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2004.04.09

航空宇宙学会のパネルディスカッションに出席する

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4月6日、今日も晴れて暖かい。

 朝から大手町の文部科学省に行き、宇宙開発委員会調査部会を傍聴する。現在、H-IIAロケット6号機失敗と、火星探査機「のぞみ」の火星周回軌道投入失敗を審議しており、私にとっては可能なかぎり傍聴しなくてはならない状況。

 H-IIAについては、事故原因となった固体ロケットブースター(SRB-A)の海底からの回収を諦めたという報告。この日各マスコミは「回収を断念」と報じていたが、そもそも回収する必要があったのだろうか。この日の調査部会でも東工大の小林教授が「噴射で高温になったノズルの複合材が海面着水の衝撃と急冷の熱ショックに耐えて残っているとは考えにくい」というような発言をしていた。まとめの段階であえてこのように発言するのだから、その前の事故原因ではかなり激しく「引き上げの必要があるかどうか」という議論が交わされたのであろう。

 井口委員長は、「慎重に」を繰り返していたが、それでいいのだろうか。一体何のための慎重さ?

 今もっとも考えるべきは、アメリカから借りている気象衛星「GOES-9」が寿命が切れていつこわれてもおかしくない衛星だということではないだろうか。「原因がどうのこうの」と完璧を期するよりも、覚悟を決めて可能な限り早く次の気象衛星、というか運輸多目的衛星「MTSAT-1R」を打ち上げるべきではないだろうか。だいたい、何度も私は指摘しているが、「MTSAT-1R」はよく言えば野心的、悪く言えば無理した設計の衛星であり、軌道上できちんと動くかどうかまだわからないのである。現在三菱電機が製造中の「MTSAT-2」も含めて、なんとしても静止軌道からの気象観測を絶やさないように、とれるだけの手段を取っておくべきなのではないだろうか。そう努めることこそが、真に国民に対して責任を取るということではないだろうか。

 実は前回内閣府に顔を出した時に、審議官に「羮に懲りて膾を吹いていませんか」と質問した。返事は「個人的にはそう思います」というものだった。

 休み時間に委員として出席していた五代富文さんと少し話をする。久しぶりだ。病気をしていたと聞いていたが、元気がでてきたようでなによりである。

 委員会の後半は、「のぞみ」の詳細について。ほんとうに惑星探査機の成功失敗は、ほんの少しのことで決まるのだな。

 時間があったので、初めて新丸ビルの中を歩いてみる。旧丸ビルにはインテルの東京事務所があって、パソコン雑誌時代に何回か取材で入った。あの昭和初期を思わせる建築は嫌いではなかったけれども、新丸ビルもなかなかいい建築だ。六本木ヒルズの事故を受けて回転扉は止まっていた。

 午後は、東京大学本郷キャンパスで開催されている航空宇宙学会総会へ。なんの因果か知らないがパネルディスカッションのパネラーとして呼ばれているのである。

 ISASの稲谷芳文先生からメールが来た時には正直びびった。ISAS関係者にこの話をすると、「稲谷先生って強面なんですよ。学生には厳しいです。記念写真の説明で人物の輪郭をとってこの人は誰だってしめすイラストを付けることがあるでしょ。稲谷先生のところだけ頬に縦傷とアイパッチが書き込まれていたことがあるんです」とのこと。

 おそるおそる会場の山上会館に行って稲谷先生に挨拶すると、「もうびしびしいってください。最初に旧NASDAとNALから解説がありますが、それについていいたいことをいってくださってけっこうです」。本当に言いたいこといっていいんでしょうか。いいんですね。

 というわけで、始まったパネルディスカッションでは、「結婚には三つの袋というものが」という話…ではなく「研究開発では、頭と手と足が動いている必要がある。考えること作ること、色々な人にあってコネクションを作ることだ。過去数十年に渡って航空宇宙分野は頭ばかりで、手と足が動いていなかった」という話をする。「短距離離着陸機の飛鳥以降、旧航空宇宙技術研究所(NAL)は20年間、毎年200億円の予算を使いつつ何一つとして実験機を飛ばしてはいない。ラジコンでいいから毎年実験機を飛ばすべきだ」とも。

 「パリエアショーでなにが恥ずかしいって、まったくやる気が感じられない航空宇宙工業会の展示が恥ずかしかった」と言うと、横でパネラーとして出席していた三菱重工の方が、吹き出し笑いをした。そうか、誰もが感じていたことなのか。
 なにしろちょっと先では、リージョナルジェットを開発している中国が売る気まんまんの営業活動を展開しているのに、航空宇宙工業会の展示ブースでは、ババ引いて出張を押しつけられたとおぼしき説明要員が、つまらなそうにコーヒーを飲んでいたのだ。私思うに、日本が旅客機を作れないのは、単にやる気がないだけだ。いろいろ理由はあると思うけれど、決定的に足りないのはやる気だと思う。

 最後は、「今日は私の後ろに立たないで下さい」と締めくくった。

 私のような部外者から厳しい意見を期待するというのは、航空宇宙の世界がよくよく行き詰まっているということの現れなんだろう。その後の懇親会では、私がこの分野を取材し始めた頃に、もう宇宙開発委員会の委員だったような老大家の皆さんから、「君のいうことはもっともだ。後ろから刺したりしないよ」ばんばん、と背中を叩かれる。その横では中須賀先生が「松浦さん言うじゃん」とにこにこ。ああもうなにがなんだか。

 お開き後は旧知の旧NALの皆さんから「君はそういうが」と引っ張られて酒場へ。酒でどろどろの議論をして気が付くと東海道線の車中。ああもうなにがなんだか。

 写真は東京大学本郷キャンパスの三四郎池。江戸が出来る前の風景はこんなものだったんだろうと思わせる静かな場所。

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