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2004.11.22

火星は実にアメリカが好きそうな星だな、と気がつく

 火星探査機の本を書いていて気がついた。

 火星という星は実にアメリカ向きだ。

 なぜか。火星にはオリンポス山がある。高度2万7000m、すそ野の広さが直径600km超という太陽系最大の火山だ。ほかにもタルシス三山のような、ヒマラヤなんぞまったくもってめじゃない巨大火山が火星には存在する。
 また、マリネリス渓谷がある。全長4000km、幅600kmというこれまたおそらくは太陽系最大級の渓谷である。
 しかも全土は砂と岩の連続だ。気圧が低いのでタンブルウィードは転がらないだろうが、サボテンやらタンブルウィードやらが似合いそうな土地である。
 現在火星表面を走行中のNASAの火星ローバー2機が撮影した画像の片隅に、強いラム酒あたりを出すぼろい木造のバーが写っていても不自然ではない。

 なにであれ、とにかく大きいものが大好きで、荒涼とした中西部の風景にフロンティア・スピリットを重ねてきたアメリカにとって、これほど感情移入しやすい星はないのではないだろうか。

 で、そういった心のありようとは無縁である日本の我々は、果たして火星を目指すべきなのだろうか。

 火星探査機の本を書きつつ、だんだん考えがまとまってきたのだが、日本はなにも火星に行く必要はないのではないだろうか。

 ブッシュ政権は今年の初めに発表した新宇宙政策で、有人月探査を復活させ、やがで有人火星探査を目指すとしている。日本でもそれに協力しようという動きがある。

 が、アメリカに協力することが本当に日本にとって有益なのだろうか。スペースシャトルへの日本人飛行士搭乗、国際宇宙ステーション計画への参加、なにか日本に利益をもたらしただろうか。私の考えるところ、利益どころか停滞という害毒をもたらしたにすぎなかった。

 とりあえず過去のことは考えからはずし、まっさらな態度で検討するとしても、そもそも火星は日本が今後少ない予算で力こぶ入れるべき目的地だろうか。私にはそうは思えない。

 火星はアメリカがやりたいというのだから、アメリカにやらせておけばいい。アメリカの心象風景に日本がつきあう必要は全くない。太陽系は広いのだから別の観点から別の鉱脈を探した方が、人類全体としても絶対楽しいと思うのだ。

 「アメリカの計画が動き出すから、それにくっついて国家予算を引き出して、新たな官需でしばらく食おう」というような発想は捨てよう。もっと楽しく宇宙に行きたいではないか。

  では日本はどこに向かうべきか。今、そんなことを考え、また議論をしている。

 本日はひたすら原稿書き。夕方、東京に出て本郷方面で定例会議。終了後、実にうまいインド料理の店で夕食を取る。汗がでるほどにいい香辛料でした、


 独占について、森山和道さんからコメントを貰っているのだが、これについては明日以降書くことにしたい。

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Comments

 宇宙開発の主体性ということを考えるのなら、あえてアメリカを意識することも無いのではないでしょうか。同じ惑星を探査するにしても、アメリカとは異なる視点のプログラムを実行することは十分意味があると思います。確かに太陽系は広いですが、火星だって三つ、四つの探査機で全貌がわかるほど狭くはないわけですから。
 だから主体的であるべきなのは、探査内容であって、探査対象ではないと思うのですが。

林さんの仰ることは正論で、研究者の視点としてはそうなっていると思います。が、実際に予算が付く段階では何故かアメリカがステーションだからステーション、火星だから火星、となっていそうだというのが松浦さんの御指摘では?また、実際問題そうだと思いますよ。来年の春頃には日本の新宇宙政策?等という物が出てくると思いますが、それはアメリカの新宇宙政策に呼応した形の物になると思います。(ただし火星まではつき合いきれないので月までとかになるでしょうが)もちん林さんの言われるように、とりあえず月・火星と対象が決まっても、そこから何を調べて何を明らかにするかは、個々の国の研究グループがオリジナリティーを見せることは出来ると思いますが。

ところでアメリカ人が火星好きというのは、惑星科学業界ではよく言われていたことです。私なんかも”アリゾナの連中が火星が好きなのは、周りの風景が火星みたいだからだろう”と良く言ってたものですw
アメリカ人の火星に匹敵するものは、日本人にとってはかぐや姫の住む月みたいですねぇ。このあたりは、以前IAが行ったアンケート調査でそう言う結果(一般アメリカ人の火星好き・月への無関心/一般日本人の月好き・火星への無関心)が顕著に出ていたそうです。

 主体性とはいえ、アメリカのことを一切無視することは非現実的です。

 問題は無批判に追従する風潮があるということですね。そう主張する人は「そんなことはない。現実を見ろ」というものですが。

 日本人は確かに月が好きです。私も以前は「日本は火星よりも月に主力を置くべき」と考えていました。

 でも、月で具体的に何をするか、月に拠点を置くことで一体何が可能になるのか、と考えていくと、あまり月は魅力的ではないですね。南極の氷が実在するならまた話は別ですが。

 最近、ジェラルド・オニールがスペースコロニーを主張するに至った思考プロセスが気になっています。彼は惑星上は必ずしも知的生命体にとって最適の環境ではないと考えたわけですが、どのような経過でそう考えるようになったのか。そこらへんに「我らどこに向かうべきか」という目的を設定するヒントがあるような気がします。

米国が有人火星探査に集中的に資金を投入することによってナノテクなど特定のジャンルの技術の発達が予想されますので、協調と競争の両面がある米国との関係において、競争の観点から考えても火星探査関連技術で水をあけられないように日本も国際共同プロジェクトとしての有人火星探査に参加するという考えもあるかと思います。
米国主導の国際的な計画に参加することは、必ずしも追従を意味するとは限りません。

メリットとデメリットをよく考えて参加を決めればいいことなのですが、個人的には日本の宇宙飛行士を一人ぐらいは火星探査船に乗せたいものですね。

月か火星かどちらを優先するかという議論では、あと小惑星も加えるべきでしょう。
資源の豊富さでは小惑星が一番だと思うのですが・・・

>火星探査関連技術
 火星探査に投資することによって得られるナノテクなど関連技術と、それぞれの個別技術に投資することによって得られる技術のコストパフォーマンスを考えなくてはならないと思います。

 さらには、「じゃんけん後出しOK」としかいいいようのない米国の特許制度が、国際協力でどう利用されるかという問題もですね(実際、先発明主義の特許制度とフィート・ポンド法に固執するアメリカがグローバルスタンダードを言うおかしさというのはあります)。

>小惑星
 その通りです。さらには短周期彗星(水の宝庫)、木星ガリレオ衛星(水も炭素も窒素もある)もですね。

これからの企業はマスメディアを利用する場合企業の先端技術を紹介する番組を放送し一般の人が現代文明に興味を持ち考えるようにするべきだと思われる

 増田さん

 ご主旨は理解できます。しかし、この記事とは無関係の内容ですね。今後このような投稿は自粛をお願いします。

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