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2004.09.17

人前でISSについて話す

 9月7日は、永田町の砂防会館で開催された「宇宙ステーション利用シンポジウム」で壇上に登って対談した。相手は日本学術会議会長の黒川清先生。
 なぜに私のようなくわせ物が、といえば黒川先生が私の本を読んで対談の相手に指定してきたのである。まったくもってありがたいことだ。
 実は、登場するにあたって事務局とこんなやりとりがあった。
「ご存じだと思いますが、私は国際宇宙ステーション(ISS)にかなり厳しい立場を取っていますよ」
「ええ、ですから未来の日本の有人活動をということを中心にお話をしていただければと思います」
 ISSへの悪口は押さえて、未来の話をしてほしい、ということだった。当方、現在仕事をえり好み出来る状況ではないし、またするべきでもないと考えているので「了解しました」と返事した。
 が、私が出るとアナウンスされると、あちこちから、以下のような連絡が入るようになった。「存分に話したいことを話してください」

 なんとはなしに、自分が世間から何を期待されているかを自覚した。

 黒川先生とは当日朝が最初の顔合わせだった。開口一番、霞ヶ関官僚の問題点をお互いで指摘し合うという展開になる。そうか、こういう方か。これならば面白そうだ。

 本番で開口一番、私はこういった。
「国際宇宙ステーションの日本モジュールはまだ打ち上げられていないけれども、今から出来ることがある。『なんでこんなものをつくってしまったのか』をきちんと考えることだ」

 これが現在の私の、国際宇宙ステーション(ISS)に対するスタンスである。ISSは政府間協定(IGA)に基づいて開発・運用される国際協力計画であり、どの参加国にとっても計画遂行は国際的な公約となっている。ここから離脱することは容易ではない。アメリカが新宇宙政策で足抜けの姿勢を明確化した現在にも、とにかくISSを完成させようとしていることからも、その束縛がいかに厳しいものか分かるだろう。この段階で抜けるならば、その国は国際的な信用を失うのだ。

 しかし、検討開始から20年を経て未だ完成しない計画は、現時点において十分に失敗していると考えるのは妥当だろう。失敗であっても計画から離脱することはできない。だったら、徒に計画遂行のために「人類の夢、宇宙ステーション」のような自分が信じてもいない宣伝をするのではなく、そこから可能な限り未来への教訓を引き出すべきだと思うのだ。

 私は、冷戦時に西側世界の結束の象徴として始まった計画を、冷戦終結後もだらだらと続けてしまったことに根本的な問題があると考える。1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」事故と、同年のレイキャビクにおけるレーガン・ゴルバチョフ会談を持って、計画を新規まき直しにすべきだったのだ。

 後半は会場との質疑応答になったが、黒川先生が快調に飛ばす。「私は技術者だがスペースシャトルがうまくいかないことは技術者の目から見て明白だった」と発言した人に対して、「どうしてあなたはそれをきちんと主張しなかったの。職を失うのが怖かったの?」とたたみかける。

 こういう人がISS利用検討の中心に入るなら、まだ未来にも希望がもてるな、と、思う。

 この他私は、「アメリカが他の国に抑圧的に振る舞ったことが、宇宙開発の停滞を招いた」というような話をする。おそらくこんな話をする奴は今まで、このシンポジウムに出席することはなかったろう。しかし、こういう身も蓋もない事実認識を、まずはきちんと共有する必要があると思うのだ。

 終了後の懇親会では、OBの方々から、国際宇宙ステーション計画が始まった頃の雰囲気というような話をうかがう。実にしゃれにならない話。

 私を呼ぼうと提案した黒川先生、その提案を容れる度量を示してくれたJAXA吉富室長、実務を担当した西垣さんをはじめとした方々、全員に感謝したい。ありがとうございました。

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