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2005.10.22

赤外線天文学の話を聴く

 22日は午後から、宇宙作家クラブの10月例会。東京大学の上野宗孝先生をお招きし、赤外線天文学の現状、この冬に打ち上げ予定の赤外線望遠鏡衛星「ASTRO-F」のこと、さらには2010年打ち上げを目指して開発を進めている金星探査機「PLANET-C」のことなどうかがう。

 とにかく面白い。どの話をとっても面白い。学者という人種はかくも楽しい話題に身を浸して生きているのか、と思ってしまうほど刺激的な話ばかり。

 中でもハワイのマウナケア山頂で行っている黄道光の観測が、非常に面白かった。視野角100度を超える特製のレンズで全天を撮影し、黄道光の撮影をしているのだという。
 黄道光は、天の太陽の通り道である黄道が、夜間かすかに光る現象のこと。太陽系には、惑星の周回する平面に沿ってかすかにダストが残っており、太陽光を反射している。それが黄道光だ。

 これまでは天文観測の邪魔としか考えられていなかった黄道光だが、上野先生のグループは、今後の赤外線観測のためには妨害要素も知っておかなくては、と黄道光の観測を開始した。
 すると黄道光には、軌道平面の異なる2つの群が存在することが分かったのだという。一つは地球軌道の軌道面に乗ったもの。もう一つは木星軌道の軌道面に乗ったもの。しかも色々と観測していくと、それぞれダスト粒子の大きさが異なることも見えてきた。それはダストの起源の違いでもある。木星軌道のものは彗星起源で粒子が大きい。地球軌道のものは小惑星起源で粒子が小さい。
 一見ぼおっと広がっているだけに思われていた黄道光に、このような構造が存在するということはどういうことなのか。

「意外なぐらい、我々は太陽系のことを知らないんですよ。なにも分かっちゃいない」と上野先生。

 他にもマウナケア山頂の望遠鏡の数の話。マウナケア山頂は地元の聖地であり、ハワイ大学が最初に望遠鏡を建設するにあたって望遠鏡の数を制限する取り決めを地元と交わしたのだという。すでに望遠鏡の数は飽和状態にあり、今や小さなものを撤去して大きな望遠鏡を建設するという状態になっているそうだ。
「『ケック』望遠鏡(2基の10m複合鏡を連動させて一つの像を得る)は1基と数えているんでしょすか」
「いや、2基だそうです」

 そこで望遠鏡建設に向いた土地を探すということになる。世界的には、ハワイ・マウナケア、南米ラスカンパナス、大西洋カナリア諸島ぐらいしか巨大望遠鏡建設の適地はない。
 そこであらたな適地を求めてインド奥地、ヒマラヤの中腹にある望遠鏡建設候補地に行った時の映像を見せて貰う。ヒマラヤ奥地の飛行場からさらに自動車で道なき道を6時間という僻地だ。「空気が薄い。ほら、学生の顔色が紫になっているでしょう…」。過酷だ。天文学は体力勝負なのか。「ここは土地がちょっと盆地になっているんですよ。だから高山病を起こしても逃げられない。どっちに向かっても登るだけですから。マウナケアだと山を降りることができるんですけどね」

 その他、PLANET-Cの赤外線センサーの話、金星大気のスーパーローテーションの話、NASAの木星探査機ガリレオが金星と地球を観測した時の話などなど。興味深い話を聴かせてもらう。どうも、ありがとうございました。

 懇親会は調子に乗って飲み過ぎる。結局終電を逃し、Oさんの自宅に泊めて貰い、朝帰り。

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Comments

 行きたかったなぁ。黄道光の話なんか、幾らでも応用がききそうですね。

 ホント面白かったです。と、うらやましがらせるだけじゃいけないのですが。

 前回の東北大谷口先生の講演では、「宇宙論的観測は6mミラーを持つウェッブ宇宙望遠鏡が上がってしまえば、もう終わりなんだ」ということだったので、むしろ太陽系内のほうがこれからやることがたくさんあるという今回の講演はびっくりしました。

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