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2004.11.23

独占について再考する

 森山和道さんが、彼のWeb日記11月21日の記述で、私が書いた「独占について考える」についてコメントしている。
 要約すると「ソフトバンクが本当の意味でブロードバンド時代をもたらしたのは事実だが、ADSL導入にあたって、NTTと激しく戦ったのは東京めたりっく通信をはじめとしたADSL業者たちだ。また、日本で最初にADSLを研究したのはNTT光ネットワークシステム研究所で、NTTもまた一枚岩ではなかった」という内容である。

 その通りだ。ただ、私はそれら初期のADSL事業者の戦いは、NTT、もっと言えばNTT経営戦略部門が設定した予定調和へと吸収されてしまったと見ている。そういった従来の日本型予定調和では、ADSLの低下価格化は進まなかったろう。それを破り、価格低下をもたらしたのはソフトバンクだったのである。

 もっと書けば、「NTTのえげつなさに対抗して時代のフェーズを進めるには、NTTと同等以上のえげつなさをもつソフトバンクのえぐみが必要だった」ということではないだろうか。

 本当はきちんと調べて書くべきことなのだが、当時の取材などの状況をメモ代わりにまとめておくことにしよう。
 あくまでもメモであり、認識の誤りや事実関係の誤認も含んでいる可能性があることを承知の上、以下を読み進めて欲しい。


 日本でADSL有効性が広く認識されたのは1997年9月から始まった伊那xDSL利用実験からだった。この実験は当時のインターネット関係者達がボランティアで集まり、企画したものだった。が、当時取材した限りでは、NTTはこの実験を陰に日向に妨害しようとしてたふしがある。まず、実験の前提となる電話回線を絶対に貸そうとはしなかった。「混信が発生し、通常の通信業務に支障を来す」というのがその理由である。実は当時混信の可能性が指摘されていたのは、さほど普及していなかったINS64との間であり、通常の電話信号との混信は問題ないとされていた。

 当時の貧弱なINSの利用状況からすれば、NTTには実験に協力する余地が十分にあったはずだが、そうはならなかった。

 この時期のNTTの内部事情は知らない。私は、まだ経営企画の根幹にまでADSLの存在はきちんと知られておらず、現場レベルで「膨大な投資をしてきたINSを無にしかねない実験は妨害するに如かず」という論理が働いたのではないだろうかと想像する。

 結果、伊那の実験はNTTの回線ではなく、農水省の回線を使って行われた。これまた実に驚くべき縦割り行政の一例なのだが、伊那では「農村電話」という農水省の補助で作られた緊急連絡用の電話網が存在したのだ。当時すでに農村電話は廃止の方向にあり、農水省は農村電話に代わってケーブルテレビに補助金を付けていたが、伊那ではこの農村電話の配線がそのまま残っていたのだった。

 しかも農村電話は、ADSLに向いていた。NTTの家庭電話回線、通称「ラストワンマイル」は、戦後の物資困窮時に敷設された。このため、配線直径がアメリカ規格の0.5mmより細かったのである。うろ覚えなのだが0.4mmだったと思う(余談だが細くすればその分銅資源が節約でき、早く全国に電話網を敷設できるという計算は、典型的な学校秀才の思考法であるように思える)。その分インピーダンスが高く、周波数の高いADSL信号を通すには不利だった。一方農村電話は、日本が高度経済成長を始めてから敷設されたので、インピーダンスの低い太い信号線を使っていたのである。

 伊那の成果はインターネット事業者に、とてつもない技術革新がすぐそこまで来ていることを実感させた。なにしろNTTのINSは従来のメタルラインでは64Kbps、最大でも128Kbpsの通信速度しかない。1.5Mbpsを出したければ光回線にしなければならない。ところがADSLなら、そのままで1.5Mbpsのサービスが可能で、将来の技術革新によってはそれ以上、光に迫る速度を従来のメタル回線で出すことができるのだ。

 伊那の実験を受けた翌1998年初夏の日本インターネット協会総会(7月16日でした。いしどうさん、ありがとうございます)は、壮絶なNTTバッシングの場と化した。なにしろ事業者達は、NTTの実験非協力でいらだっており、それに伊那での素晴らしい成果が加わって、ラストワンマイルを解放しないNTTに対する怒りが煮えたぎっていたのだ。ところが、総会に招待されたNTTはどういう口実を付けたか知らないが代表が欠席したのだった。
 どかーん、だ。その場にいた私があっけにとられるほどの勢いで、強烈なNTT批判が次々に飛び出し、しかもNTTを擁護する意見はどこからも出なかった。

 それに対するNTTの反応だが、しぶしぶという感じで、確か98年秋から公衆回線を使ったADSL通信実験を開始した。が、これがなんとも煮え切らない実験で、モニターを公募したものの、そのモニター応募者にもいつ実験が始まるのかよく分からないという状況だった。いくら取材をかけても実験をやってるんだかやっていないんだかよく分からない状況で、実験がいつ始まったのか。いつ終わったのかすらよく分からないという奇妙なものだった。
 今にして思えば、あの公開実験は見せ玉で、NTTは裏でADSLの実力と将来性を必死になって探っていたのだろう。彼らにとって実験用の回線の手当など造作もないことだから。その上で、自らが損をしない、しかも自らの市場支配力を損なわない形でADSLを取り込むための経営指針を策定していたのだろう。

 同時期、NTTは例の「64たす64で128」というコマーシャルで一般家庭向けインターネット接続にINS64を「フレッツISDN」という名前で徹底的に売り込み始める。すでに技術的には1.5Mbps以上の速度を既存回線のまま提供できることが見えていたのに、なぜ急にINS64を売りだしたのか。
 なにしろINS64は、それまであまりに敷居が高かった。そもそも、申込用紙は一般消費者には理解できないNTT専用の通信用語で埋め尽くされていたのだ。
 そんな用紙の殿様商売で売っていたINS64を申込用紙の改訂を行ってまで大々的に売り出した理由は、一つしか考えられない。

 ADSLなど知らない一般消費者から、INSの投資を少しでも回収するためである。

 この時、うっかりINS64を申し込んでしまった人たちは、後でADSLへの乗り換え時に回線をアナログに戻すという面倒な手順を踏むことになった。NTTは、アナログへ戻す手続きを、当初「同じ電話番号のままでは出来ない」と突っぱね、やがて世間の非難を浴びて同番移行サービスを提供するようになった。これもまた計算済みの時間稼ぎだったのではないだろうか。

 今の時点で1990年代末から2000年代初頭にかけてのNTTのADSL対策を振り返ると、以下のような方針だったように見える。

 1)まず、詭弁でも構わないからああでもないこうでもないと理屈を展開して時間を稼ぐ。時間をかせいで巨大独占事業体であるNTTが、ラストワンマイルを独占しているというメリットをフルに生かせる体制を整える。
 2)その間に、ADSLが普及すれば用済みになるINSを売りまくり、少しでも投資を回収する。
 3)ADSL事業者に対しては、1)局舎のADSLモデム設置場所を貸すための手続きを引き延ばす、2)ラストワンマイルの回線使用料を高止まりさせる――で経営を圧迫する。最終的には廃業に追い込むか、資本注入で傘下におさめる。多様な事業者がサービスを提供しているように見せつつ、実はすべてNTT関連企業という体制を作る。

 これは独占事業体が利益を最大にすることを目的としたもっとも合理的な行動だ。だが、一般消費者の利益を最大にする行動ではない。

 森山さんの指摘する東京めたりっく通信を始めとした、初期のベンチャー的事業者は、結局NTTのシナリオ通りに解体され、吸収されてしまった。そして、「ADSLもやっぱりNTT東日本と西日本のフレッツADSLだね」という雰囲気ができてきたところに、ソフトバンクが参入したのだった。

 以上、メモ代わりに書いてみた。記憶に頼って書いているので、事実関係に誤認がある可能性がある。間違いを見つけた人は、コメントないしトラックバックで指摘していただければと思う。

 こういう話は、本当はずっとネットをウォッチしていたINTERNET Watchあたりの関係者がきちんとまとめておくべき話だと思う。私がこの分野を専門として取材していたのは1998年と1999年の2年間だけ。後は自宅にADSLを入れるタイミングを狙ってあれこれ情報を収集していただけだから、とてもその任には耐えない。

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Comments

NTTの卑怯で姑息なやり方をうまくまとめて頂き感謝。
しかし、森山氏の本意は、あなたの書き手としての動機の悲しさに向いていたのではないか。
肉親にソフトバンク関係者がいるから、ヤフーを持ち上げる。
JAXAや宇宙開発関係者には、大切な食い扶持をもらっているから、本質的な批判はしない。
新潮社には今後お世話になるかもしれないから、ミスリードにやさしく対応。
そうしてたまった鬱屈を、卑怯なNTT、馬鹿な日テレ・フジ、気違いNHKに丸ごとぶつける。
それでは、単なる宇宙土建屋業界ライターの卑屈なポジショントークではないか。あなたは、そんなふうに見られ始めてているんですよ。
「せっかく書き手としての能力と機会が天から与えられているかもしれないのだから、たとえブログといえども、もっと立ち位置をしっかりしなさい」というありがたいアドバイスとして森山さんに頭を垂れて感謝すべきではありませんか。

(本当は)あなたを応援しているものより

BPさん

 URLのところにかつて私の在籍した日経BP社のアドレスを入れていますね。これは

1)もしもあなたがBPの社員ならば、「雑誌出版を業務とする会社の社員が、身分を明かしてこのページを開設している松浦に対して、会社を隠れ蓑に匿名で批判を書き込んだ」ということになります。

2)もしあなたがBPの社員でないならば、「BPの関与を暗示させつつ、BPという会社の名前を無断で利用した」ということになります。

 いずれにせよ、ネット上での振る舞いとしてあまりほめられたことではありません。

 もしもBPの方ならば、私に直接メールをください。アドレスは社内で調べればすぐに分かると思います。直接お会いするにやぶさかではありませんし、旧知の方ならば一献傾けてもよいと考えます。

>書き手としての動機の悲しさ
 これについては別途記事を書きますので、そちらを読んでくださればと思います。

1998年の日本インターネット協会の総会は、7月16日に開催されたようです。

http://www.iaj.or.jp/schedule/schedule98.html">http://www.iaj.or.jp/schedule/schedule98.html

残念ながらitmedia(旧ZDNet Japan)とImpress Watchサイトではその記事をみつけられませんでしたが…

 おお、いしどうさん、ありがとうございます。そうか、7月でしたか。

 直しておきます。

 そういえば、総会の後で伊那の実験を主導した数理技研の方に会いに行ったのでした。新宿駅南口の辺りを暑い暑いと言いながら歩いた記憶が蘇ってきました。

「独占事業体が利益を最大にすることを目的としたもっとも合理的な行動」
回線は一度売ってしまったらどれほど旧式化しようとユーザーがそれを利用しつづける限りサポートしつづけなければならない、よほどの理由が無い限り事業者側から一方的に廃止することが難しいものと思います。一般ユーザーはともかく企業ユーザーは一度構築したシステムは10年でも20年でも使いつづけます。顧客は資産でもあり負債でもあるといいますが、例え時間稼ぎ目的でも「使えない」システムを大量に売ってしまったらその顧客が不良資産に化けてしまう危険が大きく、合理的な行動とは言えないのではないかと思います。
これは単に繋がるかどうか、どれだけのスピードが出るか、繋いでみなければ判らず、局から近距離しか届かない=サービスできない地域ができてしまうADSLを嫌っただけではないかと思います。あるいは、一度ADSLをサポートしてしまうと銅線を光ファイバに切り替えることが困難になることを嫌ったのかもしれません。
ユーザーの利益を考えていない、ADSLの有用性の評価を見誤った、という非難なら妥当かもしれませんが、利益独占のための陰謀シナリオを書いた、というのは言い過ぎではないかと思います。

 NTT東日本のサービス品目を調べてみました。
http://www.ntt-east.co.jp/tariff/service/service-03.html">http://www.ntt-east.co.jp/tariff/service/service-03.html

 びっくりです。50bpsのサービスというのはおそらくテレックスでしょう。まだサービス提供をしていたのですね。かなりの部分がレガシー(遺物的)サービスじゃないでしょうか。

 2004年11月現在のこのサービス品目からの推定ですが、1998年当時のNTT首脳部としてはレガシーの増加を「大したことではない。今までもあったことだ」と認識していたのではないでしょうか。そんな気がします。

>局から近距離しか届かない=サービスできない地域ができてしまうADSL
 確かに当時のNTTは、ユニバーサルサービスに執着していました。「全国一律ではないからダメだ」と。昨今の郵政民営化を巡る議論とちょっとだけ似ています。

 が、結局のところ過度にユニバーサルに執着することは官僚システムの保護でしかなかたな、というのが今の私の実感です。当時500bps~1.5Mbpsで夢のような速度が出ると思ったADSLは、今や公称で最大47Mbpsとなり、私の家では13Mbpsの速度が出ています、10BASE-Tのイーサネットでは伝達できないほどの速度です。それに伴い、電話局から遠方であっても少なくともISDNの128kbps以上でサービスできる地域は大きく広がりました。人口比率でみるとどれぐらい行ったか、かなりの部分をカバーできるようになったのではないでしょうか(データが欲しいところです)。

 この実情からして、当時のNTTの態度はADSLを巡る技術の進歩を読み誤ったせいだと思います。過失なら国民の利便に対してNTTが犯した失敗であり、そう故意に読み誤りを装ったならば国民に対する背信といえるでしょう。

>銅線を光ファイバに切り替えることが困難になることを嫌った
 これはありました。NTTにとってラストワンマイルまでもの光化は至上命題になっていました。
 当時、インターネット協会に集まっていたネット事業者の立場は「光を入れるからといってせっかくのメタル配線のラストワンマイルを撤去するのか。だったら使わせろ」でした。確かNTTは配線を通す配管の余裕に問題が生じる可能性がある、と説明していた記憶があります。

 ここで問題は「ADSLという技術があるのに、光ファイバを入れる理由はなにか」です。「NTTの規定方針が光だから」というのは理由になりません。

 正直、現行の100Mbpsの光回線に、新たな投資をする価値を私は感じません。新たな投資は新たなサービスを生まなければ無意味です。1Gbpsで接続できたり、少なくとも100Mbpsを1ユーザーで独占できるなら高精細テレビのビデオオンデマンドなど新たな市場も発生するでしょう。しかし、現状の光回線は多人数で共同利用するので、単一ユーザーで47Mbps、実態として5~10mbpsを使えるADSLと比べると、メリットは安定性だけではないかと思います。その安定性も、ADSLはユーザーが我慢しがたいほど不安定だということもありません(一部では問題もあるようだが全面的な構造的問題というわけではない)。

 「何に使うのか」という問いに対するNTTの答えがRENAです。しかし私は下記の記事にあるように、RENAを消費者が望むかというところには疑問を感じています。INSの時もそうでしたが、NTTはユーザーニーズをつかむという点では伝統的に見事なぐらいに下手です。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20030514/1/">http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20030514/1/


 NTTグループは2007年度までに大規模な回線光化を進める考えでいます。しかも光回線をネット事業者に開放しないように色々と手をうっています。このことから考えると、むしろ回線を光に切り替えることは、NTTグループにとってADSL事業者を振り落とす意図があるのではないかと考えます(それが主目的かどうかは分かりませんが)。

 NTT光回線の他事業者への解放という問題は、今後、電話の施設負担金をちゃらにするという問題とリンクするのではないかと思います。電話回線設置時の施設負担金は、全国の電話回線整備に使われたわけで、それを資産と見なさないということになるならばNTT丸儲けということになります。
 施設負担金で敷設した回線網なら全面的に解放すべきではないかというのが、私の意見です。「光回線は違う」というでしょうが、光への投資の余裕が、施設負担金から発生している以上、光回線も解放すべきでしょう。

>利益独占のための陰謀シナリオを書いた
 私は一言も「陰謀」とは書いていません。それをなぜ小澤さんが「陰謀」と読み解いたのか、ちょっと興味があるところではあります。

50bpsアナログ回線は上水道施設の遠方監視のためのテレメータ装置用などに使われています。
http://www.m-system.co.jp/MameChishiki/02_04/0203.html">http://www.m-system.co.jp/MameChishiki/02_04/0203.html

遺物的サービスではなさそうです。

>遠方監視のためのテレメータ
 なるほど。

 しかし上水道という公共事業的用途、しかも限られた用途しかないというのが気になりますね。信頼性その他で本当にこの手法しかないのか。それとも、変化を嫌う公共事業の習癖故にコストパフォーマンスを無視して無意味に残っているのか。

>私は一言も「陰謀」とは書いていません。それをなぜ小澤さんが「陰謀」と読み解いたのか、ちょっと興味があるところではあります。
主に「NTT経営戦略部門が設定した予定調和へと吸収されてしまった」「結局NTTのシナリオ通りに解体され」の部分です。NTTが判断ミスか、独占利益獲得のためか、他社にADSLで出遅れていて、挽回のために何らかの計画を立てていたとします。これが違法でも非道徳的なものでもなかったとするなら、結果として競合他社が解体されたとしても、それは別に非難するほどのものではないはずです。けれども、松浦さんはかなりきつい論調で非難されている、つまり、違法とまでは言わないまでも反社会的非道徳的な計画(シナリオ)だった、と主張されていると受け取りました。陰謀という単語を不用意に使った私が悪かったかもしれませんが、私が気にしているのはNTTが全ての状況を把握した上で、利益独占を目的にしてADSLの普及を妨害したのか、ということです。

>ここで問題は「ADSLという技術があるのに、光ファイバを入れる理由はなにか」です。
一つ訂正です。補足修正と言うべきかもしれませんが、光ファイバ技術の方が先にあり、後からADSLが登場したので「新たにADSLという技術が登場したのに、既存の光ファイバ化計画を破棄しない理由はなにか」あるいは「既存の光ファイバ化計画を破棄するだけの価値がADSLにあったか」ではないかと思います。
ちょこっと調べてみたらNTTは80年代から少しずつ、回線の光化を進めていたようで、ADSLの概念が出てきたのが89年、90年代後半になってインターネットが普及し始めて、FTTHでは普及が間に合わないからADSLにしろ、という話になったわけで、逆に言えばFTTH が十分な速さで普及するならADSLにする必要は無いわけです。ADSLは近距離しか使えない、銅線というハードウェアに依存する、ノイズに弱い、他回線にノイズを乗せる恐れがある、通信速度を保証できない、上り速度が低い、弱点だらけです。NTTが今後も固定回線を主力とするつもりでいるなら能力的に不安を覚えてもおかしくは無いと思います。

>正直、現行の100Mbpsの光回線に、新たな投資をする価値を私は感じません。新たな投資は新たなサービスを生まなければ無意味です。
現時点においては、ですよね? イメージ主体のWEB等が普及したからADSLが求められたのか、ADSLが普及したからイメージ主体のWEB等が普及したのか、どちらかは判りませんが、それを考えれば5年後10年後もADSLで十分であると断言できるかどうか。それにネット接続の目的がメールやテキスト主体のWEB閲覧くらいである、とするなら(98年頃といえば重いページはそうは多くはなかったように思います)ISDNでも十分であるとも言えるはずです。

ただ、誤解しないでいただきたいのですが、ファイバー化が正しい、NTTは公平だ、というようなことを主張したいのではないです。NTTがADSLを嫌ってファイバー化を推し進めたのにはそれなりの理由があるように思えますし(技術屋としての、ですが)、今からすれば誤断だったと言えると思いますが、「独占事業体が利益を最大にすることを目的とした行動だが一般消費者の利益を最大にする行動ではない」だったとは断言できないのではないか、と思うのです。NTTが自社の利益を最大にしたいと考えていたのなら新規投資などせずに既存の設備をフル活用、すなわちFTTHの全面凍結とADSLの全面導入を行なっていたのではないかと思います。ネット接続にしても、無線や電力線などいろいろな技術、企業が名乗りをあげつづけており現時点でNTTが最大手のADSL業者であったとしても、その設備群が一夜にして不良資産に化けてしまう可能性だって無いわけではないと思います(うちのマンションも今秋東京電力の光ファイバーに切り替わりました)。今後も注視する必要は大いにあると思いますが、NTTが巨大独占企業で一般消費者を犠牲にして肥え太っていると決め付けることはかえって危険ではないかと思います。

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