニ無能社長となって、ますます下からの耳の痛い進言を遠ざけるようになる。ついには、末端も諦めてしまい、企業にとって耳の痛い情報を上にあげずに現場で握りつぶすようになる。リコール情報も、あぶないトラックのハブも「なかったこと」になる。

 そして、子供の目の前で、母親が死ぬという事態に立ち至る。

——————

 私自身は○×氏に会ったことはない。以上は、10年以上昔の私の記憶から引き出した憶測に過ぎない。しかし、記者という人種を身をもって知っている私には、私も在籍したことのある編集部の記者達が衆議一決したという○×氏への評価を無視することはできない。

 そして10年以上リコールを認めなかった三菱自動車の態度には、単なる○×氏の責任だけではなく、自己保身に長けた茶坊主軍団の存在を感じざるを得ない。「俺のせいじゃない、俺のせいじゃない。俺にも生活があるんだ」と言い続ける茶坊主社員らの存在を、だ。


 ○×氏は存命である。どこかのメディアが、彼に肉薄しないだろうか。

 無能であるということはそれだけでは罪ではない。社会的に責任のある地位についた時でも無能は罪ではない。しかし、有能な他者に任せることなく「俺が俺が」で肥大した自我を満足させようとするなら、社会的に責任ある地位にある者の無能は罪となる。

 それは例えば、幼児の目前で母親を殺害する——そのような殺人に相当する罪なのである。

 本日は写真はなし。こんな話を書いたので、写真を載せる気分になれませんです。

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Comments

自動車のリコール制度は35年くらい前に、日本では生まれてきたもので歴史は結構古いんですね。もともと企業が欠陥を社会にどのように公開するかということはどこの企業でもいろいろな議論や経営方針があったわけです。このように品質マネジメントはどうしたら言いかということでは、TQCの時代からQMSマネジメントシステムのモデルのひとつである現在のISO9001の
時代に至るまでいろんな変遷があるのですね。私はこのような
QMSのいろいろな観点からの意見を皆さんと交わしたいと思っています。詳しくはhttp://www.geocities.jp/v4w4bqt6/index.html">http://www.geocities.jp/v4w4bqt6/index.html

 小生は三菱のライバル会社に勤務しております。
 文章上で、「ある日先輩とサラリーマンならおなじみの「困った上司」の話をしていたら、先輩がこういったのである。」という部分と、「私も在籍したことのある編集部の記者達が衆議一決したという○×氏への評価」という部分が、一人の記者の独断的意見が、多数の記者達の集合意見にすり替わっているように思われます。
 上記のすり替えが松浦様の意図的な行為ならば、この文章は単なる誹謗中傷ですし、意図しない過失ならば、当該部分を訂正されることを希望します。(せっかく、面白い文章なので)
 松浦様が今後とも忌憚無い意見を書き続けることを期待してます。

 nonzoさんの書き込みは自サイトの宣伝ですね。あまりかたいことはいいません。良識の範囲内で、ほどほどにお願い致します。

 TAKEさんは書き込みありがとうございます。この話は10年以上昔の私の記憶、ただし強烈な記憶と、現在の私の推論によって成立しています。

 おそらく情報ソースの実態が「先輩の独断」であるにもかかわらず、「編集部の衆議一決」となっているということかと思いますが、それなりに裏打ちはあるとご了解ください。

大変興味深く拝読させていただきました。
特に無能な経営者に関するご意見と、その周囲の集団についての考察は興味深かったです。
起こるべくして起こった、その予見可能性が既にあったという内容の記事としても非常に面白かったと思います。その観点からは、御自身が書かれているように ”ソース”が弱いところが残念ではありましたが、拝読させていただいている側といたしましては、十分に楽しませていただいたと言えます。

> 自分では何も分かっちゃいないことを「キター」に代表される2ちゃんねる用語を使い、斜に構えて言及する日記系ページが多いのにうんざり

上記は取りようによっては『自分の好みに合わない表現を使っている連中は総じて出鱈目を書いている』というような誹謗中傷に感じました。それでは「キター」の連中と何も変わらないと思います。
また、表現は表現者の好みの問題であって、表現の自由の範囲を超えなければ問題ないとおもいますし、「キター」の表現だけでは表現の自由の範囲内であるように思います。
好みでない表現が使われているページ対して、松浦様も必要以上に斜に構えていらっしゃるように感じました。
無視すれば済むことだと思います。

> 一人の記者の独断的意見が、多数の記者達の集合意見にすり替わっているように思われます。

上記のような感想を私も受け、”裏打ちがある”と後付で書かれても文章に説得力が失われているようで残念です。
と、ちょっと蛇足を書かせていただきましたが、大変面白く拝読できました。ありがとうございました。

Iwasakiさん、感想ありがとうございます。

>>無視すれば済むことだと思います。
 そうでありますね。インターネットでは検索エンジンで必要なページにすぐにジャンプできます。このため「自分の観ているページ=インターネット」となりがちなのですが、実は自分が見たこともない大多数のページも含めてインターネットなのですね。

 この文章を書いた時分を思い出すとその手のページに色々閲覧する機会があったのは事実です。

「ネットは広大」というのを常に意識してかないと。

むたと申します.
「野尻ボード」のリンクからやって参りました一介のSF好きです.

おそらく, 僕も無視をすれば良いのでしょうが, いわずにはいられない性分なので書かせていただきます.

僕は, 上のお二方とは違い, 大変好意的に文章を読ませていただきました. 文全体としましては, iwasakiさんと同様に, なるべくしてなった今回の送検であったか, と2ヶ月も前の時点での推測に感心させられました.

この日記で問題とされている箇所ですが, 僕自身は, 「自分も在籍した事のある編集部の先輩が, その先輩と同じ部署の人たちとで話した事を教えてくれた」という様に読みました.
もちろん, この場合「又聞き」のような状態でしょうし信憑性は?でしょうが,
「信憑性は?と思って読」めと言われているものを読んで信憑性が?といっても仕方がないですよね(笑)

ところで, iwasakiさんのコメントにあった,
>上記は取りようによっては『自分の好みに合わない表現を使っている連中は総じて出鱈目を書いている』というような誹謗中傷に感じました。

という, この文章こそ意見をすり替えているように読めてしまうのですが.

「分かっちゃいない事を2ちゃんねる用語を使い, 斜に構える日記がある」と,
「2ちゃんねる用語を使い, 斜に構える日記はみな分かっちゃいない」は別の意見ですよね.
前者は十分条件の中で意見を言っているだけでしょうけど, 後者では必要条件になってしまってます.

もちろん, こんな揚げ足取りは意味がないですよね. 文章の本質には全く関係ありません.
(だから松浦さんはその点に言及しない, あるいは間接的に言っているのかな, とも思いましたが, 違う趣向の意見もあったほうが健全かな, と思ったもので書いてしまいました..(^^;)

松浦さんの, 事実は事実として書き, 意見は意見として書くスタイルには大変好感を持っております.
これからも, 書ける範囲でイロイロと書いていただければ, と思っております.
(仕事柄, ソースを明らかにする事は難しいでしょうし, 個人的な日記でそこまでは求めません(笑))

長文, 大変失礼いたしました.

むたさん

 どうもありがとうございます。

 ちなみに私は、2ちゃんねるに代表される匿名メディアを否定はしません。あれもまた貴重なメディアの一種だと思っています。

 2ちゃんねるの匿名性については木村剛さんが的確な分析をしていますね。
http://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2004/05/_.html

松浦さん

はじめまして、酔うぞの遠めがねで以前から三菱ふそう叩き(言葉を飾ってもしょうがない)を続けています。
今日(5月29日)にオンラインの「日経ものづくり」で、ハブの設計変更に関する話が出ていて、機械屋としは「論外!!」と書いてしまいました。

その後で Google で「三菱ふそう ハブ」で検索してみると、個人とし意見を述べているのは、どうも松浦さんとわたしということらしいです。
(ブログのヒット率が高すぎるのでしょうが)
というわけで、以前から存じ上げていましたが、よろしくお願いいたします。

三菱自動車が重工から分離したのは、1970年ですが、60年代に日産とプリンスの合併とかラルフ・ネーダーの欠陥車キャンペーンなどで、日産・ホンダ・トヨタといったところは、非常な危機感を持って、それまでの自動車という機械を作るメーカーから消費者が使う自動車という商品を作る立場に転換したのだと思います。
しかし、三菱自動車はそういう時代を経験していないし、しかもマーケットは三菱グループだけを見ていれば良かった。
結局のところ市場から見られているという意識すらなく、ここまで来たのではないか?という気が強くします。

酔うぞ拝

酔うぞさん、はじめまして。

 三菱自動車はまたリコール隠しが表面化してますます泥沼化していますが、私が現在気になっているのは「国土交通省になんらかの責任はなかったのか」ということです。ただでさえ許認可を握る官庁は立場が強いですし、これだけ三菱自動車側に問題が出てくるとなると、たとえ国土交通省側に過失があっても隠蔽は非常に容易になるからです。

 例えば、あくまで例えばの話ですけれども、最初は国土交通省側が「そんなことはいちいち届け出るな」と言った可能性はないのか、どうなんでしょうね。

三菱自動車 懐かしいですね 十数年前 前の職場の車好きの上司がランサーを買って数年して三菱は 大嘘つきだぞ デターなんかでたらめだ と言ってたなぁ 三菱の関連会社の中元 お歳暮はキリンビール ロバートブラウンだったなぁ・・・車はニッサンだったなぁ 訳を訊いても 言わなかったなぁ   一昔前の話だよ もう一つ三菱自動車で車体の下塗装を丁寧にしていたら そんなに丁寧にするなと 言われたと言う親戚がいたな 同じ位前だなぁ そう言うことを職場の女の子に言ったら むきになったたな お父さんが三菱のってるんだってね どうしてるかなぁ 熟女だね では・・・


 

 三菱自動車の報道は沈静化しましたが、おそらく本当の危機はこれからなんでしょうね。正直、まだきちんと社内対応が出来ているとは思えません。

 9月の新車に望みをつないでいるようですが、現状ではどうなんでしょう。また大口に押し込むのでしょうか。あまり建設的な販売方法とは思えないのですが。

 三菱グループ関係者に、三菱自動車の車を買えと指令が下っている可能性は高いですね。以前三菱グループは三菱車でないと通勤に使えなかったのですが、最近は緩和されていました。また元に戻っているのではないでしょうか。実際どうなんでしょう。ご存じの方おられますか。

 でも、万一そうやって会社に買わされた車がまたも欠陥車で事故を起こしたら…おそらく会社は責任を取ってくれないでしょう。三菱グループの社員の方々にとってはつらいことになりそうです。

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