Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« NHKの現状について本を紹介する | Main | 己のやらかした誤報を思い出す »

2004.11.11

究極のおやじアニメ、「装甲騎兵ボトムズ」を語る

 深刻な話題だけというのもいけないので、気楽にオタクな話題などを。

 現在、デジタルCS/CATVのアニマックスで、「装甲騎兵ボトムズ」(1983年サンライズ、高橋良輔監督)というアニメをやっている。仕事をしつつ深夜の放送を観ているのだが、いやあ、やっぱりボトムズは面白いですな。

 このアニメ、本放送の時にえらく流行った。どこで流行ったかといえば、当時私が所属していた大学の模型クラブで流行ったのである。

 最近「げんしけん」(木尾士目 アフタヌーン連載)というマンガが面白くて、「アフタヌーン」を久しぶりに買っている。
 このマンガが描くオタクライフは非常に生ぬるい(もちろんマンガを面白くするためであって、作者の能力不足ではない)。「高々テレビアニメでぐだぐだしている」とか「コミケに売り手ではなく単なる買い手で通っている」とか「同人誌あさりだけで秋葉原を徘徊している」とかで言っているのではない。

 「真のオタクの極北には、非オタクの彼女も、コスプレ好きのやおい巨乳娘も、自意識過剰のロリータ娘も来ない」のである。「ケバい化粧の妹」だって来ないのだ。

 真の漢は、プラモデルあるのみ!

 そういうクラブだった。渋谷の、壁に巨大なベアキャット戦闘機の写真が貼ってあった喫茶店に集まって、「メッサーシュミット戦闘機はバランスのE型かパワーのG型か」「フォッケウルフはA型かD型か、はたまたTa152CかHか」、「タイガーとT-34ではどちらが兵器として正しいか」とか、まあそんな話ばかりしていた。そういえばフォークランド紛争の時も「ミラージュかハリアーか」「エタンダールは本当に使えるのか」「そもそもフォークランド諸島と呼ぶべきなのか、マルビナス諸島と呼ぶべきか」なんて議論をした記憶もある。

 で、そこで流行ったのだ。「ボトムズ」が。

 どんなに流行ったかと言えば――

 キャンパスを歩いている奴がなにやら歌っている。「ちゃんちゃーっちゃちゃちゃちゃちゃちゃー」、そう、あまりの格好良さで話題になったレッドショルダーマーチを歌っているのだった。もちろんウォークマンなどはなしだ。

 バカである。

 あるいは、体育館のような天井の高い建物に入ると銀河万丈の声色で「ウドの街は金次第…」とウド編の次回ナレーションを始める奴が出る。

 バカである。

 さらには宴会、そろそろ空き瓶が転がる頃になると、必ずビール瓶を束ねて持つ奴が出てくる。ビール瓶2本、ノンアルコールの小さな瓶が1本というのが基本だ。で、顔の前に瓶の底面をかざして持ち、くるくる回して歌い出すのだ。「ぬすうまれーたかこさがしつーづけて」。ボトムズのオープニングだ。

 大バカである。

 どういう訳か、ボトムズにはまったのは、飛行機パートでもAFV(アーマード・ファイティング・ビークル:戦車とか装甲車とかです)パートではなく、ウォーターラインパートが多かった(ウォーターラインというのは喫水線から上だけを再現した艦船模型です。もちろん潜水艦であっても喫水線から上だけを作るのです)。

 その後も「ボトムズ」は再放送の度に楽しませてもらった。番組が面白い上に、青春のろくでもない楽しい思い出も付随してくるのだからたまらない。もちろん本放送の後でビデオで出た分は無視だ。真の漢は本編のみ!そこまでストイックであってこそボトムズである。

 今観ると、このボトムズ、なかなかとんでもないアニメだと思う。

 まず舞台はすべて当時流行った映画からの借り物だ。ウド編は「ブレードランナー」、クメン編は「地獄の黙示録」、サンサ編は「砂の惑星」、クエント編は「砂の惑星」プラス「2001年宇宙の旅」――オリジナリティはどこ?と問いたくなる。
 が、通してみると他に例のないものに仕上がっている。基本は井原西鶴だろうか、つまりは主人公キリコとヒロインであるフィアナの道行なのである。

 そして極端に女性キャラが少ない。全編を通して出てくるのは、フィアナとサブヒロインのココナの2人だけである。

 さらに登場人物の年齢がやたらと高い。はっきりティーンエイジャーと特定できるのはココナだけ。確かキリコは設定上は19歳だったはずだが、あの行動はどう考えても20代後半だ。フィアナも25歳前後の思慮を備えている。

 でもって可愛い娘に代わって出てくるのが、おやじ、おやじ、おやじ――ゴウト、ボロー、イスクイ、キリイ、ロッチナ、バッテンタイン、カンジェルマン、カン・ユー、ゴン・ヌー――魅力的なおやじキャラが輩出する史上最高のおやじアニメではないだろうか。

 なかでもクメン編に登場する傭兵の中間管理職、カン・ユー大尉は最高でありましたな。気が小さいくせに威張るのが大好き、強きを助け弱きをくじき、部下の手柄は独り占め、自分の失態は部下に押しつけ、部下を怒鳴って上司にゴマをする――ダメでイヤな中年男をあそこまで容赦なく描くというのは大笑いを通り越して感嘆するしかない。

 もちろんメカも素晴らしかった。「スコープドッグ」「機動戦士ガンダム」「ザク」に続く大河原邦男氏がデザインしたアニメメカの傑作だ。最近鉄工で作っている方もいますな。
 これらに「蒼き流星SPTレイズナー」「スカルガンナー」を加えると、私にとっての大河原メカは完結する。

 驚くべきことに、この格好いいスコープドッグ、作中ではただの量産メカであり、キリコは次々に乗り捨てにするのだ。赤と青と黄色で塗られて「主人公でござい」と記号付けされたメカではないのだ。あまつさえ全編のクライマックスで、キリコはスコープドッグではない、別のメカに搭乗するのである。初代ガンダムのクライマックスでアムロが足付きジオングに乗って登場するようなものじゃないだろうか。

 そんなこんなで、ボトムズに夢中になった模型クラブの面々だが、数年後には卒業して社会へと出ていった。そして――実はここが本当に恐るべきところなのだが――それぞれの職場で、カン・ユーだとかゴン・ヌーだとか、はたまたロッチナだとかの実物に出会って「どっひゃー」となったのである。

 実社会は、アニメどころではなく奥が深かったのであった。


追記:
 おお、ココログでDVD発売プロモのblogが始まっているではないか。いくら本編だけではなくビデオ版も入っているとはいえ10万5000円は私の財布から出ないなあ、と思いつつ、とりあえずトラックバックをかけることにする。

« NHKの現状について本を紹介する | Main | 己のやらかした誤報を思い出す »

アニメ・コミック」カテゴリの記事

Comments

残された バグを探し続けて
俺は働く 定時を 過ぎて
タバコの臭い 染みついて むせる
納期なら 切れた筈さ 終った筈さ
7時になれば 夜食を食べる
牛丼は 飽きたのさー
定めとあれば、心を決める
大盛りに しておくれー
明日も ああ 仕事の今日ぐらい
copy write by アスタリスク

主人公メカではなく、兵器、道具として描いていたところがとても印象的でした。動かなくなっ機体を乗り捨て、拳銃で応戦。アニメ史上最強のダーティーヒーローではないかと愚考する次第です。

ああ、ボトムズ。私は大学の構内を急ぐ時に、ローラーダッシュの効果音を再現しながら走ってましたねぇ。auの着うたでOP/EDが出てまして、涙ぐみました。

そういえば、あの「なんでも作るよ」の実物大鋼鉄製ボトムズの作者さんに、富士の麓のアトリエまで初めて現地インタビューに行ったのは私です。記事として掲載する前に、肝心の雑誌がなくなっちゃいましたが。

後日、大河原さんが富士の麓のアトリエへわざわざ訪ねてきて現物(1/1ボトムズ)を見て、「ああ、ここはこれで合っていた(合理的にデザインされていた)んだなあ」と何度か呟かれたとか。いいお話ですね。

放映前に○河原さんの家で、コンテとデザインを見せてもらった時には「なんじゃこのタコ坊主」と思ったものでした。あの頃は堅気の商売だったんだけど、御大公認でMS少女を描くとかしているうちに、こんなヤクザな商売に…。
そういえば、あの頃の酒席では「タミヤ○○兵セット、やりまーす!」とか言って、砲兵セットや突撃兵セットの形態模写やってたなぁ。

超大バカである。

>替え歌
 ありましたねえ、私が覚えているのは「俺はさまよう、代々木の街を」という予備校バージョンです。

 yamaさん、こちらでは初めまして。取材行ったんですか。いいなあ。あれ、すごいですよね。ローラーダッシュ、我々もやりました。

>タミヤの兵隊
 けっこう変なポーズじゃなかったですか。あれ。何人かでセットを再現すれば笑いも数層倍ってとこでしょうか。

 真の漢はフルスクラッチ。

>真の漢はフルスクラッチ
 うう、確かに。

 私のいたクラブでは数年毎に1人ぐらいの割合で「ゴッドハンド」と呼ばれる腕前の人材が出ました。もちろんスクラッチなど当たり前です。

 歴代ゴッドハンドの中でもっとも腕が立った奴は、現在某模型メーカーの原型師です。

 む、どちらの蒲田さん?それとも地名でしょうか。

 リンク先の「カン・ユー最高はデフォルト」というのは、別に「他人もそう思うから俺も」ではなく、皆がそういうまでに強烈なキャラクターを造形し得たということでしょうね。

 ついつい語りたくなり、しかも色々な解釈を許すというのは優れた作品の条件だと思います。

上に挙げたスレのタイトルです、すみません

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 究極のおやじアニメ、「装甲騎兵ボトムズ」を語る:

» 究極のおやじアニメ、「装甲騎兵ボトムズ」を語る (松浦晋也のL/D) [ひであ観察日誌]
https://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2004/11/post_7.html 明日のロケットイベントに出演するメンバーのおひとりである松浦晋也氏のBlogから。 この日記を ... [Read More]

« NHKの現状について本を紹介する | Main | 己のやらかした誤報を思い出す »