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2005.01.15

異星の風景だ、見知らぬ風景だ

 次々とタイタンからの映像が公開されている。タイタンに降りた「ホイヘンス」から、土星探査機「カッシーニ」に送信され、蓄積されたデータが、少しずつ地球に送信されてきているのである。

 欧州宇宙機関によるホイヘンスのページ——ここが一番情報が早いようだ。


 素晴らしい!

 異星の風景だ。酸素と窒素ではないが空気があり、水ではないが液体が流れる異星の風景だ。

 ネットを見て回ると「なんだ白黒か」、「動画じゃないとな」というような贅沢な意見も散見される。なにをいっているんだ!白黒であっても静止画であっても、CGやミニチュアではない、本物の異星の風景じゃないか。遙か彼方のタイタンの地表に、本当に存在するまごうことなき異星の風景だ。

 記憶に残る最初はアポロの時だった。次は「ヴァイキング」の火星着陸、金星に着陸したソ連の「ヴェネラ」、「パイオニア10/11」——「ヴォイジャー」はすごかったな、木星、土星、天王星、海王星。新たな惑星を通過するたびに、私は新しい風景にわくわくした。
 金星をマッピングした「マジェラン」、木星の衛星を巡った「ガリレオ」、「マーズ・パスファインダー」とラジコンのような大きさのローバー「ソジャーナ」。

 今という時代には、色々問題もある。ありすぎるぐらいだ。
 だが、こと新しい風景の楽しみという点では、私は今生きていることを大変幸福だと思う。ガリレオ・ガリレイも、クリスティアン・ホイヘンスも、ジョヴァンニ・カッシーニも見ることができなかった風景を、見ることができるのだから。

 こうして探査機が新しい風景を送ってくるたびに、私は子供の頃に読んだ一冊のSFを思い出す。「宇宙パイロット」(ゲオルギー・グレーヴィッチ、袋一平訳 岩崎書店刊)。「エスエフ世界の名作」というシリーズの一冊として1967年に発行された。グレーヴィッチの「竜座の暗黒星」というSF短編を、子供向きに書き直したものだという。手元にある本の発行の日付(昭和42年6月20日)からして、私がこれを読んだのは幼稚園の年長か、小学校1年生の時だ。

 このお話には、新しい惑星の探査に一生を捧げた主人公のおじいさんが登場する。詳細は読んで欲しい(最近になって岩崎書店から「栄光の宇宙パイロット」という題名で復刊された。amazonbk1)が、このおじいさんの台詞が、ずっと私の中に深く沈み込んで、今の私につながっているように思える。

 竜座に発見された暗黒星に向かった探検隊に、おじいさんは最後の仕事として参加する。そこには生命の兆候があったが十分な探査機材がなかった。ある覚悟を決めておじいさんは、探検隊のクルーを説得する。

「わたしはじぶんのさいごの一行をかき、さいごの一ページをよんでしまった人間だ。たのむ。もう一つ、頂上にのぼらせてくれ。もう四十年、おまけをつけてくれ。そして次の世紀の学界ニュースをのぞかせてくれ。
 たのむ、つぎの探検隊がみるものを、いまわたしにみせてくれ。 たのむ、ギリギリの線から、はん歩でもいい、ふみださせてくれ」

 これは90歳を過ぎた老人の台詞なのだが、今、四十代の私は、半歩といわず一歩も二歩も三歩も先を見たいな、と思うのだ。

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Comments

 本当に感動的な風景ですね。自分が生きている、この時代のタイタンの姿。
 でも、あの写真を観て、あそこに一人の人間でもいてくれたら、あの手前の石?氷?をひっくり返して見せてくれるのに、とも思いました。

>あそこに一人の人間でもいてくれたら

 本当にねえ。足がかゆいのにかけないというようなもどかしさじゃないですか。

 そういえば火星の時も、「あの岩をひっくり返したら虫がわらわらと逃げ出すんじゃないか」というようなジョークがありましたね。

海ですよね。海があったんですよね!!

表面に液体があるという意味では、火星なんかよりずっと地球に近い世界ですね。

霧も雨も嵐もあるのでしょう。

確か、アシモフのエッセイで、「水の海に核酸と蛋白質」を主体とした生命が生まれたように、「アンモニアの海に核酸と蛋白質」「メタンの海に脂質」「水素の海に脂質」の生命が生まれる可能性があると言ってましたね。
#暑い方は「硫黄の海に炭化弗素」「弗化珪素の海に弗化珪素」でしたか。

火星より遥かに生命の可能性を感じます。

2chのタイタンスレを見ていたら、例の海辺のような瞰写真に横浜の地名を焼きこんだコラージュが出ていて大笑いしました。
1.5気圧、表面重力1/7G、比重0.4ぐらいのメタン川で、あんな親しみの持てる地形ができるんかいなと、なんだか不思議に思えます。というかその程度かタイタン。地球の地形のほうがよっぽど芸があるぞ。

>火星より遥かに生命の可能性
 同感です。氷が丸くなっているというのは、なんらかの浸食があるということで、浸食があるということは開放系の自己組織化があり得るということではないでしょうか。
 自己組織化即生命じゃないでしょうが、それでも火星の荒涼とした風景よりはずっとなにかありそうな景色ではあります。

>1.5気圧、表面重力1/7G、比重0.4ぐらいのメタン川で、あんな親しみの持てる地形ができるんかいな

 たぶんメタン地形学というような学問分野がこれからできるんじゃないでしょうか。きっと地球とは全く違う地形もそのうちみつかるんじゃないかと思います。

 でも次の探査機が行くのはいつになるんだろう。ボイジャーから25年ということは、また25年待たねばならんのでしょうか。

おじいさんのせりふ、よいです。心にしみ入るものがあります(本はまだよんでないですけど)。フロンティアに生きて、死んでいくものの心がにじみでています。

高校のころ、次のハレー彗星が来るときまで生きていようといった時には、タイタンの海をみれるなんてちっとも想像できてなかったことを考えると、生き続けるって言うのはすばらしいな、と思ってしまいました。

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