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2005.09.06

台風にテレビ報道の退廃を見る

 台風14号が九州を縦断。大変な被害が出ている。一方で空っぽになっていた高知の早明浦ダムは一気に満水になったとのこと。台風は災厄であると同時に恵みでもある。

 で、一ついいたいのだが、「ニュース番組でテレビ記者らが現地に行って『すごい雨と風です』とか叫ぶ理由は何?」。

 私がニュースに望むのは、正確な情報と的確な分析だ。放送局の就職試験に合格しただけで、別に見目麗しいわけでもないテレビ記者が、演技含みで「すごい雨と風です」と叫ぶのを見たいわけではない。

 2つの点で邪魔だ。まず、ニュースという演技が入るべきではない番組で、記者らがカメラの前で多分に演技含みでしゃべっていること。もう一つは、そうやってカメラの前で彼らがしゃべることによって、何一つとして伝達する情報が増えているわけではないことだ。台風の被害を伝達するだけなら、現地映像とスタジオからのアナウンスだけで必要十分なのである。

 ただ一つ、現場中継には意味がある。現場に記者という人がいて、現場の状況に応じて声のニュアンスをコントロールすることで(演技、それも下手な演技含みであるが)、視聴者が「ああ、現地は大変なんだ」と感情移入することができるということだ。

 しかし当方としては、別にテレビによって情動を揺り動かされなくても構わない。いや、ニュース番組が情動を揺り動かすのはかえって迷惑である。当方の判断を狂わせる可能性があるから。

 もうひとつ、現地に行った報道記者達の、明らかにテレビの向こう側の視聴者を意識した演技が、見るに堪えないということもある。確かにカメラを意識すれば、誰しもある程度演技せざるを得ない。特に「出演は○秒」と限られ、その時間内で言うべき事をすべて言わなければならないとなればなおさらだ(自分もテレビに出て痛感した。そんなことを日常的に行っているという意味ではテレビ局の報道記者達は尊敬に値する)。
 しかし、では記者個人の蓄積や見識が画面で生かされているかと言えばノーだ。むしろ、視聴者の情動を動かすことを目的にするなら、記者は白紙のアホたれであるほうが望ましくすらある。この場合の記者の役割は、バラエティ番組において視聴者の印象を操作するために演技するコメンテーター役のタレント(多くは若手お笑い系だ)とまったく同じだ。

 テレビは、動画像によって事実を直接伝えることができるメディアとして出発した。しかし放送開始から半世紀を超えた現在、むしろテレビは事実を伝えるのが不得手で、情動を動かすのに適したメディアとなっている。

 実は結論はない。

 テレビは実態として電波の許認可による利権ビジネスであり、その利権に気が付き、徹底的に利用したのが史上最年少で郵政大臣となった田中角栄だった。電波利権の周囲には、CMやらなんやらの利権がまとわりつき、テレビ周辺の産業を発達させてきたのである。そろそろ、そんなどろどろの産業構造が崩れかけているのかな、と思うだけである。

 余談だがCM飛ばし対策協議へ、DVDレコーダー普及で広告主協(nikkeibp.jp)というような記事を見ると、正直なところ「おうおう、テクノロジーの進展で利権が崩れはじめとるわい」としか思わない。もちろん私は、CMスキップで困る側には同情しない。現状のテレビCMは、その程度のものが電波が有限であることに起因する利権に乗ってきただけだから。

 かつてのCNNに相当する、ネット時代に適応したニュース専門メディアが欲しいな、と思う。事実だけを徹底的に伝達するメディアが。ここ数年のアルジャジーラが果たした世界史的な役割を考えると(アルジャジーラにはアラブ世界から世界を見るという偏りがあったわけだが、カタールの放送局というだけで、そのことは明示されていた)、世界にはそのような事実に徹したメディアが必要だと思えるのだ。

蛇足というか付記:シマゲジこと島桂次が現状を知ったらどう考えただろうね。

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Comments

CNNもFOX NEWS Channnelも演技だらけに見えますがねぇ。私には。
# 演技の質が違うという話もあるが。

私は、1年ほど前から、スカパー!とHDDレコーダでTV視聴する様になりました。すると、従来の民放(地上波)の放送内容が、「一つの巨大なバラエティ番組」に見えて、それまで「ただの時間潰しで漫然と見ていたのだなぁ」という実感が湧いてきました。
「見たい番組」を「見たい時間」に見る。そのためには相応の料金を払う...というのがTV放送の理想だと思います。そして、私はスカパー!とHDDレコーダの組合せで、その自分の理想に一歩近づいた感じです。

>CNNもFOX NEWS Channnelも演技だらけ
 そうですね。でもテッド・ターナーが始めたころのCNNは、アメリカ三大テレビネットワークのろくでもないニュース構成へのアンチテーゼでした。結局CNNもオーナーが代わり、飲み込まれてしまったわけですが。

>HDレコーダー
 うー、やはり買うべきかなあ。うちはケーブルもスカパー!も入っているのですよ(情報収集用)。

台風報道もそうですが、事件・事故現場にカメラを派遣して、ただ写すだけのニュースが多くなったと思います。

十数年前のニュースであれば、現場を写した後、事故現場の解説図を作っていたと思うのですが、最近では見なくなりました。

現地にレポーターが行くことで
今回の台風は凄いんだよ、凄いから気をつけなさい(対策を立てなさいよ)
と言うのを伝えたいらしいですよ、
ただ伝わらなかったみたいで嘆いてましたけど
地震は対策を立てるのが困難だけど
台風は対策が立てれるからだとかなんとか

妙な名前で失礼します。

いつも興味深く拝見しております。
台風の件ですが、
こちらに映像がありますので
お時間があればご覧下さい。

おそらく、やらせです。
http://niku.name/index.php?itemid=59

CM飛ばしの話を聞くとカールセイガンのコンタクトを思い出します。いたちごっこが続くとそのうち本当に音声認識機能付のCM飛ばしが実現するかもしれませんね。
この作品が好きでペーパーブックも買ったのですが、やはり挫折しました。TUBEの意味に真空管があるのを知ったのはこの本でした。なつかしい。

SNGの功罪
昔のテレビニュースでは、特派員の電話リポートというのが結構あった気がします。
その後SNGで現場からライブ映像を飛ばすことが容易になり、今まで簡単に見られなかった映像を見ることが出来るようになり、世界が身近になった気もするのですが、
本来伝えるべき事実を伝えなくなったり、映像的に価値のないニュースが取り上げられなくなったりしている気がするのですが。

>本来伝えるべき事実を伝えなくなったり、映像的
>に価値のないニュースが取り上げられなくなった
>りしている

 全く同感です。テレビ局は、電波帯域を国民から信託されているということをもっと意識した方がいいと思います。

 一番効果的なの兵糧攻めですね。

 ふざけた番組を流すチャンネルを、そもそも見ないということでしょう。地上波デジタルで、どうせ家庭に設備投資負担が来ますから、その金で地上波の設備を更新するのではなく、多チャンネルのCATVやスカパー!を入れて、地上波と縁を切るというのは、なかなか賢い選択ではないでしょうか。

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