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2004.08.30

SF大会の補足:液体酸素・液体水素は最高の推進剤か その2

 「多少効率が悪くてもかまわないじゃんか」と考える人もいるだろう。「打ち上げの最初の頃、多少加速が悪くっても、とにかくトータルで見たら性能はいいんだから、やっぱり液体酸素・液体水素だよ」と。ところが地上からの打ち上げではそうは問屋が降ろさない。

 重力損失というものがあるのだ。

 自重と同じ推力を発生するロケットがあるとしよう。それを噴射しても、地面効果でちょっとばかり浮くだけで上へは上昇していかない。上昇せずに推進剤ばかりが浪費されていることになる。
 ちょっと考えると、上昇するロケットは、この「ちょっとしか浮かないロケット」と同じような損失を常に発生させていること。損失の総量が上に向かって上昇している時間と関係していることがすぐに分かるだろう。

 これがなかなかバカにならない。では重力損失を小さくするにはどうしたらいいか。もちろん上に昇っていく時間を短くすればいいのだ。つまり、大加速度で一気に登り切ってしまえばいいのである。

 これがスペースシャトルやH-IIAや、アリアン5に固体ロケットブースターが付いている理由だ。打ち上げ初期にはエネルギーが噴射ガスに持って行かれてしまう液体酸素・液体水素エンジンで、だらだらと昇っていくと重力損失が大きくてかなわない。そこで推力が大きい固体ロケットブースターで一気に昇っていって重力損失を小さくするのである。

 そう考えると、スペースシャトル主エンジンも、LE-7も、はたまたアリアン5のヴァルカンエンジンも、「第1段エンジン」と呼ぶにはややカンバンに偽りがあることが分かる、真の第1段、つまり地上からロケットを最初に持ち上げるのは実は固体ロケットブースターなのだ。
 上記の液酸・液水エンジンは、極論してしまえば「地上から着火して持っていく第2段用エンジン」なのである。

 で、問題は「そうまでして地上から液体酸素・液体水素エンジンを点火して打ち上げて、なにかいいことがあるのか」ということだ。そんなことをするなら、いっそ最初は固体ロケットブースターだけで上昇して、途中から液酸・液水エンジンを点火したほうがいいのではないだろうか。

 実はそうなのだ。突っ込むとノズル効率の話になるので理由は省略するが、1気圧の地上から使う液酸・液水エンジンは、かなりの高圧で燃焼を行わないと、その特徴である「高い噴射速度」を実現できない。

 ただでさえ扱いにくい零下250℃の液体水素に加えて、エンジン構造に大きな応力がかかる高圧燃焼を行うとなると、エンジンの開発はとても大変になる。そのために2段燃焼サイクルという複雑な燃焼サイクルを使わなくてはならなくなる。

 結果、スペースシャトル主エンジンとLE-7は開発にずいぶんと苦労することになったし、2段燃焼サイクルを使わなかったヴァルカンも完成までには9万秒もの累積燃焼時間をかけることになった(通常ロケットエンジンは完成までに2万秒の燃焼試験を行う。ちなみにLE-7は1万3000秒で、予算の足りなさ加減を象徴している)。

 そこまでやっても、できあがるのは「地上から着火して持っていく第2段エンジン」でしかない。

 「おいおい、じゃあなんでそんなものを開発したんだよ。科学に弱い国民を一見すごい技術で恐れ入らせるためかよ」

 そうではない。実はこのような技術開発が意味を持つ場合があるのだ。「この次に単段で高い最終速度を得る必要のあるロケットを開発するなら、このような技術開発は先行開発として意味を持つ」のである。

 「単段で高い最終速度を得る必要のあるロケット」、つまりSSTOだ。Single Stage To Orbit、スペースプレーンとか、デルタクリッパーとかのような、単段で地球周回軌道に出ていって、場合によっちゃまた帰ってきて再利用するような機体を目指すなら、地上から使える液酸・液水エンジンが、是非とも開発しなければならない必須アイテムなのである。

 この話、まだまだ続きます。

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Comments

SSTOって原理的に不可能という話はどこへ。

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