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2004.12.27

日々は巡る

 blogをほったらかしてなにをしているかといえば、もちろん原稿を書いているのである。年末年始一切関係なし。もともと他人様が何をしていようと気にしない性質なので、別に年末年始に休めなくとも不満はない。自分のペースで自分のしたい仕事ができるのは幸せだ。

 忙しいので、簡単なメモをアップして、生存証明とする。

  • スマトラ島沖の大地震:第一報の情報源が、米地質調査所(USGS)であったことに驚く。アメリカの世界支配の網は緻密だ。

     世界支配にはまずなによりも世界を知ることが重要で、そこには「地球を知る」ということも含まれる。GPSや気象衛星については拙著で触れた通り。地球観測衛星についても言うまでもない。
     それだけではなく、地球科学も地誌学も農業科学も生命科学も、およそ地球上の存在、あるいは地球そのものを対象とする科学は、国家システムから見れば、すべて世界支配の有力な道具となる。昨今、日本近海に出没する中国の調査船も、その文脈で読み解けば理解できる。中国はアメリカのように「世界」を支配したいのだ(文字通りの「中華」だ)。そのために自然科学が必要なのである。
     日本という国家の、自然科学全般に対する投資の不足は、実のところ第二次世界大戦後の日本がアメリカの軍事的庇護の元、「平和国家」として経済成長を遂げたことの反映なのかも知れない。

     それにしても心配なのはモルジブだ。ただでさえ地球温暖化による水没が心配される島々に、津波がどんな被害を与えたのか、想像するだに恐ろしい。

  • リーマン予想:書評仕事もあって、「リーマン博士の大予想」(amazonbk1)、「素数に憑かれた人たち」(amazonbk1)を読む。面白い。ゼータ関数とはこういうもので、このようにして素数定理と結びついていたのか。
     中でもレオンハルト・オイラーの業績に瞑目する。ゼータ関数が素数に関係した無限積と等しいというのは、これはもう現実に存在するセンス・オブ・ワンダーではないか。e のπi乗が-1に等しいというオイラーの公式を知った時以来の衝撃だった(いや、複素数学の留数定理以来かな)。
     リーマン予想に取り組む数学者に興味があれば「リーマン博士の大予想」、リーマン予想そのものを分かった気分になりたければ「素数に憑かれた人たち」がおすすめだ。

  • デルタ4ヘビー打ち上げ:昨年からずるずると延期を続けていたボーイング社の新型大型ロケット、「デルタ4ヘビー」の1号機が12月21日に打ち上げられた。日本国内メディアでは「成功」としか報じられていないが、実はペイロードを予定よりも低い軌道にしか投入できなかった。ボーイング社は「成功だ」とコメントしているが、私の見るところこれは失敗だ。予定の時刻に予定の軌道にペイロードを投入できなければ、ロケットは役に立たない。
     それよりも心配なのは実は「デルタ4ヘビー」は失敗作ではないかということ。昨年来の延期は数ヶ月単位で延びるというもので、どうも構造的な問題があるのではないかと思わせる。
     設計を見ても、そもそも第1段から液体水素・液体酸素を使うというのは合理的ではないし、だいたいコアを3本束ねたブースター構成は、どれか1基のエンジンが失火すれば打ち上げは失敗する。失敗確率はぐっと上がるし、しかも3基のエンジンはフェールセーフになっていない。「駄目な双発機」だ。
     この「デルタ4ヘビー」をボーイング社は、ブッシュ大統領の新宇宙構想に売り込もうとしている。この技術を敷衍していけば「サターンV」クラスの大型ロケットも作れますなどとアピールしているのだ(ボーイング社のデルタホームページ内、「delta IV→TECHINICAL SUMMARY」を参考のこと)。
     もしもこのロケットが新宇宙構想の主力ロケットになったら(官需企業ボーイング社の保護という観点からすると可能性は十分にある)、スペースシャトルの二の舞になる可能性があるように思う。

  • 共栄堂のカレーと焼きリンゴ:先日、東京に出た際に神保町の共栄堂によってポークカレーと焼きリンゴを食べる。ここの焼きリンゴを食べると、ああ冬だなあという気分になる。確か5年ぶり。
     隣を見ていると「ライス中盛り」と注文し、山のようなご飯が運ばれてきていた。そうか、そういう注文方法があるのか。今度やってみよう。

  • ジャック・イベール「祝典序曲」:ここしばらく原稿書きの際のヘビー・ローテーション。イベールは「交響詩・寄港地」「フルート協奏曲」が有名だけれども、私はこの「祝典序曲」をイベールの最高傑作だと思う。フランス流の良く鳴るオーケストレーションとドイツ風の堅牢な楽曲構成が結合し、融合しているのだ。ティンパニに導かれる短い前奏に続いて、いきなり低弦から始まるフガート、中間部の金管によるコラール、終結部の盛り上がり——どこをとっても完璧。
     ちなみにこの曲、昭和15年の紀元2600年記念に日本政府が世界中の作曲家に委嘱したオーケストラ曲の1曲。委嘱されたのはリヒャルト・シュトラウス(ドイツ)、ヴェレッシュ(ハンガリー)、ピッツェッティ(イタリア)、イベール(フランス)、そしてベンジャミン・ブリテン(イギリス)。
     いちばんのトンデモさんはシュトラウスで、「ド・ミ・ソ」で鳴る銅鑼を使う「皇紀2600年祝典音楽」を作曲してきた。東洋にはそのようなものがあると誤解したらしい。そんなものがあるはずがなく、初演の時は似た音程の銅鑼を日本中探し回ったとか。
     一番の困ったちゃんはブリテン。なにを思ったか亡き父に捧げる「シンフォニア・ダ・レクイエム(鎮魂交響曲)」を送ってきた。祝典に鎮魂とは何事か、と日本政府はこの曲を突き返した。曲自体はブリテン初期の傑作というあたりも凶悪である。
     そういった周囲とは関係なしに、イベールの曲はいかにも祝典らしい派手さの中に厳粛な雰囲気もあって、私は大好きだ。ちなみにナクソスから佐渡裕指揮・ラムルー交響楽団のCD(amazon)が出ているので簡単に入手できる。聴くべし。

    追記:おお、解説ページがあるではないか。こっちのほうがよっぽど詳しいので、興味のある方はどうぞ。


 今年は喪中だ。そもそも私は記者生活最後の2年を郵政省に通い、その内部のあまりのドロドロさにあきれて以後可能な限り郵便局を儲けさせてなるものかと、年賀状を出すのを止めてしまった。
 インターネットがあたりまえの社会インフラになった今、少なくとも私にとって年賀状を出す意味はすでにない。不要な物に力を注ぐぐらいならもっと有意義に自分のエネルギーを使いたい。ましてそれが、あのでろんでろんの旧郵政省——今は日本郵政公社だがどうせ大して変わってはいないだろう——を儲けさせるとなれば、論外だ。


 というわけで、このblogはまだ当分続きます。年賀状代わりに世間一般に向かって日々情報を書き散らしていると思って頂ければ幸いです。

 さあ、仕事に戻ろう。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

Comments

モルジブは日本が支援して作った護岸工事のために被害が少なかったようですね。
宇宙開発がアメリカや中国の世界支配のためにではなく、このような災害に会った人達のためになればよいなと心から思います。
良いお年を。

第一報の情報源は、米地質調査所(USGS)ではなく、インドネシア東部・東ヌサトゥンガラ州の気象当局のようですが・・・
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041112-00000103-kyodo-int">http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041112-00000103-kyodo-int
インドネシアが最初にマグニチュード6の震度を発表しています。
米地質調査所がマグニチュード8.9を発表したのはその後です。

今回の津波被害の問題点は、これまであまり津波被害がなかったことからインド洋沿岸には太平洋沿岸のような津波被害に備えたシステムがなかったことです。

地震や津波のような突発的な大災害はもちろん、地球温暖化のような緩慢な大災害に対してもやらなければならないことはたくさんあるようです。

日本の宇宙開発の優先順位からいえば、有人宇宙ロケットよりも、地球環境監視の方が上でしょう。

先の書き込みの若干の訂正です。

>インドネシアが最初にマグニチュード6の震度を発表しています。

もちろん、マグニチュードと震度は別ものですから、この表現は不適切でした。

 報道によるとモルジブでは日本の援助防潮堤によるが役に立ったようでなによりでした。

>第一報の情報源は、米地質調査所(USGS)ではなく、インドネシア東部・東ヌサトゥンガラ州の気象当局
 まず、 jan_goody2004さんがリンクしたニュースは11月12日の全く別の地震に関するものです。ここで話題にしているスマトラ島沖地震は現地時間の12月26日午前7時58分53秒でした。

 今回の地震を世界のどの機関が捉え、どう伝達したかを注目していたら、本日1/1になって毎日新聞にワシントン和田浩明記者による記事が出ました(私が見たのは東京13版の3面トップ)。

 同記事によると地震発生後15分に米海洋大気庁(記事では海洋大気局、NOAAのことでしょう)の太平洋津波警報センター(ハワイ)が地震発生後15分に第一報を発信。「この段階で『地震の規模はマグニチュード(M)8.0。太平洋の外で起きており、歴史的データによれば、破壊的な津波の脅威は存在しない』」としていたそうです。地震発生後1時間5分後に第二報を出して地震規模をM8.5に、「震源付近で津波の可能性」と修正したとのこと。

 記憶に頼るのですが、私は当日午前中のJNNニュースバードで「USGSによれば」というニュースで第一報を聞きました。
 私の記事はこの記憶に基づいています。記憶に基づくことはかならずしもいいことではないですが、それは情報の出所を「私」と明らかにすることで、その瞬間の情報流通がどのようなものであったかを記述することになります。

 NOAAとUSGSが官僚縦割りで似たような情報を流しているのか、それとも相互補完的に情報を流通していたのかは分かりません。が、今回のスマトラ沖地震において、米国の機関による情報が、地震発生直後において、主導的役割を果たしたことは間違いないようです。


 ここでjan_goody2004さんにイエローカードを出しておきます。

 ここしばらくのjan_goody2004さんの本ホームページにおける書き込みは、どうも反射神経的で十分な事実確認に欠けているきらいがあるようです。

 しかも複数の記事に渡る短期間の書き込みは、己の意見を簡潔に表明するというよりも自己顕示欲にかられ、にもかかわらず「jan_goody2004」という匿名で書き込むという矛盾した行動に出ていると読者に理解されても仕方がないでしょう。

 blogにおけるコメントというシステムは発展途上であり、未だ「どうふるまうべき」というネチケットは確立していません。ただ、書き捨ての形状を取る以上、1)本筋である記事に対して、2)己の意見を、3)事実に基づき、4)己の能力の限り簡潔に、投稿すべきものではないか、と、私は考えます。

 もしもjan_goody2004さんが自己顕示欲に基づいて私のページに連続投稿したならば(おそらくはそうではないでしょうが)、別途自分名義のページを開設して自分の思うところを開陳するのがインターネットにおける筋というものでしょう。

 もしもjan_goody2004さんの意見が、私の意見にしか触発されない程度の薄弱なものならば(私は現状そうではないだろうと思っておりますが)、jan_goody2004さんはインターネットにおけるS/N比を上げるために沈黙すべきと私は考えます。

 インターネットは何人の言論にも制限を設けるものではないでしょう。ただし、それは「己がコストを支払った情報リソースならば」ではないかと私は考えています。

 匿名による言論を、私は否定しません。が、客観的に証明しうるそれなりの状況証拠なり整合性がない限り、相応の信用しか得られないでしょう。


 反論は受け止めますが弁明は不要です。以後、私の意見を受け止めた結果を持って振る舞っていただければ、と要望するものです

たいへん失礼しました。
お詫びとともに上記の投稿を撤回させていただきます。
申し訳ありませんでした。

ただ、日本国にとっての地震情報の第一報は気象庁の持っている情報網によるものですから、ロイターなど限られた通信社と契約している日本の民間のマスコミの第一報をもって日本国にとっての第一報と考えるのは早計ではないかと思います。

気象庁の地震情報のネットワークは下記のようになっています。

http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/press/0412/27a/kaisetsu200412271600.pdf">http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/press/0412/27a/kaisetsu200412271600.pdf

遠隔地で発生した地震については、地震津波監視課精密地震観測室(長野市)の地震
計をはじめとする全球地震観測ネットワーク(IRIS:別紙1)の地震データをもとに震源・規模を推
定しています。今回の地震についても、米国地質調査所(USGS)や太平洋津波警報センター(PTWC)
からの情報も参考に、震源がスマトラ島西方沖であることから日本への津波の影響はないと判断し、
その旨を26 日10 時44 分に地震情報として発表しました。


東南アジアも含めてこのようなネットワークがあるわけですから、米国の覇権云々というような話ではなく、国際協力の典型的な例と言えるでしょう。

 気象庁の発表文、読みました。全地球観測ネットワークというのが稼働しているのですね。

 ただし地震ではなく津波まで視野に含めると、ちょっと状況はjan_goody2004さんのご指摘とは違うようですよ(まあ最初は私が津波と地震を区別せずに書いたわけですが、この両者は原因と結果であり不可分ということで厳密性の点は許していただければ)。

 最後のページまで読むと、「津波予報に関する国際協力」とあり、「太平洋津波警報センター(アメリカ)/運営中」、「アメリカ西海岸/アラスカ津波警報センター(アメリカ)/運営中」、「北西大西洋津波情報センター(日本)/平成17年3月から業務開始」、「南太平洋・インド洋津波警報組織(インドネシア)/構想中」、「中米津波警報組織(ニカラグア等6カ国)/構想中」とあります。

 アメリカは2つもの組織を現在すでに運用中で日本は近く運用開始、インドネシアとニカラグアなどは構想中ということで、やはりアメリカが主導権を握って進めている雰囲気がありますね。

 jan_goody2004さんは、1)上記事実を見過ごして「米国の覇権云々というような話ではなく、国際協力の典型的な例と言えるでしょう。」と書いていること、2)さらに私の前の書き込み(January 1, 2005 10:16 PM)と、jan_goody2004さんの書き込み(January 1, 2005 11:57 PM)のタイムスタンプを比較すると――どうもjan_goody2004さんは、自分が引用したページをすべて読み込み、理解することなく、反射神経的に当ページに書き込んでいるように思われます。

 もう一度だけチャンスを与えましょう(当ページの維持コストは私が支払っていますので、この程度のささやかなジャッジは許されるかと思います)。

 今後、本L/Dにおいて前書き込みから48時間以内にjan_goody2004さんが書き込みをしているのを、私が発見したならば、それ以降jan_goody2004さんは当ページへの出入りを禁止します。

 なにか思いついてから少なくとも2日は間を開けて、じっくり考えてからの書き込みをお願いいたします。

 私は「すべてはアメリカの世界支配だ」と主張するつもりはありません。スーパーパワーには「世界を組織的に知る仕組み」が不可欠で、アメリカはそういう仕組みを持っているということを指摘したのです。

 以下ジャッジではなく希望ですが、私の書き込みにレスを付ける場合も、初読から2日以上はご自分でじっくりと考えていただければと願うものです。

先にメールを入れた豊原です。
国産ロケットはなぜ堕ちるのかを読んで
感想をHPにアップロードしました。

アポロ計画の成功があったという前提で
ものを考えるとすべて狂います。

慎重に地球周回ロケットの成功のあと
月への飛行、さらに月面への飛行と順を追って調べてください。

月面への軟着陸以降のプロセスは全く
至難の業であり月面への軟着陸を試みた
プロセスなどまともにレポートとして
取り上げた本など見当たりませんね。
あればご教示ください。

とにかく初めにアポロありきでは議論に
なりません アメリカの大嘘を前提と
する愚は避けるべきでしょう。

豊原様

 人生の大先達に物申すのも畏れ多い事ではあるのですが、月面への軟着陸を試みたプロセスをまともに記述したレポートは英語日本語にかかわらず世の中にゴロゴロしております。
 まずは子供向けの作品を読んでみるべきでしょう、個人的には、まんがサイエンスシリーズの中の該当項目が一番分かり易いかと思います。
 小学生向けの作品ですら、きちんと記述してありますし、たかが漫画と侮る無かれ、至って分かり易く書いてあります。

 で、アポロ計画を嘘だと言い切るそのお考えには大穴があります。
 アポロ計画に関わった人々はかなりの数、しかも世界中に散らばる施設を使用しました、しかもアメリカの嘘を信じるメリットのない人々によってその事象が観測されていますし、今でも使われているのです。
 豊原さんこそ「アメリカは嘘をついている」と言う思いこみに囚われておられますね、陰謀論で物事を片づけるのは簡単ですけど、よく考えてみれば、もうちょっと世の中は単純に出来ていて、ちゃんと説明出来る事だらけですよ。

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