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2005.08.23

iTunes Music Store開始と現代音楽のプロモについて考える

 私が、現代音楽というものを聴き始めた中学生の頃、まだCDは存在せず、LPレコード全盛だった。茅ヶ崎のレコード屋にはごく僅かな現代音楽関連のレコードしか置いていなかったし、薄い品揃えもすぐに返品されてしまっていた。

 アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団によるストラヴィンスキー「詩編交響曲」のレコードが欲しくて、次のお小遣いで買おうとしていたら、翌月にはすでに店頭にはなかったということがあった。あっさりと買おうと決めたわけではない。店頭にある限りのレコードを比べ、ジャケット裏のライナーノートを立ち読みし、さんざん迷ったあげく買おうとしていたのに、手に入らなかったのだ。喪失感は大きかった。
 あるいは松下真一「星達の息吹き」を買おうとした時のこと、ほんの半年前に発売されたレコードなのにもかかわらず、注文をかけてみると販売元のビクターは、あっさりと廃盤にしていた。

 で、本題。ついにアップルが日本でも「iTunes Music Store(ITMS)」を開始した。早速使ってみたが、なかなかこれは便利だ。音楽をその場で試聴して、オンラインでさっと買えるというのはこれほど便利なものか。その仕組みからして品切れはなしだ。素晴らしい。

 検索は英語でやったほうが早いことに気が付き「toshiro mayuzumi」と検索してみる。「天地創造」あたりがでてくるかと思ったら、陸自音楽隊演奏による「行進曲 祖国」が出た。
 聞いたことのない黛の曲なら買わずばなるまい。というわけで、ITMS初購入は、黛敏郎の「行進曲 祖国」ということになった。いかにも手慣れた技術で流した(特にトリオ部分)という印象の曲だった。

 takemitsuで検索するとさすがに武満徹はいくらか入っている。ただ、4楽章の曲を4回ダウンロードして600円というのはどうにも面倒たし、圧縮音声フォーマットのくせに少々高いという気も。まとめてダウンロードで400円ぐらいとはならないだろうか。

 クラシック系の品そろえを見ていくと、まだまだだなあという印象。特に私の好みの現代系はぐっと品揃えが薄い。合唱曲やブラスバンド用の曲を積極的にそろえてくれるとうれしい。このあたりは実際に歌ったり演奏する人たちが買うだろうし、特に地方ではCDの入手が困難になるから。
 個人的には松平頼暁の一連の作品が入るとうれしい。「カインの犠牲者の為に」あたりは前衛とはいえ無茶苦茶ポップで面白いのだが。

 と、ここまで考えて、「現代音楽の当事者達は、自分たちの音楽を積極的にプロモートしてこなかったのじゃないか」ということに気が付く。

 現代音楽のコミュニティでは、時折「独りよがりの音楽を書いてきたから聴衆から遊離した」というような議論がなされることがある。が、独りよがりという点では他のジャンルでも結構なものだ。早い話、スクラッチやノイズ・ミュージックがそれなりの聴衆を獲得し、似たような音響を振りまいているクラシック系の音楽が「なんか変な音楽」として忌避されるのは、なぜか。

 こう考えていくと、どうも音楽というものは、単純に「耳慣れている/耳慣れない」ということで好悪が決まるもののような気がしてくる。どんなに奇妙な音楽も百回聴けばそれなりに聴けるようになるんじゃないか、というわけだ。

 このあたり、かつては12音音楽が一般化するかどうかでかなり激論があったところだ。しかし現在、映画音楽やテレビの劇伴では12音的技法が当たり前に使われていることからすると、「12音技法は人間の生理に反する非人間的な音楽の破壊だ」という意見は、案外的はずれだったんじゃないだろうかという気がする(かなり粗雑な議論ではあるけれど)。

 つまり、だ。「現代音楽がマイナーだ」という問題は、単に「ヘビー・ローテーションでメディアに露出していないだけだ」というところに還元できる。事実、過去にはグレツキの「悲歌のシンフォニー」がイギリスのラジオで何回もしつこく繰り返して放送されたことがきっかけとなり、大ブレイクしたということもあった。
 シェーンベルクだってブーレーズだって、メディアでヘビー・ローテーションしてがんがん露出すれば、ヒットチャートのいいところに行くんじゃないだろうか。もっとも現在、ヒット曲のヘビー・ローテーションは、テレビとラジオで行われているが、これらのメディアは24時間という時間に縛られている。そこに新たに現代音楽が参入する余地はほとんどない。

 そこでITMSだ。日本現代音楽協会あたりは、毎年がらがらのコンサートを開催しているのだから、録音をどんどんITMSで売りに出したらどうだろうか。多少長い曲でもけちなことをせずに150円で売るべきだろう。試聴も、30秒などというけちなことを言わず、曲の長さに応じて1分、2分と聴かせるべきである。

 ITMSではアフィリエイトをスタートさせるそうだから、その上で、あっちこっちの有力ブロガーには無料で全曲試聴させるキーでも配布して、紹介して貰うのだ。うまくいけば、作曲家達にヘビー・ローテーション可能な曲を書いて貰うというのもいいだろう。演奏時間5分以内で、サビが存在するというような条件を付けても、能力のある作曲家なら魅力的な曲を書くことができるはずだ。

 こういうプロモーションがスタートしたら、私は喜んでアフィリエイトするのだけれどもなあ。

 ちなみに、これまでに私がITMSで買った曲。
・黛敏郎「行進曲 祖国」
・「クリスタルサイレンス」:残念ながらチック・コリアの演奏はなかったのでバーバラ・モントゴメリーのカバー。
・Tears for Fearsの「Everybody want to rule the world」
・ショスタコービッチの「祝典序曲」

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