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2005.05.22

CDを買いに行く

 21日土曜日はほぼ一年ぶりに歯医者、歯石を取ってすっきりする。
 かかりつけの歯科医は東京にある。その足で新宿に出て新宿駅南口横のタワーレコードへ。もちろん私は8階のクラシックフロアへ直行。エスカレーターを昇っていくと、JポップのフロアにはいかにもJポップな連中が、ラップのフロアにはいかにもラップなファッションの連中が吸い込まれていくのがおかしい。
 若いということと個性的だということは、なかなか両立しない。そういう連中が「ジャズこそすべて」「ロックンロールは人生だ」「パンクはWay of lifeだぜ」とか熱くなってしまうのが音楽の偉大なところである。

 クラシックフロアで、ホルストの「惑星」に、「あの平原綾香のジュピターの」という売り文句が付いているのに脱力。

 ちなみに「木星」のあの旋律には過去何度も歌詞が付いている。確か、第一次世界大戦下のイギリスで「我汝に誓う」という題名の愛国歌謡として歌われたのが最初じゃなかったかな。

注記(5/23);探せばあるものでネットに歌詞と楽譜があった。正確には「I vow thee my country」(我が祖国、汝に我誓う)というタイトル。ダイアナ妃の葬儀で歌われたそうだが、リンク先にあるように、内容としては確かにろくな歌詞ではない。


 日本語では遊佐未森が、「a little bird told me」という題名で付けた歌詞が素晴らしい。「ジュピター」よりはるかに出来がよい。
 歌詞の作り方としても、日本語を無理矢理旋律に押し込み、結果としてオリジナルの旋律をゆがめている「ジュピター」よりも、音楽に寄り添うようにして歌詞を紡いでいる「a little bird told me」のほうが格が上だ。
 「a little bird told me」の「小さな小鳥が昇って昇って、ついに宇宙にたどり着く」という内容の歌詞は、例えば種子島宇宙センター、液体燃料充填開始直前のGO NO GO判断でGOと出た時に構内放送でかけると格好良いだろうなあ、と思う。

 ともあれ「ジュピター」で、興味を持った層が「惑星」を聴くのはいいことだ。
 作曲者のグスターヴ・ホルストは、生涯にわたって「簡潔」をモットーとした人だった。「惑星」は、そのホルストが書いたほとんど唯一の豪奢な曲で、オーケストレーションでは「簡潔な書法で最大の効果」という態度が貫かれている。「簡潔にして豪奢」な魅力に是非触れて欲しい。

 で、私が買ったのは、「TOMITA ON NHK」。冨田勲が、NHKの番組に書いた音楽を集めたCDだ。冨田勲はシンセサイザー音楽の始祖として知られているが、実はテレビや映画の音楽で、無類のメロディストとしての才能を発揮していた時期がある。シンセサイザー初期の試作品である「銀河鉄道の夜」など絶品という他はない。
 このCDは、その冨田が脂ののりきった時期の仕事を集めたもの。「新日本紀行」とか大河ドラマ「勝海舟」など素晴らしい。スタジオライブで「青い地球は誰のもの」が入っているのも泣ける。

 ところで、Amazonのアフィリエイトに加入した。儲かるうんぬんよりも、CDのカバーをこのblogで使いたいという理由からだ。実は潜航中に、ひたすら音楽ばかりを聴いていたので、色々語りたくてうずうずしている。これからしばらく、音楽談義が増えるかも知れない。

 というわけで、本日話題にしたCD。


 ノスタルジーもあるのだろうなあ。「空中都市008」は、世紀の傑作「ひょっこりひょうたん島」と「ネコジャラ市の11人」の間に挟まって一年だけ放映された人形劇だが、本当に好きだった。原作が小松左京「アオゾラ市の物語」であることはずっと後で知った。




 「惑星」は、とりあえずデュトワ・モントリオール管のCDをリンクしておく。多種多彩な録音があるからお好みの録音で聴いて欲しい。最近別の作曲家(コリン・マシューズ)が「冥王星」を作曲して付け加えた録音も出回っている。これは完全な蛇足なので、引っかからないこと。






 「a little bird told me」が収録されている。もしも遊佐未森に興味があるなら初期の「モザイク」を聴いて欲しい。個人的には「遊佐未森の『サージェント・ペパーズ』」と呼んでいる。まごうことなき傑作。

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Comments

TOMITA ON NHK は私も手に入れました。
新日本紀行は聴くたびに涙が出そうになります。
新旧両バージョンが入っているのもポイントが高いですね。

しかし、これらの曲を聴いていると、
シンセヘの傾倒は冨田 勲の音楽の可能性を大きく前進させたけれども、
同時に幅を狭めてしまったのかもしれないなぁ、と思わないでもありません。

だからこそ面白いのですが・・・

>シンセヘの傾倒は冨田 勲の音楽の可能性を
>大きく前進させたけれども、同時に幅を狭めて
>しまったのかもしれないなぁ

 同感。

 ムーグを手に入れてからの冨田勲はシンセサイザーで過去の名曲を演奏するアレンジャーになっていってしまったと思うのです。そうじゃないんだ、ボクらはトミタのメロディを聴きたかったんだよ!

 このCDには入っていないけれど、「マイティジャック」のテーマとか、ほれぼれしますものねえ。

おおお、本当はマジで語りたいところですが、めっちゃ長くなるので。
ホルスト、平原某はしょせん二流音大の管楽器学生ですからね。推して知るべし。コリン・マシューズの「冥王星」これも推して知るべし。大体「海王星」の女声合唱がフェイドアウトして終わる、というクラシックらしからぬ最後は、もうアイデアとして実にはまっています。あれを変更して「冥王星」をくっつける、というのが根本から間違っとりますな。
富田勲については、あの人の資質が一体どこにあるのかが、シンセに手を染めて以来、不明瞭になってしまった感は否めませんね。
正直70年代以降、あの人のオリジナル曲ってどのくらいあるのでしょう?シンセの音色作りに手間ひまかけ過ぎて、作曲にまで手が回らなくなってしまったのか。。。
交響詩「ジャングル大帝」は近代フランス、特にラヴェルの語法を如何に富田が、自家薬籠中のものとしていたか、よく分かります。「リボンの騎士」もおしゃれです。ディズニーに対抗出来るアニメと音楽の融合です。
「マイティジャック」や「キャプテンウルトラ」のテーマ曲のブラスの低音の魅力など、ハーモニーとメロディ(「マイティジャック」のテーマの前奏など聴いていると、転調の素晴らしさと共に、メロディがトランペットの音域高いところからヴァイオリンを経過してトロンボーン、テューバの低音に移るところなど感涙ものです。3和音の転回位置の使い方が絶妙。ここはレスピーギの「ローマの泉」をパクったね。でも上手いなぁ)の関係、実に配慮が行き届いています。
ホルストという作曲家は、遅れて来た神秘主義者、オカルティスト、という面がありますね。ドビュッシー、スクリャービン、そして多分ポー、コナン・ドイルの後継者ではないかと。
長くなってしまいました。

 平原綾香の「ジュピター」はホルスト一世一代の名メロディに、「ひとりじゃない」とか「つながっている」といった依存症っぽい歌詞を乗せたところが世相に合ったのだと私は理解しています。歌手としての平原綾香の実力が問われるのは、次の作品においてでしょう。
 それとは別に多くの人がホルストの魅力に触れるのはいいことですね。

 「ジャングル大帝」「リボンの騎士」「マイティジャック」「キャプテンウルトラ」——どれも名曲ですねえ。大澤さんのように分析的に聴けたら楽しかろう、とつくづく思います。

 我々が子供の頃の子供向け番組の音楽って本当に豊かだったと思いませんか。と、ノスタルジア。

 ホルストについては娘さんが書いた伝記があるそうですが未訳のようです。
 友人であったヴォーン・ウィリアムズの「民族音楽入門」に、ホルストの思い出を書いた部分があります。RVWのバレー音楽「ヨブ」初演の時に、「そんな複雑な音楽は良くない。頼むから公開しないでくれ」とホルストがRVWに懇願したとか。他人の音楽なんだから気にしなくていいのにねえ。それほどシンプルに徹することを心がけていた人だったみたいです。
 

「サヴィトリ」なんていう、インドのウパニシャッド哲学に造詣のあったホルストならではのオペラがありますが、この編成がこれまたシンプル。よくまぁこんな盛り上がらないオペラを書いたものだと思います。味わい深い曲ですが。レイフ・ヴォーン=ウィリアムスの件は知りませんでしたが、ホルストなら言いそうですね(笑)。

松浦さんと私は同年代なので、子供の頃のTV体験一致しますね。
富田勲に限らず、ハーモニーとメロディとテキストが円満な関係を築いていましたね。いつからでしょう、リズムに頼った脳軟化症的ノイズ(もはや音楽ではないように思います)が、タイアップなのかアニメや特撮もののテーマ曲になってしまったのは。
実写版「サンダーバード」も「キューティーハニー」も観ていて面白かったのはオリジナルのテーマ曲が流れたところだけでしたが、これもノスタルジア??

脱線しますが、「ウルQ」の音楽「ガス人間」の流用だったと、後になって「ガス人間」観てびっくりした経験松浦さんはありますか?
松浦さんも私も「ガス人間」公開時は、まだこの世に存在しておりませんものね。

>「ウルQ」の音楽「ガス人間」
 う、知りませんでした。「ガス人間」はキワモノ映画だから観なくていいかなどと考えていたのですが、これはいかんです。観なくては。

>ハーモニーとメロディとテキストが円満な関係
 そう、これなんですよね。
 昨今乱用されている、「16ビートの上に同音反復で早口の歌詞を載せる」というのは、いつ頃からはじまったんでしょうか(ビートルズの「HELP!」あたりから?)。ひとつのテクニックではあるけれど、こうも安易に使われると「ふざけんな」という気分になります。

>「ザヴィトリ」
 確かに盛り上がらない音楽でした。簡潔が過ぎているというか。それもまたホルストの味わいなんですけど。
 「惑星」の次ぎに薦めるホルストとなると、やはり「ブラスバンドの為の組曲」2曲と「セントポール組曲」でしょうか。彼は組曲が多くて、どれもなかなかいいです。
 個人的には「ハンマースミス」のような最晩年の厳しい表情の曲も好きです。

東宝の人間シリーズ、ガス人間だけは普通にSF映画してます。
序列で言うと「美女と液体人間」<「電送人間」<「透明人間」<「ガス人間第一号」ってな感じですか。

やっぱり、年齢重ねると音楽も厳しく味わい深くなって行くのでしょうか?そうなりたいものです。ホルストの初期の室内楽は、はっきり言って凡作です。
「電送人間」は去年お亡くなりになった池野成先生が音楽担当された、確か東映の「妖怪大戦争」以外で特撮映画ではこれだけ、という貴重品です。サントラ聴き直すと、低音ブラスの躍動感、パワーがいかにも骨太な、伊福部先生門下の音楽です。高音の弦の扱いは、黛敏郎先生の「涅槃」を彷彿とさせる音形が用いられています。

聖歌I Vow To Thee, My Countryの歌詞に関する管理者様の御意見には異論があります。
>リンク先にあるように、内容としては確かにろくな歌詞ではない。
恐らく1番だけを聞いて(読んで)そう思われたのではないですか?

Riceの歌詞は1番と2番が対となっており、
双方をして初めて意味があるものです。
1番で滑稽とも思える愛国心を謳い、
2番では権力者も軍事力もない、
理想の為には苦難を受ける事すら善しとする架空の国家を物語っています。
Riceは自身が外交官として直面した矛盾をこの歌詞に擬えたのです。
作詞されたのはたぶん第一次世界大戦前夜でしょう。
聖歌として英国国教会が採用したのは戦後間もない1918年、
帝国主義に陰りが見えてきた時代です。
この歌詞は必ず2番まで歌われることになっています。
それがなぜだかお解りですか?
あんなにまで頑なに自分の作品を弄られることを拒んだHolstが、
なぜこの歌詞を認めたかお解りですか?
安易な批判は御自身を貶めることになりかねません。

私も富田サウンドで育った世代です。
アニメから時代劇まで幅広く活躍されてきた方ですね。
特撮では「マイティジャック」、アニメでは「どろろ」、時代劇では「おし侍鬼一法眼」が印象深いです。
シンセによるクラシックのアレンジは、
当時の流行でもありました。
>シンセヘの傾倒は冨田 勲の音楽の可能性を大きく前進させたけれども、
>同時に幅を狭めてしまったのかもしれない
という小林様のご意見には共感いたします。
新日本紀行は沁みますね。

長々と駄文失礼致しました。

 うわ、これは面白い!ご教示ありがとうございます←Tempelhofさん

 過去、レコード/CDのライナーに「愛国歌謡」として紹介されていたので、つい先入観にとらわれてしまいました。

 確かにホルストは自作に他人が手を入れることを一切拒否した人なので(冨田の「惑星」も遺言がらみでトラブった。ところがストコフスキーは堂々と「惑星」に手を入れて演奏したりしているのは面白いところです)、この「木星のメロディに歌詞を付ける」というのは奇妙ではありました。当時の英国を覆った愛国主義に、ホルストも乗ってしまったかと単純に考えていたのですが、そう簡単な話ではなさそうです。

 しかしこの2番は色々解釈できそうですね。「そして私は遙かな昔、別の国があると聞いた」という出だしからして刺激的です。例えば当時のイギリスにおける社会主義との関連、戦後にはバナールのような異端の思想を生むにいたる社会主義との関連があるのかとか、なぜ「昔」なのかとか、考えるほどに面白いです。

 筒井康隆「馬の首風雲録」という小説があります。馬の首星雲にある犬に似た異星人の住む惑星の動乱を描いた著者の処女長編です。この小説はブレヒトの「肝っ玉おっ母と三人の息子」を下敷きにしているのですが、「馬の首」では、息子の一人が詩人になります。彼の「もう一つの国」という詩には歌が付き——詳細は未読の方のために省きますが——物語中で重要な役割を果たすのです。

 筒井康隆氏はこの2番を知っていたのでしょうか。

筒井氏は聖歌I Vow To Thee, My Countryの
2番を知っているでしょうね。
熱烈なるジャズマニアで御自身もクラリネットを
嗜まれるくらいですから。
モダンジャズとプログレッシブ・ロックのファンには、
クラシック通も多いんです。

確かにこの聖歌は”愛国歌謡”として使われています。
それは否定できないところですね。
↓なんて見事に国威高揚に利用されまくってます。
http://www.classicalrelatedperformances.com/russellwatson/vowcountryfofr.wmv
ラッセル・ワトスンは英国では有名な歌手らしいですね。

↓はスタートレックと木星の取り合わせというかオマージュです。
http://www.voyager-conspiracy.co.uk/videos/Jupiter_Long.wmv

やはり1番の歌詞をしてミリタリズム或いはナショナリズムと取られてしまうのでしょう。
RiceとHolstもさぞ草葉の陰から・・・・・・・。

Riceは生涯忠実なる大英帝国の官吏でありました。
社会主義とのつながりは薄いと思っています。
むしろ、欧州に置けるキリスト教的楽園思想と、
それ以前の土着の宗教の理想郷感が窺えます。
ですから「昔」なんでしょうね。

一言トリビア。ラッセル・ワトソンは「スタートレック・エンタープライズ」の主題歌を歌っている人ですね。

大澤さん
「スタートレック・エンタープライズ」は未見です。
ドイツのトレッキアンから聞き及ぶに、
どうもヤンキーまんせー臭いと評判ですが、
そのうちDVDでまとめて観るつもりです。
あのシリーズもネタ切れといいますか、
ロッテンベリー亡き後は無残に・・・・・・。

私世代はTOSですがTNGあたりでお腹いっぱいです。

スペース1999というSFドラマで、
「火星」がBGMで使われていたエピソードがありました。

↓こういう使い方は個人的には好み。
http://www2.odn.ne.jp/cir82010/moon/digest.html

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