「太陽を盗んだ男」を観る
5月9日
一日仕事。ところがBGVにと、以前購入したままパッケージも開けずに放置していた「太陽を盗んだ男」(1978年:長谷川和彦監督)をかけると、やあ、やっぱり面白い。思わず見入ってしまう。
私は日本映画最高の一本は、黒澤明の「七人の侍」だと思っている。では、その次は、といえばこの「太陽を盗んだ男」だ。「幕末太陽伝」でも「豚と軍艦」でも「裸の島」でも「カリオストロの城」でもなくて「太陽を盗んだ男」なのだ。
といっても、この映画を映画館で観たことはない。これまでに観たのは一度きり。確か1982年、大学の映画研究会が開催した上映会でだった。ほこりっぽい学生会館の一室で白いシーツに映し出された映像を息を詰めて観たのを思い出す。
「七人の侍」と「太陽を盗んだ男」は色々な意味で対照的だ。ストーリーから撮影時のライティングに至るまですべてか完成され切っている「七人の侍」に対して、「太陽を盗んだ男」はすべてが未完成だ。ストーリーからカット割りから、沢田研二と菅原文太が演じるメインキャラクターの造形に至るまで、どこをとっても未完成なのだ。にもかかわらず全体として圧倒的な迫力があるという点に、この映画のすごさがある。東京中を走り回るカーチェイスからラスト、九段・科学技術館屋上での2人の決闘まで、「息をもつかせぬ面白さ」というのは「太陽を盗んだ男」のためにある言葉だとすら言える。
本編を見た勢いで、メイキングも見てしまい、驚く。この映画、冒頭で皇居前広場にハイジャックされたバスがつっこむ。また、沢田研二演じる高校教師が女装して国会議事堂に入り込むシーンもある。首都高で派手なカーチェイスもやる。デパートの屋上から一万円札が大量に降ってくる場面もある。
なんとこれらすべて、違法を承知で警察と駆け引きしつつ撮影したというのだ。まず警察に撮影すると話に行く。色々あって認可されない。それならば、と撮影を強行し、警察が何か言ってきたら、あらかじめ決めていたスタッフが「じゃ、俺行って来るわ」と出頭して留置されるということを繰り返したのだという。首都高のカーチェイスなどは、早朝に大型トラックを並べて徐行させ、一般車両に「通せんぼ」をして、前10kmほどをガラガラにして撮影したのだとか。
いい根性しているじゃないか。
今だったらとてもできないだろう。やった途端に新聞ネタとなり、製作中止を余儀なくされるのではないだろうか。
33歳でこの映画をものした長谷川監督は、その後現在に至るまで沈黙し、次回作を完成させていない。メイキングではすでに60歳近い姿を見せているので体を壊したというような外的な理由からではないようだ。
この点でも自殺未遂などを挟みつつも生涯にわたって映画を撮り続けた黒澤明と対照的である。
未見の人は是非観て欲しい。損はしないから。今ならレンタルビデオで借りることができるのではないだろうか。
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