ニコンSP復刻の報を聞く
カメラという機械には、マニアックな愛着を呼び起こすなにかがある。それはレンズに対するフェティシズムかもしれないし(例:「やっぱりスーパーワイドへリアー12mmだぜ」某漫画家)、美しく合理的な機構への賛美かも知れないし(例「コンタックスよりライカだね。なにもかもびしっと決まらなければならないコンタックスの機構よりも、位置あわせがいい加減でもピントの精度が出るライカのほうがよい設計さ」某宇宙機エンジニア)、特定の設計者への信仰かも知れない(例「米谷さんの設計は素晴らしいなあ。ペンFの設計はほれぼれする」某ノンフィクション・ライター)。
本題だ。ニコンが「ニコンSP」を2500台限定で再生産すると発表した。何を隠そう、私が学生時代、ニコンF3を買ってもっとも写真に入れ込んでいた時期、ニコンSPはあこがれのカメラだったのだ。むむ、物欲が。
ニコンSP、1957年から1965年にかけて販売された、ニコン最後のレンズ交換可能なレンジファインダーカメラだ。この後ニコンはニコンFに始まるプロ向け一眼レフで、世界的な声価を確立していく。
なぜニコンSPかといえば、その精緻を極めたメカニズムにあこがれたからだ。特に28mmから135mmまでのレンズに対応したフレームが出てくるSP独自のファインダーは、光学ギミックの粋であり、もう見ているだけでほれぼれするような設計をしていた。
ニコンが世界ブランドになる直前に、機械加工の粋を尽くして作り上げた最後のレンジファインダーカメラ、それがニコンSPなのである。
とはいえSPのファインダー持ってしても135mm望遠は使いづらかったそうだが、所有欲をそそる機械としては実用性はどうでもいいのである。ああ本末転倒。
ニコンSPのようなレンジファインダーカメラの世界は、まず何よりもライカの愛好家の圧倒的な勢力があり、ライカコレクターという独自の世界を築いている。さらにライカは通称パルナック・ライカと呼ばれる旧機種と、ライカM3に始まり現行のM7につながる新機種とがあり、それぞれにファンが付いている。これとは別に、ゲルマンのメカフェチっぷりが存分に発揮されたコンタックスの一統があり、これまた独自の世界を持っている。
そこに第二次世界大戦後に殴り込みをかけたのが日本光学の「ニコンS」シリーズで、最高峰が「ニコンSP」というわけだ。そのほかF0.95という前代未聞の明るいレンズで異彩を放つ「キヤノン7」なんてのもあって、まあ基本的にコレクションにはまってしまえばそこは冥府魔道の世界だ。
学生の頃、欲しくてずいぶんとニコンSPの出物を探したものだが、当時の中古価格がだいたい25万円。とても手が出なかった。それだけあれば、F3の交換レンズをそろえるのが先だったし、フィルムと現像代に回して一枚でも多くの写真を撮るほうがもっと先だったのである。
欲しかったなあニコンSP。しみじみと思い出しつつ、今回の復刻品の価格はと調べてみれば72万4500円。
これは出ないな。買えないな。今の自分には高すぎる。ましてや時代の主役がデジカメになった現在、このSPの価値は嗜好品かコレクションでしかない。むしろこの再生産で値段が下がるであろう中古のSPを探したほうがいいかもしれない。
ところで私はニコンとは別個の、ごくごくささやかなカメラコレクションを持っている。これについてはまた気が向いたら書くことにしよう。
メモ
懸念していた通り、アチェでは独立派とインドネシア軍の軋轢が表面化してきたようだ。
アチェ紛争、津波救援活動の妨げに…外国軍撤収希望も(読売新聞1/13)
インド洋大津波 アチェ州救援活動、規制強化 過激派活動に懸念高まる(産経新聞1/14)
停戦への動きもあるようだが、はたしてあの因業なインドネシア国軍が納得するかどうか。かつての虐殺でインドネシア国軍が取った行動を考えると、地震を利用して一気に独立派制圧に出てもおかしくはないような気がする。
インドネシア・アチェ独立派、停戦交渉の用意を表明(日本経済新聞1/13、共同通信)
blogを探すと、現地在住の日本人からのメールが掲載された記事があった。現地は情報統制されていると送ってきている。
メダンからの声——owner's log by Kentaro Takahashiより
日本からいち早く現地入りしたピースウインズは、事実のみを伝え、政治情勢には触れていない。彼らは何よりも救助を優先するスタンスなのかも知れない。
ピースウインズの活動報告ページ
アチェにどのルートで誰が入るか注目していたのだが、一番早かったのが空母エイブラハム・リンカーンに記者を載せていたCNNだった。日本メディアとしては1月2日に共同通信と毎日新聞が陸路を独自にルートを開拓してアチェに入り第一報を送ってきている。
残るメディアは10日近くなってまとめてアチェ入りしていた。これはインドネシア軍の合同取材に乗っかったのではないだろうか。
前にも書いたが、天災と政情不安が重なるととんでもない悲劇が起こる可能性がある。報道メディアが現状を正確かつ迅速に伝えれば、悲劇は防げるかも知れない。
おこがましい言い方かも知れないが、今こそ日本の報道メディアの正念場ではないか。行きやすいプーケットあたりで、日本人被害者の愁嘆場を延々と報道し続けている場合ではない。愁嘆場を流せば視聴率は取れるかも知れない。が、遺族の方々の悲しみは増し、亡くなられた被害者の方が帰ってくることもない。しかしアチェの現状を冷静かつ正確に報道し続ければ、無用の死を防げるかも知れないのだ。
剣に勝るペンを今こそ。
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SPは持っていると笑えて威張れるけど、実用性&コストパフォーマンスが悪すぎます。
可変ファインダーも交換レンズに連動なら凄かったんだけど手動可変だし、広角ファインダーも付いているだけで覗きづらく、実用には到底向きません。
私はとっくに売っぱらってしまって、今はS2(後期型)だけです。これで十分。
キヤノンのf0.95も、被写界深度が浅過ぎで実用性皆無。(レンジファインダーで開放では、どこにピンが来るかは神のみぞ知る)さっさと手放してしまいました。これも持っていると笑えることは笑えるんですけれど。
SPはもし間違えて買ってしまったら、専用の露出計を差し上げます。これだけうっかり残っているもんで。
ところで、当時のニコンはコンタックスマウント、キヤノンはライカのスクリューマウント。洋の東西を問わず、ライバル社は水と油の規格を選択するようで…。
Posted by: 浅利義遠 | 2005.01.15 02:06 AM
僕はカメラの事はよくわからないのですが、妻はライカはMシリーズなども好きなのだけど、レンズへのこだわりでコンタックス派らしいです。
ニコンの何とかと言う入手の難しいカメラを使っていた事があって、諸般の理由で手放さなければならなくなった事をいまだに彼女は悔やんでます。
Posted by: 林 譲治 | 2005.01.15 11:32 AM
>ニコンの何とかと言う入手の難しいカメラ
S3のハーフサイズ、S3Mでしょうか?
レンズは私もライカよりはツァイス派です。
テッサー、トポゴン、ビオゴンは良く使います。(ホロゴンは凄いけど実用にはならなかった)
Posted by: 浅利義遠 | 2005.01.15 05:01 PM
>S3のハーフサイズ、S3Mでしょうか?
確認してみたところ、28TIだそうです。
Posted by: 林 譲治 | 2005.01.15 10:56 PM
>笑って威張れるSP
まあものがわかっていない学生んときの物欲ですから笑って許してください。ネットでは、「ニコンが工場を整理したら帳簿に載っていない簿外資産がごっそりと。それでSPが急に発売に」というような話も流れています。本当か嘘かは知りませんが。
ファインダーの記述、修正しておきました。
おお28Ti、あれもレンズが素晴らしくよかったのですよね。一時期ミノックス35の代替を真剣に探した時期があって、28mmという焦点距離もあってかなりぐらぐらきました。
Posted by: 松浦晋也 | 2005.01.16 12:44 AM
あっ、今回はカメラ話で盛り上がっていますね。
やっぱ宇宙好きならHASSELでしょう。もしくはロシア機に通じる妙な構造のロシアカメラとか(笑)。
単なる与太話ばかりもなんなので、少しは中身のあることを書くと、カメラや時計と言った工業製品もお国柄が出て、各国を比較すると面白いです。やはり精密だが懲りすぎるドイツ、真面目だがややおもしろみに欠ける日本、必要な機能以外はばっさり切り去ってコストパフォーマンスは最高だが、使い勝手は最悪のロシアと言った所でしょうか。(私見ですのであまり真面目にとらないでくださいね)
Posted by: doku | 2005.01.16 01:34 AM
>まあものがわかっていない学生んときの物欲ですから笑って許してください
それを言ったら、分別ついてから買ってしまった私の立場がありません^^。
たしかにSPの「カタログスペック」は最高です。広角ファインダーを無理矢理搭載したり、焦点距離ごとにファインダー内のブライトフレームの色が変わったりと様々なアイデアや作り込みが満載で、所有欲を満たす事に関してはニコンの最高級機に間違いありません。
(この辺のカラーはその後のFシリーズにも見て取れます。ファインダー交換可能とか…)
私にとっての問題は、それらが使いやすいか、使ってありがたいかでした。
Posted by: 浅利義遠 | 2005.01.16 05:17 AM
>「ニコンが工場を整理したら帳簿に載っていない簿外資産がごっそりと。それでSPが急に発売に」
こちらでは、始めまして
私がネタの震源地らしいので
あちらで書かなかった所を補足すると
「整理していたらFと共用できない部分のパーツを発見」
「足りないのはプレスで作れる部品だから売り払ってしまおう」
こんな感じになります
まあ上記の話は眉に唾を良く塗ってから読むべき話ではありますが
時計業界では中の具がデッドストックで見つかったので
外皮を新造して発売なんて事がたまにありますが
そんな話を知っているとなんかありそうな話だなぁとか思ってしまいます
でもオリジナルのS3は復刻版のお陰で中古価格が2分の1くらいになったらしいので
過去の生産数の一割以上新造されてしまうSPの市場価格も下落は必至っぽいですね
Posted by: 3200たか | 2005.01.17 03:07 AM
カメラに限らず機械によるお国ぶりってのは確かにありますね。個人的にはDB601エンジン(Me109E戦闘機のエンジン)のクランクシャフト回りの設計はショックでした。なにもそんなこったことしなくても(タイガー戦車の足回りでも可)。
>問題は、それらが使いやすいか、使ってありがたいか
いやまったく。夏のSF大会では野田さんに無駄なギミックの例として「ガルウイング」を挙げられてしまいました。野田さん「松浦さんのAZ-1のことね」。ちなみに現在ダンパーがいかれかけていまして、気を抜くとドアに食われます。
>私がネタの震源地
ああ、こちらでは初めまして。そうです。たかさんの書き込みを参照させていただかいました。
値段下がりますかね。わくわく(結局あきらめてないのかよ)。
フィルムカメラ全体が低調になっているようで、ライカも値段が下がってますね。IIIfあたり買ってみるのもいいかも知れません。
Posted by: 松浦晋也 | 2005.01.19 11:41 AM
NIKON SPの復刻製品ぜひ1台入手したいが、非常
に高い。せめてボデーだけ買えないか。
Posted by: 岡野 正 | 2005.01.22 11:08 AM
お忙しくてコメントを読むどころではないと思いますが、上の方で書いた機械のお国柄ネタを書いたのでTBさせて頂きました。一応ご報告しておきます。
Posted by: doku | 2005.04.05 12:52 AM