伊福部昭90歳記念コンサートに行く

5月31日
午後、日経WinPC編集部へ。ここ3年ばかり同誌で連載を持っていたのだが、誌面刷新の関係で5月売り分で終了ということになった。自作パソコン誌はアスキーが参入してきて環境が悪化し、私が書くような分析的な記事を載せる余裕がなくなったのである。現在発売分はトヨタの「G-BOOK」を取材して記事にしたのだが、編集長から「トヨタから『間違った部分がある』と電話が来たよ」と言われてしまう。
うわ、ショックだ。色々つきあわせていくと、どうも私が自動車業界のやり方に不慣れなために、結果として読者をミスリードする記述をしてしまったと分かる。連載の最後で訂正を出すというひどく情けないことになってしまった。
フリーであるからある日突然連載を切られても文句を言う筋合いはない。それが嫌ならサラリーマンを続けていれば良かったのだから(もっともサラリーマンをしていても、ある日突然自分の勤めていたセクションがなくなるということはある。私はそんな経験をかつてした。さらにいうなら、今やサラリーマンなら一生安泰という時代でもない)。
しかし、いきなり切られた連載の最後で、訂正を出すことになってしまったのは悔やまれる。自分の未熟さの現れ以外のなにものでもない。
とにかく仕事をし続けないと。月例の収入が途絶えるのはやはり痛い。
日経BPのある平河町でタクシーを拾い、サントリーホールへ。伊福部昭の卒寿記念コンサートである。何ヶ月も前から楽しみにしていたのだ。
●伊福部昭・卒寿を祝う
5月31日(月)19:00〜/サントリーホールにて
【演奏者】
指揮:本名徹次、東京混声合唱団、日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
フィリピンに贈る祝典序曲(1944)
日本狂詩曲(1935)
SF交響ファンタジー第1番(1954/1983)
交響頌偈「釈迦」(1989)
今回、わざとオーケストラの後ろ側の席を取った。指揮者と、打楽器奏者の動きを見るためだ。
紛失していた楽譜が近年発見された「フィリピンに贈る祝典序曲」から始まって、伊福部21歳のデビュー作にして世界に「Ifukube」を知らしめた「日本狂詩曲」、東宝怪獣映画の音楽を編曲した「SF交響ファンタジー第1番」、そして仏教カンタータというべき「釈迦」という充実した演目だ。
サントリーホールは八分の入りだったが、客層は老若男女すべてに散らばり、中には制服を着た女子高生の一団も。伊福部昭という不世出の作曲家が、いかに様々な人々に愛されているかを実感する。伊福部を愛しているという意味では演奏者も同様で、素晴らしい熱のこもった演奏だった。
正しいことをやっているという実感は、必ずしも自分が正しいことを意味しない。しかし伊福部は自分を信じ、勝った。伊福部は12音技法から偶然性へと尖り続けた楽壇の中で、ひたすら自分の耳を信じ、音楽を書き続け、そして今、サントリーホールを熱狂させている。
途中、客席の伊福部のところになんとゴジラが花束を持ってくる。拍手、拍手、拍手。
すべての演目が終わった後は、オーケストラメンバーも聴衆も立ち上がってのスタンディングオベーション。足の弱っている伊福部老も立ち上がって応える。アンコールは、なんとなんと「タプカーラ交響曲」の最終楽章。普通はアンコールなどにはもってこない力こぶの入る音楽だ。おお、涙が止まらない。
この日この場にいたことが幸福なことだったと思える、素晴らしいコンサートだった。
写真は伊福部老に花束を渡して場外へ去っていくゴジラ。あわててデジカメで撮影したのでブレている。
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オホーツクの海
そお言えば手塚氏のキーワードで思い出し
KICC2011(廃盤)
データーをみて驚愕これは代々木さんの聞いていた当該演奏会の一部である・・・。
交響譚詩もありオホーツクの海のみ未CD
少し揺らぐテンポの巧みさがあり、作曲家サイド(石井真木あたり)の演奏よりロマンテックに熱い演奏。
第三楽章の表情の巧みさは絶品な演奏。
さて今度でるDCは如何な演奏か楽しみ。... [Read More]