清原なつのさんに会う
会うというより、お目通りしたといったものだろう。あいさつをしただけで名乗りもしなかったので。けれども、かつてファンであり今もファンであることを伝えることができた。幸せな気分だ。
SF大会に参加した私は21日夜、小松左京研究会や宇宙作家クラブの皆さんと、ホテルの小松左京さんの部屋にお邪魔していた。小松さんの博覧強記という概念を実体化させたようなマシンガントークを聞いていると、とり・みきさんが、清楚な女性と共にやってきた。
「紹介します。清原なつのさんです」
十代後半から二十代前半にかけて、私は熱烈な清原なつのさんの漫画のファンだった。最初は高校一年の初夏だったはずだ。当時茅ヶ崎市立図書館には「りぼん」が入っていた。
なぜ「りぼん」を手に取ったのかは覚えていないが、そこには清原さん初期の代表作「花岡ちゃんの夏休み」が掲載されていた。
十代というのは基本的に恥ずかしい時期だ。自意識過剰になって詩を書いたり歌を歌ったり、「パンクは生き方だぜ」とか力んでみたり、困った例ではバイクを盗んで走り出しちゃったりする。そんな過剰な自意識を、清原さんの漫画はざっくりと解剖し、かつ優しくはげましてもいた。しかも根底にははっきりとしたSFのテイストがあり、情緒過多に流れない理系の視線があった。
一発でファンになった私は、少女漫画を買い始め、十代後半から二十代始めにかけては清原さんが掲載雑誌を変えるにつれて「りぼん」やら「ぶーけ」やらを買い続けた。私にとっての少女漫画遍歴は清原作品から始まるのだ。
思わず私は「二十歳の頃、はずかしいのをこらえて清原さんの漫画読みたさに『りぼん』買ってました」というと、清原さんは「まあ」といってうつむいた。むさい男の信仰告白である。申し訳ない話だ。
清原さんの漫画はSFファンをなにかインスパイアするものがあるらしい。SFファンには清原ファンが多い。翻訳家の大森望さんなどは、ペンネームを清原漫画の登場人物から取ったぐらいだ(「大森望」という登場人物が出てくる作品があるのです)。
長い間絶版が多かった清原作品だが、現在早川書房が積極的に再刊しており、かなりの作品を書店で購入して読むことができる。
どれでもいいからぜひ購入して読んでみて欲しい。代表作といえば「花図鑑」だろうが、初期の「乙女ちっく」(という言葉が当時流行したのだ)タッチにひそかな毒を潜り込ませた作品も素晴らしい。
しばらくは本業に専念していたが。近く漫画家として再起動する話もあるという。うれしい限りだ。
しかし、小松左京さんの部屋で清原なつのさんに会う――こんな事があるなんて、二十歳の頃の自分に教えてみたいよ。
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